学生時代の思い出はどこまでも甘美で、いつも眩しかった、とは言い難い。SOS団団長をめぐっ  
ての小競り合いが起きるたびに、しかたなしに力の限り走り回ったが、どうしてなのか無報酬労働は  
ざらだったのである。  
 肝を冷やすような体験の果てに得るものが栄光や金銭でなく、ごくごく普通の日常生活なのである。  
 危ういバランスの上に成り立つ世界を守り抜いたはずなのに、結果、それはスタートラインであり借  
金の清算に過ぎない。俺の理想とするダラダラ青春を謳歌しているようでいて、その実、疲労困憊の  
毎日だった。  
 皆想像してほしい、自分がいつのまにやら延々と続くボランティア・マラソン・レースに参加させられ  
ている状況を。気分はいかがだろうか。  
 怠惰の証とされる授業中の睡眠も疲労回復に充てられたものであって、消して怠惰によるもので  
はなかった。これはもう割に合わないと、ことあるごとに思っていた。  
 だが社会人となった今、どうにもならない事態に直面した時に支えとなってくれるのは、そんな高校  
時代に培った経験であり人脈だった。馬鹿な話に花を咲かせるのはいつだって旧友とであり、慶事  
弔事の際、真っ先に駆けつけてくれるのは昔から見知った顔ばかりだった。  
 嫌なニュースを右から左に流してしまうような芸当も、「少しだけ」を気が遠くなるほど積み重ねて  
「ずっと」にするなんていう、危機感一つなくダラダラしているだけじゃ身につかない技術もそうだろう。  
 不条理な状況におかれて寝付けない夜も、SOS団活動の思い出を反芻するうちに不安は解きほ  
ぐされて、いつしかおやすみなさいだった。  
 俺が身につけた知恵や処世術はどれも、あの奇想天外な集団からの贈りものであり、いつしかゆる  
ぎないものとなって根付いていた。  
 
 ついぞ感謝なんてしたことなかったが、そんな事実に気付いてしまえば馬鹿騒ぎ集団がずいぶん愛し  
く思えるのだった。今日は朝から何かにつけ学生時代と今の状況を比較していたし、仕事から開放さ  
れた就業後には思い出を拾い集め、普段は居眠りしているか携帯をいじっている帰宅途中の電車内  
では、そいつを端から順になぞっていた。  
 あの頃、放課後はたいてい毎日文芸部部室に赴き、ボードゲームに興じていた。茶で舌先を湿らせ  
て、盤面を見つめて牌をどこに置くか思案しているうちにドアが勢いよく開いてハルヒが飛び込んでくる。  
 自信に満ち溢れた口調でぶちまけられる案件に、俺は毎回心底呆れ、椅子からずり落ちそうになっ  
ていた。  
 意識は十年と少し前の高校時代に立ち返り、浮かび上がって部室全てを見渡している。  
 入ってすぐに置かれた長机とパイプ椅子、壁際の本棚やホワイトボード。ハンガーにかけられた衣装、  
丸机にはパソコンとケーブル類があった。  
 一つ瞬きするたびにアングルが切り替わって、見たこともないような角度から部室を次々映し出した。  
最初はいちいち珍しがっていたが、映像が流れるうちに、それは自分でも気付かないうちに拾い集め  
ていた風景なのだという結論に行き当たり、どれだけあの場所で長く濃い時間を過ごしていたのか思い  
知った。  
 
 ハルヒがビラを団員に手渡して、演説を始めた。目を通すや一掃苦々しい表情になる当時の自分  
とは違い、観客としての俺はひどく落ち着いた気持ちだった。ビジョンに映る憤った自分は、暴走する  
団長をあの手この手で言いくるめようと必死だった。わずかな余裕もないものだから、もうちょっと気楽に  
やれよ雑用係、なんて適当な言葉をかけてやりたくなった。  
 ある意味俺の人生はここから始まったんだろうな。  
 自分はどんな人間なのか、そしてどうやって歩いていけばいいのか。自覚こそなかったが、「俺」という  
嗜好思考が作られたのはこの時期だったんだろう。  
 文芸部部室の匂いまで鮮明に思い出されるほど浸った時に、最寄り駅だと告げるアナウンスが聞こえ  
て、一度回想を打ち切り、俺は席を立った。  
 
 ぬるくなってきた夜風になぶられながら歩き、駅から2LDK月8万円の我が城へと戻ってくる。ドアの  
前で一度深呼吸してからくぐり抜けた。  
 ただいまと言うよりも早く、パジャマ姿の我が子たちが駆けよってきた。ちっこい女の子とさらにちっこい  
女の子の二人組みが、毎日大歓迎してくれる。そのたびに得も言えない震えが背筋を駆け上るものだっ  
た。  
 ついさっき風呂から上がったばかりなのか、飛び跳ねるたびに二人の髪の毛から滴が飛んで床を濡らす。  
舌っ足らずな口調で「おかえり」と言ってくれたあと「うひぃ」だか「むふぅ」だか奇声を発しながら、うがい  
手洗いをしている俺の周りをぐるぐる回っていたが、遊んでて欲しいのかそのうちよじ登ってきた。  
 シャツに皺できようとお構いなしだ。一人が首にぶら下がると、もう一人が空き地を探して背中へと動く。  
こら。パパをフィールドに鬼ごっこを始めるんじゃありません。おまけに仕事明けのパパには過積載だ。  
 元気の塊のような幼児は俺の手を避けて――それが逆に勢いづかせているのか――あちこち素早く  
動き回るものだから一向に捕まらない。  
「いいかげんにしなさい、ほら、な、そのアレだ。パパは疲れているうえにばっちくて、お前たちはキレイキレ  
イで。それに、あまり激しくぐるぐる動き回ると溶けてバターになっちまうぞ」  
「バター?」 くりくりと目を動かして、疑問の念を向けてきた。  
「いや、重要なのはそこじゃないんだ」  
 簡単な言葉を選んで喋ろうと思うと、上手く口が回らない。おまけに余計なところへ食いつかれた。一体  
どの角度から切り出せばいいのか。しかし読んでいないのか。この年の子供なら理解してもらえるとも考  
えたが、厳しいね。  
「ともかくすぐに降りなさい。パパだって怒る時は怒りますよ」  
「いやぁ!」  
「む、むずかられたって困るぞ。なあ頼むよ」  
「いやぁー!」  
 割れ鐘のような声で反抗された。お手上げだ。色々言ってみたもののことごとく通じない上に、いつのま  
にか俺が下手に出ている始末。終いには好きなようにしてくれと、されるがままになっていると怖いママが  
寄って来た。  
 
