「キョン! せっかくの高級カメラなんだから、しっかりと写真撮りなさいよ! 心霊写真の  
百や二百も取れなかったら市中引き回しのうえあんたを幽霊にして激写だからね!」  
 いつもの様に非日常が日常となってしまった週末の土曜日。  
 ハルヒは信用度が5ナノミリメートルとて無さそうな女性週刊誌をたまたま読み、たまたま  
目に入った心霊スポット特集に触発され、そして結果、今日は普段よりもやや遠方の見知らぬ  
土地での不思議探索と相成った。  
 ハルヒ、ここは住宅地だ。しかも見知らぬ土地の。  
 お前の声の大きさにびっくりしたおじいさんやおばあさんが時々窓から顔を覗かせるから  
通報される前に落ち着け。  
 あの街で俺達が警察にマークされずに行動出来るのはひとえに『慣れ』の賜物なんだぞ。  
「しかし、たまにはこうして見知らぬ街を探索というのもいいものですね」  
「そーでしょ? ほらキョン! これが正しい団員の在り方よ!」  
 そこのポーカーフェイスはイエス以外言わないぞとは流石に言えず、俺は古泉が用意した  
フィルム式一眼カメラの扱い方に四苦八苦している。  
 ライカって、確か高級カメラの代名詞だよな? ええと、M-8?  
「しかし古泉、これ、お前が持ってきたカメラだろ。うっかり落としたらとても弁償なんて  
出来ないぞ。お前が構えろ。重いんだよこれ」  
「それは出来ません。涼宮さんは貴方に良い写真を撮って欲しいのですよ。そのカメラにも  
意味はあります。本当は性能的にはコンパクトで高性能なものは他にもありますが、涼宮さん  
から見て、重くて大きいカメラの方が高性能に見えるので印象がいいのです」  
 いつもの台詞だが訳が分からん。  
 しかしだとすればハルヒも結構現金な目で物を見ているな。  
 …それにしてもでかいカメラだ。本体もそうだが、レンズがまた本体と同じくらい重い。  
 ぱっと見は風景写真家とかが良く持っている高性能広角レンズだ。  
 古泉曰く本体性能は日本製だが、レンズに関しては文句なくドイツ製らしい。と言うかレンズも  
素直にライカと言え。それくらい知っている。  
「しかし、一眼レフまでは画像的点から納得だが、どうしてフィルム式なんだよ。これじゃ現像  
し終わるまで何が映ったか分からないってのに」  
「甘いわ。『スゥイーツ(笑)』より甘いわ」  
「その言い方は頭悪そうだからやめておけ」  
「ふん、キョンに言われたくないわよ。いい? 霊ってのは神秘的存在なのよ。そんなデリケートな  
存在が無粋なデジカメなんかに映る訳無いじゃない! それにフィルム式カメラは魂を吸い取られ  
るって噂が昔はさも現実と言わんばかりにありふれていたんだから、これはきっと霊体と相性が  
いいのよ! だ・か・ら、霊を撮るにはフィルム式カメラしかないの! 分かった?」  
「そーですねー」  
「生返事するなー!」  
「はいはい、とにかく今日はこの広い街で怪しげな場所を撮ればいいんだな? 突然野球やり出す  
とか無人島に行きたいとか言うのに比べれば可愛いもんだ」  
「バ、バカキョン! 何よいきなり!」  
 はい?  
 素でハルヒが赤くなっている理由が分からんが、とにかく行動は始まる。  
 まず、俺達は地図を頼りに繁華街近くの公園にたむろする事とした。  
 公園到着と同時に強制的に全員分の飲み物を買わされたのは何故だろう? 何故?  
「ぷはー。今日も暑いわねー」  
「まったくです。こちらの都市の気温は今日、最高で36度と言う発表でしたからね」  
「ハンカチがもうぐっしょりですぅ」  
 そう言って朝比奈さんはレースのハンカチをぱたぱたと広げた。  
 長門は汗の粒一つ流してない。  
 長門、暑くないのは分かるが、一応カモフラージュだけでもしておいた方がいいぞ。  
 ああそうだ、ちなみに今日のみんなの格好を確認しておくか。  
 
