俺がいたのは、暗い部屋の、ベッドの上だ。ただし自分の部屋ではないと瞬時に悟る。  
他人の家特有の、慣れない香りが鼻腔を刺激している。それも、やたら甘ったるい香りだ。  
妹の部屋の匂いに似ているが、違う。俺の人生史上、決して見たことも入ったこともない部屋で間違いなかった。  
では、どこか。俺はどこに落ちてきたんだ?  
「……なに、してんの?」  
押し殺した声が、真下から聞こえた。  
不自然なまでに小さく、いささか闘気すら感じるものであったが、聞き覚えのある声なのは当然で、俺は毎日この声を聞いている。  
なるべくゆっくりと下を向く。  
ハルヒの顔が、俺のど真ん中にあった。薄暗さなどなんのその、ハルヒが見たこともないほどの驚愕の表情を浮かべているのは、薄  
く開いたカーテンからこぼれる街灯の光でも充分に見て取れる。  
おまけに俺は四つんばいの体勢でいて、ベッドの上であおむけに寝転がっているハルヒを、掛け布団の上から両手と両足で押さえつ  
けているような状態でいる  
……らしかった。ここに陪審員的な第三者がいたら、即時の有罪判決の満場一致を決して躊躇わないだろう。  
言い逃れの余地など蛾の鱗粉一粒しかなさそうな、そんなシチュエーション……。  
とっさに気付けという方が無理かもしれないが、現にここにハルヒがいる。消去法的に、答えは一つしかない。  
ハルヒの部屋で、ハルヒのベッドだった。それも真夜中らしい。ハルヒはパジャマ姿で、驚きを通り越したと言わんばかりに目を見  
開いている。  
「キョン、あんた、いくら何でも……」  
そこから先をハルヒは告げることができなかった。大声を出されたら色々とマズい、と判断した俺が、その口を封じてしまったから  
だ。  
しかし俺は何をトチ狂ってしまったか。つい、とか出来心だとか、後からいくら言い訳しても手遅れだ。  
手で押さえるとか枕で押さえるとか、他に方法はいくらでもあった筈だ。なぜ選りにも選って、ハルヒの口封じに自らの唇を利用し  
てしまったのか。  
強いて挙げれば、一番窒息の危険が少なく相手に害を及ぼさない方法だったからとは言えるだろう。俺はたまたまハルヒの部屋に来  
てしまっただけで、  
別に物盗りや押し込みに来た訳じゃない。ハルヒが大声を上げさえしなければ、それで十分だったのだ。  
だがそれとて後付けの言い訳にすぎない。  
後から振り返ってみても、なぜあんな行動に出てしまったのか未だに解らない。  
初めてハルヒを名前で呼んだ日の出来事といい、なぜ俺はいつも肝心な時にこうも衝動的な行動をとってしまうのか。我ながら学習  
能力に欠けると言わざるを得まい。  
ただそれもやはり後知恵にすぎない。後悔の念よりも、抱き留めたハルヒの体温と芳香が圧倒的に俺の心を占めていた。  
いっそう丸まったハルヒの瞳が、俺の視界に大映しになった。くぐもった抗議の声が唇の中で響く。蛾の鱗粉一粒ぐらいはあったは  
ずの言い逃れの余地を、俺は自らの手で握り潰してしまったわけだが。  
それにしても。  
控えめに表現しても、決して悪くない気分だった。  
つい先ほどまで落下しながら抱き締めていた、ハルヒの髪の香りに酔い痴れる。俺はハルヒの体温に直接手で触れたくなった。  
パジャマの前を留めているボタンを二つ外し、衣服の中に右手を忍びこませる。エロ本程度の知識しか持たない男子高校生の俺にも、  
そこに何があるかは理解しているさ。  
ほどよく柔らかい物体をこの掌に掴んだその瞬間、俺の脳髄を流れる血液が沸き立つのがハッキリとわかった。  
 
おっぱい。  
 
胸と呼んでも乳房と呼んでも、俺が味わった興奮と感動の万分の一も伝えることができないだろう。就寝中だからかもしれないが、  
下着は付けていない。つまりは覆う物ひとつない状況で、直に触ったということだ。  
女に、女体に、なによりもハルヒに触れているという実感を一番得られる部位は、華奢な身体つきのクセに、とうてい俺の片手には  
収まり切るもんじゃなかった。弾力はあるが、ゴム毬に喩えれば掌に吸い付く滑らかな肌の質感を伝えきれない。水風船に喩えれば、  
その体温も張りも伝えきれない。  
それを喩える的確な言葉を持たないのは、俺の経験が乏しいだらだろうか。それとも男の俺には決して存在しない部位だからだろう  
か。  
触っているだけで感慨深い。俺の掌がおっぱいの感触を求めて熱を帯びた。掌と脳とが直接リンクしているかのようだ。  
生殖器官よりも性感帯よりも、今はハルヒに触れた掌こそが、俺の体のなかで一番鋭敏な器官であるのは間違いなかった。  
 
ハルヒは何が起きたのか理解しきれていないようだったが、すぐに衣服の中で自分の乳房が弄ばれているのに気付いて抗議の声を上  
げる。  
「もう。下の部屋におかあ……母親がいるのに、声聞かれたらどうする気なの?」  
拗ねたような眼差し。アヒルのように尖らせた唇を拝むのもずいぶん久しぶりだ。出会って行動を共にするようになった頃は、ハル  
ヒのこんな表情を毎日のように見ていたな。  
とはいえハルヒのやわらかな左のおっぱいに付いた突起を指先で弄りながら、俺の中にとある疑念が生じてくる。  
もしこれがハルヒにとって生涯初の出来事であったのなら、もっと驚くなり戸惑うなり反応を見せていいはずだ。ハルヒに限らず、  
深夜自室で寝込みを襲われた大抵の女なら。  
にも関わらずハルヒは少し抗議の声を上げるだけで、基本的には俺にされるがままになっていた。  
トマトみたいに顔を真っ赤にして、くすぐったさを堪えながらギュッと目を瞑っている。  
掌でおっぱいの肌を擽るように撫で回すたびに、普段聞き慣れない少し詰まった高い声を上げる様子は、それはそれは可愛らしいも  
のだったが、はてさて俺の知っている涼宮ハルヒは、こんな簡単に乳を触らせてくれるほどしおらしい女ではなかったはずだが…  
…?  
頭に生じた雑念を振り払うためにも、俺にはますますハルヒに没頭する必要があった。  
 