「ほらもう九時よ。夜更かし禁止。歯磨きした? 明日の時間割り済ませた? じゃあおやすみなさい」  
俺の身体を縦横無尽に行き来する二人組みの首根っこをすばやく掴んで、べりっと引き剥がす。ブラン  
ブラン揺れる我が子を降ろすと、ハルヒは腰に両手を当てて、ママとの約束とやらを復唱させている。  
そう、ママだ。娘のママとはつまり俺の伴侶。過去と未来は地続きなんだと痛感する。  
 しかしたいしたものだった。日頃の教育の賜物なのか、ハルヒに言われれば二人は抵抗するでもなく、  
はぁいと返事して仲良く寝室に向かっていく。  
 何度かこっちを振り返りながら消えていく背中の、聞き分けの良さに感心するがきっと今のうちだけ  
だろうね。二三年もすれば深夜番組とドラマの虜になって、学校の友達は皆観ているとか仲間はずれに  
されちゃうとか、嘘も交えてさんざん駄々をこねるんだろうな。昔の俺や妹がそうだった。  
 歴史は繰り返してその年輪を増やすのだから、そうなった時には父としての威厳を発揮しなければな  
らない。  
「おかえりなさい、はい、さっさとお風呂入っちゃって。その間にご飯温めておくから」  
 生涯教育について考えを張り巡らせているのに、団長兼妻に背中を押されて風呂場へと追いやられ  
ていく俺。が、思いのほかハルヒの力が強かったのか、俺がへたっていたのか、はたまたその両方か。まずい、  
と思ったときにはすでにバランスを崩していた。  
 バスマットに足を滑らせて勢いに流されるまま、向こうの側の壁に頭から突っ込んでいた。  
「……ひょっとしてお疲れモード?」  
「つまりはそういうことになるかな」  
 謝らないのか。赤くなった鼻を撫でながら返事をする。  
「頑張りすぎなんじゃないの」 ハルヒの指が俺の頬に触れた。  
「むしろ精神的なものだと思うんだがな。春からの入った新入社員の教育を任されているんだが、そいつ  
らに一から教えているとずっと気を張ってなきゃならんから、神経を磨り減らしてしかたがない。ミスすれ  
ば俺の責任でもあるし。厳しく接しすぎてもいけないし甘すぎるのも問題だ。いつまで立っても馴れん。  
上に立つっていうのは難しいな」  
 入社してすぐのフレッシュマンに、この俺があれやこれやと指示するわけだ。SOS団雑用係の俺が小さ  
くも一つの集団でリーダーを務める、か。楽しくもあるが中間管理職への一歩目は中々骨の折れる仕事  
だった。  
「ようやく気付いた? 雑用係でいられることの気楽さ、そして団長という称号を背負ってきたあたしの  
有能っぷりに。褒め称えなさい」  
 論点がすり替えられている気がする。取りあわないようにしよう。  
「お前のように鈍感力の塊になりたい。繊細な俺にはちょっと堪えられん」  
「アンタの場合、繊細というよりも心配性と言ったほうが似合うけどね」  
 湯船の中で寝ないでよ、と言ってハルヒはキッチンに戻っていく。  
 
 擦りガラスの向こうに湯気が立ち込め、プラスティック製の脱衣籠からは脱ぎ散らかした服が  
はみ出していた。  
 洗面台の曇った鏡には、娘たちが描いたであろう絵が残されていたが、垂れた雫によって上書きされ  
てしまい、一体何であるのかさっぱり理解できなかった。元から理解不能だったのかもしれないが。  
 リーダーなんて向いていないかな、と自問自答するが今更放り出すわけにもいかない。そんなことして  
誰が得するんだって話だ。  
 一つ書類を提出する時、食事する時でさえ縮こまり「これでいいのか」と視線をよこしてくる新入りは  
可愛くもあったがずいぶん手のかかる存在で、しょっちゅうこっちの胸まで締め付けられた。必死ですがりつ  
かれるとこっちの足場まで崩れてしまいそうになる……なんてそいつらの前じゃ口が裂けても言えない  
立場に俺はいる。  
 不安を悟られてさえならないのかもしれない。ハルヒだったら「ミスしてから言いなさい!」なんて怒鳴  
りそうだな。だが、リーダーかくあるべきか。  
 新入り連中だって一日でも早く新しい環境に適応しようと足掻いているんだから、俺がまず音を上  
げてどうする。見守ってやらないとな。教育係が一抜けして士気が下がるようなことがあってはならん。  
すぐに慣れるさ。  
 今日も一日お疲れ様だ。熱い風呂に入ってさっさと澱みを溶かしてしまおう。思いっきり寝てしまおう。  
もう体は休息を欲しがっているのかあくびまで出てきた。最近めっきり夜更かしができなくなってきた自分  
に驚きながら、タオルを棚から出し、ネクタイを緩めると同時にボタンを外そうとしたところで、ノックなし  
にドアが引かれた。  
「俺が入ろうとしているんだがな」  
 肩にハンドタオルを引っ掛けたハルヒがやってきた。  
「疲れた。今日はもうお風呂入って寝る。背中流して」とタオルを投げて寄越してくる。  
 当然とばかりに言いのけやがった。頭の中で過去と現在が正面衝突してごちゃごちゃしている。  
団活動で培われた突っ込みを今こそ発揮するべきだろう。  
 ついさっきお前から風呂に入ってくれって言われたんですがね。呆気にとられていると、  
「……臭い」  
 鼻をくんくんさせて非難の目つきでハルヒが言う。いい年した男なんだから仕方ないだろう。今から  
風呂に入ってる清めるつもりだったんだ。  
「って言うかアンタ本当に臭い! 汗かいてどれだけほったらかしなのよ、馬鹿!」  
 指を眉間すぐに突きつけてきた。  
 人が一番傷つく指摘とは体臭を否定されることなんだぞ。それは獣が体液によるマーキングで縄  
張りを主張そして察知する事実や、煙草や不摂生によってもたらされる口臭を控えることが恋人間に  
おける最低限のエチケットだという事実からも解ってもらえるだろう。  
 お前が臭いといった汗は朝から晩まで働いてきた俺の、言わば労働の結晶だぞ。  
 それを嫁から面と向かって臭いと言われた。  
 コイツは本当、俺の都合を考えない奴だな。いや、自分の都合を最優先させるといったほうが良いか。  
邪魔する奴は誰であろうと障害物にしかすぎないんだ。  
 
