キョンに気持ちを告げられ、私達は世間一般にいうカップルになった。
カップルとはいっても、相手はあの唐変木。私達は端から見たら何の変わりのない生活を過ごしている。
……周りが言うには、男は直ぐにでも襲い掛かるらしいのだが。
迎撃の準備は万全。備えあれば憂いはない。
しかし。今日も彼はキスで終わる。
「今日も楽しかったぜ。」
「僕もだよ。」
……この疼く身体はどうしてくれる。そういう恨み節も少し込めながら。
「……全く、付き合ったら付き合ったで、こんなに思考にノイズが増えるとはね。」
一人身体を慰め、一息つく。付き合う前と違い、彼の温もりを思い出しながら。
「(妙にデジャヴがあるのよね。キスした時も。)」
初めてしたキスは、まるで久し振りのような感覚だった。
この感覚を何故か『知って』いた。
「(涼宮さんの話の、あの終わらない夏休み……あれで私とキスしていたのかしら?)」
どちらにせよ、自分には何の記憶もない。初めてじゃないのに初めてのような感覚、初めてなのに初めてじゃない感覚。
「(ジャメヴとデジャヴか。)」
そのいずれかだとしても、何か悔しい。
ジャメヴなら、初めてを憶えていない事が。デジャヴなら、それが何かわからない事が。
夏休みに何か幸せな夢を見て、それから自分を慰める頻度が上がったが、それも関係しているのだろうか。何れにせよ、証明する手段がない以上何も出来ない。
「(パラノイックね。)」
人に言っても、精神科に担ぎ込まれるのがオチ。私は気分を替えて休む事にした。
今日も彼と勉強をする。
元々の頭は悪くないだけに、最近は成績の飛躍が著しいらしい。こうした努力は、必要最小限にしたいのが彼のようだが。
「基本的に怠惰なんだよ。だが、やるからには成果を出したい。」
「武田信玄か、キミは。」
勉強が一段落し、彼の部屋で二人で抱き合う。こんな幸せな時間。
「……ん……」
キスをし、吐息を感じあう。そんな時間も幸せなものだ。
「……佐々木……触ってもいいか?」
答える代わりにキスをする。
キョンの手が髪を撫でる。……的確に私の気持ちよいところを探る手。相当に慣れているのではないだろうか……
やはり涼宮さんなのだろうか。それとも長門さん?何れにせよ、宝物に手垢をつけられた気分だ。
「……ねぇ。キョンは初めて?」
私の問いにキョンは真っ赤になり、吹き出した。
「当たり前だろうが!」
……うん。その反応で十分だよ。キミは嘘をつく時は優しいからね。
「ただ、なんとなくこの辺りが気持ちいいんじゃないか、って分かるんだよ。経験ない分際でな。」
……既視感か。しかし驚いた。何もかもそっくりじゃない。
「お前もそうだったのか?」
「そうだよ。デジャヴとジャメヴが合わさり、精神科の受診を考えた位だ。」
二人で頭を抱える。
「……確実に、あの馬鹿絡みだな。」
「……だね……」
確認する手段は、やはり長門さんなのだが……さすがに聞きにくい。しかし。意を決したキョンは、長門さんに電話をした。
結論を言おう。
私達は、去年の夏に既に何度か抱き合ったパターンが存在しているようだ。
そして例外なくそのパターンは消去された。だが、肉体的な記憶情報は残っているのではないか、というのが長門さんの話だ。
無論、私達は処女と童貞……情報はあれど、肉体的な損傷はないという。
「泡沫夢幻かよ……」
「夢幻泡影だね……」
二人で頭を抱える。こうした実体なく儚い記憶。もし仮に涼宮さんが故意的に残していたとしたら、性格が悪いなんてものではない。
まぁ、その可能性は極めて低いが。彼女の性格上、彼女は極めてストレートに行くはずだ。これは偶発的な事故のようなものだろう。だが。一言言わせて頂く!
