「やぁ! キョン君久しぶりっ、元気だった?」  
 
あいかわらず、陽気な人だ。  
すいません、夜分遅く……実は折り入って相談したいことがあって……  
 
「んー、ハルにゃんのことだねっ! 今日キョン君はお店にいったんだよね?」  
 
えっ、なぜそれを……。  
 
「あそこはウチの傘下なのさ、ついでにいうとあたしがハルにゃんをあそこに紹介したんだよっ! 」  
 
俺は聞き間違いかと思い鶴屋さんに問いただした、すると鶴屋さんはいつものテンションで事情をはなし始める。  
 
「ハルにゃん危なかったんだよ、もうちょっと遅かったら外国に送られてもう日本に帰ってこれなくなるところだったのさっ!  
 あんなところにいったら危ない病気うつされてニ年と生きられないから今頃は生きていなかったかもなのさっ。  
 商品の発送リストにハルにゃんの写真を見つけて驚いたっさ、すぐに連絡して手配をとめてもらったよ。  
 なんたってハルにゃんはあたしの友達だからねっ、でもリストは向こうに送ったあとだったから美人さんのハルにゃんのキャンセルは発送先がごねたけどなんとかキャンセル料だけで勘弁してもらったにょろ」  
 
俺はあまりの話に耳を疑った、ハルヒが外国に売りとばされる……おそらくアイツの仕業だろう。  
そういえばアイツはまだハルヒを食い物しているのだろうか、ハルヒを苦しめている原因は借金だけではなかったのだ。  
 
「そのついでにハルにゃんについていた悪い虫を退治しといたよっ、きっと今頃は砂漠の真ん中で労働に勤しんでるねっ、まぁそれもまだ生きていればだけどね。  
 キャンセル料と悪い虫の退治費用にニ百万ちょっとかかったのさっ、けど友達のハルにゃんだからあたしが払ったにょろよ。  
 でもハルにゃん名義の借金はその時点で億を超えていたっさ、いくら友達でも億は無理にょろよ  
 それでハルにゃんと借金について話しあってたら、どんな仕事でもして借金を返すっていうからあのお店を紹介したっさ。  
 悪い虫も退治したし、借金はうちの弁護士に頼んで法定利息で計算しなおして貰って一本にまとめて総額も金利も抑えたから、あとはハルにゃんが頑張って借金をかえすだけにょろ、それに返済は日払いだから月払いよりも利息がかからないんだよっ!  
 ハルにゃんは頑張り屋さんだからあと一年もあれば全額返済できるよっ!」  
 
俺は鶴屋さんに『ハルヒの命を助けてくれておまけにアイツを退治してくれた』と礼をいうべきかそれとも『友達をあんな店に紹介とは』と問い詰めるべきなのかわからなかった、鶴屋さんの話を聞いた俺はひどく混乱していた。  
ただ俺はハルヒを助けたかった。  
すいません鶴屋さん、俺ハルヒをなんとかしてやりたいんです。借金なら俺がバイトでもなんでもしますからあいつを助けてやってください。  
 
「例えばね、キョン君が一生懸命のまず食わずバイトして働いてもキョン君の一ヶ月分のお給料はハルにゃんの一日分の売り上げにも満たないっさ、焼け石に水にょろ」  
 
……それでもいいんです、俺…肝心なときにあいつのそばにいてやれなくて……だから…バイト代全部持ってきますから。  
 
「ふえっ! そりゃいいけどさ、あと一年があと11ヶ月と3週間になるだけだよ?」  
 
お願いします、それでもいいです、鶴屋さん…俺なんでもしますから。  
 
「んー、ホントになんでもするの? キョン君、その言葉に嘘偽りはないのかねっ?」  
 
勿論です、鶴屋さん。  
 
「古泉君、あの仕事キョン君にどうかな?」  
 
鶴屋さんは同席していた古泉に話を振る。  
 
「彼は少しトウが立っていますがまだ大丈夫かと……、しかし……あの仕事は……」  
 
古泉頼む、俺はハルヒの役に立ちたいんだ。  
 
「確かにあの仕事でしたら、1年が十ヶ月、ひょっとすると八ヶ月になるかもしれませんが……、本当によろしいのですか?」  
 
その仕事の内容を聞かされ、俺は驚愕した。古泉と鶴屋さんからはもう一度落ち着いて考え直した方がいいといわれた。  
しかし俺はその仕事を受けることにした。ハルヒを助けるには一番の近道に思えたからだった。  
 
俺は東京に戻り大学で中退の手続きをとった、そして家財道具を処分しアパートを引き払ったのち指定された場所へと向かった。  
いわゆる二丁目というところだ。  
実家には『事情があり大学をやめ暫く連絡がとれなくなるが心配しないで欲しい』とだけ書いた手紙を送った。  
 
