人と人が同じ空間を共有する場合、空気感というのは大切である。  
「………喉渇いたわね」  
「………………はい、お茶ですね」  
例えば仕事や何かの作業をするに措いても緊張感が必要だ。これがないとお喋りやなんやらでだらだらとしてしまいがちである。  
「………暇ね」  
「………………わたしはお茶入れで忙しいですけど」  
しかし、たまには息抜きしないと逆に効率が悪くなってしまうのでお喋りも大切だと思う。  
「………最近、古泉君見ないわね」  
「………………さあ、なんででしょうかね」  
そのお喋りも気の合う奴と冗談なんかを言いながらリラックスするものだ。そしてまた良い緊張感に持って行く。  
「………なんかイラつくわ」  
「………………生理ですか?」  
別にやることがない場合なんかはある種の安心感がないと辛いものだ。喋らなくても平気という空気感だな。  
「………お茶がぬるいわ」  
「………………………………」  
つまり何をするにしても雰囲気というのは大事ということだ。  
「………キョン、さっきからぶつぶつ五月蝿いわよ」  
「あぁ、すまん」  
うっかり口に出てしまってたか。しかしぶつぶつ言いたくなるのもわかってほしい。  
映画の撮影が終わったころからだろうか、部室の雰囲気が悪い。原因は言うまでもなくハルヒと朝比奈さんだ。  
喧嘩をしているのであろうが、なんかこう……はっきりしない。  
二人ともらしくないので、それぞれ二人きりになった時に聞いてみたんだが、  
「……別に喧嘩なんかしてないわ。そりゃあたしが悪かったかもしれないけど……映画なんだし……」  
「……喧嘩なんかしてませんよ。……でも嘘はいけないことだと思います」  
と、全然要領を得ないことを言われた。長門に聞いても、  
「涼宮ハルヒの姿の映像データを私の姿と入れ替えた。つまり私のDVDではキスシーンは私とあなたがしている」  
会話にすらならなかった。  
古泉にも聞きたいがここ最近学校にも来ていない。携帯も圏外なので閉鎖空間に入り浸りなんだろう。  
喧嘩の理由がわからないので俺が仲介するのも難しいのだがこの空気の重さはなんとかしたい。  
このままでは俺は精神的に、古泉は肉体的にボロボロになってしまう。て言うかなっている。  
ならばどうすればいいか。  
二人の話を聞く限りハルヒがなにかしらの嘘を言ったらしいから、ハルヒが朝比奈さんに謝ればいいはずだ。  
しかしあのハルヒだ。そう簡単に謝らないはず。それにこの張り詰めた空気なら尚更難しい。  
だが逆に言えばこの空気を軽くすれば可能性はある。相手は俺にじゃなくて朝比奈さんにだしな。  
そこで俺は考える。一気に雰囲気をよくする方法……  
「笑いか……」  
そう呟いてがらくたが置いてある所を見た。よし、あそこなら見つからずに回収できるな。  
俺にとっては呪いのアイテムだが仕方ない。いつまでもギスギスしている二人を見たくないからな。  
 
そして俺はトイレに行くふりをして無事そいつを回収し、  
 
 
 
トナカイになった。  
 
 
 
―――――  
 
 
 
さて、今俺はトナカイの被り物をして部室の扉の前で佇んでる訳だが、  
「何してんだ、俺は……」  
いくら笑いが欲しいと言っても、これはどうなんだ。端から見たらアホの子にしか見えん。  
冬の惨劇を忘れた訳じゃあるまいに……  
だが仕方ない。俺の笑いに関するものってこれぐらいしか思いつかん。  
冬の経験からするに笑いはとれないかもしれんが、むしろ白い眼で見られそうな気がヒシヒシとするが今の状態より悪くなることはないはず。  
やらなくて後悔するよりってやつだ。今だけは朝倉のやり方に賛同しよう。あくまでも今だけだ。  
よし、いつまでもこんな格好で固まってる訳にもいかない。なるようになれだ。  
 
必死に平静を装いつつ部室に入ると、ハルヒは一瞬俺を見てネットサーフィンをやり始めた。  
朝比奈さんも一瞬目が合ったが、そのままお茶っ葉の整理を始めた。  
長門に至っては本から顔を上げもしない。  
なるほど……なかったことにするつもりか。うむ、軽く泣きそうだ。  
しかし、ここまで体張ってるのに無視されるのは悔しい。せめて一言でも突っ込んでほしい。  
「……何か面白いことないかしら」  
ハルヒ、何かおかしいことならここにあるぞっと椅子に座って凝視してみる。  
「……………………」  
あくまでこっちは見ないつもりか。……こうなったら意地でも突っ込ませてやる。  
三分ほど凝視していたのだがハルヒは一度もこっちを見ることも声を発することもなかった。  
やはり見るだけじゃ駄目だな。かといって話かけるのは負けた気がする。じゃあ……  
「キュイ!キュイ!」  
トナカイの鳴き声なんてわからないがとりあえず鳴いてみた。まあなんとなくイメージで。  
「……………………」  
ほう、まだ無視するか。  
「メェ〜………………メェ〜」  
トナカイなのに羊とはこれいかに。  
「……………………」  
……上等じゃねぇか。  
「トナカイ!……トナカイッ!」  
「……………………」  
これでも無視するのか。あまつさえ机に突っ伏しやがった。ちなみに朝比奈さんもだ。くそっ!まだだ!  
「ぶごぉ〜ぶ、ぶごぉ〜」  
「……………………」  
やばい、そろそろ本気で泣きそうだ。  
「……何?」  
長門!やっぱりおまえは俺の味方だよな!  
「ぶごっ!……ぶごぉ〜、ぶごご!」  
「……そう」  
普通に喋ればいいのにそのまま鳴いてしまった。でも長門が乗ってくれたのでこのままハルヒ達が反応するまでやってやる。  
「ぶ〜ごっご…ごご……ぶごっ!」  
「……いいの?」  
「ぶごっ!」  
……ちょっと楽しくなってきた。  
「ぶごご〜ぶ〜ぶごぉ〜」  
「了解した」  
ふはは、なんかおもしろいぞ。  
「ぶご!ぶごご!ぶ〜ごぉ、んごっ!?……ごはぁ!げふっげふっ!ぜ〜ぜ〜っごふ!ごほっ!」  
「っ!…………」  
「!?…………」  
しまった。調子乗りすぎて唾が気管に入っちまった。なにやらハルヒと朝比奈さんが震えているがそれどころじゃない。  
咳が止まらん。結構ピンチじゃないか?これ。  
「こんちは〜!遊びに………………ぶっ!ト、トナカイが……しかも涙目に……ぶわはははははは!!」  
「……ぶふぅ、ちょ……鶴屋さ……あはははは!」  
「ぷっ……ふふふ。あはははは!」  
「ぜ〜ごほっ。ごふごふ……ふ〜……鶴屋さん?」  
 
