「キョンくーん、ごはんだよーっ!」  
 いつもの様に疲労困憊でハルヒの我が儘につきあわされ、そして何故か時折放たれる長門からの暗黒ビームと、  
さらに何故かたま〜に放出されるみくるビームに我が身がさんざん焦がされた後、長門の本閉じチャイムで活動は終了となり、  
俺は家に戻ると共にベッドに突っ伏していた。  
 ああ、今日は特にハルヒの我が儘が非道かった。  
 今週末は恐山で霊を捕まえにキャンプしたいとかって、どれだけ思考がぶっとんでいるんだよ。  
 今日は木曜日で言っている曜日は土曜日、つまりあさってだぞ?  
 それに居たとしても会いたいか?  
 死人に。  
 しかも幼い頃に死んだじいちゃんとかならまだしも、赤の他人だぞ?  
 殺されて恨みに恨み抜いて化けて出てきた仏さんとかだったらどうすんだよ!  
 と言うわけで迷惑半分怖いの半分でイタコの人に業務妨害になるとかそもそも週末の二日でどうやって本州の最北まで行って  
泊まって戻ってくるのかとか、大前提として旅費をどうするとかまくし立て、やっとの事で諦めた。  
 ここで古泉が偶然ですね、実は青森に親戚が…とか言い出さなかったのは賞賛に値する。  
 その代わり、日曜は隣町まで不思議探索となったがな。  
 まぁ、目的地が青森から数キロ先の隣町に変わったのであれば、諸手を挙げて喜ぶべきだろう。  
 …そもそもそういう事を喜ぶ事態そのものが喜べないのだが。  
 まったく、あいつも頭はいいんだから、口から言葉が出る前に頭で考えて分かりそうな事を、何で考えなしに言うのだろうね。  
 おかげで、いつもながら心配しなくてもいい事を心配したくなる。  
 無論その被害は俺を始めたSOS団の連中にもれなく降りかかるからだが。  
 で、古泉に言わせれば俺のせいだとか抜かす始末だしな。  
 奴曰く、俺と言う、艦載機が着艦する時に停止させる為のワイヤー並の強力な手綱があるおかげで、ハルヒは気兼ねなく  
我が儘を言ってストレスを発散させられるのだとか言う。  
 ハルヒにとって最近大事なのは、言った事が実現するかどうかではなく、言いたい事を気が済むまで言い切れる事なのだとか。  
 っつーかそもそも奴が俺なんぞの進言をまともに聞いた事があるかい、奴にとって俺は使いっ走りのヒラ団員その1であり  
その2は無いのだぞ、と言ったらあのにやけ超能力者は肩をすくめてやれやれ、のポーズで笑っていた。  
 それこそ俺の役目だ。  
 やりたくないが。  
 そして更に古泉は、彼女は天上天下唯我独尊俺の前に道はない俺の後に道は出来るお前のものは俺のもの俺のものは  
俺のものみたいな傲慢で人の苦労を厭わないむしろ楽しんで人生を歩んでいる外道の様に見えますが、実はあれで、強引にでも  
自分を引っ張ってくれるくらいの頼れる人が居る事を望んでいるのですよ、と言った。  
 ハルヒに対するお前の本当の心情がちょっと見えたが気にしないでおこう。気持ちは分かる。気持ちは。  
 で、それをふまえた上で…俺は当然の科白をつぶやく。  
 嘘つけ。  
 だが、古泉は意味ありげな微笑みのまま、その質問には答えずに手を振りながら帰ってしまった。  
 最近バイトが無いので非常に状況が良い、是非貴方にもこの平和を満喫して欲しい、と言い残して。  
 だから俺は日々ハルヒと言う名のハリケーンの直撃を喰らっているっつーの。  
 本当に、今度アメリカにハリケーンが発生したらハルヒと命名したいくらいだよ。  
 
 やれやれ。  
 
 俺は今年に入ってから何度言ったか分からない決め科白をつぶやいて帰路についた。  
 もうすこしこう、つぶやいて格好の良い科白を言わせてはもらえないもんかね。  
 フッ、とか、問題ない、とか。  
 …いや、似合わんな。  
「キョンくーん! ごーはーんー! ごはんだってばー!」  
 
 おっと。  
 回想にかまけて我が妹を放っておいてしまった。  
 妹は俺が気付くのを待っていたのか、椅子に座ってくるくると回りながら、ごはんーごはんー ほかほかごはんー♪  
 よーくかんでーぜーんぶたーべーよー♪ と幼児番組で流れるような歌を歌っている。  
 嗚呼、妹よ。君は来年、中学生の筈だよな?  
 だのになぜ、もしもお前の横に大きな犬の着ぐるみとかが居たら、さぞかしお似合いだろうな、とか思えるんだろうね?  
「はやく行かないとごはんさめちゃうよー」  
 分かった分かった。  
「はんばーぐーにー、れんこんさーん♪ くずきりしおさばやきなすびー♪ かくしあじにはあわもりだー♪」  
 どういう献立の歌だ。  
 と、俺がベッドから立ち上がっても、何故か妹は椅子に座ったままである。  
「行くぞ」  
「いこー!」  
「いや、だから行くぞ」  
「つれてって」  
 妹は足をぱたぱたさせながら両手をばんざいしている。  
「……」  
 俺は考えるのをやめ、妹の両脇に手を差してだっこした。  
「ふみゅ」  
正面同士で抱き合う形のために胸を圧迫されたのか、腹を押すと音の鳴るぬいぐるみの様な声を出す妹。  
「苦しいか?」  
「んーん。きもちいいの」  
 意味が分からん。  
 肩にあごを乗せてだらりと弛緩している妹を抱きかかえたまま、俺は部屋を出た。  
 さっきまであれだけ騒いでいた妹だが、だっこされた途端に静かになる。  
 呼吸も何かとてもゆっくりだ。  
 眠いのか? と思える様な呼吸である。  
 ところで今の妹の格好、シャミセンに似ているよな。奴も抱き上げると餅が伸びたみたいになるし。  
 で、どうでもいいが妹よ、洗濯板とはこの事だな。  
「ひどーい! キョンくんのえっちー。でも、もっと大きくなったらさわりごこちよくなるもんねー。ちゃんと  
もませてあげるからまっててね」  
 さらりと爆弾発言を放つ妹であった。  
「わたしがいったらー、ミヨキチもそうしたいようなかおしていたからーだからー、いっしょにさわってね」  
 寝言は寝て言えまちがっても両親の前でそういう話をするな思いこみでも聞き間違いでも何でもいいからとにかくとにかく言うなよ!  
 黙れ、とばかりに妹を抱きかかえる腕に力を込めたが、「んにゃん」とむしろ艶のある声をあげやがった。  
 ま、どうせ戯言だ。すぐ忘れるさ。  
 俺はため息と共に台所へと向かう事にした。  
「ふーなずし、おーしずし、かりふぉるにあろーるー…♪」  
 だから力が抜けるから、耳元でその阿呆ソングを歌うなと言うに。  
 まぁ、さっきまでの声と比べると、歌詞はともかく歌い方は子守歌の様な静かな口調なのが幸いだが。  
 その後の夕食は、当たり前だが普通だった。  
 食い慣れた、しかし飽きの来ない母親の料理を食べながら平和な時が流れる。  
 俺はいつ頃から、こういった日常の平穏に涙が出そうな程敏感になったのかね。  
「そうだ、キョンくん、ひとつおねがーい」  
「何だ? ピーマンは食ってやらんぞ」  
「たべてほしいけどぉ、ちがうよー」  
「じゃ何だ?」  
「あのね、ミヨキチのおかあさんがね、このまえころんであしをこっせつしちゃったの」  
 そう言いながらさりげなくピーマンをよこすな。  
「そりゃ大変だ。大丈夫なのか?」  
 
