「なあ、そろそろ涼宮と正式に付き合ったらどうだ」
ハルヒと俺が友達になり、変なクラブを作り、その変なクラブにハルヒが宇宙人、未来人、超能力者を勧誘してから数ヵ月が経った。
俺は恋人としてお付き合いするなら未来人の上級生しかないと思っていた。
続けて友人は宇宙人の名前を恋人候補としてあげたが、それもいまいち俺の好みでは無かった。
「ふーん、あんたの気持ちは判ったわ。でもあたしの団は恋愛禁止なのよ。恋愛なんて浮ついたことは禁止よ」
いつの間にか現れたハルヒの目は笑っていなかった。「しまった」という顔の俺と友人がいた。
俺はハルヒの機嫌が悪いことはあの話が原因と思っていた。だから、世界が変わったことに気がつかなかった。
授業が終わった時、後ろの席でハルヒは熟睡していた。
「ハルヒ起きろ。部室に行くぞ」
「気安く触らないでよ」バシーン
殴られた
しょうがないので、先に部室に行き、超能力者の男子生徒にハルヒと仲直りする方法を相談することにした。
だが、
我が部室には、別の部が占拠していた。そして、誰も我が団のことを知らなかった。生徒会の陰謀というのも頭によぎったが、皆が皆、何も知らないととぼけられるほど演技力があるとは思えなかった。
「そうだ、あいつだ」
超能力者も宇宙人もクラスにはいなかった。初めから存在していなかったのである。未来人も同様。
ハルヒ。あいつらを排除してまで俺を独占したいのか。これは俺に対する罰なのか?
下校するハルヒに思わず掴みかかる。
「ハルヒ。これはどういうことだ」
「離してよ変態」
また殴られた
無意識に世界を改変するハルヒを問い詰めても、何も出ないことはちょっと考えれば判ることだった。
「お前、いつの間に涼宮が好きになったんだ」
「止めとけ、告白しても断られるだけ。誰もOKもらってないぞ」
俺達が友達だったことも無かったことにされていた。
その後数日間。俺は憂鬱そのもの、後ろの席のハルヒは俺と付き合う前の仏頂面だった。
「ハルヒ、俺はお前がいないと生きていけないんだ」
一時の気の迷いか、それとも本心か。気がついたらハルヒに告白していた。
「あんたがそんなに言うなら、付き合ってやっても良いわよ。でも、あたしをうんと楽しめないとタダじゃおかないわ」
そう言って、ハルヒは悪戯っぽく笑った。
はっきり言って、OKされるとは思っていなかった。
だが、
「やっぱりあんたも普通の男なのね。全然つまんないわ。時間の無駄だからもう付きまとわないでよ」
日に日に機嫌の悪くなっていくハルヒは俺に突然切り出した。一週間続いたのは長い方なのだろうか。
普通の人間である俺がハルヒの好みでは無かったのだろうか、それとも未来人の上級生を未だに諦めきれずにいることが薄々判ったのか、それとも、機嫌の悪くなるハルヒに対する俺の態度が適切では無かったのだろうか。
ハルヒと楽しく遊んだ記憶は俺の願望による妄想だったのだろうか。いつの間にか、俺はハルヒに告白して「OKをもらってすぐふられた」男の一人になっていた。
その後ヘタレな俺はハルヒに再び告白することは無かった。
もしかしたら、もしかして、涼宮ハルヒは俺からのもう一度の告白を待っていたのかもしれない。もしそうなら、と後悔することもある。
その後ずっと、涼宮は機嫌の悪そうにムスッとしていた。あの顔に告白しする勇気は無かった。
そして、何も起こらないまま、あっという間に俺達は高校生になった。
高校生になって数ヵ月。涼宮は、中学時代に見られた、あの世の中全てが面白くないと思って、愛想笑いすらしない顔でなく、夢の中で俺達と付き合っていたよりは少し劣るが、真夏の太陽のように輝く笑顔だった。
俺は涼宮の笑顔が好きだった。だが、涼宮の横には俺でなく高校で俺が知り合った友人がいた。
「なあキョン。そろそろ観念して涼宮と付き合ったらどうだ?」
奴は、あの夢の俺のように「朝比奈さんが好き」と言った。俺の夢の中の未来人は朝比奈さんではなかったが、何故か同じと思った。
(終わり)