我輩は一般人である。名はキョンという。  
 さて、明治時代の文豪からのパクリ丸出しなこの冒頭文からもお分かりの通り、俺は普通である事だけがとりえだと思っている一般人である。………いや、あったはずだ。  
 ………あったはず、なのだが『目が覚めたら眠りについた地点と全然違う場所にいた』という今のような経験に慣れてしまっている時点で、もしかしたら一般人という安らげるプレイスはもう遥けき昔のアルカディアなのかもしれん。  
 親譲りの無鉄砲も無いのに損ばかりしているなあ、とおもわず枕を涙で濡らしてしまいそうになる俺であった。  
 さて、現在俺が直面しているこの異常事態の原因なのだが、候補を挙げろといわれれば夜空を彩る星の数ほど上げる事が出来ちまう。この素晴らしきハッピーライフに、幸あれ。  
 皮肉ったところで何一つ変わらない現状に溜息一つ。  
 ついでに、あまたの星々の中で一際輝く死兆星、すなわち最も可能性の高い原因を吐き出した。  
「こりゃ、久しぶりにハルヒが何かやらかしたって事かね」  
 まあ、原因が分かったところで俺にできる事は何もないんだけどな。  
 辺りの風景を見回しながら無力感を誤魔化しつつ、再度溜息。  
 いつの間にか愛すべき我が一軒家から変化していた40℃強の程よい湯加減の温泉から立ち上る湯気が、俺のそんな溜息を吸収しつつ視界を急速に塞いでいった。  
 
 
――――――――――――  
弱酸性のやさしさをあなたへ  
――――――――――――  
 
 
 どこからともなく俺のいる温泉に吹き込んできた北風が、俺の視界を塞ぐ湯気を吹き飛ばしていく。『ついでの俺の憂鬱も吹き飛ばしてくれないものだろうか』といつものように願うのだが、それが叶ったためしはない。ガッデム北風、プリーズ太陽。  
 湯気が超強力送風機もびっくりなほど綺麗に吹き飛んだあとで、  
「トップバッター! あたし参上! やっほ、ってねっ!」  
 素っ裸の鶴屋さんがエロさの欠片も感じさせない健康的な笑顔で俺に声を掛けてきた。なるほど、これが芸術か、………って、ちょっと待てーい!  
「ん、どったの?」  
「心底不思議そうに聞かんでくださいますか!」  
 肉体的に健全であり、精神的にもノーマルな一般男性の前で真っ裸という今の状況を正しく理解できているのだろうか、このお人は。………いや、悲鳴とか上げられても俺の社会生活がデッドエンドまっしぐらなのだけれども。  
「だいじょーぶっ!」  
「その根拠は?」  
「キミなら許すよっ!」  
「マジ勘弁してください」  
 いつの間にか、こめられている意味は変わりつつも、すっかり癖になっていた溜息を一つ。  
 鶴屋さんの台詞は相手が健常男性ならば本気で襲われかねないくらいには危険なものなのだが、それでも最後の一線を踏み越えさせるには足りていないものだ。相変わらずタイトロープを笑顔で泰平に全力疾走しているようである。  
 映像があまりにも容易に脳内に浮かんでくる事に対し、もう一つ溜息。  
「あっはははっ」  
 そしてそんな俺を見て何一つ躊躇することなく大爆笑の人生の先達。  
 ピコグラム程度の殺意を覚えたところで、ちょっとだけ真面目な笑顔になった殺意の元凶にこんな事を言われた。  
「ダメだよっ! こんなおまけみたいな世界でまでそんなに固くなってちゃっさっ!」  
 ………性分ですよ。三つ子はとうに過ぎてますし、100まで生きる気もありませんから、多分もう一生治らないでしょうね。  
「ん、キミがそー言うんならおねーさんからはもう何もないねっ! バトンタッチだっ!」  
「………え、バトンタッチって、誰に?」  
 俺の質問に鶴屋さんは答える事なく、ただこう言った。  
「そいじゃねキョンくん。あたしは今、幸せだよっ!」  
 鶴屋さんがそう言った瞬間にまたも立ち上った湯気が、俺と彼女の間に緞帳を下ろすように俺の視界を塞いでいった。  
 
