電波ちゃんの小型化、ならびにモテ男の赤型化  
 
 
 
 
 
「キョンよ!今日からいっしょに暮らすの!」  
 
俺が一般人であることはもはや言うまでもない。しかしハルヒの奇行、蛮行に振り回され続けそれに伴う時間旅行や宇宙的とんでも現象等々  
言えばキリがないが、そんな体験によりそこら辺の奴らよりは突拍子もないことにいささか耐性がある。ある、が……どうしたもんかねぇ。  
「ふむ。あなたのことはわかるようですね。聞いた感じあなたの時のように記憶まで退行してる訳ではないようですが……  
 涼宮さん、僕のことはわかりますか?」  
「古泉君!ねぇ、なんでなんで??クイズ!?クイズ!!?」  
だぶだぶな制服を纏いハルヒは目を輝かしている。どっからどう見ても幼女だ。  
この幼女ハルヒは、長門のモンゴリアンから目を覚ましたはいいが故障が治っておらず、俺の家で暮らすと喚きちらしていた時に  
朝比奈さんが『子供じゃないんですから、そんなわがままいけません!』と言った結果だと思われる。相変わらず滅茶苦茶だが  
そう言ったと同時に糸が切れた様に崩れ落ち小型化が始まったからな。  
「うぅ……こんな力技でくるとは思いませんでした……」  
あぁ、気持ちはわかりますよ朝比奈さん。いくら負けず嫌いでもまさか本当に退行してくるなんて誰も思わないですからね。  
しかし厄介だな。ハルヒの様子からするとこれまでの記憶はあるようだが子供の思考だ。古泉の言うハルヒの心の奥底にある  
常識という名のストッパーが働かないかもしれない。……まあ今まで働いていたとは思えないが。  
「キョン〜キョン〜」  
ハルヒがズボンを引っ張って見上げてきた。妹がかまってと纏わり付いてくる時にそっくりだな。  
一応、朝比奈さんと長門のこともわかるか確認しとくか。  
「ハルヒ、この髪の長いお姉さんのことわかるか?」  
「……おっぱいおばけ!!」  
「………………ん?」  
「あー、じゃあこのお姉ちゃんは?」  
「洗濯板!!」  
「………………ぁ?」  
様子からするに、どうやらハルヒの中で喧嘩中らしい。二人のことがわからないことはないようだが……  
「もう一度頚動脈に刺激を与えれば、元の姿に戻ると思われる。激しく推奨」  
「えぇ。わたしもそう思います。おすすめです」  
怖!目がマジだ。ハルヒ謝っとけ。二人とも大人気ない気もするが、ちょっと言いすぎだ。  
「や!ほんとのことだもん!あたし悪くないもん!」  
「……許可を」  
まずいな。本当にやりかねん。ハルヒ、謝りなさい。  
「や!!」  
「ハルヒ!」  
「む〜……みくるちゃん、有希……………………ごめんなさい」  
つい怒鳴ってしまったが、素直に謝ったので良しとしよう。しかし隠れるように俺の脚にしがみ付きながらってのは、やはり精神は子供か……  
やれやれ、まあいい。この滅多に見れないハルヒのかわいらしさに免じて、二人ともここは堪えてくれないかな。  
「……わかった」  
「う〜……悔しいけどかわいいですぅ」  
まだちょっと拗ねているハルヒを見ながら二人とも空気をやわらかくしてくれた。うむ、平和が一番だ。  
「えらいぞ、ハルヒ。よく謝ったな」  
ついつい妹や親戚の子達にするように頭を撫でてしまうが、ちょっと赤くなってる顔を脚に押し付けてこられたら子供扱いも仕方ないことだ。  
 
「と言うことですので、しばらく涼宮さんをよろしくお願いしますね」  
「……待て、話がぶっ飛び過ぎだ。なにがと言うことだ。今の流れでどうしたらそんな結論になるんだよ」  
「僕としては至極真っ当な結論ですよ。まず、涼宮さんは身体、精神と退行してるようですが今までの記憶はあるようなので、朝比奈さん  
 もしくは長門さんに預けるのは少々不安です」  
「なんでだ?女の子なんだし、とりあえず二人のどちらかに任せるのが普通だろ。喧嘩してたからか?」  
「それもあるんですが……まあ、理由はご自分で考えてください」  
苦笑いしてる古泉がなぜか腹ただしい。  
「そして、あなたは子供の扱いに慣れてますからね。申し分ないです」  
「俺は申し分あるぞ。さすがにハルヒの実家に帰らす訳にはいかんが、機関なら……いや、そこまで信用できんな。森さんなら任せてもいい。  
 それなら問題ないだろ」  
「おやおや、機関も信用がないですね。まあ、僕達も一枚岩ではないですからあなたの判断は間違ってません。森さんについてはSOS団副団長  
 として安心できると保障しましょう。しかしですね、それでも駄目なんです。おわかりではないですか?」  
いや、まあ……わかってるんだがな。ただ、素直に認めてはいけない気がしたんだよ。やっぱり俺はハルヒに振り回される運命なのか……  
「涼宮さんはあなたと暮らすと言ってますからね。無理に離そうとすると幼い精神と相まって暴走しかねません。尤も、涼宮さんが望んだことに  
 僕達が邪魔しようと関係ないでしょうが。それにですね、こんな涼宮さんをあなたは突き放せるのですか?」  
古泉は、俺の足にしがみつきながら涙目で見上げているハルヒを見て、わかってますよと言わんばかりのしたり顔を向けてきた。くそぅ、忌々しい。  
「キョン、あたしといっしょはやなの?」  
今のハルヒでは理解できない会話だったと思うが、自分が受け入れてもらえないかもという雰囲気は感じとったらしい。泣きそうな声で聞いてきた。  
仕方ない、悲しませるのは本意じゃない。  
「そんなことないぞ。ほら、帰るぞ」  
「うん!」  
ハルヒは打って変わって満面の笑みで手を繋いできた。むぅ……和むな。  
「古泉、ハルヒの実家とかもろもろと任せていいか?と言うより俺がどうこうできる事じゃないから任せる。長門の情報改竄もまた駄目だろ?」  
「そうですね、なんとかしましょう。しかし今回は早く解決しないと面倒なことになりそうですから、出来る限り頑張って下さい」  
頑張れと言われても何をどうすればいいか検討もつかん。明日起きたら元のハルヒに戻ってるってのがベストなんだがなぁ。  
「キョン、帰ったらゲームしよ!あと、いっしょにご飯食べていっしょにテレビ見よ!あと、あと……」  
「わかった、わかったからそんな引っ張らないでくれ」  
「へへ〜キョンだいすき〜」  
おおぅ、告られた。いやはや子供とはいえ悪い気はしないね。  
「………………ロリコンさん?」  
「………………ペド?」  
……なぜだ。  
 
 
 
 
―――――  
 
 
 
 
明日は土曜で休みなので、みんなには朝から家に来てもらってまた対策を練ろうと決まり、とらあえず今日は解散となった。  
「キョン〜歩きにくい。おんぶ!」  
解散間際、ハルヒがスカートのずり落ちただぶだぶな制服という完全に犯罪な格好であることに気付き、慌てて長門が持っていたジャージ  
を着さした。長門のジャージでもぶかぶかだが致し方ない。人生のピリオドを打つよりはマシだ。  
「おんぶ!おんぶ!お〜ん〜ぶ〜!」  
「仕方ないな、ほら」  
「やた!と〜ぅ!」  
歩きづらい格好な上に靴もがぽがぽだ。これぐらいの駄々は聞いてやらんとな。  
 
 
 
「ハルヒ、着いたぞ。ただいま〜」  
うとうとしていたハルヒを起こしながら家に入ると妹が出向かいにきた。  
「おかえり〜。キョンくん、これからどうする?わたしにする?わたしにする?それとも、わ・た・し?」  
……得意気にお決まりの定型句を言う妹のアホさ加減が、ここ最近増してる気がする。  
「とりあえず、飯食うし、風呂にも入るがおまえはこいつの相手をしてくれ」  
「ぶ〜……その子誰?」  
「ハルヒだ。この姿は……まあ、察しろ。妹だと思ってだな……」  
「嫌!キョン君の妹はわたしだけなんだよ!結婚するんだよ!お嫁さんなんだよ!」  
「!?キョンはあたしのおにいちゃんよ!」  
なんかとんでもないことを妹が言ってるが、大方変な漫画にでも影響されたのだろう。それよりもハルヒの腕がいい感じにチョークに入って……  
「駄目だよ!はるにゃんは違うよ!」  
「違わないもん!あたし妹だもん!」  
ぐぉ……締め付けられる。意味のわからない張り合いをしないでくれ……お、おちる……  
「む〜、じゃあゲームで勝負だよ、はるにゃん!」  
「あたし負けないもん!」  
ハルヒは俺の背中から勢いよく降りると、妹と競争するように部屋へと駆けていった。  
あやうく幼女に夢の世界に旅立たされるとこだった……  
しかし妹の年齢が疑わしいぞ。見た感じ五歳くらいのハルヒと同レベルじゃないか。ほんと兄は心配です。  
……と、まあいい今のうちにお袋に説明しとくか。腹も減ったしな。  
 