「知ったこっちゃないわ……そうね、まず」  
 怪しい笑みをたずさえたハルヒが、真っ直ぐ手を伸ばしてきて、俺の股間の一物を遠慮なく握った。  
 突然の痴女行為に頭がフットーしそうだよ。反射的にその手を取り押さえようと動いた瞬間、無防  
備になった首元からネクタイを引き抜かれた。  
 あっ、と寂しくなった首元を気遣うように手をやれば、先ほどと同じ要領で、がら空きになった下半身に  
狙いをつけたハルヒはズボンのベルトを引き抜きジッパーをおろす。勿論ズボンは間抜けにずり下がった。  
 三回連続ではめられはしないぞと、その体勢のまま動かず警戒していれば、獲物が逃げようとしないのは  
好都合だと丁寧にシャツを脱がされた。  
 ハルヒはそのシャツに顔を近づけ匂いをかぐと、すぐに顔をしかめて「うわっ最悪、下水道みたい!」と  
シャツを脱衣籠へ放り投げる。  
 わずか数秒でパンツ一丁にされてしまい、俺が唖然としている間もその動きは止まらない。  
 奪ったネクタイで輪っか作ると俺の首に掛けて、力任せに引っ張ってきた。額がぶつかりそうな距離ま  
で顔を近づけてハルヒは言う。  
「あんた今疲労困憊もいいとこでしょう? おまけに明日からのことを考えてすっかりナーバスになっている」  
「お察しの通りだ。そこまでわかっているならそっとしておいて欲しいんだが」  
 ハルヒは、じゃあなおさらと言ってから、  
「アンタのストレス解消手段は、あたしに思いっきり振り回されることでしょう? 疲れている夫にはたっぷ  
りサービスしてあげないとねぇ。先に背中を流してあげる」  
 とんでもない事をぶちまけた。誰が何だって。  
「ハルヒ、お前は今おかしなことを言ってるぞ、少しばかり落ち着くんだ」  
「高校の時だったかしら。あたしも知った時にはビックリしたけど、事実なら仕方ないって受け入れたわ。  
思い当たる部分も多々あったしね。あたしの命令を受けて、身も心もヘトヘトのフラフラになるまで言い  
なりになって付き従わないと、満足できない体になっちゃったなら。責任をとってあげる」  
 ついには額をぶつけてきた。  
「耳の不自由な奴だな。突撃あるのみか。ひょっとして一杯煽っているのか」  
「そんなはずないでしょう。今ここで自分の性癖と真正面から向き合いなさい」  
「ポニーテール好き以外は思い当たらんね。さあUターンして出て行け。すぐ出て行きなさい」  
「血色のいい生き生きした表情で否定されても説得力ゼロね。あたしが言っているのは表面の好みじゃ  
なくてもっと深いドロドロした、欲望に直結している部分よ。アンタの本性を引きずり出してあげる。  
 とっくに自分でも気付いてるでしょう。自分は人の上に立つようなタイプじゃなくて、走り回ることに悦びを  
覚えるドM雑用タイプなんだって」  
「そこの鏡に映っている俺は、これでもかというくらい嫌そうな顔してるぜ」  
「瞳だけはさっきまでのゾンビみたいな瞳とは大違いでギラギラ輝いているわよ。何が待ち受けているのか  
期待で興奮が隠し切れないのね。中学生みたい」  
「違う。一方的な決めつけだ。断じて認めん」  
「いつまで隠していられるかしら。さっさと堕ちちゃった方が楽よぉ」  
 ハルヒの真っ赤な舌が首筋を這って耳元までやってくる。頬を二度三度優しく舐め回し、耳穴に  
舌を挿し入れてくる。  
「違うっ、て、の」  
「図星のくせにムキになっちゃって、まぁ。ほら楽にしなさい」  
 にひひっ、と笑う。さすがパートナーの首を締め上げて無理矢理起床させる妻だ。たまらんよ。  
 もちろん歓喜の意味はこれっぽっちも含まれていない。  
 
 パンツまでハルヒの手によって脱がされる屈辱を経て、シャワーで軽く汚れを流されると、納得の  
いかないまま風呂椅子に座った。  
 ハルヒは下着だけの姿になり、ボディソープを手のひらで泡立てながら俺の顔を覗き込んでくる。  
「恥ずかしがってんじゃないわよ。期待しているのが丸わかりよ」  
「俺は紛れもなくノーマルだ。ごく普通に洗ってくれ」  
「くどいわね。アンタはとことんだらしないから、放って置くと爆発するまで貯めこんじゃう。自分のこと  
なのに気付かない。あたしは三国一よくできた妻だから見過ごしたりしないの。今から息をつく暇も  
ないくらい振り回してあげる」  
 ハルヒの艶やかな黒髪から雫が滴り落ちて肌を潤していく。華奢な鎖骨の下には、白く豊かに実った  
乳房がブラジャーの奥にみっしりと詰まっていた。呼吸に合わせて上下する果実を過ぎるとうっすら浮かん  
だ腹筋と小さなへそが見えてくる。  
 片手で抱き寄せられそうなウエストからヒップまでなだらかなラインが続き、締めくくるように、雄の  
本能をかき立てる二つの白桃が鎮座している。白くしなやかかな太腿と、流れるようなラインの美  
脚もつけ加えておこうか。  
 背面における女性特有のくぼみがまたなまめかしい。少しだけの汗を身にまとう姿は、劣情を  
誘わずにいられなかった。  
 純粋なモンゴロイドらしからぬほどバランスの取れたプロポーションをハルヒは惜しげも無くさらしている。  
 真夏の太陽を想起させるオレンジ色の下着が華を添えていた。  
「あ、勃った」  
 無視だ。ここで「お前の乳首もビンビンに立っている。おあいこだ」なんて言おうものなら、不毛な口喧  
嘩が朝まで展開されることは十年来の付き合いでわかりきっている。俺の妻なんだよな、もう何年前から。  
手を繋いで歩き、肌を重ね、子供を孕ませて、一緒に歩んできた。対等な関係を築き上げたつもりだ  
が正直その肢体にはいつだってノックアウト寸前だ。  
 あくまでその体だけであり、本人の主義主張は小学生の戯言レベルだが。  
 うりゃ、と言ってハルヒが向きだしの性器に触れてきた。隅々まで泡立たせると、長く白い指を使って  
思うが侭に弄ぶ。できるだけ細く長く息を吐き出して呼吸を整えなける。動悸がやかましくて仕方がない。  
間抜けなにらめっこが続くがこの状況で男に勝ち目なんてない。  
 早々に俺は手で顔を覆い隠して呆れるふりをして、その実、動揺を悟られないようにしていた。  
「包茎ち○ぽが無茶苦茶になるまでいじくってあげるからね」  
 んふふ、と笑うハルヒは底なしに魅力的だ。  
「勃ちまくっているじゃない。まぁ頑張らないとすぐ子供ち○ぽに戻っちゃうもんねー、やらしい」  
 擦り上げる指の一つ一つが淫らで悩ましい。  
 
