休み時間――教室の中での何気ない会話で、
「あ、僕も見てたよそれ。いくら間にあわなかったからってボートはないよね」
「確かにないよな。っと、ちょっとトイレに行ってくる」
そう言ってキョンが席を立つのを、佐々木さんは静かに目で追っていた。
僕とキョンと佐々木さん。
この三人が集まって何かを話すとき、彼女は殆ど口を開かない。
彼女はただその場に居て、僕とキョンが話すのをじっと見ているだけだった。
それでも、佐々木さんは楽しそうなんだけど……
「ねえ、もしかして僕が邪魔になってる?」
キョンの姿が廊下に消えたのを見て、僕は彼女にそう聞いてみた。
すると彼女は不思議そうな顔をして、
「……国木田君、君がどうしてそう思うのかが気になるんだが……。もしかして、
僕とキョンが付き合っているから、何て思っているのかな?」
そう、僕に聞き返してきたんだ。
それって本気なの?
「どうみたって恋人同士だと思うよ? 何時も一緒に居て、凄く仲がいいしさ」
きっと、クラス中のみんながそう思っているはずなのに彼女は首を横に振った。
「国木田君には悪いが、それは勘違いだと言わざるをえないね。申し訳ないが、
僕はキョンと恋愛関係には無い。ただの友人だよ」
はっきりと言い切る佐々木さんの言葉には、恥ずかしいから誤魔化すとかそん
な感じはなくって……まるで、ただ事実を言っているだけみたいだった。
「国木田君とキョン。君達2人の会話を聞く事は、僕にとってとても有意義で楽
しみな時間なんだ。だから、僕の事はどうか気にしないで欲しい」
そう言った彼女の視線が僕から外れて、廊下の方へと向けられる。
「ただいま」
そこには戻ってきたキョンの姿があって……ん〜やっぱり、僕は邪魔者なんじ
ゃないかなって僕は思ったんだ。
「今日、国木田君に僕がキョンと恋人同士に見えると言われたよ」
――前から思ってたんだが、この制服ってボタンが多いよな。
自分へと向けられた声を無視したまま、俺は佐々木の身体を包む制服を脱がし
ていく。
服を脱がして裸にし、押し倒す。
何度も何度も繰り返された手順に、もう戸惑う事もない。
「面白いよね……何でそう考えるのかな? 仲良く話すだけなら、君と国木田君
も同じ条件に該当するとは思うんだけど。どうかな?」
本気でそう思っているのか、不思議そうな顔で佐々木は俺を見ている。
「さあな。佐々木、腰を上げろ」
返事のついでに出した指示に素直に従い、佐々木は机に座ったまま腰を上げた。
やれやれ……自分で脱いでくれれば楽なんだけどな。
佐々木の腰から下を覆っていたスカートを脱がして椅子の上に掛けた俺は、い
つもの様に机の上に彼女を押し倒し――そうしないと挿れにくいんだ――躊躇い
無く下着を無遠慮に横にずらした。
……ん。
「なあ佐々木、今日はいつもより」
「いつもより? なんだい」
机の上に仰向けに寝たまま、俺を見るいつもの笑顔。
「濡れてるぞ」
一度でいいから、この顔を恥ずかしそうに変えてみたいのだが、
「そうか。では、手間が省けたね」
俺のその目論見は一度も成功した事が無い。
まあ……いいか。別に恋人って訳じゃないんだし。
俺は潤んだそこへ自分の物をあてがい、特に何も考えないまま最奥まで一気に
貫いた。これまでに何度も通ってきたその場所は抵抗も無く全てを飲み込み、手
荒な行為を歓迎するように締め付けを繰り返してくる。
「おや、今日はいつもより君を大きく感じるんだが……何かあったのかい?」
机に肘をついて上体を起こし、佐々木は腰を揺らしながら嬉しそうに微笑む。
その顔は、初めて佐々木と繋がった日とまるで変わっていなかった。
「君も興味があり、僕も恥ずかしながら興味がある。ならば、それを試してみる
事に、何か問題があるのかな?」
放課後の教室、佐々木は全然恥ずかしそうに見えない顔でそう言って俺に――
抱かれたのか、抱いたのか。どっちなんだろうな。
好奇心にしろ何にしろ……何故、佐々木が俺を選んだのか?
何度聞いても、その理由を佐々木は答えない。
「君が今、こうして僕の体の中に入っている理由を理性的に聞かれても困るだろ
う? 愛だ恋だと言葉にしても、霊長類なんて気取った所で僕達は所詮哺乳類で
動物だ。綺麗な言葉で飾るより、そうやって腰を振っている方が僕は好きだね」
お互いに初めてだったのに、佐々木は辛そうな顔ひとつせず俺の乱暴な動きを
全て受け入れた。
ものの5分も経たずに果てた俺は、佐々木の言う通り単なる動物になって何度
も求め続け――そして今も、佐々木を求めている。
教室の鍵のコピーをどこからともなく持ってきたのも、用務員の巡回時間を調
べてきたのも佐々木だった。
佐々木によれば、お互いの部屋で両親に隠れて行為に及ぶ事の危険性と比べれ
ばどうという事はなかったらしんだが……どっちもどっちだと思うぞ?