食後、お袋はハルヒをしばらく泊まらせることにすんなり了解した。  
と言うよりかわいい娘ができたとテンションを上げて、ハルヒに抱きつきながらぐるぐる回したり頭を撫でくり回したりしていた。もう、ノリノリ。  
しかし妹がそれにやきもちを妬いてしまい、今度はお袋争奪戦に発展。対処に困ったお袋が静観をきめていた俺に抱きついてくるという  
気持ち悪いことこの上ない暴挙をしてくれやがり、それがハルヒ達の何かに火をつけ、再び絞め落とされるんじゃないかと  
思われるくらいの勢いで飛びつかれるわ、両側から腕を引っ張られるわ、嫌な笑みを浮かべ調子に乗ったお袋が羽交い絞めにしてきたりするわ  
それはもう、もみくちゃにされまくった。  
……なんで俺がこんなに疲れなきゃいかんのだ。はぁ、もう寝よう……  
「キョン、いっしょに寝る!」  
「あ!はるにゃんずるい!わたしもいっしょに寝る!」  
あーもう、勝手にしてくれ。俺は一刻も早く寝たい。  
「ふふ〜、キョン〜」  
「えへへ、久しぶりにキョンくんといっしょ〜」  
 
……狭いうえに、抱きつかれて暑苦しくて寝れん。仕方ない二人が寝静まったら居間で寝よう。  
寝るのにも一苦労かよ……  
 
 
 
 
―――――  
 
 
 
 
「「どりゃぁぁぁああ!」」  
「おがぁ!」  
何か幸せな夢を見ていたはずだが、ハルヒと妹によるツープラトンによりきれいに吹っ飛ばされた。  
二人で降ってくるのは駄目だと思うんだよ。起きる前に一瞬気を失うなんて訳のわからないことになったぞ……  
「キョンくんがいけないんだよ!いっしょに寝るって言ったのに!」  
「起きたらいなくてびっくりしたんだから!キョンの馬鹿!」  
「あー、悪かったから怒鳴らんでくれ。起きぬけにはちょっとこたえる……まだ7時前か。もう少し寝ても……」  
「駄目だよ!キョンくんは罰としてわたしたちといっしょにクロックレンジャー見るんだよ!」  
こいつ戦隊もの見てたのか……小6の女の子としてそれは普通なのか?今のハルヒなら喜びそうだが。  
「キョン、はやくはやく!もう始まる!」  
ハルヒに急かされクロックレンジャーなるものを見始めた。しかし二人とも朝から元気だな……  
 
若干寝ぼけていた上に、戦隊ものに興味がないので内容がまったく頭に入らないまま気付くとエンディングになっていた。  
「レッドかっこいいね!キョンもあんな必殺技ないの?たいむ・ざ・すとーぷ!」  
ハルヒはなにやらポーズを決めて叫んでいた。  
「違うよはるにゃん!ストップ・ザ・ターイムだよ、ね?キョンくん!」  
妹もポーズを決めて俺に同意を求めてきた。俺としてはどっちでもいい。それよりもさっきから朝食を作ってる音と匂いで  
腹が獲物をよこせと自己主張している。早くこいつを大人しくさせたいとこだ。  
「あたし、手伝ってくる!」  
ハルヒはそう言うと台所に駆けて行った。健気だな。うむうむ、いいことだ。で、そこの怠け者のお姉さんは何をしてるのかね?  
「む〜、キョンくんだって……あれ?この時計……」  
ハルヒがいた場所にごてごてした時計が落ちていた。なんだ?こんなのあったか?  
「レッドの時計だ!キョンくんはめて、はめて!」  
テンションの上がりきった妹におされレッドの時計とやらをはめてみる。妙にフィットするな。  
「それで、こうやって……チェーンジ・レッド!って言うの!」  
妹はこぶしを握った左腕を胸に持っていき、どうやら変身する時の言葉を言って期待の眼差しを向けてきた。俺にやれってか?  
「やって、やって!キョンくんやって〜!」  
はぁ……まあいいか。適当にやっとけば満足するだろう。  
「あ〜、ちぇ〜んじ・れっど〜……これでいいか?」  
妹を見ると目を見開いて固まっていた。なんだ?違ったか?とってもマヌケ顔だぞ。  
「ふ……ふおぉぉぉぉぉおお!キョ、キョンくんがレッドォォォオ!」  
最近の妹は情緒不安定な気がするんだが……大丈夫か?いきなり叫ぶなんてええええええええ!?  
「キョンくんこそ!でもすごぉい!レッドだぁ!」  
窓に薄く映った自分を見て、己の軽挙な行動を呪ってしまう。今までの流れからいってこうなることぐらいわかれよ俺!  
それよりも今のハルヒに見られたらまずい気がする。どうする、どうする……そうだ、簡単だ。元に戻ればいい!……ってやり方なんかわからん!  
い、いかん……落ち着こう。こいつに聞けばいいだけだ。  
「も、元に戻るにはどうすればいいんだ?正直すまん!テレビ真剣に見てなかった!」  
「も〜、こうだよ。さっきと同じポーズで……チェーンジ・レッドな解除!だよ」  
なんだそれは……って突っ込んでる場合じゃない。えーと……左腕を胸に持ってきて、  
「チェーンジ・レッドな解除!」  
「……ご飯できたよ?なにしてるの?」  
瞬時に解けたが、マヌケ過ぎる……でもハルヒには見られてないだろう。ぎりぎりだったな……  
「キョンくんがクロック・レッドに変身したの!格好よかった!」  
な!?何言ってやがる!  
「え!?ほんと!?キョン変身して!あたしも見たい!」  
くっ……やっぱり今のハルヒは真に受けるか。  
「で、できん!こいつが変な妄想してるだけだ」  
「はるにゃん、嘘だよ!わたし見たもん!キョンくん嘘ついてるよ!」  
妹よ……空気というものをよんでくれ……  
「……キョン?」  
「お、おまえに嘘つく訳ないだろ?それよりも、ほら飯だろ?そうだ、お手伝いしたご褒美に何か一つ俺のおかず食っていいから」  
「む〜……いちご」  
なんとかごまかせたか……  
「よし!好きなだけもってけ。それじゃ行くぞ」  
「あ〜!キョンくんわたしも!はるにゃんだけずるい〜」  
妹が喚いてるが、兄の気持ちを汲み取れない奴にはなしだ。それに手伝いをしてないしな。  
「キョンくんのけち〜!いいもん、おかあさんにもらうもん!」  
ぷんすかしてる妹とまだ疑わしげなハルヒを連れ朝食に向かう。しかしまた厄介ごとが増えてしまったな……  
 
 
 
 
―――――  
 
 
 
 
朝食をとってしばらくして集合して来たSOS団の面々に今の状況を説明した。  
その際古泉が、それよりも面倒なことになったと俺の心のキャパシティをぶち破ってくれそうな香りのする宣告をしてきた。  
「こんなことになるとは、さすがに我々も面食らいました。まさか、あなたの……」  
「ちょ、ちょっと待て!」  
ここは、ちょっと朝比奈さんを眺めて現実逃避……ではなく落ち着いて受け入れ態勢を整えよう。  
「ふふ、かわいいですぅ」  
朝比奈さんはあやとりをしているハルヒを膝に乗せ、頭を撫でながら呟いていた。なんてすばらしい光景なんだ。  
こんな奥さんが欲しいな。まさに理想の家庭が築けるぞ。朝比奈さんが奥さん……高望みし過ぎか。  
「長門さん?」  
俺がいろいろ妄想していると長門がハルヒと朝比奈さんの前であやとりをやり始めた。  
複雑なやや人間離れした指さばきで完成したのはハルヒの顔だった。なんというイリュージョン。  
あの紐の長さでそれとは物理法則を軽く無視してる気がするぜ。さすが長門!……後で説教だな。  
「有希すごーい!!どうやるの、それ!」  
「知りたい?じゃあ、ここ」  
長門はそう言うと膝をぽんぽんと叩きハルヒを乗せるとこっちを向いた。なんとなく言いたいことがわかる。  
「いい奥さん?」  
やっぱりか。宇宙人さんは俺の思考を読み取ることができるらしい。それとも俺がわかりやすいのか?  
「す、涼宮さん!わたしもいろいろ教えてあげます!こっちに来て下さい!」  
「駄目。私が奥さんをしている」  
「何を言ってるんですか!?い、意味がわからないですよ!」  
「そう。ならばほっといて」  
「ずるいですよ〜お嫁さんはわたしですぅ!」  
「あなたこそ意味がわからない」  
朝比奈さんと長門がハルヒを奪いあってるが、ハルヒもキャッキャッと楽しそうなのでほっとこう。それに大分覚悟も決まった。  
「で、古泉。ハルヒの小型化に次いで、俺が変身ヒーローに変身なんて笑えないことなってるのに、さらにまだあると言うのか?」  
「はい。昨日の夜、いろいろと工作している時にわかったんですが……涼宮さんがあなたの妹になっています。  
 戸籍上ではありますが、血も繋がっています」  
「……………………………………………………………………マジ?」  
「えらくマジです」  
なんてこった。俺のレッド化なんて霞んでしまうくらい変なことになってるじゃないか……しかも実の妹だと?ハルヒが?あ、ありえん……  
「やはり涼宮さんを早くなんとかしないとまずいですね。純粋が故に何を望んで何を起こすかわかりません。あなたのヒーロー化はまだ序の口  
 ですよ。この世界がクロックレンジャーの世界になってもおかしくないですからね」  
「そうは言ってもな、どうするんだ?最低でも、何日か泊まらしたら満足して元のハルヒに戻ると思っていたが、実の妹になってるんなら  
 それも期待できんぞ。……何気に詰んでないか?」  
「あきらめては駄目です。何か方法が……何か……」  
古泉は顎に手をやり真剣な顔で考え始めた。俺も奇跡の一手を模索するが、脳が参りましたとすぐ投了してしまう。  
それでも何かないかとテストの時より頭をフル回転させていると、  
「キョ、ン、く〜〜〜〜〜〜ん!は、る、にゃ〜〜〜〜〜ん!!」  
と、先ほど来たミヨキチと共に自室で遊んでいた妹が叫びながらドタドタとやって来た。  
「たいへん、たいへん、たいへんだよ!!」  
「なんだ?古泉でも死んだか?」  
「おや、それは確かに大変ですね」  
「ちっが〜う!そんなことじゃない!」  
「そんなことですか……」  
軽くヘコんだ古泉を尻目に、ハルヒも興味を惹かれたらしく俺に乗りかかって妹を見つめた。  
「ミヨキチから聞いたんだけど、できないんだよ!!」  
「何ができないの?」  
「結婚だよ!兄妹は結婚できないんだって!どうする!?はるにゃん!!」  
……最早何を言っていいかわからない。これからは妹の教育方針を家族でみっちり話し合わないといけないな。  
「……あ、あたし妹じゃないもん。だから大丈夫だもん!」  
「あ!ずるい!!昨日妹だって言ってたのに!」  
「言ってないもん!あたし妹じゃないもん!」  
お?これはもしかするんじゃないか?古泉を見ると頷いたので間違いないようだ。すばらしいぞ、我が妹よ。おまえの無知が世界を救いそうだ。  
 
