「攻撃開始!」  
ハルヒの宣誓により俺達の攻撃が開始された。  
対象は所属不明機2機。  
 
「あいつら逃げる気だわ!追いかけるわよ!キョン!」  
そういった瞬間、敵機のうち1機が静止したサッカーボールを  
思いっきりシュートしたように加速し、  
もう一機も刹那の間隔で同じように異次元空間に消えた。  
 
「これより、ワープ航法を開始します。」  
「了解。」  
俺はワープ航法の操作を行った。  
俺の愛機グランダーワンダーは急加速発進した。  
一気にシートに背中がもの凄くへばりつく。  
やがてまわりの景色が歪み、七色のトンネルを  
恐らく光速以上のスピードで駆け抜けた。  
 
異空トンネルを出ると、もとの景色と変わらない、  
しかし、星の配置が移動前と全く変わっている。  
俺達は30光年の距離を瞬時にワープしたのだ。  
 
「見て、キョン!あれ!」  
 
目の前に浮かんでいるのはまるでスターウォーズに  
出てきそうな母艦、マザーシップだ。  
「あ!さっきのやつらが中に入っていったわ!」  
「他に入るところはなさそうだな・・・よし、あの扉が閉まる前に侵入しちまえ!」  
見ると、既に扉は閉まりかけている。  
 
「ブースター全快!」  
 
扉が半分閉まったところをぎりぎりで進入した。  
まるでエースコンバットの本物のパイロットになれた気分だぜ。  
後ろで扉が硬く閉まる音がした。  
 
ライトに照らされたトンネルが続いている。  
二つの鏡を向かい合わせにしたときに見える空間のようだ。  
それにしても狭い。あいつらはこんなところを平気で毎日出入り  
しているのだろうか。よく死者が出ないものだ。  
 
そのとき警報がなり響いた。WARNING!WARNING!  
侵入者発見!ただちに撃墜せよ!  
いきなりのことで危うく心臓がじゃじゃ馬の如く邁進しそうだった。  
「来たわね・・・油断は禁物よ!」  
 
ようやくトンネルを抜けると  
巨大な筒状の広い空間に出た。  
「ここがやつらの飛行場・・・って感じね  
きっとまだあたふたしてるに違いないわ。  
そこを一気に叩くわよ。」  
そう。ハルヒの言うとおり、宇宙船や戦闘機はみな  
壁に寄生したキノコみたいにそこらじゅうに蔓延しており、  
ほとんど無人のようであった。これはチャンスかもしれない。  
 
「広範囲攻撃支援ユニットを作動。」  
 
ギャシャンギャシャンとファンネルのようなモノが  
戦闘機のまわりに配置された。  
「攻撃、開始!」  
その瞬間、砲塔から無数のレーザーが発射される。  
レーダーに数え切れないほどのTGTが映し出される。  
これは破壊しがいがありそうだぜ。  
コンピューター制御により確実に対象を破壊する。  
まるでシロアリの巣にキンチョールを噴射したように  
船内は大混乱に陥った。次々と戦闘機が破壊されていく。  
真珠湾に於いて奇襲攻撃を受けた連合軍の気分を味わうがいい。  
 
そうして数百単位の敵をあっという間に撃破してしまった。  
動かない敵とはなんと楽なものだろう。  
と、英雄気分に浸っていると、なにやらおかしい。  
先ほど侵入してきた扉が閉まり始めた。  
俺達を閉じ込める気か!?  
「まずいわ。もう今からじゃ間に合わない。  
あそこから脱出するのはあきらめたほうが良さそうね。  
他にどっかに抜け道があるはずだわ!」  
 
するとカマボコ形のひときわ大きなトンネルを発見した。  
 
「あそこだ!」  
 
俺達は脱出経路だと疑いもせずにそこに駆け込んだ。  
ブルーとシルバーのいかにも未来的な  
六角形の通路だった。あちこちにコンテナが浮遊している。  
通路はスクリーンセイバーのときのウネウネしたやつみたいに  
ウネウネしていた。進めば進むほどうねりは複雑になり、  
障害物は増えていった。  
「くっ!障害物が多すぎる!障害物回避レーダーを展開!」  
 
「こんなのはね。壊しちゃえばいいのよ!」  
「馬鹿!やめろ!」  
言い終わるかいい終える前にハルヒの機体からビームが  
対象のコンテナに当てられた。TNT火薬並みの爆発が起きる。  
アクロバット飛行に失敗した給油機が地面に激突したみたいに、  
爆発火炎がトンネルに広がる。  
「突っ込むぞ!ブースターOFF!引火する!それからEシールド展開!」  
俺達は爆発の中に突っ込んだ。  
 
300`でコーナーをドリフト走行し終えた直後  
の無免許ドライバーような気分だった。生きているのが奇跡だった。  
正気に戻るには暫しの間時間が必要だった。  
「危なかった・・・」  
気づくと冷や汗でダクダクだった。  
「それにしても・・・あと少しであぼんするところだったわ。」  
誰かさんのおかげだ。でなきゃ俺達は既に100万回死んでる。感謝しろよ。  
「どうやらここは貨物を運搬する通路のようだな。  
その中には当然爆発物も・・・俺が先に言っておけばよかった。」  
「いいえ。あたしも目が覚めたわ。これは遊びじゃないってね。  
・・・それにしても・・・ここが貨物通路だとすると、  
この先には・・・?」  
「この先はおそらく貨物庫だろう。やつらの裏貿易を見てやろうぜ!」  
 