全く物足りない。  
小さな突起を人差し指の腹でこねくり回し、それが固く勃起してくる様子を愉しむだけでは。俺の指の動きに合わせて小さな声を洩  
らすハルヒの姿を目にするだけでは。  
触らせてくれるということは、吸うのも許してくれるってことだ。そうだよなハルヒ。  
「……え、ちょ、ちょっと待って。ダメよ声が出ちゃ……」  
お前が声を我慢すればそれでいいだろう。だが俺は我慢できないんだよハルヒ。  
お前が神から授かった形も大きさも俺好みのおっぱいを、俺は五感で味わいたいんだよ。欲しいんだよハルヒ、お前のおっぱいが。  
海やプールで水着に包まれていたふくらみが、バニーガール衣装で強調された谷間が、チャイナドレス越しに自己主張していたその  
形が、何度夢に出てきて俺を苛んだか。  
ハルヒお前は全然解っていない。  
俺がずっと前からこの手にしたいと願い続けていたことを。  
いざ願いが叶ったところで、渇望が癒されるどころか否応なく増してしまうことを。俺がより多くをお前に求めてしまうことを。  
ハルヒに覆い被さり、背にした掛け布団を足で撥ね退けた俺は、ハルヒのパジャマ姿を余すところなく視界に収める。  
うちの妹に着せても違和感のなさそうな、ピンク色で幼いデザインのパジャマ。  
なのにその寝衣が包んでいるのは、スレンダーなくせに出るところの出たモデルのような身体ときたもんだ。なんというギャップだ  
ろう。  
胸元に手を突っ込まれたまま、ハルヒは頬を赤く染めてパチクリと俺を見上げていた。ハルヒに先を読まれないよう、俺は素早くパ  
ジャマの襟を留めるボタンを外す。  
 
見た目にも柔らかなおっぱいがまろび出た。街灯の僅かな光でも、控えめな乳輪が見て取れる。固く尖った小さな突起が今すぐにで  
も吸って欲しそうに疼いていた。  
ハルヒが動きを制止しようと、俺の両手首を掴む。だが俺はハルヒの妨害など意にも介さず、美味そうに俺を誘惑するおっぱいにむ  
しゃぶり付いた。  
 
石鹸というより、ボディソープの匂いがする。それも俺が使っているような安物ではない。もっと上品な芳香だ。  
おっぱいを吸うのは、俺の覚えている限り初めての経験になる。そりゃ赤子の頃は生きる為に毎日吸ってただろうが、その時の記憶  
なんざあるはずがない。  
赤子の記憶を鮮明に覚えてるのは三島由紀夫ぐらいなもんだろう。だが他にも覚えているという奴がいないとも限らない。もしいた  
ら、ぜひ俺に話を聞かせて欲しい。  
そんなことよりハルヒの話をしよう。ハルヒは団活での元気いっぱいな姿からは想像もできないほど控えめな声で、  
「キョンのえっち……ヘンタイ、おっぱい星人……ああぁ」  
身悶えしつつもハルヒは、俺の頭を胸元から剥ぎ取ろうとはしなかった。むしろ密着を強めるかたちで、俺の頭を強くかき抱いてく  
る。  
咲き誇るヒマワリのような笑顔で、毎日のように語りかける同級生。俺の手を引いて学校中を全力疾走する団長。入学してから毎日  
のように顔を突き合わせて来たえらい美人。  
その女が小刻みに身悶えしながらも、俺に授乳させている。その事実になんとなく胸の奥に温かい感情を灯って、つい涙腺が緩くな  
っちまいそうだ。  
耳に聞こえるのはおっぱいを貪る物音と、徐々に熱っぽさを増してゆく彼女の規則正しい呼吸音。それに時折俺を呼ぶ、せつなげな  
ハルヒの声。  
口の中で俺の舌の動き合わせて自在に形を変える同級生のおっぱいは、女の子の味という以外に表現しがたい奇妙な味がした。  
 
ゆっくりと掌や舌を使って試すその間にも、俺はパジャマのボタンを全て外してしまう。  
ハルヒは全くの無抵抗だった。滑らかな肌を乳房を舐りながら、パジャマを丁寧に剥いてゆく。  
フロントに小さなリボンをあしらったショーツ。小さな吐息がハルヒの唇から漏れる。  
きれいな形の臍を鑑賞しつつ、脇から腰にかけてのラインを指で確かめる。ショーツの両サイドに指を引っ掛けると、ハルヒがため  
らいがちに腰を浮かせてくれた。  
今度こそ俺はハルヒのその部分を目撃するのだ。考えてみれば夏に何度か試して以来の出来事になるのか。濡れて透けてしまった水  
着の布越しに見えるかと秘かに期待して、結局海でもプールでも拝むことの叶わなかったハルヒのそれを、ついにこの目に焼き付け  
る――  
三角の布を取り除くついでに尻を撫でると、内腿から立ち込める湿りを帯びた熱気。下腹部から太腿の付け根に至るまで、ゆっくり  
と視線を往復させてみた。  
そんなに見ないで、と両手で顔を覆い、肩をくねらせて恥じるハルヒ。  
俺の手を引いて学校中を駆けずり回る、天上天下唯我独尊で知られた北高一の有名人の影は見るもない。  
花も恥じらう乙女だった、いや訂正しよう。  
 
花に恥じらう毛もなき乙女――要するにあるべき毛が生えていない少女だ。  
 
そういう体質なのだろうか。質問する勇気は俺にはなかったが、これが一般的な女子高生の生え具合ではない事は俺にも判る。  
中学時代の修学旅行で、風呂に入った時にツレの生え具合をそれとなく確かめたところ、濃淡の個人差こそあれ殆どの奴には生えて  
いた。  
男子でさえそうなのだから、男よりも発育の早い女子には当然生えている筈だった。  
宇宙人や未来人の具合がどうなっているかは知る由もない。宇宙人の端末にとって必要な器官であるかは不明だし、未来での身だし  
なみがどうなっているかは知らん。鶴屋さんは当然生えているだろう。あるいはウチのクラスの女子どもも――  
もちろん普段から意識している訳ではない。ハルヒの部屋に忍び込み、息のかかる距離でソコを拝むという異常なシチュエーション  
がそんな想像をさせたのだろう。  
ただハルヒが生えていないという事実は、今の俺にとっては好都合でもあった。陰毛に邪魔されず、じっくりと観察することができ  
るからだ。  
ショーツを足首から抜いて内腿を撫でると、少女は吐息とともに脚を開く。  
両脚を全開にしてもなお、そこはぴつたりと綺麗に閉じていた。  
谷口から借りたエロDVDに登場する女優さんのそれよりも、昔風呂で見た妹のそれに近いような気がする。  
いささか拍子抜けの観がなくもない。ハルヒの煽情的な肉付き具合からして、ソコはもっと猥褻な形であってもおかしくはないと想  
像していたのだが――  
だがもじもじと悶える尻を捕まえて、肉厚な恥丘を指で押し開いた途端、やはりこいつが女なんだと脳髄の奥底まで思い知らされる  
羽目になった。  
 
