あたしだって……そりゃあ健康な若い女なんだし、身体をもてあましたりもするわ。  
 眠れない夜に、つい指を使ってしまう日だってあるわよ。  
 でも……いくらなんでも、これはもてあまし過ぎだと思わない?  
 目の前で繰り広げられる情事から視線を逸らして――その端で実はしっかり見つめ  
ながら――あたしはわざと大きく溜息をついた。  
 安っぽい壁紙が貼られた壁と、部屋の中央に置かれた無駄に大きなベット。  
 そ、どうやらここはラブホテルみたい。  
 部屋の中に居るのはあたしだけじゃなくて……すぐ傍に居るあたしにまるで気がつ  
きもせず、ベットの上で一組の男女が絡み合っているわ。  
 理由はわからないけど、何も音は聞こえないのよね――聞こえなくてよかったけど。  
 激しく求め合ってる一人はあたしのみくるちゃんで……その相手は何故かキョン。  
 誰だってわかるわよね、これが夢だって事。  
 みくるちゃんがキョンなんかとセ……セックスするなんて、有希が突然アニソンを  
歌いだすくらいにありえないわ。  
 ここで問題なのは……なんであたしがこんな夢を見ているか? って事よ。  
 こんな夢を見てるのがキョンならわかるわ。どうせ童貞だろうし、みくるちゃんの  
体を見てつい妄想するのは若い男子には仕方の無い事でしょ。  
 でも、あたしは違う――はず。  
 理性的にこの夢が何なのか考えようとする頭とは裏腹に、視線の端で行為を続ける  
2人を見ていたあたしの体は……恥ずかしいくらいに反応していた。  
 ……あんなに突き上げられて、痛くないのかな?  
 みくるちゃんは今、全裸でキョンの上になって跳ねている。その顔には歓喜が浮か  
んでいて――声は聞こえないんだけど、それでも――凄く、気持ち良さそう。  
 2人が繋がった部分からは混ざり合った体液がつたい、妖しく光っている。それま  
で見ないようにしてたけど……ちょっとした好奇心よ? その……みくるちゃんの中  
へ入っているキョンの物は……。  
「あ、あんなのが入っちゃってるの?!」  
 思わず声が漏れて慌てて口を押さえるあたしを無視して――こっちの声も聞こえて  
ないみたい――2人はクライマックスへと向かって激しく求め合っていく。  
 ……ちょ、ちょっと。そろそろ危ないんじゃない?   
 経験があるわけじゃないけど、キョンの顔は苦しそうで切なそうに変わってきてい  
て……そ、そのまま出しちゃうつもり?!  
 焦るあたしの目の前でみくるちゃんは大きく口を開けて体を震わせ……結局2人は  
最後まで繋がったままだった。  
   
   
「あの、お話ってなんですか……」  
 テーブルの向かいに座ったみくるちゃんは、不安そうにしていて  
「まあまあ、焦らないの。まずはお昼を食べましょ?」  
 あたしは疑われない様に笑顔を作ってそれに応対した。  
「はぁ……」  
 昼休み、何気ない振りで「今日は一緒にお昼を食べましょ! 学食に一人で来て!  
絶対にキョンには秘密で!」とメールを送り、あたしは学食にみくるちゃんを呼び出  
す事に成功したわ。  
 
 もそもそとパンを食べるみくるちゃんの様子は……怪しいわね。なんていうか、絶  
対人には言えない秘密があるって感じだわ。  
 特に根拠はないけど、女の感よ。  
「ねぇ、みくるちゃん」  
「はい」  
「あたし達って友達よね?」  
「は、はい」  
 ……怪しい……みくるちゃん、急に脅え始めたわ。  
「あたしね? 友達の間には秘密があったらいけないと思うの。みくるちゃんはどう  
思う?」  
「え、ああうあえああ」  
 ん〜状況証拠としてはこれだけでもばっちり有罪なんだけど……ここは自白が欲し  
いわね、やっぱり。  
 あたしはテーブルの上に身を乗り出してみくるちゃんに迫り、逃がさないように肩  
を掴んでから問い正した。  
「単刀直入に聞くわ。……みくるちゃん、キョンと……した?」  
「ふぇ?」  
 ……あ、あれ?  
 ぽかんと口を開けて固まるみくるちゃんは、どう見ても演技をしてるって感じじゃ  
なくって……。  
「キョン君と……え、ええ? 涼宮さん?!」  
 ようやく意味がわかったのか顔を赤くするみくるちゃんは……ごめん、これは白ね。  
   
