それは俺が夜、ベッドの上で本を読んでいた時の話だ。ふと気がつくと家の外から誰かの歌声が聞こえてきた。  
 引き語りかチャルメラか、はたまた時期はずれな石焼きイモか。俺は何とはなしにその歌声に耳を傾けてみる。  
 声の発生源は徐々に俺の家へと近づいてきているらしく、だんだんとその声が聞き取れるようになってきた。  
 
「……なーがとー なーがとー たーっぷーりー なーがとー」  
 
 ……俺の全機能は停止した。何だそりゃ?  
 一昔前の流行語大賞にノミネートまでされたどこぞのCMソングが聞こえてくるのはまだいい。許そう。  
 しかしそのフレーズの一端が長門と言っているように聞こえ……いやいや、そんなバカな。  
 いくらなんでも空耳だろう。  
 俺は自分の心身の疲労具合を考えつつ盛大に溜息をつきながら、もう一度流れくる声に耳を傾けた。  
 
「なーがとー ながーと つぶつぶなーがとーがやーってくーるー」  
 
 粒々長門って何だよ!? っていうかやっぱり長門って歌ってるのか!?  
 外で何が起こっているのかと俺は飛び起き、カーテンを開けて外を見た。  
 
「やってきた」  
 
 窓のすぐ外に長門が立っていた。ちなみに俺の部屋は二階だ。突然現れた長門の姿に思わず「うおっ!」と  
一瞬身を竦めてしまう。ヘタレと言うな。一度やられてみれば誰だってその怖さがわかるから。  
 ビックリしつつも再度窓の外を見る。と、そこには打って変わって誰もいなかった。  
 
「……え? な、長門?」  
「こっち」  
 突然俺のすぐ真後ろから声がかけられ、同時に背中から腕が伸びてくる。俺は再度「うおっ!」という声を  
上げつつ首を後ろに向けると、いつの間に家の中に入ったのか長門が俺に抱きついていた。  
 もし朝比奈さんが今の俺と同じ事をされたとしたら、驚きのあまりまず間違いなく可愛らしい声と共に一発で  
気絶している事だろう。  
 それで長門、お前はいったい何をしているんだ。  
 
「黙って。舌をかむ」  
 そう言うなり長門は抱きついたまま俺の足を払い、腰にまわしていた腕を器用に動かして宙に浮いた俺の身体を  
抱え込む。いわゆるお姫様抱っこ状態だ。その状態でベッドに向かい俺をおろすと長門もベッドに上がり、俺の身体を  
上から押さえ込むような形で乗っかってきた。そのまま両肩に手を置き、両足の膝小僧に足をかけて俺の動きを封じる。  
 自分の身体とベッドで俺を挟み込んだ状態の長門は、そっと肩に置いた手を俺の首の後ろへと回してきた。  
 そしてゆっくりと俺の瞳を覗き込むように顔を近づけたかと思うと、静かに唇を合わせてくる。  
 
 やわらかい感触と温もりが伝わってくる。俺の目は見開いたまま、長門もまた俺の事を見つめ続けたままだ。  
 彼女の唇はレモン味……だなんて甘酸っぱい事は流石に無い事は知っている。あの時の事はあまり思い出したく  
ないのだが、これでも一応経験者だからな。だが長門から渡されるほのかな味には流石の俺も絶句した。  
 
 今度谷口あたりに教えてやろう。宇宙人の唇は意外な事にたらこ味だと。  
 
 そんな余計な事を考えていたら俺の唇の間を分け入る物体がやってきた。長門が自分のたらこを送り込んで  
きたようだ。俺の唇を突破したたらこは右の奥へ、左の奥へと交互にゆっくり俺の歯を這い始める。そのまま  
たらこは一度ひっこむと俺の前歯をコンコンとノックしてきた。  
 何だか口を開いたら負けな気がする。俺はこれ以上侵入されないよう天岩戸並にがっしりと扉を閉じた。  
 
「…………」  
 俺の抵抗に長門が不満の色を瞳に灯すと、肩を抑えていた手を片方だけ放す。その手は一瞬後には俺のズボン、  
いやパンツの中にまで差し込まれ、この一連の行為でだんだん固くなり始めていた俺の相棒を一気に捕まえてきた。  
 三度目の「うおっ!」となる叫びは、だがその隙を突いて口内に侵入してきた長門の口に全て吸い取られてしまう。  
舌を絡め取られつつ、反り返る相棒は向きに合わせて置かれた手に捕まれ、中指だけで相棒の裏側がなぞられ始める。  
 どこかで見たような窓のない情報制御空間に色変わりした部屋の中で、俺はただひたすらに長門に攻められていた。  
 やばい。このまま流されていたら色々と倫理的にやばい事になりそうだ。俺は自由になっている手を伸ばして  
長門を抑えようとし、  
「大人しくしてて」  
 新たに横から現れた長門の手によって制されてしまった。  
 
 ……横から?  
 思わず顔を横に向けると、長門が俺の肩と手をしっかりと抑え込んでいた。俺の上に長門がいるにもかかわらず、  
である。長門よ、お前はいつから双子の姉妹になったんだ?  
「……たっぷり長門」  
「そう、たっぷり長門。だからたっぷり」  
「たっぷりとわたしが現れる」  
 正面、横に次いで更に頭の上から声が聞こえる。首をもたげてそちらを見ると、更なる長門がこちらを見つめていた。  
 何だかもうどこから突っ込めばいいのやら。  
「……突っ込む」  
「突っ込むのはもちろん」  
「ココ」  
 