何度も重ねた唇と同じ色が現れる。鼻腔をくすぐるほのかな酸味。ハルヒをこの手に抱き締めた時の心地よい体香、それに混じった  
汗のしょっぱい匂い。  
それら全ての匂いが女の子の部屋特有の甘ったるい匂いと混ざって、やたらと官能的な甘酸っぱい匂いに昇華していた。  
妹のようだ、という感想は撤回だ。ハルヒの小さな花びらは、間違いなく妹のそれよりエロい匂いがする。  
すでに固く反りかえっていた俺自身に、甘美な痛痒ともいうべきが感覚が押し寄せる。  
童貞の貧しい予備知識よりも明確に、俺の遺伝子が本能的に教えてくれる。  
この奥に俺が入るのだ、と。  
このままハルヒに覆い被さって、強引に繋がってしまいたいぐらいだった。だがそれはまだ無理というものだろう。  
子供のように怯えたハルヒの眼差しが、痛いことしないで、と訴えているように見える。  
こんなハルヒを誰が傷付けられるものか。  
 
上半身を起こして脚を大きくMの字に開き、ハルヒが自分の下腹部を覗き込んでいる。  
大きな黒い瞳を潤ませて、俺の指の動きを目で追っている。  
ゆっくり出入りする俺の指の動きに合わせて、同じ速さで腰を前後させてくる。  
くちくちと音を立てるハルヒの陰唇は、徐々にではあるが確実に綻びを増していた。一本筋の割れ目に閉ざされていた肉芽が、今で  
はすっかり姿を現していた。  
女性器を花に喩える、というのはカビの生えた陳腐な表現だと思っていたが、実際に触ってみればこれ以上に的を射た表現はない。  
先人の偉大さには感動を禁じ得んな。  
どちらも本質は生殖器官だ。花びらもあれば、ほら穴のようなめしべもある。女体で一番敏感な小さいおしべもある。  
突起をつまむときゅっとすぼみ、内側から透明な蜜もこぼす。虫みたいにアホな男(つまり俺)を誘い寄せる蜜を。  
小さく腰を震わせて、シーツを掴んだハルヒの手に力がこもった。  
吐息はいっそう悩ましく、俺を呼ぶ声はいっそう切なく。  
 
ハルヒが感じてくれているのだ。この先なされるべき行為を予感して、ハルヒの身体が昂ぶってゆく。  
細めで華奢な肉体のどこに溜め込んでいるのだろうか。膣口から滲み出る透明な液体は留まるところを知らない。湧き出る度に指先  
で掬い取って、弾力のある恥丘に塗りたくっているのだが、それでも追いつかなかった。  
このままではハルヒの形よい尻を伝ってベッドのシーツに垂れ落ちてしまうかもしれない。染みのできたシーツだけをハルヒの家族  
に見つからずに洗濯することは無理だろう。  
湧き出るハルヒの愛液を気にせず、行為に没頭したい。何かタオルの代わりになりそうなものは――  
なあハルヒ。  
俺が声をかけると、ハルヒは俺の意図を読み取っていたかのように腰を浮かせた。そこに脱がせた上下のパジャマを敷く。  
妹が着ていても違和感を覚えないほど幼いデザインのパジャマで、ハルヒから滴り落ちる愛液を受け止めるのだ。  
なんという背徳的な状況だろう。  
ハルヒは俺の内面を見透かしたかのように、少し恨めしそうに俺を睨む。とはいえハルヒもシーツを汚したくないという点では、俺  
と同意見のはずだ。  
 
むくれたアヒル口を見るのも久しぶりだ。しかも俺の指を体内に迎え入れた体勢のまま、という煽情的なポーズで。どうしてハルヒ  
は、こうも嗜虐心をくすぐる表情ができるのか。  
こんなハルヒは苛めてやる。おしべに喩えたハルヒの一番敏感な肉芽を、激しく掻き回してやる。  
声を奥歯で噛み殺して、大きくのけぞるハルヒ。不意に俺の指を絞め付けた力が緩み、ハルヒが脱力して四肢を投げ出した。  
 
服を脱ぎ、息も絶え絶えのハルヒに覆い被さる俺。自分の心拍がやたらうるさい。  
反りかえった息子を下腹部に押し当てようとすると、弱々しい力で胸板を圧し返された。  
「ちょっと待って」  
ハルヒは俺に圧し掛かられたまま、何やら枕の下をまさぐる。小さな包みを取り出し、それを持った手を俺の下半身へと伸ばしてく  
る。  
男性が装着する避妊具だった。見るのはともかく実物を用いるのはこれが初めてである。装着の仕方もよく分からん。  
ハルヒはこれをどこで入手したのだろうか。質問しようかどうか迷ったが、避妊具を手にしたハルヒがどのような行動に出るのか、  
愛玩動物に接するような気持ちで見守った。  
包みを藪って取り出した丸いそいつを、ハルヒはどこかぎこちなさの残る手付きで俺に被せてしまった。  
ぬるり、と亀頭が情熱的な体温に包まれる。他の何にも喩えようがない感覚に思わず焦ったが、少し落ち着いて見下ろせばハルヒが  
俺のを口に含んでいた。  
女の体温を性器で感じるのは、これが初めてとなる。思わずハルヒの顔を掴んで腰を前後させたくなったが、しかしハルヒの舐め方  
は万遍なく唾液を塗すようなものに思われた。  
おっぱいを吸って頭の片隅に追いやったはずの疑念が、再び頭をもたげてくる。  
 
俺の首に手を回し、仰向けにベッドへ倒れ込むハルヒ。俺のではない指に包まれる、限界まで反りかえった男根。その指が俺の分身  
捕まえたままゆっくりと移動する。  
逆らっても痛いだけなので、素直にハルヒの手が導くままに腰を移動させる。  
くちりと亀頭に貼り付く粘膜の感触。ラテックスの薄膜越しに伝わる、口の粘膜よりも高めの体温。それだけで腰はざわめき立った。  
多分この瞬間だけは、疑念を追いやることはできたのだろう。  
何も考えず少し腰を進めただけで、ラテックスに覆われた我が分身は呆気なくハルヒの中に飲み込まれた。  
 
初めて体感する、熱く湿ったハルヒの中。我が身を沈めた瞬間、あまりの気持ちよさについマヌケ声を洩らしてしまう。  
ハルヒに責められないだろうか。慌てて自分の口を塞ごうとしたところ、すぐ眼下で深い溜息をつくハルヒの姿があった。  
俺の感覚を確かめるかのように、ハルヒは深い呼吸を繰り返していた。  
奇妙な光景だった。自分の身体の一部が恋人と繋がっている。俺の心臓が拍動するのと同様、俺を包んだハルヒの柔肉が脈動してい  
る。  
初めて目にする神秘的な体験に、俺は感動するべきなのかもしれん。  
にも関わらず、俺の心は深い喪失感に苛まれていた。  
 
