「外見」  
 
キョン  
 
今日の授業も終わり、放課後は団員その1としてSOS団部室もとい、文芸部室に向かう。  
部室は部室棟にあり一度中庭にある渡り廊下を通らなければならない。  
渡り廊下に出た俺はもう九月だと言うのに肌を刺激してくる太陽に嫌気が差しながらも、  
もし、外国からいらっしゃった人達に実は九月は夏真っ盛りなんすよ〜ここ最近の日本の秋は中止してまして…  
と言っても通用するだろうな、なんて思いながら空から照りつけられる太陽光に目を細めつつ  
少し強く締まっていたネクタイ緩めながら部室に向かった。  
部室棟の廊下まで聞こえてくる運動部の声に、この暑さでよくやるなーと思いながらもその声に合わせリズムよく階段を駆け上がる。  
勿論、この時期リズムなんかに合わせて階段を上ってしまった日にゃあ汗が凄い。  
どう凄いかと言うと、養老の滝ぐらい凄い。だからといって別に俺の汗がサイダーになる事も無いし、  
ましてや若返る事も無い、味は…しょっぱいしな、なんてどーでも良いことを考えてるうちに部室の前に着いた。  
着いたからと言ってスグにドアを開けるような谷口みたいなマネはしない。  
朝比奈さんが着替えてたり、ハルヒが新しいコスプレ衣装を試しに着てたりしていたら困るしな。長門は−無いか  
 
コンコン  
「はぁ〜い」と朝比奈さん。  
「俺です。入っても大丈夫ですかね?」  
「キョン君?うん大丈夫」  
いつも思ってる事があるのだが着替えてても開けてやろうか、なんて思うのは思春期特有の考えであると思いたい。いや信じたい。  
ドアを開けてもやっぱりそこは暑かった…てか当たり前だ、夏だもんな。なんて馬鹿な事を考えながら部室に入った  
 
部室には朝比奈さん一人だった。他の団員は掃除当番かなんかだろう、大して気にする事でもないか。  
すでに朝比奈さんはメイド服に着替えておられた。メイド服は相変わらず似合っていて、笑顔も神々しい。実に今日の朝比奈さんもみくるフォルダに収めたい、  
なんて思いながら、せっせとお茶を用意するSOS団が誇るエンジェルの横顔をおなじみのパイプ椅子に座り眺めていた。  
まぁ、ずっと見ているという事は見つかるというリスクも大きいわけで、  
「ふぇ?どうかしたのぉ、キョンくん」  
「え?あ、いや、お茶がたのしみだなーなんて…ハハ、」  
「ふふっ、キョン君ったら…あら?」  
「朝比奈さん?どうかしましたか?」  
「ここ…ボタンが…」などと言いながらムナグラ、いやいやYシャツの第一ボタンのところに触れてきた。  
 
最初こそ驚いたが相手はエンジェル朝比奈さんだ。避けるなんて勿体n…善意に水を差す事になるからな、うん。大人しくしておこう。  
ボタンは付いていたのだが、ほとんど取れかかってる状態でこれなら引き千切って家で付けて貰っても…なんて思ってると、  
朝比奈さんは「これなら…」や「あれ…てたかしら…」など呟きながらボタンを近距離で見ている。  
最初は汗臭くないだろうかなどと思いながらも、冷や汗に近いものが出てくると言う負のスパイラルに陥っていた。  
しかし十秒も経っていないというのにドキドキとヒヤヒヤがモヤモヤに変わり、何故か息が上がってきた。  
これは、…ヤバイ、髪から漂ってくるフローラルの香りと朝比奈さん自体から香る柑橘系の香りが脳に交互に攻めてくる。  
段々ハァハァと息が荒くなっていく…なんだ?やけにムラムラしてる、その上俺自身が反応して来てるし…  
まるで性欲に体を支配されてきてる様だ…何も考え…られ……なくなって…このまま……  
なんて思いながらさっきは行き場が無く後ろに回していた腕を少し上げ、指をワキわきさせながら肩に手を…  
 
――貴方を…信じてる…――  
 
な、がと?な…んで…  
いきなり出てきた長門はそう語りかけ、少し悲しそうな顔をして、消えていった。  
少し我に返り、ゆっくり深呼吸するが  
何故かまた思考が一瞬で持っていかれそうになる…  
しかし今度は、  
 
――このっ、馬鹿キョン!!!――  
 
ハル…ヒか…  
今度は何故か涙を目いっぱいに溜めたハルヒがそう言って、消えていった。  
性欲が沈んでいく…なんだろ…ハルヒに泣かれると、な…  
 
何とか自分をもって…  
「朝比奈さん、すいません、ちょっと恥ずかしいですよ…//」  
「ふぇ!??あっ!ごめんなさい!ちょっと考えちゃって」  
朝比奈さんはそう言うと何故かフラフラしながら立ち上がった  
「大丈夫ですか?どこか…」  
「大丈夫ですぅ、キョン君はその…いいの?」  
ん?何が良いのだろうか?…!ボタンか  
「大丈夫ですよ。家に帰って親にでも…」  
朝比奈さん自分もふら付いてるのにボタンまで心配してくれるとは…さすがエンジェル!  
「う、うん。それの事も…なんだけど…た、体調に異変…は、ないですか?」  
まさか!?今までの心境がばれていたのか!?  
「な、なな何もないでですよ?俺どっどっか悪そうでしたか?」  
「ううん。なかった、ら、それっ、でい、いいの…ちょっとごめんなさいぃ」  
朝比奈さんはそう言うと部室を出ていった。  
 
朝比奈さんが部室を飛び出してスグ俺は自分の理性の欠片と、頭に出てきた長門とハルヒに感謝したね。それはもう盛大に、  
あと古泉は良く自重してくれたと別の意味で感謝したね。  
出てきたら出てきたらで欲は吹っ飛ぶんだろうが、朝比奈さんに失礼だしな。  
しかし今さっき気がついたが、窓まで閉まっていたとは、  
そりゃ熱も篭るし汗もかくわな。なんて思いながら  
窓を全開にして空気の入れ替えと共にハルヒや長門、古泉たち他の団員を待っていた―  
 

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