   
 あーもう! キョンのせいで恥をかいたじゃないの! みくるちゃんにあんな事を  
聞くなんて、あたしもどうかしてたわ。  
 結局、夢は夢で夢以上でも夢以下でもなく夢なの! そう結論付けたあたしに……  
これって嫌味?  
 その日の夜、あたしはまたエッチな夢を見たのよ。  
 今度はどうやら部室の中みたいね、あたしはいつもの自分の席に座ってて、窓際の  
いつもは有希が居る席にキョンが座ってた。そして、キョンの前には何故か有希は跪  
いてて……えっと……その。  
 み、見たままで言うわ。  
 有希がキョンの……えっと、あれを舐めてるのよ。あれを。  
 無理やりさせてるって感じじゃなくて、有希が自分からしてるって言えばいいのか  
しら。  
 有希の小さな舌が這いまわるたびにキョンは……そんなに気持ちいいの? 歯を食  
いしばって我慢してるみたい。  
 みくるちゃんの時よりもはっきり見えるキョンのあれは、思ったより……これって  
あたしでも口に入りきらないかも。  
 自分の指をキョンのあれに見立てて口元に持っていくと……ちょっと大きさを確か  
めてみるだけよ、ちょっとだけ。  
 不思議なくらい興奮していたあたしは、自分の指をそっと舐めてみた。  
 
 それは自分の体の一部だってわかってる、わかってるのよ? ……でも、なんでこ  
んなに……欲しくなるのよ。  
 有希の動きに合わせて舌を動かしていくと、キョンの顔がみくるちゃんの時みたい  
に切なくなっていく。  
 だ、出すの? そのまま口に出しちゃうの?  
 まるで自分がキョンにしている様な錯覚の中、いつの間にか口の中に入っていた指  
先を、あたしは激しく舐め続けていた。  
 そしてキョンが背をそらせた瞬間、有希の目が大きく開いて……出してっ!  
 勢いよく突き入れた指先は、喉の奥に触れて不快な感覚を生んだはずなのに……あ  
たしはその感触で……え、えっと……。  
   
   
 始業時間の2時間前、誰もまだ学校に来ていない早朝にあたしは部室に来ていた。  
 当然だけど無人の部室に来ていたあたしの目的は、窓際の席。  
 あの夢の中で、キョンは椅子に座って結構激しく動いてたわ。  
 もしもあれが現実なら、床に何か傷が残ってる……ってそう、考えたんだけど……  
無いわね。  
 床に這って探してみたけど、有希の定位置の周りにはそれらしい傷跡は何もなかっ  
たわ。  
 後から直した跡も無いし……やっぱり、あれはただの夢?  
 普段の癖で口元に指を当てて考えていると……えっと。  
 誰も回りに居ないのを確認して、そっと指先を唇に近づけていく。  
 薄い唇に指先が触れた瞬間、背後からそっと部室の扉を開ける音が聞こえてきた。  
「だ、だ、だ」  
 振り向いた先に居たのは……有希?  
「……おはよう」  
「お、おはよっ!」  
 立ち止まったまま二三度瞬きをした後、有希はゆっくりとあたしの居る自分の定位  
置に来て、パイプ椅子の上に座った。  
 鞄の中から本を取り出し、目の前に居るあたしを気にしないで読書を始める有希に  
は何の違和感も感じられ無い。  
 何を馬鹿な事を考えてたのかしら……この有希がそんな事をするはずないじゃない。  
 急に恥ずかしくなってきたあたしは  
「じゃあ! また放課後にね!」  
 そう言い残し、有希を残したまま部室を後にした。  
   