 ///  
 
 湯気と同時に万年笑顔の愛すべき先達は消え、それと同時にわき腹に何故か冷たい感覚が走る。懐かしい感触なのだがノスタルジアとは程遠い、………つーか、なんだこれ?  
「あら、ただのナイフだけど」  
 ………二番バッター、スマイリーキラー朝倉涼子の登場であった。こいつも何故か全裸だ、温泉だからか? どこの世界の風習だ、そりゃ? 俺の腹に突きつけている危険物の撤去も含め、お前という存在に抜本的な改善を要求したいぞ。  
「あっ、ひどーい。ちょっとインパクトのある登場の仕方をして好感度を上げようとしただけなのにー」  
 地に落ちたぞ、好感度。あと、服を着ろ。  
「………あたしには有機生命体の好感度とかフラグとかいう概念がよく分からないから」  
 心配するな。どうせ特定の人種しか理解する必要のない概念だ。ついでに言うが、服を着ろ。  
「あら、キョンくんは知ってるの?」  
「ああ、谷口の馬鹿がさんざん熱弁してくれたからな」  
 クラス中の女子から冷たい視線を向けられていたからなあ。他人の振りをするのも一苦労だったんだぜ。  
「その割には、折りまくってたわよね? あたしを含めて」  
「え、何をだ?」  
「………今まさにへし折ったわよ」  
 言葉の意味が分からないという事を30度ほど頸部を傾ける事で表現する俺に対し、朝倉は溜息混じりにこう言った。  
「まあ、いいわ。あなたを糾弾するのはあたしよりも長門さんの方が相応しいでしょうしね」  
 その言葉に何となく引っ掛かりを覚えて頸部をさらに5度ほど傾ける俺に対し、前よりもさらに大きな溜息付きで、彼女は最後の言葉を伝えてきた。  
「あたしは幸せよ。ま、いろいろあるけどね」  
 俺の視界を覆う湯気。  
 
 ///  
 
 どうやら湯気で視界が覆われるたびに一人一人知り合いと出会っては別れてる羽目になるらしいな。一体全体何のための世界なのかね、これは。  
「ええ、わたしもそう思いますよ」  
 しかも舞台が温泉って、意味分かんないしな。  
「全くです。ちなみにわたしも今、全裸ですよ」  
 鶴屋さんも朝倉もよく分からない事ばっかり一方的に告げて、勝手に消えていっちまうし。俺の頭に一方通行の標識でも立ってるのかね?  
「ええ、言葉のキャッチボールって大事ですからね。………大事ですよね」  
 なんかもう考えるのも面倒くさくなってきたぞ、本当。  
「うふふふふ、一生何も考えられなくしてさしあげましょうか?」  
「………現実逃避くらい許してもらえませんかね、喜緑さん?」  
「わたしが面白くないので不許可です」  
 そうでしょうとも。ええ、そうでしょうとも。  
「喜緑さんはここが何なのか知っているんですか?」  
「ええ、もちろんですよ。この世界でわたしが知らない事なんてないんですからね」  
 平均的な胸を惜しげもなく張りつつうそぶく喜緑さん。  
「あら、反応ないんですね」  
「どこを見てそんな言葉を吐きやがりますか、あなたは」  
「恥ずかしい事ではありません。ちゃんと病院にいけば治るかもしれませんよ」  
 人の下半身の一部分を見てそうのたまうセクハラ宇宙人である、宇宙法廷はどこにあるんだ。  
「つか、俺は正常ですって。人妻に手を出すようなまねはしないってだけですよ」  
「………残念です」  
「あんたは俺に何を求めてるんですか?」  
「さて、ここが何なのかという事ですが」  
「いきなり切り替わりましたね」  
「ぶっちゃけ、あなたの妄想です」  
「最悪の答えが来た!」  
「冗談ですけど」  
「最悪だ! この人マジで最悪だ!」  
 くすくす、といつもどおりの底のよめない笑みを浮かべたままで彼女は続ける。  
「ま、あなたが思う事があなたの答えなんですから。それを貫きなさいって事ですよ」  
 答えになってるのかなってないのか、そも真面目なのか不真面目なのかも分からない、そんな彼女の言葉に対し何も言い返せずに口ごもる俺。  
 ただ、何となくだけどその言葉には喜緑さんなりの温かさだとか、エールだとかが含まれているような、そんな気がした。  
「ようするに、結局あなたの妄想しだいって事ですけど」  
 ………気がした、だけかもしれんね、やれやれ。  
 肩をすくめる俺に、喜緑さんは笑顔のままでこう言った。  
「では、さよならですね。わたしは当然、幸せですよ」  
 そしてまたまた、俺の視界が塞がれる。  
 