 ハルヒはでっかいサンバイザーにレースの付いた白のチューブトップとホットパンツ。  
 根拠はないが、太陽が服を着るとこんな感じなんだろうな。  
 朝比奈さんが薄いピンク色の清楚且つ、出るトコ出て見えるとこ見えるロングのワンピースに  
麦わら帽子。  
 まるでおとぎの国から抜け出てきたかの様だ。  
 長門も珍しく学生服ではなく七分丈の青いシャツにパンツルック。  
 長門が着るとカジュアルもどこか知的に見えるのが不思議だ。  
 古泉も何か服を着ている。  
「…誰が一番好き?」  
「それは誰の服装が一番好き? と言う意味だよな?」  
「……」  
 なんで黙る? どうしてハルヒと朝比奈さんがこっちを注目している?  
「と、とにかく長門、お前も普段の制服姿とは違って、新鮮だぞ」  
「ん」  
 長門が小動物的に頷くので思わず撫でてしまった。  
 目を閉じて身を任せているのが、子猫を撫でている様でいい感じだ。  
「…むぅ…」  
 誰かが唸ったけど聞こえない。  
「そ、そう言えばキョンさん、貴方の服装も涼しげですね。似合ってますよ」  
 古泉が背中から不穏な空気を感じ、慌てて話しかけてくる。  
 俺の服装何ざどうでもいいんだろうが一応助かったぞ。  
 ちなみに本当にどうでもいいが俺の格好は茶のパンツに胸元編み上げの黒シャツだ。  
「編みシャツだから結構胸元開いているわね? 何? 見せたがり?」  
 なんでそうなる。暑いからだ。  
 とか言いつつハルヒ、それと長門、朝比奈さん、三人ともあんまり胸元を凝視しないでくれ。  
 男でも何故か身の危険を感じてしまう。  
 無論古泉、おまえもだ。と言うかお前の視線が一番熱いのが嫌だ。  
 さて、俺の尊い純潔を守る為にさっさと行動に移るぞ。  
 まずは木陰の東屋で今日の行動の指針を話し合う。  
 主にハルヒ一人でだが。  
「涼宮さん、今日もくじ引きでしゅか?」  
「ううん、今日はしない」  
「何故?」  
 長門が問いかける。  
「それは…」  
 ハルヒが俺をちらりと見た。  
 ん?  
「カメラは、重いからとりあえず雑用ナンバーワンのキョンにずっと持たせるでしょ?」  
「へいへい、ナンバーワンのオンリーワン雑用だよ」  
「いじけるな。で、あたしは言い出しっぺの責任があるから、色々と鈍くさいキョンに指示を  
出してバシバシ心霊写真をフレームに納めなきゃいけないのよ。上手くいけば、これだけの  
カメラなんだから写りたいって霊が自ら出てきて遭遇、なんて可能性もあるじゃない」  
「ないない」  
「黙れ。で、あたしは団長としてみんなに無駄足を踏ませない為にもカメラの側を離れられない。  
そういう事務的かつ責任的道義的問題から、ほんっとーにしょうがないんだけどキョンと一緒に  
二人っきりでずっと居なくちゃいけない訳なのよ。そう言った訳で、今日はキョンはあたし  
のも…あたしの助手として独り占…つ、連れ回す必要があるの。分かった?」  
「まてハルヒ。それじゃ仮に組み分けが俺とハルヒとして、長門、朝比奈さん、古泉組は  
どうするんだ? カメラは一台だけだぞ?」  
「携帯のでいいじゃない」  
 ……。  
 俺は豪快と言うのもおかしいが、それくらい盛大に目眩を覚えた。  
 あなたさっきカメラと霊の相互関係をとくとくと説いていましたよね?  
 朝比奈さんはそんなぁ〜とひんひん鳴いている。嗚呼愛しい人よ鳴かないで。  
「……」  
 長門はそんなハルヒの暴言に了解、とは言わず、ふとどこから取り出したのか大きなカメラバッグを  
 テーブルの下から引っ張り出す。  
 
 長門? お前今、たった今それ出したよねそのバッグ。  
 今の今まで足下には何も無かったって言うか今日手ぶらだったよな? な?  
「気のせい」  
 ……。  
 自我が育ってくれるのは嬉しいけど、最近ちょっと困った方面で育っている気がしているんだが  
それも気のせいだろうか。  
「気のせい」  
 そうですか。  
「で、長門さん、そのバッグはなんですかぁ?」  
「な、何を取り出したのよ、有希」  
「……」  
 朝比奈さんは何か知らんが一縷の望みを、蜘蛛の糸を見つけた様な表情でその大きな瞳を  
煌めかせ、ハルヒはハルヒで完全犯罪達成直前にコロンボに呼び止められた犯人みたいな表情と  
なり、古泉は氷の微笑で口元を引きつらせている。携帯を握りしめている手がめきめき音を  
立てているぞ。  
 長門はおもむろにバッグを開け、その中から古泉が用意したプロ顔負けのカメラに引けを  
取らないフィルムカメラ広角レンズ付きを取り出した。  
「カメラが二つ。これで、班分けを行っても確率は同率となる。より確かに霊体を捕らえるのならば、  
二班に分かれて行動するのが最善。よってくじ引きはするべき」  
「うぐぅ」  
 ああ、ぐうの音も出ないってのはこう言うのを言うのか。  
「わぁ、それじゃいつも通り班分け出来ますね? 私、こういうカメラって全然知らないから  
教えてほしいですぅ」  
 朝比奈さんはいつの間にか俺の隣に移動し、小動物の瞳で俺を見詰める。  
 いけません朝比奈さん、陽はまだ高いです。  
「みくるちゃん!」  
「はひっ!」  
「そんな甲斐性無しに近づくと厄年でもないのに運気が落ちるわよ。さぁ、くじ引きしましょ!」  
「お前はどこまで俺をおとしめれば気が済むんだ」  
「うるさいエロキョン!」  
 せんせー、涼宮さんと言葉のキャッチボールが出来ません。  
 ハルヒはそんな俺の心の叫びも無視し、いつも通り即席のクジを作る。  
 かくして結果は俺と古泉。そしてハルヒ、長門、朝比奈さんという何とも色気のないメンバー  
分けだった。  
 長門は無表情、と言うかほんとーにわずかにつまらなそうに、朝比奈さんはふえぇ〜ともろに  
残念そうに鳴いているが、当のハルヒだけは何故か意の他に満足そうな表情をしている。  
「どうやら、涼宮さんの力が働きましたね」  
「なんだそりゃ? ハルヒがいつから女性を囲う趣味に目覚めた?」  
「ははは、違いますよ。涼宮さんは、最初の目的では僕が持ってきたカメラを口実に、今日は  
一日中あなたと居られると思っていたんです。ですが、長門さんの逆恨みまみれの横恋…ふんもっ!  
おちゃめなでキュートなちょっとしたカワイイ少女特有の愛らしい気まぐれによってカメラが増え  
その口実を失ってしまいましたアハハハハハ」  
 古泉、顔が引きつっている。途中から棒読みだったぞ?  
「長門も、何か知らんが目が据わっているぞ。可愛い顔が台無しだから普通にしなさい」  
「……!」  
 長門は背中を突っつかれたみたいにしてぴくりとし、ちょっと驚いた風な表情から、そのまま  
顔をうつぶせ気味で視線をそらした。  
「ふぅ、いやはや、いつもながらあなたの無意識女殺しテクニックでリアルに命拾いしましたよ」  
「訳が分からん。そして嫌味かそれは。それより理由の続きだ」  
「ええ、とにかく、最初の予定では貴方と二人で街を歩く予定でした。だがそれが崩れた今、  
涼宮さんはそれならいっそ貴方を誰とも一緒に歩かせたくない、と考えを変えたのです」  
「誰とも?」  
「言葉が足りませんでしたね、朝比奈さん、長門さんと二人きりにはさせたくない、と思ったのです」  
「…だから、俺とお前か?」  
「僕ならいくら何でも、と思ったのでしょう。ふふ、甘いですねぇ…。ああ、そんな音を立てながら  
下がらないでください。言葉のアヤですアヤ」  
 
