モテ男の女型化
「な、長門さん!今回はさせませんよ!」
朝比奈さんがカバディの様なポーズで俺と長門の間をシャカシャカ動いてる。
非常に愛らしいんだが、何してるんだろう。
どうしました、朝比奈さん?
「え?えっと…キョン君がまた変身するんですよね?そしたらまた長門さんが噛んじゃいますから!」
どうやら俺を守ってるつもりらしい。それにしても、変身…。うん、まあ変身だな…
「今回涼宮ハルヒは、今のあなたで女になることを望んでいる。だから意識はそのまま。噛む必要はない。」
ということは、ハルヒの扱いになれてる俺で動けるわけか。
子供のときより楽に解決できそうだな。
「万が一があるかもしれない。噛んどく?」
「ダ、ダメです!」
朝比奈さんはまだカバディをしている。
噛まれたことあるんだから痛くないことは知ってるはずなんだが、ここまでされるとさすがにな。
「いや、いいよ。噛む必要ないんだろ?長門にも負担かけたくないしな。」
「……そう。」
若干悲しそうな表情してるな。ここは…
「ありがとな、長門。」
笑顔でそう言って頭を撫でてやる。この撫で心地さはなんだろうね。癖になりそうだ。
「やっぱり長門さんはズルイですぅ!」
「まあまあ、そんなことよりも、」
そ、そんなこと!?と涙目なってる朝比奈さんを尻目に
「まずは女性になる前にご家族に説明したほうがよろしいかと。」
古泉が間に入ってきた。
そうだな。事情は知ってるとはいえ、いきなり女が帰ってきたら戸惑うだろう。
「長門、あと何分ある?」
「約15分。」
あと15分か。ここから家まで5分かからないけど一応急いだほうがよさそうだな。
「よし、帰るか。みんなも来てくれるだろ?」
「ええ。」「…そう。」「見張らないと!」
一名ほど違った意図を感じるが、気にしないでおこう。
―――――
予定通り家に着いたな。良かったおふくろも居る。
さっさと済ませちまおう、みんな入ってくれ。
「ただいま。おふくろちょっと話が…」
「おじゃまします。」「ただいまです。お義母さま。」「!?ただいま。お義母さん。」
さらに一名脱線した気がする。
「おかえり。あら、いらっしゃい。一樹君お姉さんが恋しくなった?」
まだそんなこと言ってんのかこの人は。それよりハルヒのことで話があるんだよ。
「また子供になるの?そっちの方がかわいいから大歓迎よ。」
「親としてどうなんだそれ。そうじゃなくてな…」
言い出すと共に服が破け素っ裸になり、いろんなものが無くなったり出てきたり増えたり減ったりして服が再構成された。
「ハニーフラッシュ…じゃなくて、まあこういうことだ。」
おふくろは固まってるな。長門は気まずそうに俯いてる。古泉も朝比奈さんも顔を赤くして俯いてる。
みんな後ろにいて良かったが…ハルヒよ、変な演出加えてくれるな。
しかし長門さん?もう少し時間あったんじゃないのかな?
「涼宮ハルヒは不思議がいっぱい。」
確かにな。でも目を見て話そうな。
長門によると、俺が女に生まれ順調に育った場合の姿らしい。
男で良かった。俺から見るといろいろきつい。ていうよりも何か気持ち悪い。
「自分の女性姿ですからそう思うのも無理ありませんが、とても魅力的ですよ。」
気持ち悪いこと言うな。フォローしてるつもりか?
「キョン君本当に綺麗…なんだかちょっとくやしいです。」
朝比奈さんはいつもやさしいですね。でも正直に言っていいんですよ?
「あんた女に生まれたほうが良かったわね。」
どういう意味だ。
「………納得いかない。」
不意に今までジッと俺を見つめていた長門がつぶやいた。
何かおかしなとこがあるのだろうかと自分をまさぐってると、ガッと右の胸を掴まれた。
「………治まりきらない。」
長門さん。相変わらずの握力ですね。でもね?このままだとモゲルと思うんだ。よくわからんが勘弁してくれたらありがたい。
「ただいま〜!あっ!みんなどーしたの!?」
ちょうど妹が帰ってきて長門が離してくれた。おかえり妹よ。そしてナイスだ。
「え?おねーちゃんだれ〜?」
5才の俺と同じ口調じゃないか。…来年中学生だよな?
