狂乱の文化祭から1週間後のこと  
 
あれからまだ1週間しかたっていないのか  
 
・・・などと感慨にふける間もなく  
俺の日曜日はまたもあわただしくなっている  
 
「キョン、有希、古泉くん!  
 3名は外で待機よ  
 私はみくるちゃんともう少し調査するわ」  
 
「ふぇ〜ん、キョン君・・・」  
 
満面の笑みのハルヒは  
子羊のようにおびえる朝比奈さんを  
ひっぱり教室に消える  
 
教室の前にうるさい装飾の手書き看板があった  
 
(2年B組 出展物 コスプレスタジオ アルファ)  
 
今日は近隣の南高の文化祭なのだ  
 
ハルヒは敵情視察の名目でSOS団を招集  
せっかくの日曜日はまたも潰れたのである  
 
「はは・・朝比奈さんも災難ですね  
 まぁ、ああ見えて涼宮さんも常識を心得ている方です  
 特にあなたが心を痛める必要はないかと」  
 
古泉は微笑みながら俺に言う  
映画撮影の一件を気遣ってか、  
はたまた、いつものおためごかしか  
 
俺は適当にあしらい、視線を外にむける  
 
俺たち待機組みがいるのは中庭である  
 
たこ焼きやチョコバナナの屋台  
私服、制服が入り乱れた生徒の群れ・・  
 
どこにでもある文化祭の風景だ  
 
「そういえば・・長門は?」  
 
古泉は今更ですかと苦笑しつつも  
執事のように手を向ける  
 
「あちらです」  
 
(ミステリー研 出展物 ときめき占い カバラの秘術)  
 
長門が出てきた店の名前である  
 
いや・・なんというか  
おそらくは強引な勧誘に引き込まれたのだろう  
それ以外の可能性は想像できん  
 
やれやれ  
俺は本日1回目の溜息をつく  
 
屋台形式で占い小屋をやる是非とか  
どうみても野戦病院のごとき外観とか  
そもそも長門相手に占いはするなとか  
いろいろな突っ込みをうちに秘めつつ  
俺はとにかく長門に話しかける  
 
「どうだった?長門」  
「・・・どうって?」  
 
長門のあどけなくも深く澄んだ瞳に  
俺の硬い笑顔が映る  
 
「いや・・ほらさ、長門も占いやっただろう  
 うちの文化祭で  
 ここのレベルはどうだった?」  
 
「・・・とっても稚拙・・・極めて主観的な解釈に終始・・  
 文献から引用が多数・・・実地的な技術も初歩的な  
 コールドリーディングにとどまる・・・」  
 
それはそうだろうな  
聞いた俺が悪かった  
 
「なるほど、コールドリーディングですか  
 たとえばカップルが占いにくれば  
 目的は恋愛でしょうし  
 マスクをした顔色の悪い方がくれば  
 目的は健康というやつですね」  
 
古泉が聞かれもしない解説をする  
長門の首がわずかに動く  
 
「ほぉ、それで長門はなんて占ってもらったんだ?」  
 
「・・・今日の運勢について・・今日は大きな事件にあう  
 ・・・良いか悪いかは私次第・・暗い場所に注意・・  
 とっても包括的な占いだった・・」  
 
なるほど、なるほど  
長門の相手をした占い師の気苦労を思うと  
胸が痛くなる  
 
「・・・でも・・・おおむね間違っていない  
 私の・・本日の観測と・・内容的には一致・・」  
 
何?それは重大発言だぞ  
 
長門が今日大きな事件にあうのか  
それはつまり俺たちも大きな事件にあうということだ  
 
「どういうことだ?」  
 
一瞬の間ののち、長門は答えた  
 
「・・・私達はまもなく闇の空間に入る・・無数の手がせまる  
 ・・・私達はそこに・・光をもたらす・・・  
 でも・・しばらくのち・・あなたと涼宮ハルヒは・・闇に消える・・・  
 そして・・・・・・・・・・・・・続き、聞きたい?」  
 
