「あ〜、オメコしてえ」  
 谷口はここが教室であることを忘れているのではないかと思える発言をした。呟くような声だったので誰にも聞きとがめられてはいないようだが。俺は独り言だと思い無視していると、  
「おいキョン、最近フラストレーションを持て余してるんだが、もちろん性的な意味合いのだぞ。どうすればいい?」  
 俺に聞くな。そんな話題で話したくねえな、飯がまずくなる。暴威でも歌ってろよ。  
「トイレで抜いてきなよ」  
 おい国木田、アドバイスするな。  
「違うんだ、一人でやっても収まりそうもない。セックス……そう、セックスだ」  
 言うと谷口は立ち上がり、コブシを握り毅然とした表情で、  
「俺はセックスがしたいんだ……!」  
「……そうか」  
 周りの視線がちょっと、いやかなり痛くなってきたからそろそろ黙れよ?  
「時にキョン、長門有希は今教室にいるのか?」  
「突然なんだ? 昼休みは部室にいると思うが」  
 谷口は下品な笑みを浮かべる。  
「そうか、ちょっとセックスしてくるわ」  
 なん……だと……? それは長門と、という意味か?  
「当たり前だろ! ヒャッハァァ!」  
 奇声をあげ教室を飛び出す谷口を呆然と眺めていたが、ハッと我に返る。  
「あの馬鹿野郎!」  
 長門が谷口にどうにかされてしまうとは思えないが、込み上げる焦燥と不安が俺を突き動かした。  
 
 果たして、谷口は部室の前でうつ伏せになって寝ていた。  
「おい、谷口? どうした――」  
「恐怖だッ!」  
 顔を上げた谷口は、なるほど恐怖の表情を顔面に貼り付けていた。  
「見えたぞ! 恐怖が!」  
「落ち着けよ、長門になんかされたのか? いやまあ自業自得なんだが、一体どんな、」  
 詳細を聞こうとしたのだが、谷口は変な断末魔を叫び木っ端微塵になった。やれやれ。  
 

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