   
 3日連続とか……はぁ……もう溜息しか出ないわよ。  
 今度の夢の場所は野外で……あ、ここって先週行った紅葉狩りの山?  
 見覚えのある赤く色付いた山の中、あたしが歩いている歩道の先に小さな休憩所の  
様な場所が見えてきた。  
 
 木製のテーブルと、その回りに置かれたいくつかの椅子。  
 本来の用途を無視してテーブルの上に座っているのは半裸の鶴屋さんで、立ったま  
ま彼女と繋がっているのは……やっぱりキョンだった。  
 ……あたしって、こんなに欲求不満だったのね。  
 落ち込むのも無理はないでしょ、こんな夢ばっかりみてるんだし……。  
 立っているのもなんだし、椅子の1つに座ったあたしは2人の行為をじっと見てい  
た。  
 どうせあたしは見えなくて声も聞かれないんだからいいでしょ、どこで見ても……  
……凄い、こんなになっちゃうんだ。  
 1つ年上だからって訳じゃないけど、普段から笑顔にも余裕がある鶴屋さんが、今  
はキョンの動き一つ一つに激しく悶えてる。  
 その顔には余裕なんかなくって、切なそうで、気持ち良さそうで……。  
 テーブルの死角からそっと伸ばした手が、自然と自分の服の中へと進んでいくのを  
あたしは止められなかった。  
 これは……そう、欲求不満なんだから解消すればいいの。その為なのよ。触るだけ  
なら、別に問題ないわ。  
 そう自分に言って恥ずかしさを誤魔化しながら、そっとスリットの上に指をあてて  
みると……う、嘘?  
 そこはすでに、下着の上まで濡れてしまっていた。  
 性的な映像を見てるんだもん、当たり……ま……うう……もう。  
 下着の上に当てたままの指は切なく揺れていて、その小さな動きがあたしの体に何  
度も小さな波を起こしていく。  
 その快楽に耐えていたあたしの目の前で、鶴屋さんの胸にキョンがいきなり噛み付  
いていった。  
 鶴屋さんの大きな胸に、キョンの歯が食い込む。  
 そのたびに鶴屋さんはのけぞって……も、もうだめぇ!  
 あたしは……キョンの動きにあわせて自分の指を動かしてしまった。  
 一度動き始めた指はもう止まらなくって、空いていたもう片方の手はより強い快楽  
を求めて自分の胸へと辿り着く。  
 キョンが鶴屋さんの乳首に噛み付くのにあわせて、痛いほど尖っていた自分の乳首  
を抓ると弾けるような悦楽が待っていた。  
 噛んでぇ……キョン、噛んでぇ?  
 まるで自分が抱かれているみたいな感覚に、あたしは声をあげてキョンを求めてい  
た。  
 でも、やっぱりあたしの声はキョンには届かないみたいで、キョンは鶴屋さんの奥  
へ奥へと腰を振り続けている。  
 鶴屋さん……どんなに気持ちいいんだろう? あんな風に噛まれて、奥まで乱暴に  
突かれて……。  
 切なそうな鶴屋さんを見ながら自分を愛撫していると、まるで自分がキョンに抱か  
れているみたいだった。  
 ね、ねえキョン。あたしの中って気持ちいい? いきそうなの?  
 
 うわ言の様に呟きながら、あたしは指を動かす。  
 だ、出していいよ。……ねえ、出して。出して? あたしもいきそうなの。ねえ?  
 切なげなキョンの顔に煽られて、あたしも一気に昂ぶっていく。  
 それまで歯を食いしばって腰を振っていたキョンが、突然鶴屋さん中から抜け出し  
て――キョンっ!  
 キョンのあれから精液が噴出した瞬間、あたしの体は信じられないくらいに痙攣し  
ていた。  
   