「心臓に悪いからやめろ。ハルヒも、あれ? みたいな顔でこっちを見ているぞ」  
「おっといけません。とにかく彼女は、自分も一緒に蚊帳の外にしてでも貴方を安全圏に置き  
たかったのです。僕としてはこれはこれで涼宮さんも安定するでしょうから問題なしです。  
今週末は、何事もなく過ごせるというものですよ」  
 古泉は心底嬉しそうに言う。  
 神人と戦わなくていいってんならその通りだし、俺だって古泉に不必要に危険な目にあって  
欲しくはない。  
 なら、たまには古泉と一緒でもいいか。そう思っていた矢先、テーブルの向こうから話し声が  
微かに聞こえてきた。  
「それにしても、人数が微妙なんですよねー」  
「? どういう事、みくるちゃん」  
 何か不穏な台詞が聞こえた。  
 古泉も表情をえっ? と青ざめさせる。  
「いえ、人数をちょっとだけ調整出来れば、班分けするよりも一緒に行動した方が…って  
なると思っちゃったんですぅ」  
 なぜだろう。ホワイトエンジェルミクルエルの背中に一瞬黒い羽が見えた。  
「調整…か。確かにそれなら一緒に…」  
 ハルヒがふむ、と考え込む。  
 なぜだろう。ハルヒの瞳の中に閉鎖空間でもないのに神人がニョロニョロ群生して見えた。  
「そう。今の人数構成だから班分けの必要性がある。一人でも少なければ、効率から言って  
班分けの必要はなくなる。奇数は鬼数とも言い、古来より良くない数字。偶数を推奨する」  
 更に長門がものすごく具体的に胡散臭く、かつ不穏な事を言う。  
 なぜだろう。低温動物長門有希の表情に妙に熱いオーラを感じる。  
 そして古泉の頬は目に見える程にひくついている。表情筋ってここまで動くんだな。  
「ああ…そう言えばそうかもね!」  
 ハルヒ、その根拠のない意見に頷くんじゃない!  
 こら、なんか考えるな!  
 じっとこちらの誰かを見るな!  
 誰かって俺じゃないからもう一人しか居ないんだけど、とにかく見るな!  
 でも、考える間でもなくハルヒが古泉に何かするなんて事は無いし、杞憂だと思っていた  
のだが…。  
「で、ですよね? 涼宮さんは決して自己の欲求の為に仲間を傷つけたいなどと言う真似は  
しなぬふぅ!」  
 Oh BOY 密がアッーーー♪  
 突如古泉の太くて大きくて黒光りする携帯からいかがわしい着信音といかがわしい  
バイブ音が鳴った。  
 これ以上聞きたくないからすぐさま出ろ。それとその耳障りな唸り声はやめろ。  
「す、すいません、ちょっと失礼します」  
 古泉は携帯をひっつかんで風の様にの場を離れ、程なく戻ってくる。  
「まさか…アレか?」  
 俺達はハルヒに聞こえないギリギリの位置で雑談っぽく話す。  
「まさかのアレです。しかしおかしいですね、先程の状態ではまだ涼宮さんの精神状態は…実際、  
今もそこまで…まさか!?」  
「何だ? 思い当たる節があるのか?」  
「…ええ。やはり、涼宮さんは恐ろしい人です」  
 古泉はみるみる血の気を失いながら力なく笑って言う。何の事だ。  
「今話すお時間はありません。詳しくは後ほど」  
 そう言うと古泉は実に残念そうな身振りでハルヒに急用が出来たので帰らせていただけますか、  
と申告する。  
「あら、これからが面白くなるところなのに残念だわ。まぁ古泉君ならサボりなんて事は無いだろう  
から本当に大事な用なのね。気にしなくていいから行って。また今度ね。早く行った方がいいわ  
本当に残念。さぁ早く行きなさいよ。GO HOME」  
 ハルヒは、俺だったら絶対にサボりだの不謹慎だの不心得だの罵詈雑言を浴びせるであろう不思議  
探索途中棄権を、実に穏やかな表情でオッケーする。  
 どことなく、残念そうにしているその瞳の奥にさっさと行けこのタンコブホモ野郎的雰囲気を  
感じるのは気のせいだよな?  
 