「何を考えているのかな?」
俺に突かれながら、佐々木は楽しそうな顔で聞いてくる。
……この余裕な顔を見てると、どうも主導権が握れ切れないな。
「昔の事を思い出してた」
「昔?」
「ああ、お前と初めてした時の事さ」
そう言いながら、俺は佐々木の手を掴んで身体を抱き起こした。
されるがままになっている佐々木の身体をそのまま抱き上げ、床に立たせて両
手を机の上に自分にお尻を向けさせる。
……いつ見ても壮観な眺めだな。
俺に突き出された佐々木の白く小ぶりなお尻の下では、中学生にしては淫靡過
ぎる女性の部分が妖しくうねっていた。
そして、その奥がどれ程男を悦ばせるのかを俺は知っている。
「あの時の事……ね。男は処女を抱きたがるというのはやはり本当なのかい?」
「知らん」
返答も適当に、再び後背位で佐々木の中へ入ってゆっくりと腰を前後させる。
吸い付くような佐々木の中の感触を楽しんでいると、その内壁が軽く震動を始
めた。
「……今日は随分早いな」
言いながら腰を振りはじめると、その震動はどんどん強くなっていき自分もま
た昂ぶっていくのを感じる。
もう、言葉は要らない。
ただ射精を導く為、小さな腰を乱暴に掴んで俺は激しく佐々木の中を暴れまわ
った。
叩きつけた腰が、佐々木のお尻にぶつかる音が放課後の教室に響く中、俺の限
界に合わせるように強い収縮が俺を追いたて――そのまま、俺は佐々木の中へと
欲望を吐き出した。
快楽が引くにつれて襲ってくる疲労感。
躊躇う事無く目の前にある背中に覆いかぶさった俺に、
「……くっくっく……」
何故か佐々木は笑った。
「どうかしたのか?」
「君がね、そうして僕に覆いかぶさっていると……自分が肉食動物に捕食された
草食動物の気持ちになるんだよ。それが少しおかしくってね」
佐々木の笑う動きが、繋がったままの身体に伝わってくる。
「なんだそりゃ?」
「肉体の構造上、僕は君を性的に食べる事はできないし、こうなってしまえば君
の欲求が尽きるまで逃げる事もできない。的外れな例えじゃないと思うんだが」
なるほどね。
「言ってる事はわかるが、セックスの最中に言う言葉じゃないな」
ため息混じりに言った俺の言葉に、
「これは失礼した。このまま続けるかい? それとも口でしようか」
佐々木はそう、提案してくる。
じゃあ、逃げられない草食動物の顔ってのを見させてもらおうか。
「……ちょっと疲れたし、口でしてくれ」
「わかった」
消しゴムを貸してくれ、とでも聞かれたみたいにあっさりと答え、佐々木は腰
を前に出して俺の物を自分の中から抜き出した。
まだ硬度を保ったままのそれが、佐々木のお尻を撫で上げながら外気に晒され
る。お互いの愛液が混じり、淫靡な匂いがする液体に塗れた俺の物を――何の抵
抗も無く、佐々木は口に含んでいった。
狭い口と喉で締め付けられながら、絶え間なく蠢く舌に一度途切れた快楽が再
び押し寄せてくる。
……相変わらず上手いな。
立ったままの俺の物を、佐々木は膝立ちで咥えて顔を前後させている。
その頭を掴み、喉の奥まで突き入れても佐々木はそれをあっさりと受け入れる
のだった。
どう考えても辛くないはずはないと思うんだが――自分でそう思っているのな
らしなければいいって事はわかってるんだけどな。
「なあ、佐々木」
名前を呼ばれ、俺の物への奉仕を止めないまま顔を上げる佐々木。
「国木田から見て、俺とお前が恋人同士に見えるんなら……」
だったら、恋人になっちまってもいいんじゃないか? そう、俺は思った。
恋人になったって、他人から見た関係の名前が変わるだけで今の俺達に何か変
化がある訳じゃないだろうし。
……ただ俺を満足させようと動く佐々木は、じっと俺の目を見て続く言葉を待
っている。
なあ、佐々木。
お前が国木田の言った事を俺に伝えたのは、お前自身もそれを望んでるって事
じゃないのか?
