「あたしはね、退屈が一番嫌いだって事、あんた知っているでしょ?」  
 知っている。  
 そりゃもう遺伝子が塩基配列に組み込んで記憶しちまったんじゃないかと言うくらい知っている。  
 将来、子供の遺伝子にそれが組み込まれたら、親としてどう責任を取ればいいのか本気で悩むくらいに知っている。  
「なんであたしがあたしの事であたしの子の責任取らなくちゃいけないのよ」  
 は?  
「ちっ…違う! そうじゃなくて! 何言わせるのよこのエロキョン!」  
 何が違っていて何がエロに繋がるのか、自分の発言を一度ノートに書き起こしてからよーく読み直せ。  
 赤ペン先生ならきっと光明を見いだしてくれるぞ。  
「まぁまぁ、お二人とも打ち合わせはそれくらいにしましょう」  
 お前もお前で、どこをどう見るとこの一方的喧噪の宴がミーティングに見えるのか目医者で見て貰え。機関にも医療部門くらいあるだろ。  
「それはさて置き」  
 置くなよ。  
「つまりこういう事ですよね。涼宮さんは怠惰な日常を非常に嫌います。しかしこの季節、イベントは多々あれどどれもこれもメディアに乗せられた、  
一見自主的に見えますが、実態はレールに載って財布を軽くするだけが目的の、企業へのお布施イベントばかり。そんな中身のないマスコミやメディアの  
金銭搾取行事に興味は無い。本当の、この季節を心から楽しむイベントが欲しい、と言う事ですよね?」  
 お前、師走に嫌な思い出でもあるのか?  
「ふふふ…キョンさん、優しさとあざけりは…紙一重なんですよ?」  
 …すまん。良く分からないがすまん。  
「そうそう! そう言う事よ! 後乗りで新興宗教でっちあげたヒゲの誕生日なんてどうでもいいの! あたしは見た事もないしあがめる理由もない奴の  
為に行動するなんてまっぴらだわ! あたしはあたし達SOS団の為のイベントをしたいのよ!」  
 …お前、間違っても今のセリフ、バチカン前で言うなよ。  
「え? バチカンが何? そう言えばバチカンの博物館って博物館のくせに入場者全員を金属探知器でチェックするくらい厳重って知ってた? 肝が  
小さいわよね」  
 それは初耳だが厳重な理由は分かるぞ。それはさておき、兎に角言うな。  
 で、要は街でにぎわっているメリークリスマス! じゃない俺達にしかできない俺達だけのクリスマスをしたいんだな?  
「そう言う事よ! やっと分かったみたいね! キョン! キョンの言うとおり、あたし達のクリスマスはあたし達でやるのよ!」  
 クリスマスをしたいという時点で結局レールの上だという事は言わないでおく事にした。  
 さて、SOS団の天照大神様がそう言ったか  
らにはやらなくてはならないだろう。  
「それじゃ、キョン」  
 何だ?  
「早く段取り始めなさいよ」  
 …こういう事は超団長様が率先したらどうだ?  
「あんたは露払いよ。その後あたしがあんたの穴だらけの計画をしっかりと埋め直して超完璧な、名付けて『SOS団ミレニアム超パーティ』を計画して  
あげるから!」  
 あー、何というかミレニアムはとっくに終わっているが言わない方がいいんだろうな。  
「それじゃ頑張ってね」  
 はいはい。  
 …さて、一体どういう風に行動を起こしたものかね?  
 やはり、どこかに集まって某ヒゲの誕生日を祝う以外の意味でパーティと言う所か?  
 この場合は…。  
「長門」  
 俺はいつもの定位置で本を読んでいた長門を呼ぶ。  
 やはりこういう時は何かが起きた時のセーフティもかねてこいつの部屋がベストだろう。  
 …って何を読んでいるかと思えばパーティ料理全集だし。  
 あちこちのページに折り目が付いている所を見てもやる気はあると見える。  
 そんじゃ、了承って事でいいか? 食いしん坊。  
 長門はほんのちょっとだけ、ちがうもん、と言う顔をしてから頷いた。  
 大丈夫だ。ちゃんと七面鳥はハーフじゃなくて一羽丸々で用意する。特大サイズでな。  
 長門が目を輝かせた。  
 期待していろ食いしん坊。  
 さて、場所は確保した。  
 