 俺はピーマンを箸に取り、警戒心のかけらもなく開いている妹の口につっこんだ。  
「うん、だからね、あさっておみまいにいくんだもぐもぐ、にがいー」  
「あさって、と言うと土曜日か。そうか、お前はミヨキチに普段からお世話になっているんだから、ちゃんとお見舞いするんだぞ」  
「うん! それでね、どんなおみまいをもっていったらいいか、しらべてほしいのもぐもぐ…やっぱりにがいー!」  
「俺が? まぁいいが、自分で調べた方がいいんじゃないか?」  
「ううん、それでね、キョンくんからってことでわたすの。ミヨキチもミヨキチのおかあさんもよろこぶよもぐもぐ…たべちゃった」  
 そりゃ良かったじゃないか。  
「…つまり、俺にお見舞いを買ってこいと?」  
「えへへー」  
 妹がお願い、と首をかしげて手を合わせる。  
「…まぁ、他でもないミヨキチの事だからな。それくらいなら俺もむしろ喜んで選ばせて貰うさ」  
「キョンくんありがとー! ミヨキチもよろこぶよ! …けふ」  
 ああ、良かったな。よろしく言ってくれ。それとげっぷはもう少し目立たない様にやりなさい。  
「えー、それはへんだよー」  
「何がだ?」  
「いっしょにいくんだから」  
「は?」  
「えー、ミヨキチのおかあさんのおみまいだよ? キョンくんもいかなくちゃおかしいよぉ! おかしいおかしいー!」  
 何がだよ! いや、まぁミヨキチも母親が入院しているなら不安だろう。  
 俺が行っても言葉をかける事くらいしか出来ないが、それでもいいなら喜んで付き合うぞ。  
「わーい! キョンくんとおでかけー!」  
「お見舞いだろうが」  
「てへ」  
 ところで妹よ、お前の言動は何となくだが、漢字が一文字も含まれて無い様な気がして聞き取りにくい。  
 ちゃんと相手が聞き取れる様に発音しないとコミュニケーションとか色々困るぞ。  
「キョンくんがわかればいいもーん」  
 良くねぇよ。  
 それと母上。貴女も笑ってないでもう少しこの戸籍年齢に対して肉体、精神年齢共に未熟な妹に少しでも危機感を持ってください。  
 いや、あんたが居るからいいわよ、じゃなくて。  
 と、この様な感じで放課後の超局地的ハリケーンから精神的サルベージを経て、疲れ果てた心を落ち着かせ明日への滋養  
を得る為の筈の我が家の夕食は、まるで学校で駄目な親子に説教する教師みたいな空気になり、その後の風呂もようやく本当に  
一人になれるかと思いきや、妹がものすごく当然の様に予告無く入って来て、体を洗うだの洗ってだのくすぐったいだのここ堅く  
なっているよだのあげくの果てにはのぼせたとか言ってよりかかってくるわそれを抱きかかえてあがらせて体拭いてやって下着は  
おろかパジャマまで着せるわベッドに寝かせてやるわ思い出したくないがさびしいからおやすみのちゅーしてとか言い出してなんとか  
おでこで許して貰ったとか色々あって、結局風呂ですら俺が落ち着く事は無かった。  
 誰か頷いてくれ。  
 風呂って普通一人で入るよな?  
 な?  
 俺はため息と共にベッドに倒れ込む。  
 ああ、俺の高校生活に置いて本当の安息時間はとうとう睡眠時のみになってしまったのだろうか。  
 神よ、これは何のカルマなのだ?  
 前世の俺は釈迦か仏陀かガンジーか何かか?  
 ならば、なんとしてもこの最後の安息時間だけは守らなくてはならない。  
 なんとしてもだ。  
 だから次の日の朝、目が覚めたとき顔の横に妹のだらけきった寝顔がくっついていて俺の口から頬にかけてべったりとよだれが  
ついていたのも、小さい手がパジャマの中に突っ込まれ、早起きなアレをホールドしていたのも、足がカニばさみみたいに俺の足に  
絡んでいたのもきっと夢に違いないのだ。  
 
 夢なんだよっっっっっっ!  
 
 
 疲労を癒す最終手段である睡眠が、起きた瞬間に回復量以上の疲労を伴う場合、それは睡眠の意味を成すのだろうか教えて偉い人、  
と考えつつ俺は妹を引き剥がし、無我の境地で着替えを済ませ、下へと降りた。  
 その間、終始熱い視線を感じたのも絶対に気のせいだろう。  
 朝食の席に座ると妹が後からやって来た。  
「おはよーキョンくん。いいあさだね」  
 そのにこにこお日様笑顔が俺は怖いよ。  
 結局授業中が比較的だが落ち着く時間となってしまった俺は、何の気まぐれか授業に集中していた。  
 おかげで、頭脳が栄養を欲しがっているのか昼の弁当が妙に美味い。  
 ハルヒも弁当であり、団長と弁当付き合うのは団員として当然だとか言う事で、何故か机をひっくり返しての弁当時間となった。  
 そして、ハルヒは今日の授業中の俺の事を言い、どうしたの? どっか悪いの? とか聞いてくる。  
 普通なら失礼だな、と言う所だが、奇遇だな。俺も同じ事を自分に聞きたいよ。  
 人格障害はシャレにならないわよ、と言っていたが、んな事は分かっているよ。  
 つうかあれは、発症している本人がそもそも自分がそうだと気付かず、ともすれば気遣う人に対して何故か敵意を向けやすいのが  
やっかいなのであって、客観的にそれに気付く様なら心配はない。  
 つまり俺はそういう心配はないのだ。  
「でも…ちょっと疲れてはいない?」  
 ハルヒの眉毛が少し下がっている。  
 お前は本っ当にどうでもいい事にも無駄に鋭いな。  
 そうやって周囲に向かって何か面白い事はないか、とか電波を飛ばしている訳か。  
「電波とか言わないでよ! …それに、どうでもいい奴だったら、体調なんて気付きたくもないし…ぶつぶつ…」  
 何か言ったか?  
「うるさい! 今日はあんたが掃除当番でしょ! さっさと掃除してさっさと部室来なさい!」  
 へいへい。ところで掃除の前にまだ午後の授業があるんだが。  
「よ、よけいなつっこみはいいの! 食べ終わったらさっさと机戻しなさいよ! いつまで顔見て無くちゃいけないのよ!  
 ごご、誤解されるでしょ!」  
 俺は何にだ、と呟き机を戻す。  
 谷口曰くいつも通りの痴話喧嘩が終わった後、かくして午後も滞りなく時が進む。  
 その後、俺は掃除を終わらせてから部室へと向かった。  
 まったく、何の因果か体が完全に日々の行動として覚えちまっているね。  
 今日はたぶん俺が最後だろうが、部屋へ入る前のノックは忘れない。  
 朝比奈さんは時々狙っているかの様な嬉しいボケをかましてくれる。  
 いつかの下着姿目撃時は、足がもつれたのか何故かこっちに倒れ込んで、俺に覆い被さる様になっちまったうえに下着を  
隠そうとした手がうっかり俺の股間を触り、危うく理性が飛ぶところだった。  
 だがその後、ヘラクレスも真っ青な英雄的精神力で朝比奈さんから離れた俺を、賞賛するどころか逆にヘタレを見る様な  
じと目で見ていた気がするのだが何故だろうね?  
「はーい、どうぞ」  
 今日も鈴の様な声が耳に心地よい。  
「こんにちは、朝比奈さん」  
「こんにちは。お茶煎れますね。コーヒーと緑茶、どちらがいいですか?」  
「ありがとうございます。今日はコーヒーでお願いします」  
「分かりましたぁ、お待ちくださいご主人様」  
 何か変な本読んだのかこの人は。  
 それとご主人様のところを妙に強調するのは危険ですよ。  
 だが、ああ、この笑顔のためにきっと俺は、SOS団と言う最前線に毎日通っているのだろうなぁ、などと考えながら定位置に  
座ると、対面のにやけ面がボードゲームを取り出して『やらないか?』とばかりに微笑んだ。  
 相手はしてやるから、そのノンケも食っちまいそうな微笑みを何とかしろ。  
「お待たせしましたぁ」  
 朝比奈さんが、清楚で上品なティーカップに香りの良いコーヒーを注ぎ、俺の前に置いてくれた。  
 ああ、至福とはこの事。  
「いつもすいません、それにいつもながらカップも清潔で、本当にすばらしいですね」  
 