 言い訳させてもらおうか。俺の愚息は数年前までズル剥けだった。神に誓って事実である。ちんけな見  
栄をはりたいがために嘘をついているわけじゃない。  
 そいつが失われたのはハルヒとぎこちない行為を重ね続けて、互いに少しだけ恥じらいをなくした頃だ。  
 ちっぽけな欲望と飽きが生まれる頃になって、俺のことをもっといじめてやりたい、と願ったんだろうさ。  
弱みを握ってやろうと思案したんだ。ハルヒが願うことはそれつまり実現である。世界をまるごと描き換える  
ほどの力を全開にさせた結果がこの様である。  
 それから俺の股間は猫の眼のようにくるくる変化することになる。  
 
 自分の分身に振り回されることしきりだった。股間に異変を感じて一日の幕があがる、なんて日常  
茶飯事だった。その日は下っ腹から股間にかけてが妙に重苦しくて、普段よりずいぶん早く目が覚めた。  
 違和感だけは一人前に伝えてくるが、ちくちく痛みを訴えかけるでもない。四六時中ぶら下げているとは  
いえいつもコイツの動向を見守っているわけじゃない。だが、明らかに変だ。  
 ベッドを抜け出し用足しがてらにトイレで恐る恐るチェックしてみれば、何事にかけても平々凡々の俺が、  
長身の外人さん顔負けサイズのブツを装備していたんだから驚愕だ。果てしない脱力後に興味本位で  
計測してみれば実測20cm。口径も凶悪極まりない。  
 包み隠さす言うならば、俺は幾ばくかの優越感とともに、この件に関しちゃそのままでもいいんじゃないかと  
思っていた。が、宇宙人に「将来的に重要な歪みもたらす可能性がある」と言われたなら、頑張って  
歪みを修正するしかあるまい。  
 ハルヒにサイズを気付かれないように、真っ暗闇の中で予断を許さずに行われる営みはやけにスリリング  
だった。こんな日に限って、滅多に点火する事のないハルヒの奉仕精神に火がついていたのは偶然だろう  
か。  
 逸物への愛撫を交わしながらの行為はハルヒが腰を痛めることで決着がついた。当たり前だ。何事も  
身の丈にあったものを選ぶべきなんだ。  
 ……さすがに愚息が双頭になっていた時には、我が目だけじゃなくハルヒの脳まで疑ってしまったが。  
ありえないだろう。  
 不思議な世界を求めるあまり常識を片っ端から疑ってかかるような奴だと承知していたとしても、そいつが  
心の奥底じゃ二穴同時責めを望んでいたなんて、どんな完璧旦那でも知りようがない。  
 驚愕の事実を胸に秘めて、起床した俺を出迎えたのは、子供を膝上にのせて絵本を読み聞かせている  
ハルヒだった。平坦でなく且つわざとらしくない絶妙な抑揚をつけて語りかける声は、眠りを誘うほど心地よく、  
覚醒しきっていない俺さえ聞き入ってしまうほど見事だった。  
 読み終えれば、慈しむままに我が子にほっぺたをすり寄せる。そのハルヒが、夜な夜な爛れた欲望に  
身を焦がし蹂躙されることを夢見ているという二律背反。朝っぱらからとてつもないエロスだ。  
 昼食後、娘が午後の昼寝タイムに突入したと同時に痺れを切らせ襲い掛かってしまったが、やはり  
ハルヒが腰を痛めることで決着がついた。  
 
 ただし、ようやくありのままの姿の息子を取り返しても、皮かぶり問題だけが何故か最後まで解決しなかった。  
 ハルヒはどうしてもこの点を譲ろうとせず、毎日のように繰り返し上書きされる世界に疲れ果て、関係者  
一同最後は匙を投げてしまった。  
 ずっとかまっていられないと批判の声もあったんだろうな、根本な解決を図る手段が見つからないため  
しばらく様子を見る、という名目の上で「いいじゃん、このままで」と相成ってしまった。「問題ない。この程度  
なら無視できるレベル」とも。  
 そもそもこんなことが議題にのぼること自体恥辱の極みだった俺も、仕方なく諦めざるをえなかった。  
 ハルヒお前、初めての時に食い入るように見ていたじゃねえか。なら色ツヤ形までしっかり記憶しておけ。  
 聞いてくださいウチの家内の頭がひどいんです、と吠えようども、最早誰も相手をしてくれないわけだ。  
超能力者によると「長期にわたって腰を痛めつけられたことを根に持っているんじゃないですか? その  
復讐として、なんて線はいかがでしょう」とのことだが勘弁してくれ。  
 思わぬ負債をしょいこむ事となった果てが、サディストしての涼宮ハルヒの誕生だった。今まで暗くて  
よく見えなかったけど実は皮をかぶってた。冴えないドーテー男が見栄を張っていた、と穴だらけのくせに  
何故か揺るがない理屈が成り立つことで一件落着。  
 やっぱりね。凉宮のSはサディストのSだ。  
 
「大丈夫よ、火星人だって誰にも言ったりしないから。多分。それにキョンは優しいから、娘たちと話の  
最中、何かのはずみでちょっと口が滑っちゃうことがあっても許してくれるでしょ?」  
 その表情は悪巧みをする小学生そのものだった。世界をひっくり返してまで精神的な優位に立ちたいのか。  
頭の中の辞書を何冊引いても反論が見当たらず、耳が熱くなる。皮をかぶっていることではなく、こんな状  
況に置かれて好き勝手にされているから、だ。  
 椅子に座った俺の前でひざまずくハルヒは、その構図とは対照的に支配者の笑みを浮かべている。俺とい  
えば堂々とサービスを受ければいいものを、仮性であることにとらわれて真っ赤になっている。あぁいかん、  
ハッタリだけでもと思うが、嬉しそうに反り返る局部を晒しておきながら自信満々でいられるほど俺は  
豪胆じゃない。  
 ふぅと余計な泡を吹き飛ばすハルヒの息にさえ、まいってしまいそうだった。  
 血管の浮き出た陰茎にたまった垢をハルヒは指の腹で丁寧にこすり落とす。毛穴一つ一つにたまった汚  
れを落とそうと、何度もハンドソープを足してチェックしてやわやわ擦りあげた。竿の洗浄に満足すると  
玉袋をもちあげて通り道を作り、今度は会陰部を汚れを拭いていく。  
「洗い辛いでしょ、ちょっと腰上げて。それとも無理やり指を突っ込んでほしい? そういうのがお好み?」  
 サービスとはいえ、この行動の本質は奉仕活動どでないことは誰の眼にも明らかだった。安全な場所から  
俺のことをいたぶっているのである。  
 