 ///  
 
「WAWAWA、って出た瞬間に消えかけてるじゃねーか、俺! あれか、出オチか? 出オチなのか? ちょ、キョンお前、覚えてろよー!」  
 
 ///  
 
 さて、途中一部で部外者乱入によるノイズが走ったのをつい無意識でかき消しちまったんだが、まああいつとは会おうと思ったらいつでも会えるから別にいいや。  
 とりあえずさしあたっての問題は、だ。  
「―――ゲット―――だぜ?」  
 俺の体を完璧に拘束しているこの黒髪と、その持ち主であるこの馬鹿娘だな、うん。  
 周囲はいつの間にか温泉からいつも行っていた喫茶店へと様変わりしている。第2ステージ開幕ってやつか? 全然嬉しくないのは何でだろうね?  
 ちなみに目の前の黒介は何故かメイド服だ。俺の記憶が確かならあの店はそんなタイプの店ではなかったと思うんだがな。  
 と、言うか、  
「九曜、そのお前の横に物理法則を無視した感じで浮かんでいるアニメでよく見た感じのする球体は何だ?」  
 色々やばいぞ。主に著作権的に。  
「………モン○ターボール―――オープン」  
「隠す気ゼロかよ。しかも、どう考えてもその大きさだと物理的に入らないだろうが」  
 大きさ的にはバランスボールくらいだ。全身の関節を外せば入る事も可能かもしれんが、残念ながら俺は修行僧になる気はないんでね、苦行は無しの方向で。  
「まか―――せて」  
 こうしてまた宇宙的パワーという名の資源が無駄に使われるわけである。まあ、痛くないんなら俺は一向に構わないけどな。  
「全身の―――骨を………砕けば―――何とか」  
「超力技で痛さマックスッ! ちょっ、ま、リリース! キャッチアンドリリース!」  
 何気に大ピンチな事に大惨事直前でようやく気付き、慌てて叫ぶ俺であった。  
「ユー………ゴット―――ミー?」  
 リリースの後でこちらに向けて首を微妙な角度に傾けながら、そんな電波を発信する九曜。  
 悪いが俺にはお前専用の受信アンテナなんてついてないぞ。あと、英語力も正直言うと、ない。………日本語で分かりやすく頼む。  
「わたしは―――あなたを―――得られ………なかった」  
 うん、日本語になったのはいいけど、相変わらず電波だな。電波に国境はない、最悪だ。  
 ………最悪、なんだけど、  
「でも………わたしは―――あなたを―――得た―――と………思う」  
 無感情な必死さをこめて伝えようとしている彼女の思い。  
「あなたは―――わたしを………得たの?」  
 それは俺の心に糸電話だけで繋がっているような、そんな不確かなものだったけれども、  
「当然だ、馬鹿野郎」  
 でも、俺は確かにそう返したのだ。  
 そんな俺をたっぷり5分ほど見つめた後で、どことなく満足そうな無表情で九曜は言った。  
「あいむ―――はっぴー」  
 
 ///  
 
 九曜がそう言った瞬間、床に固定されているはずのソファーが電車の座席のような感じでくるりと180度回転した。  
 さて、切り替わるためのキーワードはどうやら『幸せ』とか『幸福』とかいう単語らしいな。こうしてまた一つこの世界の謎が解き明かされた、と。………深まっただけかもしれん。  
 そんな事を考える俺の目の前で、顔見知り未満と主張したいやつがメイド服を着て一人不気味に笑っていた。………ああ、通報したい。  
「ふふふふふ、苦節えっと、まあ適当に20年くらいにしましょうか。苦節20年、やっとあたし、の出番が来たのですよ」  
「そうだな。とりあえず、だ。手のしわとしわを合わせて?」  
「しあわわわっちゃーい! 何なのですか! いきなり退去命令ですか!」  
「ちっ」  
「舌打ちしたー! 隠す気配も見せずに舌打ちしたー!」  
 出てきて速攻テンパっている自称超能力者2号橘京子(技なし、力なし)。  
 ………ふむ、確かに舌打ちは少々まずかったかもしれんな。  
「ですよねっ!」  
「ああ、真剣に考える事にするよ」  
 何かを期待するような目で俺のほうを見つめてくる橘。  
 ………ふむ、そうだな。  
 
