涼宮さんが、彼を連れて別世界に消えてしまった日。朝比奈さんと長門さんから伝言を預かっ
た僕は、仲間の力を借りて閉鎖空間に飛び立ちました。神の気紛れによって世界は終わりを
迎えるのかもしれない。
圧倒的な絶望を前にして、僕たちに何ができるのか。
今日という日ほど自分の無力さを呪ったことはありません。
見えない力に妨害されながらもようやく閉鎖空間にたどり着き、彼に伝言を伝えてきました。
現実空間に帰還後。僕はSOS団部室へと向かいました。そして僕がドアを開けようとした瞬間、
室内の声が漏れ聞こえてきたのです。思わずその場にとどまって耳をすませました。
「ごめんなさい。私が軽率な行動をしてしまったばっかりに涼宮さんとキョン君が……」
「泣かないで。それに今、悔やんで過ごすような時間の余裕はない。もしあなたが心から悔いて
いるなら、私に協力して欲しい」
「えっ、も、もちろん私にできることなら何でもお手伝いさせてもらいます。何でも言って下さい」
「このパソコンを媒体として彼にメッセージを送る。涼宮ハルヒの力によって妨害され、直接彼に
語りかけることは不可能でも文字データの投影なら可能。この時空間の消失を防ぐ最後の手段」
「なるほど、さすが長門さん凄いです!」
「ただし私はパソコンの入力操作を行ったことがない。だからあなたは私の代わりに文字入力を
行って欲しい」
「ええっ!? お力になりたいのは山々ですけれど、私こういう作業が苦手で……メールを打つの
も遅いですし……」
「簡単な作業」
「ほ、ほら! もしかしたら将来、コンピ研さんがパソコンを取り返すためにSOS団にゲーム勝負を
挑んでくるかもしれませんし。その時に備えて今から予習しておくのも悪くないと思いますけれど」
「彼と涼宮ハルヒを助け出さないことにはその可能性は皆無」
「あうっ」
「さきほど言ったはず。私は入力操作を行ったことがない上に時間の余裕もない。最早この時空の
運命はあなたの双肩にかかっていると言っても過言ではない」
「あうあうっ」
「私が入力してもかまわない。ゆっくりゆっくりと。彼がやきもきするほどのスピードでタイピングを
終えた時にこの時空が存在しているかどうか、私にはわからない……あなたは本当に心から悔い
ているの?」
「あうあうあうっ」
「今は一刻を争う。急いで。パソコン前の椅子に座って」
「は、はい、とにかくやってみます!」
「まずは『みえてる?』と入力してほしい。脱出手段を探している彼に私だと伝えるため」
YUKI.N>みえてる?(笑)
「これで大丈夫ですよね」
「大丈夫。その調子。今度は『そっちの時空間とはまだ完全には連結を絶たれていない』」
YUKI.N>ξッちσ日寺空間`⊂レ£маT=〃完全レニレ£連結を絶T=яёτレヽTょレヽ★
「文字化けしちゃっているけど大丈夫ですよね」
「大丈夫。秀逸なデザイン。今度は『情報思念体は失望している』」
YUKI.N>
情状酌量の余地無しね。あんたの頭の具合には我慢強いあたしも愛想をつかしたわ。団長への定期
報告を怠るなんてなめてんの? いい、不思議探索を遊びだと思ってもらうと困るの。SOS団が世界を
統一するための輝かしい第一歩。絶対に欠かすことのできない行事なの。ハルヒの両腕がゆらりと動く。
合気道の達人が空手の有段者をあしらう動きだ、と脳が認識した瞬間、俺は地面にひっくり返っていた。
思うが、世界はいつも俺に優しくない。だから後頭部のたんこぶよ俺をいたわっ……おい、何故服を脱ぐ!?
念願の口実が出来たわ。あたしもう我慢できないの。いつか教室で言ったでしょう。若い女なんだから
体を持て余す時がある。今、そうなの。これは『お仕置き』。ふふっ逆レイプが初体験だなんて普通じゃないわ!
はにかんだ笑顔を見せるハルヒの瞳はどんな闇よりも黒く深く、太陽の光さえそこに絡め取られていた。
失って初めて気付く、なんてチープな言葉を並べ立てるつもりはないが。誰にもささやかな願いがある。
望みを叶えようと汗を流して頑張っていれば、いつか絶対叶うような、小市民的な幸せってやつ。
しょうもないと笑ってくれてもいい。俺にとっては『いつか、可愛い嫁さんと愛し愛され初Hする』だったのさ。
てんで話にならない。こんな形で卒業することになるなんて。どうしてこんなことになっちまったんだか。
いつか、とは一瞬先の未来なんだ。キョンのち○ぽとご対面〜!最近はアンタのためにオナニーも我慢してい
るんだからね、というハルヒはこれ以上ないほどご機嫌だった。
「ちょっと読みにくいですけどやっぱり大丈夫ですよね」
「大丈夫。あと一息。今度は『sleeping beauty』」
「あっ……送信する前にデータが消えちゃいました。画面が真っ黒ですぅ」
「アクセス再試行。不許可。制限時間と思われる」
「すいません、私が普段からもっと練習しておけばこんなことにはならなかったのに……本当私って
役立たずですよね」
「あなたはベストを尽くした。情報統合思念体は満足している」
「ありがとうございます。あ、お茶淹れますね」
「こちらこそ感謝する。ありがとう」
「……はい、おいしいお茶を淹れますから少しだけ待ってていてください!」
どうやら上手くいったようです。ぎこちない関係を続けていた二人の距離も、この共同作業によって
少し縮まったのかもしれませんね。
さて、僕も少しばかり疲れました。食べ物をよこせとお腹が鳴っています。朝比奈さんの淹れる温かい
お茶が恋しくなってきました。部屋にお邪魔させてもらうとしましょう。
「フフッ、あなたには感謝すべきなんでしょうね」
「本当にそうだよ馬鹿!」