 水が出て排水できるだけの最低限の機能しか無い水場なのに、ティーカップ、ティースプーン共に曇り一つ無い完璧な  
磨きが成されている事は実際驚嘆に値する。  
 そんな俺に、朝比奈さんは当然です、と小鳥の様に首をかしげて微笑む。  
 朝比奈さん、貴女の微笑みは一つ一つが歴史に残すに値する美しさですよ。  
 ふと古泉の茶碗を見ると、最初はコーヒーが入っているのかと思ったのだが、実は茶渋が積み重なってお茶が黒く  
見えていただけだったと言う事実は気にしないでおこう。  
 そして長門はと言えば、今日も今日とて昨日と一ミリも位置がずれていないのではと思わせる窓際の定位置で、相変わらず  
分厚いハードカバーの本を清流のせせらぎの様に淀みない流れで読みふけっている。  
 何とはなしに顔を見ていると、不意に長門が顔を上げる。  
 あ、すまんな、視線が気になったか?  
「……」  
 長門はゆっくりと首を横に振り、そのまま今度は俺の顔を見つめ続けた。  
 あ、いやそんな風に見つめられても困る。読書を続けてくれ。  
「……」  
 言ってからも尚十秒ほど俺を見詰め続けてから、長門はようやく本に視線を落とした。  
 いや、読書のじゃまをしたのは悪かったと思っているから、そんな悲しそうな表情で顔を落とさないでくれ。  
 そう言えば、長門って悪魔超人も裸足で逃げ出す完璧超人なのに、実は寒がりらしいんだよな。  
 少し前、まだ雨が降ると肌寒くなるくらいの季節だった頃、雨が降り、俺と長門しか部室に居なかった日、不意に長門が  
俺の横に座って寒い、と言ってきた。  
 ガウンを貸すかと言うと、貴方が寒い、とか言っていきなり俺の上に座って読書を始めた時は驚いたね。  
 どうしていいか分からず、暖かいか? と聞いたら背中が温かい、と答えたから役には立ったんだろう。  
 あいつ、冷え性かも知れん。  
 しかも少し経ったら、今度は前が寒いと言って、躊躇無く両足を割って俺に跨り、正面切って俺に抱きついてきたのは驚いた。  
 両腕を首に回し、顎を肩に載せて背中に回した手で本を読むという離れ業には何とも困ったものだった。  
 いや、何にと言うか、つまり、いくら俺が長門に対しては紳士でありたいと思っていても、こうも無防備にくっつかれては…何と  
いうか、一人相撲ではあるのだが気分が少しは変になる訳でだ、失礼をしない様、少しでも腰を下げようとするのだが、  
よほど寒いのか長門の足は俺の足にからみついてびくともしない。  
 と言うか長門さん、寒いという割には密着している部分が汗ばむくらい熱い気がするんですけど。  
 そしてなんか熱の気流に乗ってほんわかと、男心をくすぐるいい香りがするんですけど!  
 そして股間の部分を! 股間の部分を時折動かすのは勘弁してください! もう少しでもう少しです!  
 俺はひたすら煩悩退散悪霊退散やっぱり頼れる陰陽師に悪しき心を浄化してと願い続けた。  
 暫くして俺もやっと落ち着いた頃、長門は体が温まったのか不意に体を離し、定位置の椅子へ戻った。  
 俺は内心汗だくで自分の精神力を褒めていたのだが、その時ほんの微かに、いくじなしと言う声が聞こえたのは気のせいだろう。  
 と、回想はこれくらいにしよう。  
 万が一この回想が誰かの変な能力と言うか勘と言うか邪悪アンテナで受信された日には大変な事になる。主に俺が。  
 と、長門の様なおとなしめな女の子に見詰められるってのは悪くない事の筈だが、あの瞳に見詰められるとどうにもこうにも  
緊張するね。  
 いや、ヘタレとか言うなよ。俺はあいつには本当に頭が上がらないんだ。  
 さて、今日のハルヒはと言うと団長席で今日もインターネットと睨めっこだ。  
 眉をしかめたり時折不敵に笑ったりと見ていて飽きないと言えば飽きないが、何を考え、何を言い出すか分からないので素直に  
笑えないのがハルヒクォリティ。  
 少しは下げてもいいんですよ?  
「何か気になりますか?」  
 古泉がそっと耳打ちする様に問いかける。  
 だから顔を近づけるな。  
「いやな、恐山こそ回避したがまた何かトンデモ探検プランをぶち立てたりしないかと不安なだけだ」  
「それは確かに恐ろしいですね」  
 どう見てもそういう顔をしていないぞおい。  
「キョンくん、コーヒーのおかわりはいかがですか?」  
 ありがとうございます朝比奈さん。  
 いつもながらヴィーナスが泣いて逃げ出す愛らしい笑顔ですね。  
 