 次は…。  
「キョン君、私、頑張ってたくさんお料理作りますね!」  
 ああ、女神朝比奈みくる様! 普段は空気読めないアビリティをジャンクションしている割に、こういう時は呑み込みが早くて助かります。  
「お願いします。もちろん俺らも各自持ち寄りしますから、無理はしないでくださいね」  
「うふふ、ありがとう、キョン君」  
「さて古泉」  
「はい」  
 分かっていますよ、と言う顔で微笑むスマイル野郎は今日も元気だ。  
「遠回しに褒めてくださって光栄です」  
 違います。  
 やはり最初から最後まで部屋というのも味気ないし、あいつが退屈するかも知れん。  
 どうだろう? 最近お前の親類がテーマパークを経営しているとか聞かないか?  
「おやおや、それを聞かれるとは何とも奇遇ですね。実は少し前、僕の親類が冬のスィーツをメインとしたナン○ャタウン風のテーマパークを開設  
したんです。貸し切りとはいきませんが、特別パスで楽しめると思いますよ」  
 流石だ古泉。  
「では、今日は少々バイトがあるのでこれで」  
 そう言い残し、古泉はものすごい勢いで携帯メールを打ちながら退場した。  
 まぁ、クリスマスまであと二日だからなぁ。  
 いつも済まないが、これも世界平和のためだ。  
 機関にもよろしく言っておいてくれ。  
 …ふむ、我ながら、中々どうして整然とした早急な対応だ。  
「ハルヒ、どうだ?」  
「ふわっ?」  
 突然の俺の振りに、団長席でなぜか俺を見詰めていたハルヒがギャグみたいな動作で慌てる。  
 …いや、ちゃんとやるからそんな監視しなくていいよ。  
 不意の振りに慌てたのか、顔を赤らめたハルヒは大仰に咳払いしてから言う。  
「ま、まぁ、いいんじゃない? 普段あたしがセンス鍛えてあげているんだし、及第点ってところかしら」  
 へいへい。  
 突っ込んだら負けだ。  
 俺は仰るとおりと頷いた。  
「…それで…キョン?」  
 不意にハルヒが、静かな、ちょっと弱気な口調で語りかけてくる。  
 なんか調子狂うな。  
 で、何だ。  
「最近…寒いわよね?」  
 そうだな。師走だしな。  
「あの、ね? 首元は…寒くない?」  
 首? ああ、そうだな。このコート少し首周りが大きいから、風が吹くと寒い時もある。  
 途端、何故か不安げだったハルヒの表情が日の出みたいにぱぁっと明るくなる。  
 こいつの感情の浮き沈みの激しさは知っているが、ほんとに体の何処かにスイッチでもあるのかね。  
「そーよね! あんた無駄に背がでかいから寒いわよね!」  
 そんな大きくねぇよ。  
「いーから! それよりあんた、今日明日はクリスマスパーティの準備期間なんだから、それ以外の事、特に衣類関係の出費は厳禁よ! 勝手に  
買ったら死刑!」  
 相変わらず人の生活に対して平気で主権侵害して来る奴だ。  
 どうしても寒かったら新しく新調したっておかしくないだろうが。それこそ新しいマフ…。  
「だめーっ!」  
 五月蠅いよ!  
「何でもいいから駄目! 特にマフラーは絶対…え、ええと…と、兎に角防寒具は駄目! 最近の防寒具なんて中国製でどんな有害化学物質が  
混ざっているか分からないでしょ!」  
 それくらい日本製買うわ。  
「いいからあんたは当日までSOS団超パーティの事に骨身を削ってればいいの!」  
 ……。  
 やれやれ。  
「分かった?」  
 はいはい、ま、ここ数日はそんな寒くないし、クリスマスイブも割と暖かいって予報は言っていたからな。分かったよ。  
「えぇっ!?」  
 