天真爛漫なお嬢様の乱入により一気に笑いがこだました。目的は達成したのだが、なんだろうこのやるせなさは。  
まあいい。この空気を逃す手はない。  
「ハルヒ、朝比奈さんになにか言うことがあるんじゃないか?」  
「あはは!その格好で真面目な顔しないでよ。……まあそうね、みくるちゃん約束破ってごめんね?」  
「ふふふ。はい、わたしの方こそ大人げなかったです。ごめんなさい」  
ふぅ、一件落着か。鶴屋さんのおかげだな。どうもありがとうございます。  
「ヒ〜ヒ〜。なんの……ことだい?それよりもト、トナ……ぶわはははははは!!」  
……そんなに笑わなくても。しかし一体なんの約束だったんだ?  
「あんたも説得してきたでしょ。映画のキスシー……ってもうそんなことはいいじゃない!」  
そうかい。まあ俺は二人が元通りになってくれたのでそれで満足だ。  
「それにしても、あんたやるわね。あんたの思惑にはまったのは癪だけどまあこれで良かったわ。  
 そうだ!あんたこれからは動物の格好して場を和ませなさい!」  
「なんでだよ。断る」  
なんで好き好んで恥ずかしい思いをしなきゃならんのだ。  
「ふ〜ふ〜……やっぱりキョン君は最高だっ!婿に来ないかい?婿に!!」  
「ははは、逆玉ですね」  
「!?決まりだねっ!さっそく結納するさっ!」  
「ええ!?鶴屋さん!?キョン君!?」  
慌てている朝比奈さんを見るといつもの日常って感じで安心するなぁ。もちろん冗談ですよ。それ以前に結婚できる年齢じゃないです。  
「そうよ、みくるちゃん。冗談に決まってるじゃない。ね、鶴屋さん」  
「……え?」  
「え?」  
「ふぇ?」  
鶴屋さん、ハルヒ、朝比奈さんが見つめ合って固まってしまった。  
どうしたものかと見ていると長門が俺の膝に座って本を読みだした。そう俺の膝に。  
「えーと……長門?何してるんだ?」  
「本を読んでいる」  
「いや、それはわかってる」  
なんだこの状況。唐突にも程があるぞ。ハルヒがまだ見てないうちにできればどいて欲しいんだが。  
「あなたがここで読めと言った」  
「あー、もしかしてぶごごとか言ってた時か?」  
「そう」  
長門が言うことは絶対的に信用している。でも最近の長門はお茶目さんだ。一応確認しておこう。  
「ちなみに俺は何語を言ってたんだ?」  
「……………トナカイ語」  
ふむ、この表情は嘘だな。  
「嘘はいけないぞ?」  
「……ごめんなさい」  
上目遣いでそう言われると頭を撫でたくなるのは当然のことと言えよう。う〜ん安らぐ。  
「キョン〜?なにをしているのかしら?」  
……さあ、どうする俺?この危機を切り抜けられるすばらしい一言はないだろうか。  
「ト、トナカイマッサージ?」  
自分の馬鹿さ加減にうんざりする。  
「そう、とりあえず殴るわね。……あと、それあたしにもしなさい」  
「とりあえずかよ。それになんでおまえを撫でなきゃならんのだ」  
「いいから!マッサージなんでしょ!」  
「わかったよ。だから殴るのは勘弁してくれ」  
「なら早くしなさい!」  
なぜか上手く切り抜けられた。びっくりだね。  
「わたしにもやっとくれよっ!」  
「わ、わたしにもよろしくお願いします!」  
 
結局、この後下校時間までトナカイの格好のままみんなの頭を撫でていた。  
どんだけシュールなんだよ。  
 
 
 
―――――  
 
 
 