 最後に現れた長門がスカートを落とし、自分の名前と異口同音なモノのように真っ白な下着の、そのクロッチの  
部分に指を翔けるとついと横にずらす。そこに現れたのは白板状態の丘に一筋……とまでは言わないが、細い  
サインペン程度でも全てを簡単に隠せてしまえるだろう、ほんの少しだけ開かれた薄桃色のクレパスだった。  
 
「焼たらこ」  
 は?  
「焼たらこ色」  
 ……ほんの少しだけ開かれた焼たらこ色のクレパスだった。  
 というかモノローグに突っ込みを入れないでくれ。  
 
 ところでこんな状況だからこそどさくさ紛れに聞いてしまうが、お前ってその、何ていうか生えてなかったのか。  
「あなたはこういうのが好きだと聞いた」  
 俺は例え冗談の席でも一度も他人に対してそんな事言った覚えはない。言った覚えがない以上俺が不毛地帯好きと  
 いうのは当然捏造された情報であり、そんな情報を長門にリークした馬鹿野郎に対して俺は然るべき制裁を与え  
なければならない。  
 で、いったい何処のどいつだ。その馬鹿野郎は。  
「……WAWAWAと歌っていたユニークな人」  
 決定、明日の朝一番で谷口の事をボコる事にした。あの野郎、いったい俺の事を何だと思っていやがるんだ。  
「こう思っている。再生」  
 直後、長門の口から長門で無い声と口調でその時の再現がなされた。  
 
『何かさぁ、涼宮をはじめとした女性人にあそこまでアタックされてんのにここまで朴念仁だと逆に疑いたく  
なるよな。もしかしてアイツ、成長した女性には全く興味がないんじゃないかね。ツルペタ至上主義というか  
ぶっちゃけロの人? もしかしてあいつの妹ちゃんやばいんじゃねーか?』  
 
 なるほど、今度あいつには大人になる為の儀式を行ってやる必要があるようだ。紐無しバンジージャンプ  
なんてどうだろう。  
「……陰毛がある方が望みならば構成する。梵天からジャングルまであなたの望むまま」  
 あ、いやいい。別に無いからどうだと責めている訳じゃない。それにそうだな、確かにお前だったら何となくだが  
「無いほうが似合ってるぞ。俺に剛毛属性は無いしな」  
「そう」  
 本当に少しだけ首をかしげ、だが首肯を見せると長門はほっとしたような瞳の色を浮かべていた。  
 
 はたと場の雰囲気に流されている場合じゃない事を思い出す。怪電波飛び交うながと・ながと・ながと状態を  
何とかしなければ。つーか長門がこんな風にならないようにお目付け役としているんじゃなかったのかあの人は。  
 いったい何処で何をしているんだ。  
 
「呼びましたか?」  
 長門とまた違うゆったりと澄み渡る声。意外と傍から聞こえるなと視界をめぐらせると、俺の足の先に何処かで  
見たようなコタツが置かれ、そこに座しながら優雅に湯飲みを傾ける黄緑色のインターフェースが微笑んでいた。  
「黄緑じゃなくて、喜緑です」  
 だからあなたもさらりと俺の心を読まないでください。というかこんな所で何やってるんですかあんた。  
「夕食です。長門さんと一緒に食べていたのですが、突然何処かへ行かれるものですから。慌てて追いかけてきたんですよ」  
 長門の家のコタツを引っさげてですか。  
「食事中に無闇に席を立つのはマナー違反と聞いていますので」  
 いやだかってそんな所で茶をすすってないで長門を何とかしてください。どうみても長門が壊れてます。  
 だいたい何でこんな事になっているんです。あなたなら知っているんじゃないんですか、喜緑さん。  
「はい、もちろん知っていますよ。ですが長門さんがその状況に至ったまでの理由、そのお話しは少し長いものになります。  
ある程度時間が掛かると思いますが、今あなたのお時間は大丈夫でしょうか?」  
「構わない。その間に事を済ませる」  
 俺は構うし勝手に済ませるな。そして喜緑さん、俺の貞操のピンチなので説明はできる限り簡潔に、そう原稿用紙一枚程度で  
お願いいたします。何でしたらこの状況を打破して戴けた後に話していただいても構いません。その場合でしたらいくらでも  
あなたのお話にお付き合いいたしますがいかがでしょう。  
「そう、あれはまだ宇宙が圧縮状態だった頃。突然圧縮状態が解除され宇宙は広がりを見せ始めます。これがビックバンと」  
 喜緑さんはそんな俺の必死な提案をあっさり無視して語り始めた。っていうかいくらなんでも過去に遡り過ぎじゃないですか。  
 もういいですからとにかく助けてください。  
 
「誰からする」  
「わたしが」  
「いや、わたしが」  
「いやいや、わたしが」  
「それならわたしが」  
「「そう」」  
 無理やりズボンとパンツを引きずり脱がし人の相棒を三者三様で手に取りながら、長門たちは訳判らない漫才を始める始末だ。  
 つーかいい加減目を覚ませ。そんな俺の訴えをよそに一番手となったパンツ姿の長門が女性にとって最後の砦と思われる  
純白なパンツをあっさり脱ぎ捨てる。そのまま俺の身体の腰の部分に仁王立ちでまたぐとゆっくりとしゃがみこみ、片手で俺の  
相棒を無造作に掴むと開いた手で自分の焼たらこを大きく広げて突き刺さるように狙いを定める。その姿勢で一息つくと、  
「……たーっぷーりーなーがとー」  
 頼む、こんな状況で平然とした表情のまま淡々と歌わないでくれ。本気で怖いというかトラウマになりそうだ。  
 あまりの状況にギンギンだった相棒の活力が一気に抜けおち、幸か不幸かフニャチン状態へと戻ってしまった。  
 
