「はい、みくるちゃん罰ゲーム!」  
「ふぇぇ、涼宮さん強すぎですよぉ。」  
ピンポン球が床で虚しく回っている。スコアは0対11、朝比奈さんがスコンクで負けた。  
「少しは手加減してやれよハルヒ・・・」  
「何言ってるのバカキョン、勝負の世界は非情なのよ!さあみくるちゃん、罰ゲームボックスから引きなさいな!」  
長門が無表情にボックスを差し出す。それを引く朝比奈さんは対照的に怯えきった表情だ。端から見るとさながら処刑人と受刑者のようにみえる。  
俺たちは今温泉宿にいる。団長様が思いついて小泉が場所を用意したといういつものパターンで来たということ以外説明することはない。  
温泉には何の問題もなく先ほどから俺たちは暇つぶしに卓球を始めたというわけだ。  
ハルヒは勝負に負けた人間が引く用の罰ゲームボックスなるものを作ってきていた。暇な奴だ。  
この中の罰ゲームは酷い。俺もハルヒに負けたときに引かされたが腹筋なんて生やさしいもんじゃなかった。  
まあそんなわけで今朝比奈さんは怯えきっているわけだ。  
「ひぃぅう!」  
朝比奈さんは赤い紙をひいた。そのまま開かずに長門に紙を渡す。合格発表を親に読んで貰う受験生のようだ。まあこれもルールなのだが。  
「じゃあ有希、読み上げて!」  
「・・・くすぐりの刑。」  
・・・ちょっと待て。男二人がいるところでそれはいかがなものだろうか?少しみたいという誘惑に駆られたが俺は止めることにした。  
「おい、ハルヒ!俺とか小泉がいる前でそんなことしてたらダメだろ!」  
「何動揺してんのよバカキョン。もちろん部屋でやるに決まってるでしょ?ほら行くわよみくるちゃん!」  
「あぅーいやですぅー」  
可哀想な朝比奈さんはハルヒに引きずられていった。長門も影のようについていく。  
それにしても・・・  
「どうかしましたか?話は変わりますが僕と一勝負いかがです?」  
そうだな、この欲求不満は小泉をコテンパンにのして解消するとしよう。  
 
 
部屋には三人の女子がいる。それだけでは何の違和感もないが問題は彼女達のいる位置である。  
みくるの腕の関節部位にハルヒが座っている。そのためみくるは身動きがとれない。少し離れたソファーに長門がちょこんと座っている。  
「ふぇぇ、やっぱりやめてくださいよぅ・・・」  
「何を今更言ってんのよ。もうみくるちゃんはまな板の上の鯉も同然よ!」  
ただでさえビビっている人間を更に怯えさせて何がしたいのだろうか。  
「ところで、みくるちゃん。」  
こほんと咳払いをしてハルヒは言葉を続ける。  
「キョンのこと好き?」  
何という率直な質問だろうか。  
「はい、好きですよ?何か飄々としているようで意外と頼りがいがあるし何よりも優しくて。」  
みくるはもう少し好きのニュアンスの違いを感じるべきだった。  
「・・・ふうん、あっそ。なるほどね、少しは手を抜いてあげようかと思ったけど・・・そういう訳にもいかないわねやっぱり!」  
「ふぇぇ、涼宮さん目が怖いですよぉ・・・」  
「そんなことないわよ!大体最近・・・だったからそのお仕置きよ!」  
「理由が全然聞こえませぇん、うひゃう!」  
話は終わったとばかりにハルヒみくるのわきの下に指を差し込む。するとみくるの体がベッドの上で跳ねた。どうやら敏感な体質らしい。  
ハルヒは思った。これは面白いかもしれないわね、と。  
 
 
「まさか・・・古泉にここまで追い詰められるとは・・・」  
「はっはっは、さあ貴方のサーブですよ?」  
「ぬぅ・・・ここから俺の巻き返しが始まるのさ・・・」  
男子二人は健全だった。  
 
 
ハルヒはわきの下で指を踊らせ続ける。みくるは跳ね回る。長門はそれをじっとみている。シュールである。実に。  
「みくるちゃんはここが弱いのかしら?いや、こっち?」  
右手で深い部分をかき回し左手で手前を摘むようにくすぐり、ハルヒは首を傾げた。あまり人をくすぐったことがないハルヒにはくすぐり方がわからなかったのである。まあ敏感なみくるはそれでも十分反応が大きいのだが。  
「いやははは、やめてくださいー!くすぐったいですー」  
「もうみくるちゃん!ちゃんと答えなさいよ!」  
それは無理という物だろう。というか自分から弱点を好き好んで言う人間はいまい。  
「仕方ないわね・・・この辺でやめてあげるわ。」  
そういってハルヒは手を止めた。満足したのか飽きたのだろうか。そしてみくるの上からどいて扉の方へ歩いていく。  
「汗かいちゃったしもう一回温泉入ってくるわね。みくるちゃんと有希もどう?」  
「はぁはぁ・・・動けませんよぅ」  
「入らない。」  
「わかったわ。じゃあねー」  
ハルヒが外に出た瞬間長門は風のように動きみくるに跨った。  
「先ほどの言葉の真意を聞きたい。」  
「えっ?何の話・・・」  
「とぼけるなら・・・」  
そう言いながら長門は指を脇に差し込んだ。  
「尋問させてもらう。」  
「ふぇぇ、意味が分かりませんよぅ・・・!」  
 
 
「あっ、まだ卓球やってたの?」  
「ああ、古泉が強くてな・・・」  
「そうなの?なら一勝負しない古泉君?」  
「ふふ、負けませんよー?」  
夜はまだまだ長くなりそうだ。  
 
 

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