俺は、いつか古泉の言っていた言葉を思い出していた。  
なぜかって?それは分からない。ただ、俺の記憶から消えずに残っている  
ということは、やはり引っかかる何かがあるのだろう。  
古泉はハルヒのことを神だと言っていた。  
もちろん、俺の知っている神は  
自分のワガママで世界を都合よく変えたりはしないだろう。  
そもそも、神がアダムとイヴをつくり・・・なんて話は  
信じちゃいない。  
科学の発達した現在、神の存在を信じているのは  
宗教徒かどこかで運よく道を間違えたオッパッピーな方々くらい  
のもんであろう。しかし、ハルヒが現れてから、  
そういう非科学的なこと、ものを信じざるを得なくなってきたのだ。  
実際、統合思念体とやらの一派に殺されかけたし、  
猫が喋ったり、夏休みを何回もループしたり・・・  
閉鎖空間に飛ばされてハルヒと・・・いや、あれは夢ということにしておきたい。  
といったような体験をしてきているのだ。  
世の中の何が正しいのか、混乱してしまうこともあった。  
しかし、すべてはハルヒの能力によるものであると  
考えれば説明はつく。  
 
「なに考えてるのよ。」  
 
「ねーってば」  
 
誰かが俺の体をゆすっている。  
その声の主はハルヒだ。  
「アンタのアホ面はバッチリカメラに収めておいたわよ。」  
全く、最近こんなことばかり考えて困る。  
「ん?あたしのこと?それともあんたのいやらしい妄想のことかしら?」  
「どっちも違う。ちょっと・・その・・考え事をしてただけだ。」  
ハルヒはふふーんと言って目を細め、  
「はっきりしないところが怪しいわね。」  
昔からそうなのだが、何かに集中しているときの俺は  
まわりが見えなくなるらしい。  
それがどこでも寝れることと関わっているかは分からないのだが。  
 
俺はホワンホワンと七色の渦がぐるぐるまわっているのを  
背景の空間に、まるでフワフワ浮いているようだった。  
下を見ても、いまいち自分が立っているのか浮いているのか  
分からない。ふと、キラキラという音とともに(実際にはしなかったが)  
何者かの足が視界の上のほうに入ってきた。  
誰かが、ゆっくり、舞い降りてくる。  
そいつは、古代ギリシャの賢者のような服装をまとい、  
合掌している。頭の後ろのほうから神々しいまでの光を放っていた。  
眩しさで思わず目が眩む。逆光のせいで、そいつの顔が見えない。  
そいつは俺と同じ足場の位置で静止すると  
ようやくその光が和らいできて、そいつの顔が見えた。  
モデルのようなすらっとした体形。  
柔和な目。爽やかなスマイル。  
さわやかなスポーツ少年のような面持ち。  
 
こいつは・・・古泉じゃねえか!  
「古泉!一体こんなところで何をしている!  
それにそのダサいつかの演劇で着たような衣装はなんなんだよ!一体!」  
「北高1年9組の古泉一樹のことですか?」  
声も喋り方も古泉そのものだ。  
「そうか!ここはお前の得意の閉鎖空間だな!  
今度はハルヒとじゃなく、よりによってお前とか!  
俺はお前なんかとキスするのはごめんだからな!」  
「困ったものです。私は、あなたの知っているお友達では  
ないのですよ。」待て、今、こいつ、なんと言った?  
私?俺の知る限り、古泉の一人称は僕のはずだ。  
ちょっと頭のおかしな発言をしたときもこいつは僕を  
貫き通してきた。ってことは、とうとう本当におかしくなっちまったのか?  
古泉よ!  
 
「私は、月の住人です」  
俺はもう呆れるしかなかった。NASAの開発した宇宙服を着ないと1秒たりともいられない場所なんだぞ?  
「しかし、実際に住んでいるのですから仕方ありません。」  
もういい。そうか。これは夢か。明日古泉にこのことを話して  
爆笑させてやろう 俺は確認のため頬をつねってみたが、痛かった。  
「私は、この地球に有機生命体を発現させるきっかけをつくりました。  
地球人はそのような存在のことを神と呼びます」  
やれやれ。俺もついに神とのご対面か。  
46億年前に私は太陽系にやってきました。それから5000万年後、  
私は、チタンの外装で覆われた直径3000キロの巨大な宇宙船、  
すなわち月をつくり、地球を観察することにしました。  
ほら、月っていつも同じ面を地球に向けているでしょ?  
あれは24時間地球を監視できるようにするためなんですよ。  
この時点では、まだ生命の発生の条件はそろっていません。  
私は、生命の誕生に必要な要素を含む隕石は地球に当たるように  
誘導し、不要なものや害のある隕石は宇宙船に当てて守ったりしました。  
そして、38億年前にようやく現在のバクテリアのようなものを  
誕生させることができたのです。そして、恐竜が跋扈していた  
時代までは順調でした。恐竜がいずれ高度な知性を持つ生命体に  
進化することは見抜いていましたが、  
6500万年前に予想外の自体に直面します。  
 
直径10キロという大きさの天体が  
地球に衝突したからです。  
これにより恐竜はもとより、地球上の80〜90%の生命体が絶滅。  
「これだけ巨大な天体が接近してたのに  
なにもしなかったのか?」  
ついいつものクセでタメ口になってしまう  
「なにもしなかったというよりなにもできなかったというのが正しいですね。  
突如、上空500kmに出現するなど  
全くの予想外でしたからね。  
気づいたときには既に手遅れでした」  
 
「そんなことって・・・」  
地球人であれば、5次元空間からワームホールを通じて  
ワープアウトしてきたというような仮説を立てるでしょう。  
しかし、何者かによってつくりだされたというのが私の考えです。  
そのことはおいておいて、  
恐竜が絶滅したため、私は恒温動物である哺乳類に  
高度な知性が芽生えることを期待をしました。  
「神様でも絶滅した生物を蘇らせることはできないんですか?」  
 