やれやれ  
古泉がなんと言おうが  
俺は溜息をつかざるをえない  
 
いかにもな占い師(というよりは預言者)風の  
言い回しとか引き延ばしとか  
これは長門風の演出、つまりは萌える場面なのか  
 
どう解釈してもロクなことが待っていないようだ  
 
「ぜひ続きをお聞きしたいですね  
 可能であればもう少し具体的に」  
 
古泉の笑顔もどこかしら固くなっている  
長門の口がわずかに動く  
 
だがすぐに止まることになる  
 
「みんなー!こっちよ、早くしなさぁーい!」  
 
向こうからハルヒの怒声が響く  
かたわらには子ウサギのように震える朝比奈さん  
 
「す、涼宮さん・・ここに入るんですかぁ?」  
 
「当たり前よ、みくるちゃん  
 この世の不思議を探求するSOS団には  
 うってつけの場所よ。  
 ねぇ!キョン」  
 
そうだな、としかいいようがなかった  
 
(運動部有志 展示物 お化け屋敷)  
 
俺たちが並んでいるのは南高の体育館の前だ  
南高の坊主頭のみなさんは、この広い空間を貸しきって  
お化け屋敷をしようというのか  
 
頭の下がる思いだ  
 
「す、すごいですね・・こんな規模のお化け屋敷なんて」  
 
これは朝比奈さんの発言  
閉鎖空間が発生したときと同じ口調なのがご愛嬌だ  
 
「えぇ、北高はお化け屋敷は禁止されていますからね  
 なんでも外から見えない密閉区域を設けていけないそうで」  
 
これは古泉の発言  
なるほど、外から丸見えのお化け屋敷なんて意味がないからな  
 
「ふぅーん、そうなんだ  
 道理で張り合いのない文化祭だったわけよね  
 ふふ・・ならば今がチャンスよ  
 SOS団の団結を見せるときよ  
 そうだ!みんな聞きなさい  
 フォーメーションを説明するわ」  
 
これはハルヒの発言  
フォーメーションって・・何だ?  
 
「決まってるじゃない  
 SOS団は危ない場所ほど団結をするのよ  
 つまりは・・手をつなぎなさいってこと!  
 キョン、古泉くん!  
 あなたたちしっかり女の子を守るのよ!」  
 