 嬉しそうな顔のハルヒを直視できず避けていると、自然と体の一部に眼が引き寄せられていた。  
 前かがみになって、より迫力を増した釣鐘型の乳が妖しく揺れ動く。学生時代よりさらに立派に実った  
完熟の双球。ハルヒの動きにあわせて谷間がむちっと深くなるたびに、立ち眩みに似た衝動に襲われる。  
窮屈な布地に押さえつけられながらも、乳肉がたぷたぷぽよんぽよんと揺れて自己主張を絶やさない。  
 
 本人の性格とは正反対でおおらかさを存分に秘めている。墓の中まで持っていく秘密であるが。  
その、まん丸な膨らみを思い出して自慰に耽ったことだってあった。  
 先端の突起の甘み具合を思い出してのどがごくりと鳴る。  
 飽きるまでいっぱい触ってください、と大きくて柔らかな果実がすぐそこで手招きしている。  
「何、おっぱいガン見してんの」  
「ガン見はしていない。これ、本当」  
「気づいてないと思っているの? 全部お見通しなのよ。スケベな親父のくせに。子供たちにバラしちゃ  
おうかしら。パパはおっぱいが大好きでママがブラジャーを買う時はいつも一緒にお店へ行くんだよって。  
色からカップの型までパパの好みに合わせないと、不機嫌になって口もきいてもらえなくなっちゃうの。  
 困ったパパだね。そんな話聞いたら幻滅しちゃうかも?」  
 さも変態野郎みたいな言い方はよしてほしい。そもそも一番最初はお前からのお誘いだっただろうが。  
習慣化しただけである。  
「パパの好みなのよねえ。オレンジや黄色みたいな明るい色がお気に入りだもんね。そのくせ時々黒とか  
紫の透け透けをつけてあげると、大喜びで三四回戦へ突入しちゃうんだから」  
 似合っていると思うんだがな。落差が肝心なんだよ。  
「試着室でベロチューして唾液の交換、おっぱいをはむはむちゅっちゅっして、そのまま最低一回はヌか  
ないと試着もさせてくれない甘えん坊なの。店員さんにバレそうになると嬉しくてガチガチに硬くしちゃうの。  
絶対言おうっと」  
「い、いいだろ、アレくらい」  
「よくないわよ。最低……んしょっと、はい完了」  
 シャワーで泡をしっかり洗い流してお終い。綺麗にはなったものの、おい、これじゃあ暴動が起こるぞ。  
「お前はひどい奴だな」  
 洗い流して本当にフィニッシュかよ、大人の付き合い、夫婦の契りというものがあってだな。  
「冗談よ、冗談。そんなにがっかりしないで欲しいわ、だって、臭い包茎ち○ぽなんてしゃぶりたくないもの。  
わかるでしょ」  
 ハルヒが両手を前に広げる。何かを期待されていることは明白だが、それが一体何を指しているのか  
わからずにしばらく考えていると、ぼかっ、と頭をはたかれる。  
「だからアンタは駄目なの。命令されるまで説明されるまで、のほほんとしている。馬鹿。飛びっきりの馬鹿」  
 だったら命令してあげるわ、と付け加えて、  
「抱き抱えなさい。ベッドまで連れて行って全身全霊かけてあたしを満足させなさい」  
 冷酷なまでの視線に居抜かれればゾクゾクと背筋を快感が駆け昇る。息子はこれ異常ないほど硬く  
いきり勃っていた。  
 
 布団の上にハルヒをなるべく優しくおろす。  
 熟れた果実を隠す薄絹が全て外され、ブラジャーが床に投げ捨てられた。拘束を解かれた生の乳が  
一回り大きくなって飛び出す。  
 続いて長い美脚から片足づつ下着がひき下ろされ、淡い茂みが露出する。天然物のハルヒ乳が、  
万有引力の法則に従って恥ずかしく形を変えて、下半身では形のいい尻の丸みが浮かび上がっている。  
腰がきゅっと見事にくびれて、柔らかくも張りをもったバストや一晩中撫で回しても飽き足りないヒップの  
豊かさを強調している。  
 我慢できずに電気を消すのも忘れてむしゃぶりついた。桜色の突起を口に含んで、本能の命じるままに舌で  
転がす。  
「キョンの入れ込み具合から、んっ、見ても間違いないようね。よ、ようやく理想のエロ乳に近づいてきたわ、  
ふゎっ、あっ」  
 垣間あえぎ声を混じらせながらもハルヒが満足げに漏らす。瞳は研いだ刃物のようにギラついて  
俺を捕らえている。既に詳細を聞かなきゃなじられんばかりの雰囲気だ。お伺いしますが何ですかね、  
その、えろちち、とやらは……。  
「きっかけはテレビの女優だったのよ。映画の番宣でお昼のバラエティに出演してたの。映画にも女優にも  
興味なかったからチャンネルを替えようと思った瞬間、あたしは釘付けになったわ。ボリュームが特別凄い  
わけでも、谷間を強調した衣装を着ているでもないのに、女優の胸が一瞬、光輝いたのよ!」  
 とっくに演説モードだ。誰かが唱えた、女性の胸とは金粉を撒き散らしながら飛翔する聖なる翼説は、  
まんざら嘘じゃないらしい。愛撫を中断するしかなかった。  
「あたしが求めていたのはコレだって立ち上がったわ。ボリュームで劣る時どうやって対抗すればいいのか。  
黄金比に代表される価値観つまりバランスよ。一日足りとも自助努力を欠かした事のないあたしは  
早速トレーニングを開始したわ。  
 あの様子じゃ女優も気付いていないだろうから、アドバイスももらえないだろうし、一からのスタート。  
全部手探りよ。でもさすがあたし! 早くも、モノにし始めているみたい。このおっぱいを五十才まで  
維持してあげるから期待していなさい。  
 ただしアンタも腹の出た中年ハゲ親父になっちゃ駄目よ。はったおすから……あーあ、歯形がついちゃたし  
涎でベトベトじゃない。子供たちに聞かれちゃったらどうしてくれるの」  
 そらすいませんね。我慢できないんだよ。  
「とにかく約束しな、さっ、い、ふぁん、きゃっ……!」  
 子を成し、齢を重ねてもハルヒの乳房は完璧だった。真っ白な柔肌の上で育ったプリンは重量感たっ  
ぷりにゆれ動く。ばんと張り出したバストは揉みしだいても形崩れせず、すぐに指を押し返してきた。  
 少しも黒ずんでいない乳首がいやらしく、十代には出すことのできない香りをまとった乳は天然の芳香  
剤だった。そんな女を独り占めできるという欲求が一層気持ちを高ぶらせる。谷間に顔を埋めてかぐわし  
い香りを目一杯に吸い込むと、幸せな気持ちで肺が一杯に満たされてたまらなく心地よい。だが、  
「はい、おっきな赤ちゃん一名樣ご来店でーす、熟れ熟れおっぱいちゅっちゅコースですね、んっ、んきゃっ」  
 その視線が少しばかり不満だ。  
 