最初の相手は40代のマッチョな角刈りだった。初めてしたときハルヒが凄く痛がった理由を俺は身を持って体感させられた。  
ビデオにもでた、もちろん男同士、出た方が人気がでて指名が増えると言われたからだ。  
無精な俺だったが業務日誌もつけ始めた、お客さんの性癖を把握し常連さんを増やすためだ。  
ビデオのせいなのかどうか指名は増え俺は掘ったり掘られたりの毎日を過ごした。  
男だけではなく女性の相手もした、もっとも女性といってもいわゆるマダムと呼ばれる40代、50代といった層。  
三段腹だろうが四段腹だろうが相手が女性である以上、俺は男としての義務を果たした。  
節約のため部屋は借りなかった。泊まりが取れずにあぶれたときはハルヒに習い事務所で毛布にくるまった。  
ついでにいうとハルヒが言った「おしっこはしょっぱい」や「男の人のは苦い」の真偽は何度も身をもって確認させられた。  
そのほかいろんなことがあったが、人間死ぬほどの辛い目にあうと自殺しようという気すらわかないとだけ言っておこう。  
 
 
七ヶ月ほどたったある日の朝、古泉が事務所にやってきて「ノーサイドです」といつものにやけ顔でいった。  
 
「試合終了ということです、お二人とも頑張られたお陰で今日のお二人の予定ノルマと借金の残額がほぼイコールです、つまり本日の売り上げで借金が完済されます。  
 キャンセルかなにかでノルマに満たなくてもその分はこちらでかぶるということで鶴屋さんの了承は得ています。まぁいわば今日はロスタイムですかね」  
 
俺は古泉にありがとうといい昼前には向こうへ戻るという奴を待たせハルヒに宛てて手紙を書いた。  
これまでの簡単な経緯と今の俺の仕事のこと、それともうハルヒの借金はなくなったこと、親父さんたちの入院費なら俺とハルヒの二人いれば店をやめて普通の仕事をしてもまかなえること、  
そして最後に明日いつもの駅前の喫茶店で待っている…と、そして手紙を古泉に託し俺は仕事へと向かった。  
 
最後の仕事を終えた俺は荷物をまとめ夜行バスに飛び乗った。荷物の中味は少々の着替えとこれまでの業務日誌、それと今回の体験を元に書き溜めた小説の原稿だった。  
 
夜間バスが揺れ浅い眠りから目覚めた俺は朝の光のもと最後の推敲を行った。  
そしてバスを降りた俺は郵便局の時間外窓口により出版社へと原稿を発送した。  
これは自分なりのけじめ…もしくは自己満足……俺は誰かにこの七ヶ月間の事を知ってほしかっただけなのかもしれない。  
 
電車を乗り継ぎSOS団御用達だった駅前に到着した俺は例の喫茶店に飛び込みモーニングを頼んだ。  
そしてハルヒが来るのを待つ、本当にあいつが来るのかどうかはわからない。  
 
強行軍の疲れが出たのか俺はしばしまどろんでしまった。するとこの七ヶ月間待ちわびた声が俺の意識を目覚めさせる。  
 
「キョン、……あんたバカよ……、…でも…ありがと…」  
 
見上げるとハルヒの目から涙があふれていた、だがその瞳は前回わかれた時のうつろなものではなく高校時代の輝きをとりもどしていた。  
 
 
< エピローグ >  
 
その後のことを少しだけ語ろう。  
俺達二人は喫茶店の店内で人目も憚らず抱き合い号泣した、まぁ人目といってもマスターしかいなかったわけだが。  
俺達が店を追い出されなかった理由はほとんど客が来ないであろう時間帯だったからか、それとも昔の常連のよしみか  
はたまた俺達の異様な雰囲気にマスターが呑まれたのかは定かではない。  
そして俺達は俺の実家に向かった。親父たちには古泉を通して今日戻ると連絡してあった。  
 
俺とハルヒは包み隠さず全てを話し、俺は親不孝をわびた、お袋と妹は泣き親父は俺をバカヤローと殴った。  
親父とお袋の頭は白いものが増えており俺は自分がした親不孝を実感させられた。  
それでもしまいには親父達は俺を許しハルヒを受け入れてくれた…家族とは本当に有難いものだ。  
 
昼食をご馳走になった俺達はハルヒの両親を見舞うため病院へ向かった。  
開口一番ハルヒは両親にごめんなさいといい、そのまま両親に抱きつき泣きじゃくった。  
俺がハルヒに代わってアイツはもういないことや俺達の仕事のこと、借金の返済が終わり、ハルヒも俺も仕事もやめた事をはなした。  
胸のつかえが一気に降りたのか、親父さんは見舞いのケーキを三つも食べ、おふくろさんはそれを見てにこやかに笑った。その表情はまだ固いものの快方への手ごたえを感じた。  
 
半ば強引に外出許可を取り付けた俺達はその足で市役所へ向かい待っていた俺の親父達と合流した。  
そしてお互いの家族に見守られながら、俺とハルヒは婚姻届を提出し窓口の前でキスをした。  
誓いのキス…俺達なりの結婚式のつもりだった。金が無い俺たちの新居は実家の俺の部屋だ、店をやめたハルヒは住むところがなかったので丁度よかった。  
 
