それはまだ昨日の10時の出来事だった。俺は新年度となり親の動向が慌ただしくなるなか一人春眠を貪っていたわけだが、
無粋な電話に叩きおこされる。まあだいたい相手は想像がつくのだが
「キョン!あたしね、一大決心をしたのよ。SOS団の活動が百倍有意義になるわよ。」
なんだか知らんが、また面倒なことにならんだろうな
「で、なんなんだ、その決心とやらは」
「あたし、出家するのよ」
時間が液体窒素にふれたかのような勢いで凝固してゆく
「・・シュッケ?な何のはなしだハルヒ」
「この前不思議探索してた時にね、ぞろぞろと人があるビルの一室に入ってくの、不思議でしょ。思わずついてったらそれが大当たりだったの!不思議だったていうか逆にこの世の不思議を全て説かれちゃったって感じね。」
「おいまて!それ怪しいセミナーとかじゃないのか」
「怪しくなんかないわよ無料イベントよ。でその時もらった資料で僧籍を入れれば、もっと大きなイベントにも参加できるっていうのよ、交流関係も増えて面白そうでしょ」
「それまずいぞハルヒ、カルトの手段じゃないか!!」
「だから出家っても会員登録みたいなもんなんだけどさ、まあとにかくキョンもどう?みくるちゃんも有希ものってくれたし」
「朝比奈さんと長門を巻き込んだのかっ!」
「巻き込んだっていうかノリノリだったよ。」
有り得なさすぎる現実に目眩を感じ俺は上を見上げる。電話機の前の真新しいカレンダーが目に飛び込んでくる。
そうか今日は!
「ハハハハわかったぞハルヒ、全くコアな嘘つきやがって」
「よくわかってるじゃない!そう嘘よ。」
「全くお前ってやつは加減をし」
「現実世界はね。如来の教えだけが真理なの。良かった賛同してもらえて!新学期に資料わたすね。じゃ」
「えっ・・・ちょっとハルヒ!」
「ガチャン・ツーツーツー」
「おいおい冗談だろ」
俺は急いで長門に電話する。ありえない、芯の強いあいつがわけのわからん宗教になびくなんて!
「もしもし長門か!?」
「・・何?」
「お前ハルヒに出家するとかいったのか?」頼む、まずここは嘘であってくれ!
「言った」
おいおい・・
「なんで引き留めない!?」
「信仰が保証する思考の安定は上位の思念体にとって有益」
「・・その役目ってたしか俺に負わされてたんだよな」
くそ、俺が不甲斐ないからだというのか
「それに教義の内容通りに世界が改変された場合、適応するために教義の事前学習が必要」
そうかハルヒが信じてしまえばインチキ宗教も真理になってしまう!
「まずいじゃないか!」
「穏健な教義なので改変は微々」
「おい、嘘だろ、長門!引き留めてくれよ!前みたいに空間をいじってさ」
「世間虚仮、唯仏是真ガチャン、ツーツーツー」
くそ、朝比奈さんまで宗教の肩をもつとは!長門についで朝比奈さんからも宗教話を聞かされた俺のもとにあの男から電話がかかってくる
「大変なことになりました」
「まさかお前が誘ったんじゃないだろうな?」
こいつの慇懃な口調にはたまにその手の者の匂いを感じる。
「ご冗談を!あっそうか今日はエイプリ」
「そんな場合じゃない!」
「そうでした。すいません。機関の方でかの仏教組織の概要は調べました。」
「機関は味方なのか?」ホッとする
「はい、勿論!どうやらお相手は長門さんの部類の勢力のようですね」
「また思念体の仲間割れか」
「そうです。白々しいほどに前回と状況がにています」
「白々しいとはどういうことだ?」
「如来を名乗る教祖の正体誰だと思います?」
「まさか!」
「そのまさかです。」
「朝倉涼子!」