   
 放課後の部室、あたしはたまにしかこない鶴屋さんを見つけて   
「え? スリーサイズ?」  
 そうそう。今度の映画撮影にどうしても必要なのよ〜。  
 両手を合わせてお願いすると、  
「ハルにゃんにお願いされちゃったら断われないねっ! いいよ〜バストは大きめに  
計っちゃってちょうだいっ!」  
 鶴屋さんは両腕を広げて計測をOKしてくれたわ。  
 なんか後ろで「ここには男子生徒も居るんだが」とか聞こえた様な気がするけど無  
視無視。  
 ――もしかしたら、みくるちゃんは演技の天才なのかもしれないし、有希は日曜大  
工が得意で床を補修してしまったかもしれない。  
 でも、鶴屋さんの胸だけは嘘をつけないはずよ! それに、キョンと鶴屋さんはあ  
の次の週に2人っきりでまた紅葉狩りをしてるの。  
 これは怪しいわ……今度こそきっと何かある。  
 メジャーを構えたあたしは、さっそく鶴屋さんの体を計り始めたわ。  
 足のサイズ、股下、ウエスト……目的の場所から遠い所から念入りに調べていき、  
そしてついに、バストを計る時がやって来た。  
「いやん……どきどきするよぅ」  
 嬉しそうに笑ってる鶴屋さんに適当な笑顔で誤魔化しつつ、あたしはあえて背中側  
からメジャーを伸ばした。  
「くっ苦しい、胸が苦しいにょろ! もっと緩くていいんじゃないかっかな?!」  
 誤解されそうな声を上げ、下を向いた鶴屋さんの首元を覗いてみると……そこには  
真っ白な彼女の肌があるだけだった。  
 運良くブラジャーの内側まで見る事ができたけど、そこにはキョンが噛み付いた跡  
は1つも見つからない。  
 って事は……あれは全部……あたしの夢って事?  
「ハルにゃ〜んだめぇ〜もっと強くっ! ……あ、あれ? ハルにゃん?」  
 その場に座り込んだあたしを、鶴屋さんは不思議そうな顔で見ていた。  
   
   
 その日の夜、あたしはベットの中で寝付けないでいた。  
 
 だって……眠ってしまえば、きっとまたあの夢を見る事になる。  
 キョンが、誰かとエッチする夢を。  
 はぁ……溜息を抱き枕に押し付けていると、あたしの中に疑問が浮かんできた。  
 ……何で、夢の中でキョンが抱いてるのはあたしじゃないんだろう。  
 エッチな夢を見て、確かにあたしは興奮していたわ。  
 それは誤魔化せない事実だけど……それなら、キョンの相手があたしでもいいじゃ  
ない。  
 あたしには寝取られ好きとか、そんな特異な属性とか無いんだし。  
 ――そんな馬鹿な事を考えてたから……あんな夢を見る事になったのよ。きっと。  
   
   
 ベットで眠っていたはずなのにあたしが目を覚ました時、そこは学校の教室……ま  
たあの夢ね。どうせ。  
 どうやらあたしは机に突っ伏しているらしくて、周りには誰も居ないみたい。  
 薄暗い教室の中、遠くに見える教室の入口と無人の教室。  
 薄く開いた目から見えるいつもの見慣れた視界を見ていると……視界の端に誰かの  
足が見えて、こっちへ歩いて来る足音が聞こえて…………き、聞こえてきたぁ?  
 ここ数日見てきた夢の中では、何の音も聞こえなかったのに。  
 何で? これっていつもの夢じゃないの?  
 驚いて体を起こそうとするんだけど、何故か体はあたしの意思を無視して眠り続け  
ている。  
 驚いていたあたしの視界の端に見えてきたのは……あ、この足って。  
「まったく……部室に来ないと思えば、まさかこんな所で寝てるとはな」  
 溜息と一緒に吐き出された聞きなれたその声を聞いて、あたしは……少しだけ、ほ  
んの少しだけど……期待していた。  
「おい、起きろ。みんなもう帰っちまったし、下校時間はとっくに過ぎてるぞ?」  
 軽くあたしを揺さぶるキョンの手は、あたしに起きる気配が無いのを感じてやがて  
離れていく。  
「勘弁してくれよ……――お〜い! ハルヒ〜!」  
 耳元で出された大声に、あたしは聞こえない振りをしてじっとしていた。  
 そんな事しなくても動けなかったと思うんだけど……その、えっと。万一って事も  
あるでしょ?  
「こいつ、本気で寝てやがるな。……やれやれ」  
 あたしの前の席、キョンは自分の席に座ってじっとあたしを見ている。  
 しばらく無言の時間が続いた後、キョンの手がそっとあたしの髪の毛を撫で始めた。  
 まるで、コタツ布団にもたれて寝ている猫の背中を撫でる様なゆっくりとした手つ  
きで、優しく髪を撫で続けてくれる。  
 それは気持ちよかったんだけど……今のあたしには物足りなくて、つい口から漏れ  
てしまった吐息は  
「……ぅん……」  
 せっかく撫でてくれていたキョンの手を止めてしまった。  
 も、もう! 何でこんな時だけ声がでるのよっ! しかもなに? 今の物欲しそう  
な声? まるで…………えっと。  
 数秒後。  
 
