我らがSOS団は、今回の年末年始も合宿と称して鶴屋さんの別荘にお邪魔した。
今日は天気が良かったので暗くなるまでスキーをした。
別荘に戻り広々とした風呂で疲れをいくらか取り、晩餐としか言えない夕食に舌鼓を打ち、
今は客間で福笑いをしているところだ。残すは俺とハルヒの二人。トリは俺だった。
昼間の疲れと夕食の満腹感で俺は眠くなっていた。
判断力が鈍っているのでいるので、適当にやればそこそこ笑える物が出来るだろう。
適度にオチをつけて、その後は部屋に戻ってバタンキュー。
俺はそんなプランを考えていたのだが、何を思ったのかハルヒが
「じゃーあたしはキョンのをやるわ」
と言い出した。
ハルヒが出鱈目に作った福笑いを「キョン、そっくりじゃない」なんて言いながらゲラゲラ笑う姿が目に浮かぶようだ。
まあそっちがその気なら、俺だってケッサクなハルヒ画を作ってやるよ。
覚悟しとけよハルヒ。
どれどれお手並み拝見と行こうじゃないかと座り直した俺に、ハルヒは
「キョン、あんたは見ちゃ駄目。あっち向いてなさい」
と言いつけた。
まあその方が面白いかもしれないな。俺は大人しく窓の外でも眺めることにした。
程なくしてハルヒが「出来た!」と声を上げたので、俺は、さてさてどんなアホキョンが出来たのかね、などと思いつつ振り返った。
そして硬直。
古泉と朝比奈さんがそれぞれ「これはこれは、瓜二つですね。流石は涼宮さんです」「ふぇ〜、キョンくんとそっくりですぅ〜」と言い、
長門までか感心したように「……似ている」と呟いた。
俺もそっくりだと思う。
ハルヒの作った福笑いは、眉毛、目、鼻、口が違和感のない範囲でバランスよく置かれているなんてものではなく、
構成する部品が、それぞれ実際の俺の各パーツと同じ位置関係に置かれていた。
まったく、しょうもないところで妙に勘の働く奴だ。
しかし古泉が
「いえいえ、こらは普段涼宮さんがあなたのことをよく見ているということですよ」
などと言い出し、ハルヒは慌てて
「ちょ、ちょっと古泉君。そんなわけないでしょ! 偶然よ偶然!」
と否定した。
まあ、俺もそうだと思うよ。ハルヒは一番が好きだからな。きっと、他の団員より上手にやりたかったとかそんなんだろ。
……古泉、そのニヤケ面は止めろよ。「そういうことにしておきましょう」じゃねーよ。
「さーキョン。最後はあんたの番よ!」
ああ、俺の番か。まあ適当にやってやるさ。
「それとキョン!」
ん? どうした?
「もしあんたが下手なの作ったら罰ゲームだからね!」
何故俺だけ罰ゲームなんだ?
「そうねぇ……」
俺の話も聞けよ。
「もしあんたが変なの作ったら、スキー場を転げ落ちてもらうから。漫画みたいに体に雪をくっつけて大玉になって、
木にぶつかって雪を頭からドサ。あたし一回見てみたかったのよね」
おいおい。そんな子供みたいな事思いつくなよハルヒ。それに、なんだその天真爛漫なニマニマ顔は。嬉しそうにしやがって。
……どうやらハルヒは本気のようだ。やれやれ。気合を入れてやるしかないみたいだな。
俺は目隠しをされる。
ハルヒの福笑いは、確か笑った顔だったはずだ。
俺はハルヒの笑顔を真剣に思い出す。
100ワットのスマイル。
その眉毛の傾き。窓の外に広がる、冬の夜空のような爛々と輝く瞳。形の良い鼻。大きく開いた嬉しそうな口――。
今はもう、ハルヒの笑顔はそれほど珍しいものではない。だから簡単に思い出せる。
入学当初からは想像もつかないほど、あいつはよく笑うようになった。
――よし!
俺はハルヒの楽しそうな顔を脳裏に仔細に思い描き、福笑いの作成に取り掛かった。