「…そ、そんな事…いけないです、私…」  
 あ、うっかり声にしてしまった。  
 途端にサクランボの様に頬を染めるマイエンジェル。  
 だがまぁ、事実なのでいいだろう。  
 と、ボードを見るとポーンの駒を持つ古泉の手が空中で止まり、すかした笑顔の口元が引きつっている。  
 窓辺から冷気を感じるかと思えば長門が再び俺を見詰めていたし。  
 いや、今の長門の視線は見詰めていると言うよりはっきり言えば睨んでいる、だ。  
 なんか知らないけどすいませんすいません勘弁してください。なんか体の表面に冷気で霜が張りそうです。  
 同時に、パソコンのモニターに隠れて顔は見えないがハルヒからは火炎放射器もかくやと言わんばかりの強烈な熱波が  
放たれている。  
 ああ! なんだってこの部室はこれだけの奇人変人の集まりだってのに一般人選手権世界代表の俺のどうでもいい一言でこうも  
居心地が悪くなるのかね!  
 何が気に入らないのか知らんが言いたい事は口に出して言いなさい! 善処するから!  
 あ、いやいや、ハルヒや古泉はともかくとして長門や朝比奈さんは奇人でも変人でもないぞ。  
 これほんと。  
 と、俺は今度こそモノローグで弁明しつつ、ただひたすら熱波と冷気に耐える事にした。  
 うん、それ無理。  
 現状の打破が必要だ。  
 俺は当てにはならないと思いつつも昨日の古泉の科白、そして妹がおとなしくなる俺なりの対処について考えた。  
 丁度いい。なら実践で試すか。  
 それに、そろそろ調べ物をしなくちゃならんしな。  
 先ほどと比べればだが、時間が過ぎ、幾分殺気が和らいだ中、俺は丁度チェックメイトとなったチェスのテーブルから立つ。  
 古泉はさすがですね、と肩をすくめて笑う。  
 お前は本気にしろ手抜きにしろもう少し負けたという自覚をアピールしろ。  
「さてハルヒ、ちょっと席変われ」  
「嫌よ」  
 ハルヒは視線も上げずにモニタを見つめながらマウスをガチャガチャといじっている。  
 もう少し優しくやらんとそのうち机かマウスが削れるぞ。  
 しかも、何を見ているのかと画面を見れば、コスプレのネットショップときた。  
 朝比奈さんの衣装をまた増やす気かお前は。  
「どうでもいいな。どけ」  
「聞こえなかった? 嫌って言ったの。それにどうでもいいとは何よ」  
 ところで話すときは相手の目を見なさい。お母さんかお父さんから習わなかったか?  
「どうでもいいからどうでもいいと言った。ちょっとだからどいてくれ。あんまり我が儘ばっかり言うとどかすぞ」  
「できるもんならやってみなさいよ」  
 意地でも俺を見ない気か。  
 了解。  
 俺は牡蠣が岩にへばりつく様に椅子にくっついているハルヒを椅子ごとがたりと引いた。  
 突然の事にハルヒが慌て、流石に俺を見る。  
「ちょ、ちょっとキョン! 何するのよ!」  
 どかすんだよ。  
 意地になっているときのハルヒはクレヨン王国の王女より聞き分けがない。なら強硬手段しかなかろう。  
 俺は睨み付けるハルヒの視線を無視して、膝の後ろと背中に手をつっこむ。  
 ハルヒはびくりと手足を縮めて身を強張らせるが、逆に持ちやすくなった。  
 そして俺はそのままハルヒを持ち上げる。  
「ひゃ」  
 ハルヒにしては可愛い声を出す。  
 それと、意外に軽いな。  
 胸のあたりまで持ち上げたところで、手の位置を直すためにちょいとハルヒの体を浮かせ、しっくりくる場所へ手の  
位置を変えた。  
 
 その間、ハルヒは口を開けたまま、大きな目をさらにくりくりにして俺を見詰め続けている。  
 ふむ、やはりこうすると何故か静かになるな。  
 これは意外に有効かも知れん。  
 確か、暴れる動物も似た様な方法でおとなしくなるってのを聞いた事があるぞ。  
 硬直しているハルヒを俺が座っていた椅子に降ろす。  
 このスムーズな移動、妹で慣れていて良かった、と言うべきだろうかね。  
「ほれ、古泉とゲームでもしていろ」  
 見ると、何か顔が赤らんでいるハルヒは、口をぱくぱくとさせていた。  
 魚みたいだな。  
 俺は無意識に、妹にやるみたいに頭をぽんぽんとなで、パソコンの前に座った。  
 …何か静かだな。  
 ふと顔を上げると、古泉はいつものスマイルを凍り付かせ、朝比奈さんは顔を真っ赤にしてうつむいていた。  
 長門と言えば、何故だか知らんが非難、と言うよりうらやましげとでも表現するのが合いそうなビームを俺に送っている。  
 そしてハルヒは先ほど降ろした姿勢のまま、机を見つめて固まっているし。  
 はて? 何か特別な事でもあったか?  
 だが、空気は別にやばそうな雰囲気にはなっていないな。  
 少なくとも先ほどまでの視線は誰からも感じられない。  
 まぁ、行動は成功と思っていいだろう。  
 俺は捜し物を始めた。  
 さて、お見舞いにいい品物は…と。  
 俺はしばらくの間、近くの商店でも手に入りそうなお見舞い品の品定めを続けた。  
「ハルヒ、終わったぞ」  
 正味三十分程だろう。  
 やはり無難なところで和菓子に決め、後は花屋でアレンジフラワーでも見繕うとしよう。  
 俺は、うん、と背伸びして周囲を見た。  
 長門は本を読み、朝比奈さんは刺繍をしている。  
 古泉は詰め将棋か。  
 ん? ハルヒと遊んでないのか?  
 俺はブラウザをたたみ、ハルヒを見る。  
 …なにやってんだ?  
 あいつは、おそらく俺が席に移したときと同じであろうポーズのまま、銅像みたいに固まっていた。  
 やれやれ、とハルヒに声をかける。  
「……」  
「おい、ハルヒ」  
「え? あ、な、なによ! やるっての!」  
 何をだ。  
 それと赤面しつつ狼狽しながら睨むという器用な顔芸はよせ。それとファイティングポーズをとるな。  
「終わったって言ったんだ。もう戻っていいぞ」  
「…団長が、平団員に言われてハイそうですか、なんて出来るわけないでしょ!」  
 どういう理屈だ。席を返すと言っているんだぞ俺は?  
 どうやら無理矢理移動させられた事が気に入らないってところか?  
 だが俺も用が済んだのにあの席に座りっぱなしと言うのも具合が悪い。  
「ハルヒ、万歳!」  
「えぁ? は、はい!」  
 突然の命令に驚いたのか、簡単に手を挙げちまった。  
 俺は再びハルヒの背中と膝の裏に両腕を滑り込ませ、そのままハルヒを持ち上げる。  
 気のせいか、持ちやすい様に体を丸めている様な感じだ。  
 バランス良くするために抱き位置を調整してから、ほんの数歩の移動を開始。  
「ほれ」  
 そしてハルヒは、めでたく元の団長席に収まっていた。  
 