家に帰るとほどなくして古泉から電話がかかってきた。えらく久しぶりだな。生きていたか。  
「ええ、おかげさまで。こんなに神人とランデブーしたのは久しぶりですよ。いやはやまたあなたに助けられたようですね。ありがとうございます」  
「別に礼なんかいらん。俺があんな雰囲気のなかに居たくなかっただけだ」  
「あなたらしいですね。それよりも伝えたいことがありまして……」   
「キョン君遊んで〜」  
妹が電話中にも関わらず背中にしがみついてきた。こら!登ってくるな!  
「はは、相変わらず仲がよろしいですね」  
「あーすまん。で、伝えたいことってなんだ?」  
「はい。例の様に涼宮さんの心の機微を感じとったのですが、なんというか……あなたが変身した時に感じたものなんですよ」  
「つまりなにか?俺がまた変身するとでも?」  
「断言はできませんが、おそらくは」  
おいおい、マジかよ。いったい何を望んでるんだ。心当たりがな……くもない。畜生!まさに畜生じゃないか!  
「何か心当たりが?」  
「ああ、今日放課後にな……」  
「ふおぉぉぉぉ〜」  
突然妹がけったいな声を上げた。まったく……電話中だというのに。  
「キョン君から耳としっぽが生えてきた〜!」  
あーもう、わかったから静かにしなさい。それと早く降りろ。いいかげん重いぞ。  
「あの……」  
「すまんすまん。それでな……」  
簡単に今日の放課後のやりとりを古泉に教えてやった。  
「なるほど……それはそうと先ほど妹さんが……」  
「キョンくんすっご〜い!わたしも耳としっぽほし〜い!」  
ええい!うるさい!俺は妹を黙らせる為、尻尾を妹の口に当てた。……ん?尻尾?  
「大変だ古泉。どうやら俺は本当に人ですらなくなったらしい。鏡を見る限り猫だ。猫男だ。妖怪だ。そんな妖怪いたか?  
 いや、猫娘がいるんなら男もいていいよな?……な!」  
「お、落ち着いて下さい!どの程度変わってしまったのですか?会話できるぐらいですから、そこまで変わってないと思うのですが」  
「あ、ああ……すまん。耳と尻尾があるだけだ。それ以外はなにも変わってない。あ!ズボンが破けてやがる!」  
「そうですか。その程度ならなんとかできそうですね。しかし猫で良かったですね。話を聞いた限りトナカイになりそうでしたから」  
確かにトナカイよりはいいかもしれんが、だからと言って猫で良かったとも思えん。  
「その耳と尻尾はアクセサリーということにしましょう。幸い明日、明後日と土日で学校は休みですからね。  
 明日の探索で涼宮さんが満足しなかった時に備えて、機関の方で校則を変えておきましょう」  
「おいおい。そんなことまで出来るのか?て言うかやり過ぎじゃないか?」  
「動物の耳と尻尾のアクセサリーを許可するだけですからさほど問題ではないでしょう」  
いや、助かるんだが問題はあると思うぞ。ネコミミオッケーってどこのメルヘン学校だよ。  
「まあ、明日で解決するのがベストですね。あなたもその姿で学校には行きたくないでしょう。いくら校則で大丈夫だとしても」  
「当然だ。ネコミミつけた男子高校生とか笑えないどころか恐怖でしかないからな」  
「それではこれから機関の方で打ち合わせをするので、これで」  
「ああ、よろしく頼む」  
電話を切ると妹がまた飛び乗ってきた。  
「キョン君今度はねっこさ〜ん!」  
「あ〜そうだな。それよりも電話中は静かにしないと駄目だぞ」  
「……は〜い。じゃあ遊ぼ!」  
全然反省してないな。そんなやつにはおしおきだ。わしゃわしゃしてやる。  
「きゃ〜キョン君やめて〜、けどやめちゃやだ〜」  
何を言ってるんだこいつは。  
 
 
 
―――――  
 
 
 
「あんたもわかってきたじゃない。団長の言うことを素直に聞くことはいいことよ。けど探索にそんな格好してくるとは、さすがのあたしも予想外だわ」   
駅前に着くなりハルヒが満面の笑みで言ってきた。  
くそっ!このお気楽娘!俺がどんな思いでここまで来たと思ってんだ。そりゃもう道行く人の視線で死ぬかと思った。  
そして今現在、絶賛進行中だ。今日一日これを耐えなくちゃならんのか……  
「それにしてもこれ良く出来てるわね。尻尾なんてまるで本物だわ。うわ!動いた!」  
「彼から昨日の放課後のことを聞きまして、ちょうど僕の知り合いのおもちゃ会社の開発の方が新商品のモニターを探していたので、  
 これ幸いと彼にお願いしたんです」  
「そうなの?ナイスタイミングね。これあたしもできないの?」  
「すいません。まだ試作なのでこれ一つしかないんですよ」  
「そう、残念ね。まあいいわ!キョン似合ってるわよ!」  
全然うれしくない。それよりここは人通りが多いから早く店に入りたい。  
「そうね。今日朝食抜いてきたからキョンよろしくね!それじゃ行きましょう!」  
「おい!それは……」  
反論する前にハルヒはそそくさと店に入っていった。こんな格好にされたあげく朝食までおごりかよ……  
 
「じゃあ、班分けしましょ!」  
ハルヒは遠慮という言葉を宇宙の彼方にぶん投げて、朝食とは思えない程食い散らかし、  
追加で頼んだアイスティーを飲みながらいつもの様に爪楊枝を出した。いい身分だな、おい。  
「嫌だったらあたしより早く来ることね。ほら、早く引きなさい」  
「分かったよ。そう急かすな」  
くじの結果、俺、朝比奈さん、長門とハルヒ、古泉のペアに分かれた。  
ふむ、両手に花だな。これくらいの幸せはあってもいいだろう。  
 