「この人はキョン君ですよ。」
「え!?キョン君??」
「そーだ。ハルヒによって今度は女になっちまった。」
説明すると同時に妹は飛び込んできた。もう少し落ち着いたらどうだ?
「だって〜キョン君きれーなんだもん。それにいい匂いがする〜。」
「わかったから離れろ。いつまでも玄関にいてもしょうがない。」
抱きついてフガフガしてる妹を引き剥がし、みんなを促し居間に向かった。
「えっと…先日とお、同じように…その、機関で…」
「ウフフ♪」
おい、おばさん。そんな熱い瞳で古泉を見つめるな。古泉がしゃべりにくいだろう。
そして俺も寒気がする。
「と…ということですので、彼はまた家訓によって親戚の家に行っているということで、
あと学校のことはこちらで編入、というより交換留学生のような形で工作したのでご安心を。」
いつの間に工作したんだ?…って!俺これで学校行くのか!?
「あたりまえじゃない。唯でさえ成績悪いのにサボりなんて許さないよ。
そんなことしたら有無を言わさず予備校にぶち込むから。」
くっ…卑怯な…
「制服等は明日の早朝に持ってきますので今日のとこはこれで失礼しますね。」
「お、おい。制服って…」
「ええ、女生徒のです。楽しみにしてて下さいね。あ、後で機関の者がサイズを測りに来るのでよろしくお願いします。」
「わかったわ。一樹君何から何までありがとね。今度お姉さんお礼しなくちゃね。バチコーン♪」
ウインクすんな!バチコーン言うな!!あんたほんとダメだな!!!
「で、では…僕はこれで失礼します。」
ハァ…女の制服…これはきついな。
「うーん、それじゃわたしも帰りますね。」
あ、長門も朝比奈さんも結局やることがなかったな。
申し訳ないな。なんか無理に来てもらったみたいで。
「いいんですよぅ。それにキョン君の家ならいつでも来ちゃいます!」
朝比奈さんは本当に心が広いね。
「あら?もう帰るの?せっかくだから一緒に晩御飯でもどう?しまった一樹君帰すんじゃなかったわね…」
「あんま無理に引き止めるなよ。もう時間も遅いんだ。」
「いいじゃない。将来、娘になるかもしれない子と料理してみたいし。」
この前からお約束なことを言ってるが、ツッコンでも無駄なんだろう。
「わかった。お義母さん。朝比奈みくるは帰宅する様なので私が残る。カレーが得意。」
長門の純粋さに心うたれるね。しかしレトルトって得意のうちに入るのか?
「言い回しがズルイです、長門さん!わたしも残ります!」
う〜ん、最近この二人仲良いな。見てて微笑ましい。
「あらあら楽しくなってきたわね。それじゃ台所にいきましょうか。」
「おかーさん!キョン君はわたしのだよ!」
軽くにやけていた俺一人残してみんな台所へ消えていった。若干寂しい気持ちになるが、
まあ、いいか。うまそうなもんが食えそうだしな。
しかし、明日どーすっかなぁ…
―――――
「長門さんはいつもずっこいですよぅ。わたしだって…」
さっきから朝比奈さんがなにやら長門に言ってるが、長門は完全にスルーしてる。
しかし今の俺には気にかけてる余裕がない。羞恥心でどうにかなりそうだ。すごく現実逃避したい。
「それにしても驚きました。パジャマ姿の朝比奈さんと長門さんがいるとは予想外でしたからね。」
そういえば朝、制服を持ってきた古泉がポカーンと口を開けて固まったのはなかなか愉快だったな。
「おふくろが無理矢理泊まらしたんだよ。夜遅くに女の子を一人で帰せないってな。」
そこは俺も同意して二人は妹の部屋で寝ていたんだが、
「長門よ、いつの間に俺のベッドに入ってきたんだ?起きた時さすがにびっくりしたぞ?」
今は女になってるから良い…いや良くはないが、俺だって思春期まっさかりだ。いろいろもてあます。
「そーですよ!一緒のベッドで寝るなんて…恋人同士がすることです!!」
朝比奈さんが叫んだ。やっぱり朝比奈さんも長門を大事に想ってるんだな。こういうやさしさはなんだかうれしい。
「なら問題ない。」
「なにがですか!?」
「彼は一昨日、女の宇宙人がいたら結婚すると言った。私に異論はない。よって結婚できる年までは恋人同士と言える。」
