ある冬の日の朝……  
 
俺はまたあの夢を見た  
冬の季節になると何度か見る  
昔の夢だ……  
 
そこでは、雪が降っていた  
駅のホーム、いつまでたっても止まず勢いを増し続ける雪  
そこで俺は……いや、俺とハルヒは電車を待っていた  
生まれ育ったあの町から逃げ出したかったからだ……  
 
電車が来るところで夢は終わった  
今までもそうだった  
 
 
 
 
あれからもう……もう、丸四年になるのか…………  
 
 
 
 
その夢で降っていた雪は、今でも俺の中で降り続けている  
たぶん、これからも一生、止むことも溶けることもないだろう  
 
 
「―――キョン、もうそろそろ起きないと遅刻よ!はやくはやく」  
「……ぅう、ん…………」  
 
身体を揺すられて目が覚める  
俺はまだ重い瞼をこすり、温かい布団からゆっくりと這い出た  
俺を起こした張本人、ハルヒはもう着替えていて、いつもどおりの天井知らずの元気と笑顔を振りまいていた  
 
「(……お前には寒さも暑さも聞かないんだな)」  
 
「おはよう、キョン」  
「ああ、おはよう」  
 
布団からは抜け出せたかがまだ身体には毛布が巻きつけてある  
そんなに簡単に寒さに対応できるほど俺は丈夫にできてないんでね  
ハルヒはそんな俺を見ながらカーテンに手をかける  
 
「ねえねえ、夜冷えると思ったら……見て!」  
 
そう言ってハルヒはカーテンを勢いよく開いた  
 
眩しい朝日とともに……  
 
 
――――――そこには、雪で真っ白に染まった町があった……  
 
 
 
「ねえキョン、すごいと思わない?あたり一面、見渡す限り真っ白よ!」  
「………………」  
 
 
この町でこんなに雪が降ったのは初めてじゃないだろうか  
だけど俺は、俺はその時、その景色を見てふと思うことがあった  
それに気づいた俺は、呆然として、もしくは唖然として、ただただその景色を望んでいた  
 
 
 
俺は今の今まで、どうして忘れていたんだろうか……  
同じ風景を心に持つ人が、こんなに近くにいたことを……  
 
 
俺は雪景色を見ているハルヒに視線を移した  
しばらくそうしていたが、ハルヒが小さく俺を呼んだ  
 
「――キョン……」  
 
続けて、そっとつぶやいた  
 
 
 
「みんなさ……幸せだといいね…………」  
 
 
 
ハルヒが誰を想ってそう言ったかはわからない  
 
 
でも、その時二人で見た雪景色は……  
 
その雪景色は、記憶の中にあるものとは、少し違って見えたんだ……  
 
(終)  
 

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