「古泉君、今日は楽しくなりそうだったのに本当に残念です。でも、用があるならそっちが優先  
ですよね。ほら、早くしないと相手が待ってますよ? 走った方が良くないですか? まだ居るん  
ですか? 空気読めよ」  
 朝比奈さん? 最後に何か凄いこと言いませんでした?  
「消えて。物理的に」  
 長門? 今サラリと一言何か言ったか? 言ってないよな? 俺の顔を見てくれ。何故向こうを  
向いている? 長門さん?  
「で、では、僕はこれで。後はお任せしましたよ。一応、僕の、バイトの成否にも関わりますので…」  
 古泉はそっと耳打ちしてから去っていった。顔が近い近い。  
 やれやれ、何か知らんがハルヒのトンデモパワーは今日も古泉を振り回したのか。  
「キョン! なにぼけっとしてるのよ! コブは消え…じゃなくてとにかくさっさと出発よ!」  
 そして俺もきっと古泉の様な命の危険以外では負けず劣らずの忙しさが始まるんだろうな。  
 多分、て言うか絶対に。  
「えーと、ハルヒ、古泉が帰ったから丁度二人ずつにする事も可能だが…」  
「そんな面倒な事する訳無いでしょ! くじで班分けするなんて仲間はずれみたいじゃない!  
活動ってのは団体が基本なのよ!住人だって百人だって一緒が基本なの! みくるちゃん、有希!  
さぁ、不思議を探して出発よ!」  
 いつもいつも率先してクジ作ってくる人がそう言う事を言ってもなぁ。  
「なにやってんのよキョン! さっさと来なさーい!」  
 元気だなぁ。  
 そんなこんなで今日の不思議探索in近くの街from幽霊探しmaybe無駄足の巻は合計四人でと  
相成った。  
 そうだ、そもそもさっき長門もカメラを用意してくれたから、一緒の行動は行動でもカメラマンと  
クルーで二組に分け…。  
 そう言いかけた矢先、後ろから何かカメラ的なモノがものすごい勢い的に地面にぶつかった的な  
音がした。  
「有希!? だ、大丈夫? どしたの? うわ、カメラ! 落としたの?」  
「だ、大丈夫ですかぁ? ケガはないですかぁ?」  
「うかつ。手が滑った」  
 二人が慌てて長門を心配する。  
 それに対して冷静に受け答えしているけど長門、手が滑ったと言う割にはカメラがちょっと地面に  
めり込んでいるし、この破壊具合は落ちたと言うよりも叩きつ…。  
「手が滑った」  
 よく見ると踏みつけた靴の跡…。  
「不運な事故」  
 ……。  
「事故」  
 そうですね。  
 とりあえず俺は一度も役目を果たす事なく不幸な最期を遂げたカメラを片づけ、改めて不思議  
探索を開始する。  
 朝比奈さんはてくてく歩きつつ綺麗なハンカチで額の汗を拭いている。  
 長門は先程よりは額に数粒汗を流している。多分さっき俺が言ったから社交辞令としてだろうな。  
 ハルヒは暑さなどお構いなしにはしゃぎっぱなしだ。  
 つーか古泉の持ってきたこのカメラやっぱ重いんだけど、持つのは俺だけなんだろうなぁやっぱり。  
 カメラ入れてきたバッグもそれだけで結構な重さがあるし。  
 本当のカメラマンってのは更に替えのレンズとか常に持ち歩いて居るんだから体力仕事だよな。  
 ちょっと尊敬した。  
「キョン! あそこの家、古そうで怪しいわ、ツタ絡んでいるし、いかにも出そう! 早速撮り  
なさい!」  
 いや、どう見ても人が住んでるんだが…まぁいいか。世間に公表する事にはならないから許して  
くれ知らない家の人。  
 ずしりと両手にかかる重み、そしてそのボディの構造自体に年代を感じさせる一眼レフは、  
シャキン、と心地よささえ感じるシャッター音を響かせ、最初の一枚をフィルムに焼き付けた。  
 この感覚は…思ったより癖になりそうだ。  
「見せなさいキョン!」  
「フィルムカメラは現像しなきゃ見られないんだよ! レンズに指紋が付くだろ!」  
「ひっ…。わ、分かっているわよ…。そんなに言わなくても…」  
「ああすまん、怒鳴って悪かったな」  
 