「昼にまたここに集合よ!キョン、そんな格好してるからって遊ぶんじゃないわよ!」  
いきなり不機嫌になったハルヒを見送って、一応二人にこの姿の説明をした。長門はさすがにわかっていたが。  
「ごめんなさいキョン君。それわたしの所為でもあるんですよね」  
「いやいや、朝比奈さんが責任感じることなんか全然ありませんよ。完全にハルヒの気まぐれですから」  
「でも……そうだ!キョン君、長門さん。行きたい所があるんですがいいですか?」  
「いいですよ。どうせブラブラするだけなんですから。長門もいいよな?」  
「かまわない」  
「ありがとうございます。それじゃ付いてきてください」  
そう言うと朝比奈さんは人がうじゃうじゃいる繁華街の方へ歩きだした。なるほど……なかなかの試練を与えてくださる。  
人の視線に軽くトラウマになりそうだったが、ようやく店に着いた。……て、この店?  
「はい!かわいいものがいっぱいです!二人とも早く来てください!」  
「……ファンシー」  
長門が呟いて店に入って行った。ああ、朝比奈さんこの試練は少々酷です。  
「キョンく〜ん。はやく〜」  
軽く妹化している朝比奈さんに引きつった笑みで返しつつ、俺はファンシーなショップへと足を踏み入れた。  
 
「キョン君だけに恥ずかしい思いはさせません。わたしもネコミミをつけます!」  
朝比奈さんによってこれ以上ない恥ずかしい思いを今現在してる訳だが、  
「どうですか?おそろいですよ。みくるにゃんって呼んでください……」  
多少照れながらネコミミをしてる朝比奈さんを見れたのだから文句は言うまい。うむ、すばらしい。  
「……あなたにそれは似合わない。これがお似合い」  
長門が差し出したのはかわいらしい角がついたカチューシャだった。……これ牛か?  
「どういう意味ですか!?」  
「そのままの意味。直球ど真ん中ストレート」  
「わからないですよ!」  
「……はっきり言うとホルスタイン。あなたにぴったり」  
「なんでそんなこと言うんですか!……もう!」  
「まさに牛」  
「うわ〜ん。キョン君、長門さんがいじめます〜」  
朝比奈さんが俺に抱きついてゆさゆさとしてきた。うむ、さらにすばらしい。  
「朝比奈みくる。それはずるい」  
「長門さんがいけないんです!」  
「まあまあ、二人とも喧嘩しないで。ん?長門はねずみか?」  
「そう。ゆっきーマウスと呼んで。あなたは猫。猫はねずみを捕食する。だから私を食べて」  
「長門さん!?」  
「もちろんそのままの意味ではない。ちょっとした変化球」  
「駄目です!駄目です!」  
二人のジャレあいは見てて楽しいな。しかし長門よ、女の子が平気でそんなこと言っちゃ駄目だぞ。  
「駄目?ならあなたと同じにする。にゃがとって呼んで」  
そう言うと長門は高速言語を呟いて、俺と同じ毛の色のネコミミと尻尾を生やした。  
「……おそろい」  
「あぁ!長門さんずるい!キョン君とおそろいなのはわたしですよぅ」  
 
この後、朝比奈さんと長門のやりとりがしばらく続き、最終的には朝比奈さんもネコミミと尻尾を買った。  
やれやれ、なかなか過酷なミッションだった。  
しかし二人がネコミミをしてくれてるのでけっこう気持ち的に楽になった。朝比奈さんに感謝だな。  
 
 
 
―――――  
 
 
 
「ちょっと!どーゆーことよ!なんで二人もネコミミをしてるのよ!!あ!尻尾まで!」  
集合するなりハルヒに胸倉を掴まれ怒鳴られた。何を興奮してんだ。  
「たまたま寄った店に売ってたんだよ。それで二人に薦めたんだ。俺だけこの格好は浮くからって頼んだんだ」  
「そんな……キョン君。あの涼宮さ……」  
朝比奈さんが割って入ってくるのを目で制してハルヒに向き直る。俺の為にやってくれたことだ。  
ハルヒの怒声ぐらいは安いもんだ。  
「でも、二人ともかわいいだろ?俺としてはいい仕事したんじゃないか?」  
「か、かわいい!?…………午後の予定は変更よ。キョンその店に案内しなさい。今からみんなで行くわよ」  
「な!?またあの店に行けと!?それは……いや、わかった。それじゃあ行こうか」  
さすがに断ろうかと思ったが古泉の笑みが引きつっていたのでやめた。  
ハルヒの機嫌が悪いからって訳じゃないはずだ。一応確かめておこう。  
「なあハルヒ。あの店に行くってことはおまえも着けるってことだよな。古泉はどうなんだ?」  
「着けるに決まってるでしょ!古泉君だけ仲間はずれにする訳ないじゃない!」  
「そうかそうか。ならいいんだ」  
すまんな古泉。俺としても心苦しいが、俺を助けると思って我慢してくれ。やっぱり男一人でこの格好は負担が大きい。  
「…………」  
絶句している古泉の肩を叩いて再度ファンシー空間へと向かった。  
 