「……」  
 だが、さらに顔を赤くして縮こまるハルヒ。  
 ネットサーフィンを再開しようともせず、スカートの上で手をいじっている。  
 静かなのはいいが、あんまり静かだと逆に不安なのは、俺がこいつの暴走パワーに毒されているせいかね。  
 さて、菓子を確保しなくちゃならん。  
「俺、ちょっと用があるから今日は帰る」  
 言って立ち上がった時。  
「キっ…キョン!」  
 ハルヒが俺を呼び止めた。  
「どうした?」  
「あ、その…ええと…あ、明日十時! いつものところで待ち合わせよ! 遅れたら死刑でそのあとお昼奢り!」  
 死体からも搾取する気かお前は。  
「何? ちょっと待て! 探索は日曜だろうが!」  
「勿論そうよ! 明日は下調べよ! 下調べ!」  
 ハルヒは変にふんぞり返りつつ、窓の外を見ながらまくし立てる。  
 だから話す時は相手を見なさい。  
「なんだそれは?」  
「まぁ、他の団員は邪…色々忙しいだろうから、あたしとキョンのふたりき…ふ、不本意だけどね! でもせっかくだから  
赤い扉…じゃなくて喫茶でゆったりお茶して、ちょっといい雰囲気の映画見て、そのあとウインドショッピングしてから  
静かな公園とか歩いているうちに自然と手をつないでそれで二人っきりの白樺の遊歩道を歩いていたらいつの間にか夕方になって  
心細くなったあたしの手を生意気だけどあんた優しくにぎってくれてふと周囲を見回すとどピンクのいかがわ…めるへんちっくな  
ホテルが手招き…」「明日は俺も用がある」  
「え!?」  
 首がごき、と音を立てそうな勢いでハルヒが振り向いた。  
 それとこのあたりの気候と風土じゃ白樺は群生出来ない。  
「だから悪いが下調べなら一人で行ってくれ」  
「……」  
「それじゃ」  
 さて、なんか空気が振動している気がするので早急に帰るとしようか。  
「………ナンノヨウ?」  
 おや、地獄の釜が開いて、底から亡者のうめき声と共に鬼の声がする。きっと気のせいだ。  
「イッタイナンノヨウカシラ…………?」  
 あれれ? アーリマンの炎の吐息が耳を焦がしているよ?  
 何か襟がちぎれそうな勢いで引っ張られているせいで息が苦しい気がするなぁ?  
「アンタノチハ……ナニイロカシラ?」  
 おや? 死亡確定?  
「ち、ちょっと待てハルヒ。人の心を取り戻せ!」  
 俺は首周りの尺を縮めようとしているハルヒの両腕をつかんで宥める。  
「なな…何よ何よ何よっ! ああ、あたしがせっかく一緒にデートち、違う! え、円滑に不思議探索する為に下調べを  
しようって言ったのに、それなのに、それなのに! そんな、雨に濡れて寂しくて悲しくて心細くて、でも泣く体力も  
残っていなくて、ぴすぴす鼻を鳴らすくらいしか出来ずに震える可哀想な子犬を見下してゴミが、みたいな邪悪な視線で  
あざ笑う様な真似が出来るなんて!」  
「悪鬼か俺は」  
「だ、だってだって…だって…たまには一緒に…いっしょにぃ…」  
 両腕を捕まれたままイヤイヤする様に手を振り回す。  
 俺が手を放したらだだっ子パンチになるなこれは。  
 俺はため息を一つつく。  
 駄目だこりゃ。  
 悪い方向で頑固が発動している。  
 まったく、一度決めると梃子でも動かないのがこいつだからな。  
 
 多分、新しい場所に行くのが楽しみだから、行けるところには行きまくろうと思っているんだろうね。  
 こいつはこういうイベントは大好きだからなぁ。  
 だが、生憎明日ばかりは君の思うとおりにはいかせられないのだルパン君。  
 と言う事で仕方ない、よけいな茶々が入らない様に、言っておくとするか。  
「見舞いに行くんだよ」  
「え?」  
「知り合いが入院してな、明日、その見舞いに行くんだよ。だから、分かるな? ハルヒ」  
「……」  
 意外に礼儀は正しい奴だ。  
 さっきまでの真っ赤な顔がしゅん、とうなだれ、心なしか体まで縮こまった気がする。  
「お見舞い…それなら…仕方ないわよね」  
 そういう事だ。  
 いい子だから日曜まで待ってくれ。  
 どうせその日も喫茶代は俺持ちだろうから、それまで我慢してくれ。  
「き、喫茶代目当てなんかじゃ…!」  
 分かった分かった。  
 そういう事で、お先させて貰うぞ。  
「……」  
 ハルヒはすっかり黙り、朝比奈さんがお大事にと見ず知らずの相手にまで気遣ってくれ、古泉はさよならと手を振り、  
長門はちらりとこちらを見上げていた。  
 そんじゃ日曜日にな。  
 廊下に出た時、丁度携帯が鳴る。  
 家からだ。  
「はい」  
「やっほー、キョンくーん」  
 お前か。どうした?  
「あのね、おみまいどうなったかなっておもったの」  
「安心しろ。ちゃんと買って帰る」  
「ありがとー。ミヨキチもよろこぶよ。そうそう、おみまいだけかってキョンくんこない、なんてことはないよね? ね?」  
「大丈夫だよ。そういえば、ミヨキチの母さんって好き嫌いは大丈夫か? 菓子にする事にしたんだが」  
「へーきだよ。ミヨキチのおかあさんあまいものすきー。あたしもすきー」  
「そうか、ならいい。それじゃな」  
「はーい。あなた、よりみちしないでまっすぐかえってきてねー」  
 見舞いを買うんだっての。  
 俺は携帯を切って校舎を出た。  
 その時俺は知らなかった。  
 俺は知らなかったんだよ。  
 廊下は結構声が響くもので、それでいつの間にか扉からちらりとこっちを覗いていたハルヒの耳に、ぎりぎりでミヨキチの  
名が聞こえていた事は、俺は知らなかったんだよ…。  
 
「へー、くりーむまっちゃようかんに、ゆずのゼリーだぁ! おいしそー! …おいしそうだなぁ…」  
 商店街でお見舞いの菓子を買い、帰ってから妹に見せた第一声がそれだった。  
 素直でいいのだが、おかえり位言いなさい。  
「あ、おかえりーキョンくん。ごはんにする? おふろ? それともあ・た・し?」  
 それはセクシーポーズのつもりか? どう見ても背中がかゆい様にしか見えんぞ。  
 俺はむくれる妹を後にして靴を脱いだ。  
 そうそう、この袋はお見舞いと同じものがバラで入っている。あとで食べろ。  
 そう言い、俺は箱とは別の袋を妹に渡した。  
「きゃー! キョンくんだいすきー!」  
 分かり易い奴だ。  
 