「……萎えた」  
「しなびている」  
「インポテンツ?」  
 誰がインポだ。さっきギンギンにたっていたの見ただろうが。今の俺にとっては微妙にありがたい事だが誰のせいで  
こんな風に萎えたと思っているんだお前たちは。  
「頭を悩ませつつ風呂に入った時、風呂桶からあふれ出る湯を見た彼に閃きが走ります。エウレカ、彼はそう叫ぶと」  
 そんでもってあんたはあんたでさっきから何を喋ってんですか喜緑さん。どうでもいいから助けてください。  
「助けたいのはやまやまなのですが、それにはまず長門さんがどうしてそうなったのか過去を振り返ってですね」  
 だからそこまで戻る必要があるんですかと聞いているんです! だいたいこの世界自体三年前にできた可能性だって  
あるわけでしょう!?  
「あらあら。人間ごときが宇宙の歴史を語るとは何ておこがましい事なのでしょう」  
 ご飯を一口食べながらにこりと微笑む喜緑さんから一瞬黒いオーラを感じたのは、はたして俺の気のせいだろうか。  
 
「どうする?」  
「古泉一樹が言っていた。こういう時は前立腺を刺激すると良いと」  
「肛門を舐めたり指を突っ込んだりして刺激するのが手だと言っていた」  
 さらに決定、明日の朝二番で古泉の事も徹底的にボコる事にした。俺のいない所で何話してやがるんだアイツは。  
「ではわたしが肛門を刺激する」  
「わたしは彼の陰茎を吸引する」  
「じゃ、わたしは歌を。なーがとーなーがとー」  
 何でこんなシュールな事になっちゃってるんだおい。俺は何とか振りほどいた両腕で前と後ろをガードしながら考える。  
 中河なんかを紹介しようとしたからか? くじ引き調整して貰ったのに朝比奈さんと動いたからか? それともあの冬の日に  
エンターキーを押したのがそもそもの間違いだったのか?  
「今宵わたしは殺される。殺される為に走るのだ。身代わりとなった友人セリヌンティウスを救う為、メロスは足を止めません」  
 そして既に歴史でも何でもない事を語るそこのインターフェースさん。あなたも様子がおかしいのは良くわかりました。  
 もうあなたには期待しません。そのまま走れメロスでも津軽でも人間失格でも好きなものを朗読していてください。  
「好きなモノですか。ではお言葉に甘えまして」  
 喜緑さんは茶碗をおいて一度コホンと咳払いをすると、目をつぶり二・三度発声を確かめてから情緒豊かに語りだした。  
 
「──あれは俺が高校に入る前、残りわずかな中学最後の春休みを過ごしていた時だった。すでに中学校の卒業証書を」  
 よりにもよって俺が書いた話かよ!? しかもわざわざご丁寧にも俺そっくりの声色と喋り口調で読み始めるという徹底ぶり。  
 人生十六年においてベストスリーに入る程の羞恥プレイ、長門が直接攻撃ならこっちは精神攻撃だ。  
 というか何でそんな人生を謳歌するのに一文字も役に立たなさそうな文章をそらで覚えているんですかあなたは。  
「あら、このお話はとてもよく書けていますわ。あなたの内面がこれほど表された文章は他に無いのではないでしょうか」  
 喜緑さんが春の陽射しのような柔らかさで微笑む。普段なら「はあそうですか」と当たり障りの無い社交辞令的な  
返礼をするところだが、相棒とバックを長門から必死で死守している今の俺にそんな余裕は一ミクロンもない。  
「特に賞賛をあげるとするならあの一文でしょう。そう、あれはわたしの心に激しく響きましたわ」  
 そう言って目を閉じて首を軽く上げると、記憶を呼び起こすかの様な雰囲気である一文を謳いあげた。  
 
「ちなみに喜緑江美里、通称エミリーは、朝比奈さんの同級生であり、俺の一番の親友であり、その当時、生徒会執行部の  
筆頭であり書記だった」  
 そんな事書いた記憶は一文字も無い。本当なら何でミヨキチが喜緑さんになっているのか執拗に問い詰めるところだが、  
先程も言ったとおり今の俺は他者に裂く余裕など刹那も持ち合わせていない。という訳で喜緑さんの方はとりあえず無視する  
事に決め、彼女へ向けていた意識を長門へと戻した。  
 とりあえず長門、バックだけは勘弁しろ。そんなところを責めたてても喜ぶのは古泉だけだ。俺はこの若さで切れ痔と共に  
生きるつもりなど毛頭無い。例えお前が傷つけずに上手にできるとしてもだ。それでもまだバックに手を出そうとしてみろ。  
 
 
「長門、もう二度とお前と一緒に図書館に行ってやらないからな」  
 
 
 ……子供か俺は。立て篭もる犯人に訴える両親でももっと機転のきいた説得をするぞ。  
 頭を抱えながら長門の様子を見ると、  
「…………」  
 三人の長門はそれぞれを見つめあいながら固まっていた。何やらお互いに言葉以外の何かで意思疎通を行っているようにも  
見えるが、何にせよ不気味な光景には違いない。  
 しばしその状況が続き、ふと、俺のバックを責めたてようと、必死にガードする俺の手を舌で突いていた長門が立ち上がる。  
 他の二人はそれぞれ俺の上半身と下半身を抑え込んだまま、顔だけをこちらに向けてくる。  
 