 なんでそこで驚くんだよ。  
「い、いいのよ! 兎に角分かったわね! それじゃ今日は解散!」  
 ハルヒは言うや否や鞄を掴むと、カーディガンを着る間も惜しむ様な速度で部室を出てしまった。  
 本当に嵐の様な奴。  
 つうかPCの電源くらい落とせよ。  
 電源を落とすためにモニターを見ると…。  
 おいおい、ハルヒの奴、何でランジェリーのページなんか見ているんだよ?  
 しかもなんと過激な…。  
「キョ、キョン君! そんなエッチなページ見るなんて、駄目です!」  
 いつの間にか朝比奈さんが俺の後ろにいた。  
 誤解です。  
「そ、そんな紐みたいな…だ、第一そのサイズじゃ私着られませんよ? 私のサイズは…こ、こっちのページの下の方ですから。で、やっぱり  
肌触りはシルクの方が…」  
 いやいやいや! だから誤解です誤解!  
 それに誰も着ろなんて言ってません。  
 だからそんな自分のサイズ探さなくていいんですよ! 嗜好を聞かないでください! 何で潤んだ瞳で見詰めるんですか!  
 そもそもこんなページ見なくても俺にはちゃんと秘蔵みくるフォルダーがげふんげふん。  
「え?」  
 何でもありませんよHAHAHAHAHA!  
 …まさかハルヒの奴、この嫌がらせのためにこのページ開いていたんじゃないだろうなっ!  
「……」  
 あー、長門、その全てお見通し、みたいな瞳で俺を見るのはやめてくれないか?  
「大丈夫。全て上書きしてある」  
 何に!? 何を!?  
「…頑張った」  
 だから何を!? なんで頬がほんのり赤いの?  
 長門さーん! 黙って帰らないでくださーい!  
 …行っちゃったよ。  
 ドラクエで街から出る時ザッザッザッって音がするけど、そんな感じで文字通り消えちゃったよ。  
 さて、部室に残るは俺と朝比奈さんのみ。  
「帰りますか?」  
「はい」  
 かくして俺は味気ない下校時間を薔薇色に染めて帰る事となった。  
 朝比奈さん、朝比奈さんの手作り料理、期待していますね。いつもお茶やお菓子をいただいていますけど、料理はそうそう無いですからね。  
「楽しみですか?」  
 勿論です! あ、でも無理は本当にしないでくださいね。  
 俺の気遣いに朝比奈さんはうふふ、と笑う。  
 ああ、何でいちいち仕草や声が反則的なんですか貴女は。  
「大丈夫、私、お料理大好きだから全然大変じゃありませんよ。それより、キョン君は何が好き?」  
 俺ですか? 朝比奈さんの料理なら、そこらの石ころに衣付けて揚げたものだって食べますが…ミートパイなんか好きですね。大変ですか?  
「ううん、頑張るね! あ、そうだ。それじゃ、その代わり…これから一緒にお買い物付き合ってくれると嬉しいなぁ」  
 朝比奈さんは小鳥の様に首をかしげ、大きな瞳で俺を見詰める。  
 お付き合いいたしまする!  
 内臓引きずってでもお付き合いいたしまするとも!  
「こ、怖いよキョン君…」  
 すいません。思考が暴走しました。  
「でも…キョン君」  
 子供の様な純粋な瞳の上目遣い。  
 ばっつんばっつんの胸。  
 そしてつややかな唇から奏でられる甘い歌声の様な声。  
「…そんなにぃ、私とお付き合いするの…嬉しいのかにゃ?」  
 そこで噛むのは犯罪です。  
 それはさておき、朝比奈みくるの名の下に今、美と言う造形は完成する!  
 Exactlyでございます!  
 Exactlyでございますとも!  
「それは…誰よりも?」  
 ミューズの瞳に俺が映る!  
 Yes!Yes!Yes!Yes!Yes! この世界中の誰よ…。  
 