「腹話術とかで誤魔化せねーかな?」  
「??? 何の事ですか?」  
「ああ、だからな、俺がこうして………」  
 橘の後ろに回りこんで、服の背中をつかみながら言った。  
「アタシハコウフクデスYO!」  
「って、真剣に考えてるのはあたしの消し方かーい!」  
 怒られた。  
「んんっ、もうっ! ………あ、そうだ」  
 一通りわたわたうごめいたかと思えば急に、時代劇だと開始10分で切り捨てられる悪人のような小物臭漂う笑みを浮かべる馬鹿。  
「あたしがその言葉を言わない限り、あなたは一生ここから出られないって事ですね」  
 うわ、マジで小悪人だ、こいつ。切り捨て御免、誰か俺に刀をくれ。  
「………つか、それだとお前も一生出られないって事になるぞ」  
「え、あ、………はい。………それはそれで」  
 ??? なんでいきなり顔をそむけるんだ、こいつ?  
「ああっ、もうっ! とにかく、今この瞬間、あなたの生殺与奪権はこのあたしにあるといっても過言ではないのです」  
 過言にも程がある台詞なのだが怒らせても厄介になるだけなので突っ込まないでおこう。  
「そういやさ、お前や九曜が来たって事は藤原や佐々木も来るって事なんだよな」  
 とりあえずクールダウンしてもらおうかと話をそらす。  
 にしても、こりゃちと露骨過ぎるかも知れんな。よっぽどの単純系生物でないと誤魔化されてはくれないだろう。  
「いえ、藤原さんは来ませんよ」  
 単純系新生物が発見された。どこに申請すればいいんだ、ギネスか?  
「えっと、とりあえずそれはおいておこう」  
「? 何の事ですか?」  
 無知の幸福というものを魂で理解しながら、さらに話をそらす。  
「お前の言い方からすると佐々木は来るって事でいいんだよな」  
「………さあ?」  
 あさっての方向を向いて吹ききれていない口笛もどきをかましてくる橘。どうやら佐々木が来る事は確定済みらしいな、こりゃ。  
「そんなっ! あたしの完璧な誤魔化し術がっ! 組織の人達は簡単に騙せたのにっ!」  
 それは確実に気を使って騙されてくれたんだと思うぞ、レベル的には『中の人などいない』と同じくらいだな、うん。  
「そういえば藤原さんから言伝を預かっているのです」  
 露骨な話そらしっぷりだが、俺も同じような事をしたのでとやかくは言わないでおく。『沈黙は金なり』ではなく『雄弁は禁なり』だ。  
「えっと、『ふんっ、まあ低俗な現地人が元気だろうがなんだろうが僕にはどうでもいい事なんだがな。どうやら規定事項らしいから一応伝えておく』っと。………これってツンデレですよね、ツ・ン・デ・レ!」  
「ああ、可哀想な事になっているお前の脳内妄想ではそうなんだろうな」  
「うふふふふ、これくらいの罵詈雑言なら聞き飽きてますからね。………あれ? もしかしてあなたもツンデレですかっ!」  
 ………まずい。日本語が通じない人だ。  
「ええ、こう見えてもあたしは、………えっと、ばいりんがーる? ………ですからねっ!」  
 ………まずい。何もかもが通じないバカだ。  
「あーと、とりあえず続けてくれ」  
 こういう時はとにかく速攻で話を終わらせるに限るよな、速さは力なり。  
「あ、はい。えっとですね」  
 少しだけ真面目な顔になって、橘は藤原の言葉を続けた。  
 それと同時にやっぱり少しだけだけど、周囲の空気も変化する。  
「『選ばれなかった僕達がいまさら何を言ったってどうでもいい事、無価値だ。それでも聞きたいってんなら、それはあんたの自己満足だろうよ』」  
 橘は藤原の言葉以外は何も言わない。こういう時だけはきっちり空気読んで茶化しの言葉を入れてこないのだ、こいつは。  
「『だがまあ、今から言う事も結局は僕の自己満足な独りよがりだ。でも、だけど、聞くんだろう、アンタは物好きだからな。僕には到底理解できないが、まあそれはいい。ただ、………聞くのなら、しっかり聞けよ』」  
 なんとなく二人に同時に言われているような、そんな気がしてくる。  
「『あんたが何を、誰を選ぼうが、僕達は僕達で幸せになる』」  
 全て言い終えた後、まるで一生分の仕事を終えたような表情で自慢げに俺のほうを見る橘。  
 その上から大量のメニューが降り注いだ。  
 
「ええっ、何で! あたし何も、………あ」  
 まあ、お前さっき思いっきり『幸せになる』とか口にしてたしな。  
「おのれこれが藤原の罠なのですか!」  
 客観的にも主観的にもただの自爆だ。つーか、なんだ、一応最後っぽいし何か伝える事があるなら早くしろよ。罵声でも何でも聞いてやるからさ。  
「およ、やっぱりツンデレ」  
「よし、それがラストソングだな」  
 胸まで埋まっている橘に向けて、机の上においてあるメニューを振り上げる。  
「ノー! アンコールプリーズ!」  
 ひどく情けない答えが返ってきたので2、3曲なら許してやることにした。  
「1曲でいいですけどね」  
 いいから早くしろ。もう頭も埋まりかけじゃねーか。  
「あ、はい、えっとですね」  
 メニューの山の中から声だけが響いてきた。  
「I’m happy!」  
 無駄に流暢な英語の余韻はどこからか吹き込んできた風に乗って飛んでいき、ついでに吹き飛ばされたメニューの山の中にはもう誰も残っていなかった。  
 