「一度死んだものを完全な形で蘇らせることはできない。  
私の最終目的は涼宮ハルヒのような願望を実現させる能力を  
有機生命体に持たせることでしたからね。  
今思えば、隕石が衝突せず、恐竜が順調に進化しても  
はたして能力が発現していたかどうかは謎です。  
あのときの私の価値観は今とは大分違っていましたから  
隕石が衝突することは規定事項だったといえるでしょう。  
そして数万年前に現在の初期の人類が誕生したのです。  
そして、最近になってようやく当初の目的を  
達成すことができたのです。  
涼宮ハルヒのような能力を持った人類は  
いつの時代にも存在していましたが、手品レベルのものでした。  
しかしあるとき、突然その力が爆発的に強くなったのです。  
まてよ。いつの時代にもだと?  
それはまさか、能力が子孫に引き継がれるということか?  
やあ、そこには触れないように話したつもりだったんですが、  
ばれてしまっては困りますね。なぜ隠す必要がある?  
それは今はちょっと言えませんね。  
 
涼宮ハルヒのそれは正に神というレベルに相応しく、  
平和的に使えば、人類の滅亡の危機を救うことができ、  
悪く使えば、世界の終焉が訪れてしまうほどです。  
彼女の唯我独尊、傍若無人な性格を考慮すれば  
間違いなく後者に使われるでしょう。  
あながち間違っちゃいないが、このとき、  
神に対してはじめて怒りを覚えた。  
こいつは神とは名ばかりで、ハルヒの性格の  
なんもわかっちゃいない。  
「大分、お怒りのようですね。  
それにしても、涼宮さんは自分のことを本気で心配してくれる、  
本当にいい男性と出会いましたね。今回このことをあなたに話すのは、  
それだけあなたが信頼できる人間だと私が判断したからです。  
そうです。この能力がどう使われるかは  
あなたに懸かっているのです。  
涼宮さんが純粋な心を持っているということも  
ありますしね。  
来るべき事態に直面したとき世界が救われるかどうかは、  
涼宮さんがどれだけこの世界を愛しているか。  
ということが重要になってきます。  
 
もし、この世界が嫌い、でも自分が消えるのは嫌だ。  
そう願えば涼宮さん以外の人類は消去されるでしょう。  
そして、そこから彼女にとって都合の良い世界が構築されるでしょう。  
いつかのあのときのようにね。  
あなたはとっくにお気づきでしょうが、  
一応話させていただきます。  
 
あなたが涼宮さんから3年前の、野球場に連れてかれたときの  
できごと語られたあと、あなたはなんと答えましたか?  
思い出したくはないが、憂鬱なことに、  
何も気の利いた返答はできなかったのが  
事実だ。それ、なんですよ。あなたが閉鎖空間に飛ばされた原因の根底は。  
その上にいくつかの要素が積み重なったにすぎない。  
唯一の理解者であるあなたに  
重い口をようやく開いて相談したのに、  
期待を裏切られたと。  
ちょっと待て。あれは相談というよりは、ハルヒが  
勝手に話始めたんだ。  
「残念こと上ないですね。あなたにそのような自覚がないとは」  
あのあと、不機嫌になって帰ってしまったように見えたのは気のせい  
なんかじゃない。それに、俺だって適当に話を聞いていたわけじゃない。ただ・・・  
 
いくら神とはいえ、  
一緒にいる時間は俺のほうが長いし、  
ハルヒを理解しているつもりだ。  
だからこういうことを言われるとちょっとイラッとくる。  
しかし、そこまで傷ついていたハルヒに気づいてやれなかった  
俺が情けない。あのときの借りはいつか返そうかと思っていたさ。  
ただ、ハルヒに正直に向き合おうとしなかっただけだ。今までは。  
 
神の言っていた来るべき事態・・・  
そのようなことが本当に起きるなんて文字通り  
夢にも思っていなかった。  
 
それは、俺の些細な一言によって起きてしまった。  
 
俺は長門が世界をつくりかえようとしてから、以後、  
以前よりも長門に話しかけることが多くなっていた。  
なにを話すかって、私的なことから情報統合思念体のこと  
まで様々だ。だが、多くは長門、今日も元気か?  
みたいな内容であるような気がする。  
俺は前から疑問に思っていたことを口にした。  
「長門はハルヒの観察が仕事なんだよな?  
確か、自律進化の可能性とかを見つけるためなんだよな?」  
でも、ただ眺めているだけじゃ、見つからないと思うぞ。  
「なぜ?」その純粋な問いかけに俺は困ってしまった。  
超高度な知性を持つという情報統合思念体。  
朝倉は有機生命体の死の概念が理解できないといい、  
いつかの長門はエラーが蓄積して暴走した。  
エラー、そんな超生命体がつくったTFEI端末が  
エラーなど起こすだろうか。そして、朝倉のような  
後を省みないような大胆不敵な行動を起こすするだろうか。  
いくら急進派とはいえ、もしかしたらたった一つの行動で  
宇宙が崩壊する危険性があるというのに。  
朝倉が消えるときに言っていた言葉。  
 
「それまで、涼宮さんとお幸せに。じゃあね」  
皮肉たっぷりに聞こえたのは気のせいだろうか、  
長門に負けたんだから当然か。いや、何か別の意味があるような  
気がしたが、その正体は想像に任せる。  
俺が思考を廻らせていると、長門が口を開いた。  
「涼宮ハルヒから噴出した情報は情報統合思念体にとって  
単なるジャンク情報にしか見えなかった」  
その長門の喋り方に妙な既視感を覚えつつ、  
「わたしは、デジタルな情報ではなく、本というアナログ的な  
媒体を通して、有機生命体を理解しようとした  
でも、わたしが始めに着手したジャンルには  
ジャンク情報が多すぎて全く理解できなかった」  
それでこいつの読む本は小難しいものばかりになっちまったのか。  
「でも、最近、今まで無視していたジャンルも重視するようになった」  
さて、今まで無視していたジャンルとはなんだろう。  
まさか、官能小説ではッ!?。  
ええい。前言撤回。  
 