ハルヒはすでに経験済みだ、と。  
 
こうやって男に圧し掛かられ、受け入れたことがあるのだろう。さもなくば性知識に乏しい俺を、ここまで上手にリードすることは  
難しい。  
現にハルヒの膣は最大限に勃起した俺を、何の抵抗もなく飲み込んだではないか。  
藤原いわく俺の一番大切な女と結ばれたにも関わらず、深い悲しみと心の痛みが、俺の胸の中で吹き荒んでいた。  
ちくしょう。  
中学時代の話なら何度も聞いているじゃないか。ハルヒに言い寄る男が星の数ほどいた事を。  
その中に涼宮ハルヒと関係した男がいないとどうして言い切れる。最長で一週間しか続かなかったとしても、それだけの時間があれ  
ば何かをきっかけにして一線を越えるには十分じゃないか。  
中学生といえば思春期まっさかり。異性に対する並々ならぬ興味からは逃れられない。  
――あたしだって、たまにはそんな気分になったりするわよ。  
いつか聞いたハルヒの言葉が脳裏に木霊する。  
何事にも好奇心旺盛で、行動力なら誰にも負けないハルヒのことだ。探究心の赴くままその時付き合っていた男に頼んで――  
頼まれた男はどうするだろうか?ハルヒが性に対して嫌悪感を持っていないことは、ここまでの反応で明らかだ。理性を保つ理由な  
どどこにもない。  
そして涼宮ハルヒは純潔を、俺の知らない誰かに捧げたのか。俺じゃない誰かによって、女にされたというのか。  
 
破瓜を体験したかったとか、そういう次元の問題ではない。問題の根源は、もっと別の所にある。  
ハルヒが経験済みであるという事は、今の俺と同じぐらい激しい感情を向けた男が他にもいたという事を意味する。目に涙を溜めて、  
熱っぽい微笑みを俺に向けるハルヒのいじらしい姿を、俺以外の誰かが知っている。ハルヒを女として開発した男が俺の他にいる。  
それの何が問題なのだ、と僅かに残った俺の理性が問いかけた。  
それぐらい好きな男が涼宮ハルヒの過去にいた事が許せないのか。ハルヒの過去や感情に文句を付けられる立場なのか。  
去年の自己紹介の時点で、既に男を知っていたとして、それも含めてのハルヒだろうが。  
ハルヒが俺のために処女を守ってくれていた、などと都合のいい事を期待していたというのか。ただの夜這い野郎の分際で、一体何  
様のつもりなんだ俺。  
俺はハルヒの何なんだ。こんな自分勝手な独占欲を愛と呼べるのか。  
考えれば考えるほど、悪い方向に進んじまう。  
俺以外の誰かに抱かれたハルヒ。  
俺のハルヒを籠絡して弄んだ、どこぞの馬の骨。  
そしてようやく結ばれたはずのハルヒ相手に、黒い感情を向けた俺自身。  
――どいつもこいつもクソッタレじゃないか。  
自暴自棄な破壊衝動に突き動かされるまま、乱暴に腰を動かす。ベッドを数度軋ませたぐらいで、弱々しいハルヒの声が俺を呼んだ。  
 
「……痛い」  
ハルヒの怯えた声で我に返った。  
見下ろせば、うっすらと目尻に涙を浮かべたハルヒ。泣いてるじゃないか。  
ハルヒが泣くなんて、よっぽど痛かったんだろう。それでもハルヒは苦痛に声を上げて親御さんに気付かれることのないよう、我慢  
していたのだった。  
何やってんだよ俺。ついさっきハルヒを傷付けないと誓ったばかりなのに、こんな辛そうな顔をさせるなんて。  
「すまん」  
他にかけるべき言葉も見つからなかった。一糸まとわず俺と繋がったハルヒが、俺の腰に手を回す。  
その手が背中を撫で上げると、俺はハルヒと抱き合う体勢を取っていた。  
顔が近い。息が顔に掛かる距離だが、相手がハルヒなら決して不快じゃない。俺の唇をついばんだハルヒが、幼児にするように頭を  
撫でる。  
「キョンったら、ちょっと下の毛剃ったからって激しすぎ。まだ馴れてないんだから、もうちょっと優しく愛して」  
衝撃の告白だった。いや剃毛の事実について衝撃を受けた訳じゃない。俺が衝撃を受けたのはハルヒの口振りだ。  
まるで既に俺と愛を交わした事がある、とでも言わんばかりじゃないか。それに馴れてない、というのはどういう事だよ。  
俺とする事に対してか、それとも行為そのものに対してか。あるいはその両方――  
 
確信は持てたが、その内容を言葉に出さないようにするにはかなりの努力を有した。  
お互いにとって初めての相手であるはずなのに、俺がその事実を知らないとなれば、まず間違いなくハルヒは疑いの眼差しを向けら  
れるだろうから。  
ハルヒに指摘されて初めて、頬が緩んでいるのに気が付いた。すっげえマヌケ面をしてたんだな俺は。鏡を見ずとも解る。  
照れ隠しついでに腰を一突き。  
普段よりも一オクターブ高い嬌声を上げるハルヒに、俺は説明する。  
お前と繋がる悦びを噛み締めていた、と。俺こそが三国一の果報者だろう。  
トマトみたいに真っ赤な顔で恥じらうハルヒ。そうさお前が言う通りだよ。俺はバカだ。  
ハルヒの様子が変わった。ほとんど耐えるようにして身動き一つ取っていなかったハルヒが、ごく僅かに腰を前後し始めたのだ。  
にゅるにゅるとハルヒの膣肉に撫でられる。俺の股間まで、あっという間に洪水みたいになっちまった。  
 
ハルヒが痛がらないよう、ごく浅く、膣口付近でゆっくりと往復運動を繰り返す。  
俺自身にとっても、これぐらいの動きで十分だった。本能の赴くまま激しく動いたら、あっという間に暴発しちまいそうだったからな。  
おっぱいを唇でつまむと、聞いたこともない可愛い声で鳴く。股間の肉芽をくすぐるたびに、ハルヒは大きく腰を震わせる。  
エロDVDのような滑らかな動きは、俺にもハルヒにも期待できなかった。声だってハルヒの家族に聞かれる訳には行かない。  
本職の男優さん女優さんの激しいセックスをフレンチやイタリアンに喩えるとしたら、俺とハルヒのぎこちないセックスは家庭科の  
実習で作ったご飯と味噌汁に過ぎなかった。  
それの何が悪い。いかに技巧に優れているからといって、俺はハルヒを捨てて女優さんの手練手管を味わおうだなんて断じて思わな  
い。こいつはご飯と味噌汁だけでミシュランの三ツ星を凌駕する世界一の逸材だ。  
汗まみれになって俺を受け入れているハルヒの方が、女優さんやグラビアアイドルよりもずっと可愛くて綺麗で煽情的だ。  
俺が保証する。ただしハルヒを食っていいのは、世界中で俺だけに限る。  
だがハルヒのような逸材こそ、上達の余地はある。そのためには二人で練習するのみ。  
学校だと人目があるから難しいかもしれんが、その時は家やご休憩などで。  
ハルヒが望むなら、毎日でも付き合うさ。そして二人が上達する将来では、ラテックスの薄膜など必要なくなっているだろう。  
その時は温かく滑った俺のハルヒの膣を生で存分に堪能し、俺の精子をハルヒの子宮へと直接流し込んで――  
 