「長い付き合いだもの。アンタの考えなんていつだって全部お見通しなの」  
 ハルヒは一度頬にキスしてから、仰向けに寝転がる俺の両足の付け根に顔を寄せてくる。  
「せっかく洗ってあげたのにもう涎たらしてる。最低、ホントに最低」  
 理不尽なまでの謗りだった。  
 じっとりとした視線に犯されていると、すぐにハルヒは粘着質な音を鳴り響かせる。べとべとになるまで  
唾液を垂らしてカリ裏を丹念になぶった。蛍光灯の明かりを受けて肉の棒がてらてらと光ったなら、唇を  
はわせて鈴口から生まれる先走り汁を存分にすする。断続的に聞こえる吐息が、ハルヒも興奮しているん  
だとサインを送ってくる。  
「んっ、何回最低って言わせたら、ちゅっ、はむっ、気が済むの、いい加減にしなさい」  
 唾液にまみれた竿と格闘しながら、どろりと濁った瞳で睨んでくる。ぼやくほどにハルヒはねちっこい舌使いを  
より激しくする。情熱的な愛撫は体だけじゃなく理性も蕩けさせる。  
「……ここね、ここが悪いんだから。馬鹿みたいに大っきくさせているのも、もっともっと欲しくなるのも、  
いとも簡単にあたしを孕ませちゃうのも、全部」  
 すぐに玉袋がまるごと暖かい口の中に含まれていた。温い粘膜が袋を包み込んで、頬の内側で  
優しく玉を転がされる。これ以上ないほど天を向いていた息子がさらに角度を増して、悦びの声を  
上げる。  
 悲鳴を上げそうなほどの快感に引けそうになる腰を、がっしり掴んでハルヒはより肉の塔に唇を寄せてくる。  
何かにとりつかれたようにしゃぶるハルヒの瞳は、狂気じみてさえいた。  
 ハルヒから送られる情報すべてが俺にとっての性感帯で、肌があわ立っていく。  
 執拗なまでの愛撫によって早くも我慢の限界だった。下半身を襲う快感に負けて、ビクビクと振るわせ射精を  
はじめる情けない竿。  
 我慢を続けた末に吐き出された、粘っこい液が尿道を通過していく。押し出された欲望の固まりは、  
これまでにないくらい濃いくせしていくらでも飛び出てきそうだった。口内を徹底的に汚しつくして直接妊娠  
させてしまいそうな熱い男汁が一気に溢れ出す。精巣から湧き上がる感覚に身を任せた。  
 ただ、相当な量だったそいつらは一滴たりとも外の世界を知ることなく、ハルヒに飲み干されてしまった。  
苦労して狩った獲物を逃さない肉食動物のそれのように。  
 最後の一滴まで口に含み、長い時間をかけて味わい飲み込むとハルヒはふぅと一息つく。  
 
「……よく考えたらさっきからあたしばかりがサービスしているじゃない。雑用のクセにふんぞりかえってさぁ。  
これはもうお仕置きしないといけないわね。はい決定、罰ゲームよ」  
 唇の端っこに付着していた唾液をなめとりながら、ハルヒは俺の上に覆い被さる。危機を感じて逃げようと  
するも、射精後の虚脱状態の隙を疲れて馬鹿力で押さえつけられる。万歳の状態でがっちり固められた  
両腕はウンともスンとも言わなかった。  
「逃げたら余計罪が重くなるわよ。何年SOS団の雑用係やってんのよ。頭の回転が鈍い人にはペナルティーが  
課せられます……そうね、こういうのはどうかしら」  
 眼前のある、色気のつまった大盛りのバスト。  
 重力に従って垂れるだけの贅肉でなく、理想的な食事制限と運動量に支えられたハルヒの胸は、  
これでもかというほど見事な円錐形を保っている。左隣からやって来た温かなふくらみが、火照った  
頬を押した。  
 
 ぷにゃりとひしゃげた媚肉が停止してハルヒの体温が伝わってくる。ぽかぽかと温かく、ちっとも押し付けがま  
しくない優しさの象徴を使っての罰ゲームとは一体どうするつもりだろうか。  
 もう少しだけ力を込めて体を動かすと、親離れできない幼児みたいに淫肉がハルヒと共に動いて行く。  
体が左右するのとワンテンポ遅れて第二波がやってくれば、また俺の顔を通り過ぎていく。今度は右から、  
それも少しだけ勢いを増していた。再度左からやってきたそいつは痛みを感じさせるほどの衝撃を持っていた。  
 次第に威力を増していくが、苦痛よりも恥ずかしくてじっとしていられない。ふつふつと沸きあがる羞恥心は、  
鋭い痛みなんかよりもずっとリアルで耐えがたかった。  
「おっぱいビンタでーす。あははははっ!」  
 屈辱にもほどがあるだろう。  
「さて反省の言葉をまだ聞いてなかったわね。懺悔しなさい、海より深く空より高く。さぁさぁさぁ!」  
「なんのこった」  
「言わなきゃいけないことは一つでしょう。もちろんふんぞり返っていてすいませんでした、なんてチープな  
言葉じゃないわよ。それさえ理解できないんならあんたもう手遅れね」  
 思い当たる節はあるが言わなきゃいけないのか。どうしても。渇いた咽喉を振り絞って、ささやくよりももっと  
小さな音量で謝罪の言葉を紡いだ。  
「雑用係のことじゃ」  
「ないわね」  
「薄給のことでも」  
「でもないわね」  
 やっぱりアレですか。  
「……皮、被っててすいません」  
「いいえ、どういたしましてぇ」  
 小さく鼻を鳴らして認めやがった。のせられて口に出したことをすぐに後悔する。一発で言い当てたのにこれ  
っぽちも嬉しくないうえ、なけなしのプライドが音を立てて崩れていく音が聞こえやがった。明日の朝に思いだし  
て身悶えすること間違い無しだ。  
 絶対的な優位を携えて、ハルヒはにっこりと微笑む。  
 
