なぜ俺たちの関係がここに至ってしまったのか――。  
 
 今時こんなに作動音を立てるエレベーターも珍しいと年代を感じさせる階数表示をぼんやりと眺めながら、今更ながら何をと呆れ返る自己を制して、今一度真剣に考えてみた。  
 奇蹟と呼ぶには余りにふしだらでおこがましく、だが天文学的な数字が分母に来るくらいに低確率な事象であることには変わりなく、数多の偶然が重なって幾千の障害を乗り越えて辿り着いてしまった俺たちの関係だった。  
 ……なんだか切り出しが大河ドラマのような語り部仕立てになってしまったのはまったくの不可抗力だぜ。  
 実際スケールそのものは負けちゃいない。こっちは歴史どころか時空を超えてるんだからな。  
 世界改変あり、時間遡行ありの大立ち回りだった。死線を潜り抜ける修羅場もあったしな。映像に取り込めばそこそこに見所あるフィルムが出来上がったんじゃないだろうかね。  
 …………まぁ、死線っつっても金塊をミクロン単位の薄さに箔打ちするように平たく言えば、死なない程度に酷い目にあったりした、って事で、修羅場は命の取り合いというよりは主に俺の取り合いってのが講釈なんだが、そこは多くを語らずが華というもんだろう。  
 そこに目をつぶれば、あと決定的に違うのは心震わす感動があるかないかくらいなもんだ。言うまでもなく俺たちのはない方だがね。  
 
「なんかドキドキするわ。初めて遊園地に来たような気分なのよね」  
 
「異様に縦長で階段が野外の非常階段しかない違法建築や、点検が行き届いてるとは思えない老朽化したエレベーターはどうにも馴染めそうにないけれどね。お互い気分が高揚してるのはきっと背徳と不安に心煽られているからじゃないかな」  
 
 俺の両隣で佇むハルヒと佐々木がそう言いながら所在なさげに辺りを見回す。落ち着かないのは分かる。うらびれた雑居ビルと何ら変わりのないこの雰囲気じゃ無理もないぜ。  
 
「キョン、知ってるかい? こういう負の心理体験を共有した者同士は無自覚のうちに絆が深まるそうだよ。『つり橋効果』というやつさ。もし、ここの経営者がそれを狙ってこんな演出をしてるとするなら、それはとても面白い話だと思わないかい?」  
 
 佐々木よ、俺は今考え事をしてるんだ。分析や感想を述べるのは自由だが俺に振ってくるのは遠慮してくれ。  
 
「なに格好つけてんのよ。どうせロクでもない妄想がめくるめくる炸裂しちゃってるんでしょ?」  
 
 佐々木を諭したのも束の間、今度はハルヒがとんでもない偏見を押し付けてきやがった。  
 なんてことを言うんだお前。  
 肘でピンポイントに肋骨の一番下を小突かれる形になり、非難の一言でも投げかけてやろうかと視線を下げると、迎え撃つように悪魔のような含み笑いが在った。  
 お前のそういう顔を見ただけで危機感を感じられるようになったのは悲しい条件反射だな。  
 見なかったことにしようと無視を決めこもうとすると、間髪入れずに左側から声がかかった。  
 
「キョン、それは聞き捨てならないな。本当にそうなのかい? 差し障りがなければ僕にそのめくるめくの内容を教えてくれないか? 可及的逐一詳細に希望するよ」  
 
 追及しようとしても無駄だっつーの。無い袖は振れん。  
 あらぬ疑惑をかけられて慌てて振り返ると、案の定佐々木は狙ってやったらしく長い睫毛を震わせてくつくつと笑っていた。  
 ……ちくしょう、一瞬でも本気で焦ってしまった自分が情けないぜ。  
 レトロなエレベーターは上昇速度が相当遅いらしく、ノロノロと階数ランプを右に移していく。  
 俺たちの部屋は802号室だっけか? 最上階じゃないか。  
 しばらく時間がかかりそうだなと思考を戻そうとしたその時、不意に左腕を柔らかいモノにくるまれた。  
 
 まるで俺の腕を抱き枕にするかのように目をつぶって、佐々木がしなだれ掛かるように身を寄せてきていた。  
 信じられないくらいに白くキメ細かい柔肌と控えめながらも十分に肉感のある胸の感触が半そでから出した素肌に直に伝わってきて、考え直そうとしていたことがまるごとぶっ飛んだ。  
 頭の中で繰り返されるのは、「低反発素材なんぞお呼びじゃねぇえぇぇ――――!」のシュプレヒコール。……分かったから、ちょっと落ち着け俺。  
 なんとか理性の手綱を手繰り寄せようとするが、追い討ちのように襲ってきたのは今度は右サイドからの圧力だ。  
 何をそんなに対抗する必要があるのかハルヒが倣うように身体を預けて寄り添い、入学当初から比べて格段にサイズアップした胸を押し付けてきた。  
   
「ここをこんな風にしてちゃ何言っても説得力ないわよ? 素直になりなさい。……そうしたらさ、……あ、あんたのそのとんでもなくイヤラシイ妄想を、っ、全部現実にしてあげるから」  
 
「――――っ!」  
   
 ビクリと俺の身体が脊髄反射で撥ねた。ハルヒのやつがためらいながらもいきなりに俺の股間に手を這わせてきやがったからだ。  
 インフルエンザでも患ってるんじゃないかと疑いがかかるくらいに顔が紅い。なんか佐々木を意識して無理しているような感じだな。そんなに照れるくらいならやるなっての。  
 俺の妄想がどうとか言ってるお前のが勘違いが先走ってるぞ。  
 そうツッコんでやりたかったが、自分を疑うことなど露知らず挑戦的な強い眼差しを突き刺されて封殺された。  
 佐々木に中てられて早くも半勃ちになっていた眠気まなこの愚息がこんなことをされて黙ってるはずがなく、ムクムクと本格的に起き出してくる。  
 
「わっ、また大きくなった。このエロキョン」  
 
 生理現象なんだよ。恥女も顔負けのことをやらかしといてエロ呼ばわりとはどういう了見だ?  
 
「どうやら涼宮さんの指摘は図星みたいだね。実に息子さんは正直だよ。頑なな親御さんとは大違いだ。もっとも『かたい』って意味では親譲りみたいだけれど……ね」  
 
 そんなことを言いながら佐々木も左側から手を伸ばしてきた。  
 上等な言葉遣いで一瞬何を言ってるのか見失ってしまうが、よく噛み砕いて理解すりゃその実は低俗なオヤジギャグとなんら変わりのないことに気づかされる。  
 何かの間違いかと目を剥いて左に首を傾けたが、すぐに顔に出るハルヒとは対照的に佐々木の表情はまったく動いていない。面だけ切り取れば教室でクラスメートと談笑中ですと胸を張って偽れるくらいに、可憐で涼しげなままだった。  
 水面下で動いている手つきはねちっこくてむしろハルヒよりもいやらしいくらいなんだがな。  
 そんなギャップを意識すると俺の胸の奥で熱いものがじわりと熾る。  
 ズボン越しに2つの手でいいように弄ばれて、俺の愚息は息つく間もなくギンギンに仕立て上げられてしまった。ブリーフの中は早くも我慢汁でペトペトになっちまってるかもな。  
 愚息のアップが完了したのと同時に、エレベーターが止まって8階の扉が開いた。  
 右側の拘束が解かれる。  
 扉が完全に開ききる前に廊下に一番乗りで飛び出したハルヒは、キーホルダーを鳴らしながら一目散に部屋へと駆けていった。  
 やれやれ、いかにもやりそうだと思っていたら本当にやりやがった。いい歳こいて走るんじゃない。誰かに見られたらみっともないだろうが。  
 さんざ気を持たされた息子も「ヤル気にさせといてほったらかしていくんじゃない」、と抗議を申し立てたが、こちらには即座にフォローが入る。  
 
「大丈夫。お愉しみはすぐそこで待ってるよ」  
 
 何もかもお見通しの佐々木はまるで小学生の男の子を宥めるかのような手つきで愚息を撫でた。  
 そしてそっと背伸びをして俺の耳元で囁くように付け加える。  
 
「今日はこの中に溜まってるキョンの精液が尽きるまでしよう――――、ね?」  
 
 少し掠れたような声と、熱い吐息が耳朶を打って俺の身体が震えた。武者震いってやつだろうか。どちらかと言えば今のは不覚にも感じてしまったからかもしれない。いずれにせよ俺の心身が興奮のるつぼに肩までどっぷり漬かっていることは確かだね。  
 花に惹かれる蝶のようにふらふらと安っぽい赤絨毯が敷かれた廊下への一歩を踏み出す。  
 少し前の冷静な自分はどこへいっちまった? いつの間にか2人のペースに巻き込まれて乗せられてるな。  
 
 最早定番のパターンだと分かっちゃいるのに抜け出せない自分が嘆かわしい。どこかのスナック菓子のキャッチフレーズのようなハマりっぷりだ。  
 ここまで考えて冒頭の自問の解につながることを自覚した。  
 