長門、読書はおもしろいか?  
「とても。ユニーク。」  
口調は変わらないが、必死になにかを  
訴えているようだった。  
「そういえば、長門はハルヒの能力を一度使ったことになるんだよな?」  
「情報統合思念体にはあれは私自身のエラーによるものだと報告している。  
借りた能力であって、その効果は一時的なものにすぎない。  
他人がその能力を共有することは不可能」  
似ている。3年前のハルヒと世界改変したときの長門が。  
「長門、なんとなく分かったよ。自律進化の可能性がな」  
長門が口を軽く開けてこっちを見ている。  
こいつにとってはこれが驚きの表情なんだろう。  
エラー、それを引き起こしている正体は感情だ。  
そして、健全なる肉体に健全な精神が宿るというように、  
肉体を持ってはじめて性欲、食欲、睡眠欲といった欲が生まれる。  
そしてそこから感情も生まれる。つまり・・・  
 
肉体を持たない情報統合思念体がハルヒのような能力をもつことは  
不可能ということだ。  
そのときだった。長門が突然、頭を抱えて、苦しみだした。  
長門!?俺は長門のはじめて見せるその表情を見て  
動揺する。まさか、またエラーの蓄積による・・・  
長門は、今にも床に倒れそうな勢いだった。  
俺が長門を支えるのと、長門が倒れるのは同時だった。  
長門の全体重を両腕でガッチリとキャッチする。  
長門は、俺の腕の中で見えない何かと必死に戦っている  
ようだった。しばらくして、長門が目を覚ました。  
もう苦しそうな表情はしていない。  
「私の中の強制プログラムが発動した」  
「それはあのときみたいな暴走か?」  
「これは私のようなTFEI端末をつくった  
情報統合思念体の上層部が  
私に極秘であらかじめ体内に組み込んでいたもの。今まで気づかなかった。  
 
自律進化に関する重要な情報を発見したと私自身が判断すると  
上層部に強制的に呼び出しがかかる仕組み。  
自律進化に関する情報は暗号化したので情報統合思念体には  
今のところ漏洩していない。私だけが解読できる  
ジャンク情報を含んでいるので、情報統合思念体に  
は解読できないはず」  
「なぜだ?それは統合思念体が追い求めてきたことじゃないのか?」  
「情報統合思念体にとって、おそらくそれは大きな発見であるとともに、  
残念な報告である。不要になった私は情報連結解除されるか、  
情報統合思念体に戻ることになるかもしれない。  
 
上層部には自律進化に関する重要な情報を  
発見したという情報は既に強制転送されてしまったため  
上層部から直接コンタクトを取るという連絡が入った。  
また、情報を暗号化したことも情報統合思念体は把握しているので  
私を信用できないとの事。あなたが対応をとることになるかもしれない。  
もしそうなったら発言は慎重に。上層部は私にも知ることができない。  
私はまだ、この星にいたい」  
わかったよ、長門。統合思念体の上層部・・・機関でいう  
お偉いさん方ってことだろうか。  
と、その瞬間、閃光、少し遅れて落雷のような音。  
きた。外に出ると、グラウンドの彼方から  
医者の白衣を着たような男が現れた。  
力強い足取りでこちらに近づいてくる。  
その動きは、スローモーションがかかったように見えた。  
黒縁の眼鏡をかけているのも確認できた。  
オールバックで、髭も生やしている。  
元DQN出身というよう感じがしたが、  
そのわりには高貴な感じもした。  
 
幹部はやや顔を斜めにしながら  
「さて、パーソナルネーム長門有希から今回、  
自律進化の可能性となる重要な手がかりを発見したという  
報告があったものでね。」  
それはお前が勝手に長門に埋め込んだ  
もののせいだろうと思いつつ、  
顔を正面に向き直し、俺を両目でまっすぐ見据えると、低音を強調して、  
「なぜ隠す必要があったのですか?  
っと。こんなところで話すのもアレなので、  
場所を変えましょうか。」その瞬間、地響きが轟き、  
周囲の地面が空に向かって噴水のように炸裂すると、  
瞬く間に天を覆い、変形して密室を作り出した。  
暗い。そして狭い。机がやつと挟んだ位置にあり、  
俺はいつのまにか椅子に座っている。  
 
デスクトップには唯一の光源である首の曲がる蛍光灯がひとつ、  
長方形のロッカーが2台並んでいるのも見える。  
窓の外は真っ暗で、窓は針金入りの丈夫なやつで、  
手前にはガンメタル色の2センチほどの幅の鉄の棒が  
等間隔で設置されている。これはまるで、尋問部屋、  
警察の取調べ室ではないか。核シェルターの中もこんな感じかもな。  
「先程の質問は保留ですか?」  
俺は交渉することにした。  
「長門は、この惑星に残りたいと言っています。  
情報連結解除されたり情報統合思念体に戻るようなことを望んではいません。  
だから、交換条件で、僕が自律進化の可能性の情報を提示する  
かわりに、長門を地球に残してあげてください」  
一気に喋り終えた。一瞬の沈黙。  
 
「まったく・・・どういう・・・」  
幹部はやれやれと手を目に当てた。  
「パーソナルネーム朝倉涼子は独断専行をするし、  
長門有希はエラーが蓄積されて暴走した上、  
こんな惑星に愛着を持って残りたいと言うとは。  
どうしてTFEIにすると異常な行動に出るのでしょう?  
感情とやらは異常行動を引き起こすジャンク情報にしかみえませんが。  
情報連結解除?そんなことわざわざしませんよ?  
戻りたくないなら地球という星が滅ぶまでいるがいいです。  
我々が求めているのは、自律進化への糸口なのでね。  
それさえ手に入ればどうでもいいんです。そんなことは」  
とりあえず、安心した。が、長門がこんな親玉にいいように  
利用されてるのが気に入らない。  
 