「う、ううん…」  
 いやハルヒ、そんな萎縮するな。お前らしくない。  
「キョンくん、汗かいてますよ。はい」  
 そう言って朝比奈さんが俺の首筋をハンカチで拭ってくれた。どえらくいい香りのするハンカチ  
ですね。って言うかこれさっき朝比奈さんも顔拭いてたやつですよね?  
「ふふっ」  
 意味ありげに微笑まれると何も言えません。  
「さ、さぁ、次行くわよ次!」  
 ハルヒが向こうに振り返った時、不意に長門が俺の腕を掴む。  
「カメラの質量を消す事も可能」  
 それはありがたいが、今はみんなが居る。何かの拍子でばれるなんて事もあり得るし、突然俺が  
楽そうになったら怪しい。  
「だから、長門の気持ちは本当にありがたく受け取るよ。気を遣ってくれて、ありがとうな」  
「…そう」  
「いやだから腕を噛もうとするな」  
「首?」  
「めっ!」  
「……」  
 長門は少しの間俺の腕を掴んだまま顔を見詰めるが、ちょっとしゅんとしながらゆっくりと  
視線と腕を外した。  
 気遣いは嬉しいが、ダメだぞ長門。  
 その後小一時間程街を歩いてあちこちをフレームに納め続けたが、流石に暑さでへばってきた。  
 主に俺が。  
 住宅街のせいもあるが、アーケードとかが無くて日陰が無いんだよなこの辺り。  
 カメラもけっこう熱くなってきた。  
「キョン、汗だくじゃない」  
 そりゃそうだ。一応、今朝行きがけに妹が、おかおのシミはだめーっ! って言ったから日焼け  
止めはたっぷり塗ってきたが、直射を浴びる事に変わりはないからな。  
「だが乗りかかった船だ。せっかくこのカメラのクセも分かってきたし、存外面白いからもっと  
じゃんじゃん撮るぞ」  
 俺もやっぱり男の子だな。  
「キョンにしちゃ殊勝な心がけね! そんじゃみんな、ここでちょっと待ってなさい」  
 言ってハルヒは突風みたいに何処かへ行った。あいつにとってはこの照りつける日差しも  
エネルギーの元なのかね。  
「おまたせー!」  
 そう言って戻ってきたハルヒは、コンビニの袋を持って帰ってきた。  
 流石に額に玉の汗をかいているが、ずいぶん遠くまで行ってこなかったか?  
「ちょっとね」  
 なんだ、コンビニ言ってきたのか? そこに自販機もあるのに。  
「そんなのいいのよ。はい、みくるちゃん」  
「あ、ありがとうございましゅ」  
「はい有希」  
「……」  
 ハルヒは朝比奈さんに午後の紅茶、有希にはアップルジュースを渡す。  
「珍しいな、お前が率先して飲み物なんて。て言うか俺は?」  
 ハルヒは応えず、残っていたポカリスエットにストローを差して悠然と飲み始めた。  
 せんせー。常世に鬼は本当に存在します。ほら、目の前に。  
「はい」  
 そう思った矢先、ハルヒは俺の口元にペットボトルに刺さったストローを差し出す。  
「ん?」  
「早く飲みなさいよ。カメラ持っているんだから手が使えないでしょ!」  
 ああ成る程。だからストローの為コンビニね。つうかこれ今…。  
「さっさと飲みなさい! あたしだって喉乾いているの!」  
 分かった分かった。  
 俺はストローに口を付け、くっつきそうになっていた喉に冷たいそれを流し込んだ。  
 ふぅ、この日差しの下だとただのスポーツドリンクも甘露の如きだぜ。  
「…いい?」  
 
「ああ、助かったぞ」  
「ん」  
 何か普通に頷くハルヒが可愛い。  
「……」  
「ん?」  
「んっ!」  
 もしかして…。  
「ありがとな」  
 俺は試しにハルヒの頭を撫でてみた。  
「うん……」  
 珍しく静かに撫でられるハルヒ。  
 こんな所で長門と張り合ってどうするよ。  
 まぁ、長門が子猫としたらハルヒは小虎って感じなのだがな。雰囲気が。  
「キ、キョンくん、汗かいてましゅよ!」  
 朝比奈さんが噛みながら俺の顔を拭いてくれる。  
 そして。  
「ん」  
 いやもう何て言うか…。  
「ありがとうございます」  
 俺は上級生である筈の女性の頭をなでなでする。  
 やった! みたいな表情でふにゃ、と微笑む朝比奈さん。  
 それはSOS団に子猫に小虎、ついでに小兎が加わった瞬間だった。  
 長門もいつの間にか側にいるし。  
 て言うかなんでこのクレイジーな日差しの中、俺らは押しくらまんじゅうに近い状態になるん  
だよおい。  
 …悪い状態ではないが暑い。  
 いやホントに至福を味わうより先に暑い。  
 秋口に味わいたかったぞこの至福!  
 つか暑っっ!  
 その後、本能的に風を求めた俺はハルヒの支持に従ったり従わなかったりしつつ風を感じる  
方へと向かう。  
 勘は当たっていた。  
 暫くすると住宅街を抜け、俺達は河原に出る。  
 空気の籠もっていた住宅地とは違い、河原には上流からの涼しい風が吹き抜ける。  
「気持ちいー!」  
 ハルヒが河原の一番高い場所に登り、体を大の字にして全身で風を受けている。  
 どこでも元気な奴だ。  
 朝比奈さんもスカートと麦わら帽子を押さえながら心地よい風に吹かれ、長門も表情は変えないが  
その瞳は涼しげに閉じられている。  
 俺もようやく汗が乾くのを感じる。  
 不意にファインダーを覗きながら周囲を見ると、三人が丁度納まった。  
 こうやって三人が並んでいるとなかなか絵になるな。  
 俺は何気なくシャッターを切る。  
 と、突然突風が吹き、ハルヒのサンバイザーが吹き飛ばされる。  
 ハルヒがあっと叫ぶ間もなくそれは宙に飛んだが、丁度風向きがこっちに向いていたので俺が  
手を伸ばすと、まるでめがけてきたかの様にサンバイザーが手に納まった。  
「キョン…」  
「タイミング良かったな」  
 俺は何故かあっけにとられているハルヒの元へ歩き、サンバイザーを頭に載せる。  
「ちょっと、ちょっとだけ…かっこよか…な、何でもないっ!」  
 ? 分かったから大声を出すな。  
「そうだ、今まで風景ばかりだったから、ここで人物も写しておくか」  
「な、何言ってんのよ! キョンが構えるからって、そう簡単にグラビアみたいな真似する訳  
無いでしょ! 第一水着持ってきてないしここじゃ他の人の目もあるし…このエロキョン!」  
「何を考えているか知らんが俺の言っているのは普通のスナップだ。格好付けなくていいから  
ちょっと河原を歩いてみろ」  
 