 ///  
 
 何となくで感じた思いを誤魔化すために、まるで今までの俺の人生を表しているかのように和洋中ごちゃ混ぜなメニューをパラパラとめくっていると、  
「お客様、ご注文はお決まりでしょうか?」  
 と、腐れ縁の親友がこれまたメイド服で声を掛けてきた。つーか佐々木、お前もか。  
「とりあえず『平穏無事な人生』ってのをオーダーしたいんだが。あとついでに普通の服装もな」  
「嘘はよくないな。まあキミの場合は、自分の深層心理の願望に気付いていないだけという可能性もあるんだけどね」  
 すまん、どう考えても俺にメイド趣味はない。朝比奈さんがメイドだったのはハルヒが命じたせいだし、そもそもあれは朝比奈さんであったから可愛かったのだ。電波系真っ黒娘やら空回り系ツインテールやらお前やらが着ても、………何だ、………ノーコメントだ。  
「そっちの事を言ったわけじゃないんだけどね。でも、どちらにせよ相変わらず嘘がつけないタイプの人間のようだね、キミは」  
「うるさいよ。大体、趣味が多い方が人生楽しいだろ」  
「まあ、『自分が許容できる範囲を超えて手を出しまくる』といった事がなかったらいいんじゃないかな」  
 近年まれに見るいやな笑みで俺にそう言う佐々木女史。  
 ………いや、俺はもともと自分の手の届く範囲にしか手を出してないぞ。  
「ああ、うん、そうだね。………そっちが無意識だったか」  
 何故か頭を抱えだす佐々木。俺なんか変な事言ったか?  
「いやいや、キミはキミだな、と再認識しただけだよ」  
 気にしないでくれ、と今度は不思議と柔らかな笑み。  
 長い付き合いなんだが未だにこいつの事は上手くつかめないんだよな、本当。  
「まあいいか、とりあえずお前も言いたい事あるなら手早くしてくれよな」  
「むう、なかなかに冷たいお言葉だね」  
「お前とならいつだって会えるからな」  
 それなら会いたくてもなかなか会えない人達に時間を使った方がいいだろ。  
「………感情を無視してるのか重視してるのか、本当にキミは面白いな」  
 ここまできてようやく、いつものくっくっくという笑いを見せる彼女。  
「いいからとっとと現実に戻ってからまた会いに来いよ。待っててやるからさ」  
「いいのかい?」  
「何がだ?」  
「ああ、やっぱり無意識だったか」  
 また頭を抱えだした。趣味なのだろうか?  
「まあ、いいや。夢幻のこの身はキミのその言葉で『とりあえずの満足を得た』、という事にして消えるとしよう」  
 だけどね、といつも見せていた特徴的な笑みを浮かべつつ彼女は俺に告げた。  
「覚悟するんだね。現実の僕は消える事はないんだよ」  
 何の覚悟だよ、と俺が問おうとする前に、  
「じゃあまたね、キョン。アイムハッピー」  
 と佐々木が言い、  
 次の瞬間に喫茶店の床が抜け、俺は真っ暗な空間に放り出される事になった。  
 
 ///  
 
 あまりに周囲が真っ暗なため、落ちているのか浮かんでいるのかという感覚さえ曖昧になってくる。  
「さて、どこから説明しましょうか」  
 そのまま闇に体が溶けてしまうような気がしたその時、俺の耳にそんな自称超能力者1号(技なし)の声が飛び込んできた。  
 その瞬間俺の周囲に広がる、文芸部室という名のSOS団本部。  
 俺自身もいつの間にか制服を着て本部常設のパイプ椅子に座っているようだ。夢だからって滅茶苦茶すぎないか、もう。………てか夢、なんだよな、これ?  
「ふふふ、あやふやで曖昧模糊、夢か現実かわからない、そんな状況は『いつもの事』だったと思いますが」  
 視線を上げるとにやけ面のエスパー野郎が、これまた制服姿で定位置に座っていやがった。  
 良い顔のやつは何を着ても映えるよなあ、とうらやみつつ、  
「とりあえず、先手は俺だな、古泉」  
 言いながら、目の前の将棋盤に並べられていた『歩』を前に進めた。  
「そういえば、こんな事をするのも久しぶりかもしれませんね」  
「ん、そうか?」  
「そうですよ」  
「それなら今度、また何か持って来いよ」  
「そうですね」  
 益体も進展もない会話が続く。変っていくのは盤の上だけのようだ。  
「聞かないんですか?」  
「何をだ?」  
「この世界が何なのかという事ですよ」  
 香車で俺の陣地に鋭く切り込みながら古泉はそう言った。どうやらいつも通りの解説役らしいな、こいつは。  
「100文字以内に収まるんなら聞くぞ」  
 香車の移動で開いたスペースに角を叩き込み、王手をかけながら言う俺。  
「………」  
「腹心の部下に裏切られて破産したワンマン社長のような目で俺を見るな」  
 恨むんなら一を知らせるのに十を聞かせようとする自分の悪癖を恨め。  
「100文字以内などと言われてしまったら僕のアイデンティティーが崩壊してしまうじゃないですか」  
 むしろしちまえ、んなアイデンティティー。  
「まあ、仕方ないので無視して解説を始めましょう」  
「俺のアイデンティティーが無視された!」  
「ようするに奇跡の残りかすの集合体といったところでしょうか」  
「30文字以内に収まった!」  
 しかも意味不明である。まあそれもこの空間らしいと言ってしまえばそれまでだが。  
「ふふふ、どうですか。ミステリアスな謎の転校生らしい台詞だったでしょう」  
「じゃあ謎のままグッバイだな」  
 そんな風に駄弁りながら、逃げる古泉の王将を追い詰めていく俺。  
「おやおや、どうやら困った事になりそうですね」  
 いつものさわやか似非スマイルでちっとも困ってなさそうにのたまう古泉。  
「まあ、僕はこう見えて、少なくともこの世界ではですが、負う責任の少ない脇役1号にすぎませんからね」  
 不吉な事をいうな。それじゃこの後に本番が待っているようじゃないか。  
「ええ、待ってますよ」  
 さらりと言うな、さらりと。………まあ、思い当たる人物は二人ほどいるが。  
「………二人、ですか。なるほど」  
 腕を組み、全身を使って大きく頷く古泉。何が『なるほど』なんだろうね。  
「自業自得だ、という事ですよ」  
「………50文字以上100文字以下で頼む」  
「あの二人くらいまで深い付き合いをしないと、手遅れにならないとその想いに気付けない。わりと最悪の部類に入りますね、あなたは。………と、どうです? ばっちり制限文字数以内でしょう?」  
 盤上ではいつの間にか俺の王将が逃げ場の無い状態まで追い詰められていた。  
 