最後の時はあっという間に訪れた。ハルヒが両手で俺の腕を掴み、終わりが近いことを息も絶え絶え俺に告げる。  
止めとばかりにハルヒの敏感な所を弄ってやる。声を堪えるためだろう、ハルヒが激しく首を振ってベッドのシーツに噛み付いた。  
ハルヒが腰を大きくうねらせる度に、俺の分身を奥深くに飲み込む。調子に乗って、俺も深く出入りさせる。  
もう止まらん。  
おっぱいほどの豊かさと太腿ほどのの引き締まった肉を兼ね揃えた、ハルヒの尻を鷲掴みにする。  
同時にハルヒが俺の首に手を回した。俺の太腿がハルヒの脚に囚われる。  
まるで獲物に喰らい付いた絡新婦だ。ハルヒの女としての本能がなせる業なのか。  
腰ごと持って行かれそうな感触とともに、俺はラテックスの薄膜の中で自分の遺伝子を吐き出す。  
ハルヒの柔肉が俺の尿道を周期的に搾り出し、奥へ奥へと誘おうと蠢いている。  
やはりセックスの本質は生殖行為なんだ、とハルヒの中で痛感した。これじゃ避妊具なしだと、たった一度でも妊娠させちまうかも  
しれん。  
どこで買ったのかは知らんが、ハルヒが持っていてくれて助かったぜ。たとえゴム無しでも、今の俺だったらハルヒを抱いていたか  
もな。その結果子供ができてしまいました、というのではあまりにも無責任だろう。  
 
文字通り精魂果ててハルヒの上に倒れ込む。汗を纏ったハルヒの肌が、俺の肌に隙間なく吸い付く。  
シーツから口を離し、肩を揺らして喘いでいたハルヒが、呼吸を整えて俺の背中を抱く。  
キスを交わしたハルヒは、天の川みたいな静かで満足気な笑顔だった。  
 
ハルヒから引き抜いて初めて、俺は切実に確認しておくべき事を、迂闊にもたった今まで忘れていたことを思い出す。  
俺の目当てのブツは、ティッシュの箱と並んでベッドサイドに置かれていた。たいていどこの寝室にもあるであろう、デジタル式目  
覚まし時計だ。  
ハルヒだって江戸時代の人間じゃなかろうから、ニワトリの代わりに時計ぐらい枕元に置いているだろうという俺の予想は当たった。  
幸い、年月日まで表示するタイプをハルヒは愛用してくれており、東山三十六方草木も眠る何とやらな頃合いの数字を表示してくれていた。  
そして日付は五月某日となっている。なんてこった、今はさっきまでいた時間より一カ月近く後の未来だ。  
しかし、と俺は目覚まし時計を見て溜息を吐く。  
江戸時代の人間じゃなかろうから、といった前言は撤回だ。デフォルメされた動物らしいデザインからいって、こいつは起床時刻を  
「コケコッコー」と鳴いて知らせてくれるに違いない。  
どうやらハルヒは、いや人間は江戸時代からそんなに進歩していないようだ。  
 
避妊具を捨てて体液を拭い去ったが、部屋の空気は来た時とすっかり変わっちまった。  
相変わらず妹の部屋みたいに甘ったるいのは確かなのだが、かすかに動物的な匂いが混じっているような気がする。  
こりゃ換気しなきゃな。だが二人とも裸のまま窓を開ける訳にもいくまい。どう解決したもんだか。トイレから消臭剤でもパクって  
くるか?だが俺はこの家のトイレの在り処すら知らん。トイレを探してハルヒの家族と遭遇する訳にも行かんしな。マジどうしたも  
んだか。  
あれこれ思案していると、ベッドの上で寄り添ったハルヒが、疲れた様子で欠伸を一つ。  
「やばっ、あたし眠すぎてヤバいわ」  
おいハルヒ寝るな、今寝たら死ぬぞ。  
「ああ寒い、寒いときは抱き合って一肌で暖めあいましょう。って、ここあたしの部屋じゃない。自分の部屋で凍死なんかしないわ  
よ」  
いや別に冬の雪山遭難ゴッコなぞしなくていいから。抱き付いたまま拘束を解かずにノリツッコミだなんて斬新だなハルヒ。  
だいたい寝たら死ぬのはハルヒじゃなくて俺なんだぞ。  
娘の部屋のベッドの上で一糸まとわぬ我が子を抱いた侵入者を見つけたら、娘をキズモノにした狼藉者の頭蓋を即座に叩き割るぐら  
いの事はする。使うエモノが剣か槍か斧か、弓か魔法か銃か火器かは知らんがな。  
親御さんは、俺に死に方を選ばせてくれるほど寛大な人だろうか。  
こんなあられもない姿を親御さんに見つかったら、俺は何と言って親御さんに詫びればいいんだ。  
「しんどいからひと眠りさせて。このままあんたの腕の中で」  
そう言って幼児のようにグズるハルヒ。こいつは寝起きこそしっかりしているものの、一度睡魔に襲われると為す術もないようだ。  
「だいたい夜這いをかけた張本人がうろたえてどーすんの」  
返す言葉もない。いや、一つだけあった。張本人の使い方が日本語としておかしくないかハルヒ。  
「そこ突っ込むの?」  
まさかツッコミ返しを食らうとは。唯一の特徴である突っ込みのお株を奪われたとなったら、俺なんざ完全にお役御免じゃねえか。  
何をするのも億劫だ、と言わんばかりに欠伸をひとつ。  
「安心しなさい。うちの親だったら、あたしをお嫁に下さい、って言えば許してくれる……かも?」  
かもって何だよ。疑問形で答えるなよ逆にもっと不安になるだろ。見つかったら絶対親御さんに殺される。  
「静かにしなさいよ。騒いだら余計にみつかるじゃない、少しは落ち着いて」  
それにね、とハルヒはやや俯き加減に微笑んで、  
「本当にあたしの親に殺されそうになったら、その時はあたしがあんたの身代わりになってあげる。だから心配しないで」  
ハルヒに唇を奪われたのは、これで何度目になるだろうか。朝比奈さんだったら、俺の不甲斐なさを怒るんだろうな。  
こういう時は俺からハルヒにキスして、安心させる事を言わないと、ってな調子で。  
「起きたらもっかいチュウしてくれる?」  
咄嗟にああ、と肯定すると、ハルヒは安心しきった猫のように喉を鳴らす。ハルヒの髪の毛を撫でている内に、それはすぐに可愛ら  
しい寝息に変わった。  
 