「何団長に向かって勝手に注文しているのよ! …撮るからには、かわいく撮りなさいよ? 少しなら  
ポーズとるわよ? 着替え持ってくる?」  
 やる気じゃん。  
「朝比奈さん、長門もど…うお?」  
 俺がカメラを構えた時、二人は既に目の前に立ち目を輝かせていた。  
 朝比奈さんが瞬間移動を使えるとは知りませんでした。  
「やってみましゅ!」  
「努力する」  
「が、頑張ってくれ」  
「キョン! こんな風なのはどう?」  
 ハルヒが髪をかき上げる仕草で振り向きながらポーズを撮る。  
「ん、いいぞ」  
「キョン君! こ、こんなポーズは涼しげじゃありませんか?」  
 朝比奈さんは靴を脱ぎ、浅い河原に足を着けてちょい、とスカートの裾をめくって歩くポーズ。  
「超いいです!」  
 特にちらっと覗く太ももが!  
「…これは?」  
 長門は躊躇泣く自分のシャツに水をばしゃりとかけ、その名の通り水も滴るなんとやらに変身する。  
「な、なかなかアダルトだぞ。いいぞ」  
 透けたシャツから何かがほんの少しうっすらと見えている気がするが気のせいだよな、うん。  
 もしかして付けてません?  
「キョン! こっち撮りなさい!」  
「わか…ふおっ!」  
 ハルヒはチューブトップを胸の下ぎりぎりまでたくし上げて縛り、お腹全開で水面に転がっている。  
「け、健康的でいいぞ」  
「キョン君キョン君! これは? これはどうですか?」  
「ああ、はいは…ぶふぉっ!」  
 朝比奈さんはなんと肩ひもを片方ずらし、首をかしげて水面に座っていた。  
 胸の豊満な膨らみがわずかに露わになり、鎖骨すら見えている。  
「う、美しいです…」  
「これも見て」  
「ん、わかっ…ふんがっ!」  
 長門はパンツのファスナーを半分ほど下ろし、ちらりとしましまの何かが見えるくらいまでパンツを  
ずり下げて、まるで何かの後の様に水面の上に膝立ちしていた。  
 あああ…。みんな何でいつの間にか濡れ鼠なんだよ……。  
「こっち見なさいキョン! こ、これならどうよ!」  
「わ、私を見てくださいキョン君! え、えいっ!」  
「貴方は私だけを見るべき。私の肌を…見て欲しい」  
 その後、何のスイッチが入ったのか通報されかねない露出に発展しかねない状況となったので俺は何とか  
三人を説得して写真は着衣のみと言うことで了承を得た。  
 が、その後、バッグの中にたっぷり残っていたフィルムが全て空になるのに時間はかからなかった。  
 帰り際、現像は俺に任され、ハルヒ達は部室に持ってくる前に全ての写真を穴が開く程チェック  
してから部室に持ってきなさいと地味にすごい事を押しつけてその日はお開きとなる。  
 おいおい、今日撮った写真、フィルムの数で言うと1000枚以上あるんだが…。  
「いいのよ! キョン! しっかりあた…みんなの写真を見て選ぶのよ!」  
「みんなって、心霊がメインだろ? そもそも選ぶって何を?」  
「…と、とにかくしっかり見なさい!」  
 やれやれ。  
 
 数日後。  
 俺はリュック一杯の写真を現像屋から引き取り、帰路についた。  
 写真屋の親父さん、この数日で一年分くらいの仕事したと疲れた顔ながら楽しそうだったな。  
「キョン! 写真見た!?」  
「見た。お前の言う通り三人のスナップもな」  
「ど、どうだった?」  
「何が?」  
 