「ごめんなさい、お兄さん。お騒がせしてしまって……」  
「いやいや、こっちとしては助かった。すまんなミヨキチ。こんな妹で」  
「キョンくんひど〜い!結婚できないんだよ!?いっしょに暮らせないんだよ!?」  
まったく何を言ってんだか……  
「大丈夫。わたし二世帯同居歓迎だから。一緒に暮らせるよ」  
「ミヨキチほんと?よくわからないけど!」  
「うん。わからなくてもいいよ。けどね、お兄さんがオッケーしないと……」  
「キョンくん、お願い!」  
お願いされても完全においてけぼりなんだが。全然ついていけんぞ。  
「あの娘ちょっと腹黒くないですか!?長門さん!」  
「同意する」  
ミヨキチ腹黒疑惑。  
「ち、ちがいます!ちがいますよ!お兄さん!!」  
う〜む、ハルヒを背中に乗せてる為揺すられるとハルヒの腕がまたチョークに入ってくるので勘弁してほしいとこだ。  
それにしても妹よ。そこまでアホとは思わなかったぞ。まさか結婚できる年齢も知らない訳じゃあるまいな。  
「え!?いつでもできるんじゃないの!?」  
マジかよ……女は16歳からだ。そんなちんちくりんじゃ、まだまだ先だ。  
「む〜、ミヨキチ!部屋に戻ろ!おっぱいを大きくする方法教えて!」  
「え?え?おっ……えぇ!?」  
妹は困惑するミヨキチを引き摺って部屋に戻って行った。……16歳からだって言ったんだが理解してないなあれは。  
それよりもハルヒ、そろそろ降りてくれ。重くてかなわん。  
「………………んん」  
寝てんのか?さっきまではしゃいでたのに、いつの間に?  
「おや?……ほう。僕はちょっと席を外したほうがいいみたいですね」  
「なんだ急に。用事でもあるのか?」  
「そうですね。あるといえばあります。それと、一応あなたに助け舟を出しときましょう。……お酒は便利です。それではまた後で」  
なんだ?意味のわからないこと言いやがって。まあいい、ハルヒをベッドに寝かせるか。  
「戻る」  
ハルヒをベッドに寝かすと同時に長門が呟いた。  
「何が戻るって?……え?」  
びりびり、ぷつぷつと布が破れる音に振り返ると、ハルヒが徐々に大きくなっていた。こ、これは……  
「キョンくん、見ちゃだめ〜〜!!」  
「な!?ぬぉ!朝比奈さん、目!指!!ぐぁ!指!目〜!」  
「あ、ごめんなさい!でも駄目です!」  
朝比奈さんに眼球を塞がれ悶絶していると、目を覚ましたらしい、寝ぼけたようなハルヒの声が聞こえた。  
「ん……ん?ここ……キョン……ベッド…………裸……キョンの匂い……あたし、裸…………ぇ?」  
なるほどね……古泉の野郎!後で絶対殴ってやる!  
「……キョン、いい度胸ね」  
「お、落ち着け。これには訳が……あ!そう、さ……」  
「あたしを気絶させるぐらい愛しておいて、さっそくみくるちゃんと浮気!?有希までいるじゃない!どういうこと!?」  
「ま、待て待て待て!おまえの脳内でどういう経緯が巡られたか知らんが、とんでもない方向へぶっ飛んでるぞ!これは、さ……」  
「何よ!言い訳する気!?やっとあたしを選んだと思ったら、まさかの展開だわ!」  
俺の台詞だ、畜生!選ぶとか選ばんとかどんな脳内変換してんだ!  
「あたしだけを見なさいよ!キョンのばか〜」  
「何泣いてんだ!とりあえず人の話を最後まで聞け!ちょっと寝ぼけ過ぎだ!気をしっかり持て!お前は酒をだな……」  
「う〜キョン……は、あた……だけ、見っ、ぅぐ!?………………」  
どうした?なんで急に静かになったんだ?何が起きた?  
「グッジョブです、長門さん」  
「当然のこと。いい角度で入れることができた」  
長門が何かしたらしいが、俺は目隠しされたまま部屋の外に出された。よくわからんがひとまずの危機は脱したらしい。  
しかしなんで急にハルヒは元に戻ったんだ?まあいいか、結果オーライだ。深くは考えるまい。  
 
 
 
 
―――――  
 
 
 
 
「だからな、おまえが俺の部屋に上がりこんでしこたま酒を飲んだあと、勝手につぶれたんだよ」  
「ありえないわ。あたしもうアルコールはとらないって誓ってんだから。それになんでみんなもいるのよ」  
「おまえが勝手に飲んだんだ。俺は知らん。それと、今日は土曜だぞ。おまえが起きないから俺がみんなを呼んだんだ。  
 駅前に放置するわけにもいかんだろ」  
古泉が持ってきたハルヒの制服を朝比奈さんと長門に渡し、とりあえず古泉を殴ろうとしたが微笑みながらかわされ続けてる間に  
入室の許可が下りた。ちなみにさっきの出来事は夢ということになっていた。まあハルヒも寝ぼけていたし、俺としても好都合だ。  
そして、幼女の時の記憶がないらしい困惑していたハルヒに適当な理由をつけて今に至る。まさか本当のことなんて言えないからな。  
「……なんか納得いかないけど、なぜか首筋が痛いから信じるしかないわね。でも、普通二日酔いって頭が痛くなるって気がするんだけど」  
「ひ、人によって違うんじゃないでしょうか」  
「そう、人によって様々。アルコールは恐ろしい」  
朝比奈さんと長門が明後日の方向に語りかけていた。二人ともかわいいな。ちょっと笑えるぞ。  
「どこ見て言ってんのよ。まあいいわ、今日は探索中止しましょ。二日酔いのままってのもなんだしね。ということでおやすみ!  
 ……キョンのベッド……ふ、ふふ……」  
ハルヒは布団を被ると、もぞもぞと悶えだした。おやすみと言ったのにテンション上げてるとこ悪いが今日も泊める訳にはいかんぞ。  
一応おまえ女なんだからな。そこんとこはわかってくれよ。  
「……二日酔いで体調悪いの。動けない」  
布団から顔半分だけ出して見つめてきた。くそっ、ちょっとかわいいじゃないか。  
「そんなこと言っても駄目だ。さっきまで元気だったじゃないか。それに仮にも男の家に一泊したんだし帰ったほうがいいだろ。  
 親御さん心配してるぞ」  
「そんなのだいじょ……うわ!みくるちゃん!?え、有希!?」  
朝比奈さんと長門が見事な連携でハルヒを引きずり出し、そのまま長門が肩に担いだ。格好いいぜ長門。  
「女の子ですからね。お家の方も心配してます。二日酔いでも大丈夫。私たちが送って行きますから安心してください」  
「責任もってあなたを送り届ける。安心していい」  
「あ、安心って。下ろしなさい!下ろして!……ちょ、おろ、いやぁぁぁキョン〜〜〜〜〜……」  
……さて、ハルヒも行った事だし俺のレッド化をどうするか考えないとな。しかし、どうも危機感がわかないな。  
ハルヒのインパクトが強すぎた。  
「そうですね、変身ヒーローになってるとはいえ、何もしなければただ派手な時計をしてるだけですからね。  
 いっそこのままでもいいんじゃないですか?」  
人事だと思って勝手なこといいやがって。これ取れないんだぞ。……ん?ということは、これをはめたまま学校に行かんといけんのか。  
それは恥ずかしいな。やはり早くなんとかしなくては。  
「話を聞いた限り、子供の涼宮さんはあなたのクロック・レッドを見てたがってたようですからね。今の涼宮さんなら変身シーンを  
 見せないようにクロック・レッドの姿を見せればいいんじゃないでしょうか。そんなに執着はないでしょう」  
まったく……どうせなら元に戻ったついでにこっちのほうもなかったことにして欲しかったぜ。  
「明日にでもヒーローショーのバイトにあなたが出演ということでどうですか?」  
げ!マジかよ……でも、それが一番妥当か……はぁ。  
「ではそのように手配しておきますね」  
思いがけないヒーローショーデビューに陰鬱としていると、我が家の能天気娘がミヨキチを引き連れて再びやってきた。  
「あれ?はるにゃんたちは?」  
「ああ、帰ったぞ。どうした?」  
「じゃあキョンくん暇だね!今から公園行こ!古泉くんも!クロックレンジャーごっこするの!」  
なんで俺を暇だと断定するんだ。しかしそういう遊びはそろそろ卒業したほうがいいんじゃないか?ミヨキチも苦笑いじゃないか。  
「まあ、いいじゃないですか。明日の予行演習だと思えば。それにたまには童心にかえるのも楽しいですよ」  
「決まりだね!じゃあしゅっぱ〜つ!」  
「おい!まだ行くとは……」  
「行きましょう、お兄さん。わたしもお兄さんと遊びたいです」  
そんな邪気のない笑顔で言われたら断れないじゃないか……  
まあいいか、古泉の言う通りたまには公園で遊ぶのもいいかもしれん。  
ちょっと童心にかえってみますかね。  
 