『……ずるい』  
 三人が三人揃って無表情の奥に悲しみを浮かべ、息のあったか細い声で訴えてきた。どうも図書館同行は長門にとって  
説得材料どころか最大級の地雷だったようだ。この突如沸いたアドバンテージを使えばバックどころか俺の貞操を守りつつ、  
更にこの暴走している長門を大人しくさせる事もできるのではないだろうか。  
 
「インターフェースには身体の拘束や記憶の改ざんができる能力を持っている事をお忘れなく」  
 喜緑さんが茶碗にお茶を注ぎながらさらりと恐ろしい事を言ってくる。つまりアレですか、あまり長門を刺激しすぎたら  
何をしでかすかわかりませんよとそう言いたいのでしょうか。というよりも、そんな風に長門を暴走をさせない為にあなたが  
いるんじゃないんですか。そこでちゃぶ台に座って呑気に茶漬けを食べてる場合じゃないでしょう。  
「あら、そんな風にわたしを頼るだなんて。それはわたしがあなたの信頼を勝ち得たと思って宜しいのでしょうか」  
 何だかどっかのスマイル野郎が言っていたような台詞を呟き、喜緑さんがお茶碗を片手に喜ぶ。  
「なんて嬉しいことでしょうか。ついに名実共に一番の親友になり得た訳ですね」  
 まだ引きずるんですかそのネタ。お目付け役である喜緑さんまでもが長門並に壊れてしまっている以上、長門を制する  
事ができる者など俺の知る限りでは存在せず、つまり長門を必要以上に刺激してあの時のように暴走させてしまう事だけは  
断固として避けねばならない事態である。  
 今の長門では緊急脱出プログラムを用意してくれそうも無い上、どう考えても俺が貧乏と書かれたはずれしか入ってない  
くじを何度も引かされる世界なのが確定だからな。  
 
「頼むからバックだけはやめろ。お前がそれを止めてくれるなら、俺も図書館へ行かないだなんて意地の悪い事は言わない」  
 防衛ラインを最低限まで引き下げて交渉する。この際ウホッとならなかったらよしとしよう。  
 俺の譲歩が効いたのか、長門たちは頷きあうとバックへの責めを中止した。  
「予定変更。彼の肛門への責めたては最大級の禁則事項と認識」  
「彼の性癖はノーマルと判断」  
「古泉一樹からの情報と誤差。彼からの情報を破棄する」  
 ノーマルと判断された事で破棄された、古泉からリークされた情報がもの凄く気になるのは人として当然だろう。いったい  
ヤツはお前に俺はどんなヤツだと伝えてるんだ。  
『ヤラナ』  
 あ、いや、やっぱり言わなくていい。何か生々しくなりそうだ。そのまま情報は全て破棄して綺麗さっぱり忘れてくれ。  
 ついでに古泉の存在も綺麗さっぱり忘れたほうが良いかもしれんな。  
「そう」  
 
 三人の長門は交代交代に俺を抑えつつそれぞれ着ている物をあっさりと全部脱ぎ捨てると、一人は俺と反対の方向を  
向きながら覆いかぶさり、足で俺の両手を押さえつつたらこ色のクレパスを俺の顔へと近づけてくる。残りの二人は  
それぞれ俺の脚にしがみつく様な格好をとった。必然的に長門たちの頭は俺の下半身へと集中することになり、俺は  
長門の秘所を間近に見せ付けられたまま身動き一つ取る事もできず、長門たちが俺の相棒に対して六本の手と三本の舌で  
与えてくる刺激に耐え忍ぶという、男なら誰だって夢見るハーレム状態に悶え苦しんでいた。  
 
「だが俺は耐えなければならない。俺の貞操はただ一人認めた親友のためにある。そう、あの生徒会室で待っているはずの  
俺の生涯の親友、喜緑エミリーの為に」  
 頼みますから人の心を読んだ上に勝手にモノローグを追加しないでください。というか本気で助けてください。  
 生暖かい感触が相棒を包み込み、触手のように蠢く物が絡みつき、福袋はコロコロと飴玉のように転がされ、股関節の  
くぼみをくすぐったくなぞられる。それが三人がかりの同時進行で行われている状態な上、俺の目の前には長門の秘密の花園  
改め焼たらこクレパスだ。これで性感を全く感じず耐えられる人間など聖人君子かガチホモか古泉・藤原ぐらいだろう。  
「助けるのは構いませんが、一つだけお伺いしても宜しいでしょうか」  
 助けてくれるなら何なりと聞いてください。聖人君子でもガチホモでも古泉・藤原でもない俺は既に爆発寸前マジで  
飛び出す五秒前、我慢の限界がすぐそこまで来ているんです。  
 
「では簡潔に。わたしと長門さん、どちらが好みですか?」  
 
 これまでか。俺は緊張が抜けると同時に相棒から俺の分身たちを長門何号かの口内へと放出した。  
 
「…………」  
「わたしも」  
「わたしも」  
 射出感と疲労感でぐったりしていると、そんな声と共に俺の上半身にのしかかっていた長門がどいた。両腕にずっと  
乗っかられていた割には血が止まってたような痺れは無い。だが両足は相変わらずのホールド状態なので身体は起こせても  
逃げることはできないのに変わりは無い。ぐったりと横になったまま何がわたしもなのかと長門たちを見つめると、  
「……ん」  
「……む」  
長門同士がキスしていた。何か片方が吸い付くような、そんな口づけである。しかも長門同士。そろそろ俺の思考というか  
良識良心をどうにかして守らないと何処までも汚染されてしまいそうな気がする。  
 心の防御壁を百八層ほど作るにはどうしたら良いだろうかと考えている間に吸い付いていた方の長門がゆっくりと長門を  
解放すると、残っていた三人目が今度は吸い付き始めた。さらに  
「わたしも頂いてよろしいでしょうか」  
 そう言いながら喜緑さんまでもが先ほどまで吸い付いていた長門に口づけを始める始末だ。  
 一体全体今度は何のプレイなんだ?  
 