「それで?自律進化の可能性については?」  
俺は唾を飲み込んだ。「結論から言うと、情報統合思念体が  
涼宮ハルヒのような能力を有することは不可能です。」  
幹部は髭を撫でながら、細い目でこちらを見ている。  
「有機生命体は生きたいという強い意志と感情によって  
そのような能力が獲得できたんだと思います。  
ですから、肉体を持たず、死という概念のない  
情報統合思念体に進化の過程でそのような能力が  
芽生えることはないでしょう」  
幹部はしばらく何かを考え込んでいたが、  
何かを決めたように、  
「能力さえ手に入ればこんな星など  
用済みですからね。」嫌な予感が過ぎる。  
「あなたたちはそんな能力を手に入れてどうする  
つもりなんです?」  
 
「手始めに、地球人を情報統合思念体の言いなりにするのも良いでしょう。  
だが、と言って手を握り締める。震え方で力の入れ具合が分かる。  
「祝砲として地球をドカーンとやるのがめでたいかと。」それに合わせて手のひらを一気に開く。  
そのときの俺は正に驚愕そのものだっただろう。  
そして幹部が呟いた。  
「なんて言うと思いましたか?」  
へ?  
全く、本当に地球人とは面白いものですね。  
言葉の意味を真に受けてしまうなんて。  
地球人には映画やアニメなどの娯楽があるようですが、  
それに登場する悪い宇宙人かなにかと私を重ね合わせてはいないでしょうか?  
もう少し、私を信用してもいいんじゃないかと。  
あなたが私を信用していないように、  
私も有機生命体の言うことなどは素直には信用できませんね。  
たしかに、朝倉涼子や長門有希を狂わせた地球人は  
汚い存在ですが。  
それにしても、言葉でしか概念を伝えられない生命体と  
こうやって話していると、じれったくてしょうがない」  
 
クソッタレだ。本当に。。  
こんなやつがトップに君臨してるなんて  
どこまで統合思念体とは下劣な集団なんだ。  
 
「遊びはこれくらいにしておいて。  
あなたに、すべてを話してもらいましょうか。  
さきほど申し上げた内容だけでは  
我々の計画には不十分ですからね。  
それに・・・あなたが「嘘」をついている可能性もあるので。」  
幹部は手のひらを自分のほうに翳した。  
スウィッという音を立てて、  
一指し指から注射針の太いもののような鋭い棒が  
生えてきた。俺のほうにその指を向けて、落ちろ!蚊トンボ並みにグルグル  
まわしてくる。  
「これをあなたの脳に刺して、  
直接、情報を読み取ることができます。」  
人指し指ならぬ人刺し指だな。こりゃ。  
しかし、これ以上こいつに話すことは  
朝比奈さん的にいえば、禁則事項に引っかかる。  
くそっ。どうすりゃいい。こいつが納得するような  
嘘をついて誤魔化すしかないな。さもなければ、あの針が  
俺の脳天を・・・!考えただけで頭が痛くなってくる。  
どうする、俺  
 
そのころ、外の世界では大変なことになっていた。  
なんでも、俺が行方不明扱いで、地元警察や消防が  
町中を捜索しているらしい。俺は行方不明になるにはまだはやすぎる年齢だ。  
きっとハルヒのことだから、そのうち自衛隊も出撃させることだろう。  
頼むから、俺の名前を全世界に向けて発信するようなことはしないでくれ。  
俺が部室で長門と別れたあと、長門は俺のあとを密かに追跡していたらしい。  
しかし、俺たちのいたあの空間へ入り込むことができず、  
それ以上追うことはできなかった。  
たぶん、長門が俺のあとについてきたのを  
幹部が察してあのような空間を瞬時につくったのだろう。  
しかし、なぜ俺が行方不明扱いなんだ?  
長門があのあと部室へ帰った。  
しばらくしてハルヒや古泉がやってきて、  
俺と朝比奈さんがいないことに気づく。  
ハルヒが、まさかみくるちゃんに変なことしてるんじゃないでしょうね?  
と言う。古泉はやれやれのポーズをする。  
長門が少し間を置いて、「彼はトイレに行くと言っていた」  
 
「ふうん?」とハルヒ。  
そのあとすぐに朝比奈さんがやってきた。  
「あれえ?今日は、キョン君いないんですかあ?」  
「トイレに行ったらしいわよ」  
それから10分。  
「遅いわね」  
20分。  
「・・・」  
30分。  
「あー!もう我慢できないわ!トイレってどこのトイレかしら?」  
長門に案内されて  
ハルヒはずかずかと男子トイレに入っていった。  
 
瞬時に鼻を押さえて、鼻声で  
「くっさあい・・・!ここの掃除当番はどこのどいつよ!」  
あたりをみまわして  
「おかしいわねー。ドアが全部開いてるわ  
有希、本当にここなの?」  
「一番近いところはここ。でも、ここじゃないかもしれない」  
「そうよね。キョンも場所は選ぶわよね」  
ハルヒは放射線汚染区域からいちはやく逃げるようにそのトイレから脱出した。  
 
それから他の男子トイレを次々に見てまわって、  
とうとう最後の体育館に隣接した  
自称、学校中で一番キレイなトイレも見て回った。  
そして部室に戻った。  
「ほんっとにどこいったのかしら、あいつ。  
明日会ったら小一時間たっぷりとっちめてやるんだから。  
もういいわ、今日は、解散!」  
そうして一日目のSOS団の活動は終了した。  
そのあと長門は黄緑さんとコンタクトを計り、  
空間へ割り込む作業を手伝ってもらえないか相談し、  
合同で作業を開始した。  
作業は徹夜で行ったが、ついに空間に割り込むことはできなかった。  
騒ぎになったのは次の日だった。  
担任岡部がいつになく真剣な面持ちで教室に入ってきて  
教台につくなり、「○○○○君が昨日の夕方から  
行方不明だそうです。」みんなの驚きの声。  
 
