「…………あ」  
 む、すまん長門。ちょっと手荒だったか?  
「……もっと乱暴にしてもかまわない」  
 そうは言うが、俺も初めてで加減がよく判らないんだ。  
「手順に間違いはない……」  
 そうか。それにしても、もうこんなにビチョビチョじゃないか。  
 ……そろそろ、いれていいか?   
「いい」  
 あぁ、熱い。熱いよ長門。  
 これはやばい! うまく出来ずに、いれる前に外にブチまけてしまいそうだ。  
「……まかせて。あなたはじっとしているべき」  
 すっと身を乗り出して俺と位置を替えた長門が、湯気が立ち上るほど熱くたぎったソレを、しとどにぬれっそぼったソコへ、ゆっくりと、いれていく。  
「……っ…………」  
 さすがの長門でも、不慣れだからきついんだろうか。  
 ちょっと心配になって眺めていると、息を詰めていた長門がふっと緊張が解いたのが見て取れた。  
「……はいった」  
 無表情な中にも、なにかを成し遂げたような満足気な瞳を向けられて、思わず微笑を返してしまう。  
 
「飲んで」  
 
 朝比奈さんに触発されたのか、長門はつい最近中国の茶葉と茶器を取り揃えたらしい。  
 
「普遍的に明確な作法は存在ない。しかし、代表的なのはこの淹れ方。  
 葉を入れた茶壷(ちゃふ)に溢れるまで湯を注ぎ、また、蓋をしたのち全体に湯をかけて茶器を温める。  
 その後、一度茶海(ちゃかい)と呼ばれる小さな急須に注ぐ手間を挟むことで、茶水の成分を均質化。  
 なお、発酵度の高い茶葉には高い温度の湯を使うので熱傷に注意する必要がある。  
 …………おいしい?」  
 
 ちょいとクセのある香りが強いが、うん、うまい。たいしたもんだ。  
 SOS団に二人目のメイドさんが並ぶの日も近いな。  
「……そう。あなたが望むなら裸エプロンも辞さない」  
 辞してくれ! 悪いインターネットに毒されない!  
「情報統合思念体の許可が下りない場合『くそったれ』と伝える」  
 いや、切り札の使いどころが違うだろ。  
「あなたには振り返りながら『大好き』と伝える。許可を」  
 …………………よし、やっちまえ!  
 

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