 そして次の日。  
 俺はまたしても羽交い締めに近い状態で俺を縛り付けて寝ていた妹を引き剥がし、ベッドに転がしたままちょっといい服を  
選んで着替えを始める。  
「えへへ〜ミヨキチもほれなおしちゃうかな〜?」  
 寝ぼけ眼で寝ぼけた事を言う。  
 ところで妹よ、パジャマでお見舞いに行く気か? さっさと顔を洗って着替えてきなさい。  
「ふぁ〜い…」  
 ここで脱ぐな。  
 朝から兄の部屋から下着姿で出てくる妹なんぞ母親に見られたら卒倒されるわ。  
 十分後。  
 妹は黄色のシャツにミニのデニムスカートで装いを整える。  
 さて、ミヨキチの母のお見舞いに行くのは妹から聞くと午後一時の約束となっているらしい。  
 それまでゆっくりするかと思ったが、妹がついでにお出かけとせがむので、仕方なく少し早めに出る事にする。  
「おっでかっけおっでかっけキョーンくんとおっでかっけ〜♪」  
 幼児向け楽曲ばかりだが、歩く音楽プレイヤーの様な妹を携帯し、俺は家を出た。  
 まずはいつもの商店街へでも行こうとしていた矢先、携帯が鳴った。  
 こういう時に鳴る携帯ってのは…。  
 俺は嫌な予感を感じつつ相手を見る。  
 古泉だ。  
「…はい」  
「おはようございます。すがすがしい朝ですね」  
 モーニングコールを頼んだ覚えもないし、そもそも時間が遅いぞ。  
「いえいえ、勿論大事な話です。よろしいですか?」  
 聞かない訳にはいかないんだろうな。  
 丁度、児童公園の前だった。  
 俺は妹に少し公園で遊んでいてくれと促し、側のベンチに座った。  
「らじゃー!」  
 妹よ。快諾してくるのはいいのだが次の瞬間、公園で遊ぶ小学校低学年や未就学児達と見分けがつかない位に馴染んで  
遊び始めているのはどうかと思うぞ。  
「で、今度は何だ?」  
「落ち着いていますね」  
「嫌でも慣れるわ。勿論、厄介事が起きるという発言に慣れているのであって厄介事には慣れてないぞ」  
「それだけ落ち着いて居れば大丈夫ですね。では本題です。実は、昨夜けっこう大規模な閉鎖空間が起きていたのです」  
 マジな声だ。  
「それを今頃伝えるのか?」  
「昨夜は徹夜でしてね、体力が何とか話せるまで回復したのが先ほどだったのです」  
「森さんとか他の人は?」  
「考えはあったのですが、これに関しては本来僕たちの仕事です。どうしようもない場合を除いては貴方にご迷惑をかける  
訳にはいきません。出来る事は自分で、ですよ」  
「…お前は、無事か?」  
 機関もそれなりに節度はある訳だ。少し見直したぞ。  
「ありがとうございます。幸い五体満足です」  
「なら良かった。で、一体原因は何だ? 明日はハルヒの大好きな不思議探索だ。ハルヒの奴にそんな強烈なストレスが  
溜まっていたとは思えないぞ」  
「昨日の部活動前半まではそうだったのですがね」  
「……」  
 何度と無くつぶやいた科白を言いそうになる。  
 少し無言になっていると、公園の方から妹の元気な黄色い声が他の児童と一緒に聞こえてくる。  
 俺は大きなため息を一つこぼしてから、つぶやく様に言う。  
「あいつは、そんなに不思議探検の下調べがしたかったのか?」  
 
 が、今度は向こうがしばし無言となる。  
 何故か、受話器の向こうでいつも通りの肩をすくめているポーズが見える様だ。  
「いやはや、何とも僕の口からは言いかねますが、当たらずも遠からずと言ったところです」  
「なんだそりゃ」  
 更に奴の引きつった顔までが想像できてしまう。  
 受話器の向こうの感情を読むのは長門だけで勘弁して貰いたいのだが。  
「それはどうぞご自分で考えてください。それより、今日のお見舞いはどちらへですか?」  
 …古泉になら言ってもいいか。  
「ほう、ミヨキチさんのお母さんの…。なるほどなるほど。それでですか」  
「一人で納得するな」  
「いくぞー! てめーはおれをおこらせたぁっー! おらおらおらおらららららぁっー!」  
「何か、楽しげな声が聞こえますね」  
「気にしないでくれ。それよりさっきの納得は何に対してだ?」  
「貴方は、勘が鋭い時とそうでない時の差が少々激しいようですからね。それを鍛えるためにもどうぞご自分で謎を  
解いてください」  
 …さりげに失礼な事を言う。  
「それと、もう一つ」  
 まだあるのか。っつーか、結局大事な事は何も話してないぞお前。  
「どうせすぐ分かります。僕が言えるのは、寂しい子犬はとにかくかまって欲しいものなのですよ、と言う事です」  
 似た様な科白を昨日聞いたぞ。  
「それなら大丈夫ですね。では、御武運を。それと、犬は一匹とは限りませんよ」  
「…良く分からんが覚えておく」  
「ばぁーくねーつ! ごっどふぃん」「そろそろ行くぞ」  
 俺は電話を切り、すっかり熱中している妹をこっちの世界に戻すと病院へ向かって歩き出した。  
「えへへー、おもしろかった!」  
 それは良かったが、ちょっと汗ばんでいるぞ。  
「うん、レッドのひっさつわざがやっぱりいちばんハデで…」  
 そう言う事じゃない。  
 これ以上汗をかかせると見舞いに行くというのに失礼になる。  
 俺はハンカチを妹に渡し、早々に病院へ向かう事にした。  
 
「あ、お兄さん、こんにちは! 今日は母のお見舞いの為にわざわざありがとうございます!」  
 病院に着くと、正面玄関に既にミヨキチが待っていた。  
 ミヨキチは白で薄手のワンピース姿。  
 やや短めのスカートだが彼女の場合は健康的で微笑ましい。  
 何気なくボディラインがうっすらと透けており、年齢にしては放漫な胸も美しいラインでワンピースを  
形取っている。  
 嗚呼、うちの洗濯板に少し分けてもらえないものかね。  
「やっほー、ミヨキチ」  
 二人は手と手を取ってきゃーきゃーと鳴いている。  
 こうやってみるとミヨキチも妹と大差ないのだな。  
 ミヨキチの母親の状態は良好の様で、検査に問題がなければ、後はギプスが取れれば退院だそうだ。  
 ミヨキチから紹介された時、ちょっと値踏みされる様な視線で見られたのは何故だろう。  
 そしてふぅん、と言う様な微笑みを返されたのも何故だろうね。  
 ミヨキチもお前のお母さんなんだから、その間俺の後ろで何故かどきどきするのは止めなさい。  
 さて、花と菓子折を渡し、少々の会話の後に見舞いも無事終わる。  
 俺は病室を出てミヨキチとは別れたと思ったのだが、少ししてミヨキチが俺達を追いかけてきた。  
 そして。  
「あの、この後お暇ですか?」  
 ミヨキチが聞いてきた。  
 
 いや、特には用はないと言うと、ミヨキチは頬を染めてもじもじとしながら、お見舞いに来てくれたお礼にどこかで  
お茶をしませんか、と聞いてきた。  
 母親に付いていなくていいのかと聞いたが、母親もずっと病室じゃ息が詰まるだろう、と送り出してくれたらしい。  
 優しい娘の母親はやっぱり優しいのだな。  
 俺は気持ちよく頷いた。  
 ミヨキチは奢ると言ったが流石に小学生に奢らせる訳にはいかない。  
 俺達三人がスタバでお茶していたとき、ミヨキチが切り出した。  
「あの、実は映画のチケットがあるんです。この後お暇なら、是非お付き合いをお願いしたいんです! …出来れば末永く」  
 文章の尻の方で出てきた意味はさておき、ミヨキチは俺の顔を真正面にとらえ、強い希望を思わせる瞳で言ってきた。  
 ずここー。  
 そんな真摯な空気も読まず、妹は空のカップからストローで間抜けな音を出す。  
 力が抜けた俺は思考能力も落ちたらしく、いいよ、と言ってしまった。  
 今考えれば妹も俺の性格を見抜いて狙ったとしか思えないし、このとき俺がもう少し意志をしっかり持ち、チケットの  
期限はまだあるから来週、とせめて一週延ばしていれば、後の修羅場にもならなかったのかも知れないと思う。  
 もっとも、後の祭りは祭りであり何一つ変わる訳ではない。  
 その時の俺は、そう言うしか無かったのだ。  
 