「……」  
「…? ひゃうっ!」  
 朝比奈さんは突如石像と化した俺の異変に気付き、後ろを振り向いて悲鳴を上げる。  
 こんな時ですら可愛い悲鳴を上げるとは恐れ入谷の鬼子母神。  
 で、あのー、ハルヒさん、長門さん、貴女方、先ほどお帰りになられませんでしたでしょうか?  
「ナンノハナシカシラ?」  
「ワタシハサイショカラココニイル」  
 あー、とりあえず頷いておこう。怖いから。  
 
 その後、結局買い物は古泉を除いたいつもの面々でとなり、輸入食材店であれこれとパーティ用の菓子、食材を吟味する事となった。  
 まぁ、こうなる様な気は何となくしていたけどな。  
 あー、二人とも、食材の事を聞く振りして事ある毎に朝比奈さんを睨まない様に。  
 ほとんど泣いているから。  
「キョ、キョンきゅ〜ん…」  
 すいません、逃げじゃなくって、今口を出すと結局更に朝比奈さんへの風当たりが酷くなるんで、口が出せません。  
 日も沈みはじめ、ようやく二人の殺人光線が収まり始めた頃、俺達は商店街を歩いていた。  
「みくるちゃん! これでたっくさん料理作れるわね!」  
「は、はい、そうですね」  
「いやー、でも悪いわね。今日明日、パーティまで有希の部屋でパーティの料理とお菓子の準備させてもらうなんて!」  
「問題ない」  
「お、おしぇわになります…」  
「これなら抜け駆…みんなが何しているかぱっちり把握できるから便利よね!」  
 ハルヒ、気のせいか指の爪がセイバートゥースみたいになってないか?  
「…当日まで泊まりがけでもかまわない」  
 長門も、周囲の水分子をアイスマンみたいに氷結させるのはやめなさい。  
「えええ遠慮しゃせていただきましゅっ!」  
 それが貴女の身のためです。  
 その後、両手いっぱいの食材を抱えて長門の部屋まで来た俺はハルヒの一言で靴を脱ぐ間もなく追い返される。  
 何で?  
 いや、別に俺に出来る事がある訳じゃ無いが。  
「いいのよ。あんたはもう帰りなさい。イブはSOS団でやるんだから、あんたはその前に妹ちゃんとプレゼント交換でもしたら? どうせあの子の  
事だから、あたしがプレゼントー! なんてやった事あるんじゃないの?」  
 ハルヒはケタケタと笑う。  
 ……。  
「ちょ、ちょっと? なんでそこで顔そむけて青ざめるのよ!?」  
「…キョン君?」  
「……」  
 何でもない。それじゃあみなさん、また明日!  
「こっ! こらぁ! キョン! 答えなさいよー! まさかあんたお天道様に顔向けできない様な事していないわよねっ!? こらー! キョーン!」  
 俺は聞こえないふりをしてダッシュでその場を去った。  
 ハルヒ、長門、朝比奈さん。  
 …その…何というか、ごめんなさい。  
 禁断の果実美味しゅうございました。  
 
 次の日、SOS団は臨時休業状態となる。  
 まぁ、昨日の提案で明日がパーティだしな。  
 何とも忙しい事だ。  
 古泉は叔父と連絡を取っていると言って放課後は顔を出さず、女性陣も放課後になると同時に長門の家に集まって菓子やら料理の下準備に追われている。  
 やる事がないので俺も手伝うと言ったらスケベとか言われる始末だ。  
 お前ら料理作っているんだろうが料理っ!  
「いーのよ! あんたはあたしの…あたし達へのプレゼントでも探してなさい!」  
 へいへい。俺の手伝いよりプレゼントが大事な訳ね。  
「…! バカっ!」  
 あれ? 珍しく長門や朝比奈さんもハルヒと同じ顔しているぞ?  
「あ、あの、間違ってもキョン君を邪魔だなんて思いませんから」  
「貴方は必要」  
 あー、なんか卑屈になっていたかも。すまん。  
 そんじゃ俺は俺の役目を全うするとするか。  
「それでいいの。せいぜい頑張りなさいよ!」  
 普通に応援してくれ普通に。  
 
