一体いつからだろうか…私が彼を目の端で追うようになったのは  
 
一体いつからだろうか…私が彼の背中を眺めるようになったのは  
 
一体いつからだろうか…私が彼をこんなにも愛しいと想うようになったのは  
 
彼はいつだって私の傍に居てくれた。  
呆れたような、怒ったような、困ったような、それでいて若干微笑ましそうな笑顔で  
 
夢の中で見せてくれたあの真剣な表情は今でも私の脳と心に大切に仕舞ってある  
 
机の引き出しを開ければ、彼の写真が幾つも散りばめられ眺めることが出来る  
 
中でもお気に入りなのが…古泉君が撮ったこの写真  
 
中庭にある一本の木の下で、私が彼の肩を借りて二人で居眠りをしている写真…  
 
これを見せられた時、あまりの恥ずかしさで彼の左足をまるで粉砕するかの如くハイ&ローを五発程蹴り下してやったのもいい思い出だ  
 
「キョン覚えてる…?」  
 
彼は答えない。  
見せびらかすかのように彼の前にひらひらとその写真を振る  
 
「間抜け面よねぇ…私もだけど」  
 
私が風邪を引いた時、彼は学校を休んでまで私の看病をしてくれた。  
 
ただでさえ熱があって顔が真っ赤だろうに…あいつは大胆にも私のおでこに自分のそれを当てて  
 
『あちぃよ、お前』  
 
なんて、心配そうに呟いた。  
彼の吐息が私の頬を擽る、かき上げられた私の前髪をそのままに優しく二度頭を撫でてくれた。  
 
顔がとても近い、彼の瞳の奥の奥を見ると…まるで熟した林檎のように顔を真っ赤にした私が映っていた  
 
あんたが居たから余計に風邪を拗らせたのよ…?わかってんの?  
 
しばらくしてみくるちゃんが卒業して部室からメイドさんが姿を消した  
 
悲しくて寂しくて物足りなくて…どうにかして彼女をまた此所に居させようと思案していたら彼が  
 
『大事な友人の門出なんだ…邪魔するなんて野暮だよ』  
 
キョンがそう言うなら仕方ないんだってそう思うようにした  
 
でもやっぱり寂しいから、泣くのを堪える為に彼の裾を控え目に握りしめ  
 
声を出さずに泣いた。  
彼はそっと指で私の涙を拭う、はと顔を上げると慈しむように、慰めるように、優しく微笑んでくれていた  
 
本当は彼の胸に飛び付きたかったが、やっぱり恥ずかしいので自重した  
 
「……今思えば抱きついちゃえばよかったかなぁ?」  
 
四人の部活もそう悪いものでは無かった。  
 
古泉君は気を使ってくれたし、有希は相変わらずだし、なによりキョンが居たし  
 
私は幸せだった。  
 
不思議なことなんてとんと無かったけれど、それでも皆が居てくれた。  
 
それだけで私は――。  
 
ヒュウ…と、一筋の風が私を薙いだ。  
揺れる髪の向こうで初めて私の瞳から涙が溢れていることに気付いた。  
 
「今日…私達卒業したんだよね」  
 
なんでもないような事が幸せだったと思う…なんて、まさかこの私が思うなんてね  
 
あんたのせいよ、バカキョン  
 
一頻りの挨拶を終えた私達は解散し、それぞれ帰路へついたが私だけとある場所へ向かった  
 
そして小一時間…私は彼の前で膝を抱えている  
 
空が曇って来た、天気予報は昼から雨…このまま雨に濡れるのも悪くないなぁなんて思ったがそれで風邪なんて引いたらきっと彼に怒られる  
 
私は緩慢な動きで立ち上がり踵を返す――しかし足が思うように動かない  
 
ザァ…と今度は一際強い湿った風が吹き花弁を散らした  
 
「あ――」  
 
風に弄ばれながら舞う花弁はまるで私の心情風景そのままで…私の心が散った事に気付く  
 
「キョン…」  
 
くたりと両膝をつき、堪えきれず手で顔を覆うがその隙間からハラハラと涙が溢れていく  
 
「逢いたい…」  
 
もう届かない声、気持ちも、風が容赦なく飛ばして行く  
 
なにも見ていないふりをして、背中を見てた…そう、彼の背中  
 
もう見ることはない  
 
「大好き…」  
 
彼の墓前で私は言えなかった思いの丈を呟いた  
 
雨が私の全てを濡らし冷やしていく  
 
もう彼が傘を差してくれる事がないから――  
 
 
End the same as history  
 
 

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