ただ男が欲しいだけなら、佐々木程いい女ならいくらでも手に入れられるだろ
うさ。でも、佐々木が自分からセックスを望んできたのは最初の時だけで、後は
ただ俺が望むたびにそれに応じてくれるだけ。
何も望まず、ただ友達の様に俺の傍に居て……全てを受け入れてくれるだけ。
今も、俺の性欲に応える為だけに奉仕を止めないでいる佐々木に、俺は――
「ま……いいか。いきそうだから中に挿れさせてくれ」
言おうとした言葉が、どれも佐々木を苦しめるだけのような気がして、ただの
動物に戻った。
――再び俺は後背位で佐々木の中へと入り、佐々木の腰を掴んで乱暴に自分を
擦り付けていく。
佐々木の中は十分に潤っていたが、繰り返される行為に痛々しく赤く腫れてし
まっていた。
被虐的なその光景は俺を引き止める要因にはならず、むしろ欲望を駆り立てる
だけでしかない。
これまでに佐々木の穴という穴は経験してきたのに、いつまで経っても満たさ
れない感情があるのがわかる。
そのせいなのか、たまに俺は佐々木を傷つけてみたくなる事があるんだ――こ
れが独占欲って奴なのか? 少し違う気もするが。
聞いた事は無いが、多分俺がそう望めば佐々木は暴力すら受け入れてしまうん
だろう。
無言のまま机に突っ伏し、佐々木はお尻を上げたままの姿勢で俺の動きを受け
入れている。
……この小さなお尻を叩いてたら、どうなるんだろう?
俺の両手に押さえつけられ、腰を前後させるたびに俺にぶつかる佐々木の白い
お尻から片手を離して軽く振りかぶってみた。
前を向いたままの佐々木には、俺の動きは見えていないだろう。
佐々木の狼狽した顔が見てみたい、怒った顔でもいい。
たったそれだけの思いつきの為に、俺は手加減無しでその手を振り下ろした。
掌に痺れる様な衝撃が伝わると同時、破裂音の様な音が教室に響く。
それに伴い、佐々木の中が強く俺の物を締め付けてきた。
一度腰の動きを止めて、佐々木の反応を見ていたんだが……佐々木はそれまで
と変わらずただ机に突っ伏したままでいる。
「佐々木」
俺に呼ばれて、ようやく佐々木は後ろに居る俺に振り向く。
そこにあったのは
「……どうかしたのかい?」
いつもと変わらない、緩い笑みを浮かべた佐々木の顔。
その顔は、痛がっても怒っても……悦んでもいない。
これは叩かれるのが好きって感じじゃないな。
「すまん、つい叩きたくなった」
我ながらどうかと思うその本音に、
「君がそうしたいのなら、僕に謝る必要も、遠慮する必要もないと思うね」
佐々木はそう言って再び前を向き、俺を誘うように締め付けてくるのだった。
激しい行為によってもたらされた下腹部に感じる鈍痛、そして奥深くに何度も
吐き出された熱い精液の感触と、まだ僕の中にある少し柔らかくなった彼自身。
今日はそれに加え、何度となく叩かれた結果腫れあがってしまったお尻の感覚
が僕を包んでいる。
いつものように何度も僕の中に注ぎ込んだ後、彼は僕の上に重なったまま眠っ
てしまった。
彼と机に挟まれたままでいる僕の上で、彼は今小さな寝息を立てている。
塾の時間まで……うん、まだ少し余裕がある。
僕は彼を起こさないようにと気をつけつつ、背中越しに伝わる彼の鼓動にまど
ろんでいた。
――恋人同士……か。
国木田君の言うその関係に対して、僕は特に感想を持っていない。
恋愛感情なんてただの精神病でしかないとは思うが、恋愛関係になってお互い
に依存しあう行為は種を保存する上でそれなりに有意義だと思うからね。
でも、やはりそれは僕とキョンとの関係には当てはまらない気がする。
何故なら……僕は彼に愛して欲しいと思っていないのだから。
相手を慈しみ、その一挙一動に心動かされる様な不安定な精神状態で僕を見て
欲しくはないね。人間が言葉で定義した感情と、現実のそれにはあまりにも大き
な隔たりがある。
だから……僕は本能のまま、彼に求められる事に至上の悦びを感じてしまうん
だと思う。
言葉よりもっと前にある、原始的な欲求に。
この思いを、僕は彼にしか抱いていない。
その理由は分からないが……もしかすると、これが愛と呼ばれる物なのだろう
か? 愛と呼ぶには、あまりに歪な関係だけれど。
「……ん……んん」
小さく彼が声を出し、身体を震わせる。
どうやら、もうすぐ目を覚ましてしまうようだね――さて、今日はこのまま塾
に行けるか……それともあと何回か求められるのか。
寝起きの悪い彼が動き出すのを、僕は静かに待っていた。
昔からキョンは変な女が好きだからねぇ 〜終わり〜