休み時間、人気者設定のわたしはじゃれてくる友達をまいて、彼女のクラスを訪ねた。
今日はそんな気分だった。改めて自分の意義を確かめたい日だったのだ。
「長門さん〜?」ポツンと座って読書中の彼女に声をかける
「不必要な接触は推奨されていないはず」目線さえ向けず返してくる返事。
「やだ、なにそれ〜、おっかしい、ちょっと話くらいいいじゃない。トモダチでしょ」
「要件、なに?」
「どうよ、ダンナさまの様子は?」
「それならあなたの方が観測時間は長いはず」
「対象と彼の接触時間はあなたの方が長くみてるでしょ?」
「・・・特に報告すべきことはない」
「あら、そうかな?対象の変化は目まぐるしいまでだと思うけど?」
「そういう認識できてるならわたしに聞きにくる必要はないはず」「まあ確かにそんなこと聞きにきたんじゃないわ」言葉を切る。わたしにとっても少し勇気のいる質問だから。「聞きたいのはあなた本当はどうしたいのかってことよ。」
彼女の顔が少し強張るのが見て取れた。やっぱりだ。こんな任務の申し子のような子にさえ私情は宿る。
ましてわたしのように豊かな感情を表層的にインストールされたタイプなら尚更だ。
第一導入された感情体系は人間の精神が最も揺れる時期の規格。わたしのこの苦しみを少しでも分かち合えるものと思い、彼女に話かけてみたのだ。
彼女はやや悲しそうな目を向けた。「蓄積したエラーは・・削除してゆくしかない」
「えっ・・?」たったそれだけ??
「細かいエラーも蓄積すると連絡網が生まれシステムをおびやかすから」
そんなことを聞きにきたんじゃないっ!
「あのさ、そうじゃなくて・・」
「さっき本当はどうしたいかとあなたは言ったけど、エラーで生じた現象は本当のことじゃない」
・・・この子はあくまで任務が自分の存在意義で、胸をかける想いは・・エラーに過ぎないんだ・・。
「がっかりしたわよ。あなたには」捨てぜりふをはいてわたしは彼女の視線を背に感じながら教室をでる。
わたしは彼女とは違う。明るく振る舞わなきゃならない、愛想をふりまいて、人気者で、それでいて深入りされないようにスキをなくさなければならない
。人形みたいに押し黙ってれば、浮かんでくる気持ちにだってそりゃあゆっくり対処できるでしょうよ!
でも実際人間と積極的に関わることを負わされたわたしにはそんなヒマないんだよ!
人と触れ合う一瞬一瞬で次次に「エラー」は引き起こされるんだから!わたしは彼女のように割り切れやしない。
彼女のようになりたいとも思わないし。削除しなくちゃいけないモノがあるとすれば、それはわたしの中じゃない。
わたしの外、つまりこの残酷な対象のおもうがままの外の世界だ。加速する想いが客観的な解析を振り切ってごくごくシンプルな結論にいたる。
彼を殺そう。
わたしのこの「感情」がいったい何なのか分からない。涼宮ハルヒに対する独占欲なのか、それとも彼に対する愛情なのか、単に遠巻きにチヤホヤされるだけでなく人間らしい友情を誰かと結びたかっただけかもしれない。
ただあんなにベタな告白まがいの誘い方で呼びだしといて、
動機がレズッ気や友情じゃ殺される方もかわいそうだ。彼のために自己解析にバイアスをかける。
こんなところも人間臭いかもしれないと思うとわたしは満足できた。さあゆこう。彼のところに。殺意という名の愛を解き放つんだ。