 やがてどちらの組も唇を離す。長門たちと喜緑さんはお互いに見合わせると少しだけ首を動かしてのどを鳴らした。  
何かを飲み込んだような仕草だが、一体何をしているんだろうか。  
「あなたという情報フレアの伝達」  
 訳解らん。  
「先ほど射精されたあなたの精液を頂いていました。あなたの遺伝子情報がそれぞれの精子にコピーされてますが、全く  
同じというわけではなくそれぞれが違った製図を持っているのですね。全てがあなたに似ていて非なる存在……これは  
実に興味深いです。もしよろしければもっと頂けませんでしょうか」  
 解らんままの方がよかった。今すぐ穴を掘って埋まりたい。いや、行き止まりから十字路に爆弾を置いて自決したい。  
 誰か答えてくれ。これはなんて罰ゲームだ。俺が一体何をした。  
 そんな俺の訴えはもちろん誰にも届くことは無い。わざわざ届けなくても向こうから聴きに来てくれるからな。  
「何もしていない」  
「むしろするのは」  
「これから」  
 聴きに来てくれるのがどうひいき目に判断してもバグった宇宙人というのが問題だが。  
 
 長門が射出し果てていた相棒を握り上下にしごき始める。あわせて先端を口に含み、舌でゆっくりと相棒を絡め取ってきた。  
「むーむむーむーむむー」  
 リズムに合わせてしごかれつつ、舌を絡ませながら歌ってくる。俺は一生この歌に対してトラウマを持ち続けることだろう。  
 それでも我が相棒はしっかりと反応してしまう訳で、長門が一番を歌い終える頃には天を貫く立派な状態にまで立ち直ってしまっていた。  
「たった」  
「「たった、たった」」  
 俺の相棒を手のひらで指しつつ二人の長門が同調して確認を取る。最近エンターテイメントにでも興味がわいたのか、長門。  
 二次元世界に突入するのではと思えるぐらい地面に横になっている俺の中で、相棒だけが高さの概念をその身を以って現している。  
 長門は俺の腰をまたぐように立ち片手で相棒を摘むともう片手で自分で秘所、秘唇、秘たらこクレバスを開き導く。  
 そのままゆっくりと、だが躊躇う事無く腰を落とすと俺の相棒を自分の胎内へと導いた。  
 去らば我がチェリー時代。そしてようこそ大人の世界。  
 
 長門のでん部が俺の股関節にあたるまでゆっくりと降ろされる。これ以上入らないという部分まで挿し込まれた状態だ。  
 口でされていた時とは違い、俺の相棒へ絡みつくような舌技や真空状態に陥るのではという吸い込み攻撃はない。  
 だがその人肌の温かさと柔らかい感触で少しきつめに相棒全体を締め付けてくる圧力、そして何より長門の呼吸に連動する  
その動きは肉と骨で硬くがさつな右手が相棒の恋人だった数分前の俺にとって思い描くことすら不可能なほどの感触を与えてきた。  
 これが階段を上り詰めた先にある大人の世界だというのなら、世の男子諸君が本能的にこの地を目指すのもわからなくはない。  
 がっついてるだ本能的過ぎだ少しは自重しろと今まで散々に責め立ててすまなかった、谷口よ。  
 心の中で長門に習い数ミクロンの謝罪をしていると残った二人の長門が挿入している奴のように俺の事をまたいできた。  
 一人は胸から腹の辺り、もう一人は頭がある部分だ。そのままやはりでん部が俺に圧し掛かるまでゆっくりと腰を下ろしてくる。  
腹に乗っかってきている奴はまだいい。何ていうか普通に乗っかられているのと同じような感覚でいられるからな。腹に擦り付けくる  
長門との接触部分が微妙に気化熱を感じるのも、俺の両手を手に取り何やら潤う部分へと導いているのも適当に流す方向でいられる。  
 問題なのは頭というか顔に乗っかってきたほうだ。俺の鼻から口にかけて長門クレバスが押し付けられてくる。よく考えれば  
俺の相棒を今まさに飲み込んでいるクレバスと同じにして使用前状態のモノだ。こんなよくわからん不思議体験をしているのは  
チンパンジーから人間になったミッシングリンク時代から観測したってきっと俺が初めてだろう。俺の初体験はまさに史上初体験。  
ここにエボルーション(進化)はレボルーション(革命)となったのだ。おめでとう人類。  
 
「相当に混乱されているようですね。生殖行為とはそんなに素晴らしいモノなのでしょうか、わたしも体験してみたく思えます。  
あぁ、あの時わたしの方が好みだと言ってくださっていれば、悪い魔法使いの長門さんによってあなたの三十歳で魔法使いへの夢が  
ユッキユキに絶たれることも無かった事でしょう。いつもの調子でわたしへのフラグを折ってしまったのが攻略失敗の原因ですね」  
 すいません喜緑さん、さっきの俺以上にあなたが何を言っているのか解りません。  
「遺言ですよ」  
 どこぞの識別パターン青な存在ですかあなたは。もしかしてもしかしなくても長門たちよりこの人の方が問題なんじゃなかろうか。  
 思いもよらない横槍で僅かながらも冷静さを取り戻したが、こうも長門たちに乗っかられていてはどうしようもない。  
「なーがとーなーがとー」のメロディにあわせて腰を動かし絶え間ない他家発電が行われる。そして残りの二人は二人で  
「わたしという個体もあなたには舐めてきて欲しいと感じている」  
「一つ一つの指技が甘い。だからわたしは絶頂を逃す」  
と言ったようにセルフパロディのバーゲンセールだ。今後俺が性行為を行うたびにこの光景が脳内を駆け巡るのは確定だろう。  
 朝比奈さんなら「既定事項です」と片目をつぶり豊満な胸を揺らしながら可愛らしく言ってくださるに違いない。  
「胸なんてただの飾り。あなたにはそれが解っていない」  
「貧乳はステータスであり希少価値」  
「ほふく前進速い。カバン食い込まない。汗疹ができにくい。痩せて見える。ノーブラでもばれない。お風呂溢れない。  
痴漢にあいにくい。年をとっても垂れない。小さな胸は良い事尽くめ」  
 豊満な胸に反応したのか長門たちが一斉に語りだす。というか今俺口に出して言ったか?  
「気のせい」  
 
