『宝くじなんて物は、当たった時にどうするかを考えている時が一番楽しい時間だ』なんて話を聞いたことがある。  
つまる所、一番楽しい時間と言うのは、有り得もしない期待を胸に抱きながら下らない妄想でもしている時間だってことだろうか?  
そんな事に貴重な金を消費してしまうと言うのも、いささかの馬鹿馬鹿しさを覚えないでもないが、今の今まで宝くじが存在している以上、そう言ったニーズというのものは確かに存在しているのだろう。  
──さて  
前置きが長くなったのだが、今まさに、俺はその『有り得もしない期待』って奴を胸に抱いていたりする。  
だが、残念ながら……もしも期待通りの結果を得られたとしても大金が得られるような性質のものじゃない。いや、あるいはそれは他の入手法が存在する大金よりも、よっぽど価値があるものかも知れない。  
そして、今の俺の状況と、宝くじ購入との相違点がまだ一つある。  
そう、誰しも……この国に生まれた男だったら誰しもが、「もしかしたら」と言った気持ちに駆られてしまう経験をもっている。  
 
 
 
 
──2月14日。  
今日はそんな日だ。  
 
 
 
ツン:デレ=10:0  
 
ほんの少しだけ息を吐いて、手を伸ばす。  
若干の祈りを指の先にこめながら、表情はあくまで平静さを崩さないよう心で深呼吸する。  
ゆっくりと、出来うる限りの慎重さをこめて上履きに手を伸ばす。  
「何をしていらっしゃるんですか?」  
「ぅぉっ!?」  
振り向くと、いつもと同じように気障ったく微笑む古泉一樹の姿があった。  
いつからお前まで神出鬼没スキルを身に付けたんだ?そんなのは何処かの逸れ超能力者くらいで充分だ。  
「すみません。貴方を目撃して、声をかけようかと思ったところ、貴方の行動が傍目に見ても、そうですね……少し不審だったもので。それから、僕は貴方よりも幾許か早くこちらの昇降口に到着していましたよ」  
俺を不審だと言うなら、あれでも見てみろよ。さっきの言葉が馬鹿らしくなるぞ。  
自分の右手を、wawawaと下駄箱をまさぐる谷口の方に向けてやる。これ見よがしにやってみたが、残念ながら作業に夢中で気づかなかったようだ。  
「なるほど、これは失礼しました」  
そう言って上履きを取り出す古泉。それと同時に、男は顔だとでも言うかのように、綺麗にラッピングされた色とりどりの包みが雪崩れて来た。  
「困ったものですね。僕の性質上、彼女達の想いに答えることは出来ないわけですから……」  
オイ、性質って何だよ。仕事の性質上ってことだよな……?!  
古泉は答えを返さず曖昧に微笑んで、意味ありげに関係の無い言葉を放った。  
「そうそう、もし貴方が一つもチョコレートを手に入れる事がなかったとしても、落ち込むことはありませんよ」  
「何だそりゃ?モテ男の憫れみか?」  
「とんでもない。言葉どおりの意味ですよ」  
言葉どおりにとった結果が「憫れみ」なんだがな。  
「そうですね……一般にこの国では、普段受身の女性が勇気を出して告白する日とされています」  
最近は、女の方からの告白も大分多いって聞くぞ。  
「もちろん文化の変遷はあるでしょう。しかし、一般的には飽くまで女性が勇気を出す日なんですよ」  
で、それと俺がチョコをもらえない事に何の因果関係があるんだ?  
「もし仮にですよ。勇気が足りない女の子が居たとして、彼女が『想い人に他の人からのチョコを貰って欲しくない』と思う事は罪でしょうか?」  
……何の話だ、そりゃ?  
「僕に言えるのはこれぐらいです。おっと、そろそろ予鈴が鳴る時間じゃないですか?僕は先に行きますよ」  
古泉は流麗な会釈をして、そのまま教室の方角へと去っていった。何が言いたいんだろうね、あいつは?  
下駄箱での財宝発掘を完全に諦め、下駄箱に履き替えて教室に向かう。  
おい、谷口。なに自分の前後左右の下駄箱まで探してる?そこは女子の下駄箱だろ。  
 
