「僕なりに考えた、この世界が成り立った仮説を聞いてもらえますか」
古泉が額にトランプを掲げた状態で告げてくる。俺もまた似たようなポーズを取っているので格好に関しては特に
突っ込まない。突っ込むべきは古泉の切り出してきた内容についてだろう。
「かつてこの世には様々な世界があった。そう、かつて世界とは一つではなかったと仮定した話です」
古泉がいつもと違い突然ぶっ飛んだ内容を話し始めたのは果たして何かの悪巧みの前触れなのか。
それがどうしたと俺は相槌をもって話を促す。古泉は頷くと
「気になっていたんです。何故僕のような超能力者なんて存在がいるのか。長門さんや朝比奈さんといった人たちが
いるのかと」
「ハルヒが望んだから、あるいは見つけ出したから。お前らの意見はそんなじゃなかったか?」
昨年秋のトンデモ映画を撮影中古泉をはじめ三つの勢力団体は、それぞれの代表を仲介しそれぞれの考えを俺に
暴露してきた事があった。あの話をまとめるならまず世界があり、そこにハルヒが何らかの介入をしているという
事だったはずだ。
「ええ、その通りです。ですからあくまで証拠も裏も無いたんなる仮説を語っているのですよ」
古泉は朝比奈さん特製の雁音を啜ると一息つく。その表情を俺なりに読み取ってみたがどうも本当に単なる話で
しかないようだった。まぁ年中ハルヒだ世界だ《神人》だと語るよりかは与太話の方がましってもんだ。
それで何だったっけ、えっと世界が複数あるだったか?
「はい。玉石混淆、世界にはそれぞれ特徴がありました。例えば僕のように身体能力を上昇させる超能力者がいる世界。
または全てを可能にする長門さんやその上の方々のようなロジック集団がいる世界、未来人と言える先を見通せる能力を
持つ者たちの世界。更には神や悪魔の世界などもあるかもしれませんし、今のこの世界のように何の変哲も無い世界も
あったかもしれません」
ちょっと待て、どこのジュブナリア小説の設定だソレは。胡散臭いを通り越してファンタジーの領域に話が突入したぞ。
「世界は並列に複数存在する……それは昨年僕が嫌と言うほど思い知った現実です。あなたは違いますか?」
カマドウマに閉鎖空間にハルヒの世界書き換え、万を越えるループタイムにSOSが消失した世界……。
挙げ出したらキリが無いが確かに複数の世界はあると言ってもいいだろう。だったら古泉が言うような世界もあるいは
あるのかも知れん。
「話を進めます。僕が先ほどあげた並列世界、それらの世界は何らかの理由で一つにならねばならなかった。
生き残りをかけた世界間戦争です。その結果消えていった世界や統合された世界等もある事でしょう。
今の僕たちのように別世界の要人を守る為に東奔西走した異世界人もいたかもしれません。
やがて、一つだけ世界が生き残ります。
その世界は複数の世界の住人を取り込み、かつそれらがおかしくならないように纏め上げられた世界となりました。
勝者特権として全ての世界を自由に出来る権限を与えられ、世界はこの形に落ち着いたのです。そう、四年前に」
「アホらしい」
俺はあっさりと古泉の仮説を一蹴するとゲームの掛け金を増額した。仮説とはいえあまりにも内容が幻想過ぎる。
大体だ、どうやったらそんな異能世界が蠢く中でこの普通の世界が勝利するっていうんだ。
「それは僕が聞きたいぐらいです」
古泉は掲げたカードを下ろしてゲームを降りる意志を見せつつ、質問に質問を返してきた。
「普通人のあなたが何故こうして今此処にいられるのか。
まるでアナタというセカイを誰かがまもっているかのような……そんな事は考えた事ありませんか?」
……と。