 長門が腰をストロークさせると長門が俺の手の上でゆっくりと一回転腰をグラインドし、さらに長門が顔面騎乗したまま俺の口に  
たらこを擦り付けてくる。寸分の狂いもないリズミカルな動きは長門と長門と長門が奏でる例の曲のリズムであり、もはやその歌声は  
俺にとっては脳内に快楽を生み出す麻薬でしかない。それは長門自身にも言えるようで、歌の端々にとれる息遣いや名の通り白雪のような  
白い肌にほんのり差し始めた桜色、そして俺自身に降りかかる雪解水が主に代わってその高揚っぷりを伝えてきていた。インターフェイスに  
絶頂という感情があるのかどうかは解らんが長門たちの行為は明らかに一つの収束点を目指しており、これまたもしかしたら宇宙初の  
瞬間を俺は目撃する事になるかも知れない……と先ほどから大層な事を考えていたりするのだが別に学術的に興味があるとかそういう類の  
話ではなく、ただ単にそんな小難しい思考を行う事で限界を先延ばしにしているだけだったりするのが本当のところだ。  
 一度達してるとはいえこのトライアングルアタックにいつまでも抗えるはずもなく、何より相棒に受ける人生初の感触は自分の右手が  
どれだけ無骨なものだったかと思い知るほどの完熟果実っぷりである。カップラーメンを相方に選ぶという話もこれなら頷けると言うものだ。  
「ですが麺が延びて汁が冷めるまで待っていられず熱くて火傷しかけたとか、逆にずっと下半身裸だった為に風邪を引きかけたとか、  
そう言った話も聞き及んでいます。あまり素人にはお勧めできない行為かと思われますが」  
 何の皮肉かカップ焼きそばを啜り食べつつ傍観者がアドバイスを告げてくる。お湯を何処へ捨てたのかとかそもそも何で焼きそばを  
食べているのかとかはどうでもいい部分なのだろう。実際この人の行動に関してはもうどうでもいいと思っているし、長門以外の事を  
考えている余裕ももう殆ど無い。  
 
「そうですか……今のあなたを見たら、あの方はどう思われる事でしょうね」  
 ふと突然に。それは本当に突然に。  
 マグカップを口に傾けつつ喜緑さんがポツリとそんな事を呟いた。  
 どうって……そんなの、俺には。肩口で軽く切りそろえた髪をなびかせた、あいつの後ろ姿が脳内をよぎる。長門たちにあっさりと  
押さえ込まれて陵辱されている今の姿をあいつが見たらどう思うか。こんな事はやめさせなければと麻薬に溶けかけた意識が一気に  
覚醒しだす。  
 
「本当にどう思われる事でしょう……高崎さん」  
 よぎった姿が一瞬で消え失せたというか誰ですかその高崎さんって人は!? あまりの事に抗議しかけて全身の力が抜けてしまったその瞬間、  
俺は相棒を奥まで咥えこんだ長門への注意が抜けてしまい。  
「なーが…………と……」  
 最近平均値がミリリットル単位二千万に下方修正された進化の可能性たる情報フレアを長門へ大量送信した。相変わらず長門に顔面騎乗  
された状態なので長門の様子は窺えないが、同時に長門サーバも過剰負荷によってシステムダウンしたようだった。  
 
 と腰の辺りから光を感じる。同時に腰に圧し掛かっていた負荷がゆっくりと軽くなってきた。何事かと騎乗している長門を何とか  
ずらしつつ腰に乗っていた長門へ目を向けると、長門は腰に跨り頭を垂れた状態で白く発光しており、その手足の末端はまるであの時の  
朝倉のように徐々に光の粒子へ変換され始めていた。  
「おい、どうした長門! 何がどうなってるんだ!」  
 慌てて手を伸ばそうとするが、片方は長門に乗っかられているために動かない。仕方なく片手だけ長門に向けるがその手が長門を掴む  
事はなく、光の粒子をいくつか手の中に収めただけだった。腰の部分に掛かっていた負荷も完全に消え、それはつまり先程まで俺と情報連結  
していた長門が跡形も無く解除されてしまった事を暗に示していた。  
 何がどうなっているのか解らず視界を巡らせる。といつの間に近づいていたのか全て解っていると言いたげに小さく頷く喜緑さんと  
目が合った。  
「喜緑さん……何なんですか、一体!」  
 喜緑さんは騎乗していた長門に対して二三告げてその身体を俺の頭からどかせるとその場に正座で座り込み、俺の頭を自分のひざに乗せて  
膝枕状態に持ち込むと上から俺の顔を、いや瞳を覗き込みつつ小さく口を開いた。  
 