 最近の映画館はだいたい座席を決めてから入館するところがほとんどで、俺達も席を探す手間無く三人一緒に座る事が出来た。  
 巨大スクリーンは前の方で見ると迫力があるのだが、いかんせん視界がいっぱいいっぱいで疲れる。  
 だが、ミヨキチが選んだ後方だと視界に余裕があり、落ち着いて見られるのがいい。  
 映画の内容は額に傷がある魔法使いのトラックに変形出来る金属生命体が東京タワー完成間近の下町で涙あり笑いありの  
人情話を繰り広げながら地球に迫る隕石を破壊してその後記憶を取り戻したヒロインと結ばれ、ハッピーエンドというものだった。  
 シナリオ作った奴は手を後ろに組んで歯を食いしばれ。  
 そしてミヨキチもなぜこれを選んだのか今度ゆっくりと問いただしたい。  
 映画開始直前、室内が暗くなり始めてから後ろの方に数人座ったらしき音がする。  
 最初の十分くらいはコマーシャルだから問題ないな。  
 眼鏡をかけた渋いおっさん声の魔法使いが流れ星となって地球に飛来し、首都のど真ん中に落ちるシーンから映画は始まった。  
 焼け野原となった跡地に復興の印としてタワーを建てるのが本筋らしい。  
 …主人公が全ての元凶じゃねぇか。  
 呆れて声も出ない中、ミヨキチが急に俺の腕を掴み、顔を腕に埋めてきた。  
 シーンは主人公のどアップでのセリフシーン。  
 ふむ、これほど子供が恐がりそうな強面の主人公っつーのも珍しいな。なんか顔の横でディスクみたいなのが回転しているし。  
 不意に、妹も手を掴んで顔をすり寄せてきた。  
 が、こいつの場合は怖いと言うよりミヨキチがそうしているのを見て対抗したと言うところだろう。顔笑ってるし。  
 怖いのを必死で我慢しているミヨキチが健気で愛おしくすら思え、ミヨキチを見詰める。  
 すると、視線に気付いたのかミヨキチが顔を上げた。  
「あ…」  
 暗闇でも分かるほど顔が紅く染まる。  
 だが、ミヨキチは何故か申し訳なさそうな顔を見せてから無言で俺の腕を引き寄せ、抱き枕の様に体を巻き付かせた。  
 ちょっと待ち給えミヨキチクン。  
 その様に腕をお抱きにあらせられると必然的に腕が貴女の胸に押しつけられ、更に貴女様の股間に手が…て言うか何で  
スカートめくれてマスカ!?  
 何か見えてますよ!  
 ってあああその激柔の白い布に手が手が手が!  
 そして何故股間にある俺の手に君は自分の手を添え、更に股間に押しつけますか!?  
 そしてなんですりすりと動かしますか!?  
「ミヨ…」  
 流石に待てと言いかけたが、ミヨキチの指が俺の口をそっと塞ぐ。  
 ち、ちょっと舐めちゃったんですけど。  
「…今、声を出すと、大変な事になると思います」  
 ミヨキチは女の瞳でつぶやいた。  
 
 君、小学生だよね?  
 て言うか分かってやっているね? やっぱり。  
 そして。  
「はぁ、ん…」  
 更にあろう事かなんつう声を出しますか!  
「んにゅう…」  
 気が付くと反対側の手で妹も同じ事してやがった。  
 なんと言うシンメトリカルドッキング。  
 ちょっと待て。  
 今この場面を誰かに見られたら俺は間違いなく前科者になるぞ。  
 もしかして君たち二人はどっかから派遣された刺客か何かか?  
 そして席の後ろから、なんかギリギリと、ものすごい歯ぎしりの音がするんですけど。  
 椅子がめきめきと音立てていますよ。  
 それに何か浴び慣れた冷凍光線と熱線を感じるんですけど。  
 もうなんか、脳髄が最大級の危険信号を垂れ流しているんですけど。  
 俺、大ピンチの最中、両指の先に明かな湿り気を感じ始めた。  
「お兄さん…わたし…」  
 艶っぽいなんてもんじゃない声でミヨキチがつぶやく。  
「にゃあん、なんかへん…」  
 ブルータス、お前もか。  
「わたし…もう…」  
 ミヨキチの手が俺の手を白い布壁から純粋無垢なる聖域に誘おうとしたその時。  
「モウ、ナニカシラ?」  
「!!!」  
「!!!」  
「!!!」  
 半ば予想していたのだが、俺を含めて三人が固まる。  
 この映画館のシートは頭の上まで背もたれがある大きなシートだ。  
 その後ろから声がするという事はシートの上に誰かが居るという事である。  
 俺、ミヨキチ、妹はスローモーションの様な動きでシートの上の方に振り向く。  
 そこには伝説の鬼が居た。  
 しかも、三人…。  
 鬼の一人は大きな吊り目をさらに吊り上げ、両手をシートに食い込ませ、牙でも生えそうな勢いで歯を食いしばる。  
口の端から血が流れていませんか?  
 もう一人の鬼は全くの無表情。いや、ありとあらゆる負の感情を暗黒の瞳に凝縮し、絶対零度の視線で俺の体を穿っている。  
 そしてもう一人は、その怒りに満ちた大きな瞳から涙をぼろぼろと零しながらも、嫉妬と言う名の灼熱のオーラを放っていた。  
 あまりにも驚いたため、逆に誰も声を出さなかったのは不幸中の幸いだろう。  
「とりあえず…オ モ テ ニ デ ロ」  
 その言葉に逆らえる筈はなかった。  
 流石にその後俺にしがみつく事は出来なかったのか、代わりに妹としっかり手をつないで、これから売られる子羊の様に  
二人は怯えていた。  
 怯えている様に、俺には見えた。  
 果たして俺は映画館から出た後にまともに太陽を見る事が出来るのかと思ったのだが、事態は意外と言う他無い展開を迎える。  
 
「キョンの死刑はとりあえず置いておいて」  
 とりあえずですか。  
 映画館から数分のところにかろうじて人目を避けて話が出来る程度の大きさの小さい公園があった。  
 ハルヒは俺の耳を掴んで脇に追いやり、俺の後ろで小さくなっていた二人の前に立つ。  
 閻魔大王も頷く雄々しさだ。  
「ミヨキチ…ちゃん? それと、今回ばかりは妹ちゃんにも言うわよ」  
 