「「なんてこった……!」」
勘違いが勘違いを呼び、誤解を生んだ。長門さんが居なかったら、お互いがお互いを勘違いしていたところだ。
顔を見合わせ、爆笑する。道理で夏休みから自慰の頻度が増え、かつ気持ちよく寂しかったわけだ。
「俺もだよ。……ったく、傍迷惑な。」
「くっくっ。」
キョンもまた、私を抱く想像をしていたのか。そう考えると実に嬉しく、そして愛しい。
「キョン。……好きだよ。」
「ああ。佐々木。好きだ。」
ツン、と目頭が熱くなる。
「……ごめん。もう私が我慢出来ないわ。」
キョンに抱かれたい。キョンを身体中に感じ、幸せな気分に浸り眠りたい。
キョンの首筋を舐め、思い切り吸い付く。そこに出来るキスマーク。
「お前な……」
「マーキングだよ。くっくっ。」
ちょっとした仕返し。そして私の『宣戦布告』。
味覚で彼を味わい、嗅覚で彼の匂いを感じ、触覚で彼の温もりを感じ、視覚で彼の存在を感じ、聴覚で彼の声を感じる。
五感を使いキョンを感じる事は、私のみに許された『特権』。そう涼宮さんに伝える為だ。
キョンが私の服を脱がす。……慣れた動きは、私が教えたもの。そう考えると、その手付きが愛しい。
「んっ……」
ブラの上から、キョンが私の胸を触る。気持ちよいというより多少もどかしい。しかしこのもどかしさは、嫌ではない。
私も彼のシャツを脱がし、彼の首筋を撫でる。
「……くくっ。」
キョンがくすぐったそうに首を捩る。そこに私が吸い付く。
「あくっ……!……このエロ佐々木……!」
そう言いながら、私のブラを外すあなたも十分エロいよ。このエロキョン。
妄想の中の『彼の手』。それと彼の手の動きは驚く位に似通っていた。
優しく触り、時に緩急をつけながら先端の蕾を揉みしだく。
「あ……んっ!」
それだけで腰に電流が流された感覚になる。私は慌ててパンツを脱いだ。
不審に思ったのであろうキョンが、私の秘裂に手を伸ばす。そこは、すっかり熱くなりぬかるんでいた。
そっとキョンが秘裂を擦る。
「はぁぁんっ……」
自分の指なんかとは比較にならない。不器用な熱い手が私の秘裂を擦る度に、私は溜め息を洩らす。
このままでは、私だけが感じる。優しい彼はそれでもいいと言うのだろうが…
私はキョンの下腹部に手を伸ばす。
「……うっ……」
キョンが呻く。……熱を持ったそれは、何故か奇妙に手に馴染むものがある。
「久しぶり、というべきかな?」
「やめろ。なら、お前のムスメさんにも再会の挨拶をするぞ。」
「彼女は撫でて貰えただけで充分だと言っているよ。慎ましやかなムスメだからね。」
お互いに笑う。久しぶりだけど初めまして。何故か怖さは感じない。
そっと口唇を寄せる。そうする事が当たり前のように。
口を開け、彼の昂りをくわえる。何なのだろう。この感覚。
奇妙に熱いそれを、私の舌が舐める。まるで赤ん坊の指しゃぶりだ。
「うくっ……」
キョンが呻く。どうやら気持ちいいらしい。詳しく考えなくとも、何故かどこが気持ちいいか分かる。
長門さんに聞いていなければ、キョンは絶対に私が初めてだとは信じなかっただろう。私がそうであったように。
「(そう思われても、乱雑な扱いはされないんだろうな。)」
何故か確信がある。私もそうだ。彼が誰を抱いていようが、関係はない。まぁ……これまでは、だけど。
この先にやるなら、ただじゃおかない。
キョンは、私に声をかける。
「……そ、そのな、佐々木。」
「……ん?」
「俺を跨がってくれるか?」
……い、所謂69というものか?