「俺の気分的には一万文字以上だ」  
 足掻きの一手も、  
「それも、自業自得ですね。王手」  
 簡単に返されてしまう。…………まいった。いろんな意味で打つ手がない。  
「覚悟は、決まりましたか」  
 めったに見せない真面目な表情で俺にそう言う古泉。  
「ああ、負ける覚悟はできたみたいだ」  
 こっちも珍しく素直に、真面目に答える。  
「そうですか、それなら僕もここまで来たかいがあったというものです」  
 『小さな親切大きなお世話』という名言を知っているか?  
「性分ですので」  
 ………まあ、ありがとうな。  
「どういたしまして」  
 中身が詰まっているようで詰まっていない、そんなやり取りを交わした後で、  
「それでは、また会いましょう」  
 と、必要のない前置きを残しつつ古泉はこう言った。  
「あなた達に、幸福を」  
 
 ///  
 
 ことり、と俺の目の前に湯飲みが置かれる。  
「お久しぶり、キョンくん」  
 視線を上げるとダイナマイトなおっぱいがいた。  
「………何か不謹慎な事、考えてない?」  
 もとい、制服姿の朝比奈さん、ただし(大)バージョン、が俺にお茶を入れてくれたところであった。  
 高校生というものを象徴する制服に超高校生級のはちきれんばかりのダイナマイツが収まっているというこの状態、思わず呼び名を間違えてしまう俺を一体誰が責められようか、いや誰も責められまい。  
「もう、エッチ」  
「そこではにかみながらのその言葉はある意味凶器だと思いますよ」  
 俺を含めた不特定大多数のハートはもう粉々である。  
「うーん、あたしは粉々にするんじゃなくて、射抜きたかっただけなんだけどな」  
 そう言って俺の胸を人差し指でちょんちょんとつつく朝比奈さん。  
 ………よし、これはルパンダイブおっけーいでFAなフィーリングだっちゃ。  
「ええ、優しくしてくださいね」  
 マジでOKが出た。  
 ああ、友よ! いや、盟友よ! いざ行かん、天国への13階段を。はるか遠きアルカディアへ!  
 そして俺は相変わらず思春期男子のハートなら鷲掴みどころか丸呑みにしてしまいそうなほどのスマイルを浮かべる朝比奈さんに、  
「つか、狙いすぎですよ」  
 こつん、と軽く突っ込みを入れた。  
 本当に軽く小突いただけなのに彼女の瞳に痛みが宿る。  
 小突いた手を通して俺の胸までその痛みが伝わってくる。  
 仕方ないさ。仕方、ないだろう。  
 未来だろうが現在だろうが、俺達は現実を生きてるんだから、そりゃ、痛いさ。  
「夢、ですよ、ここは。何を選んでも後には残りません」  
「なら、なおさらでしょう」  
 俺に都合のいい夢ならば、後に残らない幻ならば、なおさら、許されない。  
 選びなおすなんて真似、誰よりも俺が許さない。  
「まあ、結局は俺の、我侭なんですけどね」  
「………バカ」  
 少し拗ねた感じのその言葉からは、もう痛みは感じられなかった。  
 隠しているだけなのかもしれないけれど、それはもう俺が暴いていいものじゃない。そのくらいには俺だって学習しているのだ。  
 