「今度はママごめんなさいよ。ほら言ってみなさい。マ・マよマ・マ」  
「……ママ」  
 ああ、くそ。のせられるなっての。世界中の恥という恥をかき集めてもまだ足りないだろうな。  
 ハルヒがこっちを見やっている。乳房全てを頬張るつもりで口を広げ、力一杯吸いつくとハルヒの体が  
大きく震えた。眉間にしわを作って快感を噛みしめるように仰け反る。どれだけの間そうしていただろうか。  
 愛しい気持ちが込み上げてきて、目線で合図するとハルヒは顔を寄せてきた。そうしてできるだけ優しく  
口づけた。  
「ハルヒ、そろそろ」  
「ん、シたい? シたくてたまらない?」  
 仕方ないなあと微笑んでハルヒは腕の拘束を解いてきた。ひりひりと痛む手首を振って感覚を取り戻す。  
 竿は涎を垂らしてヒクヒクうごめき、第二の射精を今か今かと待ちわびていた。そう、この瞬間にでも  
肉棒の先端からたっぷりとドロドロの白濁液をプレゼントしてやるつもりだった。はしたない嬌声の一つでも  
あげさせなきゃ気がすまなかった。  
「痛かった? ごめんごめん、ちょっと張り切りすぎちゃった」  
「驚くくらい心がこもってないな……」  
 仰向けのまま枕元に隠してあるはずのスキンの箱に手を伸ばして探る。結婚していようとも計画時  
以外は男としての責任である。ようやく指を引っかけ、持ってきたところで急に手の甲をつねられた。  
痛みを覚えた俺がその意図を理解するより早く、ハルヒは明るい家族計画をひっ掴むと、部屋の隅に  
置かれたごみ箱に向けて放り投げていた。  
 ごみ箱の中は空っぽだったのだろう、硬質な音がした。  
 
 嫌な予感がする頃には、とっくにハルヒはのしかかり中腰となって、んしょ、と狙いを定めていた。  
「ちょっ、お前っ!」  
 俺が制するよりも早く滑らかな動作で腰を降ろし、きゅうっ、と締め上げる。ヌルヌルとした膣壁が  
息子をねっとり包み込んだ。ドロドロに溶けたハルヒの中に深く深く沈みこむと、一番奥にこつんと当たった。  
 込み上げる射精感にプライドを総動員して抵抗する。シーツを力一杯に握り締めて目を閉じ、  
ハルヒという目の前の情報を追い払った。  
 強制脱衣と強制懺悔と強制挿入おまけに乳ビンタ。俺のプライドはとっくにズタボロだった。これに  
強制おめでたが加わった日には、二度と立ち直れない気がする。  
「もう一人、欲しいの」  
 言葉の意味を理解して脳の奥が痺れる。  
「どうして、そんな大事なことを、いきなり言うんだっ」  
 気持ちは解らんでもないんだが、色々と厳しい。  
 ハルヒは言葉を紡ぐよりも俺の背中へと腕を回し、足を絡ませて、直接的な同意を求めてくる。  
甘い誘惑に身を任せ、よし任せろと首肯したいのは山々であるが。我が家の人口は既に定員オ  
ーバー気味なのだから仕方ない。これ以上はちょっとばかり多すぎる。  
 隣室では来年小学校入学を迎える長女、幼稚園児となる次女、そして――半年前に我が家へと  
やって来たばかりの――三女がすやすやと眠っているのだから。  
 親としての責任を果たすためにもここが潮時だろう。無計画にもほどがある。家計と俺の個人的な  
財布情勢をさらに圧迫するつもりか。  
 
「だって皆天使みたいに可愛いんだもの。いたずらしても周りの人が皆笑顔になっちゃうような魅力に  
満ち溢れている。頭の回転とルックスを持ち合わせていないと出来ることじゃないわ。だから今度産まれ  
てくる子も多分、ううん絶対そうに決まっている」  
 夢を語る時のように、饒舌なまでにハルヒは喋る。お前の腹の中じゃ――本当に腹の中だな――早くも  
妊娠出産が規定事項かよ。  
 無計画ぶりに呆れていると、  
「どうなっても知らないぞ、なんて絶対言わせないからね。アンタには可愛い子供たち共々、一っっっ生、面倒みてもらうから」  
 犬歯をむき出しにして本気だと教えてくる。  
 
 引き剥がそうとするが、再び両手首を馬鹿力で固定されて動きたくとも動けない。腰をグラインドさせる  
たびに歓喜の洪水が押し寄せるが、ここで堪えきれなくては男でない。はふはふとハルヒが喘ぎ悶えるたびに  
理性がとろけていく。永遠に思えるほどの挿入作業に、ヘソから下の感覚が薄れてきた。  
 いつ射精してもおかしくない状況ではある。だがしかし、男の一文字にかじりついて意地でも耐えてやる。  
阿呆な団活動のおかげで根性には自信があるんだ。  
 ハルヒはさまざまな動きで膣をくねらせて、俺の精を搾り取ろうとする。結合部から愛液が音を立ててあふ  
れだし、白い太腿をつたわり布団に染みを作る。お互い一歩も譲らない獣の交わりように激しい動きだった。  
乾いた音はとっくに消えて、ぬちゃぬちゃ粘度を伴った水音だけがしている。  
 ハルヒは数秒で決着がつくと思っていたんだろうか。予想外にてこずるのか、ハルヒは目つきこそ鋭い  
もののしだいに眉毛が八の字になってきた。  
「は、早く孕ませなさいよぉ、アンタの赤ちゃんもっと産んであげるって言っているでしょ!?」  
「だからって、はいそうですねと出せるか馬鹿」  
「雄として本望でしょうが、それを拒否する意味がわかんない! 可愛い奥さんに毎日毎日中出し  
し放題で、駄目な期間中も手と口とおっぱいでサービス三昧! アフターケアも完璧だっていうのにどこに  
文句があるの!?」  
「人の、話を、聞けっ、ての」  
 全く噛み合わない不毛な会話がなされる。これでもコイツは大マジなんだろうな。  
 
 理性と本能のせめぎあいが延々続いて視界がぐるぐると回りはじめる。  
 下唇を噛み締めて力の限り抵抗するが、腹の上で壮絶な踊りをこれだけ続けられればもう駄目かもし  
れん、と諦めの念が俺の中を支配し始めた頃、ハルヒが、きゃうん、と甲高い声をあげ停止した。  
 突如発生したエアーポケットに戸惑えば、壁にかけられた時計の音がやけに聞こえた。今のは何かの  
見間違いかと息子を奥のほうで一捻りしてみるとハルヒは、らめぇ、と一層高い声で鳴いた。  
 口に手を当てて防ぐがもう遅い。そんなに良かったのかよ。押し殺せずに飛び出した声は俺の鼓膜を  
震わせて、バッチリと脳の記憶領域に刻み付けられていた。腰の動きが完全停止して、完全停止する  
ハルヒは見ているこちらが恥ずかしかった。  
 