 
 
 
―――――  
 
 
 
 
「キョンくんがレッドで、古泉くんはブラック!ミヨキチはさらわれた女の子だよ!二人はミヨキチを助ける為に時の大王に立ち向かうの!」  
時の大王ね……ずいぶんと強そうな名前なことで。それで、おまえがその大王なんだな。  
「違うよ!わたしはクロック本部の司令官だよ!えーと……クロックごっこする人この指止ーまれ!」  
突然叫んだと思ったら、公園で遊んでいた小さな子供達が妹の周りにわらわらと集まってきた。なかなかのカリスマ性じゃないか。  
「んで、この子達が大王の戦闘員!みんなわかった〜?」  
は〜い、と子供達が声を上げたのを妹は満足気な笑顔で答えた。子供ってのはヒーローをやりたがるもんだと思ったが、どうなんだこれは。  
「すごい統率力ですね。涼宮さんに負けず劣らず、将来一角の人物になるのではないでしょうか」  
「こいつが?はは、そうだといいな。ぜひ俺を楽させてもらいたいもんだ。それよりも、どうするよこれ。この人数を相手にするのは  
 少々骨が折れそうだぞ」  
「そうですね……まあ、ここは教育テレビのお兄さんにでもなった気分で頑張りましょう」  
おまえにはぴったりだな。まあいい、妹は別として子供達と戯れるのも滅多にないことだ。頑張るかね。  
 
 
「いけ〜!そこだぁ、飛びつけぇ〜!!」  
数分後、気付くと子供達からたこ殴りにされていた。いや、まあ予想してたけどな……  
それと、妹よ。滑り台の上から見下ろしてうれしそうだが、おまえ完全に大王側だよな。むしろ大王だろ。  
「ま、まちがっただけだよ!ほら、ミヨキチが助けを待ってるよ!キョンくんがんばれ!」  
さらわれた筈のミヨキチが、なんで妹の隣にいるかは突っ込んではいけないんだろうな。  
それにしても、反撃とばかりに抱き上げたりしても逆に喜んでエスカレートするな。身動きがとれん。こうなったらくすぐって脱出だ。  
「あらあら、楽しそうですね」  
「本当楽しそうね。こんにちは、キョン君。こんなとこで会うなんて運命感じちゃわないかしら?」  
子供達をくすぐって笑わしていると、意外な二人に声をかけられた。  
「どうしたんですか、こんなとこで。あと、朝倉。おまえの運命とやらは嫌な予感しかせんから勘弁してくれ」  
「ただの散歩ですよ。いい天気ですから偶にはペット……いえ、朝倉さんと散歩するのもいいかなと思いまして」  
「二人ともちょっとひどくないかしら……」  
笑顔のまま落ち込んでいるなんとも気味の悪い朝倉を警戒していると、妹が駆け寄ってきた。  
「キョンく〜ん。おともだち〜?あ、このおねえちゃんこの前喫茶店にいなかったっけ?」  
「そうだ。先輩の喜緑さんだ。それとこっちの変なオーラをだしてるのが朝倉。一応同級生」  
「ふ〜ん。ね!おねえちゃん達もまざらない?クロックレンジャーごっこ!」  
しかしこいつは誰とでもフランクに接するな。この物怖じのしなさはたいしたものだ。  
「いいんですか?お義姉さん嬉しいです。ね、朝倉さん?」  
「え!?私も!?……仕方ないわね……もぅ。かわいい義妹さんの為だし……」  
おいおい、マジかよ。適当に断ると思ってたんだが……おかしなことになってきたな。  
「じゃあ、わかめのおねえちゃんは大王ね!時の大王!!」  
「ぷっ!わか……喜緑さん良かったわね!ぴったりじゃない。ぷぷっ」  
「あら……あらあら……あらあらあらあらあら。義姉に向かってそんな……いえ、それよりも朝倉さん?いい度胸ですね」  
妹の物怖じのしなさは、時として俺を危険な空間へ誘ってくれるようだ。……早急に最低限の礼儀は身につかせなければ。  
「それで、太眉のおねえちゃんはお色気担当の女幹部ね。太股もむっちりしてるし!」  
「ふ、ふと!?キョ、キョン君!太くないよね!?むっちりしてないよね!?ううん、例えそうだとしてもそんな私が好きよね!?」  
なに錯乱してんだ。ええい縋って来るな、とりあえず落ち着け。大丈夫、おまえは美人だ。でも太い、太くないについてはノーコメントだ。  
「太いって言った!キョン君が太いって言ったぁぁ!そんなことより愛してるって言ってよぉ!」  
完全にぶっ壊れやがった。はっきり太いとは言ってないんだがなぁ。  
喜緑さん、こいつどうにかなりませんかね?  
「ふふふ、いい気味ですね。唯、どさくさに紛れて抱きつくのはいただけませんね。後で何故再構成されたかたっぷり分からせなければ……」  
あー、いいや。しばらくほっとこう。  
 
 
 
 
―――――  
 
 
 
 
なんとか気をとり戻した二人と対峙してる訳だが、これ……どうしろと?子供達は完全に見物に回って応援してくるし。  
何気に古泉もその中にいるし。この二人相手にパンチやキックなんぞしようもんなら、冗談抜きで命の保障がないぞ。  
「キョンくん!必殺技だよ!ほら、こうやって『ストップ・ザ・ターイム』!」  
妹が妙なポーズで指示してきた。無茶振りしてくれやがって。大体なんだそれは。  
「も〜朝見たでしょ。これをすると一分間、時を止めるのことができるの。その間にぼこぼこにするんだよ!」  
正義の味方かそれ?  
「あら、その必殺技をされたら私は動けなくなるんですか。うふふ、その間にいたずらしてくれるわけですね。ドキドキです」  
「キョン君……やさしくしてね?」  
あれ?なんか変な空気になってるぞ。  
「あ!でも時の大王は、時が止まってる間に逆に止めてくるんだった!」  
「まあまあまあ!私がいたずらできるんですね。なんてことでしょう、わくわくが止まりません」  
「キョン君……やさしくしてあげるね?」  
……テンションの高い喜緑さんなんて初めて見た。朝倉も嫌な微笑み浮かべてるし。ものすごい怖いわけだが……結局俺はどうすればいいんだ。  
「大丈夫!ブルーがそこからさらに時を止めるから!」  
「子供番組に突っ込むのは野暮だとは思うが、これだけは聞かせてくれ。ジョ……じゃなくて、まさか無限ループしないよな?」  
「うん!ブルーで終わり!そこから反撃するの!」  
その最強のブルーがいないわけだが、さてさてどうしたもんかねぇ……二人共適当にやられたふりでもしてくれないかな。  
「家にいないと思ったら、こんなとこで何してんの?」  
なんてこった、大王を倒す前に大魔王が現れちまった。長門から逃れるとは末恐ろしい。  
「誰が大魔王よ!ちゃんと一回家に帰ったわよ。有希ってば全然下ろしてくれないんだから!」  
長門は頑固なとこがあるからな。それにしても、また俺んちに来るとはやっぱり探索をする気なのか?  
やれやれ、こいつも暇だねぇ。ん?妹がハルヒをジッと見てるな。……あ!まずい!!  
「はるにゃんがまた大きくなってる!ねぇ、いつ……」  
「ハ、ハルヒ!おまえもやらないか!?クロックレンジャーごっこ!えっと……ほら、この子達に夢を与えるんだ!」  
あ、あぶねぇ……やっぱりこいつハルヒの危険性を理解してなかったか。  
「何いきなりテンション上げてんのよ。妹ちゃんの口塞いで夢を与えるとか言われても説得力ないわよ」  
妹がふがふが言いながら嫌がるシャミセンのようにくねっていた。確かに説得力ないな。  
「まあいいわ。楽しそうだけど、首痛いから……そうね、司会のお姉さんやってあげる。見たところあの二人が敵キャラね。  
 キョン、朝倉はどうでもいいけど、生徒会の関係者には例え遊びだとしても負けることは許されないわよ。心しなさい!」  
あわよくばハルヒにレッドをやってもらおうと思ったが、そう甘くはなかったか。くそぅ。  
それにしても……負けるな、か。二人に子供を慈しむ心と、俺を労わるやさしさがあることを願うしかないな。  
 