「あたしはもう割り切れてるからいいけどね」  
「そうなんですか」  
「むー、そこで聞き返すから、キョンくんは泥沼にはまるのよ」  
 場の空気があまりよろしくないものに変質する。………どうやら俺には死ぬまで学習が必要らしい、生涯学習はどこに申し込めばいいんだろうかね。  
「あたしはもう割り切れてるからいいけどね」  
「そうなんですか」  
 とりあえず天丼で誤魔化してみる。  
「………」  
「………」  
 どうやら泥沼にはまったようだ、泣きたい。  
「もうっ、泣きたいのはこっち!」  
「ごめんなさい」  
 それくらいしか返す言葉がない。  
「ほんとに、ほんっとうっに、バカ」  
 はい、バカでございます。既に泥沼にどっぷりとつかりきり、差し出される藁にすがる事しかできない哀れな子羊でございますです。  
 そんな自己嫌悪の波に押し流されて後悔という名の海の藻屑となっている俺を、ジト目で見つめる朝比奈さん。  
 その顔を直視する事ができず、視線を落とすへたれマックスな俺。  
「でも、大好きでしたよ」  
 そんな俺に届く、天使の歌声。  
 上げた視線の先にあるものは、あの頃と同じ天使の微笑で。  
「ずるくないですか、それ」  
「あら、バカよりはましでしょう?」  
 それもそうか、と簡単に納得してしまうバカをおいて、天使は天上へと戻るのだろう。  
「そうね、言いたい事はもう全部言っちゃったし。………あ、一つだけあったわ、言い残した事」  
「何ですか」  
「現在進行形の人もいるから、頑張ってね」  
「………」  
 まだ出てきていない残り一人のことを思い『どうしたものか』と頭を抱える俺に対して、最後まで微笑を崩さないまま朝比奈さんはこう言った。  
「それじゃ、バイバイ。あなた達の幸福を祈ってるわ」  
 
 ///  
 
 朝比奈さんが去ってすぐ、パラリ、パラリという音とともに、透明な存在感が部室内に出現した。  
 深呼吸ほどあからさまではないが、気分を落ち着かせる事ができるくらいには深い呼吸を2・3回。  
 決める覚悟の種類も分からないまま、とりあえず動こうと視線を上げる。  
 いつもの場所に座り、いつも通りに本を読む彼女。  
 あの頃から、何一つ変らない姿で。  
 ―――『長門有希』がそこにいた。  
「よう」  
 俺の言葉に対し、視線だけで頷きを返し、またページをめくる長門。  
「いつから、そうしていたんだ」  
「最初から」  
「いつまで、そうしているんだ」  
「ずっと」  
「それで、いいのか」  
「いい」  
 必要最小限な言葉の応酬。それに心地よさを覚えている自分がいた事は否定できない。  
「あなたが、そばにいるから、いい」  
 言葉少なく、それゆえに直球でくる、彼女の感情に好感を持っていた自分を、俺は否定しない。………でも、  
「やっぱり、これはダメだ。ダメだよ、長門」  
 だからこそ俺は、今の彼女を否定しなくちゃいけないんだ。  
 透明度100%の視線が俺に向けられる。その視線に込められた感情はもう、今の俺には読めない。  
「………そう」  
 高速で動く長門の唇。動かなくなる俺の体。  
「なら、分かるように、する」  
 これが一般人の台詞なら笑い飛ばして終わりなのだが、目の前にいるのは俺と『未知との馴れ合い』状態にあった親愛なる宇宙人だ。人間の体なんて細胞どころか原子レベルで改変できるだろうよ。さようなら今までの俺、こんにちわ新しい僕、………笑えねえ。  
 