 そうか――――、なぜもなにもなかったな。  
 
 こうなっちまったのは全部この俺の不甲斐なさのせいなんだから。  
 ハルヒと佐々木、結局最後の最後までどちらも選べなかった俺のどうしようもない優柔不断さが根源にある。  
 今回の件、言いだしっぺはハルヒとはいえ、3人でするなんてことになっちまったのは俺ありきのことなんだよ。  
 我ながら情けない未来を拓いちまったもんだ。痛烈に批判されても然るべきで、弁解の余地もない。  
 世界が終わっちまうよりは幾分マシな選択だっただろう、なんて言い訳にならねぇな。  
 自業自得ながら学生の分際でこんな爛れた男女関係を、外堀が埋められる前の豊臣大阪城のように堅固に築き上げてしまっていいのかという不安はある。  
 あっという間に最終学年の半分が過ぎ去ってしまった。  
 年が明ければ受験本番だぞ? こんな風にサルみたいにヤリまくってて大丈夫なのか俺の人生。  
 これからのことを思えば思うほど頭が痛くなるばかりだが、すっかり焚きつけられちまって俺は佐々木に手を引かれるままだ。あるはずの歯止めはバカになっていた。  
 ここまで来てしまった以上やっぱなしとか――――、ないよな。2人の気持ちとか、お膳立てとか、俺の甲斐性とか、色々な意味でない。  
 やっぱり進むしかないんだよ。と自分に言い訳しながら今日も俺は流される。  
 早くも入室を済ませてしまったのか、なにやら騒ぎ立てているハルヒの歓声を遠くに聞きながら、俺は内心初めてのラブホと3Pに胸を躍らせてしまっていた。  
 
//////////  
 
 部屋は予想していたよりもずっと馴染みのある内装だった。ここにくるまでの造りが今ひとつどころじゃなかっただけに安堵したぜ。部屋のリフォームと維持だけで手一杯なのかと経営状況を邪推する。  
 人工大理石がトップの洗面台がホテルちっくなのと、床面積の大部分を大きなダブルベッドが占めていることを除けば、フローリングアパートの一室とほとんど変わりがない。ちゃんと靴を脱ぐ玄関もあるしな。  
 ハルヒはベッドの真ん中で尻をつけて正座するような、女子特有の座り方のままスプリングを撥ねさせて遊んでいた。  
 
「一目見たときボロいからちょっと不安だったけど、内装はしっかりしてるのね。掃除も行き届いてるし。さすが佐々木さんが選んでくれただけのことはあるわ」  
 
「友人のつてを頼って教えてもらったのさ。私たちみたいな学生でも使えるこういうホテルはこの辺りではここだけみたいよ」  
 
 進学校に通うお前さんの友人がこういう情報に明るいとは少し意外だったけどな。  
 
「キョン。それはいささか見識が浅いな。猛勉強の反動故かこういうことでガス抜きをする人たちは少数派ではないんだよ。  
ほら、普段勤勉で真面目な人ほど性欲が強かったり、異常な嗜好を持ち合わせてたりするのはよく聞く話じゃないか。それと通じるところもあるんじゃないのかな」  
 
 なるほどね。相変わらず筋の通った論理展開だ。  
 だが、まるで他人事のような口ぶりはいただけない。もちろん自分もばっちりその例に当てはまってることの自覚した上で言ってるんだろうな?  
 
「不満を言うつもりはないんだけど、ちょっと拍子抜けのところもあるのよね。こういうとこ特有の設備が全然見当たらないじゃない。ガラス張りのバスルームとか! プールとか! 回転ベッドとか! 愛のゆりかごとか!」  
 
 テーマパークにアトラクションがないといったノリでハルヒはまくしたてる。  
 ったく、ちょっとは恥じらいってもんを見せてくれよ。  
 
「そんなもんがこの料金で揃ってるわけないだろうが。3人までなら追加料金も取らないようなとこだぞ。贅沢いうんじゃない」  
 
 現実を諭されてハルヒは口を尖らせた。「むー」と唸りながら駄々をこねるように乱暴に身を跳ねさせる。  
 
「逆に考えたらどうかな。この雰囲気ならまるでアパートに3人暮らししてるような気分になれるじゃないか。僕個人としては同棲は憧れるんだけどな」  
 
 そう言いながら前に回りこんできた佐々木が下から覗き込むように俺を仰ぎ見る。  
 桑染色をした穏やかな色彩の瞳には、少し不釣合いなくらいに燦々と煌く輝きが灯っていた。  
 こんな目どこかで、と思えばなんのことはない。とどのつまりこいつら表裏正反対で本質は一緒ってことか?  
 
「ねぇ? キョンもそう思わない?」  
 
 口許に手をやって半開きになった唇から舌を覗かせて、上目遣いにこちらを窺ってくる佐々木は……、文句なしに男の本能直撃で治まりをみせていた欲望に再び火が点いた。  
 何年も前から知ってるくせに、こいつがこんなにも愛らしくて可憐だったと気づけたのはほんの最近だ。  
 この過失はごめんなさいくらいじゃ済ませられねぇぞ、数年前の俺。  
 抱きしめたい衝動に駆られるままに、俺は両腕の中に華奢な身体を強く納めた。  
 瞬時に佐々木がキスをせがんできたのでそれに応える。  
 
「ちゅっ。んむっ、あむっ、んんん……、ぴちゅっ、れるれるれる、んんっ」  
 
 数分前の余裕に満ちていた様子からは想像を絶するほどの激情が唇越しに伝わってきた。  
 少しでも接触面積を増やしたいのか、音を立てることをまったく厭わずに強く押し付けながら一心不乱に舌を絡めてくる。  
 そう、ここ数ヶ月で分かったことだが、情事のとき佐々木は激しく乱れるんだよ。それこそ人格が切り替わったんじゃないかと疑いがかかるくらいにな。  
 
「んんんんんっ、っちゅっ、ちゅっ、ちゅっ……、はぁっ……、キョン、もっと強く抱いて。切ないの……。んむっ、れるっ、んちゅっ、ちゅるちゅるちゅる」  
 
 そしてユニセックスな言葉使いをどこかにしまって、こんな風に女言葉を披露する。一人称も僕から私に変わってしまう。  
 性欲を本能とするならこっちが本当の自分ってことなんだろうな。  
 そんな分析は差し置いて、こんな風に切羽詰まった様子で求められてとぼけてられる野郎なんていないだろう。  
 あまり強くしすぎると本当に折れてしまうんじゃないかと思えるくらい細い腰に腕を深く回してそっと引き寄せる。  
 そうすると佐々木の眉根から少し力が抜けた。さて、キスに本腰をいれようかとしたそのとき、  
 
「コラッ! 二人だけで盛り上がるの禁止! いつまでも突っ立ってないでこっち来なさいよ」  
 
 寸でで待ったがかかった。  
 横目を流すとベッドの上で我らが団長様があぐらをかいて鎮座し、腕を組んでむくれていらっしゃる。  
 流石に無視することはできず、キスに没頭して吸い付いて離れようとしない佐々木をやんわりと引き離す。  
 名残惜しげに「あっ」と漏れそうな顔が在った。  
 
「続きは向こうで、な」  
 
「……うん」  
 
 そんな顔をするなよ。と言いかけたが、なにやらエレベーターに居たときと立場が逆で噴出してしまいそうで止めた。ここで笑っちゃ雰囲気が壊れちまう。  
 しおらしくなってしまった佐々木の背を軽く押してベッドの縁までやってくるとハルヒが迎える。  
 俺を挟む形でベンチのように3人並んで腰掛けた。  
 普通ならシャワーを浴びてからってところだが、今回は示し合わせて家で風呂に入ってきていた。  
 佐々木曰くこのホテルはバスルームが狭くてしかもシャワーしか付いてないのが最大の欠点らしい。  
 学生の悲しい金銭事情により今回は宿泊じゃなくてご休憩なため時間も限られてるってことを受けての2人からの提案だった。  
 こんなときまでしっかりと事前計画を立ててくるお前らに脱帽するぜ。  
 
 改めて妙に感心してると、ハルヒが膝に手を乗せてきた。しっかりモードが切り替わって潤んだ瞳で斜交いに俺を見上げてくる。  
 
「キョン。あ、あたしにも……して」  
 
「……ああ」  
 
 言ったは良いが少し恥らうように俯いてしまったハルヒのおとがいをクイと上げさせて、そっと口づけた。  
 そのまま動かさずに唇を合わせるだけの長いキスをする。  
 上薬でも塗ってあるんじゃないかと思うくらいに滑らかで艶やかな唇の感触を堪能しながら俺は考えを巡らせる。  
 これがまたおかしな話なんだが、普段姦しいハルヒはこういう雰囲気になると借りてきた猫みたいに大人しく消極的になるんだよ。  
 証明して見せるわけじゃないが、まぁ少し見ててくれ。  
 試しに閉じた唇を舌でこじ開けて口内への侵入を試みると、ビクリと身を震わせておずおずと受け入れる。舌を差し込んで誘ってもハルヒは半端に引っ込めたままだ。俺が少し強引に舌を絡ませてようやく応えてくる。こんな始末だった。  
 拒否ったりせずに応えてくれるあたり厭ではないんだと思うんだが、実際のところは分からん。ただ佐々木と全く逆のリアクションだな。  
   
「はぁむっ、んんむっ、っ!! っちゅっちゅっ、んんれる、れるっ!! んんん……、るちゅっ、れちゅっ……、っ!!」  
 
 あくまでも舌を控えめに伸ばしてチロチロと先を走らせる程度のハルヒだが、こちらが攻勢に出て口腔を蹂躙するように大きく絡ませてやると、エレキテルによる電流療法を受けたみたいに大きく身体を振るわせる。  
 きっと口の中のどこかに性感のツボがあるんだろうね。  
 奥歯の裏側のどこかだと踏んでるんだが、まだはっきりと分かってないんだよな。  
 今日こそは探し当ててやろうかと意識を集中させようとしたとき――、腰の辺りに手が掛けられた。次いでかちゃかちゃと金属音が鳴る。  
 見るまでもなく佐々木の仕業なわけだが、さほど手間取ることもなくベルトが外されてあっという間にブリーフを露わにされてしまった。  
 愚息はすでに臨戦態勢で下っ腹に付かんばかりに怒張していた。下着の緩い拘束でさえ窮屈と思えるくらいだ。  
 