親父さん達を病院に送った帰り際、例の事務長とやらがハルヒにセクハラをしかけてきた、ハルヒは適当に交わしていたが余りにしつこいので俺は思わずそいつをぶっとばそうとした。  
しかしその前にハルヒのとび蹴りが炸裂、あわや警察沙汰かと思われたが向こうにもやましいところがあるからなのかとび蹴りの件は不問となった。  
もしかするとナース服、赤ちゃん、おむつ、おもらしというハルヒの呟きが功を奏したのかもしれない。  
 
俺は親父の世話でコンビニの雇われ店長をすることになった、学生時代にコンビニでバイトをしていたこともありなんとかこなすことができている。  
ちなみに雇われ店長である俺の最初の仕事はハルヒをバイトとして採用することだった。人妻なのにハルヒはなぜか看板娘と自称している。  
 
そして最初の給料が出た次の日コンビニの上のワンルームに俺達は引っ越した。  
理由は嫁姑問題などではなく築十数年の安普請の壁は薄く俺達新婚夫婦の夜の営みはやや騒々しすぎたからだ。  
結婚四日目には妹から苦情がきた。さすがに中学生ともなると夜中の物音が只のプロレスごっごではないことがわかるらしい。  
 
この町から引っ越さないのはハルヒの意志、別の町に移り住んで隠していてもどうせいつかは誰かにばれる、その時にばらす、ばらさないで脅迫されたりゴタゴタするのは嫌だという。  
この町ならそれが周知の事実なので脅しようがないからいいというのが引っ越さない理由だ。  
 
そして雇われ店長の仕事になれたころ出版社から連絡があった。俺の小説は新人賞の佳作にひっかかり作家デビューを果たすことになった。  
俺のデビュー作はバカ売れというわけではないが増刷がかかり売れ行き好調らしい、そこそこの印税も手に入れた俺は今二作目を執筆中だ。  
二作目の印税が入ったら今任されているコンビニの権利を譲ってもらい俺は雇われ店長からオーナー店長になるつもりでいる。コンビニの売り上げはかなり好調でハルヒは看板娘である自分の功績だといいはっている。  
 
ハルヒの親御さん達はめきめきと容態が回復し退院した、親父さん達には俺たちの隣の部屋に住んでもらいコンビニの仕事を手伝ってもらっている。俺のあだ名はそのうちキョンではなくマスオさんになるかもしれない。  
ついでに俺の両親のことを話すが俺達新婚夫婦に刺激されハッスルしたものか、なんと俺には妹か弟ができるらしい。絶対キョンではなくおにぃちゃんと俺のことを呼ばせようと心に誓った。  
ハルヒは俺の作家デビューに触発されたのか自分も作家になるといって仕事の合間になにやら小説を執筆中だ。  
いわく、とてつもなく壮大な世界観で空前絶後のストーリー、そしてもの凄く魅力的な主人公だそうでベストセラー間違い無しなんだそうだ。  
しかしあきっぽいあいつのことだから最後まで書き上げられるかどうかはわからない。  
 
そして俺たちはとあるホテルにきている、今日はここで俺達の学年全体の北高同窓会があるという。  
転送されて来た俺の実家宛ての案内葉書を目ざとく見つけたハルヒは参加をしぶる俺に絶対でるといいはった。  
参加者の半分近くがハルヒのかつての仕事を知っており出席すれば全員に知れ渡るだろう。  
なのでわざわざさらし者になりに行く必要はないと俺はいった。  
ハルヒはいつまでも逃げている訳にはいかないし、ここで一辺に勝負をつけると後が楽になると頑強に主張した。  
公の場でお披露目してしまえば影でこそこそいうやつも出にくくなるともいった。  
俺は折れて夫婦二人で出席すると幹事に返事をだした。  
 
なぁハルヒいまならまだ引き返してもいいんだぞと俺はハルヒに確認する。会場のホールは目の前だ。  
 
「うるさいわねぇ、行くって決めたんだから今更ぐずぐずいわないの」  
 
言葉とは裏腹に心細いのかハルヒは俺の手を握り締めている。  
この会場に限らずこれからも俺やハルヒの事をとやかくいい、ハルヒの心を傷つける奴は尽きないだろう。  
そんなとき俺はハルヒを支え苦しみを分かちあっていきたい、いつでもハルヒの心を守る盾になりたい俺はそう思っている。  
 
ホールに入ろうとするに俺達に気が付いた連中がヒソヒソとささやきを交わす、『フーゾク』、『ソープ』などという単語が聞こえてくる。  
ハルヒの動揺が俺の手に伝わってくる、俺はハルヒの手を握り直す、するとハルヒも握り返してくる。  
俺たちは顔を見合わせお互いの意志を確認した。  
 
そして俺達は足並を揃えて騒がしい場内へと一歩を踏み出した。  
 
− 終わり −  
 

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