…純粋過ぎんぞ、長門。子供の言うことを真に受けちゃいけません。
「なら、わたしだってお嫁さんです!一緒のベッドで寝る権利があります!」
朝比奈さんもムキにならないで下さい。
「早い者勝ち」
「やっぱり長門さんは卑怯です!」
あ〜もういいや。
二人のやりとりを聞き流しながら、店のウインドウに薄く映る自分を見た。
どう見ても女だな。でも自分で見るとやはり違和感がある。なんか気持ち悪いし。ほんと男に生まれて良かった。
「そんなことないですよ。先日も言いましたがとても魅力的です。そこら辺の女性では歯が立たないでしょう。」
「どこがだよ。女にしたらでかい方だし、目も細い。それにこの髪型だと武士にしか見えんぞ。」
女になったとき髪が腰のあたりまで伸びた。重くて邪魔くさかったのでおふくろにばっさり切ってもらおうとしたんだが
「ダメよ。ポニーテールにできないじゃない。」と却下された。遺伝ってすごいな。
「そーですね…僕から言わしてもらいますと、スラッとして背が高く、細いわりにスタイルが良い。
目が細いと言いますが、そのきつめの目も魅力の一部です。妖艶とも言えますね。そんな目で微笑まれたら男性なんてイチコロですよ。もちろん髪型も良く似合ってます。
あとは、口調を女性らしくすれば完璧ですね。」
「百歩…いや千歩譲っておまえの言う通りだとしてもな、俺のこころは漢だ。制服だけでこんなに恥ずかしいんだ、女口調なんかできるか!」
「それは残念です。しかし今の口調でもそれはそれで…」
クソッ!このニヤケ顔楽しんでやがる!どうにかしてやり返せないだろうか。
…そうだ。多少ベタだが
「さっきスタイルがどうとか言ってたな。ちょっと触ってみるか?なに、男同士だ。気にするな。」
自分で胸を揉みながら古泉に迫る。ほんとに触ってきたら痴漢の称号を与えてやろう。
…しかしほんとにでかいな。朝比奈さんよりは小さいと思うが。
……っていかん。自分で自分の胸を揉んでモンモンとしてしまった。
「遠慮しときましょう。あとが怖そうだ。」
涼しい顔して言いやがった。なんか自滅した気がするな。
「私が触る。」
長門が瞬間移動してきた。よし長門落ち着け。なんか知らんが落ち着け。
「……やはり納得いかない」
言うと同時に両手でわし掴みされた。
オーケーだ長門、これは引っ張るものじゃない。今度こそモゲルと思うぞ?
「有希なにしてんの?あら、古泉くんにみくるちゃんもおはよう!!朝からめずらしいわね!」
助かった…おはよう、ハルヒ。朝から元気だな。
「え?あんた誰?なんであたしの名前知ってんの?なんかキョンみたいなしゃべり方ね。」
しまった!つい普段通り接してしまった。
「彼女は彼の親戚の方ですよ。なんでもまた家訓によってかわりに来たみたいです。」
「また…キョン休みなの?なによ…あたしに知らせないで急に…」
いきなりハルヒのテンションが落ちたな。よし今のうちに機関が用意してくれた名前で自己紹介しとこう。
「あいつからおまえのことはよく聞いてるよ。短い間だがよろしくな。」
できれば今日中に終わらしたいが。
「……あんたキョンの代わりなのよね。じゃああんたもSOS団の一員よ!キョンがあたしのことなんて言ってるか言う義務があるわ!
放課後団室に来なさい!キョン子!。」
またテンション上がってきたな。相変わらずよくわからん奴だ。それよりも
「なんだキョン子って。さっき名前言ったろうが。」
「ほんとキョンみたいな口調ね。キョンの代わりだからいいじゃない。それともキョン美がいい?」
「アホか!それならいっそキョンでいいじゃないか!」
「それはダメね。キョンはキョンだけよ。他の誰でもないわ。」
強引だな、おい!
こうなると自分の意思を変えないだろうな。しかしこのままじゃちょっと悔しい…
「じゃあしょうがない。俺はおまえをハルハルと呼ばしてもらおう。」
「な!?ダメよ!それであたしを呼んでいいのは一人だけなの!」
なんだ?急にあたふたしやがって。母親にでも呼ばれてるのか?