「だから、その…えっと…何とも思わなかった?」  
「だから何をだよ」  
「……」  
「……」  
「……」  
 ちょっと待て、なんでそこで三人がしょんぼりするんだ。俺はちゃんと役割果たしただろう?  
「アレが一番短いやつだし…」  
「スカート長かったですかねぇ…」  
「布の面積が広い?」  
 何の話だ。  
「…いいわよ。キョン、ほら、写真見せて」  
 へいへい。  
 俺は四つのケースケースに分けた写真を机の上に置いた。  
 枚数が多すぎてとてもアルバムになんか貼れない。そもそも殆どがアルバムに貼る意味の  
ない被写体だからな。  
ほら、この一ケースがそれぞれ風景と三人の写真だ。  
 三人は何かおかしい、という表情で写真を見始める。  
「なーんかつまんないわねぇ」  
 あの日、あれだけ苦労して撮った山盛りの写真を前にハルヒが失礼な事を言う。  
「だって、なんか普通じゃない?」  
「当たり前だ、霊なんかそうそう写…」  
「このポーズも全然普通だわ」  
「私、よろめいちゃってますぅ」  
「…平凡」  
 そっちの写真ですか。  
 よく見れば三人とも心霊写真など押しのけ、後半に撮ったスナップばかり見ている。  
 俺は本来の目的の筈の心霊写真が写っているかも知れない風景写真を改めて眺めつつ、ため息を  
ついた。  
 心霊写真があるかもしれないのはこっちですよお三方?  
「いいからキョンはそっち見てなさい。あたし達忙しいの」  
 へいへい。  
 ハルヒだけじゃなく朝比奈さんに長門までもが、脇目もふらず自分が写っている写真のチェック  
しているもんな。  
 俺と古泉はふたりでやれやれ、と目を合わせ、何となく写真を眺めていた。  
「古泉君、あたし達の写真はまだチェックが終わってないから見ちゃダメよ! そっちのだけ見ててね!」  
 古泉は少々残念そうなそぶりで了解しました、と微笑む。  
「見たかったか?」  
「それは、僕だって男子ですからね」  
「まぁ、そうだよな」  
「しかし、涼宮さん達の関心は完全に心霊写真から自分をいかに美しく撮るかに変わってしまった  
ようですね。まぁ、その方が健全と言えば健全です」  
「自分で美しいとか思っていたらソレはソレで不健全だと思うが」  
「もっと正確に言えば、あなたに美しいと思ってもらいたいのですよ」  
「あの三人は特に何もしなくてもそうだろ」  
「いやはや、その台詞、お三方の前で言ったら色々大変になりますよ?」  
 その時。  
「…え?」  
「どうしました?」  
「古泉…これ」  
 俺はあえてハルヒ達に気付かれない様に一枚の写真を見せる。  
「…まさか?」  
 それは、見間違いようのない心霊写真だった。  
「この家…間違いなく空き家だった。ハルヒの奴がそれをいい事に家の中一通り見て確かめたんだ。  
覚えて居るぞ」  
「ですが…窓の中に…何人か見えますね」  
「機関が何かしたのか?」  
「いえ、普段の行動には通常一切ノータッチです。誓います」  
「まさか、あいつが呼び寄せた? …見せていいのかな?」  
 
「多分大丈夫です。涼宮さんは発見してどうこうよりも、ひっぱるだけひっぱって結局居るのか  
居ないのかハッキリさせずに待て次号、みたいにまた次号も買わせようとする、そもそもその記事が  
一分一厘でも真実が入っているのか分からない的低俗なゴシップ情報にイライラしてそこを徹底的に  
ハッキリさせたかったのです」  
「まったく真実だが非道い事言ってるな」  
「特にスポーツ新聞のニュースはあれをニュースと呼んだらニュースの神様が声を裏返して怒鳴り  
散らすレベルですからね」  
「…何かあったのか?」  
「いえ、別に。ふふふふふ……」  
「と言う訳でハルヒ」  
「何よ! あたしこの前の探索で撮った写真チェックで忙しいの!」  
「そりゃこっちだ。ほら、お望みの心霊写真だぞ」  
「…現像ミスったかなにかでしょ」  
 ハルヒさん、あれだけ望んでいた心霊写真を躊躇無くゴミ箱にお捨てになられました。  
「お、落ち着いてください! ゲンコツはだめですゲンコツは!」  
「離せ古泉! 俺は、俺はこのワガママ小娘に常世の厳しさを教えなければならないっ! キミ  
がっっ! 泣くまでっっ! 殴るのをっっっっっ! やめないっっっっっっ!」  
「あー! もう駄目だわ! 全然駄目!」  
「何がだよ! たった今目的ど真ん中の写真捨てただろお前! 山吹色の波紋疾走喰らいたい  
のかこらぁ! ど真ん中は山形の米だぞこらぁ!」  
「そんな過去の話はどうでもいいの! みんなのスナップ見たけど全然普通だわ!」  
「は?」  
「あの、キョンくんに撮って貰った写真だけど、キョンくんの腕とかじゃなくって、なんて言う  
かその…」  
「え?」  
「焦点がハッキリしない。これでは写真からのメッセージが伝わらない」  
「はい?」  
「被写体としてのあたし達が未熟だったのよ! これじゃ震えるハートを燃え尽きる程ヒート  
出来ないわ!」  
 何一つ言っている事が理解出来ず呆然とする俺と古泉の前で、三人は帰り支度を始めた。  
「わたし、ハートを鷲掴みにする被写体になってみせます!」  
「脳に焼き付いて離れない被写体になる」  
「何の話でございましょうか?」  
「だから! どこの誰だか分からない幽霊写真なんてナンセンスオブナンセンスよ! せっかくの  
カメラならやっぱり見て楽しい、美しいものを撮らなくちゃ! と言う訳でキョン! あんたには  
超特別にあたしたちのセルフヌ…自分取りポートレートの独占審査権あげる! 誰のポートレートが  
一番かしっかり審査しなさい!」  
 いつから心霊写真探しがポートレートコンテストになったんだよおい。  
 それと最初に言いかけて引っ込めた言葉が非常に異常に気になるぞ。  
 