「俺は○○の担任として警察の捜査に協力するから、  
今日の帰りのホームルームはなしだ」  
「俺も捜査に協力するぜ」  
「トイレに行く途中でいなくなったの?」  
「学校の中でいなくなったってこと?」  
「誰かに連れ去られたってこと?  
でもそれだったら誰か見てるはずだし・・・」  
「私は見てないのね」  
「まじかよ・・・あのキョンが・・・嘘だろ・・・」・・・  
そのことは瞬く間に全校生徒が知り、一日中○○の  
話題でもちきりだった。  
そのときのSOS団の面々はというと、  
長門は黄緑さんと空間に割り込む作業に必死だった。。  
ハルヒは俺を探しに行った。  
古泉も、機関から当然のごとく連絡が入り、  
いまごろは神人と壮絶なバトルを繰り広げているところだろう。  
朝比奈さんはわんわん泣いている。それを鶴屋さんが励まさしている。  
 
「どうですか?話す気にはなりましたか」  
・・・  
「時間切れ。タイムアウト。」  
どうせこいつは言おうが言わまいが、  
最初から確認のために結局最後は俺に針を入れるつもりなんだろう。  
これが俺の宿命さ。なに・・・死にはしないさ・・・  
しかし、いざ針を向けられると怖い。  
俺は後退したが、すぐに壁に行く手を阻まれた。  
追い詰められた。お終いだ。  
「それでは、暫しの間、気絶していただきましょう。  
このまま入れたら痛いどころでは済みませんので」  
幹部は針を持つのとは反対の手を翳し、  
力をこめ始めたので俺は目を瞑った。  
ドンという衝撃と共に俺の意識は途絶え、  
俺は気絶した・・・  
 
・・・  
「目を覚ましたようですね。  
ジャンク情報が多すぎて少々梃子摺りましたが、  
とてもいい情報を得ることができましたよ」  
俺は頭が気になっていた。  
痛みはない。試しに額を恐る恐る触ってみた。  
傷のような感触は見当たらない。  
「気にすることはありません。傷は元のように再生しましたし、後遺症も残りません。  
それにしても・・・全く、私ともあろうものが、ワクワクしてきましたよ。  
まさかあの能力が子孫に代々引き継がれるとはね・・・  
TFEIとあの涼宮ハルヒの間に子を持たせ、  
情報統合思念体に帰還させ、メモリを同期する。  
これが本当だとしたら、いよいよ長年望んだ自律進化が実現する・・・」  
 
くそっ!やっぱり読み取られたか!こいつはハルヒを  
産む機械に利用するつもりだぜ!  
「そんなことをたかが有機生命体に教えてなんの意味があるのでしょう?  
自称神とやらもとんだ馬鹿ですね。」  
そのとき、俺の目の前に誰かが降り立った。  
真っ白な背中が視界いっぱいに見える。  
頭のほうを見ると、頭にオリーブの葉が巻いてあった。  
こいつ・・・どこかで・・・  
「遅かったですか・・・不覚でした。私としたことが」  
古泉と同じ声がした。こいつはまさか・・あのときの・・!  
「・・・!」  
動揺を隠し切れない幹部の様子が伺える。  
しかし、すぐに落ち着きを取り戻し、  
「この空間に入り込むとは、なかなかやるなあ・・  
そんな存在が我々情報統合思念体以外にいるとはね  
やはり貴様はこの少年の夢の中だけの存在ではなかったか」  
 
しかし、これで確認の手間が省ました。  
進入したことでいい気になっているようですが、  
その程度で自称神を名乗るには程遠いがな・・・  
情報統合思念体のトップに君臨する私こそが正真正銘の神なのです」  
それをすかさず神が切り返した。  
「神の存在をいまごろ知った情報統合思念体が  
全宇宙の全知全能の神とは。これはいかがなものでしょう?」  
幹部が口を閉じたまま歯を噛み締めたのが分かった。  
それまでとはうって変わって表情が険しくなる。  
「地球人などの味方をするとは・・・  
所詮有機生命体に過ぎないというのに。  
バクテリア以下の存在が生きたいと願ったただそれだけの理由が  
涼宮ハルヒの能力の発現のきっかけだと?  
馬鹿馬鹿しいにも程がある。  
 
神というならば、それだけの能力をお持ちなのだろうな?  
ちなみに、私はこの状態でも通常、毎秒53万デジバイトの情報処理能力を持っている。・・・驚いたかね?  
神は平然を保って  
「では、私は情報統合思念体の最高レベルの機密情報を言い当てて差し上げましょう」  
「なに!?」  
幹部が異常なまでの反応を見せる。  
「あなたはもともと、あなた達が馬鹿にしている  
有機生命体・・・だったということ」  
「・・!なぜ・・それを・・・!」  
「神を侮っては困りますね」  
「どこまで知っている」  
「宇宙の開闢とほぼ同時に情報統合思念体が  
存在していたということは事実です。  
が、あなたは有機生命体生まれの情報生命体です。  
とある星がありました。  
そこの星の人だったのがあなた。  
 
科学が限界まで発達したその星では  
性欲、食欲、睡眠欲といった欲望は  
世間一般では情報処理能力に  
じゃまなものであるとして認識されており、  
欲望から解放されるため、  
不老不死を実現するために  
なにより有機生命体の情報処理能力の限界を超えるため  
電脳化が強制的に進められていた。  
星が超新星爆発を起こすと、電脳化された者たちの  
情報だけが残り、情報生命体として宇宙をさまようことになった。  
そしてのちにあなたは情報統合思念体に拾われることになる・・・  
幹部は目を見開いて暫く机の上に視線を落としていたが、  
再び神に視線を戻すと、ニヤリと口元を歪めた。  
「ふっふっふっ・・・どうやって知ったかは知らんが、  
確かに貴様が凄いということだけは認めてやろう。だが、貴様は知りすぎた。」  
 