もうすぐ太陽がひょっこり顔を出しそうな時間になるまで、俺はハルヒの部屋の天井をぼんやりと眺めていた。  
親御さんに見つかった時の言い訳をつらつらと考えていたような気もするが、この辺りの時間的な感覚はよく思い出せない。もしか  
したらうたた寝していたのかもな。  
なんでその場を去らなかったかって?ハルヒが俺の腕を枕代わりに使っていたからさ。  
ハルヒの規則正しい寝息が愛らしかったのはよく覚えている。  
無邪気に安心しきった幸せそうな寝顔。年齢の割に幼けないその寝顔を見ていると、つい先ほどまで全身の肌という肌を紅潮させた  
ハルヒが汗まみれ愛液まみれになって俺を受け入れ、腰を震わせて身悶えしていた事でさえ夢だったのではないかと思えてくる。  
だが俺の身体には、間違いなくハルヒを抱いた痕跡が残っていた。  
全身を気怠く覆った疲労感。いまだハルヒの湿り気を帯びた陰嚢から竿にかけて残る、数百分の一ぐらいに希釈された痛みのような感覚。  
腰が軽いとは、こういう状態をいうのだろうか。  
人目を忍んでティッシュの中に吐き捨てる排泄行為とはまるで意味が違う。ハルヒの満たされた寝顔をもたらしたのは、今まで恥じ  
ていた男の生理現象だった。  
ハルヒの蜜と体温に包まれて射精した満足感が半端じゃなかった。  
その達成感たるや、去年高校の合格通知を受け取った時とは比較にならない。国立や地元の難関四私大のA判定や合格通知を貰った  
として、ここまでの高揚感を得ることができるかどうか分からん。  
生物として、オスに生まれついたという自信が全身に漲っている。  
これが俗に『男になった』と言われる心境なのか。疲れ果てて無防備に眠る俺の女を、あらゆる災厄から守ってやらなければ。  
それが交尾を終えた雄としての義務というものだろう。ついに手に入れた金に換えられない宝物、って何言ってんだ俺は。  
いつぞやハルヒの口から聞いたような言葉をなぜか思い浮かべつつ、ハルヒが枕代わりに使っている腕を自分の方に引き寄せる。  
手持ち無沙汰な右手でおっぱいを軽く撫で回していると、唐突に手の甲を何者かに抓まれた。  
誰かは言うまでもあるまい。  
 
「おぁよ」  
子供のイタズラを見つけた母親のような苦笑を浮かべていた。  
寝起きのハルヒは意外と舌足らずなものだな。声と口調は、理不尽極まりない入団試験を突破した例の一年生娘に似てなくもない。  
こちらもお早うと返事したいところではあるが、いかんせんおっぱいを触りながらの挨拶は気まずいものがあった。今の俺は誰から  
見ても変態さんだ。  
「あんたいっつもそうじゃん。あんたが変態さんなのって、今日に始まった事とちゃうでしょ。あたし知ってるのよ、あんたが階段  
の下からスカートの中覗いてたのも、プールであたしの恥ずかしい所をガン見してたのも」  
そう言われると立つ瀬がない。立つ瀬がないから寝たんだよ俺は。  
ハルヒはクスッと笑って、  
「なにそれ。だったらあんたは一日二十四時間、あたしとエッチし続けたいってこと?」  
ごく普段通りの挨拶をする気安さで、裸のまま俺に抱きついてくる。胸板に当たるハルヒのおっぱいが、少し汗ばんでひんやり冷たい。  
「キョン」  
とりあえずハルヒが眠る前に交わした約束を果たす。  
ちょっとさすがに唇が腫れてきた。無理もないだろう。十数年かの人生を送っているが、この数時間だけでそれ以前の数十倍分以上  
はキスをしたからな。  
女の一挙一動に浮かれ気分でいたマヌケな俺に、ハルヒが何気なく訊ねる。  
「あんたってやっぱり、生えてない娘が好きなの?」  
 
どういうことだよ。  
何を言っているのだろう俺のハルヒさんは。確かにハルヒの下半身は無毛だったが、それと何か関係があるのだろうか。  
「あんた言ったじゃない、谷口にエロ本返すの忘れてたって」  
ああ確かに言ったな。今の俺にはその記憶がある。だがあれは一年生の元気娘こと綿橋ヤスミに会うため教室へ戻る口実でしかない。  
とはいえエロ本のくだりが嘘だったと説明すれば、今度は嘘を吐いた理由を詰問される。  
そうすれば涼宮ハルヒを置いて綿橋ヤスミの下へ赴こうとした事実を隠し通せる自信はない。だから事実に反していようとも、俺に  
否定はできない。  
何も言えずに黙っていると、ハルヒがさらに続ける。  
「そのエロ本って、もう発禁絶版した稀覯本なんでしょう? これもあんたが言ってた事よ」  
確かにそうだ。細かい所は忘れたが、俺は確かにそう発言している。  
「結婚するまで大事にしようと思ってたモノをあげたんだもの。今まで以上にお互いを知ろうとする努力をしなくちゃね。だからあ  
んたの好みを知りたかった。あたし調べたの。そしたらビックリしたわ。大昔のエロ本って、みんなアンダーヘアを剃り落としてた  
のね。あんたなら知ってるんでしょうけど」  
そういうことかよ。  
ハルヒは俺が文芸部室を出る時に残した些細な一言から、そんな推論を強引に打ち立ててしまったというのか。  
俺が部室を出るのに使った口実から、ハルヒは俺がアンダーヘアのないエロ本を谷口との間で貸借していた、と想像したようだ。  
確かに昔のエロ本だと、生えていてしかるべき際どい部分にも陰毛が見られない奴があるらしいな。官憲が陰毛の有無で取り締まっ  
ていたためだと聞いているが。  
だが俺としては、別にハルヒが剃り落とさなくても構わなかった。確かにハルヒの大事な部分を観察する上では、見やすくて邪魔に  
ならなかったが。  
「別にゴマカさなくてもいいのよ。今日のあんたすっごく積極的だったじゃないの」  
いやそれは俺が童貞だったからで――と打ち明ける訳には行かなかった。このハルヒは既に何度もこの時間上での『俺』と身体を重  
ねている。偽物だと思われるかもしれない。  
黙っていると、ハルヒはそれを肯定とみなしたようだ。こうなったハルヒは誰にも止められない。ならば好きなように喋らせるしか  
あるまい。  
ハルヒはチェシャ猫みたいにニタニタと笑い、  
「ホントにキョンって、ツルツルの方が好きだったのね」  
臍の下の際どい部分に指を這わせながら、溜息を一つ。俺に呆れているのか、それとも先ほどの行為を反芻しているのか、俺には何  
とも判断ができなかった。  
「キョン、あんた、いくらなんでもエッチしたその日の内に夜這いをかけてくるなんて……」  
どういうことだよ。  
「何言ってんのよ。今日――」  
枕元のデフォルメニワトリを一瞥して、  
「もう日付変わっちゃったのね。じゃあ昨日の話だけど、団活が終わった後であたしを求めてきたじゃない」  
じゃない、と言われても俺の経験した事ではない。とはいえ否定もできない以上、あいまいに頷く以外に俺の選択肢はなかった。  
「パンツ脱がされる所まではいつも通りだったわ。キスして、髪の毛とかほっぺた撫でられて、ブラを外されてじかに触られて……  
でもツルツルにしたのを見た途端、ケモノみたいに豹変して襲いかかってきたじゃない」  
ああ、と間抜けな返事を送る。  
「狂ったように腰を打ちつけて、『はるひぃ、オレのはるひぃ』って何度も何度も絶叫してたでしょ。あの時解ったわ。あんたはツ  
ルツルの方が好きなんだって」  
俺の口真似を交えてハルヒは説明してくれた。口真似上手いなハルヒ。というか俺ってそんなに気持ち悪い男だったのか。できれば  
一生知りたくなかった。  
「終わった後もどっか放心していたみたいだし、あたしが呼びかけても生返事しかしなかったじゃない。そんであたしにゴムを持た  
せて、くれぐれも枕元に置いとけって……」  
何気なくハルヒの放った言葉が、メフメト二世率いる世界初のカノン砲を食らったコンスタンティノーブルの城壁守備兵みたいに、  
俺の精神を粉々に吹き飛ばした。  
 