「と、とにかく!あんたはキョン子よ!!」
「ハァ…わかったよハル子。」
「ハルヒ!!」
やれやれ
―――――
朝のホームルームで岡部が簡単に事情を説明し、自己紹介をした。
クラスの奴らは男言葉に多少面くらってたがハルヒの蛮行になれてるせいかあんまり気にならないようだ。
さて、一時間目は体育か。ハルヒが着替えだす前にはやく出ないとな。
おい谷口なにボーとこっち見てんだ?行くぞ。
「え?どこへ?…ハッ!すまん、キョンよ。とうとう俺の時代が来たようだ。先に大人の階段上らせてもらうぜ。
おまえが帰ってきた時には親戚だな…」
何をぶつぶつ言ってんだ?先行ってるぞ。
「ちょっとキョン子!着替え持ってどこ行く気?女子はここで着替えよ!」
…そーだった俺もここで着替えなくちゃならんのか。これはいろいろまずいんじゃなかろうか。
「残念だったね、谷口。キョン子さんは着替え場所を勘違いしてただけみたいだったね。」
国木田…おまえまでキョン子言うか。
「ふふ…甘いな国木田。よく考えてみろ。なぜ俺の名前が谷口とわかったか。それは事前に俺のことを調べていた…
つまり俺に惚れているということなのだ!」
こいつ、脳に虫が沸いてんじゃないのか?まあ一応この寒い誤解を解いておこう。
「あーすまんすまん。キョンからクラスに谷口というとんでもないアホでスケベがいると聞いてな。
こっちを変な目で見てきたからすぐわかった。着替えを見られたくないから連れ出そうとしただけだ。」
「…だそうだから、これ以上変態にならないように早く教室から出よう。」
そう言って国木田は固まってる谷口を引きずって出て行った。ふむ、完璧だ。
それよりもここからが問題だな。
って!みんなもう着替えはじめてる!これはちょっと刺激が…
「あんた何モジモジしてんの?さっさと着替えなさい!なんなら手伝ってあげるわよ…うりゃぁぁあ!」
ハルヒに返事をするまえに脱がされた。こいつ朝比奈さんで慣れてやがるな。
て言うかやめろ!恥ずかしいだろ!
「うわ!でっかい!みくるちゃんには劣るけど揉みごたえがあるわね。」
アホか!揉むな!おい、そんなダイレクトに……そ、そこ…は…こねく…りまわ…すとこじゃ…ハァ…ァ…ん…
「………」
「…ハ…ャ…ゥン…ってアホ!何真顔で揉みしだいとるか!!」
「ハッ!?あたしったら何を?キョンと触れあってるようで…キョン子侮れないわね…」
何を言ってるんだ、こいつは!
しかし危なかった…男で生まれ育った約17年間の大切な何かが壊れるとこだった。
「す、すごいのね…私も…」
ん?なんか視線が…
「キョン子ちゃん…」「少しだけでいいから…」「お、おねえさま…」
真っ赤な顔をした阪中を筆頭に下着姿の女子達がワラワラと…なんか怖いぞ!
「おい、ハルヒ!なんとかしろ!おまえのせいでみんな妙な術にかかってるぞ!」
「え!?わ、わかったわ!あんた達止まりなさい!キョンはあたしのよ!」
「間違えてる!いろいろ間違えてるから!!なにがわかっただ!ハル子!」
「え?え?……ハルヒよ!」
「あーもう!俺は逃げる!先に行ってるからな!」
「ちょ、待ちなさい!キョン子!」
なんで体育の前に疲れないといかんのだ…
―――――
授業はバスケだった。
どーやら女で育った俺は運動神経が良いらしくハルヒと互角以上の対戦をしていた。
「やるわね、キョン子。でもこれを二本とも決めればあたしのチームの勝利よ!」
「そうだな、でも気は抜かないことだ。時間はもう少しある。」
「ふん!いくわよ!」
ハルヒは一本目を決めた。これで同点。
「あ!?」
二本目を外しやがった。
すかさず俺は背の高さを生かしてリバウンドをとる。
「阪中!いくぞ!」
俺は阪中にパスすると全力で前へ走る。「待ちなさ〜い!キョン子〜!」と追ってくるハルヒが少し怖い。
「はいなのね!」
阪中から絶妙なパスを受け、そのまま俺はジャンプをしながら半回転して後ろ向きにダンクをした。
正直気持ちいい。まあゴールの高さはみんなが楽しめるように少し低くしてるがな。
「何格好つけてんのよ〜!」とハルヒが叫んだと同時に試合終了。
悪いなハルヒ。たまにはおまえに勝ちたいからな。
しかしダンクってどうよ?俺本当に女に生まれたほうが良かったんじゃないか?と軽くショックを受けつつ阪中らチームメイトに抱きつかれてた。
うむ、やわらかい。
授業が終わり着替えの時また襲われたりしたが、あれよという間に昼休みである。
「あんたずっと寝ていたわね。」
「勉強は得意ではないらしいからな。」
「なによ、らしいって。」
女の俺は男より馬鹿みたいだ。谷口以上だろう。なんせちょっとした漢字がわからなかったりする。
英語の教師が喋ってることも長門の高速言語に聞こえ、板書もたまに読めないからな。
やっぱり男に生まれてよかった。
「それよりも、おまえ食堂に行かないのか?昼休み終わっちまうぞ。」
「パンがあるからいいわ。それにあたしが居なくなるとあんたも困るでしょ?」
体育が終わってから妙に女子達がまとわりついてくる。
それをハルヒが牽制してくれてるので助かってはいるのだが少し残念なのはなぜだろう。
「なに?あんた、ゆりんゆりんな人なの?アブノーマルもほどほどにしときなさい。」
「なんだよ、ゆりんゆりんって。俺はいたってノーマルだ。」
しかし今体が女である以上そうなってしまうのか?