 混乱しきっていたあたしの髪の毛を、またキョンが撫で始めた。  
 今度はさっきとは少し違って……少しだけ積極的に。  
 指先が髪の中へと潜り、頭皮に沿って首筋へと滑り降りてくる。  
 敏感になっていた肌にキョンの指が触れるたび、あたしは今度こそ声が出ないよう  
にとじっと堪えていた。  
 でも、キョンの指先が首筋から襟元へと伸びて来た時、あたしはどうしても我慢で  
きなくって……。  
「……ぁあっ」  
 また、声をあげてしまったの。  
 馬鹿っ! 思わずそう自分を責めていたら……キョンの手は止まる事無く胸元へと  
進んできた。  
 な、なんで? 絶対、あたしの声は聞こえてたはずなのに……。  
 制服の襟から差し込まれたその手は、あたしのブラジャーの谷間へと進み……あっ  
さりとフロントにあったホックを外してしまった。  
 こ、これって……つまり……その気って事?  
 急な展開に焦るあたしの耳元で、キョンは少し楽しそうに  
「ハルヒ、お前起きてるだろ?」  
 そう囁いた。  
 ど、どどどうしよう?  
 何て答えればいいのかわからないでいると、キョンはあたしの胸元から手を抜いて  
そのまま立ち上がって……お、終わり? ここで?!  
 ちょっとほっとしたけど……今更起きる事もできないし。  
 どうすればいいのかわからなくて、机に突っ伏したままでいたあたしを暫く見てい  
たキョンは……やがて自分の椅子を持って歩き始めた。  
 あたしの横を通り過ぎて行き、背後に椅子を置いてキョンは座る。  
 椅子が床を擦る音に続いて、あたしの背中にキョンの体が覆いかぶさってきた。  
 これからどうなってしまうんだろうって不安と……キョンに何をされるのかなって  
好奇心に揺れていた時、  
「ハルヒ、止めてほしかったら声を出せ。……いいな?」  
 背後から聞こえたその声に、あたしが返事をしなかったのは声を出したくても出せ  
ないから……だけじゃなかった。  
 暫くの沈黙の後、キョンの両手があたしの制服の下から差し込まれてきたの。  
 中に着ていたキャミソールの内側へ直接入ってきた手が、ゆっくりとお腹を優しく  
撫でながら上へと上がっていく。  
 気付かれないように机の上ある自分の腕に口を当て、洩れそうになる声を押し殺す。  
 その時、あたしは自分が動けるようになっていた事に気付いたのに……逃げようと  
か、止めさせようなんて全然考えなかった。  
 キョンの手が、ホックを外されたブラジャーを避けながらあたしの両方の胸を覆う  
様に包んで、掌で感触を楽しむみたいに触れてきた。それだけでも十分気持ちよかっ  
たのに、最初は優しかった手の動きが、少しずつ荒く乱暴になっていく。  
 どんどん強くなる快感に、あたしはじっと目を閉じて耐えていた。  
 だ……だめ、また声が出ちゃう。  
 動けず声も出せない状況に、あたしはいつの間にか戸惑うよりも興奮していた。  
 やがて、あたしが胸全体からの愛撫に物足りなさを感じてきた頃、それをわかって  
いるみたいにキョンの動きが変わった。  
 