 バカ…。  
 時々皮肉屋っぽくなる所があるんだから。  
 そりゃ、あたしの言い方が悪い時だってあるんだろうけど、あたしのキョンなんだからそう言うところは分かってくれる筈じゃない。  
 あ、あたしのってのは…SOS団団長としての…ええと…。  
「彼はみんなのもの…」  
 …丸く収めたつもりかも知れないけど、その後あんた、主に私のって呟かなかった?  
「キョン君はみんなに優しいですから…」  
 みくるちゃん、あんたもあんたよ。絶対に特に私にってこっそり言ったでしょ?  
 もう、何でみんなそんな自分勝手なのよ。第一キョンなんてどこがいいっての?  
 やる気が無い様に見えて意外に熱い時あるし、人のためと思った事はどんな妨害があってもやり通すし、自信が無くなって不安になった時は  
下手な事言わずに傍にいてくれるし、いざというときは意外に強引で…。そ、それで…あの時の、夢の中でキスした感触…。  
「す、涼宮さん! 牛乳が沸騰してます!」  
「え? あ! きゃーっ!」  
「…ユニーク」  
 それから暫くしてお菓子作りが終わった。  
 その後、あたし達は特にやる事は無かったから、適当にくつろがせて貰った。料理は下ごしらえで終わりだしね。  
「お茶が入りましたぁ」  
 ありがとみくるちゃん。人の家でもやっぱり一番お茶係が似合うわ。メイド服持ってくれば良かったかしら。  
 さて、あたしは…やっぱりあれやろっと。  
 あたしは鞄から毛糸と編みかけのマフラーを取り出す。  
 別にいいわよね?  
 冬の季節に編み物するなんて普通よ普通。  
 どこかのバカの為とかじゃなくて、趣味として。  
 趣味としてよ。  
 …ってちょっと! なんで有希もみくるちゃんも同時に毛糸を取り出すのよ!  
「た、ただの趣味でしゅ」  
「趣味」  
「……」  
「涼宮さんこそ、いつから毛糸編みの趣味を持っていたんですか?」  
 珍しくみくるちゃんが反論。そんな腰をひいた状態で言っても相手はびびらないわよ。  
 別にあたしはびびらせようとしていた訳じゃないけど。  
「…いつでも、いいじゃない」  
「では、私達も同じ」  
「むー」  
 まさかとは思うけどなんか嫌ね。  
 みくるちゃんは帽子か。  
 有希は手袋。ふぅん、ちゃんと五本指じゃない。  
 …女物にしては両方ともサイズと色がおかしいわね。  
 それに、二人とも趣味のとか言う割に見事にあとちょっとで完成寸前だし。  
「お、お気になさらず…」  
「ただの趣味」  
 べーつにー。  
 それから暫くの間、あたし達は三人で黙々と編み物に没頭した。  
 暫くして、あたしは完成。  
 二人も少し前に完成して色々チェック中だわ。  
 あたしもマフラーの丈を調べる。  
 ふむ、250センチはいっているわね。  
 …これだけ長く編めば、どうしたって一人じゃ余るわけで。  
 だから、必然的にキョンと二人で…。  
 あ、でもあんまり長いと距離が空いちゃうから、ほんのちょっと長めに巻いて距離を短めにすると…こう、ぴったりと寄り添う形になって…。  
「……」  
 寒風で冷えたほっぺをキョンがこう両手で包み込む様に撫でて…それで急に顔を寄せるの。  
 あたしはびっくりするけど逆らえなくて、それでそれでそっと瞳を閉じて…。  
 かわいいぞ、ってキョンは言ってあたしは頭がぼんってなってもうこころがめちゃくちゃで…。  
 でもでも、いいなりは癪だからあたしもキョンのほっぺに両手を添えて…でも力は全然入らなくて、妙にゆっくりな動作にじらされて切なくて  
ちょっとだけ怖くて…。  
 なのに、キョンはそんなの許してくれなくて、黙ってろって強引に、でもとっても優しく顔を近付けて、そして唇と唇が…。  
 