「ああ、こんなに熱く猛って……、脈打ってる……。ふふっ、心なしかいつもより逞しくなってるね」  
 
 陶然と呟きながら佐々木は生地越しに愚息に手を這わせてきた。手のひらをあてがってブリーフに一物の形を浮き上がらせるように竿を撫でて、時折細い中指の腹を絶妙の接触加減で睾丸に滑らせる。  
 堪らず息を詰まらせると気を良くした佐々木は一層手の動きを速める。一方、ハルヒは逸らされた俺の気を手繰り寄せるかのようにより腕の力をこめて強くしがみついてきた。  
   
「んむっちゅ、ちゅる、んっ、……もっとぉ、はむっああむっ、れるれるん、んん……、はぁっ、キョン……、好きぃ……」  
 
 息継ぎで顔を離した眼前には熱に浮かされたように頬を桜色に染めたハルヒの顔があった。どこか幼くなってしまったようなそんな印象を受ける。心の壁を崩して険が取れてるせいなのかもな。  
 それがどうにも愛しくて頭を撫でると、心底嬉しそうに目を細めた。  
 素直に『可愛い』と、平素の自分じゃ考えられないそんなボーナスワードが口を突いて出ようとしたその瞬間だった。  
 
 愚息を直撃した快感に台詞を奪われた。  
 奇襲一転、佐々木が攻めを先端に移してきやがった。指先で穿つように鈴口を執拗に弄んで、雁首に軽く爪を立てて敏感な箇所を引っ掻く。  
 
「――――っ! ああっ!?」  
 
 思わず声が出てしまった。慌てて佐々木を窺うと無駄の無い動きでベッドから降り、床に膝立ちになって俺の股の間に潜り込んできた。  
 
「そんなに気持ちよかった? ふふっ、カウパー氏腺液の分泌がすごいね。染みになってしまってるよ」  
 
 愉快満面に佐々木はそう言い放つと顔を近づけて、今度は下着越しに愚息を舌で舐め上げてきた。弱点は徹底的に攻めると言わんばかりに、舌先で何度も先端を弾く。  
 くそっ、気持ちいいけどこのままじゃいいようにやられっぱなしだ。  
 ふと横を向くとハルヒがすごい形相で睨んでいた。……分かってるよ。何とかするって。  
 砕けそうになっていた腰に力を戻して、俺は戦局を戻すために反撃に出る。  
 ハルヒの頭を抱き寄せて額と髪、耳にキスの雨を降らせた。遊んでいた右手をシャツの裾から進入させて豊かな胸を愛撫する。  
 一方佐々木に対しては膝立ちになっているふとももの間につま先ねじ込んで、ミニスカートの下から局部を足の指で弄くってやることにした。  
 
「……ふぁっ、あんっ、んっ……、キョン気持ちいいよ……、胸ももっと触って」  
 
「ひぁっ、あああっ、んっ! んむっ、れるれる、っちゅ、ずっちゅっ、んんっ……あっ! ひゃんっ!」  
 
 がむしゃらの攻めは思ったよりも効果的で、ハルヒを再び快感の渦に沈めて、佐々木から余裕を消すことができた。  
 しかしこれは諸刃の剣な部分もある。どうにも嬌声のアンサンブルは耳に毒で、聞いていると異様に気持ちが昂ぶる。  
 いよいよ理性のタガが緩んできて、黒い慾が競り上がってきた。抑えきれずに俺は邪魔くさいハルヒの水色のシャツをたくし上げる。ハルヒがその動きをいち早く察知してやり易いように両腕を上げてくれたおかげて何の抵抗もなくするりと脱げた。  
 燈色の照明の下に晒されたハルヒのボディーラインは何度見ても刺激的に写る。  
 ベジェ曲線で描いたような絶妙の腰のライン、張りがあって灯りを照り返すように光る肌、余分な肉の付いてない細い腕、そしてその腕で隠された奥に潜む立派に実った白桃のような胸。  
 無意識のうちにゴクリと喉が鳴った。  
   
「あんた今自分がどんな顔してるか自覚できてる?」  
 
 …………。  
 そりゃあお前、アレだろ。まるで網走名産のニポポのように欲の抜け落ちた柔和な――――、  
 
「ケダモノのように血に飢えたヤバい表情よ」  
 
 我ながら無理のあると思えたボケは案の定言い切らせてくれさえもらえなかった。  
   
「ポジティブにとらえてくれ。それだけ、その……、なんだ……」  
 
 ハルヒは僅かに身を寄せて俺の台詞を待ったが、この自分でわざわざ墓穴を掘り進めてるような気分はどうにもいただけない。  
 喉の奥でつっかえてる言葉は分かってるんだけどな。この素に近いシチュエーションで素直に口に出してしまうことが憚られるんだよ。  
「何よ、早く言いなさいよ」と無言で急かして来るハルヒの視線に困惑していると、その隙を急襲するかのようにブリーフに手が掛かって、愚息がひんやりと外気に触れた。  
 佐々木が愚息を引っ張り出していた。竿を握って反ってる方向に沿うように器用な手つきで扱き始める。  
 
 実に悦ぶやり方をよく心得ていて自在に俺の快楽を引き出していく。あまりの気持ちのよさに腰が浮くような感覚がした。  
 そしてさらに追い討ちをかけんと、手を休めずに愚息の先端にキスをして先走りを啜りながら咥え込んできた。  
 
「ちゅっ、ずちゅっ、ずず……んあむっ、ぢゅっ、じゅるるるるる――――」  
 
「うう……、っくっ!」  
 
 脳髄を突き抜けるような快感にうめき声が漏れ出る。  
 耐えるようにつぶった目から佐々木を覗き見ると、愚息を頬張りながら「んふふ」と微笑んでいた。  
 その瞳はえらく挑戦的で、ともすれば佐々木の虜になっちまったような錯覚に陥る。  
 ハルヒのために用意していたはずの言葉はすっかり脳みそから抜け落ちていた。  
 
「――――っ!」  
 
 と、鋭く息を呑む様な声を聞いて少し我に返ると、弾かれるようにベッドを離れたハルヒが視界に滑り込んできた。佐々木と並んで床にひざまずく。  
 
「ちょっと佐々木さん! なんかさっきから悪意を感じるんだけどっ!」  
 
 眉を跳ね上げたハルヒに詰め寄られても、さして動じもせずに佐々木はゆるりと俺の愚息を解放した。口許の唾液を拭って呼吸を整えてからハルヒと目を合わせる。  
 
「――っはぁっ……、それは言いがかりかな。私はキョンを気持ちよくさせたいだけ。夜伽の基本だよ。き、ほ、ん。そもそも、してもらうばっかりで自分を見て欲しいなんて虫が良すぎるんじゃない?」  
 
 ……佐々木よ、なんて恐ろしいことを言うんだ。そんな挑発をしたらハルヒがどうなっちまうのかお前も分かってるだろうが。猛獣の前に生肉をぶら提げるも同然の行為だぞ。  
   
「甘く見ないでよね、キョンはいっつもあたしにしてってせがんでくるんだから」  
 
「私とするときもキョンはたっぷり三十分はされるがままになってるけどね」  
 
 2人は必要以上に瞳に強い力を宿らせて視線をぶつけ合う。俺の息子の前で火花を散らすのはやめてくれ、そこはかとなく場違いな上に構図が間抜けなんだよ。  
 
「キョン! ズボンが邪魔よ。脚あげて」  
 
「ついでに腰も浮かせてくれない? ブリーフも無い方がいいと思うんだ」  
 
 いや、この状況でわざわざお前らにやってもらわなくてもいい。それくらい自分でやるよ。  
 勝負に使われる道具のような心地はお世辞にもいいものじゃないが、2人にしてもらえるという盛んな期待には抗えず、今は障害物としかならない下半身の衣服を全て取り払った。  
 煮るなり焼くなりの心境でドカッと腰を落として2人に向き直ると、変身した佐々木の姿に自分の目を疑った。  
 瞳に飛び込んできたのは一糸纏わぬ佐々木の上半身。シミ一つ見当たらないミルク色の肌とツンと上向いたバスト、そしてその頂点を彩る薄紅色の蕾に目を奪われた。  
 服は丁寧にたたんで近くの椅子に置かれていた。全く脱いでる気配が感じられなかったぞ。忍者、いや九ノ一かお前。  
 下半身にはミニのスカートだけが残ったいた。よく見りゃ椅子の上にはショーツがある。下着を脱いでなぜスカートだけ意図的に残したのかさっぱり見当がつかん。  
 そんな俺の反応が楽しいのか佐々木はくつくつと笑った。  
 ちくしょう。まんまと遊ばれてるようで気に食わんね。  
 ちなみにハルヒの衣服に変化はない。上着は俺が脱がしたので肌を晒していたが、ブラはつけたままだった。  
 しかし、それはそうと、なんて光景だ……、ミニスカートで半裸姿の2人の美少女が俺の前にひざまずいてるとは……、ね。  
 シチュエーションに圧倒されてしまって、愚息に更に血液が集まってくるのが感じられた。  
 無言の内に2人の顔が近づいて、行為は再開される。  
 
「っんちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、んれるっ、れるれる」  
 
「はぁ……、あぁっ、……ん、んっ、んっ……」  
 
 ハルヒが亀頭と竿にキスをして、佐々木が舌先で袋のシワを伸ばすように弄ぶ。  
 柔らかい舌や唇の感触もさることながら、断続的に感じる2つの熱い吐息が愚息を刺激する度に怒張が漲った。  
 
 正直、想像してたよりも遥かに気持ちいい。少しでも油断すれば暴発してしまいそうだぜ。  
 このまま2人にぶっかけて、そのアイドル顔負けの端正な容貌を思い切り汚してやりたい、俺の臭いをマーキングしてやりたい、といったどす黒い衝動が沸き立つ。  
 気の強い娘2人をひざまずかせて奉仕させているという征服欲が俺の理性をぐちゃぐちゃに塗りつぶしていた。  
 ハルヒは一旦口を離すと、俺に問いかけてくる。  
 
「キョン、この前『最高に気持ちいい』って褒めてくれたアレ……、やったげるね」  
 
「あ? ああ……。頼む」  
 
 と、夢うつつで頷いたものの直後に後悔する。背中が粟立った。  
 ハルヒは口をもごもごと動かして唾液を目いっぱい口の中に溜めて準備を始める。  
 さすがの佐々木も何が始まるのか分からず、舌の動きを止めてハルヒを見守った。  
 ヤバい。この状況でやられたら一瞬で出ちまうぞ!?  
 しかし俺が腰を引くのを待たずして、ハルヒは口を大きくあけると餌に食い付くように息子を丸飲みにしてきた。  
   
 くじゅぷっ!  
   
 と、口腔の空気が押し出されるような一際大きな音を立ててハルヒの口撃が始った。……始っちまった。  
 まるで俺専用にあつらえた様にハルヒの口から喉にかけてのスペースに愚息がピッタリと納まって、全体が柔肉に包まれ、僅かな隙もたっぷりの唾液で完全に埋めつくされた。  
 ハルヒは、大きく鼻で息を吸い込むと頬を窄めて頭を振り出す。  
 
 じゅぽっ、じゅっるっぽっ、じゅるじゅるっ、じゅぽっじゅぽっじゅぽっ――――。  
 
 淫靡な水音を響かせてハルヒはリズミカルに頭を振り、一心不乱に愚息を吸い立てる。  
 
「っあぁあぁぁぁ!? ハルヒっ! っくっ、うぅぅぅっ……」  
 
 我ながら随分情けない声をあげちまったが勘弁して欲しい。これは別格なんだよ。  
 苦痛と紙一重とも言える夥しい快感に俺はシーツを握り締めていた。  
 ハルヒがつい最近習得したディープスロート。『殿堂入りフォルダ』の中に保存していたエロ動画を盗み見られたのは迂闊だった。  
 いや、そりゃ俺だって嬉しくないわけじゃ――、  
 
 じゅるっ、じゅむむむっ、んじゅっぱっ、んんっじゅっ、じゅるるるっ――――。  
 
 ――などと悠長に言い訳している余裕などなく、あっという間に射精感が高まってきやがった。  
   
「っハルヒ! ……出るぞっ」  
 
 やっとの思いで搾り出したそれだけを聞いて、ハルヒの動きがラストスパートに入る。  
 時折、『グポッ』とか『ゴポッ』とか日常ではまず耳に入ってこないような異常な音が入り混じる。  
 溢れ出たカウパーとハルヒの唾液が混ざったような詳細不明のゲル状の白濁がハルヒの下あごでプラプラと揺れて、それが落ちるのが合図のように俺は欲望をぶちまけた。  
 
「――――っぷっはぁっ!」  
 
 愚息が膨れ上がる感触で計ったのか射精の直前で口を離したハルヒの顔に盛大に精液が降りかかる。  
 ハルヒは心底満たされたような穏やかな顔で目をつぶったまま全てを受け止めた。その間休みなく愚息を扱き上げて、一滴も残さず完全に搾り取っていく。  
 
 はあっ、はあっ、はあっ…………。  
 
 ろくすっぽ動いてないくせして息が上がっていた。やかましいくらいに鼓動が鳴り響いてやがる。興奮と倦怠感が尋常じゃない。  
 
 一段と気合の入ったハルヒの献身的なウルトラテクニックに翻弄されたせいか?  
 佐々木が傍で見ているアブノーマルなシチュエーションに高揚していたせいか?  
 とんでもない量を迸らせた反動でガタの来た身体が回復を要求しているせいか?   
 
 ……多分、全部なんだろうな。  
 
 目の辺りだけ拭って顔面にゼリー状の精液を貼り付かせたまま、佐々木に視線を移したハルヒは得意満面。対する佐々木はさっきから唖然となったまま身じろぎ一つできないでいたようだ。  
 
「どう? こんなこと佐々木さんにもできるかしら?」  
 
「…………驚いたよ。こんなすごい技を持ってるなんて、ね。挑発してしまったことを少し後悔してるくらい。……キョンは私には教えてくれなかった」  
 
 そう呟いた佐々木は俺と目を合わせた。その瞳には非難めいたものが漂っている。  
 
「待て待て。違うぞ? 俺が指導したんじゃない。こいつが自発的に練習やら研究なんぞをやりだしたんだ」  
 
「ちょっと! なによその言い草。あんたの意見だって随分取り込んだのよ。あんたに仕込まれちゃったのよ。こういうの何て言うんだっけ? そうっ、『開発』よ。あたしキョンに『開発』されちゃったってことなんだから」  
 
 ……くそう、後ろめたい部分が全くないとは言い切れないだけに言い返せねぇ。  
 ハルヒはいたく気に入ったらしく、やたらとその不健全な単語を強調する。  
 どうでもいいがそれって誇らしげに語ることなんだろうか。  
 佐々木は憮然としたままそれを見守っていた。  
   
「ふっふーん。でなきゃ、こんな風に上達できるはずないじゃない。それにしてもすっごい量ね。今までで一番多いかも。……匂いが濃いわ。粘り気もすごいし、ほら糸まで引いてる」  
 
 こらっ、生々しい感想をつらつらと実況するんじゃない。  
 つーかいつまで顔面に引っかけられたものをプルプル震わせてるんだよ。  
 いい加減顔を拭けと、俺は枕元にあるティッシュを取ろうと身を捩ろうとしたそのときだった。  
 
「んちゅっ」  
 
「っさ、佐々木さん!?」  
 
 目の前の展開に脳の理解が追従しない。  
 何を思ったのか佐々木がハルヒの頬の輪郭に舌を伸ばして、垂れ下がった白濁を掬い取るように舐めていた。  
 
「んあむっ、っちゅ、ちゅっ……、ちゅっ……、んくっ、んっくっ、……、ちゅぷっ、んっ……んむんっ」  
 
「ひゃん!? え? えぇっ!?」  
 
 見てる俺が動けないくらいに錯乱してるんだ。いわずもがな当事者のハルヒは目を白黒させたまま戸惑いまくっている。  
 顔の周辺部に付着した精液をあらかた啜り取り終えた佐々木の舌先は、徐々にハルヒの顔の中心部へと向かっていた。唇の真横で塊になっていたモノを吸い上げた瞬間、妖しい雰囲気を感じ取ってまさかと奔った予感が的中する。  
 夢でさえ見たことのない展開が次に待っていた。  
 金縛りにかけて身動きを封じるに乗じて、なんと佐々木はハルヒに口づけてねっとりと舌を絡め始めたのさ。  
 ハルヒは目を見開いて少し抵抗の意を表したが、生半可でない佐々木の舌技によってあえなく攻略されてしまった。  
 くちゅくちゅとやたらと淫らな音が耳につくと思えば、2人の舌先で俺が放出した白濁が唾液と混ざって糸を引いていた。卵白のように泡だった精液をお互いの舌の上で踊らせる様は、これ以上になくエロチックで、勢いを失っていた愚息が反応してしまう。  
   
「はぁっ、んちゅぷっ、……ちゅぷっ」  
 
「ふぁむっ、はぁむっ、んんぅっ……」  
 
 佐々木が口移しで運んだモノをハルヒが何度も喉を鳴らして嚥下する。息が続かないのか、飲みづらいのかしきりに苦しそうな表情をみせた。  
 初めて目にするハルヒと佐々木のレズプレイ。神々しくさえ思えてしまうほどの美しさに圧倒されて俺はただただ見入る。  
 五感が麻痺してるので正確には分からないが、2人は随分と長い時間をかけて濃厚すぎるディープキスを交わし終えた。  
 ハルヒを解放した佐々木の表情には完全に力が戻っていた。長い睫毛に縁取られた瞳を万華鏡のようにキラキラと光らせて、さも満足げに微笑む。  
 それに対して、  
 
「――――、っはぁ……」  
 
 と大きく息を吐いたハルヒの目は我ここに在らず。虚ろに視線を漂わせたままだらしない表情を浮かべていた。  
 こりゃあ完全に形勢逆転だな。  
 
「ダメだよ涼宮さん。ちゃんと一滴残さず飲まないと……、やっぱりなってないね」  
 
 離れ際にそんなことを言ってのけた佐々木は妖艶な流し目を寄越してきた。まるで獲物を狙う雌豹のような目で俺を強く射抜いてくる。  
 ここまで入りこんじまった佐々木は中々お目にかかれない。軽く戦慄さえ覚えるくらいだぜ。  
 佐々木はすくりと立ち上がって俺に近づいてくると、いきり立って脈打つ愚息を愛しげに見つめて手に取る。  
 顔を近づけたついでに軽いキスを交わした。  
 