 面から点。  
 キョンの指先が、あたしの乳首をそっと摘む。  
 確かにそれは気持ちよかったんだけど……違うの、鶴谷さんにしてたみたいに、も  
っと強く……してもいいのに。  
 まるであたしの願望に答えるみたいなタイミングで、キョンの指先があたしの乳首  
を急に抓りあげた。  
 押し潰された乳首を、キョンは更に指で擦りはじめる。  
 キョンの爪が胸に深く食い込んだ時、あまりの気持ちよさに我慢しきれなくなった  
あたしは  
「ぁ……はぁっ!」  
 つい、大きな声を出してしまって……キョンの手は達しそうだったあたしを残して  
止まってしまった。  
 どうしよう……こ、今度こそ終わ……り……?  
 激しい愛撫で敏感になったあたしの身体は、急に途絶えた快感を求めて切なく疼い  
ている。  
 ……お願いしたら、続けてくれるかな……で、でもそんなエッチな事言えるはずな  
いじゃない!  
 恥ずかしさと快楽への好奇心で揺れる中、  
「ハルヒ」  
 あたしを呼ぶ、キョンの声が聞こえた。  
 返事をするかわりにじっと耳をすませていると……それまで胸に触れていたキョン  
の片手が、ゆっくりと下がってくる。  
 お腹を撫で、スカートに辿りついた手はあたしのふとももの間で止まった。  
 閉じられた足を撫でながら、  
「足、開いてくれ」  
 寝たふりを続けているあたしへキョンが楽しそうに言ったその言葉が――夢で見て  
きたみんなの顔を思い出させて――あたしの中の羞恥心を消してしまった。  
 もう、自分を止める物は何も無い。  
 囁きの先にある行為を期待して、あたしは素直に足を開いた。  
 あたしが本当は起きている事も、キョンの愛撫に感じてる事も……もっとして欲し  
い事まで何もかも知られる事になってもいいの。  
 今はただ、キョンの指に溺れていたい。  
 キョンの指がふとももから下りてショーツの端をなぞって止まる。そこから先へと  
進んでくれない指が切なくてあたしは少しだけ腰をくねらせてみた。  
 触れる場所が変わり、強い快楽が伝わってくる。でもそれは一時的すぎて、また切  
なさが押し寄せてくる。  
 ねぇ……何でそれ以上触ってくれないの?  
 自分で動く快感では昇りつめられなくて、それでも動くのを止められなくて……。  
 焦らされすぎて泣き出しそうになった時、キョンの指がショーツの中へと入ってき  
た。指が敏感なその場所をなぞるたび、自分で動くのとは違う、もっと強くて蕩けそ  
うな快感が身体を震わせる。  
 キョンの指はそのまま、もう十分に潤んでいたあたしの中へと少しずつ入ってきた。  
 それはただの指なのに、待ち兼ねていたあたしの中は恥ずかしいくらいに収縮を繰  
り返す。  
 