ハルヒは目を輝かせて俺たちを指差す  
近辺のカップルから失笑らしきものが漏れる  
大丈夫、笑われることにはすっかり慣れました  
 
かくして、超能力者は宇宙人の手をつなぎ  
凡人は未来人と神様の手をつないで  
闇の中に入っていったのである  
 
お化け屋敷の中は暗い  
当たり前だが  
 
俺たちはずいずいと通路を進む  
通路の左右は黒いカーテンで仕切られている  
ところどころ床からライトアップされ  
順路が分かるという作りだ  
 
場内にはお決まりの納涼BGM  
そして「キャー」とか「ひぇー」という悲鳴  
これだけでムードは高まっている  
 
「キョン!ちゃんとついてきてる?」  
心無しかハルヒの声が固い  
まさか恐がっているのか  
 
「当然だろ、なにしろお前の手を握ってんだからさ  
 ひょっと俺の手じゃないのかもな・・はは」  
 
「キョン!」  
ハルヒの握る手に一際、力が入る  
大丈夫、俺の手だよ  
分かったら、そろそろ力をゆるめてくれ  
 
「ふぇーん、み、みなさんどこですかぁ・・」  
左側の柔らかい手の主は朝比奈さん  
 
入場そうそう現れた提灯おばけにすでに涙目だ  
 
ふと、後ろを振り返れば  
暗がりに浮かぶのは  
笑顔の超能力者とクールなままの宇宙人  
 
俺はなぜか安心し、再び向き直る  
突然、目の前に狼男の仮面が飛び出した  
 
俺は叫んでしまった  
朝比奈さんも同じく  
 
「はは・・何をこわがってるの  
 作り物じゃない  
 やっぱりキョンね」  
 
ハルヒの笑い声  
それは作り物にきまっているだろうが  
おそらくド〇キあたりに売っているやつだ  
でも恐いもんは恐い  
 
「す、涼宮さん・・早くでましょう」  
そうだ、ハルヒ、早くでましょう  
 
「なにいっているの!ここからじゃない  
 ほら見なさいよ 前よ、前」  
 
目の前には手書きの標識が  
ライトアップされている  
 
(ここより、【ザ・地獄沼】 危険につき1グループずつ  
 まっすぐお進みください ドクロマーク)  
 
その先は長い暗闇の空間が伸びていた  
さきほどまであった、  
手作りの卒塔婆(そとば)とか十字架といった装飾も見当たらない  
一体、何があるのか・・  
 
「ふふん・・楽しそうじゃない?  
 じゃあ古泉くん、有希   
 私達が先にいくわ  
 ほら、キョン、みくるちゃん、背筋をのばしなさい!」  
 
一際、高い悲鳴が前方からする  
俺たちの先に入ったグループのものだ  
確か3人連れの女子高生だったはず  
 
「きゃー!」  
「助けてぇ!」  
「やめてー!」  
 
なんともすごい悲鳴だ  
人並み外れて臆病な朝比奈さんならともかく  
そこまでの物なのか  
 
「・・・そろそろいいかしらね  
 じゃあ行ってくるわ  
 10分たって連絡がなければ警察にお願い」  
 
何の話だ  
 
「分かりました、それではお気をつけて」  
「・・・いってらっしゃい・・・」  
 
俺たち3人は歩き出す  
本当に暗い  
下からの間接照明もない  
前後左右も分からない  
とにかくまっすぐだったっけ  
 
で、どのへんが【ザ・地獄沼】なんだ?  
水でもかけられるのか  
 
その時だ  
 
「キョン・・・やめてよ・・こんなところで」  
 
突然、ハルヒの声がする  
幾分悩ましげなか、すれぎみの声だ  
 
「お、俺は何をしていないぜ、  
 両手はハルヒと朝比奈さんに取られてるし」  
 
「えっ!」  
 
「ふぇ、ふぇ〜ん・・そんなところ触らないで下さい・・キャーッ」  
 
「キョン!!みくるちゃんによくも!」  
 
「だから言っているだろ、俺はハルヒと朝比奈さんの手を握っているんだ  
 何もできないぜ・・痛い!・・こら、頭を叩くな」  
 
「た、叩いてないわよ、いや・・・おしりが」  
 
たまらず俺たちは走り出した  
お化け屋敷内は走行禁止らしいが、構わない  
 
気がつけば、出口だった  
足元が濡れている  
いつのまにか水をかけられていたようだ  
 
「全くなんなのよ!あのお化け屋敷は!」  
 
ハルヒは両手を腰にあて叫ぶ  
剣幕におされたのか朝比奈さんは涙を浮かべている  
 
向こうから古泉と長門がやってくる  
 
「いやはや・・大変でしたね」  
古泉は苦々しく笑いながら肩をすくめる  
 
「有希、どうだった?素直にいいなさい  
 あの空間であったことを」  
 
ハルヒは長門の顔をのぞきこむ  
 
「・・・言語化しづらい現象・・  
 再現に協力してほしい・・・」  
 
長門は俺の顔を見る  
俺はハルヒの顔を見つつ、了解した  
 
長門は俺の手を握る  
そのまま背中ごしに平たい胸に押し付ける  
 
!!!  
 