 
「……」  
 …この手袋は、彼の手のサイズより5ミリ程大きめに編んである。これは計画通り。  
 彼に渡し、それを填めてくれた彼はちょっと大きいな、と嫌味無く楽しそうに微笑んでくれる。  
 私は不器用でごめんなさい、とうなだれる。  
 すると彼は冷たそうな私の手を握り、手袋の中に私の小さな手を一緒に入れ、こんな使い方もあるな、と笑って私を引き寄せる。  
 私の小さな体は彼の胸にすっぽりと抱かれてしまう。  
 驚いて声が出せないでいる私に彼は、怖がらなくていいんだぞ、子猫ちゃんと呟き、私の中にほんの少し残っていた抵抗を全て奪い去り、私の顔を  
その暖かな手で包み込み、その顔を彼の方へゆっくりと近付ける。  
 私の顔が彼の瞳に映っている。  
 私は、彼の中に入ってしまった。  
 そのまま、彼の唇は私の唇をそっと、しかし否応なく…。  
「しゅ、しゅじゅみやしゃん! にゃがとしゃん! そ、そんな…いけましぇん! わわわ、わたしにはキョンきゅんが…!」  
 へ?  
 ふと我に返ると、あたしと有希はみくるちゃんを押し倒して唇を奪う寸前まで来ていた。  
「…きゃああっ!」  
「……!」  
 あたしも有希も、流石に慌てて後ずさる。  
 び、びっくりした! 危ないじゃない!  
「わわ、わたしのしぇりふでしゅ!」  
 涙目どころかぼろぼろ泣いているみくるちゃんが流石に非難する。  
 えーと、もしかしてあたし達がみくるちゃんを押し倒して唇奪いかけていた?  
「そ、それ以外のなにものでもありまひぇん! ああ、危なかったでしゅっ!」  
 ええと、いつの間にか夢の世界だったみたいね。  
 危ない危ない。  
「……」  
 有希も全然さっぱり何を考えていたのか知らないし知っていたとしてもきっと絶対本人だけの思いこみの一方的馬耳東風の豪放磊落的横恋慕感情  
だから何の問題も無いけど、反省しているみたい。  
 語意が違うとか知ったこっちゃないわ。  
「……」  
「……」  
「……」  
 で、あたし達三人はそのまま何となくにらみ合いになった。  
「…今日は、もうお仕舞いね。みんなやる事はやったみたいだし」  
 あたしは窓の外を見る。  
 …あら、なんか急に天気が悪くなってきてない?  
 ここに来るまではコート脱いでもいいかなってくらいの天気だったのに。  
 いや、なんか知らないけど今一瞬嫌な気分になって…まるであたしの気分を反映しているみたいな天気ね。  
 違うわよ、二人に対してじゃないわ。そこまで根性悪くないから。  
「……」  
 有希も外を見て眉をひそめる。  
 この子、寒いの苦手だったかしら?  
 それじゃ、あたし帰るわ。  
「…どこに?」  
「ど、どこって…う、家に決まっているじゃないの。帰るって言っているんだから」  
「…そう」  
「お家、ですよね?」  
 みくるちゃんまで何よー!  
「そう言っているじゃない! あたし帰る!」  
 自分で言うのも何だけど、あたしは怒られた子供みたいにむくれた顔で帰ってしまう。  
 なーんか最近二人ともあたしに遠慮が無くなって来たわね。  
 何? あたしがそんなに信用できない? 失礼ねー!  
 そんな事を考えながら、あたしはまっすぐキョンの家に向かっていた。  
 
