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気分はもうタンデミングダンディー
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気分はもうタンデミングダンディー、
―――真っ赤な太陽目指すのさ。
満月にネジを巻いて三日月にした後で今が世界の危機だと気付き、とりあえず練馬区あたりを救おうと邪神を呼び出す事にした。
拍手をタンタカタンタとドナドナのリズムで打ち鳴らしながら町内を一周、一輪車でバック運転しつつ太陽を目指す。町から一歩でも出たらインドが滅びるのだが、一輪車なら問題ない。ブラボースマトラ島。
ふとアクロバティックな姿勢で横を見るとハルヒがピンポンダッシュしながら、軒先にテルテル坊主を逆さまに吊り下げながら、裸足スキップで町内を歩いていた。
そこで俺は気付いた!
『ピンポンダッシュ』でも『テルテル坊主』でも『裸足スキップ』でもなく、俺が今アクロバティックにあいつを見た事に意味があるのだ。
何と! あいつはどうやら俺を使って四国を救うつもりらしい。あまりのスケールの大きさに感動したのでとりあえず一輪車で轢いておく事にする、グリグリ。グリとグラって食べると美味しいのかな?
おお、知らない間に世界の中心、自分一人になった気がする、そんな深夜の夜明け前。
『寂しい』とか『楽しい』とか、自分の右手と会話しながら、あの太陽を目指すのさ。
言いながら指す、俺の指先に、逆さに吊られたテルテル坊主。
やり場のない怒りに我を忘れて、民家に向かって華麗なドリフトを決めつつもう一度ハルヒを轢いておいた、ガリガリ。アイスが食べたくなった。
気分はそうさタンデミングダンディー、
―――深夜の宵闇を走るのさ。
町内を3周したと俺が感じたところでやり方が間違っていた事に気付き、農協あたりに軽く絶望した。
俺は、はるかさっきのあの時、右側のペダルを踏み込まなければならなかったのだ!
このままでは世界が救われてしまい、邪神が呼び出せなくなってしまう。
駄目だ! 邪神が呼び出されなければ世界の危機じゃないか!
だがみんな心配するな。俺には心強いかもなあってフィーリングの仲間がいる。
そこでさっき朝比奈さんと長門が融合して古泉になった事を思い出して萎えた、バッドフィーリングだ。
そこで俺は気付いた!
『バッド』で気付いたのではない。『フィーリング』で気付いたわけでもない。『ッドフィ』という響きが俺にそれを気付かせたのだ。素晴らしきかな、カタカナ文化。
そうなのだ。
やはり、俺にはハルヒしかいないのだ。
そしてそのハルヒはさっき何故か道路の上で痙攣していたはずだ。
それを思い出した俺は、民家に飛び込み寝ていた大型犬の口を無理矢理開いて、その中にハルヒへのメッセージを残す事にした。
おお、はるひよ。ねむってしまうとはなさけない。
気分はいつもタンデミングダンディー、
―――犬に咬まれても心は錦。
犬に咬まれたのは軽症だったのだが、いきなり顔見知りの女性に殴られて俺は意識を失ってしまった。
殴られてもしもバカになってしまったら如何してくれるんだ! プンプン、………ところで、今って何時だろうな?
そう思い、確認ついでに損害請求を賠償するために裁判所を雇おうと目を覚ましたところで隣にハルヒがいる事に気付く。
そこで俺は気付いた!
が、今はどうでもいいのでスルーする。
とりあえず俺は大至急陪審員に立候補する必要があるのだ。駄目ならペットフードを作る人でもいい、その場合は至急だ。急ぐに至る、キミの町まで、高速道路を走るのさ。
………一輪車で。
どちらにせよ急がば回れな必要性があるので、まずは手ごろな民家のチャイムを鳴らし、選挙運動を開始する。
ピンポーン。 ………はい、どちらさまでしょうか?
ゲゲゲのゲッツ! と心の奥底からの自己主張。
気分はだけどタンデミングダンディー、
―――心の奥に封じた想い。
どうやらそのチャイムは異空間と繋がっていたらしい。
今、俺の周囲は一気に氷河期だ。凍りそうな体、凍りそうな心。ブルブルブー、マンモス!
そこで俺は気付いた!
『ブルブルブー、マンモス!』という台詞は俺にしては珍しく意味がない、………という事ではない。
草木も眠る都会の一角。11月のクリスマス。全てが凍りつき熱を失くす中で、一つだけ、いや、一人だけ、熱を発する存在があったのだ。
―――ハルヒだ。
なるほど、どうやら彼女こそが、俺の太陽だったらしい。
感動のあまり一輪車で彼女を轢く、ゴリゴリ。知ってるかい? ゴリラの先祖って、アレなんだぜ!
ついに動かなくなってしまった彼女だが、それでも熱は確かに発せられていた、マーベラス! そう、それがゴリラの先祖なのだ!
そして太陽に辿り着き、練馬区を救う事に成功した俺は、次に絶滅寸前のトキを救うために新たな星を目指すのであった。
あ、この一輪車、一人乗りだった。すまん、やっぱりヤンバルクイナを救う事にするよ。
そう決めて、最後にもう一度だけ彼女を轢いておく事にする、ギリギリ。そういや最近、妹の歯軋りがうるさくて眠れない。………もう一度だけ轢いておくか。
ターン、という間抜けな音とともにブラックアウトする視界を抜けて、心だけが一輪車に乗って夜の闇の中に漕ぎ出していった。
―――よかった。今度はちゃんと、前向きだ。余所見運転は事故の元だからな。
気分はそしてタンデミングダンディー、
―――冥王星まであと何メートル?