「……涼宮さんは私が先でいいってさ。このまましよう?」  
 
 よくもまぁあることないことを、とツッコみたくもなるが、未だ放心状態のハルヒを見るにつけ前哨戦はどうやら佐々木の勝ちってことになるのか。  
 そんな風にちょっと、いや、かなり強引に自分を納得させて頷いた俺の腰の上に佐々木がまたがってきた。  
 
//////////  
 
「ああぁぁん、あぁん、んんっ、……はぁん、んんぅっ!」  
 
 佐々木の華奢な裸体が俺の上で踊るように跳ねる。  
 細い腕を俺の首に回して身体を密着させてくるせいで、ときおり俺の胸板を硬くしこった乳首が撫でる。佐々木はその度に感じてビクビクと身体を震わせつつ、俺の愚息を貪るのかように行為に耽っていた。  
 
「あぁぁっ、あああぁ、キョン、キョンっ! もっと、もっと激しくしてっ、奥まで突いてぇ!」  
 
 平素からは想像を絶するような高い嬌声、激しい律動、女の子してる言葉遣い、そして回り道をしない直情的な言葉はあまりに刺激的でそれだけで脳髄がイカれそうになる。  
 あの理知的な佐々木が理性をかなぐり捨て去って、獣に化けたように貪欲に俺を求めてくるんだぜ? 興奮しないほうがどうかしてる。  
 億尾なくぶつけてくる灼けつくような情熱に俺はただがむしゃらに応えた。  
 ベッドに腰掛けたまま、向かい合う格好で繋がる対面座位。佐々木が二番目に好きな体位だ。  
 
 前戯もろくにしてないのに佐々木の秘裂は挿入前からトロトロに濡れそぼっていて、あまりに気持ちの良い蜜壷の感触に挿入直後からいきなりギアはトップに入っていた。  
 ……ちょっとガッつき過ぎかもな。  
   
「キョン……」  
 
 佐々木が軽く胸を押して、潤んだ瞳で訴えかけてくる。  
 このまま後ろに寝ろってことか? と察して俺は仰向けになって佐々木を見上げる格好になる。佐々木が一番お気に入りの騎乗位への移行となった。  
 ちなみに好きな理由は、普段見上げてばかりの俺を見下ろしてじっくり表情を見ながらできるということと、一番感じるところに擦れることの2つらしい。  
 素っ裸にされてしまった俺に対して、佐々木はなぜか茶系のスカートだけつけたままという、相変わらずなんとも変態的な格好をしていた。  
 もちろんこうやって繋がる前に問い質したさ。それに対してこいつは、  
 
「しいて言えば着衣プレイの一環、かな。こうすると繋がっているところだけが隠れるようになるでしょ? でもこんなの簡単にめくれちゃうわけで……、そこがミソなの。フェチズムとチラリズム、両方に通じるところがあると思うよ」  
 
 などとよく分からないことを自信ありげに言い放った。  
 
「まぁ、やればきっと分かるから」と言われるままに始めてしまったわけだが……、これがまた予告通りになってしまった。  
 佐々木が俺の上で跳ねるたびにクチュクチュとイヤらしい音が鳴り響き、いやが応でも俺の聴覚はその発信源へと集中した。だけどもそこは短い薄布に隠れてしまってる。  
 その布地の奥でナニとナニがどうなってしまってるのか、そこはかと気になる。ひらすら気になる。  
 だが自分でめくってしまうのはあまりに無粋で情緒に欠けるような気がした。  
 穴を開けそうな勢いで視線を佐々木のスカートに釘付けにして、そんなもどかしさに苛まれていると、  
 
「ふふふっ」  
 
 と微かな笑い声を聞いた。顔を上げると見透かした佐々木のしたり顔。  
 
「んんっ、あああっ……、ああんっ、んっふふ、気になる?」  
 
 佐々木は喘ぎながら淫蕩に染まった目を細めると、自ら裾をたくし上げた。たっぷりと焦らすように必要以上にゆっくりと。  
 意図せずして俺の喉がゴクリと鳴る。  
 オレンジ色の薄暗い照明の元についに晒された結合部。薄い茂みの下方に在る佐々木の小さな秘唇に俺の愚息が痛々しいほどに食い込んでいた。  
 濡れそぼった俺の竿と佐々木の局部がぬらぬらと妖しい光を照り返してる様はとんでもなくエロくて、温暖化の煽りを受けた南極の氷床のように音を立てて俺の理性の一部が崩壊を起こした。興奮有り余って思わず腰のグラインドが乱暴になる。  
 
「きゃっん! んあっ、あああぁんっ、やぁっ、はぁぁん、激しっ、んんっ、ああぁぁん」  
 
「くっ、佐々木っ!」  
 
 ぱちゅぱちゅと腰がぶつかる度に溢れこぼれた愛液が飛び散る。  
 這い回るように締め付けてくる佐々木の起伏に富んだ秘肉の感触は夢心地に居るかのように気持ちよくて、下腹部が痺れて脊髄まで侵されるような感覚がした。  
 こうなると長くは持たない。  
 対する佐々木はまだ上り詰める気配はなく、瞳を閉じて口をだらしなく弛緩させたまま薄い胸をふるふると震わせて快感に身を委ねている。健気にも両手は裾を掴んだままだった。  
 ここで俺が果ててしまうのはあまりに情けない。  
 しかし熱い塊が確実に押しあがってきてるのが感じられた。  
 
 くそっ、なんとかならねぇのかっ!  
 そう観念しかけたとき――――、  
 
「――――っ! ぇあ!? ひゃぁあっ! やぁあぁぁぁ!」  
 
 規則正しかった嬌声のリズムを断ち切って、突然佐々木は目を見開いて身の毛をよだたせてながら叫ぶように喘いだ。  
 同時に蜜壷が収斂して搾り取られるような感覚が愚息を襲ったが、何とか歯を食いしばって耐え抜く。  
 何だ? 一体何が――、と前方の様子を伺うと、佐々木の背後から太ももをまたぐようにして腕が伸びている。その指先は的確に佐々木の秘所を捕えて、まるで知ってるかのような絶妙のさじ加減で秘裂の縁で硬くなったクリトリスを弾いていた。  
 一瞬怪奇現象かと見間違えそうになるが、佐々木の腰の辺りでぴょこぴょこと黄色いリボンが揺れているのを見てようやく事態を把握する。  
 説明するまでもなく正体はハルヒだった。  
   
「ちょっ、やぁぁっ、ダメっ、涼宮さんっ! そんなにしたら私っ、わたしぃっ!!」  
 
 再び感極まるような佐々木の声。火の手は俺にまで及び、  
 
「――――、くっ、ああぁっ!?」  
 
 漏れなく俺も声を上げる羽目になった。  
 どうやらハルヒのやつが陰嚢にキスをして吸い付いてやがるらしい。  
 ハルヒ悪戯はとどまらず、今度はチロチロと玉を転がされるような刺激に襲われた。何をやってるのかはまったく見えないが、きっと舌先でつつく様に舐めてやがるんだろう。  
 予期できないハルヒの愛撫は快感が五割り増しで、あまりの気持ちよさに金玉が竿の根元まで浮き上がる。  
 下っ腹に集めていた力が腑抜けになって、堤防が決壊するかのように一気に射精感が高まってきた。  
 ハルヒが操るままにぴったりと呼吸を合わせて俺たちは同時に上り詰める。  
 
「やぁぁっ、はぁぁぁんっ! イクっ、イクよぉ! イッちゃうぅぅうぅぅ――――――――!」  
 
 ビュクビュクと際限なく脈打って、薬で護られた佐々木の膣内に下から容赦なく白濁を噴き上げる。  
 魂を突き抜けるかのような快感にぎゅっと閉じた瞼の裏側で極彩色の光がチカチカと揺らいだ。  
 気持ち良すぎて声が出ないなんてことあるんだな。こんなの初めてだ……。  
 絶頂の残滓に酔いしれているところへ、糸が切れた人形のように佐々木が俺の胸に倒れこんできた。慌てて受け止める。  
 危ねぇ。おい、佐々木、しっかりしろ。  
 ペチペチと頬を叩いてみたが、酸欠の金魚のように呼吸だけでいっぱいいっぱいの様子だった。  
 息切れを起こしているのは俺も同じで、まるで体力測定の持久走を自己新を狙って無謀に走り終えた直後のような息苦しさに見舞われていた。  
 無碍に佐々木を押しのけることなんてできず、胸に抱いたままとにかく呼吸を整えんと深呼吸した。  
 
 だが、そんな俺の試みも空しく視界に割り込んでくる影。  
 
「お前な。何て不意打ちをっ、かましてくれたんだ。心臓麻痺を起こしたら、どうしてくれるんだよ」  
 
 憎さ余って絶え絶えの呼吸を縫って恨み節をぶつけてやる。  
 するとすっかり色を直したハルヒは少しも悪びれた様子も見せずに、  
 
「ふんっ、仕返しよ仕返し。だいたいね、あたしがおとなしく出し抜かれてたままでいると思ってるわけ?」  
 
 と言い放つ。それに関しては何のコメントもあるはずもない俺が黙りこくっていると、ハルヒは思い出したかのようにいっそう鼻息を荒げて続けた。  
 
「ったく、あーんな変態的な半裸えっちにノせられて興奮しちゃうなんて、あんたも単純なんだからっ」  
 
 …………とんだとばっちりだ。しかし事実なだけに言葉が無い。  
 一瞬さらに罵られることを覚悟したが、ハルヒはそこからは無言でただ熱い眼差しを仕向けたまま俺の出方を伺う。  
 アイコンタクト、なんて上等なもんじゃない。  
 猫缶を手に取ったときのシャミセンの目と似たようなもんだ。  
 とにかくどうやら俺の休憩はもう少しお預けらしいね。  
 やれやれと俺は丁重に佐々木を横たえると、本当に重いと感じる腰を上げてベッドの中央へとハルヒを誘った。  
 
 …………ところで、なんでお前靴下だけ履いたまますっぽんぽんなんだ?  
 