「じゃあ、キョン!……じゃなくてレッド!あの悪者を……」  
「すいません、涼宮さん。ちょっとよろしいですか?やるなら本格的にとさきほど衣装を用意しましたので、彼に着替えてもらいたいのですが」  
古泉が割って入るなり俺にウインクをしてきた。意図は伝わったが、やめろ。気持ち悪い。  
「わかってるわね、さすが古泉くん!ほら、キョンちゃっちゃと着替えてきなさい!そうだ、着替えてもあたしが呼ぶまで待機よ!わかった?」  
「わかったわかった。この場は司会のお姉さんに託すよ」  
俄然やる気になったハルヒを残して、死角になってる茂みの方へ行き、古泉を見張りに立たせて変身。  
「ちぇ〜んじ・れっど〜」  
あ〜もう、マヌケだな。  
「これはこれは。いや〜格好いいですよ。それでは、こちらは準備できたと伝えてきますね」  
適当なこと言いやがって。それにしても、なんで待たなくてはならんのだ。なんか馬鹿みたいじゃないか。はやく呼べよ。  
………………呼ぶ?  
「みんな〜!このままじゃミヨキチが剥かれちゃうわ!助けを呼ばないと!レッドなら格好良く飛んでくるはずよ!  
 みんなわかってるわね?せーので言うわよ!いくわよ、せ〜の!!」  
「「助けてレッド〜」」  
なんちゅう無茶振りしてくれやがるんだ!なんか大人の声も混じってたぞ!親達も巻き込んだのか、畜生!  
あと、ミヨキチになにしてんだ!?  
「声がちいさ〜い!!そんなんじゃレッドに聞こえないわ!もう一度、せ〜の!!」  
「「「助けてレッド〜!!!」」」  
助けてほしいのはこっちだよ、ばかやろう……もういい、普通に出てやる。  
「……は〜い、レッドで〜す。呼んだ?」  
「このあほんだらけ〜!空気よめ〜!!」  
ぶっ飛ばされた。  
 
 
馬鹿なことをやりつつ、やっと戦いの段取りになると、  
「さあ、朝倉さん。不様にやられてください」  
喜緑さんが、実に穏やかな笑みで朝倉に指示をした。これは、ちゃんと付き合ってくれるってことでいいのか?にしてもひどい指示だな。  
「何?その無茶苦茶な命令。ありえないよ。私これからキョン君と戦闘という名のくんずほずれずの絡み合いをする予定なんだけど」  
いや〜な感じのする予定だな、おい。  
「却下です。あなたを再構成したのは私の魅力、美しさ、綺麗な心、もろもろを引き立てる為なんですよ?  
 そんなあなたが彼と絡み合うなんて言語道断です。所詮当て馬なんですよ?わかったら早く這いつくばって下さい」  
……おもしろそうだからじゃなかったんだ。いや、この人の表情を見る限り朝倉で楽しんでるな。ペットとか言ってたし。  
「私が引き立て役なんかすると思ってるの?と言うか、あきらかに一つおかしいのがあるよね!?あなた真っ黒じゃない!」  
「ごちゃごちゃと言ってないで早くして下さい。……光の粒になりたいんですか?」  
「ぐっ!……卑怯よ……バックアップだからって…………ぅぅ……」  
なんか可哀想になってきたな……おい、泣くな。生きてれば、いつかいいことあるさ。ここは大人しく言うことを聞いとけ。  
後で愚痴でもなんでも聞いてやるから。  
「うん……うん……私頑張るね?消されないように、精一杯倒れるね」  
「キョ……レッド?敵の頭を撫でながら囁きかけるなんていい度胸ね?裏切り者は死刑よ?早くぼこぼこにしなさい」  
うわ……司会のお姉さんとは思えない口ぶり。しかしなぁ……いくら宇宙人でも女だしなぁ。でこピンでもしとくか。  
「やっぱり、キョン君はやさしいね。……好き」  
なんだ、こいつ。壊れたまんまだったのか。なんかおかしいと思った。受身も取らずうつ伏せに倒れたし。大丈夫なのか?  
「うふふ、やればできるじゃないですか。とっても不様ですね。ふふ……」  
あ、笑うとこなんだ。  
「さあ、レッドが痴女をやっつけたわ!あとは大王だけ!でも大王相手に普通では勝てないわ。みんな、レッドが必殺技をだせるように応援して!」  
……喜緑さんの瞳が光った気がする。気のせいだよな……  
 
がんばれ〜と子供達の声聞きつつ、嫌々ながらもポーズをとる。はぁ、おばさま達の視線が痛いぜ……  
「ストップ・ザ・タ〜イム」  
「あぁ、どうしましょう。動けません。うふふ……」  
時を止めても、なぜか喋ってる喜緑さんこと時の大王に、当てないよう殴ったり蹴ったりしてみる。  
これで喜緑さんがやられたふりをしてくれれば……  
「あら、いたずらしてくれないんですか?照れ屋さんですねぇ。では私が……」  
「ちょ、喜緑さん!待っ……」  
時すでに遅し。喜緑さんが高速言語を呟くと、俺の身体はぴくりとも動かなくなっていた。そんな設定通りな演出しなくても……  
それに本当に俺を止める必要なんて……って、あ!?……お、ぉぉぅ……  
「ちょちょちょちょ、ちょっと!あんた、何……こ、股間揉んでんのよ!?キョン、あんたも何マヌケな格好で固まってんのよ!」  
そんなこと言われても……お、おふ……動けん……  
「ふふ……うふふふ……ブルーがいないのでこのまま私が好き放題できますね?それと涼宮さん、これは大王の必殺技の特権ですので。  
 ふふふ……どうしてくれようかしら……」  
「は?特権!?……え!?と、特権……」  
ないない!何、特権って!?ハルヒ!ぼーとしてないで助け……おぅ……た、助けてブルー!!  
「さあ、ぬぎぬぎしましょうか。衆目の中、めくるめく桃源の世界へと!?――――――――――」  
突然、喜緑さんが驚愕したかと思ったら、そのまま完全に停止した。助かったのか?お、動けるようになった。いったい何が……  
「おまたせ。喜緑江美里が私に気付かれないよう情報封鎖をしていた為発見が遅れた。思念体へ喜緑江美里を行動不能にしてもらう申請にも  
 時間がかかった。すまない」  
ブルー!……じゃなくて長門!おまえは俺のヒーローだよ!いや、ほんとありがとう。お婿にいけなくなるとこだった。  
「もうこんなことはさせないから安心して。この二人には今から教育する」  
「嘘!?私も!?私は何もしてな……ちょ、長門さん!ゆ、許して……嫌ぁぁ顔掴まないでぇ!持ってかないでぇ!キョン君、助けてぇぇ……」  
長門は動かなくなった喜緑さんを担ぎ、律儀にも倒れたままだった朝倉の顔面を掴むとそのまま引きずって公園を後にした。  
やっぱり格好いいぜ、長門。  
さて……静まり返ったこの場をどうしようか。  
「あーえぇ、うん……そうだ。ミヨキチ、大丈夫だったか?見ての通り時の大王はブルーが退治した。君達も応援ありがとう、もう安心していいぞ!  
 ……ということでレッドは帰る。さらば!」  
「キョ、キョン!待って、次はあたしが大……」  
ハルヒが何か言ってるが、そのままダッシュで逃げる。どうにかするなんて俺には無理。司会のお姉さん、後は任せた。  
 
 
 
 
―――――  
 
 
 
 
とてもヒーローショーとは言えたものではなかったが、目的は俺のレッドの姿を見せる事だったからこの際良しとしよう。  
おまけにハルヒも司会のお姉さん役とはいえ、関わらせることができたし、まあ満足しただろう。  
しかし、明日からご近所さんに何言われるかわかったもんじゃないな。  
やれやれ……とっとと変身解いて時計を外そう。今回も大変だったな……  
「ちぇ〜んじ・れっどなかいじょ〜」  
ほんと、なんだろうねこれ。考えた奴適当過ぎるだろう。……って戻らんな。ちゃんと言えってか?アホみたいだなぁ。  
「チェーンジ・レッドな解除」  
…………………………あ、あれ?戻らん。ちゃんとやってるよな。えーと、左腕を胸にもってきて、  
「チェーンジ・レッドな解除!!」  
…………………………い、いやいや。焦るな、焦るなよ〜。うん、気合が足りないんだよ。そうだよ、何事にも真剣に……  
「チェーンジ・レッドなぁ、解除ぉぉ!!」  
…………………………なんでだよ!!って、いかん、落ち着け。ハルヒは満足したはずだ。楽しそうだった……と思う。い、いや楽しんでた。  
弱気になるなよ、俺。まさかの事態悪化なんて考えるなよ。……も、もう一回。  
「チェー……」  
「焦ってるキョン君もかわいいですね。ふふ」  
「……あ〜、いつから居たんですか?朝比奈さん」  
「う〜ん、初めから?待ち伏せしてましたから。ちゃんとここに来てくれて良かったです。ちょっと不安だったの」  
俺を軽くヘコませることを言いながら、朝比奈さん(大)が安堵したように微笑んでいた。  
このタイミングで現れるということは助けてくれるってことだろう。でも、それなら醜態を晒す前に声をかけてくれても……  
「ごめんなさい、ついつい。それじゃ、そろそろ時間だからキョン君ついてきて。公園の外に車を用意してますから」  
車?なんでまた。まあいいか、それで解決できるなら気にしても仕方ない。  
 
「キョン君、この車です。これ探すの苦労したんですよ。もっとかわいいのが良かったんだけど、イメージも大切かなって」  
朝比奈さん(大)が用意していた車はちょっと歴史を感じるものだった。なんか昔の映画で見たことあるような……お、ガルウイング。  
「デロリアンっていうの。おかしいな、この時代の人のタイムマシーンのイメージはこれだって聞いたんだけど、キョン君知らない?」  
「いえ、詳しくはわからないですけど、確かによく聞きますね、ってやっぱり時間移動するんですか?それだとこの車別に必要ないんじゃ?」  
「あ、違うの。ただドライブするだけ。一応時をかける少女だからそれらしい車にしたの」  
少女!?……なんて突っ込んだらそのまま走り去られそうなのでやめとこう。  
「じゃあ、キョン君乗って。それでこれ、はい。もう少ししたら涼宮さんから携帯に電話がかかってくるから、その時これを読んで」  
車に乗り込むと、封筒を渡された。なんだこれ、会話の指示ってことか?  
「ごめんなさい、私も何が書かれてるかわからないの。今回それ渡してキョン君とドライブって上の人に言われただけだから……」  
「ああ、いいですよ。すぐわかることですから」  
「ふふ、そうですね。キョン君……二人きりのドライブ楽しみましょうね?では、しゅっぱ〜つ!……キャ!!」  
エンストした。大丈夫だろうか……  
 