「どう?キョン。あたしも猫にしたわ!ハルにゃんと呼びなさい」  
ネコミミを着けるなり大声で聞いてきた。もう少しボリュームを落としてくれ。  
「他に言うことがあるでしょ!ほら、あたしがネコミミなのよ!」  
「ん?ああ、かわいいぞ」  
「……ぇ…ぁ……うん……」  
急にしおらしくなったな。どうした、ハルヒ?  
「…………」  
ハルにゃん?  
「っ!?……やっぱりハルヒって呼んで」  
恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。しかし妹も鶴屋さんもハルにゃんだよな。う〜む……  
「僕はこれにしました」  
古泉は狼か。しかしそれはちょっと卑怯じゃないか?なんだその男らしい立派な尻尾は。  
「すいません。ですがこれが僕の限界です」  
俺は軽く限界突破してるがな。まあ同じ様な格好してくれるだけでもありがたい。  
「キョン。ちょっと尻尾着けて」  
「あいよ。後ろ向いてろ」  
尻尾は安全ピンで止める仕様になっている。む、これは……どうしよう。どうしても触れてしまうぞ。い、いいのか?  
「キョ、キョン君!わたしがやります!」  
「あ!みくるちゃん!?……もぅ」  
朝比奈さんに尻尾を奪われ瞬時に着けられた。助かったが……まあ、うん。助かった。  
 
 
 
―――――  
 
 
 
ハルヒと古泉もメルヘンな格好になり、どう考えても頭がお花畑な集団になった俺達は今日は解散ということで駅前に向かっていた。  
「どうしたの?あんた顔色悪いわよ」  
「そうか?それよりあれはなんだ?」  
「ペットボトルね。猫避けのやつじゃない?でもあれ、あんまり意味ないと思わない?ほら、そこの猫も怖がってないわ」  
なんだろう。あのやけにきらきらしてるペットボトルに近寄りたくないんだが。て言うかあの猫なんで平気なんだ?  
そしてなんで俺は怖がってんだ?  
「なに立ち止まってんの?早く行くわよ!」  
ハルヒに手をとられて引きずられながらペットボトルのそばを通ったとき、そばの猫がペットボトルを倒した。  
俺がいる方向へ。  
「うにゃー!!!」  
「!?!?………………」  
……あまりの恐怖で奇声をあげてしまった。しかもなぜかハルヒに抱きついてしまっている。  
さあ、どうするよ。昨日の長門の膝乗せの比じゃないぞ。下手したら入院コースだ。神の一言で切り抜けろ、俺!  
「い、いや……すまん。ずっとこんな格好してたら猫的な感覚になってしまって……」  
ああん、俺ってばなんでこうも頭悪いんだよ。さっきの猫、むちゃくちゃ余裕だったじゃないか。  
「そ……そう。なら仕方ないわね。お、落ち着くまでそのままでいいわ……」  
なんとかなっちゃたよ、おい。しかも、やさしさまで配合されてるぞ。逆に怖いな。  
「だ、大丈夫だ。すまんな」  
ハルヒを離すと同時に朝比奈さんと長門に両脇を固められた。  
「あなたは私が守る。怖いときは私に抱きつくべき」  
「怖いときは年上に甘えなきゃ駄目です!」  
なんか俺、ものすごい駄目な子みたいじゃないか?  
「だ、駄目よ!キョンはあたしが面倒みるんだから!……えーと、団長として!」  
三人娘がなにやら言い争いを始めたので、こそっと離脱した。  
「どうやら猫の本能も多少あるようですね。しかし『うにゃー』って鳴き声も本能でいいんでしょうか」  
「知るか。勝手に出ちまったんだ。あーもう厄介だな。ペットボトルが怖いってなんだよ」  
「まあまあ。それよりもちょっと問題かもしれませんね。あ、本能のことではないですよ」  
古泉が割とマジな声で言ってきた。なにが問題なんだ?  
「なんというか、さっきの出来事で涼宮さんが満足し過ぎたのではないかと」  
「なんだそりゃ。なんで満足できたのかはわからんが、それなら願ったりじゃないか」  
「いえ、『満足し過ぎた』です。つまりあなたの格好がそのままの方がうれしいと無意識に思ってしまったのではないのでしょうか。  
 いきなり抱きつくなんて普段のあなたでは考えられませんからね」  
「意味わからんぞ。結局、今日の内に戻れないってことか?」  
「その可能性があるってだけです。もしかしたら今日中に戻るかもしれませんし」  
「だといいがな。この格好で学校は……ふにゃー!!!」  
隣にいた車がエンジンをかけやがった。しかし、こんなことでこんなにビビってしまうなんて……  
「おやおや、これはびっくりですね」  
ま、まさか……俺は古泉に抱きつくというトラウマ確定なことを!?  
……ん?それにしては細いような。  
「あ、あれ?有希?いつのまにそこに?……て言うかキョン!?」  
「あ!?長門さんずるい!」  
恐る恐る目を開けると上目遣いの長門と目が合った。助かったんだがハルヒの前で瞬間移動はまずくないか?  
「大丈夫。気にしてない様子」  
ハルヒを見ると、飛んでいた。これは滞空時間の長い、良い型のドロップキックだな。  
長門を巻き込まないようにしないとな。よし、来い!  
「ふぎゃ!」  
きれいに決まった。  
 
 
 
―――――  
 
 
 
翌日は古泉の予測通り元の姿には戻らず完全に引きこもって過ごし、現在月曜の朝五時。  
妹が寝ている俺の上で踊り狂っていた。軽い拷問じゃないか。  
「だんしんぐ・くい〜ん!」  
何がクイーンだ。鼻たれ娘め。こんな朝っぱらに兄の上で踊るな。  
「む〜。キョン君、今日学校早く行くんでしょ〜。起こしてあげたのにひどい〜」  
確かに人目のつかないうちに登校しようとしたが、なんでこいつが知ってるんだ。  
「愛のテレパスだよ!えらい?えらい?」  
「あ〜えらいえらい。ありがとな。わかったから早く退けてくれ」  
「えへへ〜。ん〜」  
「何だ?」  
「おはようのちゅ〜。はやく〜」  
無言で妹を強制的に退かして窓の外を見た。やれやれ、まだ薄暗いじゃないか。  
「や〜ん。キョン君のいじめっこ〜」  
喚いてる妹の頭をくしゃっと撫で、とりあえず登校の準備を始めた。  
少々早すぎるかもしれんが、できるだけ人目につきたくないからまあいいだろう。  
 