「ならば、交換条件はどうでしょう?  
私がその情報を秘密にするかわり、あなたも今後いっさい  
涼宮ハルヒに干渉せず、自律進化の可能性も捨てる」  
幹部はさらに怪しい笑みを浮かべ、  
「そんなことはしない。なぜなら、貴様を消し去ってしまえば  
秘密もばれず、自律進化もできて一石二鳥だからだ!」  
後半にいくしたがって、幹部は声を荒げ、殺気に満ちた表情になる。  
神は笑顔を一瞬曇らせたが、また復活して  
「いいでしょう。受けて立ちましょう。  
とはいえ、場所が悪いです。第三者に被害が出ることは望みません  
それに、雰囲気もでませんしね」  
その瞬間、部屋が砂上の楼閣の如く崩れ始め、新たな空間を再構成した。  
今度は、随所に岩肌の切り立っている広大な荒野が目の前に広がった。  
少しはなれたところには大きな湖もある。  
この、生物など皆無に等しい大地で、2人の神が激突しようとしていた。  
「貴様など、情報連結解除ですぐに消し去ってみせよう」  
長門、朝倉を遥かに凌駕するスピードで呪文を唱え始めた。  
「E/・Gcstチ撫7dSIィ」p+a[イ。掻オt5d)ォ耗鵙zヲュ椛_゙・ゲZサlチュ「+ミィ"ウ...」  
 
瞬時に神は幹部の後ろに回りこみ、  
強烈な正拳を背中にぶち込んだ。鈍い音がした。  
幹部はぐはっと言って呪文を唱えるのをやめた。  
移動したときの風が遅れて吹いてきて、神のマントを揺らす。  
「忘れたのですか。有機生命体の戦いの基本は物理攻撃であると」  
幹部は神の声が背中越しに聞こえてきたので目だけをそちらの方に向ける。  
「あと5秒もあれば貴様を消滅できたのにな」  
「あなたは何も分かっていない。涼宮ハルヒが全くの他人からの  
性行為を黙って受けつけることなど、100%ありえない。  
無理に強姦でもしようとしたならば、それこそ世界の終焉が訪れます。  
そんなことを予測できない時点で・・・あなたは情報統合思念体幹部として失格です。  
それにしても・・・いきなり大技とはなかなか派手ですね。  
しかし、呪文は唱えるのに集中するため、その間、お体が無防備になる  
という欠点があるのです。それとも、体を使うことには慣れていませんか?」  
 
「全くおしゃべりな野郎だ」  
幹部は超高速詠唱によって限りなくゼロに近い時間で瞬時に  
手にビームセイバーのようなものを取り出してみせた。  
いきなり、神に切りかかる。空気を振動させる音が出る。  
神は冷静にそれを回避する。  
次の瞬間、幹部が一刀両断を振りかざす構えを見せたので、  
神は一気に幹部の懐に接近し、とび蹴りをする。  
幹部はすごい勢いで吹っ飛び、30メートル以上吹っ飛ばされたあげく、  
岩山に激突した。人型に窪みができる。  
しかし、幹部はすぐに窪みから這い出て立ち上がった。  
その間に、神は拳の中にプラズマを集めて、それを光線として放った。  
目で追えないほどのスピードだった。これは、もう終わったなと  
俺の中で思った。しかし、幹部はビームセイバーを構えたまま一歩も  
動いていないというのに、無傷だった。と、幹部の右後ろの遠くの山に爆発が起こった。  
しばらくして爆発音が響く。幹部は瞬時にビームセイバーを使って  
粒子砲の軌道を屈折させていたようだった。流石というべきだろうか。  
幹部が後ろの岩山をけり、30メートルの距離を一気に縮める。  
ゼロ距離から10メートルの距離の間で激しい攻防戦が繰り広げられる。  
しかし、ビームセイバーは動きの速い神に対しては有効ではないように  
見える。「その剣をあなたは十分に使いこなせていませんね。  
そもそも、あなただけが武器を使うというのは道理に反するような気がするのですが」  
「戦いに道理もクソもないだろうが・・・と言いたいところだが、  
この剣を貴様にくれてやることにしよう」  
神がその言葉の本当の意味を理解する直前だった。  
次の瞬間、それを横から見ていた俺にはビームセイバーが神の体の向こう側を通過したように見えた。  
しかし、神がしばらくしてガクッと膝を突き、脇を抑えたのを見て、  
それが神の体を貫通したことが分かった。致命傷だ。  
突き抜けた剣が後ろの岩の中に消えた。  
 
「剣は時として飛び道具としても利用できるということをお忘れなく。」  
始めて、神から笑顔が消えた。その目は、古泉のものとは似て非なるものだった。  
殺気を感じる鋭い瞳だった。もう立ち上がれないのかと  
思ったが、10メートルほど飛び退いて、再び戦闘態勢に入った。  
そんな神に幹部がチャンスだとばかりに猛攻をしかける。  
それをすべてガードする神。ガードするたびに  
爆発物が炸裂するような、常識では考えられない音と衝撃波が発生する。  
少しずつ、神が後退する。  
劣勢だと感じたのか、神は瞬時に上空へジャンプする。  
そして、なにかの準備動作のようなことを始めた。  
これが神にとっての必殺技のようなものだろうか。  
そして、ブーメラン型のレーザーカッターのようなものを発射した。  
あまりにもスピードが速かったので、幹部は直前まで受け止めるか  
迷ったように見えたが、避けることにしたらしい。  
 