 
「キョーン!あんた団長に黙ってどこ行ったのよ!まだ戦いは終わってないのよ!」  
なんとか始動することができた朝比奈さん(大)に若干の不安を感じつつ、公道に出る為公園を迂回していると予定通りハルヒから着信した。  
戦いは終わってないとか、あの状況でよく言えるな。……っと、それよりも封筒開けないとな。  
「あの大王は偽者なのよ!本当はあたしが……って!あんた、今の横切った車に乗ってたでしょ!隣のケバイ女誰よ!」  
「ケ、ケバイ……いや、この完璧なナチュラルメイクでそんなことないはず……うん、そうよ。あの距離とスピードで見えるはずないんだから  
 きっと涼宮さんの見間違いよ……だってもはやスッピンだもの。キョン君もメロメロだもの……」  
ハルヒの馬鹿でかい声が聞こえたらしい朝比奈さん(大)がぶつぶつと何か言ってる。ここはそっとしとくべきだよな。  
「ちょっと!何無視してんのよ!聞いてんの!?」  
いけね、ちゃんとしないと。ええと、この紙か。  
「あー、なんだ。誘拐された」  
「は!?何言ってんの!?あんまりふざけたこと言ってるとぶっ飛ばすわよ!」  
……言っといてなんだが、これ本当に大丈夫なのか?ちょいと無理があるんじゃなかろうか。まあいい、続けるしかない。  
「えっと……誘拐というより脅迫されて拉致されてるってとこか。おまえが言ってたケ……ぅん、女の人が変身したレッドの大ファンらしくてな、  
 俺のこの姿を見て異常に性欲を持て余したらしい。ちなみにその女、興奮しすぎて今電話してることに気付いてないみたいだ」  
「何、その変態女!それにあんたはひょこひょことついて行った訳!?節操がないにも程があるわ!」  
「いや、まあ聞け。脅迫されてるって言っただろ。さっきのヒーローショーまがいを見ていたらしくてな、妹が誰だかわかってんだよ。   
 それでこのままついて来ないと、どんな手を使ってでも妹を攫うって言われたんだよ」  
「ちょっと!あんたやけに余裕そうだけど、洒落になってないじゃない!そんな無茶なこと言う変態について行ったら……警察!」  
「待て。警察には言うな。騒ぎを大きくしたくない。ただ性的な軽い悪戯をするって言ってるだけだし、おまえの言うようにレッドの変身した  
 姿に欲情してる変態だ。これを脱げば一気に冷めると思うんだよ」  
「じゃあ早く脱ぎなさいよ!一刻も早く!そして、その女をあたしの前に連れてきなさい!ギタギタにしてやるわ!」  
「それがな、これなかなか脱げなくてな。まぁ、車降ろされてからでもいいだろ」  
「何言ってんの!気合で今すぐ脱ぎなさい!早く!お願いだから脱いでぇ!」  
「ここで変身を解く……」  
「え?何?なんかされたの!?」  
「い、いや!なんでもない。えーと……あ!気付かれた。すまん切るな。くれぐれも警察には言うなよ」  
「ちょ、キョン!待っ……」  
あぶねぇ、これ台詞じゃなかったか。しかし今のやりとりで本当に元に戻れるのか?……大丈夫だよな。  
「チェーンジ・レッドな解除」  
派手なエフェクトもなく、言うと同時に瞬時に戻った。はぁ、良かった……なんとかなったか。  
……って、あれ?時計が外れん。嘘だろ……あいつは俺をどうしたいんだ……  
 
 
「キョン君……私、ケバイ?」  
あ、まだ気にしてたんだ。  
 
 
 
 
―――――  
 
 
 
 
「これからどうするんです?一応元の姿には戻れたので終わりでいいんですかね?」  
「うん、これで終わりだと思うけど、せっかくだからもう少しドライブしましょ。ね?お願い」  
こんな美人に誘われたら断れと言うほうが無理な話だ。いいね、大人の女性。昨日、今日と子供の相手ばっかりだったからやけに落ち着くな。  
「ふふふ、キョ〜ン君キョン君、キョン君とドライブ〜」  
朝比奈さん(大)の調子外れな歌を聞きながら、ハルヒにもう大丈夫だと連絡しようとするが携帯に繋がらない。  
仕方ない古泉に報告も兼ねて頼むか。  
「そういうことだったんですね。あなたが急にいなくなってちょっと焦りましたよ。しかし参りましたね……」  
おいおい、また変なことになってるんじゃないだろうな。せっかく幸せな一時が訪れているのに。  
「その……森さんに伝えてしま……あー、そうだ。涼宮さんなら妹さんを僕に任して公園を飛び出しましたよ。  
 僕から連絡しときましょう。それと、すいません。その車にラジオがついてるか確認してもらえますか?」  
なんだ唐突に。えーと、これだよな。  
「それでは今から言う周波数に合わせてもらえますか?」  
雑音しか聞こえんが、この周波数で合ってんのか?  
「ええ、しばらくそのままにしておいて下さい。一応止めてはみますが無駄だと思うので……健闘を祈ります」  
は?健闘?……切りやがった。意味深なこと言いやがって。なんだよ一体……  
 
「キョン君、どこか行きたい所ある?私としては、恋人が寄り添って綺麗な夕日を見ながら……、そんなロマンチックな所がおすすめです」  
「ははは、特に行きたい所はないので朝比奈さんに任せますよ」  
「うふ、そんなこと言っていいの?じゃあ、キョン君お持ち帰り〜」  
いいねぇ。余裕のある綺麗な人とこういう馬鹿な会話は純粋に楽しいな。ちょっと恥ずかしさもあるがそれもまた良しだ。青春だね。  
『…………ぇ…………ぃ……ぁ…………』  
お、ラジオからなにか聞こえだしたな。上手く聞き取れないが女の人がなんか喋ってる。どこかで聞いたような声だが……  
「キョン君、後ろからありえない速さで車が迫って来てる気がするんだけど、この車線譲ったほうがいいかな」  
「おわ!確かにありえないですね。まあ腹でも壊してるんでしょう、中の人が悲惨なことにならない為にも譲るのが得策ですね」  
「ふふ、追い越し車線ってちょっと怖くて苦手だけど、そういうことなら喜んで譲りましょう」  
普通逆だと思うが、三車線ある道路の真ん中に移った。まあ己との戦いに負けるなよ、頑張れ謎の黒塗り。  
『……ろそろ、……聞こえ…………古泉?…………なるほど……でもそんなこ……関係な……』  
大分聞こえてきたな。なんかの番組って感じがしない。嫌な予感がする……こいずみって聞こえたし……  
「キョ、キョ、キョン君!さっきの車が追ってきました!すごい煽ってきてる!なんで!?怖いですぅ〜」  
「朝比奈さん、落ち着いて。口調が幼くなってますよ。たぶん大丈夫ですから……たぶん」  
『聞こえますか?変態女さん。彼を攫おうとするなんて、身の程知らずですね』  
はぁ……やっぱり森さんだったか。追って来てくれたのは嬉しいが、古泉の奴なりゆきを伝えてないのか?  
「あの……キョン君、変態女ってもしかして私のこと?攫うって何?」  
この人ハルヒとのやりとり聞いてなかったのか……  
『彼を取り返したら、そのままあなたを…………なんて思ってましたが先程古泉から連絡がありました。彼の為だったんですね。  
 それには感謝しましょう。しかし今の状況は問題です。デートですよね?これ』  
ちゃんと伝わってたか。それならこんなに煽らんでも……それに問題ってまたハルヒがどうとか言うのか?なんで機関の人はこう……  
『ふぅ、仕事だからと言って自分を抑えつけるのも限界ですね。年齢不詳でも愛してもらえると知った以上尚更です。……さあ早く止まって下さい。  
 痛い目に遭いたくないでしょう?彼は私が預かりますから』  
……は?  
 