 
家を出るころに起きてきたお袋に弁当はいらないことを伝え、今はハイキングコースの真っ只中だ。  
さすがにまだ誰も登校しておらず、俺一人で静かに歩いてる訳だが、なんか気持ちいいな。たまにはこういうのもいいかもしれん。  
爽快な気分で歩いてると、  
「おはよ!早いのね」  
一気にトラウマの世界に引きずりこまれた。こいつと二人きりってなんの冗談だ。  
「もう!そんなあからさまにテンション落とさないでよ。いくら私でも傷つくでしょ」  
朝倉はそう言うと頬を膨らました。それよりもなんだその格好。俺への当てつけか?  
「ひどいな〜。これでもキョン君の為にやってるのよ。クラスであなただけその格好は辛いでしょ?私も耳と尻尾を着けてたら  
 みんなの見方も少しは変わってくるんじゃない?」  
確かに朝倉はなぜか人望があるからな。ここは素直に感謝しとくべきなのか。  
「そうそう。それよりも、どう?狐にしてみたの。かわいい?」  
「ああ、そうだな。かわいいんじゃないか?」  
「ふふ、ありがと。この尻尾なんてすごいもふもふよ。触ってみる?」  
そう言いながら俺の体をふさふさと尻尾で撫で付けた。なんか動きがイヤラシイんだが。  
「あらあら、さすが女狐ですね。誘惑はお手の物ですか」  
いきなり喜緑さんが現れた。この人はいつも急だな。  
「おはようございます。それにしてもあなたもですか。その丸っこい尻尾は……狸?」  
「はい。長門さんがこれが似合ってると助言してくれまして。どうですか?」  
「ええ。すごくかわいらしいと思いますよ」  
「うふふ。ありがとうございます。あなたに褒められると気分が高揚しますね」  
なにやら体をくねらしているが、その姿は髪的にも……いやこれ以上は考えるまい。  
「ほんと、喜緑さんにはぴったりね。長門さんもわかってるわね」  
「それはどういう意味ですか?それと今の立場をよく考えたほうがいいですよ」  
「褒めただけよ。それとも他に意味があるのかしら?」  
「あら、そうですか。それはどうもありがとうございます。さすが私のバックアップですね」  
なにやらここにいては危険な気がする。刺激しないように離脱しよう。  
しかし、狐と狸ね……はは、ぴったりだな。  
「どこらへんがですか?」  
「説明が欲しいところね」  
人の思考を読み取るのはやめて欲しい。  
 
 
 
―――――  
 
 
 
登校してきた奴らに最初の方こそ稀有な視線を浴びたが、朝倉のおかげか、はたまた知られざる校則のおかげか今は羨望の眼差しになっている。  
ここで羨ましがるあたり、このクラスはハルヒの影響で人として大事な何かが麻痺してるんじゃないかと疑ってしまう。  
ちなみにそのハルヒは俺と朝倉を見るなり、  
「忘れ物してきた」  
と、不機嫌丸出しの表情で教室を飛び出した。まだ時間が早かったとはいえ、一時間目には間に合わないだろう。  
なんて思っていたら時間ぎりぎりで教室に飛び込んできた。ハルにゃんで。  
「よく間に合ったな。て言うか早すぎだろ」  
「坂を下りた所で新川さんの車に乗った古泉君に出会ってね、家まで乗せてくれたのよ。古泉君も耳と尻尾をつけてなかったから  
 ついでに古泉君のも取りに行ったわ」  
哀れ古泉。しかし車で登校なんて楽しようとした罰だな。  
 
今日は弁当が無い為、ハルヒと一緒に食堂に行き、ネコミミな二人がもくもくとカレーを食べるというある種の異次元空間を作り出し  
今は放課後である。  
「あぅ……わたしも持ってくれば良かったです。……そうだ」  
部室では朝比奈さんだけが耳と尻尾をしてなかったのだが、それが悲しかったのか、  
「うふ。これするのも久しぶりです」  
うさみみを装着した。うさみみメイド……なかなかコアな格好だな。  
「……これを見て」  
ふいに長門が言ってきた。なんだそれ。いや、わかるんだが……  
「狗尾草。イネ科エノコログサ属。通称、猫じゃらし」  
「そうだな。で、それがどうかしたのか?」  
「……パタパタ」  
文字通りに長門がそれをふりはじめた。……まずいな。すごくウズウズする。  
「あー長門。できれば勘弁してもらいたいのだが……」  
「……パタパタパタパタ」  
「あー……う〜………………うにゃ!にゃ、にゃにゃ!ふにゃ!」  
……やっちまった。気付いた時には長門に覆いかぶさる状態で、みんなのなんとも言えない視線を受けていた。  
「い、いや……その……」  
「……パタパタ」  
「うにゃ!うにゃにゃ!にゃん!………………うにゃ!」  
長門さん。本当に勘弁してください。なんの罰ゲームですか、これ。  
「ゆ、有希……それ、あたしにもやらして!」  
「駄目。これは私の。……パタパタ」  
「うにゃにゃ!」  
「む〜……!?……キョン!!」  
いきなりハルヒに襟をつかまれ、おもいっきり引っ張られた。  
「ぐぇ!……何しやがる!!」  
「ふふふ……キョン〜」  
不気味な笑いを浮かべ、俺の喉から顎にかけてこしょこしょと撫でてきた。……こ、これは……  
「ふみゃ〜、……ごろごろ……」  
「ふふふ……ふふ……うふふふ……」  
気が付くと俺はハルヒの膝枕で仰向けでくねっていた。古泉の引きつった表情を見る限りなかなかの地獄絵図なのだろう。  
「ちょ……ハルヒ、やめ……ふみゃ〜」  
「す、涼宮さん……わたしもそれやりたいです!」  
「……私も」  
「無理よ〜、みくるちゃん、有希。キョンが離れてくれないもの〜。ふふ……こしょこしょ〜」  
「ハルヒ、おま……目がこわ…………ごろごろ……」  
このままだと弄ばれてしまう。いや、もう弄ばれてる。はやく元に戻らなければ!男の尊厳にも関わってくるぞ!  
「こしょこしょ〜」  
「ふみゃ〜」  
 