「高崎さんとは寮長さんの事です。妹さんが二人いるんですよ。一人は残念な事になってしまいましたが」  
「いや知りませんから! その残念な高崎とか言う人の事はもういいですから!」  
「あら残念です。それでしたら膝枕ついでに耳掃除でもいかがでしょう」  
 梵天付きの耳かきを何処からとも無く取り出しグーで握り締めて上下している。何だかそのまま耳に突き刺されそうな勢いだ。  
「いろんな意味で間に合ってます! それより一体長門に何が起こったのか説明してください!」  
「ああそちらですか。そうですね……簡単に申し上げるなら長門さんが消失し、その結果支えが消えて倒れた。そういう事です」  
 謎かけの様な比喩表現で伝えてくる。支えって何だ、何が倒れたんだ。何が起こっているのか全く見当がつかない俺はあまりの出来事に  
悲痛な眼差しで喜緑さんに訴えると、喜緑さんは少しだけ顔を上げて視線を外し、その倒れた一点を見つめながら呟いた。  
「もちろん、あなたのナニですけれど」  
 ダメだ、今日の彼女とは全く会話にならない。そもそも何で今日の喜緑さんはコンピ研が作ったプログラムにも満たない位エラー満載の  
状態になってしまっているんだ。  
「それをお答えするには、まずわたしとあなたとの馴れ初めから順序だててお話しなければなりません。お時間よろしいですか?」  
「構わない。その間に彼を復活させる。それにわたしもその馴れ初めに興味がある」  
 喜緑さんの頭の痛い回答に対し、俺ではない存在が答える。同時に喜緑さんが倒れたと称した俺の相棒が小さな手に捕獲されて、  
ゆっくりと大きくストロークされ始めた。見れば騎乗していた長門が俺の腰元に四つんばい状態で被さりつつ俺の相棒を右手で扱いて  
いる所だった。  
 口を数度もごもごさせてからゆっくりと開き舌を口から伸ばす。先程の口の動きはこれを生み出していたのか、長門の口から唾液が  
舌を伝い俺の相棒とそれを包み込む長門の手へぽたぽたと滴り落ちてきた。他人に甘噛みする事でナノマシンが注入できる長門の事だ、  
きっとこの唾液にも桃色チックにして倫理的に表記不能な成分が満載されている事だろう。その証拠に長門が唾液を潤滑油として扱く  
俺の相棒があっという間にガチンコオッケー状態にまで復帰してしまっていた。  
「場所が場所だけにガチンコと言う表現なのですね。解りますか長門さん、これこそが人間のエンターテイメントというものです」  
「理解した。もっと研鑽する」  
 そろそろ性的行為で疲れてるのか喜緑さんへの対応で疲れているのか解らなくなってきた。突っ込みすぎとはまさにこの事か。  
「なるほど、わたしへの突っ込みと長門さんへの」  
 もういいです、解説しないでください。  
 
 新たな長門はまたしても俺の腰をまたぐように立ち片手で相棒を摘むともう片手で自分で秘所、秘唇、秘たらこクレバスを開き導く。  
 そのままゆっくりと、だが躊躇う事無く腰を落とすと俺の相棒を自分の胎内へと導いた。  
 先ほどと同じ感覚が再び俺の相棒から全身へと快楽として伝達され始める。これで長門の始めてを二度奪った事になるわけであり、  
もはや表現すればするだけ混乱を極めること間違いなしといった状況に陥っていた。  
「口では散々文句を溢しつつ、それでも放課後に居残りせっせとポスター作成を行う彼を見てしまったんです。その時の表情は意外にも  
童心に返ったかのような純粋な輝きを瞳に点し、そしてあの人の心に訴えかける素晴らしいポスターが完成したのです」  
 そして向こうの暴走インターフェースは本当に俺との馴れ初めを語りだす始末。全く以って素晴らしい美談である。あのポスターは実際は  
家で適当に作っているし、妹が俺の傍でいっしょにお絵かきを始めたりして俺の邪魔をしまくった結果、高校生が頑張って作りましたよ的な  
アットホームにして苦笑しか生み出さないポスターとなったはずだが。  
「地域によってはそういう説もあるようですね」  
 説じゃなく事実です。俺は疲労感に見舞われつつもエロい本番真っ最中という事実を無視した突っ込みを返していた。  
 人生二度目の交尾体験だというのに何と言う余裕綽綽だろうか。もっとこう青年らしくエロにがっつく姿勢とか気恥ずかしがりながらも  
女体の神秘を追求するだとかそういった動きの一つでもあれば脱チェリーボーイの甘い思い出として後々酒の席で語ることも出来るだろうが、  
正直言ってこの状況を自慢しようとは流石に思わない。というか谷口ですら信じようとしないだろう。  
 
 先ほどの長門とは違い今度の長門は俺の相棒を咥えこむとそのまま前後に身体を揺すり出す。先ほど騎乗していた時もそんな動きをしていた  
事から考えるに、この長門はたらこの表面を擦る行為がお気に入りのようだ。前後に加えて左右にも動き出し、ランダムから円運動、そして  
八の字とその動きには常に変化がかけられているが、どの動きも抜き差しより擦り合わせる事に比重を置いたものとなっていた。  
 先ほどとは違った感覚に俺の意識は再びトリップしだす。と、残された長門が膝枕されている俺の顔を跨いで立った。喜緑さんに背を向けた  
状態からぺたんと腰を落とし、そのまま俺の身体に圧し掛かる様に身体を倒してくる。どうやら挿入している長門に対して自分の舌と手で  
更なる刺激を与えようと言う事らしい。結合部分に触手に似た感触、そして陰毛を軽く引っ張っられた刺激が襲いだした。  
 