トンネルを抜けると、そこは貨物庫だった。  
いや、そうとは言い切れないがそういうことにしておこう。  
無数のクレーンのアームが作動している。  
どう考えても、戦闘機が入るような場所ではない。  
積み上げられたコンテナの間を慎重に通過していく。  
 
「危ない!!!!!!!!!!!!!」  
 
レーダーが迫り来るクレーンに対して最大限の警戒音を発する。  
ビュウウウウウウウン!  
間一髪、俺の機体はまるでジャンボジェット機が  
レインボーブリッジの下を潜り抜けるようにして  
クレーンを回避した。  
しかしまあ、よくぞ次々にピンチが訪れるものだ。  
極限状態に何度も出くわしてしまった俺の脳内は、いつの間にか  
ノンアドレナリンが快楽物質に変化してしまったらしい。  
そう。俺は恐怖を楽しんでいた。現に今、とてもワクワクしている。  
イチローがわざと外野フライをスライディングキャッチして  
観客を楽しませるように、俺はいつの間にか超+思考になっていた。  
ハルヒとの相乗効果でその威力はもはや無限大だ。  
死を恐れない人間だけで構成された軍隊が最強なんだぜ。  
 
どれくらいだろうか。低空飛行、低速巡航を続けてから。  
視界の先には闇が映る。宇宙空間か。俺達はようやく脱出できるのか。  
 
しかしその宇宙空間には星がなかった。  
 
ここは・・・まだ船内だ。しかしまあ、これほどにまで広い空間が  
あったとは、正直、驚きだぜ。  
俺達はいけないところにきちまったのかもしれない。  
 
そう。神の寝室の領域を侵してしまい、神の怒りを買ってしまった挙句、  
シンデレラボーイから一夜にして最下層民に堕落したようなやつの気分にさせらる。  
なぜなら、キリングマシンの赤い眼光が俺達に向けられたからだ。  
k2に登っていて飢えたユキヒョウに出会ったらどうする?  
どう考えても友好的手段では解決できそうにないぜ。  
 
だったら、戦うだけだ。言わなくても分かっていた。  
 
俺達は言葉という概念を抜きにしても瞬時に意思の疎通ができていた。  
普段は壊れたギアボックスの噛み合わない歯車同士のような関係なのにな。  
こういうところで息が合うのは何かの才能だろう。  
 
キリングマシンは問答無用で両肩から多弾頭ミサイルを発射した。  
ぴったり俺の機体のケツについてきやがる。  
サメに追われるカジキマグロのような気分を味わいつつも、  
アクロバット飛行によって十中八九を空中爆発させた。  
残りの2割ほどはまだしつこく追ってきやがる。  
目の前にキリングマシンが見える。俺はそいつに突っ込んだ。  
 
と、見せたのはフェイク。直前で回避し、急上昇。  
強烈なGが俺を襲う。意識をしっかり保て。そのまま宙返りすると、  
自分のミサイルをくらったキリングマシンが見えた。  
反撃開始だ。そのまま機体を再びそいつに向ける。  
両翼の先端に浮かぶコバンザメのような  
支援ユニットからレーザーを発射する。直撃。青白い閃光が走る。  
 
が、やはりこれほどではビクともしないらしい。  
キリングマシンの後方から2つのファンネルが飛び出した。  
こちらに向かってくる。それを撃墜しようとしたが、  
いとも簡単に避けられてしまう。動き方が科学的にありえないのだ。  
トンボのように急停止、急発進を繰り返し、  
俺の周囲を旋回している。ギョーイギョーイという不快な鎮魂歌のような  
その音に思わず耳を塞ぎたくなる。  
 
ビュウイーンとそのミルワームのように開口した穴に光の粒子が見えた。  
どんどん光が集まっていく。やばい。逃げ切れない。  
俺のレーダーが悲鳴を上げている。超時空戦闘機でさえも  
上回る科学力だというのか。光の粒子が泉から湧き出る水くらいに  
増大したところで、そのエネルギーは全て俺の機体を貫通。  
 
するはずだった。2機のファンネルモドキは  
アシタカの放った弓矢のように一瞬で貫通された。  
ハルヒがそいつが発射体制に入って動きを止めた瞬間に  
狙いを定めて発射した渾身の光の矢が俺を救ったのだ。  
俺はこう言ってやった。  
「ナイスキル」  
再びキリングマシンに視線を向ける。  
ファンネルはもう使えないぜ。  
全身兵器の超科学の結集した無慈悲な目が不気味だ。  
両肩の装甲が開いたのを俺は見逃さなかった。ホーミングミサイルだ。  
同じ手は効かないぜ。  
 
俺はミサイルが出てくる前にそこにレーザーを打ち込んでやる。  
ミサイルが引火し、大爆発を起こした。  
キリングマシンは対空砲を失った  
戦艦大和も同然。集中砲火を浴びせてやる。  
キリングマシンが朽ち果てるのは時間の問題のはず。だった。  
 
突如として館内に緊急アナウンスが響き渡り、  
赤い警報ランプが点滅する。警戒音を響かせる。  
 
俺達を動揺させるために仕組んだ罠なら、その作戦は成功したと言っていいぜ。  
「アナウンスが英語で聞き取れなかったが  
なんだかやばそうな雰囲気だな・・・」  
「まずいわね。やつらはあたしたちをこのまま船ごと爆発させて  
宇宙の藻屑にするつもりだわ。爆発までの時間は・・・残り30分。  
 
 

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