「あなたが、そばにいるなら、いい」  
 長門はそう繰り返しながら、まるで壊れていない機械のような無駄のない動きで立ち上がる。  
「あなたに、そばに、いてほしい」  
 俺の近くにそのまま歩いてくる長門。その顔を見て俺は理解した、させられた。  
 なるほど『現在進行形』ね。どうやら朝比奈さんの忠告通りになっちまったようだな。  
「わたしの願いは、それだけ。いつだって、それだけ」  
 どう考えてもホラーとかサスペンスとかに分類されそうな状況なのだが、恐怖心はない。  
 透明な彼女の透明な瞳から流れる透明な水。この世界で一番綺麗で、一番悲しい存在証明。こんなの見せられて恐怖心なんて感じるはずがない。  
 ただ、感じるのは罪悪感。ここまで想われてるってのに何もできない自分が本当に情けない。  
 でも、だからこそ、俺は言わなきゃいけない。罪悪感を噛み潰して、彼女の想いを堰き止めなければならない。  
 だって、俺が選んだのは『長門有希』じゃないのだから。  
 からからに渇く口を無理矢理動かして、嗚咽がこぼれそうになるのを押し込んで、言う、伝える、ぶつける。  
「ごめん」  
 長門の動きが精密機械のように一瞬で停止する。自分の言葉が彼女に与えたショックを理解しながら、最後まで告げた。  
「ごめん、長門。俺はその願いを、かなえない」  
 そうやって、彼女を、『長門有希』を、拒絶した。  
 永遠に近い一瞬の沈黙。その中で彼女が何を思ったかなんて俺には分からない。  
 目を閉じる。現状、俺がまな板の上の鯉である事に変りはない。伝えるべき事は伝えたし、あとは料理人に任せるだけである。  
「………」  
 後ろから抱きつかれた。  
「………」  
 そのまま、何も起こらない。  
 けれど、たとえこれから鉱物になってしまいそうなほど変化なく時間だけが過ぎたとしても、背中に感じる湿り気と温もりが俺を有機生命体のままでいさせてくれるような気がした。  
 久しぶりに彼女と繋がっているような、そんな気がした。  
 30分ほどたっただろうか。  
 俺の背中にしがみついたまま、顔を見せないまま、長門は俺にこう言った。  
「そんなあなただから、わたしは、選んだ」  
 俺は何も言わない。多分だけど、言っちゃいけない。  
「だから、あなたを変える事は、できない」  
 俺は彼女の悲しみに、これ以上手を出しちゃいけないんだ。  
「それならせめて、このまま、触れ合ったまま、お別れ」  
 振り返り、抱きしめ返しそうになる手を気合で押し込めながら、彼女の最後の言葉を聞いた。  
「それが、わたしの幸せだから」  
 その言葉とともに部室が光の粒子に変っていく。  
 白く染まる世界の中で、どこからか俺を呼ぶ声が聞こえてきた。  
 意識が薄れていく中、最後に一言だけ、俺の背中にいる親友に言葉を残す事にした。  
「俺も、お前と共にあれて、幸せだったよ」  
 
 ///  
 
「キョン、ちょっとキョン!」  
 耳が発酵して新商品として大ブレイクしそうなほど聞きなれた声がして、目が、覚めた。  
 視界には見るだけで懐かしさがこみ上げてくるような、愛しの我が家の安物ダイニングテーブル。  
 窓から見える空は暗い。どうやら俺は昼下がりに襲ってきた眠気の大群に全面降伏し、机に座ったままでかなり長い間熟睡していたようだ。  
「と、言うかねえ。久しぶりの二人きりだってのに、目の前でマジ寝をかますその神経って人としてどうよ? って、何で笑ってんのよ」  
 出会ってからだからもう10年くらいになる連れ添いが、あの頃と変らない不機嫌顔を俺に向けている。実はこれ、かまってもらえなくてちょっと拗ねているだけなのである。いや、最近気付いたんだが。  
「まだ寝ぼけてるでしょ。お風呂もう入ってるからさっさと行ってきなさい」  
 『あ、ボディーソープ切れてるから新しいの出しといてね』、と若干いじけモードが入った彼女の声を聞きながら、とりあえず爆弾を落としてみた。  
「じゃ、一緒に入るか、ハルヒ」  
「な、何でよ!」  
「久しぶりの二人きりだからな」  
 ここ最近はずっと子供と一緒だったし、二人だけってのは本当に久しぶりだ。  
「う、………ああ、もうっ」  
 顔を真っ赤にしながらこっちをにらみつけるハルヒ。実はこれ、喜んでいるのである。尻尾があればすごい勢いで左右に振られているであろう。………これも最近気付いたのだが。  
「いいわよっ! その挑戦、受けて立つわよっ!」  
 いや挑戦って、………うん、まあ確かにすると言えばするんだが。  
 ドカドカドカ、などという大和撫子からは程遠い効果音を立てながら風呂場に向かう彼女の後姿を見送りながら考える。  
(結局、さっきまでのは夢、だったのかね)  
 それは過ぎ去ってしまった事で答えはおそらく、もう、ない。  
 時間移動なんて出来ない俺にとってそれはもう、永遠に失われてしまうものなのだろう。  
 だけど、  
(………久しぶりに、みんなに会ってみようかな)  
 残った何かがある事だけは、それだけは間違いないと、そう俺は思うのだ。  
 だからとりあえずは、『今』に、会ってみようと思う。  
 もう会えなくなったやつらにだって、『今』からだったらきっと会える。  
 知り合いをたどっていったら芋づる式に出てきそうなくらいの関係はあるはずだし、何よりこっちには神様もどきのバカもいるんだ。多少の無理なら力技で押し通せるだろうよ。  
「こらキョン! 早くこーい! あと、ボディーソープ忘れるんじゃないわよー!」  
 風呂場から聞こえてくる機嫌良さそうな怒鳴り声に溜息をつきつつも、今からやるべき事をあれこれ考えながら立ち上がる。  
(ああ、うん。とりあえずは風呂、だな)  
 まずは一番近くの『今』から会おうと、風呂場前の棚にある弱酸性のやさしさを持ってハルヒのもとに向かう俺なのであった。  
   
 
 

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