カッターは幹部スレスレのところを  
通過し、地面に激突。そこから地割れが発生し、東西に一直線に伸びる。  
俺のいたところにも亀裂がきたのであわてて走って逃げた。  
すると、大地が激しく揺れ、亀裂の幅がどんどん広がっていった。  
俺は立っていられなくなった。  
最終的には東西を横切る幅10メートル、長さは測定不能なほどもある大クレバスができた。  
その延長線上には大きな湖もあり、クレバスに勢いよく水が流れ込み、  
新たな滝を生んでいた。どれだけ深いのだろうと近くのクレバスを  
おそるおそる覗き込んでみる。真っ暗で底は見えなかった。かわりに、  
地下水脈と思われる水の音がトゥトゥと聞こえてきた。  
惑星が真っ二つにされたのではないかと思うほどであった。  
 
幹部の白衣の一部が焼き焦げて灰になって空中を漂っていた。  
幹部は空中にジャンプして神に接近しようとする。  
それを、指から発せられる光線で阻止しようとする神。  
それを防ぐ幹部。神が上昇を止めると、  
幹部もその高さで止まる。  
神に一撃が入ればすかさず神も反撃し、幹部に一撃が入れば幹部も反撃する。  
しばらくはその繰り返しだったが、  
幹部が全身全霊を込めた加重力衝撃踵落し(命名俺)  
が神の頭を直撃した。明らかに今までの衝撃とは違う。  
恐らく、情報操作を大幅に加えたのだろう。  
 
大気を揺るがす衝撃音を轟かせ、  
真っ逆さまのコンコルド如く神は一直線に地面へ、しかし、地面には激突せず、  
先ほど神のつくった大地の裂け目に消えた。  
どうなったかは、分からない。しかし・・・  
今までの殺気が嘘のように感じられなくなったのが事実だ。  
幹部は念には念を入れてという感じで、近くにあった木を引っこ抜くいて  
呪文を唱え、瞬時にミサイルに変形させた。  
そして手で操りながら神が消えていったポイントにミサイルを  
打ち込んだ。クレバスはかなり深いのか、かなり時間が経っても爆発音が聞こえない。  
一体どうなっているんだ?静寂が訪れる。俺は幹部と二人きりが恐ろしくなり、  
できるだけ幹部から離れようとした。夢の中で走るときのように、うまく足が動かない。  
また地震がおきはじめた。すると、さっきまでパックリと口を  
開けていたクレバスがなんと塞がりはじめた。そして、  
2つの大地が最後にドコーンと物凄い衝撃で衝突した。  
そのまま脳震盪を起こしてもおかしくないくらいの衝撃だった。  
恐らく、ミサイルが爆発した衝撃も入っているだろう。  
神の負けが確定した瞬間だった。  
幹部の勝利の雄たけびが聞こえる  
終わった・・・何もかも。  
 
さっきからそういえば太陽が暗い。  
雲に隠れてしまったのか?  
と、太陽を見ると  
日食が始まっていた。なんの前触れもなく。  
一体なぜ?しかし、  
それは日食ではなかった。  
俺はそこに神の姿を見た。神の手の上にある黒い球体が太陽を隠していたのだ。  
これは、古泉が得意とする赤い球体に似ている。  
が、大きさが比較にならない。  
それはバレーのサーブのようではなく、  
サッカーのスローイングのように投げられた。  
渾身の力で投げられた黒い球体はゆっくりと幹部に近づく。  
神は俺のところに一直線に飛んできた。  
「早くここから離れるんです!  
説明している暇はないッ!」  
幹部が神の存在に気づいた。  
幹部は驚きを隠せないようだった。  
しかし、それより不気味なほどゆっくりと接近する黒い球体に  
意識が向いたようだ。  
俺はなにがなんだか一つも分からなかったが、神に従うことにした。  
神は俺を抱えて飛んだ。神の服がバサバサ揺れる。  
神は額に手を当て、念じ始めた。  
「この空間は私がつくり変えたものであるから、  
外部からの進入を防ぐための防壁ははじめのあの狭い部屋のものより  
格段に薄く設定してある」言い終わるか言い終わらないうちに、  
視界がぼやけ、暗黒の闇に包まれた。  
そして、俺はもとの世界に返ってきた。  
ここは、間違いなく北高のグラウンドだった。  
終わった・・・のか?  
「まだ終わってません。やつが出てこないように、  
あの空間とこちらの世界を遮断しないと。今、やっています」  
すると、突然俺は誰かに思いっきり体当たりされた。  
俺は尻餅をつく。  
「イタタタタ・・・」  
「あっ、ごめんなさい!・・・って・・・キョン!?」  
「ハルヒ!?」  
どうしたハルヒ。まるで幽霊でも見たかのような顔してるぞ。  
ハルヒは驚いた表情から徐々に心配そうな表情に移行させながら  
「アンタいままでなにしてたのよ・・・家にも帰らないで・・・  
学校中で行方不明って大騒ぎなんだから・・・」  
 
「でも、よかった。無事で」  
いきなり抱きつかれてしまった。さて、なんなんだろうな  
この状況は。行方不明?俺の体内時計が正しければ、この世界から  
消えてから2時間も経っていないと思うんだが、それだけで  
行方不明とはんな大げさな  
ハルヒは俺の制服に顔を押し当て、目頭をぐりぐりしてから  
顔を上げた。そこでようやく神に気づく。  
「あれ?なんで古泉君も一緒なのよ」  
俺は神とアイコンタクトして  
「あ・・・それはだな・・・親戚だ。そう!親戚だ」  
「へー。親戚にしては似ているわねー」  
うまく?誤魔化せたようだ。  
「それで、いままで何してたの?」  
「誘拐されてたんだ。悪いやつにな」  
俺の言っていることは間違ってはいないだろう。  
その瞬間、不安げな表情になる。  
やっぱり・・・とハルヒ。  
「怪我はしてない!?なんか変な人体実験とかされなかった!?」  
あー。脳に針を刺されたが、あれはたぶん大丈夫だろうから  
俺はこう答えた。  
「ああ。大丈夫だとも」  
ふと、足元を見ようとしたとき、自分の制服が濡れていることに気づいた。  
 