「キョン君……撒きますよ。私だってもう任務なんかどうでもいいです。このまま二人の、甘い愛の世界へ旅立ちましょう」  
は!?何言ってんだこの人達!?朝比奈さん(大)の眼の色もなんか変わって……うおお!?すごい加速!!  
「この車、意外と馬力がなかったからちょっと弄っちゃった。ふふ」  
これでちょっと!?ざ、座席にめり込む。  
『逃がしません!新川ぁ!!』  
『御意』  
嘘ぉ!止めないの!?新川さんって森さんの何!?て言うか何このスピード!はや……他の車が見えん……いやいや、そんなはずは……ま、まず止めないと。  
「あ……てっ……おお、あ、朝比奈さん!信号!あ、あか……信号赤!!」  
信号の存在がこれほどありがたかったことはない。あそこまでならなんとか止まれるだろう。  
「ふ、ふふ……このままスピード上げていけば本当にタイムスリップできそうじゃない?キョン君、どんな時代に行き着いても幸せになろうね」  
み、未来人さんが何かおかしなことになってる!まさか……  
「私達を止められるものはこの世に一つとしてないの!」  
ぶっちぎったぁ!森さん達もぴったりくっついてるし!何を考えてんだこの人達!下手しなくても死ぬぞ!?  
『この程度で撒けると思っているのですか?あんまりみくびらないで欲し……な!?しまった!』  
「え!?なんで!?この速さに追いつくなんて」  
右車線に緑のワンボックスがいつの間にか平行して走っていた。見覚えあるぞこの車……ってこれ幅寄せ過ぎだろ。うお!ドア開けやがった!  
「キョンさ〜ん。あなたのツインテールが助けに来ましたよ〜」  
おい!……聞こえんか。窓開けないと……ってちっさ!窓の中に窓!?なんだ?この車。  
「おい!何ドアをフルに開けてんだ!危ないだろ馬鹿!あと、寄せ過ぎだ!」  
「このくらい寄せないと声が聞こえないじゃないですかぁ。でも大丈夫です。運転してるの九曜さんですから。髪の毛で運転してるのです。  
 正直ちょっと怖いのです」  
九曜か……この速さにいつの間にか追いつくのも不思議ではないな。  
「とりあえず、ドア閉めろ!危なかっしくて見てられん!」  
「心配してくれてるキョンさんに、もう好き好き〜なのですが、それは聞けません!これはあたしにとって汚名挽回のチャンスなんです!」  
「面倒くさいから突っ込まんぞ!いいからドア閉めて離れろ!って、おい!?おまえ、隣にいるの誰だ!」  
「はい!九曜さんです!………えぇ!?」  
さようなら橘。おまえのことはたぶん忘れない。  
「………大丈夫―――――ちゃんと……コントロールできて―――――いる」  
「んん……!もうっ! 焦らさないで下さい!うわっぷ!なんですか!?突然目の前が真っ暗に!」  
風で九曜の髪がとんでもないことになってるな。橘が見えなくなってしまった。どうなってんだありゃ。  
「………私―――――あなたを助ける……車を近づけなくした―――――ほめて」  
なるほど、さっきから他の車を見かけないのはこいつのおかげか。ん?こいつの力があればこの状況なんとかできるな。  
しかし軽々しく天蓋なんちゃらに関わっていいのだろうか……そんなこと言ってる場合じゃないか。死んだら元も子もない。  
「ありがとうな九曜。おまえのおかげでなんとかまだ生きてる。それでついでと言っちゃあなんだが……」  
「……キョン君?浮気は男の甲斐性なんて言葉もありますが、あんまり私を疎かにすると大変な事になりますよ?もっとかまって、ね?」  
『小娘がちょっかいだしてきてますね……やっぱりあの時見逃すんじゃありませんでした。待ってて下さい、今駆逐しますから』  
朝比奈さん(大)のオーラでなぜか言い出しにくくなってしまった。森さんが持っている黒い塊は見なかったことにしよう。九曜、橘を頼むぞ。  
さて、どうするか……このスピードに慣れてきてる自分が嫌だな。  
 
「また別の車が!お、大きい!これってまさか……」  
また?今度は左車線か。うお!でか!なんだこれ、リムジンか?こんな車でも追いつけるのか。  
元がフェラーリなら納得できるが、やっぱり違和感があるな。  
「キョン君!迎えに来たよっ!誘拐されたって聞いてお姉さんびっくりしたさっ!」  
鶴屋さんが窓を開け、かわいらしい八重歯を見せつけるように元気いっぱいな笑顔で手を振ってきた。……この人には宇宙的パワーは通用しないのか?  
しかしよく声が通るな。朝比奈さん(大)側の窓は閉まってるのに。そんなことより誰に聞いたんだ?ハルヒか?  
「鶴屋家の情報網をなめちゃいけないよっ!婚約者が誘拐されて黙ってられるほど、薄情者じゃないっさね!」  
すごいな、呟いただけなのに聞こえるのか……って婚約者!?俺が!?  
「読唇術ができるのだよ。それにしてもひどいなぁ、キョン君がトナカイの時したじゃないか。お姉さん泣いちゃうぞ?」  
あ、ああ……なんだあの時のか。ということは冗談か、そうか……冗談だよ。うん、でも一応口には出さないでおこう。  
「さてさて、その大事な人を攫った不届き者は……おんや〜?みくるにそっくしだねぇ?」  
「ひゃう!ち、違います!そんな人知りません!ひ、人違いでしゅ!」  
まるで小さい方の朝比奈さんだな。さっきからずっと俯いてるし。…………………………………………嘘だろ?  
「あ、朝比奈さん!前、前!前向いて下さい!」  
「朝比奈さん?ふ〜ん?もし、みくる的な何かだったらおしおきが必要だねぇ」  
「違いますぅ……おしおきは嫌ですぅ」  
ぐっ……駄目だ。なんか知らんが、完全に萎縮しちまってる。こうなったらやっぱり九曜だ!  
「キョンさ〜ん、さっきからパンパンと乾いた音がしてるんですがなんなのですか〜?真っ暗で何もわかりませ〜ん」  
「おまえに伝説の言葉を送ってやる。知らぬが華だ。九曜に感謝しとけよ!それでその九曜にお願いだ!」  
「………何?―――――なんでも……言って―――――」  
「この車をどこか安全なとこに誘導して止めてくれ!誰も怪我をしないようにだ。できるか?」  
「………簡単―――――終わったら……なでなで……してくれる?―――――」  
「あぁ、好きなだけしてやる!頼むぞ!」  
「………やった―――――まかせて……頑張る―――――」  
やれやれ、どうにかなりそうだな。  
「キョンさ〜ん、置いてけぼりは寂しいのです〜。何がどうなったのですか〜?」  
『くっ!弾切れ……』  
森さん……  
 
 
 
 
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九曜が止めてくれた場所は、駅前からわりと近くにある広場だった。一時はどうなることかと思ったが無事帰ってこれてなにより。  
朝比奈さん(大)はまだぷるぷると震えているが、まあ大丈夫だろう。お、鶴屋家と機関の車も来たか。誤解とはいえ追いかけてくれたことには  
感謝しないとな。ほんといい先輩だな、鶴屋さん。森さんにしても……ってなんで減速しないんだろう?このままだと橘達の車に突っ込むぞ。  
と言うか、突っ込む気だなありゃ。もうこんなことぐらいでは驚かんぞ。橘以外とんでもない人達だし、なんとかなるだろ。  
「キョンさ〜ん、どこですか〜?止まったみたい……うきゃ〜!なんですか!?また走り……きゃぁぁ!」  
頑張れ橘。九曜はカーチェイス第2ラウンドを選択したようだ。誰も怪我をしないようにって言ったから振り切るつもりなのか。  
うむ、俺もそれが一番平和的だと思う。九曜もなかなか素直な奴だな。今度ちゃんと礼を言おう。おお、すごいドリフト。  
「うひゃ〜、ここはハリウッドかって突っ込みたくなるねっ!」  
「そんな鶴屋さんもさっきまでワイルドなスピードの中にいたんですよ」  
「あはは!そうだねっ!ところでキョン君、この誘拐犯もとい、みくる的な何かな人を預からせてもらえないっかな?」  
「ひどいことをしないって約束してくれるなら、俺は何も言いませんよ」  
森さんに捕まるよりは鶴屋さんに任したほうがいいだろう。みちるの時のように細かいことも気にしないでくれるだろうし。  
「あんがと!肉体的にいじめることはないから安心して!んふふ〜いつまで震えてるのかな?」  
「へ?……ひゃう!つ、鶴屋さん!……ぁ、ぁぁ…………」  
しかし、なんでこんなに怖がってるんだろ?意外と二人の間柄は謎だからなぁ。本当に大丈夫だろうか。  
「キョン君!この車は後で回収するから心配しないでっ!……さぁ、みくるにそっくしなお姉さん。楽しい楽しい鶴屋邸にご招待だっ!」  
「ひぇぇ〜、いやですぅ!延々とかっぽんかっぽんを見せつけられるのは……ひょえ〜マッチョ怖い、マッチョ怖いぃぃぃ………………」  
マッチョ?……行ってしまった。急に一人になると取り残された気分でちょっと寂しいな……  
 
「キョーン!待ちなさい!ステイよ、ステイ!!よしって言うまで動いたら駄目よ!」  
祭りの後の静けさみたいな妙なむなしさに駆られさっさと帰ろうとしていると、最近はいつもカーニバルな奴が人を犬扱いしながら自転車で突っ込んできた。  
俺はハルヒの犬じゃないから無視だ無視……ぐはぁ!  
「動くなって言ったでしょ!それよりもあんた大丈夫だったの!?」  
人を轢いておいてそれはないんじゃなかろうか。  
「変なことされなかった!?穢されてない!?まだ魔法使いになれる身体なの!?」  
「魔法使いってなんだよ。心配してくれてるのはわかったがちょっと落ち着け。古泉から連絡なかったのか?」  
「あんたがここに居ることしか聞いてないわ!他にも何か言ってた気がするけど……て言うかなんで古泉君に連絡してあたしには何もないのよ!  
 まず団長に報告すべきでしょ!」  
「だから落ち着けって。着信履歴見てみりゃわかる。俺については別に大丈夫だ。何もされちゃいない」  
「そう……良かった。それで変態女は?こんなことしてしまった後悔を嫌というほど味あわせてやるわ!」  
「ん?ん〜……逃げた。別に何もされてないんだからいいだろ。俺も下手に関わりたくないから、もう終わりにしてくれ。  
 それよりも疲れた。もう帰るんだろ?途中まででいいからケツに乗せてくれ」  
「……あんたがいいならそれでいいわ。それで、あんた……二人乗りはいいけど女の子に漕がせる気?」  
疲れてるからってのは聞いてくれないのか。まあいい、歩くよりは全然楽だ。ところでこの自転車どうしたんだ?まさか盗った訳じゃあるまいな。  
「どこかでみたアホ顔がアホな顔で暢気に乗っていたからちょっと借りたのよ」  
哀れ谷口。  
 
