【戯心本心…後日談】
冬が過ぎ、春が訪れ、4月になった。
今日は入学式で明日が始業式なので、3年生になった俺は本来、学校に顔を出さなくても良い。
朝比奈さんと鶴屋さんが卒業したとはいえ、春休みの間もずっと活動に顔を出していたし今日も部室にいる。
まぁ、俺としては朝比奈さんや鶴屋さんがいてくれた方が都合も良かったりするのだが。
今年入学してきた新入生相手にハルヒは部活見学の時にまたも面接をやると言いだした。
その為の準備と称して古泉にまた何か言いつけているようだがそれは古泉の仕事なので俺は知らない。
だけど……その新入生勧誘ももしかしたら中止になってしまうかも知れないが。
1年生の時以来である、最上階の1年生の教室に辿り着き、入学式後、教室でのHRが終わって雑談している新入生達の中を探す。
高校と大学の入学に年齢制限が無くて良かったと今さら思う。
何せ、今俺が探している相手は実年齢は年上なのに学年では後輩になってしまうのだから。
だがしかし、我らが団長ハルヒには話してすらいないので許可が下りるかどうか解らないが……。
うん、まぁ、それはあれだ。
何とかなるだろう、超能力者とか宇宙人とか未来人とかいるし。
「あら………?」
窓際で朝比奈さんの淹れてくれたお茶を飲んでいた涼宮さんが急に声をあげました。
また何か見つけたのでしょうか。少し気になりますが。
「あれって、キョンじゃない?」
涼宮さんが窓の外を指さし、もう制服ではないけどメイド服の朝比奈さんや長門さんも窓際に近寄り、僕も窓へと。
確かにあれは彼です。
ですが、どうやら彼は1人ではなく、もう1人、しかも女子生徒がいます。
制服からしてどうやら今年の新入生のようですが……。
「新入生をSOS団に勧誘しているのではないですか?」
僕は控えめに、凄く控えめに涼宮さんに尋ねてみると、涼宮さんは「違う!」とばかりに両手を上げました。
「甘いわね、古泉君。あれ見てみなさい」
よく見ると、彼はどうやらその女子生徒の手を引いて歩いているようです。
その女子生徒は杖をついて歩いているのが少し違和感があります。
彼にとって結構親しい人物なのかも知れませんね。
「あの! キョンが! 何で! 新入生をエスコートなんかしてるのよ! しかも女子よ女子! 下手すればセクハラだわ!」
あの、涼宮さん、セクハラはされた本人がセクハラだと言えばセクハラになるのですが。
あの女子生徒は嫌がるどころか、むしろ微笑んでます。しかも朝比奈さんのような年上の微笑みで。
僕が朝比奈さんと長門さんを振り返ると、朝比奈さんも長門さんも困惑しているようです。
これではいけませんね……。流石にSOS団女性陣に何も説明しなかったのは不味かったかも知れません。
僕は約2ヶ月前、今年度の北高の入学試験前日での出来事を思い出しました。
そう言えば話してませんでしたね。この際、話してしまいましょうか。
涼宮さんが解散を告げた後、僕は彼に話があると言って呼び止められました。
涼宮さん達が帰った事を確認した彼は、僕に椅子に座るように言って、ようやく口を開きました。
「なぁ、古泉。そろそろ朝比奈さんは卒業だな」
「そうですね。僕達も3年生になります」
「………SOS団で色々やってきたが、俺達はずっと一緒だったな」
彼がしみじみと呟き、僕もそれに頷きます。
「朝比奈さん達は卒業してもちゃんと顔を出してくれるって約束してくれた。それはいいんだ」
では、何かあるのですか?
「ああ。男であるお前にしか頼めん事だ」
「はい」
その時、彼はとんでもない事を言いだしましたよ。
「俺達が3年生の1年だけでいい、仲間を1人増やす事を認めてくれ」
ええ、聞いた時には驚愕しましたね。
最初はいったい何を言ってるのかと考えましたが、じきに思い出した事があるのですよ。
機関誌に掲載した恋愛小説のあの話です。あの話が真実か嘘か、僕は聞きそびれたのですが……もし、真実だとすれば合点がつきます。
「ああ、本当だ。ああは言ったが、本当の話だ」
だとすると、増える仲間とはその人の事ですね。
なるほど、確かに僕に対してが1番言いやすいでしょうね。
「しかもな。俺達が卒業してもSOS団の活動を続けてくれるそうだ」
太っ腹ですね。あれ? 学年はどうするのでしょう?
「明日の入学試験で入学する……一応な、4年間昏睡状態だった訳だから実年齢は俺らより年上でも精神的には中学生のままだからな」
なるほど、そういう事でしたか。僕に反対する理由なんて特にありません。
涼宮さん達を納得させるには骨が折れそうですが。
僕の言葉に、彼はちゃんとお礼を言ってくれましたよ。
まさか現実になるとは思ってませんでしたが。
「「「………………」」」
あれ? 涼宮さんどころか、朝比奈さんや長門さんまで何を怒ってるのでしょう?
と、いうか涼宮さん、パイプ椅子は危険です。朝比奈さんもお盆を7枚重ねはやめて下さい。
そして長門さん……その辞書より分厚い本は何ですか!? 人を殺せますよ!?
学校案内するのに予想外に時間がかからなかったのは、北高には特別な場所なんて1箇所しか無いからに違いない。
もっとも、俺達は今からその唯一特別な場所に行く訳だが。
「キョン君、文芸部って書いてあるけど」
彼女は誰もが思う事を当たり前のように口にした。
「部室を間借りしているからですよ。だから部費や備品は文芸部と共同です」
もっとも、文芸部の正規の部員は1人しかいないけどな?
それは黙っておこう。
彼女を連れた俺を見て冷やかしの言葉を送ってきたコンピ研にPCの上で無数のおたまじゃくしの入った水槽を破壊すると脅して黙らせ、
何故か廊下であった谷口がナンパしようとしてきたので蹴りをいれ、国木田が驚きの視線で見てくるのをスルーしてと色々あった。
だが、ようやく部室に辿り着いたので文句無し。
何だろう、部室の中が騒がしい気がするがいつもの事だ。
「ハルヒ、入るぞー」
そう声をかけると、何だかよく解らない返事が返ってきたが肯定と受け取る。
そして俺は振り返り、片手で扉を開けてもう片方の手で彼女の手を握った。
「ようこそ、SOS団へ!」