「キョンくーん。はい、おべんとう」
毎朝ハイテンションな妹が何故か、テーブルの上にあるはずの弁当箱を渡してきた。
あいにくだが、昨日シャミセン用のネコジャラシを必死に探索してやったばかりだ。
何かせがもうとしても聞いてやるつもりはないからな。
「そうじゃないよー。えへへ、お弁当、いいなーって思って」
「毎日出来たて給食を食えるという贅沢を味わってるというのに、何で
弁当がいいんだ?むしろ俺は昼飯に関しては小学生に戻りたいぞ」
「だって、給食は嫌いなものが出るんだもん。お母さんが作ったお弁当なら
毎日全部好きなものにできるでしょー」
親の作った弁当は良くも悪くもいつもの味だぜ。と親には聞こえないよう呟く。
献立が毎日変わる給食にはそれ以上の価値があると思うんだが・・・
「まあ、いつか俺の言いたいことも分かるだろうさ」
「うー・・・あっ、キョンくん。早くしないと遅刻しちゃうよ」
やべ。ただでさえ朝は余裕が無いってのに余計な時間を使ってしまった。
俺はさっき渡された弁当箱を鞄に突っ込み玄関へと駆け出した。
「キョンくんいってらっしゃーい」
「って、お前は今日当番なんだろ。ほら、早くしろ」
そんな感じでバタバタした朝は終わり、俺は学校へ辿り着き、やがて昼となる。
あいつも今頃給食か・・・残さずきちんと食べてるだろうかなどと思いつつ弁当箱を開いた。
さて、突然だが弁当の常連である卵焼きの扱いについて語ってみようと思う。
俺はどうもこの甘ったるさが他のおかずと合わないので、全て片付けてから
最後の最後にようやく手をつけるようにしている。所謂デザート扱いだ。
当然今日も例外ではなく、俺の弁当箱には黄色いフワフワが鎮座しておられる。
何だかんだいって好きなんだ。だから親に止めてくれとは言わないのだ。
では、いただきます。
「・・・」
恐らく俺のベッドで漫画を読んでいたであろう妹がパタパタと音を立てて出迎えた。
「おかえりーキョンくん。ね、ね、お弁当どうだった?
あたしねー、おかーさんのお手伝いをして卵をかきまぜたんだよー」
ほう・・・
満面の笑みで得意げに、思い切り胸を張る妹を俺は怒る気にもなれず、
家庭科の調理実習で塩と砂糖を間違えて恥をかかないことを祈った。
なお、夕食のハンバーグを半分奪ったことはいうまでもない。