「と言う訳でこれから帰ってあたし達、それぞれ写真撮り直すから、キョンはソレを見て誰がほんめ…  
じゃなくてスナップがいいか判断しなさい! 公平を期す為に見ていいのはアンタだけだからね!  
絶対に!」  
 三人は帰りの挨拶もそこそこに帰ってしまった。  
「…古泉、俺は自分が日本語を理解しているのか不安になった」  
「ご安心を。僕もです」  
 
 二日後。  
 登校時、俺はハルヒ、長門、朝比奈さんの順番で封筒を一封ずつ受け取った。  
 それぞれ封に申し合わせたかの様に全く同じ文字が、筆ででっかく、『独りで観るべし』と  
書かれていた。  
 挑戦状か何かだなまるで。  
 三人の文句もそうだった。ハルヒの場合。  
「あんた、これを見たからには腹をくくりなさい。でないと後悔する事になるからね!」  
 朝比奈さんの場合。  
「あ、あのあの、これ、キョンくんが見たら…もう、絶対に後取り出来ませんからね?  
禁則事項も…ありえますから」  
 長門の場合。  
「上手く言語化出来ない。情報に齟齬が生じるかも知れない。でも聞いて。あなたは、きっと  
これを見たら覚悟が決まる」  
 そして俺は帰路につき、今机の前に三封の封筒を並べている。  
 一体何が覚悟で何が後悔なんだか。  
 そもそも三人は心霊写真云々の話がどうして自分のポートレートの話になったんだ? それを  
自分撮りしてきただけの話だろ?  
 えーと、そんじゃま、お三方の果たし状、じゃなくて自分取りポートレートを見させていただき  
まふんがっふ!  
「キョンくーん! いまのこえなにー?」  
「よい子は来ちゃ駄目だ! あっち行ってなさい!」  
「えー? キョンくんいけずー。そんじゃかわりにおふろいっしょー」  
 風呂でも布団でもなんでもするから今は来ないでくれ妹よ。  
 俺は机の上にうっかりまとめてばらまいてしまった写真から目が離せず、しばらく思考は  
混乱を続けた。  
 何このカルマ。と言うかカオスは。  
 
 次の日。  
 俺は部室で珍しく誰よりも上に立って三人に説教をしていた。  
「…だって、あれは芸術だし…」  
「芸術じゃない! あれはポルノだ!」  
「でで、でも…彫像とかでもヌードがあたりまえですし…」  
「あっ…あんなポーズとった彫像俺は知りません!」  
「性的刺激はある意味究極の芸術」  
「あれは劣情を催すって言うんだよ!」  
 三人がよこしたポートレート。  
 それは職務質問されて持ち物検査された日には間違いなく任意同行決定になる超ヤバイ…その…何と  
 いうか…ヌードというのも憚られるアレな写真だった。  
 モロの。  
 見ちゃったよ! 俺うっかり無防備に見ちゃったよ! お婿に行けない!  
「! な、ならあたしが責任とって…」  
「わわ、わたし、どんな苦難ものりこえましゅ!」  
「女子は16歳から婚姻が可能」  
「そうじゃなくて! ああもうなんて言えばいいんだよ!」  
「あ、もしかして…やっぱり写真じゃ物足りなかった?」  
「そ、そうですよね! やっぱり柔らかさとか質感が大事ですよね!」  
「…肌の重なり合いは何よりのスキンシップ」  
「あたしたちの勝負はこれからよね!」  
「ご愛読ありがとうございましゅた」  
「未完。と言うかこれから始まる。否、始める」  
 違うっっ!  
 三人ともそんな目で俺を見るな!  
 スカートに手をかけるな!  
 そして俺の服のボタンをはずすなっ!  
 何で三人ともスイッチの入り方と方向の間違い方が一緒なんだよ!  
 古泉! こういうときこそ空気読まずに入ってこい! なんで来ないんだ!  
 …まさか、来られない?  
 俺の表情に何かを気取ったハルヒが、勝ち誇った様ににんまりと笑いながら俺にのし掛かる。  
「ふふっ。キョン、こういう時って…なんて言うのがいいか知ってる?」  
「…わからないな」  
「あ、私わかります」  
「私も」  
 お、お二方?  
「じゃ、みんな一緒に…」  
「「「いただきます」」」  
 おかーーーさぁーーーんっっ!  
 
 
 
完  
 

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