いかんな。やはり早急に男に戻らなければ。
「そんな男言葉で言われてもねぇ。あんた彼氏とかいないの?」
「そんなものはおらん。」
いてたまるか。
「ふ〜ん、ま、どうでもいいけど。」
じゃあ聞いてくんなよ。
「どーでもよくないのね!大事なことなのね!」
阪中がいつの間にか隣にいた。なんだ?女ってのは気配を消せるのか?どうでもいいが目が少し怖いぞ。
「女の子同士なんて不純なのね…でもキョン君の周りはいっぱい美人さんがいるし…キョン子ちゃんなら…」
「ん?なんだって??」
「へ!?あ、あの…キョン君もいいけどキョン子ちゃんもね!って言ったのね。」
なんだその正月のカレーの様な扱いは。意味がわからんぞ。そしてさりげなく胸を揉むな。
「はいはい阪中さん。キョン子にそっちの気はないわ。それとこの胸はあたしが揉むためにあるのよ。」
「アホか!おまえも揉むな!」
また真顔になって迫ってきたので俺は屋上へと避難した。
ふぅ…しかし女の俺のスペックがだいたい理解できたな。だからどうしたって感じだが。
―――――
くだらないやりとりで昼休みは終わり、午後の授業は睡眠という時空魔法を使って今は放課後である。
「さあ!キョンがあたしの事をなんて言ってるのか事細かく説明しなさい!」
ハルヒは授業が終わった瞬間にまだ夢の住人だった俺を引きずるように文芸部室にひっぱりこんだ。
おまえはもうちょっと落ち着け。拉致された気分だ。
「落ち着いてるわよ!ただ少しキョンがあたしのことどんだけ好きなのか早く聞きたいだけよ!」
いつ好きかどうかの話になったんだ?何をテンパってるんだか。
「そう急かすな。別にたいした事は聞いてないぞ。」
「いいから!」
そう言われてもな…そもそも何も聞いてない。俺自身だし。適当に言っとくか。
「そうだな…無駄に行動力があって周りを疲れさす。特に俺が。と言ってたな。」
「…え?ほんとに?」
ハルヒが不安そうな顔して見上げてきた。
本当の事だがちょっと意地悪だったな。
「でも、そのおかげで今俺はそこら辺の奴らよりずっと楽しい高校生活を過ごせているから、ハルヒには感謝している。だとよ。」
これも本当だが、なにやらこっ恥ずかしいな。
「あ、あたりまえだわ!団長に感謝するのは団員として当然よ!」
「そうかい。良かったな。」
「そ、それで…他には?」
「他?なんだ他って。」
「だから!まだ何か聞いてるでしょ!もっとあたしがこうした方がいいとか、ああしたら可愛くなるとか!」
「何言ってんだ?「こう」とか「ああ」とか言われてもわからんぞ。」
だいたい可愛くってなんだよ。…いやポニーには…っていかんいかん。
「何か聞いてるんでしょ!?もったいぶらずに言いなさい!」
「なにそんな熱くなってんだよ。もう何も聞いてない。」
「あたしはいつも熱い女よ!隠してたら為にならないわよ!」
あーもう、誰かこいつをなんとかしてくれ。
「私のことはなんて言ってた?」
おわ、長門いつからここに居たんだ?頼むから気配を消さないでほしい。心臓に悪い。
「最初からいた。彼はなんて言ってた?」
「い、いや…長門?俺は、その、おまえ知って…」
「なんて言ってた?」
なんだこのプレッシャーは?しかしなんか言っとかないと大変なことになりそうだ。なぜか俺の胸に手をかざしてるし。
「え、えーと…なんでもこなせて完璧なんだけど、どこか危なげで守ってあげたくなる存在…かな?」
「…そう。」
ふぅ…どうやら正解だったようだな。
「ちょっと!あたしにはそういうこと言ってないの!?」
「それよりもわたしには何かないんですか!?」
「みくるちゃん!?」
いつの間に入ってきたんだ?古泉も居るし。て言うかハルヒ以外俺が女に変わってるだけって知ってるだろ。
俺にどうしてほしいんだ?
