朝倉の容姿に関しては、キョンの深層心理には朝倉への感情は恐怖しかないんだろうと考えれば説明がつく。
ということはこの物語はキョンの回想で全て書かれている・・・、! 俺たちはとんでもない勘違いをしていたんだ!
つまり『涼宮ハルヒの憂鬱』は、最後にキョンがペンを置く所で物語が終了するんだよ!!
「『…こうして、長くもあり短くもあった、俺の不可思議で奇天烈な高校生活は幕を閉じることになった。
この後の俺達SOS団の物語は、…そうだな、ここまで読んでくれた読者の皆さんの想像にお任せするとしようか』、と」
「…ちょっと、いくらなんでもこのラストはベタ過ぎるんじゃないの!? もうちょっと捻りなさいよ!
床屋の前で無意味にぐるぐる回ってる赤と青の何かよくわかんないオブジェみたいに!!」
あのなあハルヒ、あれはサインポールと言ってだな、外科医を兼ねてた頃の名残で動脈と静脈と…何? そんなことはどうでもいい?
そいつはごもっとも。大体どんなものでも由来なんてのはあやふやなものなんだよな。サインポール一つとってもその始まりは諸説紛々、
例えば万に一つも無いだろうが、SOS団シンボルマークが歴史的に名を残したとして、水色の部分と緑の部分の意味なんかを聞かれても
お前も俺も答えられないだろう。有るものに常に意味を持たせようとするのは、人間の進化の鍵であると同時に、また愚かな運命論的思考でもあるわけだ。
…と、いつもの様に自分自身の独白で紙面を無駄に費やしてもいいが、どういうわけか目出度くベストセラーとなったこのシリーズ、
その最終巻となれば、冗長な文章を連ねるよりも、鮮やかに幕を閉じる方が美しいんだろう。
さて、ここまでお送りした『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズ、明らかにファンタジー分を多量に含有するこの本を見て、まかり間違っても
「これはノンフィクションだ! 宇宙人未来人超能力者はいる! むしろ長門有希は俺の嫁!!」などとのたまう人間がいたら、
その素敵で夢見がちな彼または彼女に、人生を考えさせられるようなノンフィクション物、できれば戦争物が好ましい、を
宇宙人のうの字も出ない程に鑑賞させまくる事をオススメしたい。
つまり何を言いたいのかというと、この世には宇宙人未来人超能力者異世界人、ついでに加えてサンタクロースなんてものは
いない…、とは言い切れないが、ごく普通の一般高校生が出会う事などはそうそう無い、ということだ。
ただ、これを読んでいる読者諸君には、声を大にして言いたいことがある。
この世界には、読書好きで寡黙な誰か、天使の風貌と心根を持った誰か、エセスマイルとお喋りが得意の誰か、
刃物で俺を恐怖のどん底に陥れた誰か、人を煙に巻きくつくつと笑う誰か、誘拐したり雪山の山荘に閉じ込めたり花の名前を名乗る奴ら、
クラスメイトや家族、よくわからない組織の面々、あととにかく色んな知り合い、そして、
どういうわけだか俺の腕と財布と、ついでに心を掴んで離さない、太陽みたいな誰かが、
確かに、存在している、ということだ。
さて、読者諸君がどんな環境でこの本を読んでくれているのか分からないが、少なくとも今の俺は、落ち着いてあとがきを書く時間すら
残されていないらしい。真に残念だが、ここで筆を置かせてもらうとしよう。
「早くしなさいよ! さっさとそれを出版社に叩きつけて、そのまま探索に行くんでしょ! みんな待ちくたびれちゃうじゃない!!」
やれやれ、と人生で何度吐いたか分からない台詞を呟きながら、ああ、この後の台詞も一体何度聞いたのか、と感慨に耽りながら見やると、
少々擦り切れて、その度に補強してきた例の腕章を付けながら、こいつは何時もの通りに叫ぶのだ。
「遅い! 罰金!!」