//////////  
 
 ハルヒをやんわりと押し倒して、その勢いのままキスをした。挨拶代わりに軽く舌をじゃれ合わせてスイッチが入るきっかけを作ってやる。  
 顔を離すとハルヒの瞳はか細く揺れていた。  
   
「一人のけ者にされるのって切ないんだからね。その分ちゃんと……、ちゃんと……」  
 
 分かってるっての。ちゃんと……、可愛がるよ。  
 照れを承知で言ってやる。ようやく言えた。いまの佐々木は邪魔立てできるような状態にないが、二度も阻まれただけに安い達成感さえあるぜ。  
 髪を撫でてやると強張っていたハルヒの表情が幾分和らいだ。それでも素直になれずに「……バカ」と呟いて無理やりに得意のアヒル口で唇を尖らせるあたりが実にこいつらしい。  
 俺はハルヒを両腕に抱いて、その意外に厚ぼったい唇を啄ばむようにキスした。  
 効果は覿面、すぼまった唇が雪解けのように柔らかく軟いでハルヒは俺を受け入れ出す。  
   
「ふぁむっ、はぁ……、んちゅっ、キョン……、目いっぱい、んあむっんっ、優しく……して」  
 
 舌を差し出すと待ち構えてたように纏わりつかせてきた。慌てず強すぎず、じっくりと互いの気持ちを確かめ合うような濃密なディープキスを終えると、ハルヒはトロンとまなじりを下げて頬から耳まで桜色に染めていた。  
 完全にモードが切り替わったサイン。  
 淋しい思いをさせちまったお詫びじゃないが、心行くまでサービスしてやろうとハルヒの好きなところを重点的に攻めることにした。  
 どうにも身体が気だるい。だが、ここでおざなりにするのは男として間違ってるように思えて俺は気負った。  
 手始めに耳に口づけて軟骨に沿って舌を滑らせてやると、身をわななかせてハルヒが甘く喘ぐ。  
 
 耳を弄びながら右手でハルヒの乳房を捏ねる。潤った肌は吸い付くような手触りで、片手ではとても収まりきらないボリュームのある胸が自在に形を変えた。こればっかりはいつまで触っていても飽きない自信があるね。  
 
「っ! ふぁあぁぁん、はぁん! んんんぅっ!!」  
 
 大声を出すのを恥らうように口許を結ぼうとするハルヒだが、押し寄せてくる快感の波には抗えず可愛らしい声が漏れ出る。  
 耳から顔の輪郭、首筋を経由して、鎖骨から胸まで舌を走らせて、親指の腹で擦って硬くした乳首に吸い付いた。  
 サイドポジションに身体を移して乳首を口で攻め立てながら、もう片方胸を揉みしだき、右手をハルヒの秘所に滑らせる。ハルヒの秘裂はすでにぐっしょりと潤っていた。  
 
「――――ああぁぁぁ! やっ、やぁぁ、感じすぎちゃうっ! はぅぅんっ!」  
 
 弱々しいハルヒの制止を振り切って中指を差し入れると、『くちゅん』と音を立てて肉襞が締め付けてきた。  
 胸への愛撫を緩めずに手首の回転を使って中指で蜜壷を抉ると、ハルヒは俺の頭を掴んで大きく喘いだ。  
 
「ふはぁんっ! ああぁっうぅ! ダメッ、ダメダメッ!」  
 
 制止を振り切って、止め処なく湧き出してくる濃厚なハルヒの蜜の香りに朦朧としながら俺は腕の動きを激しくした。  
 
「はぁあぁぁうぅっ、速すぎっ……んんぅっ、キョン、……ダメッ、とめてっ! おかしくなっちゃう! おかしくなるからぁあぁぁぁ――――!!」  
 
 ハルヒが足の指先まで突っ張って啼いた瞬間、『ピュッ』と一条の潮が吹き出た。  
 ……もしかして潮吹きってやつ、なのか?  
 こんなことは初めてで俺は少し戸惑った。  
 手を休めてハルヒの顔を窺うとその瞳は閉ざされていて、手の甲を額に押し当てて肩で息をしていた。  
 イッた直後は身体全体が敏感になっててツライということくらいは心得てるので、落ち着くまで待ってやることにする。  
 ほどなくして息を整えたハルヒは薄目を開けて、  
 
「……軽く、ィっちゃった」  
   
 焦点の定まらない瞳のまま、ボソリと呟いた。  
 その様はかなり俺的にツボで、やり場のない欲望が沸き上がってくる。二度も放出して萎えていた俺の愚息が力を取り戻して奮い勃っていた。  
 「ハルヒの中に入りたい!」という愚息の代弁を引き受けるのに先んじて、俺の股間に熱い眼差しを向けていたハルヒが懇願するように言った。  
 
「キョン……、来て」  
 
 テンパってるのはお互い様か……。おかげで少しだけ落ち着きを取り戻せたぜ。  
 ハルヒの女の子の部分に滾った愚息を押しつけた。後は腰を押し進めれば目も眩むような快楽が――――、と、ここでふと俺は踏みとどまった。  
 久しぶりにハルヒに『ホンキのおねだり』をさせてみるのも悪くない、と。  
 剛直に手を添えて淫水に塗れてヒクついている花弁をめくるように先端を動かした。くちくちとわざと音を立てさせてひたすら入り口をいじりたおしてやる。  
 
「……んんぅっ、んぁっ……、キョン?」  
 
「ん? どうした?」  
 
 すっとぼけてやると、ハルヒは口許に手をやって押し黙る。  
 口で言うのは憚られるのか、腰を動かして彷徨ってばかりいる俺の先端に自ら照準を合わせて挿入を促した。俺は悉くそれをかわす。  
 正直今すぐにでも挿れたくてウズウズしまくってるわけだが。そこは勝負ってもんだ。  
 
「んっ……、はぁ、やぁ……、どうして焦らすのよ?」  
 
「前みたいに上手におねだりできたら考えてもいいぞ」  
 
 核心をついた俺の一言にハルヒはのぼせた様にさらに顔を紅くして逡巡する。動体視力のトレーニング中かのように視線を目まぐるしく泳がせるが、やがて観念したのかうつむき加減に言葉を紡ぎ出した。  
 
「――っ、キョ……、キョンのこれを、あ、あたしのっ、……あたしの、アソコに、……入れて……」  
 
 過呼吸なんじゃないのかってくらいにハルヒは切羽詰っていた。  
 少し心配にもなるが俺は妥協せずにきちんと言わせることに徹する。  
 
「指示語が多くて分かんねぇよ。だれの、どんなナニを、どんな風になってる何処に、どうして欲しいって?」  
 
 耳元で囁いてやると、「ひんっ」と啼いてハルヒの身体が震えた。  
 軽く俺のキャラが変わってるって? そりゃそうだ。バリバリ演技なんだからな。  
 まったく最初はちょっとした冗談でやっただけなんだけどな。  
 まさか本気で隠れマゾだったとはね。ハルヒにしては少々ヒネりがないと思わないか?  
 馴れ初めの頃が思い出されてサドの仮面がずれそうになるが、気を引き締めて俺はハルヒをなぶった。  
 腰を空振って竿を滑らせて、たっぷりと局部をほじくってやる。  
 そうしていると、いよいよ余裕が無くなったハルヒが急き立てられるように口を開いた。  
 
「……ぅ、ぁ……はっ……、キョンの、堅くて大好きなお○んちん……、あ、あたしのトロトロに濡れちゃってて、はしたない、……お、おま○こに突き入れてっ、……あ、頭が真っ白になっちゃうくらいに突きまくってぇ!!」  
 
 淫語にまみれた哀願が引き金になって俺は自らを縛っていた鎖を解き放つ。  
 未だ指を咥えた痕を残してだらしなく口を開けて琥珀色の液体を零しながらヒクついているとんでもなくイヤらしいハルヒ秘裂に愚息を宛がって狙いを定めると、慾に任せて一気に貫いた。  
 
「ぅぅんんんっ、ぁぁぁあああああ――――!」  
 
 シーツを掴んでハルヒが絶叫する。一見すごく苦しげに見えるが、こういう表情はすごく気持ちいいってことの裏返しってことは今までで確認済だ。だから、遠慮はせずに抽迭を開始する。  
 クチュン、クチュンと水気をたっぷり含んだ音を立てながら、俺はひたすらハルヒの奥を目指した。  
 