「こ・・こら!キョン離れなさい!早く!」  
 
分かった  
分かったから、長門に言ってくれ  
 
ハルヒは続いて朝比奈さんに問うた  
 
「その・・あの・・胸をお化けさんにいろいろされて・・  
 ふぇ・・あと太ももとか・・ひぃー・・」  
 
涙に濡れた朝比奈さんをハルヒはだきしめる  
栗毛色の髪をなでつつ  
 
「いいのよ・・・よく話してくれたわね、みくるちゃん  
 仇は必ずとってあげるわ・・・よしよし」  
 
できれば再現につきあいたいと邪念をいだきつつ  
俺はおそるおそる問いかける  
 
「で、ハルヒはどうだったんだ?  
 俺はお化けに頭を殴られたぞ」  
 
「こら・・キョン、そんなこと聞かないの!」  
 
ハルヒは顔を紅潮させ、俺をにらむ  
長門や朝比奈さんには聞いておいて・・と  
思いつつも口に出さなかった  
 
「そうだったんですか、僕などは腰周りを・・」  
 
古泉、お前は言わんでいい   
 
しばらくして俺たちは体育館の裏にいた  
辺りを見回すと、外付けの非常階段をのぼる  
ここから体育館の2階にいけるらしい  
 
「なぁ、ハルヒ、やめようぜ」  
「何をいってるの、みくるちゃんに誓ったの  
 あなたの仇はとるって」  
 
当の朝比奈さんは申し分けなさそうに後に続く  
 
「お化け屋敷のかこつけて、穢れ亡き女子高生の体を弄んだのよ!  
 言語道断、一罰百回、きちんと落とし前をつけるわ!」  
 
やれやれ  
確かにハルヒの言っていることは分かった  
このお化け屋敷を主宰している南高の運動部有志は、  
暗いのをいいことに客にセクハラをしていたのだろう  
 
暗闇のため顔はばれない  
仮にばれても、アトラクションの演出だと言い逃れができる  
女子が助けを求めても、お化け屋敷という名目上  
ただの歓声にしか聞こえない  
 
上手く考えたもんだ  
感心している場合でないが  
 
「以前、北高の文化際でも同様の不祥事があったそうですね  
 そのときは保護者も巻き込んで結構な騒動になったとか  
 次年度の文化祭の禁止も検討されたそうです」  
 
最後尾の古泉が言う  
なるほど、それでお化け屋敷が禁止されたのか  
 
非常口の扉は開いていた  
 
入るとすぐに準備室がある  
催し物で使う備品がならべられている  
その向こうに一区画のブースが見える  
 
放送室のようだ  
おどろおどろしいBGMもここから流しているだろう  
 
「まずはあそこを占拠するわ  
 あそこには体育館全体の照明スイッチがあるの  
 いわばこの体育館のコントロールルームよ」  
 
やけに乗り気だな  
というか、なぜそんなことを知ってるんだ?  
 
「ふふん、この南高には因縁があるの  
 話は私が小学生のころにさかのぼるわ  
 町内会のドッチボールクラブの交流戦があったの  
 めちゃくちゃ張り切ってたんだけど  
 試合当日、監督のおじさんが私を外すって  
 なんでも、ドッチボールは団体スポーツだから  
 個人プレイばっかりの私はそぐわないって  
 失礼よね!団体を構成するのはあくまで個人よ  
 私なら最後まで生き残って、チームメイトを奪還するのに!  
 それで、頭にきて、放送室をジャックして演説をしたのよ  
 あれは名演説、キング牧師も真っ白よ!」  
 
俺はつくづくその場のドッチボール関係者に同情した  
 
放送室には人はいなかった  
 
ただ納涼BGMのCDがボリューム10で  
エンドレスリピートされているだけだった  
ハルヒのいう通リ、壁には複数のスイッチがあった  
むろんすべてOFFになっている  
 