 ゆ、指一本でこんなに気持ちいいのに……あれを挿れられちゃったら、いったいど  
うなるんだろう?  
 夢で見てきたみくるちゃんや鶴谷さんの姿が想像を駆り立て、ゾクゾクするような  
感覚が背中に走っていく。  
 更なる快楽を求めて腰を動かすと、キョンの指があたしの奥にある壁に突き当たっ  
た。同時に走った小さな痛みは、今のあたしにはそれすら快感だったんだけど  
「……こっちはまた今度な」  
 キョンはそこから先には進まず、指を抜いてしまった。あたしの中は突然途絶えた  
指の感触を探して疼いてて、それ以上にあたしはもう限界だった。  
 そんなぁ? もう指じゃなくて、キョンが欲しいの……有希みたいに舌で舐めたい  
し、中に入ってきて欲しいのにぃ!  
 声に出来ない思いに苛立っていたあたしは、キョンが違う場所を狙っている事に全  
然気付かなかった。  
 あたしの中でぬるぬるに濡れた指は、抜け出した穴のすぐ上にある突起に突然襲い  
掛かったの。  
 同時にそれまで動いていなかったもう片方の手が、乳首の先を撫で始めて――  
「や……ぅあああああ!」  
 痛みに近い程の快感に、もう声を止めてなんかいられなかった。  
 恥ずかしい自分の声に煽られて、あたしは一気に昇りつめていく。  
 胸を抓るキョンの左手、背中に感じるキョンの身体。そして、あたしの一番敏感な  
部分を擦りたてるキョンの右手。  
 その全てが気持ちよくて……それがキョンからされている事なんだって意識すると、  
例えようも無い程、あたしは幸福な気持ちになったの。  
 もしも、今……目の前にキョンの顔があったら、あたしは間違いなくキスしてる。  
 ――そっかぁ……あたしキョン事――これはきっと夢だけど、この気持ちはきっと  
夢じゃないと思う。  
 一度そう認めてしまった事で、身体は更にキョンを欲しがり始める。  
 熱く敏感になった身体は、キョンの動き一つ一つに怖いくらいに反応して――だめ  
……いっちゃうよぅ……。  
 もう我慢なんてできなくて、ただ机にしがみついて快感に浸っていたあたしに、  
「いいぜ、いっても」  
 キョンの声が聞こえたの。  
 その声が引き金になり、大きな波が押し寄せてきて――弾けるような快感が全身を  
突き抜けていって――あたし……キョンの指でいっちゃったんだ……。  
 一向に引いていかない快感と、ゆっくりと薄らぐ意識の中――あたしの髪を撫でて  
くれていたキョンが  
「次は、最後までしような」  
 優しくそう言った気がした。  
 
 
 ――これは何かの前触れなんだろうか?  
 
 その日、いつもの登校路で体力の大半を使い果たした俺が教室で見たのは、机に顔  
を寄せてご機嫌なハルヒだった。  
 嬉しそうにハルヒが眺めているのは……何も無い、ただの机。変わった所と言えば、  
机の端に何か引っかいた跡があるだけで、  
「あ! おはよっ! キョン」  
「えっと……おはよう」  
 無駄にテンションが高いハルヒに、俺はいつもの様に不安を感じていた。  
 まあ、ここ数日様子がおかしかったから、そろそろ何かやる頃だとは思ってたよ。  
「ハルヒ、今日は何かイベントでもあるのか?」  
 心の準備だけでもと思い、無駄とは知りつつもそう尋ねる俺に  
「……ん〜そうね。きっと一生忘れられない日になると思う」  
 ハルヒはよくわからん返答と共に嬉しそうに微笑む。  
 そうか、それはよかったな。  
 ちょうど予鈴が鳴ってくれたので俺は席につき、これ以上ハルヒを刺激しないよう  
にと前を向いた。  
 やれやれ……何を思いついたのか知らないが、放課後までに忘れてくれないかね?  
 そんな事を考えていると、   
「ねえ、キョン」  
 なんだ?  
 顔だけ振り向いた俺に、何故か少し赤い顔で  
「あたし。結構痛いのって平気なのよね」  
 ハルヒはそう言った。  
 …………そうか。  
「あ〜もう楽しみ! 早く放課後にならないかしら? あんたもそう思うでしょ?」  
 駄目だ、全然会話にならない。  
 これはもう、理解しようとしたら負けだな。考えるな、感じろって奴だ。  
 作り笑顔に苦い感情を少々混ぜつつ「ああ、楽しみだな」と答え、俺は再び黒板へ  
と向き直った。  
   
   
 夢の中で 〜終わり〜  

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