俺はこの時代のハルヒとセックスをすることで童貞を卒業した。それは俺にとっても、そして”俺”にとっても必要な出来事だった  
のだろう。  
今回の出来事をきっかけとして、俺は戻った先の時間でハルヒと結ばれる。ハルヒの女としての一面を知ってしまった以上、もはや  
以前と同じ目で彼女を見ることはできない。  
しかも今の俺には、ハルヒの敏感な部分についての知識が備わっている。ハルヒをできるだけ傷付けないように純潔を貰う上で、こ  
の知識は非常に役立つだろう。  
セックスに味をしめた俺たちは、暇を見ては何度も愛を交わすに違いない。そしてある程度開発されたところで、四月の上旬から時  
間を飛ばされてきた俺自身に――  
 
ハルヒを寝取られる。  
 
もちろんハルヒには責められるべき咎など一切存在しない。ハルヒには、いや俺自身の主観以外に、この俺と今の時間軸上にいるは  
ずの"俺"との区別はつかない。  
だからハルヒから見れば、あくまでいつも通り"俺"に抱かれたに過ぎない。客観的にはハルヒの浮気など発生していない。  
しかし俺の主観としてみれば話は別だ。俺と、今自宅で床についているはずの"俺"とは主観を同じくしていない。要するに別人とい  
うことだ。  
たとえば自分の家で眠っている間に、ハルヒが自分以外の何者かに身体を許していたとしたら――  
これほど男にとって苦痛で屈辱的なことはない。大事にしていた最愛の女を寝取られるのは。  
そしてその事態が、自分自身がこの世に存在し続けるためには絶対に不可欠な出来事であるなら。  
 
ゴムを用意し、くれぐれも避妊するように念を押したのは、もちろん第一には"俺"がハルヒの身体を慮ってのことだ。  
何から何まで大人びたハルヒと、どこかの大学で一緒に過ごしていたあの未来に辿り着くためには、望まぬ妊娠を絶対に避けねばならん。  
少し想像力を働かせてみよう。もし時空を越えてやってきた俺の精子で、ハルヒが妊娠したとしたら。  
自分自身と世界を憎み、呪った挙句、"俺"はあらゆる手段を使ってどちらも滅ぼそうとするだろう。ハルヒを殺そうとした藤原のト  
チ狂った行動を、今の俺は決して嘲笑えない。  
奴が凶行に及んだ理由は、ごく身近な人を守りたいという願いだった。同じ理由で俺が凶行に及ばないと、誰が保証してくれるのだろうか。  
かといってこのハルヒを俺に抱かせなければ、"俺"も存在しえない。俺と"俺"とはハルヒとの関係を共有しているのだから。  
未来の俺自身――と同時に"俺"――にできる唯一の対策は、俺の精子でハルヒの膣を汚されないように配慮を払うことだけだった。  
 
今なら"俺"の気持ちはよく理解できる。  
きれいに剃られたハルヒの下半身を目撃した時、"俺"は来るべき時が来たのだと悟ったのだろう。気持ちの上ではハルヒを他の男に  
抱かせたくない。  
だが俺たち、そして"俺"たちの関係を存続させるためには、必要不可欠な事態だった。  
そんな重大な出来事なのに、ハルヒに対して"俺"以外の男に抱かれるのだと告げる事もできない。  
だから俺が夜這いをかける直前、"俺"は狂ったようにハルヒを求めたのだ。ハルヒが"俺"のものであることを、自分とハルヒに言い  
聞かせるために。  
そしてハルヒは俺の行動を、剃毛ゆえのものだと誤解したのだろう。  
激しく抱かれたその日の内に夜這いまでかけられたとあっては、ますます自分の考えに確信を抱いたに違いない。  
 
こんな事があっていいのだろうか。  
俺は確かにハルヒと結ばれた。正直に言えば、それ自体は一年ぐらい前から望んでいたではある。  
だがそれは未来の自分自身から愛する女を寝取るという罪を犯すことを意味していた。同時に彼女を寝取られるという悲劇的な運命  
を背負ったことにもなる。  
この悲劇を誰にも打ち明けんや。長門や古泉にも無理だ。あいつらなら喋らずとも事情を察するのは容易だろうが、俺としてはこの  
話題には誰にも触れて欲しくない。  
いずれ訪れる悲劇こそが、俺に対する罰なのだろうか。  
それとも自分以外の存在に抱かれるハルヒの艶姿を思い浮かべ、自宅のベッドで激しい苦悶と嫉妬のうちに過ごす夜こそが、"俺"に  
対する罰なのだろうか。  
 
「――ョン、キョン?」  
俺の頬に柔らかな肉質が押し付けられた。ハルヒの胸に抱かれているのだ、と気付いたのは、俺の目の高さに乳首を捉えたためだ。  
あれだけ渇望し、触り、吸い倒したおっぱいだったにも関わらず、不思議と目の前の乳房には欲求が湧かなかった。  
とはいっても相変わらず均整の取れた形をしているのだが。  
「どうしたのキョン。今日のあんたちょっとおかしいわよ。何か悩んでるんでしょ、言ってみなさい」  
まるで昔のオカンみたいな言い草だなハルヒ。そう言えば母親に悩みを相談しなくなってから、もう何年になるのだろう。少なくと  
も中学に上がって以降は記憶にない。  
「あたしあんたのおかあさんじゃないから。でもおかあさんに言えないような事でも、あたしなら聞いてあげられるかもしれない」  
その気持ちだけで十分だよハルヒ。だが俺が抱えているのは、世界でただ一人俺だけの問題だ。お前から見れば何一つ問題は起きち  
ゃいないんだ。  
しかしどうしたら――どうしたら自分の中に生じた問題を受け入れることができるのだろうか。  
 