「キョン、しっかり確認しなさい  
 あとは2階の窓際の通路ね  
 窓の黒カーテンをすべて開けるわ」  
 
おいおい、何をするつもりだ  
 
「決まってるじゃない!  
 この穢れたお化け屋敷に我らSOS団が光をもたらすの!  
 さて、いったん戦場離脱よ  
 各自すみやかに行動すること」  
 
体育館前のベンチ  
俺と古泉は2人きりだ  
 
ハルヒは朝比奈さんと長門を連れて  
どこかに消えた  
 
「なぁ、古泉、これはやばくないか?  
 突然照明をつけて、犯行現場を暴くんだろう」  
 
俺は肩を落とす  
 
「大丈夫ですよ、デジカメはもっていますし」  
 
古泉、お前まで乗り気なのか  
 
「もし勘違いだったどうすんだ?  
 俺たちは単なる文化際荒しだぜ」  
 
古泉は柔らかく微笑んだ  
 
「僕も一抹の不安はありますよ  
 しかし、涼宮さんを止められるのはあなたしかいません  
 どの道、僕はただ彼女の行く方向に従うしかのみです」  
 
俺は何か言おうと口を動かす  
 
その時だ  
 
お化け屋敷の出口付近が騒がしくなった  
他校生と思われるカップルがお化け屋敷のスタッフと対峙している  
カップルの男は激昂していた  
つかみかからんばかりの勢いだ  
傍らのガールフレンドは目を赤くしてうなだれている  
それを顔を白く塗ったスタッフがなだめている  
 
教員と思われる中年男性もかけよってくる  
 
「どうやら、僕達だけではなさそうですね」  
 
古泉はこちらを見ずにつぶやく  
 
そうか  
俺はもっと怒るべきなのか  
いつも顔を合わせている女子3人が嫌な思いをしてるのだ  
1人冷めている場合ではない  
 
そのとき、背後で聞きなれた声がする  
 
「キョン、古泉くん、お待たせ  
 私達は用意は万全よ!」  
 
!!!  
 
柄にもなく熱くなった思いが急速にクールダウンする  
そこにはバニーガール姿の女性陣3名がいた  
一体、なんの真似だ?  
 
「さっきのコスプレスタジオから借りてきたの  
 見てわからない? 陽動作戦よ  
 敵は私達の体が目当てなの  
 より扇情的な容姿で、敵の注意をキョン達からそらすわ」  
 
暗闇の中だと見えないから意味がないだろうとか  
そもそも入場禁止レベルだろうとか・・  
 
突っ込みどころを探す俺にハルヒ達は顔を接近させた  
 
体をかがめる格好だ  
自然と胸の谷間を寄せ上げている姿勢になる  
 
「キョン、お願いよ、今回の攻防のキーマンはあなたよ  
 功績によっては2階級昇進も考えるわ」  
 
黒いバニースーツで迫るハルヒの声  
 
「キョン君・・お、お願いします、ファイトです!」  
 
赤いバニースーツではちきれんばかりの胸元をみせつける  
朝比奈さんの声  
 
「・・・・頑張って・・」  
 
白いバニースーツで迫るの長門の声  
 
「ご活躍を期待していますよ」  
 
古泉、お前はやらんでいい  
 
「作戦の最終確認をするわね  
 私達が【ザ・地獄沼】でセクハラを受けたら  
 キョンの携帯にワンコールおくるわ  
 それが作戦開始の合図よ!  
 キョンは放送室で照明スイッチを全部ONにしなさい  
 古泉君は一気にカーテンを開けて  
 あとはただちに加勢にくること  
 いいわね!復唱なさい!」  
 
俺は適当に言いながら、お化け屋敷の出口付近を見る  
どうにもさきほどのカップルが気にかかる  
 
見れば、激昂していた男子校生は半ば教員に引きつられるように  
校門に向かっていた  
後ろから彼女とおぼしき女性がかばんをかかえ付き添う  
 
俺たちもああなるのか?  
 