「涼宮さんや長門さんばかりズルイです!わたしも聞きたいです!」
朝比奈さんそんなに迫られると、どうにかなってしまいそうなんですが…
俺が男って忘れてるんじゃなかろうか。
それと最近この方から「ズルイ」ばっかり聞いてる気がする…うぉ!さらに密着してきた。
「わ、わかりました。えーと、ドジっ娘なんだけど心を癒してくれる天使の様な人…って。」
「え?そんな…ふぁぁ」
「な!?あ、あたしにもそういうのあるんでしょ!?言いなさい!!」
「私にもまだある気がする。」
古泉!ニヤケてないで助けろ!
「いえいえ、僕は彼から何も聞いてないので。」
…もう勘弁してくれ。
この後も三人娘から質問攻めにあった。しかしこれでハルヒも満足したろう。今日中には戻れそうだな。
―――――
透き通るような青い空、やわらかい日差しが散歩にはもってこいの休日の午後、俺は古泉と並んで歩いていた。
まぁいつもの不思議探索な訳だが、
「おい、ほんとにこれで戻るのか?」
「いえ、これは森さんがどうしてもと言いまして。関係ありませんよ。」
今俺は値段が張りそうな白のワンピースを基調とした、森さんプロデュースの格好をしている。
ついでに言えば化粧までしている。つまりまだ俺は女だったりする。
「な!?なんだと!おまえ昨日の夜電話でそろそろ戻りましょうかって俺の神経を逆なでするようなこと言ってたじゃないか!
女らしいとこを見せればいいんじゃなかったのか!?だから我慢して化粧までしたのに!と言うか戻れる方法があるならさっさとやっとけよ!」
「まあまあ、その方法も確実とは言えませんし、十中八九閉鎖空間が生まれますから今まで黙っていたんです。しかし涼宮さんは女性のあなたが気に入ったらしく
なかなか戻りそうな様子ではなかったので森さんに相談したところ明日まで待ってくれと頼まれたんです。」
「俺を女装させたいが為に!?そこは断ってくれよ!」
「あなたはあの微笑の前に逆らうことができますか?」
「……俺が悪かった。」
「いえ、わかってもらえて幸いです。」
朝、森さんに化粧される時に「さすがにそれは…」と断ろうとしたら「しないとダメです。」
と虎も逃げ出すようなオーラで微笑まれたからな。
「しかしな、今はおまえといるからいいが、午前朝比奈さんとパートナーだったろ?びっくりするくらいナンパされてな。
ウザいったらなかったぞ。」
「それだけあなたと朝比奈さんが魅力的だということですよ。」
「アホか。はぁ…しかしモテ期ってのは人生で三度あるっていうじゃないか。その大事な一つで男からモテるってどうなんだ?
そもそも戻ったあとで俺にモテ期ってくるのか?」
「…それ、本気で言ってるんですか?」
「あたりまえだ。おまえみたいなツラがいい奴にモテ期もなにもないだろうがな。」
「ふぅ…これは手に負えませんね。」
古泉は肩を竦めながら溜息をついた。
溜息をつきたいのは俺のほうなんだがな。所詮ハンサムボーイにはわからないことなのさ。
「やあキョン、こんな短期間でこんなにも変わるとは、さすがに驚きを隠せないね。」
あても無くブラブラしてたら突然声をかけられ、振り向くと佐々木が微笑んで見ていた。
なんで俺ってわかったんだ?