……正直、恥ずかしさもあり拒否したいんだが……
やってみたいという好奇心もまた事実。
私はキョンを跨ぐと、昂りへの愛撫を始めた。
キョンの吐息が、私の秘裂をくすぐる。
見られている。私の秘裂も、お尻も。
キョンの舌が、私の秘裂を這う。私の肉豆を転がし、私の腰が淫靡に動く。
「……むっ……ううっ……」
彼の昂りに歯を当てないよう、私はくぐもった声を上げた。
キョンの指が私の肉豆を刺激し、私の膣口に舌が入る。
「ひんっ!」
刺激が走り、私は腰からキョンの胸に落ちた。キョンの嗜虐心を煽ってしまったのか、キョンの指が肉豆を強く刺激する。
「あ、あああっ!あっ!」
腰を動かし、その指に合わせて動く。快楽を求め、浅ましいまでに。
顔が見れなくて良かった。今の表情は、きっと泣き出す寸前の表情だろう。
私はキョンの昂りを舐める。ますます動きは激しくなり、私の頭にもやがかかる。
「……っ!あああああっ!いくっ……!キョンっ……!」
何度か痙攣する。……イッてしまった。キョンの指で。自分でやるよりも、何倍も凄い幸せな感覚だ。何より、彼の温もりがそばにある。
キョンは私を横に来させると、私の手を昂りに当てた。
「……しないの?」
「ああ。避妊具もないしな。」
「持ってるけど……」
私が起きようとすると、キョンは私を抱き締めた。
「すねかじりの分際が、こうした行為は何かあった時にお前に申し訳ない。」
……嬉しい反面、何か寂しいよ。でも、キョンが私を本当に大切に思ってくれているのは理解出来る。
キョンと抱き合い、お互いに陰部を刺激しあう。まるで裸で遊んでいるみたいだ。
キスしたい時に出来る位置。そして顔を見たい時に見られる。それは心から安堵出来る。
キョンの呼吸が荒くなり、顔が赤く染まる。もうすぐ出るのだろうか。私は息を飲み、キョンの昂りを擦る。
「佐々木……っ!」
キョンの昂りが、何度か跳ねる。そして、白濁が噴き出す……。
「…………」
粘り気があり、独特の臭気がするそれ。まるで漂白剤を生臭くしたかのような匂い。
キョンは、私を強く抱き締める。
「……俺は、幸せ過ぎて死ぬかも知れん。」
「全く。益体もない事を。」
それは、私の言葉よ、キョン。
結局、この一回だけで私達は服を着た。
「しかし、初回を憶えていないのがなぁ。」
「まぁね。そこは寂寥に過ぎるが……反対に見れば、こうした関係に入りやすいとも言えるよ。」
性臭がするので、部屋の窓を全開にする。
「まぁ、とりあえずは、お前以外を抱いたというシーケンスは存在しないそうだ。お前が俺にしてくれた事は、俺がお前に教えた事なんだと思うが……
そこは堪らなく嬉しいぜ。」
「僕もだよ。……キミの手が、僕への理解だと考えたら嬉しいよ。」
そう考えたら、あの既視感も未視感も悪くはない。
因みにキョン。その終わらない夏休みとやらは、いつが終着だったんだい?
「8月31日の、23時59分59秒だ。」
「成る程。」
ではこうしよう。今日は日付が変わるまで一緒にいよう。私の提案にキョンは、穏やかに笑った。
「朝までだって構わん。」
「くっくっ。」
日付が代わる前。私は万感の思いを込めてキョンにキスをした。舌が入ってきたのはご愛嬌としておくよ、エロキョン。
日付は当たり前に変わり、私達は帰路についた。
多分、終わらない夏休みの最期に言えなかったであろう言葉を紡ぐ。
「キョン。大好きだよ。」
「俺もお前が大好きだぞ、佐々木。」
――――これは、私達の付き合いが皆にばれる少し前の話――――
END