「ああぁん! やぁぁあぁぁんっ! いっぱい擦れてっ、気持ちいいよぅ! もっとあたしにキョンを刻み付けてっ! はぁっ、ふぁあぁぁっ!」  
   
 たっぷり焦らした分、恥じらいよりも快感が勝るのか、ハルヒは厭わず大声で喘いだ。  
 ハルヒの膣内は佐々木とは一風違ってて、佐々木の這い回るような襞に対して、吸い付くようなフィット感がある。  
 ここで、どっちが気持ちいいかなんてのはあまりに野暮ったい。一つだけ言えるのは甲乙つけがたく双方とも病み付きになりそうなくらいに気持ちいいってことだけだ。  
 夢中になってハルヒの秘所を攻め立てていると、傍らでもそもそと動く人影を捕えた。佐々木が起き出していた。  
 佐々木は座った体勢で俺の右手を取ると、手のひらを精液と愛液で蕩けきった秘裂に宛がって仰向けに横たわる。  
 
「私も指でシて欲しいな……」  
 
 とだけ呟いた。その眼差しはひどく心押しつぶされそうなくらいに頼りなさげでなんとかしてやりたい気持ちに駆られた。  
 ……ああ、分かってるさ。2人同時攻めなんて無理があるってことくらいな。  
 それでもこんなになっちまってる佐々木を放っておくことなんて、もっと無理があるんだよ。  
 俺は腰を動かしながら、無茶を承知で佐々木の秘裂に指を這わせた。  
 動きがぎこちないのはどうしようもない。  
 この難しさは、言うなれば何だろうか。そうだな、右手で宙に三角を描きながら、左手で四角を描くようなそんな器用さとリズム感が必要とされている気がする……、いや何か違うか? よく分からん。  
 なんにせよ平等に2人を愛でるなんてことは容易じゃない。  
 
 変化をつけて陰核を撫でようと気を回すと、たちまち腰の動きが雑になって、  
 
「んんっ、キョン! もっと動いて!」  
 
 とハルヒから不満の声が上がる。それを収めるために腰を深く突き入れてハルヒを悦ばせようとすると、手が疎かになって、  
 
「キョン、切なくて辛いよ……、もっと激しく」  
   
 と佐々木から叱られる板ばさみだ。  
 あー、もうワケがわからん!  
 開き直って俺はとにかく強さを優先させて、両者ともピストン運動に終始することにした。同じリズムで腰と手首を動かして2人を少しでも早く絶頂へと導くことにする。  
 そうでないと俺の体力がいい加減もたん。  
 
「あああっ、あぁんっ! はっ、あっ、んんっ、あああっ、いい、いいよぅっ!」  
 
「ふぁん! あうぅんっ! あっ、あぁっ、ああぁぁんっ!!」  
 
 ソプラノがハモって二重奏のスタッカートを奏でる。  
 俺は終わりが近いことを悟って、腰に抉るような回転運動を加えてハルヒの膣内を入り口から奥までくまなく擦りあげる。  
 並行して佐々木に人差し指と中指を突き入れて腹側の壁を掻き出すように高速で往復させた。  
 
「キョン! キョン!! イキそう……、イクよっ、一緒にイって! あたしの膣内にキョンのせーえき、いっぱい注ぎ込んでぇ! ぁぁあぁあぁぁあぁ――――――――!」  
   
「またイっちゃう! キョンの指でイかされちゃう! っあぁあぁぁぅぅぅっ! イクイクイクイク――――――――!」  
 
 室内に大きく響き渡った2人の叫び声を鼓膜に染み渡らせながら、俺の本日最後の白濁がハルヒの膣内で爆ぜた。  
 ハルヒは脚を俺の腰にギュッと巻きつけて最奥で俺の奔流を受け止める。佐々木と同様ピルを飲んでるので俺はハルヒを獣欲の赴くまま塗りつぶして擦り込むように蹂躙した。  
 一方、佐々木は盛大に潮を吹いて絶頂を迎えていた。  
 無我夢中で見届ける余裕が無かったが、大量に迸った液体が俺の腕まで濡らしていた。  
 波が治まるまでそのまましばらく呆けて過ごす。  
 
「つ、疲れたぁ……」  
 
 あらゆる意味に於いて自分を出し切った俺に、視界が霞むくらいの疲労感と虚脱感が襲ってきた。  
 そりゃそうだよな。頑張り過ぎだぞ、俺。  
 休む間もなく三連射。その上3人でするのが初めてにもかかわらず、2人を同時にイカせたんだぜ? まぐれなんだろうけど、快挙と言っても過言じゃないだろう。  
 今日ばかりは自分を褒めてやってもいいんじゃないか?  
 そう思えるくらいに俺は表現の及ばない充足を感じていた。  
 余韻に浸っていると途端に意識が遠くなって身体から力が抜けていく。産卵を終えた鮭の気持ちが分かるような気がした。  
 力尽きて天に召されるなんて縁起でもないが、少しだけ、ほんの少しだけ今しばらく休ませてくれ。  
 分解しかかってる意識をなんとかかき集めて気を失っている二人の間に着地だけ定めて、俺は受身もとらずに盛大に倒れこんだ。  
 
//////////  
 
 意識が戻って目を開けると、眠気まなこにオレンジにライトアップされた見知らぬ部屋が写った。  
 んん? どこだ、ここは……。  
 股間に鈍い痛みを感じて、前後不覚だった起きぬけの脳が正常に機能し始める。  
 ……そうだった、俺、ハルヒと佐々木と…………、で、疲れ果てて寝ちまったんだ。  
 身を起こすと2人は穏やかな寝息を立ててまどろんでいた。  
 初めて見るわけじゃないが、相変わらず両者とも起きてるときじゃ見当もつかん素直な寝顔だね。こうして並べて見ると面白い。  
 ……って、和んでる場合じゃない。時間っ!  
 ベッドの傍に置いてあった安っぽい目覚ましを引っつかんで俺は青ざめる。  
 時刻は午後4時半過ぎ。確か入ったのが2時前だったはずだ。だから休憩の設定時間である3時間まであと15分程度の計算になる。  
 いくら取られるのか知らんが金に余裕なんぞビタ一文ないぞ。延長料金とられたら終わりだ。  
   
「お前ら起きろ! 下手すりゃシャワー浴びる時間ないぞ? おい! ハルヒ! 聞こえて…………、うおっ!?」  
 
 手の甲でハルヒの頬を叩いてやってやったが、どうやらやり方が生ぬるかったらしい。  
 腕に抱きつかれてベッドに引き込まれちまった。  
 
「んふふ、えへへ……、キョン、キョン、キョ〜ンッ!」  
 
 寝ぼけたまま意味不明に俺のあだ名を連呼してしがみついてきやがった。ったく幸せそうに口を綻ばせやがって、あーあ、ヨダレが……って、違うだろ!  
 
「目を覚ませ! こら! こんなことやってる場合じゃ…………、うわっ!」  
 
 不意に今度は背後から首に腕が巻きついてきて焦りまくった。  
 
「ぅう〜んんん…………、キョン、だめだよ。まったくキミは女性の扱いのいろはを分かってないな。  
……ソコはね陰部神経終末が高密度に分布しているため非常に感じやすいんだ。だからそんな風に無遠慮に扱ってくれては困る。例えるならベーゼンドルファー・インペリアルを調律するかのように丁重かつ繊細に……、むにゃむにゃ……」  
 
 佐々木! 一体何の夢を見てるのか知らんがとにかく目を開けろ!  
 ついでに言ってやるとな、お前いい加減キャラを固定させろ。対応するこっちが混乱しそうだ。  
 強制的にベッドに貼り付けられた俺は、もがいてこの手間のかかるお転婆供をひっ剥がそうとするが、誤ってくっ付けてしまったネオジム磁石のように離せやしない。  
 残された手段は叫ぶことだけだった。  
 
「あー、もうっ! シャワーなんて悠長なこと言ってられねぇ。 お前ら! 何でもいいから服着ろ――――――!」  
 
//////////  
 
「はぁ――――――」  
 
 石造りのベンチに力なく腰掛けて、大きく息を吐く。  
 秋口に差し掛かって和らいだ西日が少し長目の影を作っていた。  
 結局シャワーをあきらめて寝ぼけたままの2人になんとか服を着せて引きずるようにホテルから駆け出ることで追加料金を免れた。  
 しかしこの英断は報われず、身づくろいはおろか、汗やらナニやらでベトベトの酷い有様のまま外に連れ出したことに関して2人から散々ぶーたれられる羽目に逢った。  
 ……まったく、やれやれだ。  
 もちろん色々と言って聞かせてやりたいことがあったが、とにかく最低限の身だしなみを整えるのが先と立ち寄ったのがこの公園。  
 お世辞にも大きい公園と言えないが、水飲み場があったため、とりあえず手と顔を洗って、佐々木から借りた鏡を見ながら服や髪を軽く整えて一息ついたところだった。  
 女性陣はさすがに時間がかかるらしく、俺は少し離れたところで一人待ちぼうけを食っていた。羽休めにはちょうどいい。  
 無茶をやったツケは早くも身体にキていて、丹田から気が抜けたように腰に力が入らない。尋常じゃない気だるさが身体に纏わりついていた。  
 思い起こしてみると最初の戸惑いもなんのその、途中からはむしろノリノリでハマってたよな……。  
 気恥ずかしさがこみ上げてきて軽く自己嫌悪に陥った。  
 思わず両手で顔を覆ってうな垂れると、ポケットの中の携帯が鳴った。フロントの液晶に表示された名前を確認して余計に憂鬱になる。  
 正直な話、今の俺にはヘビーな相手だ。疲れた頭に奴の回りくどい台詞回しは害の他なんでもないと思えたが、適当に相槌を打っていれば気が紛れるかもしれんという一瞬の気まぐれで通話ボタンを押してしまった。  
 