俺の視界を占領していたハルヒの愛らしい乳首から目を離すと、部屋の壁にぶら下がっていた素っ気ないデザインのカレンダーが目  
にとまった。  
本日を示す黒い数字の上に、明らかにハルヒが付け加えたであろう、赤いマジックによる花丸マークが囲われている。二重丸の上に  
花びらで縁取るという、  
まるで幼稚園児の絵画を褒めるがごとき大げさで派手なマーキング。  
俺の心に何か天啓が降り立ったその時、窓にこつんと小さいものがぶつかる音がした。俺とハルヒが同時にぴくんと腰を浮かせる。  
「ちょっと!」  
ハルヒは上ずった声で、  
「ちょっとでいいから目を閉じ……布団被ってなさい!」  
ハルヒはやおら身を起こして俺をはねのけると、俺に掛け布団をかぶせて視界を遮った。  
ごそごそと何かをやってる気配がする。着替えか。だったら俺が布団をかぶる必要はなさそうだな。  
俺はハルヒの全てを知っているのだ。それこそ本人でさえ知らない場所にあるホクロの位置とか。  
「いくらあんたが相手でも、恥ずかしいものは恥ずかしいの!」  
部屋の外に第三者の気配を感じ取った途端、情事に蕩けた女の貌が消え去ってしまった。  
布団の隙間から顔を出した俺の目の前に、真新しいショーツを一枚だけ身に纏ったハルヒが接近する。形よく張り出したバストを片  
手で隠して。  
ふたたび布団に視界を遮られる直前に見たハルヒの顔は、いつも通りの自信に満ちた百ワットの笑み。  
ハルヒの眩しい笑顔にトップレスという組み合わせなんて、結構斬新かもな。  
 
俺たちが用意したというプレゼントを受けとった時には、涼宮ハルヒは完全にSOS団の団長としての顔を取り戻していた。  
変わり身の早いことで。いまだ事後の余韻を噛み締めている俺の事が気になったのか、  
「なにまだニヤニヤしてんのよ。気持ち悪い」  
とか言って俺をのけ者にしようとする有様だ。おまけにハルヒに手渡すプレゼントを運んできたというウチの三人とも、大なり小な  
り俺に対する揶揄の色を浮かべていたように思えたのは気のせいか。  
古泉を睨み返したが、まったくダメージが通らない。長門なんざ無表情ながら、両親の秘密を知った反抗期の娘みたいな軽蔑の眼差  
しを向けているようにすら見えた。  
こんなんでいいのか俺。明日から文芸部室で、どんな態度で過ごせばいいんだろうね。それでも普段通りの態度を保つより他にはな  
いのか。無闇に卑屈な態度を取ったところで、ハルヒに迷惑が掛かるだけだろうしな。  
ハルヒは終始団長としての姿勢を崩さなかったが、しかし部屋に戻ってプレゼントの中身を見たらどうなるだろうか。  
俺が心変わりしていなければ、用意した団員としてのプレゼントの他に、もう一つ小細工を仕掛けるはずだ。  
また二人きりの時に見せてくれた泣き笑いの表情を浮かべるのだろうか。  
あるいは満月のような笑顔の似合う女性らしく、静かに涙を流すのか。  
 
カレンダーの日付から思いついたアドリブを何とかこなし、SOS団結成一周年記念行事は成功裏に終わった。  
今は四月某日金曜日、俺、自室に帰還せり。  
溜まっていた日常の用事を済ませ、さて余った時間をどう有効に使おうかと考えて、結局はベッドに寝転んで天井を仰ぐという、俺  
らしいっちゃ俺らしい有益とは呼べない贅沢な時間を過ごしていた。  
俺の視界を占めるのは、これまでの俺の半生で一番見慣れた自分の肉体的な器官。ぶっちゃけて言うと右手だった。  
この右手に残るハルヒの感触が、否応なく俺の胸を苛む。  
手に余るハルヒのおっぱい。  
ぷにぷにとした大陰唇。  
粘り気のある透明な愛液と、指に絡みつくハルヒの肉ヒダ。  
そして絶頂の瞬間に掴んだ、スベスベの肌と健康的な肉付きを備えた尻。  
全部この手が覚えている。たとえ脳ミソを弄られて記憶を消されても、この右手はハルヒを決して忘れないだろう。  
もし明日ハルヒと出会って、偶然にも右手が彼女に触れてしまったら――  
明日ハルヒから右手を守りきったとして、その次の日もハルヒとの肉体的な接触を避ける事なんてできるだろうか。  
さらにその次の日も、その次の日も。  
不可能だ、と俺の中にいる何者かがそう告げた。触れた瞬間右手の記憶が俺を突き動かし、間違いなく俺はハルヒを押し倒すことだろう。  
ハルヒは許してくれるのだろうか――五月の"俺"と今の俺とが連続した存在であるなら、その辺りの問題はクリアできるだろう。五  
月の"俺"が存在していたということは、ハルヒが俺に身体を許してくれたという事になるからだ。しかもあれほど性に対して積極的  
だったということは、あいつにとっての初体験はさぞや素晴らしいものだったのだろう。少なくとも童貞が本能の侭に抱くよりは、  
破瓜にともなう苦痛にも耐えられたはずだ。  
もしかして――この状況は彼女にとっては喜ばしい事なのか? 俺が女の子の身体を、ハルヒの感じる所を知っているという状況は。  
なおかつ俺自身も今回の経験を通じて、結果的にはハルヒに対して操を通していることになる。俺も”俺”も、結局はハルヒ以外の  
女を知ることはない。  
誰がこのような状況を望んだのだろう。  
もしハルヒが望んだのであれば、苦笑するしかあるまい。  
もし俺だったら、五月の俺の苦悩は自業自得という奴だ。  
だがもし第三者なら――  
そう考えただけで胸の中に業火が走る。そいつは俺たちの運命を弄ぶ連中だ。ハルヒを殺そうとした藤原同様、場合によっては藤原  
以上に許せない。もしそいつの意図が今回の事態を引き起こしたのであれば、いかなる手段を使ってもそいつに相応の報いを与えなくちゃな。  
怒れる古泉の赤玉より、朝倉の冷たいナイフより非力なのは解ってるが。  
それでも自分自身のこの拳が砕けるか、それとも相手が絶命するまで、ひたすらグーで殴り倒してやる。  
 
なにはともあれ、俺が迎えるであろう次の記念日には、ハルヒへのプレゼントを何にするかを考えなければならない日々が待っている。  
これだと思う方がいれば、是非メールか手紙を寄越していただきたい。今なら大いに参考になる、優れた意見を見いだせる気がする  
のでね。  
だが少なくとも一つだけ、絶対に用意しておくべき物がある――  
家人に見つからぬようそっと家を出た俺は、人目を避けてひっそりと薬局の傍らに佇む自販機の前に立ち寄ると、ショーケースに陳  
列してあった小さな包みを一つ購入した。  
 
<<終>>  
 
 

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