ふと、誰かが俺の肩をたたく  
長門であった  
 
「・・・大丈夫・・光をもたらすのは私達・・・」  
 
俺は放送室で待った  
まぁ長門がああいっているんだ  
信じてみるか  
 
それにしても・・・  
まったくハルヒに関わってから  
何をしても平凡では終わらない日常になっていまった  
それがいいことか、わるいことか  
いや、その前に問うべきことがあるだろう  
楽しいか、つまらないか  
それなら答えははっきりしている  
 
楽しい  
 
そうであるなら、俺自身がもっと楽しむべきだ  
事のはじまりは誰かに流されても、  
そのままでは終わらせない  
終わらせないぞ・・・  
 
その時だ  
机においた携帯が鋭く鳴る  
ハルヒからだ  
 
俺は深呼吸をして壁のスイッチに手を伸ばす  
光をもたらすか・・  
俺は一気にスイッチを押した  
 
無数の叫び声と何かが次々に倒れる音  
場内は一瞬で混乱の渦と化した  
 
俺は放送室から顔を出した  
ここから場内が一望できる  
 
長門は何かをつぶやきながら手をかざした  
「ザ・地獄沼」部分を囲んでいた  
ダンボール製の長い障壁が崩れる  
 
今、このお化け屋敷の全容が白日の下にさらされたのだ  
 
運動部有志のスタッフ諸君は突然のことに固まっている  
 
ハルヒの言っていた通りだ  
大半のスタッフは亡者の沼を囲んでいた  
そして通行している女性の体に手を伸ばしていたのだ  
 
朝比奈さんのたわわな乳房は背後からわしつかみにされていた  
太ももにも手が伸びている  
4人がかりの蹂躙だ  
もはやレイプだ  
朝比奈さんのウサ耳ははずれかかっている  
 
「この!変態!強姦魔!」  
 
ハルヒは叫んだ  
そのハルヒも張りのありそうな乳房も揉まれていた  
ハルヒは背後の男を膝うちで悶絶させる  
そのまま朝比奈さんに群がる男達を蹴り飛ばした  
 
「こら、有希から離れなさい!!」  
 
長門の体にも魔の手のびていた  
3人がかりで細身の裸体をなでまわされている  
長門は表情を変えず、何事かをつぶやく  
3人の坊主頭は体育館の壁まで吹き飛んだ  
 
視線を上に向ける  
 
2階の大窓を背に古泉はデジカメを操作していた  
ちゃんと証拠保全をしているのだ  
ひとしきりシャッターをきった後、カーテンを開ける  
こちらを見るとウインクをした  
 
「キョン、古泉君、敵が逃げるわ!  
 追撃戦よ、至急加勢なさい!!」  
 
ハルヒの声が体育館に響き渡る  
やれやれ  
俺は放送室を出ようとして、振り返る  
 
このおどろどろしい納涼BGMは合わないな  
こういう場面に合うのは・・  
 
俺は運動会用の「天国と地獄」に換えると  
放送室を後にした  
 
 
「ふふ・・作戦大成功よ  
 これで我々SOS団の力が他校にも誇示できたわ」  
 
秋の夕日を背に俺たちは帰路についた  
先頭のハルヒは得意げに腕を回す  
 
「キョンくん・・ありがとうございました  
 古泉くんも・・私とっても恐かったです・・」  
 
朝比奈さんの笑顔が夕日に染まる  
長門は軽く朝比奈さんをみると  
文化祭のパンフレットに目を落とした  
 
俺たちはつまみだされることなく  
立派にというか、無事に  
南高を後にした  
 
あの騒ぎの後、俺たちは校長室に呼ばれた  
 
古泉の証拠写真と例のカップルの証言  
それにハルヒが全校放送で呼びかけ&演説により  
お化け屋敷の実体があきらかになったのだ  
 
まぁ、クレームそのものは前からあったそうだ  
もっとも俺たちの心証そのものは良くなかったが  
 
お詫び料であろう図書券を渡されたが  
ハルヒの怒りは収まらず  
結局運動部有志全員の土下座で機嫌を直した  
 
今後は南高の運動部有志はSOS団の  
外郭部隊にするそうだ  
おい、大丈夫かよ・・  
 
帰り際、校長はさらに図書券を渡してきた  
口止め料分の上乗せてやつか  
できれば金券がいいが、国木田にでも売るか  
 
ふと、ハルヒはこちらを振り返った  
   
「あー、楽しかったわね  
 でも、やっぱりお化け屋敷としては全く張り合いがなかったわね、0点よ  
 ふふ・・いい案があるの  
 今からSOS団で肝試しをするわ」  
 