 
 
 
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「おい、ハルヒ。ちょっとくっつき過ぎじゃないか?」  
「何言ってんのよ。こうしないと危ないでしょ。ん〜……ふふ」  
ハルヒを乗っけてちんたら走ってる訳だが、どうにも落ち着かない。掴まるってより抱きつくって感じで腰に手を回してくるから  
どうしても背中に意識がいってしまう。ぬぅ……やわらかい。  
「あれ?キョン。そこのバス停にいる人……」  
「ん?ああ、佐々木だな。……よう、佐々木、今日も塾かなんかだったのか?大変だな」  
「あ!キョン!…………と、涼宮さん。そうだね、今帰りだよ」  
あら、なんか機嫌悪そうだな。休みの日まで勉強だと仕方ないか。  
「中学の時みたいに送ってやりたいが、見ての通り後ろに大魔王が居座っていてな」  
「馬鹿キョン!どう見てもお姫様でしょうが……いや、今は大王よ!」  
それでいいのかよ……って佐々木がすごい睨んでる。うわぁ……目が合わせられないぞ。何?あの眼力。  
「……キョン?指定席って知ってるかい?簡単に言えば、指定を受けた利用者のみが利用できる座席のことだ。わかってるよね?  
 そして、キョンが言ったように中学生の時僕はよく君に乗せてもらってた訳だ。他に誰も乗せてないよね?これだけ言えば僕が言いたいことわかるかな?」  
どうしよう……全然わからん。  
「無理があるわよ、佐々木さん。ほら、もうすぐバスがくるわ。大人しくバスに乗ったほうがいいんじゃないかしら?」  
「心配しなくても大丈夫よ、キョンがいるから。それよりも止まっている状態で抱きついてる必要はあるのかしら?一回降りたら?」  
「ちょっと脚が痛いの。こうしてギュゥゥ……って抱きつかないと体制が保てないのよ」  
「いや、降りてよ」  
「嫌よ」  
痛い。空気が痛い。ありえない。けどハルヒの胸はやわらかい……いや、馬鹿か俺は。  
どうなってんだこれ、なんでいきなり機関の言う神な人達の戦いが始まってんだ?  
あ、でも佐々木は素質だけだからハルヒ有利だな……って、だから馬鹿か俺は。このままだと……  
「「キョンからも何か言って!!」」  
ほらな、俺にふってくるんだよ。何かって何をだよ。ほんと誰か助けて下さい。  
「いた!キョンさ〜ん、あたしを見捨てるなんてひどいですよ〜」  
「………まだ―――――なでなで……してもらって………ない―――――」  
バス停にバス以外が止まってはいけないと思うんだよ。しかし無事振り切ったか。良かった良かった。  
「九曜さん!?なでなでってなんですか!?ご褒美ですか!?キョンさん、それならあたしにもぉ……はぐぅ!クラッシュ……顔がクラッシュするのです!」  
「橘さん?何回話をすればわかってくれるの?ちょっとみっちり話し合わないといけないようね」  
相変わらずすごい握力だな。飛び込んできた橘を片手で掴んだぞ。  
「涼宮さん。残念だけど今日は譲ってあげる。今からこの子達とちょっと話し合わないといけないから」  
「い、いやです!佐々木さんはこぶしで語ってくるのです!助けてキョ……いひゃう!割れるのです!」  
「でたらめなことは言ってはいけないよ?さあ、九曜さんも……わかってるよね?行きましょう」  
「………ぁぁ―――――許して……ぅぅ―――――」  
佐々木って何者なんだ?宇宙人がめちゃくちゃ怯えてるじゃないか。……九曜ちょっとこっちこい。  
「キョン?何してんだい?場合によっては僕でも怒るよ?」  
「あたしはすでにキレたわ。覚悟できてるんでしょうね?」  
九曜を撫でてるだけで何故怒る。  
 
「ああ、キョンさんあたしには……うひゃぁぁ!佐々木さん、K点突破です!これ以上はほんとに危……ぴゃ〜!」  
「橘さんは少し黙っててね?」  
「……九曜と約束してたんだよ。さっきいろいろと助けてもらってな。だからと言っちゃなんだがこいつは勘弁してやってくれ。  
 大げさなんかじゃなく命の恩人なんだ」  
「………やさしい―――――うれしい……んん―――――」  
こいつ量のわりにすごいさらさらしてるな。長門に次いで癖になる撫で心地じゃないか。なんか和む。  
「……釈然としないけど、キョンの命を救ったのなら我慢しよう。でもそろそろいいんじゃないか?」  
ああ、そうだな。このままだと延々と撫で続けてしまいそうだ。橘も一応女の子だ。あんまり無茶するなよ。  
「今の僕ではそれは約束できないな。じゃあキョン、僕達はそろそろ行くよ。九曜さん、お願い」  
「ええ!?そんなぁ……キョンさん、生きて帰ってこれたらあたしとけっこ、んぎゃぁぁ…………」  
橘の叫び声を残しながら、緑のワンボックスは走り去っていった。  
「騒がしい連中だったわね」  
おまえが言うか。  
「じゃあキョン、あたしを撫でなさい」  
なんでだよ。  
 
 
 
 
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結局時計が外れることはなく一夜明けた早朝、どっぷりと寝ていた俺に、  
「せいやあぁぁぁああああ!」  
妹が肘から降ってきた。  
「お……おまえ……それはないんじゃないか?ちょっと洒落にならんぞ」  
「キョンくんがいけないんだよ!昨日わたしを置いて帰った罰だよ!」  
昨日の夜、散々謝ったじゃないか……おぉ、また7時前だし……  
「クロックレンジャーの時間だよ!早く起きて!」  
「昨日見たじゃないか。頼む、もう少し寝かせてくれ……」  
「ほんとは日曜の朝にやってるんだよ!昨日のは今日最終回だから総集編だったの!だから、は〜や〜く〜!」  
わかったから引っ張るな。このまま行くと階段で俺がおまえのサーフボードになってしまう。  
「上手く乗りこなしてあげるね!」  
「おまえの場合冗談に聞こえん。あーもう、目が冴えてしまった。……おら、行くぞ」  
「きゃ〜、コアラ〜!」  
立ち上がり妹を抱き上げて階段を下りる。う〜ん……俺、妹に甘いのだろうか。だから、こいつこんなにアホな気がする。  
 
 
 
「いや〜!キョンくんが死んだぁ!」  
こらこら、勝手に殺すな。しかし、これ最終回だよな?子供番組で主人公が死んでもいいのか?  
まあ、まだ時間もあるし最終的には生き返るだろうな。さすがにこのまま全滅して終わりって訳にもいかんだろ。  
「あ……ぁぁ…………」  
「……終わったな」  
俺の予想に反して全滅こそなかったがレッドは生き返らずに終わってしまった。なかなかシビアな番組だな。  
抗議の電話とかこないのだろうか。最近は些細なことで怒り狂う親が増えたって聞くが大丈夫なのかねぇ。  
「い、いや……キョンくん……死んじゃ、いや〜!!」  
「のわ!何泣いてんだよ。ええい、抱きつくな。鼻水でぐしゃぐしゃじゃないか」  
「だって……だってぇ…………キョンくんが」  
ここまでのめり込んでるとは思わなかったな。そんなに面白かったか?これ。  
「いいじゃないか。結局ブルーが大王倒して平和になったんだから」  
「意味ないも……ん、キョンくんが死んじゃったら……キョンくんが死?びゃあぁぁぁぁ!」  
おまえは誰に抱きついてるんだよ、まったく……こりゃしばらくこのままだな。  
 
30分後、妹はまだ泣き続けていた。純粋すぎるのも考えものだな。  
「お〜い、そろそろ離してくれないか?腹減ったんだけど」  
「い……やだも……ん。はなさ……ない……もん……ぅぅ」  
さっきよりは落ち着いたが、もう少し時間がかかりそうだ。やれやれ……って、おわ!?なんか玄関からすごい音がしたぞ!!  
「キョォォォォォォン!どこにいる……いたぁ!生きてる!?」  
……こいつはここを自分の別荘か何かと思ってんのか?  
「家だと思ってるわよ!それよりも大丈夫なの!?あ!こんなもの早く外しなさい!」  
尚悪いわ!……って普通に時計外したし。おいおい……最初からこいつに外してもらえば良かったのか?なんだよ、もう……  
「……それで、おまえは何をテンパってるんだ?こんな時間から」  
「何って……レッドが……キョンが死んじゃって……死んじゃ……て……ぅ」  
あ、まずい。  
「ぅ……いや……キョン死んじゃ、いや……いや〜!」  
「だぁ!おまえまで抱きついてくるな!泣くな!おまえもクロックレンジャー見てたのか?子供番組に何感情移入してんだよ!  
 それ以前に俺はレッドじゃないから、落ち着け!」  
「キョンくんが……死んじゃって?……や〜!キョンくん死んじゃ、いや〜!」  
あ〜もう!妹までまたぶり返してきたし。様子を見に来たお袋がイラッとくる微笑を向けてくるし……  
はぁ……まぁいいか。別に悪い気分でもないし。むしろ嬉しいしな。ハルヒもここまでダッシュで来てくれたようだし、  
たぶん時計が外れたのも……まあ、うん。  
「ハルヒ」  
「ぇぅ……な、何?」  
妹の背中をさすりつつ、もう片手でハルヒの頭を撫でる。  
 
 
 
「ありがとうな」  
 
 
 
 
おわり  
 

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