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気分はもうタンデミングダンディー〜オルタナティブ〜  
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 気分はもうタンデミングダンディー、  
  ―――真っ赤な太陽目指すのさ。  
 
 
 ああ、太陽だ。  
 それが、涼宮ハルヒを初めて見た時、古泉一樹が思った事であった。  
 そしてその瞬間、彼の運命は決定したのだ。  
 すなわち、決して手に入らないものを、それでも守り続ける、という運命が。  
 さて、運命に殉じた生活といえば聞こえはいいが、現実とは厳しいものである。  
 『機関』の仕事は表に出て良いものではない。その全てが裏から裏、世界の闇、夜の世界へと葬り去られていく。  
「そこはわたし達の仕事場です。あなたは目の前の神人を倒す事だけに集中しなさい」  
 『機関』内で彼が最も信頼する女性、森園生はこう言って一樹が夜の世界に入ろうとするのを拒み続けた。  
 それは、目の前の子供に対する、何も出来ない大人からの贖罪であったのだろうか?  
 どちらにせよ『現実』がそんな甘さを許すはずもなく、一樹もまた自らの手を汚す事になったのではあるが。  
 その時に一度だけ、園生は一樹に謝罪の言葉を告げ、一樹はそれを告げたことに対し初めて本気で彼女に怒った。  
 彼女の気持ちは彼女にしか分からない。だがまあ、それ以降、園生は一度も謝罪の言葉を口にしていない。………裏で行動はいろいろと起こしているようだが。  
 そんなわけで、一樹は夜とも朝とも付かない宵闇の世界を、彼女とともに『彼女』のために、走り続ける事になったのである。  
 
 
 気分はそうさタンデミングダンディー、  
  ―――深夜の宵闇を走るのさ。  
 
 
 『そして今まで、走り続けてきたわけですか』と、最後の戦いを終えてから、一樹は今までの事を回想していた。  
「………古泉」  
「やあ、森さん」  
 何かをこらえるような無表情で一樹の方を見る園生は、はっきりと一樹に告げた。  
「あなたは、ここまでですね」  
 そうだろうな、と一樹は思う。なんせ、内臓がごっそり持っていかれていて、もう痛みどころか感覚すらない状態なのだ。  
 長門有希は消え、朝比奈みくるは帰還し、そして自分はおそらく死ぬ。  
 だがそれでも、『彼』と『彼女』は、どんな形であれ、残ったのだ。  
 それなら、周りから見てそれが悲劇であったとしても、一樹に後悔は、ない。  
 そうやって、自分の走り続けてきた道を振り返った一樹は、最期の最後でようやく、自らとともに走ってきた存在に目を向けた。  
 目の前の園生は謝罪の言葉を、後悔の涙を必死で堪えている。  
 それをさせているのは自分だと感じ、申し訳なく、ありがたく、思う。  
 森園生は笑わない。  
 それでも、だから、古泉一樹は笑う。  
 これが自分だから、と。  
 これが『彼女』の望んだ自分だから、と。  
 そして、これが彼女とともに在った自分なのだから、と。  
 意味なんてなかったとしても、自分の生きてきた道を、関わってきた人を否定するような真似だけはすまい、と。  
 
 
 気分はいつもタンデミングダンディー、  
  ―――犬に咬まれても心は錦。  
 
 
「最期に何か、言い残す事は?」  
 そんな一樹を誰よりも理解していたから、だから園生はそれだけを聞いた。  
 一樹は考える。  
 自分の事を。  
 ―――何もない。  
 彼女等の事を。  
 ―――もう伝えてある。  
 友人である『彼』の事を。  
 ―――ありがとうございました。  
 太陽である『彼女』の事を。  
 ―――あ、でも、最後に、  
 自分の目の前にいる彼女の事を。  
 ―――願い事を、一つだけ。  
 最期に言いたい言葉、目の前の彼女に向けた言葉を思いついた一樹は、しかし、それとまったく別の言葉を、彼女に告げた。  
「涼宮さん達を、よろしくお願いします」  
 それが彼女の生きる、自分の生きた、その意味になってくれれば、と、一樹は祈る。  
 結局、一番言いたかった台詞は、このまま持って行く事にしたようである。  
 
 
 気分はだけどタンデミングダンディー、  
  ―――心の奥に封じた想い。  
 
 
「分かりました」  
 軽く請け負う園生ではあるが、一樹の頼みはそんなに簡単なものではない。  
 『鍵』であった少年は度重なる情報負荷に精神を病み、『扉』であった彼女は力が消失したため『絵に描いた扉』となり、長門有希、朝比奈みくるといった事情を知りつつ手助けをしてくれそうな存在はもうこの世界、この時空には存在しない。  
 『機関』のフォローも『思念体』のバックアップも『未来人』の手助けもなく、力を失ったとはいえ世界から注目される存在である『彼』と『彼女』の面倒を見る。  
 それは、誰もが避けて通ろうとする、茨の道であるだろう。  
 それでも、園生は迷う事なく、告げる。  
 それが、一樹の生きた証になると、信じて、告げる  
「フォローアップから最期の幕引きまで、『森園生』の名にかけて、お引き受けいたします」  
 その言葉を聞きながら、一樹はもう開く事がないであろう目を閉じた。  
 『最期の幕引き』という言葉とその時に見せられたベレッタが少し気になったが、それはもう、今の自分にはどうしようもない。  
 それに、『機関の彼女』ではなく、『森園生』が請け負ってくれるというのなら、一樹に疑う理由はない。  
(結局、太陽には手が届かなかったなあ)  
 そう思い、それとは別の事を想いながら、一樹はこの世界での意識を手放した。  
 うすぼんやりと消えていく、最後の想いのひとかけら。  
 もしも生まれ変われるならば、次はどの星を目指そうか?  
 
 
 気分はそしてタンデミングダンディー、  
  ―――冥王星まであと何メートル?  
 
 
 
 

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