「よぉ」  
「……おはよう」  
窓際の定位置で、校庭を見つめてるハルヒに声をかける。今日はいつにも増して不機嫌顔だ。  
「今日は……」  
「命日」  
まだ、何も言ってないだろ。今日はいい天気だなーとでも、俺が言うつもりだったらどうするつもりだ。  
「不謹慎だと思わない?殉教した人間の命日に馬鹿騒ぎをするなんて」  
だから、まだ何も言ってないじゃねーか。  
「ふーんっだ」  
と、俺の意見を完全に無視して、機嫌を殊更悪そうにしてそっぽを向いた。  
やれやれだ……  
 
鞄を脇にかけて、椅子に座る。  
さて……  
「ないわよ」  
後ろからガタガタという音ともに声がする。  
「何でお前がそんな事知ってるんだよ」  
「チェックしておいてあげたのよ。ありがたく思いなさい」  
お断りだ。プライバシーの侵害なんざありがたくもなんともない。  
「まぁ、もっとも見るまでもなかったけどね。この席からでもあんたの机の虚しい空間がよく見えたわ」  
そうかい。悪かったな、チョコレートの一つももらえないようなヤツがお前の前の席で。  
「全く、本当に馬鹿馬鹿しいったらありゃしないわ」  
そう言っていっそう激しく机を揺らした。  
 
「なぁ、ハルヒ」  
「何よ?」  
「チョk──  
 
ガッターーーン  
机が二つに裂けるかと思えるほどの音が教室に響く。  
 
……いや、何でもない。気にするな」  
凄い目で睨まれた。視線に殺傷力があったとしたら、確実に死に至っていただろう。  
 
 
──結局、その日一日で俺が得たものと言えば、やたらと机をガタガタ揺らして怒りを表現するハルヒからの痛いほど突き刺ささる視線くらいなものだった。  
 
全くもって……  
「……やれやれ」だ。  
 
 
 
ツン:デレ=9:1  
 
ほんの少しだけ息を吐いて、手を伸ばす。  
若干の祈りを指の先にこめながら、表情はあくまで平静さを崩さないよう心で深呼吸する。  
ゆっくりと、出来うる限りの慎重さをこめて上履きに手を伸ばす。  
「わっ!!」  
ぅぉっ!?  
つんのめって、下駄箱と衝突事故を起こしかける。  
「何やってんのよ、あんた?」  
声の主に対して振り返る。涼宮ハルヒが小首を傾げてこちらを睨んでいた。  
「何でもねぇ、朝の日課だ」  
「あんた、毎日そんなことしてんの?時間の無駄もいいところね」  
そう言ってハルヒは上履きを取り出すと、  
「……ふーん、あぁ……そう、そういうこと」  
と呟いて、ニヤリと微笑を浮かべる。  
 
 
「なぁ、ハルヒ」  
「何よ?」  
「今日は……」  
「命日」  
命日?  
「ある人の命日よ。2011年の2月14日。自ら命を断ったとされてるらしいわ」  
それって、とある漫画の登場人物の話じゃないのか?随分と御執心だな。  
「なんていうの……あたしにも、ある人物から天啓みたいなものを受けたことがあるから、シンパを感じないこともないのよね」  
もっと別の所も、似ているような気もするけどな。  
「そろそろ予鈴の鳴る時間でしょ、早く行くわよ。それとも、あの真似でもする?」  
ハルヒが右手をけだるそうにあげて、指をさす。  
 