 二人はびくりと強張らせ、つなげていた手を強く握り合う。  
「……」  
 だが、ハルヒの口からはすらりと二の句が出なかった。  
 何か、言葉を必死に選んでいると言う風だ。  
 ところで、この間も俺は安心できる訳ではない。二人が気がかりなのも当然だが、俺自身にも長門と朝比奈さんの視線が  
未だ突き刺さったままなのだ。  
 それどころか、俺の背中に無言で二人が近づき、素晴らしいシンクロで俺の背中を抓る。  
 おおお、お二人とも、本当に申し訳ありませんが肉ちぎるのだけは勘弁してくださいね。抓られた瞬間に痛すぎて痛覚が  
逝っちゃってます。  
 二人を睨み付けていたハルヒの顔が、不意に俺を見る。  
「キョン! あんたジュース買ってきなさい! 人数分よ! 落としたらもったいないからゆっくり歩いて買ってきなさい!」  
 …離れろ、と言う事か。  
 変な事はしないだろう。  
 二人が流石に不安そうな顔をしたが、大丈夫だ、と少し笑うと二人は表情を明るくした。  
「早くいきなさいっっっっ!」  
 逆鱗に触れた。  
 俺はゆっくりと、かつ急いで歩くという器用な歩き方でその場を離れる。  
 
 …キョンの奴は行ったわね。  
 あたしは一つ大きく深呼吸する。  
 それだけでミヨキチと妹ちゃんは少し肩を縮めた。  
 威嚇する気はする気だけど、そんなに怖いかしら?  
 さて、どうしてやろうか。  
 あたしは最初、二度と近づけない位に脅しをかけようかと思った。  
 そもそもなんでこの子達があたしがやるはずだった二人っきりデー…下調べを、しかもあたしのプラン通りにやっているのよ!  
 キョンは、あたしの大事なひ…え、SOS団にとって大事なヒラ雑用部員なんだからっ!  
 でも…。  
 言葉が、出ない。  
 普段なら淀みなく言葉が出るのに、どうしても言葉を選んでしまう。  
 あいつの悪口をある事無い事言えばいいのよ。  
 二度と近づきたくないと思わせる破廉恥で外道な事を言えば…。  
 でも、口に出る前に全部消えてしまう。  
 今、それを言ったら、あたしは負ける気がした。  
 この、年端も行かない子供に、あたしは負ける気がした。  
 キョンを、本当に取られる気がした。  
 だってこの子の瞳は、先生だって腰が引けるあたしの睨みの前でも、真っ直ぐにあたしの瞳を見詰め返している。  
 その力強さは、そのままキョンへの想いに思えた。  
 その瞳は逆にあたしを貫く。  
 あたしはもう誤魔化せなかった。  
 あたしは、ミヨキチに嫉妬している。  
 キョンと仲良くしている事を嫉妬していると、はっきり認めた。  
 でも嫌。  
 キョンはあたしのもの。  
 キョンもあたしだけを見ていればいい。  
 もう、頭からそれが離れない。  
 だから、あたしは逆の事をした。  
「…キ、キョンは…」  
 自分でも口から出るまで考えもしなかった単語が出る。  
「誰にでも、優しいのよ」  
 ミヨキチがはっと顔を上げる。  
 
「人を傷つける様な真似を、絶対にしないのよ」  
 あたしは卑怯な事をした。  
 ミヨキチを叩きのめすんじゃなく、それよりもっと酷い事を言っている。  
 あんたはキョンにとって特別じゃない。  
 あたしはそう言っていた。  
 そうすれば、諦めると思った。  
 卑怯だと言う考えより、それでミヨキチがキョンを諦めてくれる事を望む気持ちの方が百倍も強かった。  
 言わずにいられなかった。  
 あたしの気持ちだって、キョンへの想いは、独占欲は、それくらい誰にも負けていない。  
 そう思ったから。  
「そう」  
 いつの間にか有希もあたしの側に居た。  
「彼は、大河。私の悩みも、苦しみも、全て受け止め、そして、彼という大河の一部にしてしまう。全てを預ける事が出来る。  
そして、誰に対しても」  
 口から出た言葉は助け船。  
 でも、感謝より先に驚愕が出た。  
 有希があたしと同じ事をしている。  
 つまり、それは…。  
「キ、キョンくんは、どんなドジな人も見捨てません。無視じゃないです。見守ってくれるんです。励ましてくれるんです。  
絶対に飽きて放り出したりなんてしないんです。誰もが、寄りかかれる人なんです」  
 みくるちゃんまで…!  
 そのまま、みんなが黙りこくってしまう。  
 この瞬間、年齢も団員も関係なく、全員が全員、『敵』になってしまったんだ。  
 あたしだけがミヨキチに勝てばいいどころじゃないんだ。  
 目眩がしていた。  
 その時。  
「それなら、誰でも可能性があるんですね?」  
 あたしは耳を疑った。  
「お兄さんが誰にでも優しい人であるのなら、つまり誰もがお兄さんに愛される権利があるんですね?」  
「あ、愛!?」  
 声が裏返りそうになった。  
 有希とみくるちゃんも同じように驚いている。  
 この子は…なんて強いんだろう。  
 思わず認めそうになってしまった。  
 そして、墓穴を掘ったのはあたしだったと気付く。  
 あたしは、あの言葉でこの子を同じスタートラインに自ら立たせてしまったんだ。  
 ただの友達のお兄さんから、下手をすれば手が届くラインに。  
 気が付くと、妹ちゃんも目を輝かせていた。  
 ちょっと待って。  
 貴女は身内でしょ?  
 …いや、この妹ちゃんの場合油断は出来ないわ。  
 逆に身内という利点を生かして抜け駆けを考えるかも知れない。さっきだって映画館で…。  
 ふと、あたしは怒りの発火点を思い出した。  
「ああああああ、あんたたちっっっっ!」  
 思い出した! あれよ! 映画館での二人のアレよ!  
「ひっ!」  
 ミヨキチと妹ちゃんは落ち着くかと思っていた場の空気が戻ってしまったことで流石に身をすくめる。  
「あんたたち! 映画館でなんてコトしていたのよっ!」  
「…あ」  
 二人も思い出したのだろう。  
 
 ぼっと顔を赤らめる。  
 ふ、普通なら可愛いで済むわよ。でも、その赤ら顔の原因を考えたらそれで済ませられないわ。  
 て言うか済まさいでか!  
「…怖くて、しがみついていただけです」  
「う、うん。そうだよハルにゃん」  
 そー来たし。  
「…ならいいわ」  
 あたしはにやりと笑う。  
「明日、映画見に行く予定だから、あたしも怖がっちゃおっと」  
「だ…!」  
 ミヨキチと妹ちゃんが同時に言いかけて口をぱくぱくさせている。  
 駄目、なんて言えないわよねー。  
 スタートラインに立たせてしまったなら立たせてしまったで、遠慮無くいくわよ。  
「怖い映画は好き」  
「わ、わたしもですぅ…」  
 しまった、こっちもだった。  
「……」  
 三者会談どころか五者会談で視線が交錯し合う。  
 どうしよう、と思っていたら、元凶のバカが両手にジュースを抱えて戻ってきたわ。  
「これでいいか? それと、話はどうなった?」  
 何他人事みたいに言っているのよ! あんたの撒いた種よ! …多分。  
「…話は、終わったか?」  
 何とも肩身の狭そうな顔で聞いてくるキョン。  
 でも許してなんてあげない。  
 あんたには色々と決めて貰う事があるんだから。  
 あたしは周囲を見回してからすう、と深呼吸した。  
 自分の顔がいつもの顔になっていくのが自分で分かる。  
「キョン!」  
「…何だ」  
「明日の不思議探索は、ミヨキチと妹ちゃんも連れて行くわよ!」  
 
 つづく?  
 

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