 おい大丈夫かと心配してみれば、怒りを伴いながら徐々にハルヒは復活してきた。一層強く俺を  
睨み付けて、  
「勘違いしないでよね! アンタのち○ぽなんて、ちっとも気持ちよくないんだから!」  
 と今日一番のツンデレを見せつけられたところで限界だった。どうしてこんな恥ずかしいタイミングで  
出るんだよ、あぁ、くそ。  
「えっ嘘っ、やっ、出てるっ。あっ、ふわぁ、凄っ! ひゃっ、お腹の中でビクビク言ってる! ひゃっ、  
やっ、いやぁん!」  
 避妊用具なしの生セックス。性器が爆ぜたかと錯覚するほどの量が吐き出される。膣内に吐き出  
された体液はそのまま直接、一番奥深い器官まで突き進み、我先にと卵子を目指す。子宮が許容量  
一杯まで性器を吸いあげて、とろとろとあふれだすマグマを無尽蔵に吸い取る。  
 肉の壺に収まりきらない精液がごぽごぽとこぼれてきた。男子の本懐を遂げた。人間も理性の檻で  
自分を縛り付けていても、所詮は動物なんだと実感する。一匹の雄としてこれ以上ない幸福に包まれて、  
同時に、ハルヒを責める気にもならないほど満たされていた。  
「ひゃっ、はふぅ、あぁ、腰ぬけちゃうかも」  
 しなだれかかるハルヒが玉袋を柔わ柔やと揉んできた。「よく頑張ったね、偉い偉い」と玉を撫でさする。  
「お、お前なぁ」  
「お膣一杯。んんっ、ごちそうさま」  
 恥ずかしいから話しかけないで欲しい。愚息は今もまだ断続的に吐き出している上、刺激にされ限界  
以上の量を放出したせいか、腰に鈍痛が。  
「子種ゲットー、今から楽しみね。今度の子供は男の子かなー、女の子かなー」  
 へその下辺りに手を置いて、小さな宇宙を撫でる。  
「でもさ、ドMって行き着くところまでいっちゃったらどうなるの。頭のネジが一本残さず飛んじゃったら、  
ハルヒ様、哀れな下僕の矮小なち○ぽを痛めつけてください! とか叫ぶのかしら。白眼剥きながら  
イっちゃうとか、ねえ、どうなの」  
「ない、絶対にない。世界が百回書き換えられても」  
 狂人じゃないのか、それは最早。  
「そこまで言われたら、なおさら一度見たいんだけど」  
「見たいか、本当の本当に見たいのか?」  
「イマイチ見たくないわね」  
「じゃあいいだろうが」  
「ちっ。まぁ、その時が来たら来たでいいわよ。ほら、口開けなさい」  
 乳房を含まされる。授乳のポーズはハルヒのお気に入りだった。俺の髪を手櫛ですきながら  
「……しんどい時は、たまになら会社ズル休みしてもいいからね」  
 背中を撫でてくる。意識がもう限界だと閉じようとしていた。俺はベッドの上でハルヒに優しく抱きとめられ、  
やわやわと締まる膣内に肉棒を受け止められながら眠りにつき、一日を終えた。  
 
 
 ああ言われたとはいえ翌日も、月曜日朝の仮病小学生じゃあるまいし、しっかりお勤めを果たして  
帰宅した俺を出迎えたのは。  
「やけに買ったんだな。外れたら大損だ」  
「いいのよ、夢を買ったんだから。よく考えたらずいぶん上手いこと言ってるわね」  
 家族と、ちゃぶ台の上を占領する当せん金付証票。ただの紙っぺらが数ヵ月後には数百数千倍の  
価値を持つかもしれないと、誰もが期待に胸を躍らせ購入する魅惑の紙っぺらだ。  
 娘を体にぶらさげながら、一枚手にとって眺めてみる。  
 TVでも好感度ランキング上位に位置するタレントが出演してしょっちゅうCMがうたれている、日本一  
有名な宝くじだった。  
 ハルヒは下腹をさすりながら言う。  
「一億よ一億。何買いましょっか。一億円あればたいていのものは手に入るわね。ううん、すぐに使い切らず  
それを元手に事業を始めてさらに増やす手もありね」  
 その妄想はとどまるところを知らない。いや、誰でも考えるかな。  
「ねぇママ、一億円当ったらお菓子いっぱい買っていい?」  
「もちろん。どうせだから記念にお店のお菓子全部買いしめましょうか」  
 我が子達は奇声をあげて、ちゃぶ台の上に上って宝くじを中心に妙ちくりんな踊りを始めた。  
そんな簡単に当たったなら世の中大金持ちだらけだ。おめでたい。  
 だがはたと気付く。今こそ例のとんでもパワーの出番じゃなかろうか。強く願えば願うほど実現するのだ。子供  
一人を大学卒業まで育て上げれば一千万かかると言われている時代。百万円いや十万円でも当たるなら  
御の字である。これほど心強い味方もいまい。そうとなれば早速ハルヒをおだてて……  
「パパは何が欲しいのぉ?」  
 娘に尋ねられて硬直する。長女次女だけでなく、ハルヒや、抱きかかえられてあぷあぷ言っている三女まで  
こっちを見ていた。  
 阿呆か、俺は。インチキ宝くじの力になんか頼らなくても上手く稼いでやるっての。一家の大黒柱だぞ、俺は。  
 ああ、そうさ認めてやるよ。昨日の晩たっぷり振り回してもらったおかげで今日は絶好調だ。体はどこまでも軽く、  
頭は新鮮な酸素が行き渡ったようにクリアーだった。本当にコレを高校のときに見抜いていたっていうなら、ハル  
ヒ恐るべしだ。  
 働きづめだったってのに体は悲鳴一つ上げず、今も休息よりも仕事を寄越せとさえ言っている。好調振りの  
反動がやってこないか怖いくらいだった。明日にでも、このままの勢いでリーダーの風格さえ手に入れてやりた  
いね。いや、手に入れるしかないな。  
「パパは何もいらないな。働いて手に入れるよ」  
 腕まくりして力こぶを見せながら決めてみせる。どうだ。  
 お前たちのために、家長として頼りになるところを見せたつもりだが、娘はおかんむりだ。えぇーパパKY! と  
まで言われた。いいだろう別に。  
 しかしひどくないか、パパだって傷つくんだぞ。  
 娘たちはアレがほしいコレが欲しいとさんざん盛り上がっている。さて、と、  
「ちゃぶ台にのぼっちゃいけません。めっ!」  
 子供たちの脇の下に手を差し入れて持ち上げると、そのまま床の上に降ろしてやる。ぽかんとした顔が  
痛快だった。毅然とした態度と流れるような動作、昨晩のハルヒの動作を真似てみせる。子ども相手って  
のがちょっとばかし情けないが、どうだと本家に問いかけた。  
「30点ね、もう呆れるわ」と言ってから、ハルヒはまた下腹を撫でた。  
 
 
 

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