 
―――――  
 
 
それから数日、あの手この手とハルヒに人間のすばらしさを説いていたのだが、その度になぜか朝比奈さんと長門に妨害され、  
俺は未だにネコミミで弄ばれている。  
「やれやれ、なんとか撒いたな」  
この件では唯一の味方と言える古泉と一緒に、ハルヒ達から逃げるように下校していた。さすがのこいつも俺が悶えてるのは、  
見るに耐えないらしい。  
「そのようですね。……しかし、こんなにも流行るとは以外でしたね」  
今北高では、空前のアニマルルックブームだ。どうやら、この学校にはアホの子でいっぱいらしい。  
「みんなイカレてるとしか思えんな。それよりもどうやったら俺は人間に戻れるんだ?説得は無理っぽいぞ」  
「ええ、まさかの朝比奈さんと長門さんの妨害ですからね。まあ、理由はなんとなくわかりますが」  
「言うな。今俺の男としてのプライドは砂上の楼閣なんだ。と言うかほとんど崩壊してる。なにかいい案はないか?俺は限界だぞ……」  
「あるにはあるんですが……あなたが大変な思いをすると。それでもよろしいのなら」  
これ以上に大変な思いなんてまっぴらごめんだが、元に戻れるとなれば選りすぐりしてる場合じゃない。  
しかし、本当に戻れるのか?  
「はい。確実と言っていいでしょう。ただ涼宮さんが……そうですね、あなたの言う故障した状況になるでしょう」  
なるほど……確かに大変な思いをしそうだな。しかし、故障だと?いったいどんな方法なんだ?  
「……………………このような感じで」  
「おい、それ本当に確実なのか?失敗したら俺ここに居られないじゃないか」  
「いえ、大丈夫です。涼宮さんなら、すぐにでもあなたを元に戻すでしょう」  
やけに自信満々だな。まあ、仕方ない。他に方法はないんだ。やるだけやってみよう。  
 
やっと人間に戻れるかとこころなしか安心していると、  
「一体いつになったら僕は普通のキョンに会えるんだい?」  
後ろから声をかけられた。  
「だから、なんでいつも背後から現れるんだ?」  
「僕というサプライズを少しでも与えたい乙女心さ。かわいいと思わないかい?」  
背後から声をかけるとかわいいか……うん、わからん。  
「そしてそれは、裏SOS団こと佐々木団はいつもあなたのそばに!なんて意味もあったりなかったり!?なのです!」  
「しかし、俺だって好きで変身してる訳じゃない。猫男なんてどこの都市伝説だよ」  
「ふふ……そうだね。でもネコミミのキョンも捨てがたいな」  
「おやおや。ここでも需要があったようですね」  
「やかましい」  
「やっぱり無視ですか。でもいつまでも同じ様にはいかないのですよ!ふふふ……じゃーん!猫じゃらしなのです!  
 もう調べはついてるのですよ!これでキョンさんは私に釘付けなのです。それ……ぱたぱた」  
そんなこと言われて誰が見るか。……うお!こいつ俺と佐々木の間に割り込みやがった!  
「ちょ……橘さん!?な、なにを……」  
「うふふふ……ぱたぱた」  
「おま……さ、佐々木……やめさせ…………うにゃ!」  
「キョ、キョン!?橘さん!やめなさい!と言うかキョンから離れて!」  
「うふ……ふふふ……キョンさんが私に……ぱたぱたぱたぱた」  
「うにゃ!にゃにゃにゃ!……やめ…………ふにゃ!」  
こいつ目がイってやがる!どうにかしないと!  
「橘さん?やめなさいと言ってるのよ?この前の反省が出来ていないようね?」  
「ぱたぱ……へ?ふぎゃ!い、痛いのです佐々木さん!」  
えらくドスのきいた声で佐々木が橘の顔を掴んだ。助かった……おお、ちょっと橘が浮いてる。  
「わ、割れます!われ……と……取れるのです!キョンさん、助けて!あなたのツインテールがピンチですよ!」  
「……まだわからないようね。キョン、ちょっと橘さんと今後のことについて話があるからこれで失礼するよ」  
「そ、そうか。えーと、なんだ。お手柔らかに」  
「あぁ、キョンさ〜〜ん。また会える時を楽しみにしてるのです〜〜〜」  
橘は何事か叫びながら佐々木に引き摺られていった。……南無。  
「―――――ぱた……ぱた―――――」  
ぬお!思わぬ伏兵!…………うにゃ!  
「キョン。忘れ物をしたようだ」  
佐々木がすごい勢いで戻ってきた。  
「キョンさん!こんなに早く再開できるとは、もはや運命なの……うぁ!割れるのです!割れるのです!!」  
「―――――ぱた……ぱ……―――――痛い…………ごめんなさい―――――」  
佐々木は空いてる手で九曜を掴むとそのまま二人を引き摺っていった。  
これからは佐々木を怒らせないように気をつけよう。  
 