勘弁してくれ  
 
ハルヒはスタスタとかけると、道路の向こう側で手をあげる  
 
「ここからスタートよ  
 ここから雑木林に入るの  
 ちょうど鶴屋さんの家のほうにでるわ」  
 
おい、帰り道と反対じゃないか  
 
「ふふ、肝試しは夏とは限らないわ  
 お化けはオールシーズンよ!」  
 
ハルヒは俺の手をにぎった  
そういえばこの頃、腕を掴まないな、ハルヒは  
 
「ご、ごめんなさい、私急ぐので失礼しまぁす  
 今日はありがとうございました」  
 
朝比奈さんはぺこりと頭をさげる  
 
「僕もこれからバイトがあるので」  
 
古泉は軽く手をあげる  
 
「私は・・帰り道は・・あっち」  
 
長門は反対側を指差す  
 
俺の帰り道もあっちだ  
 
「えー、うん、でもいいわ  
 みんな今日はありがとうね  
 さぁ、キョン、あんたは強制よ!」  
 
なんだ、長門の占い通リじゃないか  
 
(「・・・私達はまもなく闇の空間に入る・・無数の手がせまる  
 ・・・私達はそこに・・光をもたらす・・・  
 でも・・あなたと涼宮ハルヒは・・闇に消える・・・」)  
 
お化け屋敷に入って、セクハラを受けて、それを暴いて  
それでまたハルヒと肝試しに暗い雑木林に入る  
 
物はいいようだな、全く  
それが占いってもんか  
 
林道は暗い  
木々の間からわずかに差した夕日もいつしか消えていた  
ときおり風が木々をゆする  
 
俺は照明代わりに携帯を開く  
妹から着信2件  
どうせしゃみせんの餌を買って来いだろ  
 
ハルヒはとめどなくしゃべっていた  
そんなににぎやかなら物の怪はでないぞ  
 
ふと、ハルヒの足が止まった  
俺も携帯から顔をあげ、足を止める  
 
「ねぇ・・キョン  
 思い出したわ、さっきの質問に答えてあげる」  
 
なんの話だ  
 
「決まってるじゃない  
 私がお化け屋敷の中で何をされたかよ  
 すごく知りたがったでしょう?」  
 
あぁ、それか  
今となってはどうでもいいが  
 
「その・・その・・つまり色々なことされたの  
 う、上手く言語化できないわ」  
 
朝比奈さんを見習え  
もっともムリにいわないでいいが  
 
「キョン・・協力しなさい!」  
 
ハルヒは顔をこわばらせたまま  
俺の手を握りもちあげる  
そのまま自分の胸に押し付けた  
俺は息を飲む  
 
「こんな感じよ・・  
 私てっきりキョンがよからぬことを考えたかと思って・・」  
 
「そんなことはしないぜ  
 後が恐いからな」  
 
まいった  
俺はともかく笑いながら手を引き戻そうとする  
 
「ま、待ちなさいよ 」  
 
ハルヒはそのままずいっと顔を接近させた  
 
「キョン・・今日はありがとうね・・いつもだけど・・」  
 
暗闇の中、ハルヒの表情はうっすらとしか見えない  
泣いているのか、怒っているのか  
 
そういえば長門はあのあとなんと言おうとしたのか  
畜生、聞いておけばよかったぜ  
この後の展開が分かりそうなのに  
 
まぁ、いいか  
どうせ何をやっても、ハルヒと一緒なら平凡には終わらない  
つまりは退屈だけはしないってことだ  
 
見つめ合った俺たちの影は重なり  
そのまま夜の闇に溶けた  
 

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