 
「……」  
「……」  
「……」  
 なんでみんなと玄関の前でかち合うのよっ!  
「それは」  
「こ、こちらのしぇりふでしゅ!」  
「寒そう」  
「ゆ、雪が頭につもってますよ?」  
 知らないわよ!  
 二人だって頭に雪が積もるのお構いなしで来てるじゃない!  
 ああもう! あたしはキョンに逢いに来たの!  
 会いじゃなくて逢いによ! モンクある!  
「わたしもそう」  
「わたしもですっ!」  
「あらそう! そんじゃお先っ!」  
 むきー! 何よ何よ何よ!  
 分かっているわよ! あの手袋も帽子もキョンへのプレゼントなんでしょ!  
 そうよ! あたしのマフラーもそうよ!  
 一ヶ月前から編んで解いてを繰り返して、キョンを怒る振りしながら、コートに合う色味や幅を観察して、せっせと編んだわよ!  
 そう言えば有希も時々キョンの手を意味もなくつついていたり、みくるちゃんもキョンの頭にコスプレ用の帽子うっかりの振りしてかぶせていたり  
したわね!  
 分かってたわよ! 知らない振りしていただけよ! みんなそうなのよね!  
 でもそんなのどうでもいいわ。  
 一番に渡しちゃった者勝ちよ!  
 と、もう遠慮する必要はないってみんな同じ事を考えていたみたい。  
 あたし達は先を争う様にピンポンしていた。  
「は、はーい」  
 少ししてどたどた走りながら出てきたのは妹ちゃん。  
 あら、いつもながら年齢より子供っぽいピンク色のワンピースが可愛いわ。  
 そのうち義妹になるんだから仲良くしましょ。  
「あー、ハルにゃんにゆきちゃんにみくるちゃんだー。こんにちはー。あ、あの…キョンくんは…」  
「「「おじゃまします!」」」  
「ふえ!?」  
 言葉のキャッチボールが大遠投になっている気がするけど気にしない気にしない。  
 勝手知ったる他人の家。  
 あたし達は脱いだ靴をそろえるのも早々にキョンの部屋へとなだれ込むわ。  
「え? え? えっ!? ちょ、ちょっとハルにゃん! 待ってー! だめー!」  
 いーのよいーのよ妹ちゃん。  
 キョンにはとってもいいコトをし…じゃなくていいものをあげる為に来たの。  
 ま、コトでもいいけど。それなら朴念仁が言葉通り一皮むけるチャンスだしね。  
 何なら壁に聞き耳立てるくらいは許してあげる。  
 って有希! みくるちゃんもこんな時ばっかりなんて速度出してるのよ!  
 ああもう! あたしもちょっと妄想癖抑えないといけないわね。  
 あたし達はまたも三人同時にキョンの部屋のドアを開ける。  
「おじゃましまっ!」  
「おじゃまひまっ!」  
「おじゃ…!」  
 
 
 やぁキョン、今日はあの美人三人は一緒じゃないのかい?  
 え? そうか、そう言う訳で追い出されている最中か。  
 …ふぅん、そうか…。  
 つまり…彼女達は…そろそろ本気で…。  
 ん? 怖い顔をしていたかい? 気にしないでくれ。女同士は複雑なのさ。  
 で、君はこうして商店街で彼女達へのプレゼントを探して居るという訳だ。  
 そうか、目星はついたんだね。で、明日の放課後に買ってから合流、と。  
 それでこれから帰るところだったんだね。  
 それは幸運だ。その前に君に逢えたんだから。  
 で、そのパーティはいつだい?  
 そうか、明後日か。  
 なら、猶予は無いな。  
 ううん、何でもないよ。  
 それじゃあ、今日は暇なんだね?  
 ううん、僕も特に目的は無いよ。ただ、少しの間、君と一緒に歩きたいだけさ。  
 キョン、この時期、こうして君と歩いていると…周りの人はどう思うのかな?  
 ふふ、そんなに困らないでくれないか?  
 君は相変わらず真面目に考える割に正解には遠いんだね。  
 違うよ、バカになんかしていない。  
 それが君らしさだし、だからこそ…いや、なんでもない。  
 ん? 急に空模様が悪くなってきたね。  
 おやおや、ちらほらと雪も降り始めている。  
 ふふ、君とこうして雪の空の下を歩けるなんて…。  
 それじゃあついでに…よっと、うん、やっぱりこうして腕を組むと暖かいな…。  
 …うん…暖かい。  
 …キョン、これから君は帰るんだよね?  
 それじゃ、真っ直ぐ帰るんだよ。  
 ふふ、子供じゃないって?  
 そうだね、子供じゃ…なくなるよ。  
 