「まあ長く引っ張りすぎてぐだぐだの連載にならないようそろそろネタバレを申し上げるならば、この長門さんは長門さんオリジナルではなく  
長門さんから生み出されたコピーだと言う事です」  
 そしてそんな激しい状況の中でいきなりぶっちゃけるお方が一名。既に編集部の意向で引き伸ばしにかかっている連載状況に負けないぐらい  
ぐだぐだ状態だと思えるがそれはとりあえず脇に置いておこう。とりあえずの問題点はこの長門たちの正体である。  
 今日何度目の言葉か解らないが更にもう一度重ねるとしよう。一体どういう事なんですかぞるぎあっ。  
 それはと言いたかったのだが語尾がおかしくなったのは別に朝比奈さんの様に舌を噛んだとかそういう訳ではない。長門がゆっくりと自分の  
臀部を動かしてたらこを俺の口に合わせて来たからである。  
 
「ゾルギアとは数年前にナムコが出した大型筐体の事でして」  
 俺は静かに響く声をBGMと認定し、どうしようかと思いつつも口を開き長門のたらこを覆うように咥えると舌で小さく突きだす。合わせて  
自由となった両手で圧し掛かる長門の頭を軽くなでつつ腰をゆっくり左右に動かして相棒を咥え込む長門にも攻撃を開始した。  
「BGM認定……これが俗に言う放置プレイと言うものなのでしょうか。わたしに膝枕されているにもかかわらず他の女性の陰部を嘗め回し、  
さらには生殖行為まで行うだなんて年齢制限付の生殖行為疑似体験ゲームでもそうそうない状況です。これがあなたが涼宮さんを引き止めてまで  
望んだ世界の正体、ハーレムプレイと言うものなのでしょうか。まさに主人公特権ですね。では僭越ながら羨望の口笛でも、ヒューヒュー」  
 俺の手は長門の頭から背筋へと旅を始める。肩甲骨を越え脇の下をくぐり、やがては控えめながらも存在を主張する二つの丘陵へと到達した。  
長門はただわずかに身体を震えさせる反応を示してくるだけで声をもらしたりはしない。だがそれでも長門が感じてくれているのは十分すぎる  
ぐらいに伝わってきた。合わせてゆっくりと腰をスライドさせていた長門が徐々にその速度を上げてくる。どうやら達する時は近いようだ。  
俺の相棒も女性の神秘が与え続けてくる快楽の刺激に対して我慢の限界が近づいてきている。搾り取られるとはよく表現したもので、長門は  
まさに俺の相棒から欲望を搾り取ろうと一度だけ腰を浮かせてから相棒を改めて自分の中へと取り込み、その器官の全てを巧みに動かして俺の  
相棒へ最大級の快楽を一気に与え、臨界点を突破した俺から精も液も全て搾り取っていった。  
 
「……っぁ……」  
 俺の遺伝子をふんだんに含んだアーカイブを受け取った長門もまたその注入に合わせて小さく、だがはっきりと自分に訪れた事を主張してくる。  
そして先ほどの長門と同じように光り輝き始めたかと思うと徐々にその姿を消失させ、光の粒子を分散させてその姿をロストさせた。  
「簡単に言いますと、今日のご飯のおかずとして初めて出したたらこが原因です」  
 たらこ? そのたらこと言うのは長門が延々比喩しているいわゆる筋の通った大事な部分の事じゃなく、本当の意味でのたらこですか?  
イッた直後で長門への攻め立てを中止していた俺は喜緑さんに尋ねる。その間、最後の長門は俺から降りると他の長門たちの消失点となった俺の  
相棒が補足できる位置、つまるところ俺の両足の間に正座して果てて萎んでいる相棒をつまみ上げていた。  
「はい、そのたらこです。正確に言うならばたらこの中に含まれる、人類が未だ発見できていない極微量な成分です」  
 極微量の成分? そんなものがあのたらこの中に含まれていると?  
「そうです。仮にタラコーゼとでも名づけましょうか」  
 いきなり胡散臭くなった感じがするが、とりあえず話の腰を折るような事はせず喜緑さんに話を続けてもらうことにした。と言うより既に長門に  
三度も搾り取られた上、更に長門が例の歌を歌いながら俺の相棒を扱いているのだ。快楽の拷問にほとんど力を奪われ全身疲労状態の今の俺は、  
相手の話をただ黙って聞くぐらいしか対応できないのが本当のところだ。  
「タラコーゼを摂取したインターフェースはいわゆる酔った状態になります。本体は休眠状態に陥り、酔った精神が本体の心理より生み出した分身を  
発生させます。分身は本体の心理が実行したい内容を代行し、それが成就すれば無事昇華される。それがこの一連の行為の種明かしです。ですので、  
その長門さんも先の二人の長門さんにしたのと同様に彼女の欲望を満足させれば消失します」  
 早い話がもう一回戦行えと、そういう事ですか。俺は喜緑さんの膝枕にがっくりと頭をうずめながら現状に対して溜息雑じりの口癖を漏らした。  
喜緑さんはそんな俺に対してあくまで春の陽射しの様な柔らかな笑みを浮かべると、  
「概ね合っています。ですが、残念な事に一つだけ認識が間違っているようですね」  
と俺の頭を撫でながら返してきた。  
 
「もう一回戦、ではなく二回戦です。わたしもまた喜緑江美里から派生した分身ですので」  
 はてさて喜緑さんの欲望とは長門のような性行為なのか、それとも先ほどから延々と語っている電波トークを全て聞くことなのか。  
 長門が口ずさむメロディを脳内に響かせながら────やがて、俺は考えるのを止めた。  
 
 
 

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