「俺だ」  
 
「こんにちは。お休みのところすいません」  
 
 テレアポのように妙に滑舌の良いスカした声が受話器から流れ出てきた。馴れ初め当初は軽い嫌悪感すら抱いたもんだが、今ではすっかり耳に馴染んでしまった。まったく慣れってのは恐ろしい。  
 
「こんな週末の中途半端な時間帯に何の用だ?」  
 
「いえ、特に用件があるというわけじゃないんですが、お疲れ様ですの一言を差し上げたかった、といったところでしょうか」  
 
 このたわ言をたっぷり数秒間聞き入って、俺は弾かれたように立ち上がって辺りを見回した。  
 ブラフであってくれと祈るも空しく、樹木を抜けた向こう側、公園を出てさらに車道を隔てた歩道で優雅に手を振るスマイル野郎の姿を見つけて俺は肩を落とした。  
 ちくしょう、のっけの「お休みのところすいません」の時点で気づくんだった。  
 睨みを利かせてやったが涼しげな瞳で軽くいなされた。ガードレールに格好をつけて腰掛ける姿がさらに鼻につく。  
 やるかたないと俺は乱暴にベンチに腰を据え直す。  
 だが、この開き直った態度とは裏腹に心はざわいついていた。そりゃそうだろう、今日の所業が古泉に筒抜けだったと思うだけで、ぞっとできる話だと思わないか?  
 ハルヒと佐々木は水飲み場のそばで、身体を拭くのもそこそこに水遊びなんぞに興じている。古泉は狙ったようにその死角に陣取っていた。  
   
「せっかくの日曜だというのにお前もよっぽど暇だね。機関が解散してもう随分経つというのに染み付いた監視癖が抜けんのか?」  
 
 皮肉たっぷりに放ったジャブを古泉は笑って叩き落とす。  
 
「まさか。今日のあなた方の様子を草葉の陰から気にかけていたのは確かですけど、理由あってのことです。見守っていたと表現する方が適当でしょう」  
 
「一級河川に迷い込んできたアザラシじゃあるまいし、見守られる覚えなんぞないんだがね」  
 
 電話の向こうで古泉が軽く息をつく気配が感じられた。  
 
 さぁ、ここからが本題だ。正直今のところ見当は全くついていない。どこから切り込んでこられても動じないように俺は身構える。  
 しかし、元超能力者は俺のガードの隙間を縫うように、  
 
「不可抗力ではあるものの、結果的に背中を押すことになってしまった責任が僕にはありますからね。せめて見届ける義務があるということです」  
 
 俺を絶句させるに足る鋭いストレートを見舞ってきやがった。  
 
「……背中を押した、だと?」  
   
 言ってしまってからこの鸚鵡返しはポーズだと気づいた。既に自分の中に漠然とした答えが在ることを認識すると、個別で存在していると思われていた幾つもの事象が直感的に急速に繋がってストーリーラインが見えてくる。  
 それは目を背けたくなるような酷い筋書きで俺は眩暈さえ覚える始末だった。  
 
「ええ。詳しい説明をご所望ですか?」  
 
「……一つだけ確認させろ。ここ最近ハルヒの相談にのったことがあるか?」  
 
「お察しの通りですよ。どうやら説明は不要のようですね」  
 
 ……なんてこった。  
 つまりはこうだろう、ハルヒがいきなり3人でしたいなんて突飛なことを言い出したのは、この人形師の真似をしたペテン師が裏で糸を引いてたってことで、まんまと俺はつられて一緒に踊っちまったってわけだ。  
 お前なぁ、これは冗談じゃ済まねぇぞ?  
   
「開き直るつもりはないので誤解しないで冷静に聞いてもらいたいのですが、今回の件はあなた方にとって必要な通過儀礼だったんじゃないかと僕は思っているんです」  
 
 アブノーマルの階層を掘り下げるのが通過儀礼なのか?  
 
「……前提が違うかもしれません。考えてもみてください、学校を代表するような才媛を2人も独り占めしてる時点ですでにあなたはアブノーマルの領域に踏み入れていると判定できませんか?」  
 
 …………。  
 その件に関してはさすがに返す言葉がない。  
 頭に上りかけていた血液が「やっぱやーめた」とヤル気をなくしてトボトボと惰性で降りてくるのを感じながら俺は古泉の言葉に耳を傾ける。  
 
「涼宮さんは3人で付き合う関係に不安を感じ始めていたようです。  
あなたとは恋仲なのに佐々木さんと居る時のあなたには想いは届かない、理屈で理解できていてもどうしようもないのが感情ですよ。  
少しずつ鬱屈が溜まっていったのでしょう。佐々木さんも似たような想いを募らせていたのかもしれません。」  
   
 古泉は冗談交じりに、「一年前なら言葉どおり僕が裏で飛び回る羽目になっていたでしょうね」、と付け加えたが、俺はそれを流して記憶を辿ることに腐心する。  
 そう言われれば確かにこの数週間ハルヒの様子が不安定だったな。  
 急によそよそしく俺を避けたり、3人で会うのを躊躇ったりってのが何回かあったのさ。  
 
 どうせいつもの気まぐれだと決め付けて気づけなかった自分を恥じた。  
 ハルヒのやつ、真剣に悩んでいたんだな。  
 
「事態を打開するためには3人の仲を深める必要があった。ゆえにほんの例えとして件の話を涼宮さんにさせてもらった次第です。事が事だけに即実行に移されるとは思いもよりませんでしたけどね」  
 
「涼宮ハルヒフリークのお前にしちゃらしくないね。あいつを下手に刺激するのは自滅行為だってことはもはや摂理に数えてもいいくらいに身にしみて分かってるはずだろ」  
 
 さすがにこの俺の返しに対しては古泉も苦笑を浮かべるだけだった。  
 
「とにかく丸く収まったようで何よりです。ホテルからどんな様子で出てくるのか気が気でなりませんでしたが、涼宮さんと佐々木さん、そしてあなたの晴れやかで活き活きとした表情を見て溜飲を下げました」  
 
 そうかい、そりゃあ心配をかけたな。  
 ……だがなぁ、なんか釈然としないんだよな。  
 色々と世話を焼いてくれたことに対しては感謝すべきなんだろうが、通過儀礼で片付けられてしまうのがどうにも受け入れられない。  
 選択肢は本当にこれしかなかったのか? もっと健全風味漂うのマシな展開にする手立てはなかったのか? どうにも嵌められた感が――――、  
 
「キョーン! タオル持ってきて」  
 
 ……お呼びがかかっちまった。思考を一時停止させて水飲み場に目をやる。  
 何用かと思えば、全身水しぶきに濡れて更に酷い有様になったハルヒと佐々木がつっ立っていた。子供かお前らはっ。  
 軽い頭痛を覚えながらよろよろと立ち上がる。切るぞと告げようとしたときだった、計ったような絶妙のタイミングで古泉の前に黒塗りのタクシーが音を立てずに滑り込んできた。  
 
 淀みの無い動作で古泉はそれに乗り込む。  
   
「どうやら長話が過ぎたようです。邪魔者は早々に立ち去ろうと思うのですが、最後に一つだけ。……2人を同時に悦ばせるのは難しくありませんでしたか? あなたさえよければ、今度僕がコツを……」  
 
 ピッ。  
 
 さて、2人のフォローに行くか。  
 ハザードを切ったタクシーが動き出す。後部座席はスモークが貼ってあるので古泉の姿はこちらから見えないが運転席の見知った顔と目が合った。  
 人としての年輪を重ねることでしか醸し出せないダンディズム漂う壮年の紳士、俺の中で運転手といえばこの人、新川さんだった。  
 ご無沙汰してますと軽く会釈すると、新川さんは引き締まった表情のまま力強く親指を立てて応えてくれた。  
 なんだ? 若人よ頑張れとでも励ましてくれてるのかね?  
 なにやらよくよく見ると親指が中指と人差し指の間に挟まってるような気がするのは…………、見間違いだな。きっと疲れが目にきてるんだよ。  
 半ばそう思い込ませ、俺は見送りを切り上げて視線を前に戻した。  
 向こうからは棒立ちに呆けていたように見えたのか、ハルヒがいっそうバカでかい声で急き立ててきた。佐々木は傍らでびしょ濡れになった服の裾を楽しそうに絞っている。  
 お前らなぁ、まだ暑さが残ってるとはいえすぐには乾かないぞ、それ。  
 一刻前の淫らな艶姿が夢だったかと錯乱するほど、くったくのない無邪気な顔で2人は微笑んでいた。  
 
 ――女ってすげぇ役者だよなぁ。  
 
 つくづく思い知らされる一コマだね。  
 とにかく3人でするのはしばらくいいだろ。たとえ俺たちにとって必要なことであったとしても、いかんせん俺の身体がついていかん。……半年に1回とか、いや3ヶ月……、いやいや1ヶ月に1回……、うん、それくらいでいいぞ。  
 「はいはい」と、かなりおざなりな返事の裏側でそんな不埒なことを考えながら、俺は肩に掛けていたタオルを抜き取って困ったやんちゃ娘達の元へと歩みを進ませる。  
 心持ち先ほどよりも身体が軽くなっているような気がした。  
 
 
 
 ああ、そうそう。エレベーターの中でやった自問自答だけどな、答えを訂正しておくことにする。  
 
 ――半分そこそこは古泉のせいだ、ってな。  
 
 
 
―完―  
 

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