それからこの騒動は俺が見つかったことにより一件落着した。  
ただ、誘拐されたというストーリーを偽造するのには苦労したが。  
そのあと、神と2人になり、俺が謎に感じた点を聞くことにした。  
まず、あなたのなかでは2時間くらいに感じたのに、  
実際に外の世界では3日も経っていたということです。  
これはあの空間が非常に特異な存在であったということ。  
時間の流れがあそこでは外界よりも非常に遅かったんです。  
それがなぜかというと・・・それはちょっと言葉で伝えるのは  
難しいですね・・・例えば、パソコンにモノを詰め込みすぎて  
動作が遅くなる・・・といった現象と同じだと思ってくれたら  
少しは分かりやすいんじゃないかと思います。  
 
それから、奈落の底に突き落とされた私がなぜ生きていたか。  
それは簡単です。惑星の反対側まで亀裂が入っていたからなんです。  
まさか、あの私の技がそこまですごい威力だったとは思いませんでしたよ。  
正に、惑星を一刀両断ですね。  
そんなことを笑顔で語るのが恐ろしい。  
もしあの星の内部が地球のようになっていたとしたら、私は中心部を通過する際に、  
熱でドロドロに解けてしまっていたことでしょう。  
また、もとにくっついたのは、重力による影響でしょう。  
そして、幹部の隙をついて、イプシロン星ほどもある  
質量を持つブラックホールを密かに創っていたんです。  
あらかじめ重力遮断フィルターの処置をしていなければ  
光速で逃げようとしても吸い込まれてしまいます。  
そしてあの空間ごと吸い込まれて最後には蒸発して「無」になります。  
あの空間が完全にブラックホールに飲み込まれたのが  
私たちが脱出してからわずか5秒。まさに大脱走ですね。」  
そんな桁違いのことを聞いてもそこまで驚かないのは既に慣れてしまったからなのだろうか。  
それとも、スケールが大きすぎて実感が沸かないのか。どっちかだ。  
「それから、私と容姿が似ているお友達があなたにいるので  
あなたのまわりにいるといろいろ厄介なことになりそうですね。私は月に帰ります。  
それではまた、どこかで。」  
そう言って神はマントをひるがえし、グラウンドをあとにした。  
しかし、神の言っていた来るべき事態はこの時点では  
まだ訪れていなかった・・・  
 
朝比奈さんは泣きながら俺に抱きついてきて  
よかったよかったと言っていた。  
古泉は、ハルヒを宥めたり、ハルヒが次々と生み出す閉鎖空間の  
神人退治のせいで、ほとんど出勤状態で、3日間全く睡眠を取っていないらしい。  
だから、俺が生きていたということを知った瞬間、  
その場に倒れてしまったらしい。古泉がこれでは、  
機関のみなさんも同じような状態だろう。全く、申し訳ないことこの上ない。  
長門は「あなたはこの世界から63時間と3分消失していた。  
あなたに再び会えて、私という個体もよかったと思っている」  
長門らしい、不器用な感情表現だ。  
「すまんな。長門。やっぱり情報統合思念体は  
好きになれそうにない」  
「謝ることはない。私も、そこまでして自律進化したいとは思わない。  
それに・・・私はそれよりももっと大切なことを見つけたから」  
鶴屋さんは「みくるがわんわん泣いてさあ。こっちまで泣きたく  
なってしまいそうだったんだよっ?でも、あたしはキョンくんが  
絶対帰ってくるって信じていたっさ!」  
谷口は、だらしなく鼻水を垂らしながら涙目で、  
俺の肩に手を置いて、がっくりとうなだれグズグズと  
「キョンがいなくなっていたら俺の人生はどーなっていたことやら・・!」  
長くなりそうなので、これくらいにしておく、  
!  
しかし、まずこのことを家族に伝えなければならない。  
一刻も早く家族のもとへ帰らなければ。  
と、帰ろうとしたときハルヒによって阻止された。  
「だめよ!いくら犯人から解放してくれたとはいえ、  
まだそこらへんをうろついてるかもしれないじゃない!」  
それくらい大丈夫だって。今回の件で、  
何が危険なのか学んださ。  
「学んでないのはあんたじゃない!普通、誘拐なんてされたら  
しばらく一人で外も歩けないはずだわ。これからはあたしが  
一緒に帰ってあげるから感謝しなさい。ううん。帰るときだけじゃ  
だめだわ。学校にくるときもあたしがついてないとね」  
 
ハルヒは朝が早いから俺の束の間の休息が奪われてしまいそうだぜ。  
 
それは、本当に束の間の休息にすぎなかった。  
 
次の日、ハルヒはやはり朝早く俺の家の呼び鈴を鳴らした。  
俺がまだ支度途中だったので玄関でハルヒを待たせることにした。  
「おっ はよー!」  
ドアを開けるとハルヒが朝から大きな声を出した。  
俺はまだ眠い目をこすりつつ、ハルヒと登校することにした。  
高校生ともなれば、カップルが下校している光景など  
珍しくもなんともない。しかし、朝から一緒に登校しているのは  
あまり見ない。少なくともこの学校ではな。  
ってなに勝手に付き合ってることにしてんだ俺。  
「どんな大男でも、二人いっぺんに誘拐することは  
難しいと思うわ。きっと一人ずつ引きはがして連れ去るんじゃないかしら。  
そうなったらあたしの手を絶対はなしちゃダメ!  
でも、その前にそいつの股間にあたしの蹴りを入れてやるわ。」  
さて、ハルヒは頭の中でどんな大男と戦っているのだろう。  
 
ハルマゲドン 前半 −完ー  
 

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