 
 
―――――  
 
 
 
一夜明け、うまくハルヒが人に戻してくれるよう祈りつつ、朝比奈さんと長門が妨害しないように一日尽くします券で買収し、  
なんやかんやで放課後になり古泉の案を実行した。  
 
「ハルヒ、俺来週から学校来ないから」  
「は?どういうこと?」  
「いやな、この耳と尻尾ずっと着けてたら取れなくなっちまった。病院行ったら耳と尻尾が完全に皮膚と同化してしまってるってな。  
 それで手術ってことになって、来週には海の向こうだ」  
「だ、駄目よ!何言っての!?大体なんで海外なのよ!」  
「仕方ないだろ。日本じゃ手術できる人がいないんだから」  
冷静に考えるとむちゃくちゃだな。普通に考えたら同化するなんてありえないよな。まあ、実際同化してるから全くの嘘ではあるまい。  
「僕が頼んだ責任でもありますからね。優秀なスタッフがいる病院を紹介しました。その病院によると、検査など含めて短くて一年、  
 長くて三年間ほど滞在しないといけないそうです」  
「さ、三年!?そ、そんな……や、やだ。う〜やだやだ……」  
マジで故障し始めたな。よくわかったな古泉。  
「そんなこと言ってもな。ほら、完全に引っ付いてるだろ?引っ張っても…………あれ?」  
取れた。  
「おや、思ってたより早かったですね」  
もう片方の耳も尻尾も取れた。良かったが、なんだこれ。気まずいぞ。  
「あ〜そのなんだ。冗談だ。すまん。いや、本当ごめんなさい」  
「…………」  
これはぶっ飛ばされるな。受身の準備をしておこう。  
「…………った」  
なかなか衝撃がこないな。そんなに力をためてるのか?  
「……かった……よかった。よかったよ〜、びゃあ〜」  
違った衝撃がきた。ハルヒは俺にしがみついて小学生のような泣き声をあげた。なんかいつも以上に退行してないか?  
「ギョン〜びゃあぁぁあ。ギョン〜〜」  
「ハ、ハルヒ、落ち着け。俺が悪かったから。な?」  
「涼宮さん。キョン君の冗談ですからね?もう泣かないで。……それとくっつき過ぎです」  
「そう。彼が言ったのは冗談。……だから早く離れるべき」  
 
朝比奈さんと長門に軽く黒さを感じながらも、なんとかみんなでハルヒを泣き止ました。  
泣き止ましたのだが……  
「そろそろ離してくれないか?おまえの家こっちじゃないだろ?」  
「や!離さない!ずっとキョンといる!」  
あれからハルヒは俺にくっついたままだった。靴を履き替える時ですらくっついたままだった。  
そして朝比奈さんと長門の視線がやばい。なにがやばいって……なんだろう。とにかく怖い。  
「涼宮さん。このままだとキョン君帰れないですよ?キョン君困ってますよ?いいかげん離れませんか?」  
「やだもん!ずっといっしょにいるもん!キョン困ってないもん!」  
もんって……下手したら妹より退行してるな。  
「駄目。あなたが言ってるのは唯のわがまま。早く離れるべき。困ってるのはあきらか」  
「じゃあキョンの家に行く!そのままキョンと暮らす!」  
「だ、駄目ですよ!!」  
「キョンといっしょにご飯食べたり……」  
「だ、だから……」  
「キョンといっしょにお風呂に入ったり……」  
「ふえ!?……」  
「キョンといっしょに寝たりするの!」  
「………………」  
「だからずっとキョンといっしょなの〜〜〜」  
「………………………………………………………………………………とぅ」  
「ぅぐ…………」  
軽く放心状態で見てると、朝比奈さんのかわいらしい両手がハルヒの首筋に落とされ、そのままハルヒは気絶した。  
うむ。これはいいモンゴリアンだ。……って違う!  
「おい、ハルヒ!?あ、朝比奈さん!?なにを……」  
「い、いや……違うんです!これは、あの〜その〜……」  
「朝比奈みくるは正しい。このまま涼宮ハルヒが我に返ったとき、恥ずかしさのあまり大規模の世界改変の恐れがあった」  
「そ、そうです!世界平和です!」  
微妙に朝比奈さんは意味が違ってる気がするが、本当にこんなことでそんな大変なことになったのか?  
「……………そう」  
あれ?なんかあやしいぞ。  
「そ、それにですね。例え何も起きなくてもこのまま開き直られたら堪らないです。……ずっとキョン君にべたべたと……」  
「……ぅ、ぅ……キョン?」  
「お?気付いたか。大丈夫かハルヒ?」  
朝比奈さんがなにやら呟いている間にハルヒが目を覚ました。  
「キョ、キョン〜離れちゃやだ〜ぎゅってして〜」  
「………………………………………………………………………………そぅ」  
「ぅぐ…………」  
今度は長門の手がハルヒの首筋にヒットした。  
「……世界を守る為」  
「ええ、世界平和です」  
 
真っ赤な夕日をバックに朝比奈さんと長門はスパンとハイタッチをした。  
 
 
 
 
おわり  
 
 

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