──谷口が、下駄箱に顔を突っ込んでいた。  
 
 
所変わって放課後の部室。  
いつものように、朝比奈さんは笑顔でお茶をついでくれ、長門は本を読み、ハルヒは微妙な表情でパソコンを弄っている。  
そう、それはあまりにも何時もの光景で、「ちょこれーと」の「ち」の字も出ようとしなかった。  
──パタン  
長門が本を閉じて、本日の部活動終了。  
……ふう  
マグカップに隠して小さく溜息をつく。儚い夢だとは分かっていても、残念だな。  
 
帰り支度をすませて、昇降口へと向かう。  
下駄箱を開けた瞬間。それは訪れた。  
「わっ!!」  
朝方、同じような状況で同じようなことを経験した気がする。  
「驚いた?」  
「……まぁな」  
まさにイタズラが成功した子供の表情のハルヒが後ろに立っていた。  
「じゃぁ、更に驚いてもらうわ。下駄箱を開けなさい」  
なんだそりゃ?  
訝しみつつ、下駄箱に手を伸ばす。  
丁重な包装の施された三つの包み紙が、そこにあった。  
「HappyValentine♪」  
ハルヒが楽しそうに言う。  
なるほど、そういうことか。3人とも一言も今日のことについて触れなかったのはこのサプライズの為ってわけか。  
 
「お口に合うか分からないけど」  
朝比奈さんが、不安そうな表情で言う。  
「喜んで頂きます」  
朝比奈さんの作ったものなら、口のほうが勝手に合わせてくれますよ。  
「……」  
「長門も、わざわざすまないな」  
「……いい」  
いつもと変わらない表情で長門が答える。  
 
そして、今回のサプライズの首謀者にも……  
「ハルヒ」  
「何よ?」  
「ありがとうな」  
 
 
──ちなみに、後で聞いた話だが……何でも、日付が変わる頃まで学校に居残っていた奴が警備員に捕まったらしい。そいつの名前は『谷なんちゃら』とか言うそうだ。全く、やれやれだな。  
 
 
 
ツン:デレ=8:2  
 
「おっはよー」  
「よぉ」  
教室に入ると、ほとんど同時にハルヒが声をかけてきた。  
「随分と上機嫌だな」  
「あ、分かる?」  
まぁな。お前の顔ならすっかり見慣れてるさ。  
「実はね、阪中とチョコレートを交換する約束をしてるの、友チョコってやつね」  
そりゃ良かったな。  
「そうなのよ。あたしそういうことってしたことなかったから、なんか張り切っちゃたわ」  
考えてもみれば、コイツはその昔「ただの人間には興味ありません」なんてのたまったような奴だ。中学生時代も「普通の女の子」なんてものとは、あまり縁のなさそうな行動をしていたようだし、今回が本当に初めてなんだろうな。  
「ん……あ……えー…そ、そうね」  
「なんだ?」  
「これ、あんたの分よ。団長から団員へ……と、友チョコ?」  
なんで、疑問系なんだ。  
「うるさいわね。組織の長からのねぎらいの気持ちなんだから、文句言わずにありがたく貰いなさい」  
それも、そうだな。  
日ごろから多大なる迷惑を被っている身としては、当然の権利として受け取っておこう。  
そもそも贈り物をむげにする訳にもいかないしな。  
 
「ハルヒ」  
「何よ?」  
「大事に食うよ、ありがとう」  
結局、素直に礼を言った。  
「どういたしまして」  
明瞭な化学反応みたいに、俺の言葉に反応してハルヒが笑った。  
「お返し期待してるわ。最低3倍ね」  
そう言って急いで振り向くと、ハルヒは今しがた教室に入ってきたらしい阪中の方へと駆けて行った。  
 
やれやれ……3倍が、最低ラインってどんな暴利だよ。  
席について、改めて包み紙を持った手の重さを確認する。  
包装を解こうと思って、やめておいた。  
 
「キ……君に…命……コ渡せ…のね?」  
「なっ!?」  
 
──何故だろうね?  
何故だか真っ赤な顔をして、阪中を追いかけるハルヒの楽しそうな姿を見たら、食べる前から満たされた気持ちになっちまったのさ。  
 
 

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