「わたし達の情報網だってすごいんです。侮っちゃいけないのです!」
橘もいたのか。古泉は相変わらずニヤケ顔だからほっといても大丈夫だろう。
「俺が女として生まれたらこうなってたらしいぞ。きついだろ?ほんと男で良かったよ。」
「あれ?私のことはスルーなのですか?」
「男で良かったのは同意って言うか男でなくちゃ困るね。それはおいといて今の君はそこら辺の女優より格段に綺麗だよ。」
「そこら辺に女優はいないと思うがな。あんまりからかわないでくれ。」
「僕は正直に言ってるよ。キョンはあらゆる意味でもっと自覚したほうがいいね。」
何を自覚しろってんだ。
「僕っ子と俺っ子…この組み合わせは最強なのです…しかも片方はお姉さま系…
佐々木さん!!やっぱり涼宮さんの力は佐々木さんのほうが相応しいのです!そしてその力でキョンさんと姉妹に!」
「しかし今のキョンが古泉君といるとまさにベストカップルだ。なんだか妬けちゃうよ。」
「あれ?佐々木さんもスルーなのですか?」
「それは光栄ですね。」
「気持ち悪いこと言うな!」
橘が不穏なこと言ってたが佐々木が空気を読んでくれたようだ。だいたい俺っ子てなんだよ…
「―――――あなたは―――嫁……なの?―――――」
ぅお!いたのか昆布娘!
「―――それとも―――――私が……嫁?―――――」
相変わらず何を言ってるのか全然わからない。佐々木も大変だなこんな連中と一緒だと。
「そうでもないな。なかなか愉快な人達だ。少なくとも退屈はしないね。
それでは僕らは用事があるのでこれで失礼するよ。次会うまでには男に戻ってくれてるとありがたいな。
僕には女性を愛でる趣味はないからね。それじゃ。」
「あ!待ってください、佐々木さん!女同士も案外悪くないのですよ!」
なにやら佐々木が爆弾発言をした気がするが橘のせいでよく聞き取れなかった。
「……さて僕達もそろそろ戻りましょうか。」
「そうだな。」
佐々木達を見送りつつ俺達は駅前へと戻った。
―――――
「先ほど手をうちました。これで男に戻れると思います。」
帰宅して風呂に入ってると古泉から連絡があった
「そうか、すまんな。しかし何をしたんだ?なんか嫌な予感がするんだが。」
「明日になればわかると思いますよ。あとのことはあなたにお任せします。」
「あとのことってのが非常に意味深だな。」
「深い意味はありません。あなたならなんとかしてくれるでしょう…っと、すいません案の定閉鎖空間が発生したようですね。」
「何をしたんだいったい…まあいい怪我しないように頑張れよ。」
「そんな色っぽいハスキーボイスで言われると俄然やる気がでますね。それでは。」
アホかとツッコム前にきりやがった。
やれやれ俺ものぼせない内に風呂からでようかね。
…う〜む、自分の体なのに未だに直視できんな。俺もまだまだ純粋だね。
それよりも名残惜しい気分にならない内にさっさと着替えて寝よう。起きたら男だ。
「キョン君おはよー!あ!男に戻ってる!!」
妹の体を張った目覚ましで起こされた。よかった、ちゃんと元に戻ったか。
「あんたやっぱり女のほうが良かったわね。もったいない。」
おふくろが非常に傷つくことを言ってきた。
でも「キョン君は男のほうがいいよー!」と妹がまた抱きついてきたので良しとしよう。
妹よ今度デラックスパフェ食わせてやる。
「キョン君だいだいだいすきー♪」ふむ、キスするのはいいが舌をいれてくるな。
よし今日は気分がいいので早めに学校に行くかね。
いつもより爽快に早朝ハイキングをして教室に入るとすでにハルヒがいた。
「よう、久しぶりだ…な。ハルヒ?」
「そうね。ちょっと団室までついてきなさい。」
なんだろう非常に怒ってらっしゃる。
「よし!断る。」
「………」
ぶん殴られた。
曳きずられながら団室につくとなぜか他の団員がいた。
「昨日古泉君から聞いたわ。あんた隠してることがあるでしょう。」
まさかハルヒにばらしたのか?いや、みんなの表情からそれはなさそうだな。
「何をだよ。別に何も隠してないぞ。」
「とぼける気?古泉君…」
「ええ、では。森さんから聞いたのですが、活発で非常にかわいらしい女性とあなたがそれはそれは仲むつまじく手を繋いで歩いていたのを目撃したと。」
「おい…まさかおまえ…」
「はい、ご想像の通りです。森さんは仕事の関係でそちらにいたそうです、いや〜偶然ですね。」
白々しいわ!あとのことってこれのことか!無茶だろ!!