 ピンポーン。  
 やぁ、妹君、久しぶりだね。  
 相変わらずかわいいね。キョンは居るかい?  
 居る? そうか、ふふ、お邪魔していいかな?  
 やぁキョン。  
 おや、少し驚いたかい? そうだね、ついさっき逢って別れたばかりなのに、またこうして逢えたんだから。  
 そう言う運命なんだよ。  
 大げさ? そうかな?  
 僕は…そうは思わない。  
 キョン…僕ね、なんだか体が熱くて…衣服は…邪魔だね。  
 あ、駄目、逃げないで。  
 大声出しちゃおうかな?  
 ふふふ、そう、君はベッドに寝ていればいいんだよ…。  
 キョン…ああ…素肌って、暖かいね…。  
 あ…あそこが熱…。  
「おじゃまし…まっ!」  
「おじゃまひまっ!」  
「おじゃ…!」  
「きゃあっ!」  
 
 
「うわあっ!」  
 な、何でお前らがここにっ!  
 いや、それはこっちのセリフってのもナニをしているのかって言いたいのも分かるが、ちょっと待ってくれ。ちょっと落ち着いてくれ。  
 無理?  
 とにかく話だけでも聞い…佐々木! 頼むからこれ見よがしに抱きつくのやめて! 嫌いとかそう言うのじゃなくて地球の危険が危ないからやめて!  
 待て待て待て! ハルヒも長門も朝比奈さんもおもむろに服を脱ぎ出さないで! 無表情怖いからやめて!  
 ああなんかどこかのサイトで見た事あるランジェリーだなぁ。  
 って最初に宿したら勝ちとかってすごい事いわないでっ!  
 えーとえーとえーと!  
 まてまて! ベッドに潜りこむな! うわいい匂いが肌触りが…じゃなくて! 寒い? 嘘だ! いや嘘つきはこっちっていわれても微妙に言い返せないけど  
とにかくえーとえーと! うおお背中にミルクタンクが! じゃない!  
 えーとえーと…!  
「お、俺はっ! 体を許したからって無条件に愛したりしないっ!」  
 四人の動きが止まった。  
「聞いてくれ! 正直、みんなの気持ちは分かる! 気持ちも、こういう行動を取ってくれるのも本当に純粋に嬉しい! でも、俺は体だけじゃなくって  
心を一番愛したいんだ! 心を愛するには時間がいるんだよ! だから俺は、申し訳ないが煮え切らない態度を取ってしまうんだ! みんなを焦らせて  
いるってのは分かっているが…分かってくれ。もう少し、時間をくれ…!」  
 みんなは聞き入っている。  
「キョン…そんなに本気で…」  
「キョン君…か、感動しました…」  
「…涙が…」  
「君は…やっぱりすごいよ」  
 俺は一世一代とも言える告白をした。  
 その気持ちは、みんなに通じ…。  
「えー? そんなー! それじゃあたしのからだであんなにたのしんだのにまだキョンくんあたしのじゃないのー!?」  
 妹ーーーーっ!  
「…キョン」  
「キョン君…」  
「……」  
「キョン…」  
「キョンく〜ん」  
 
 
 
 …クリスマスイブとは、とある聖人が生まれた日を祝う行事だという。  
 でも、俺はイブ当日に色々な意味で死にそうです。  
 メリークリスマス!  
 世界に平和を!  
 俺に平和を!  
 て言うか解放してくださいっ!  
 太陽昇ってます!  
「じゃあ、誰を選ぶかいいかげん決めた?」  
 いやいや! その言葉は破滅を呼ぶから!  
「あら、あたし達の心は充分分かったわよね」  
「それじゃ、まだ体が足りないんですね?」  
「…可能性は99%」  
「ふふ、望むところだよ」  
「わーい!」  
 何この俺を除いた阿吽の呼吸!?  
「それじゃあ」  
「もう一ラウンド」  
「…無制限」  
「一発勝負」  
「だね!」  
 あーっ! 花畑が見えるーっ!  
「そうだ、今日宿したらこの子、救世主になるのかしら?」  
 今日は宿した日じゃなくて生まれた日だーっ!  
 
 
 
おわり  
 
 

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