この地域には珍しく積もるほどの雪が降り続いていた、そんなある日の話になる。
その日の放課後、わたしは部室の窓辺で本を読みながら自分と彼との関係について考察していた。
そんな事を考察する理由なんてわたしは持ち合わせていない。
当然、する意味なんて、もっと無い。
でも、多分、だから、
それはとても、悪くない事だと思った。
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意味の無い考察、あるいは………
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たとえば、心の臓。
彼が右心で、わたしが左心。
彼が受け取った血液を、わたしが世界へ送り出す。
わたしと彼が、わたし達が世界の中心で、そして二人、いつまでも共にある。
うん、悪くない。
たとえば、ふかふかの焼き立てパンとそれを焼く窯。
わたしを美味しく焼き上げる彼。
そのまま召し上がってくれるのなら、それは言う事なく、悪くない。
だけれども、実際だとそんな窯は不良品として捨てられるだけだろう、残念。
でも、焼かれている間ずっと、彼の温もりに包まれている。
それはすごく、悪くない。
たとえば、上眼瞼と下眼瞼。
目を開けて頑張っている時は、だいたい離れ離れ。
でも、暖かなベッドの中で安らかに眠る時にはだいたい一緒、寄り添っている。
穏やかな時間を寄り添うように過ごす二人。
うん、すごくすごく、悪くない。
たとえば、太陽と布団。
別々だと何という事はない二つの存在。
でも二つが合わさった時のあの『おひさまのにおい』は、たまらなく悪くない。
二人で一つの事をなす。
これもまた、悪くない。
たとえば、雪と世界。
世界の一部を白く染め上げ、溶けて水となり、雲となってまた雪となる。
そうして再び、世界と一つになる。
儚く消える時は少しだけ切ないけれど、
それでも多分、悪くない。
………違う。
悪い。
そう。
すごく、悪い。
そう、本当は、分かっている。
彼が『そう』なりたいのは『わたしと』ではない。
分かっている。
今わたしが抱いた感情は、とても、とても、悪い。
横を、先程からずっと幸せそうに眠っている彼を、見る。
寝顔を、見る。
寝息を、聞く。
彼を、感じる。
………どうしてだろう?
それだけで、悪いものが体から抜けていくような、そんな幻想を抱いた。
雪が降り続く中、窓辺で本を読みながら、彼を感じつつ考察する。
『祝福』が降り続く中、
『至福』を読みながら、
『幸福』を感じつつ考える事。
それはとても、悪くない事で、
何の意味も無い、ただの考察。
あるいは………。