「さあどーゆーことか説明してもらおうかしら?」
「知らん!事実無根だ!そんなことはいっさいなかった!」
「嘘おっしゃい!その女のどこが良かったのよ!目!?鼻!?口!?この浮気者!!!」
「だから知らんと言っとるだろうが!浮気者って意味わからんぞ!」
「なによ!どうせ昨日別れるときもテールランプ五回点滅さして、
‘今は離れ離れになるけど次に会うときはエアーズロックに行って世界の中心でアイを叫んだけものになって帰ってくる。そして結婚しよう。愛してる。’
てサインだしたんでしょ!?正直に言いなさいよ!」
「五回点滅だけでそんな壮大なサインあるか!!そこは‘あいしてる’だけでいいだろ!」
「やっぱりしてたんじゃない!」
「バイクも車も持っとらんわ!」
「う〜キョンが訳のわからない女にとられちゃう!キョンはあたしのなのに〜あたしのなのに〜〜」
ハルヒが故障した!
「あ〜ん…キョンは…ヒッ…あた…ッのなの…に…うあ〜ん。」
「す、涼宮さん!落ち着いて!キョン君はなにもしてませんから!」
「……そう、古泉一樹が言ってるのは間違い。」
おぉ!この為の朝比奈さんと長門か!助かった!
「……ホント?有希?」
「そう、彼と手を繋いでたのは私。」
長門!?
「ぇえ!?長門さんなんですか!?」
ぇえ!?朝比奈さん!?
「ぅあ〜ん、キョンが〜キョンが〜」
「長門さんズルイですよぅ!!」
「……彼は私のもの。」
なんだこのカオスな状況は。どうにかしろ古泉!おまえにも責任はあるぞ!
「こ、こんなことになるとは…す、涼宮さん落ち着いて僕の言ったことを思い出してください!」
「…ヒッ…ゥ…?」
「活発で非常にかわいらしい女性…つまり涼宮さんのような人です!彼も涼宮さんに会えなくて寂しかったんですよ!」
「……!?」
何を勝手なこと言ってるんだ!
「…でも…有希が…。」
「冷静に考えてください。彼が向こうに行ってる間長門さんはずっとこっちにいたんですよ?彼と一緒にいるのは不可能なんです!」
なぜ俺を睨む、長門よ。
「じゃ、じゃあキョンは…」
「ええ、涼宮さんのものです。」
「なんでだよ!!おまえまで狂ったのか!?」
なんて言ってる間にハルヒが「キョン〜」と俺に向かって飛んできたのだが
朝比奈さんが「させません!」と妙に腰が入った体勢でブロッキングしていた。
朝比奈さんって実は強いのか?
「め〜がっさ〜!キョン君の匂いがするにょろ!!」
ドカンと扉が開けられ鶴屋さんが飛び込んできた。
「ふふぅ…最近キョン君に会ってなかったからね。覚悟するにょろよ。」
鶴屋さんが俺に抱きつこうとしたのを「させない。彼は私が守る。」と長門が立ちふさがった。
「ほほぅ。有希っこ…第2ラウンドだね。いくにょろよ!」
長門と鶴屋さんのカンフーを見ながら思う。どうすんだよこの状況。
「あなたも大変ですね。」
「居たんですか、黄緑さん。」
「驚かないんですね。それとわざと名前間違えました?」
どうしてわかったんだろう。
「この状況で驚くほうがむずかしいですよ。」
「そうですか。それよりそろそろ授業ですよ。なので今は誰もいない保健室に私といきませんか?」
「なのでの意味がまったくわかりません。遠慮しときます。」
「あら、冷たいんですね。」
はぁ、登校するまで気分良かったんだけどな。一気に疲れた。
「まあまあ、男に戻れたのですからいいじゃないですか。」
「そうかもしれんが、おまえこれどうするつもりだ?」
「……どうしましょう?」
古泉はお手上げってな感じで肩を竦めた。俺もお手上げだよ。
……帰ろうかな。
「キョン〜キョン〜キョン〜」
ハルヒに抱きつかれた。
おわり