「ぷぷ…」  
 かっこーん。  
「ぶひゃひゃひゃひゃあははははっっ!」  
 清々しくも正直やかましい位大きな笑い声と、庭の鹿威しが涼しげな音を出したのは同時だった。  
「あはっあはっあはははは! おお、お姉さんこんなに笑ったのは生まれて初めてにょろよーー! ぶははははは!」  
 生涯初めてかはどうかはともかく、貴女はけっこう日頃からそれくらい笑っていますよ。  
 俺は予想通りのリアクションに乾いた笑顔で返すしかなかった。  
 朝比奈さんのクラスメイト、正当庶民派の俺には想像も出来ない対極的正統派名家の御曹司たる淑女、鶴屋さんは、歴史的文豪の面々が  
座っている光景が似合うであろう重厚さを醸し出す二十畳の客間の真ん中で、その部屋には不釣り合いな大笑いを絶賛上演中だった。  
 観客俺。  
 最初こそきちんと座布団に座っていたのだが、俺の言葉と共にやがて体がのけぞり始め、震え、仕舞いには仰向けになって笑い声の音量を  
跳ね上げた。  
 なんか、笑い声が天上に反射して増幅されています。  
 それと、着物で大の字になると足下が色々危険です。  
 特に俺の目線的に。  
「はーっはーっはーっ…。ちょ、ちょっとタンマ。は、肺から酸素が無くなったにょろ…」  
 鶴屋さんは大の字のまま、目に涙を浮かべながら大きく息をしている。  
「キョン君恐るべしにょろ〜…」  
 太陽の様なスマイルはそのまま。  
 それからしばらくの間、鶴屋さんは先ほどの俺のセリフを思い出す度に突然笑っては深呼吸してを繰り返した。  
「お嬢様」  
 ふと、ふすまの向こうから落ち着いた女性の声がする。  
 タイミングからして、恐らく笑い声が落ち着くのを待っていたのだろう。  
 俺はその声から、上品な老婆の姿を想像した。  
「にょろ?」  
「お茶をお持ちしました」  
「にょろー」  
「承知しました。失礼します」  
 たった今まであれだけの笑い声がしていたにも関わらず、襖の向こうの人は至って落ち着いた声でやりとりしている。  
 きっと鶴屋さんは普段からこんな感じなんだろうな。  
 て言うか、ここの家はにょろーで話が通じますか、にょろーで。いっぺん言ってみようか。  
 俺はヒラ団員の悲しい性か、無意識にお茶を取りに行こうと立ち上がってしまった。  
 その時、突然鶴屋さんは「めがっさー!」と叫びながら畳の上をころがり、そのまま俺の足を掴んだ。  
 それも意味分かりません、とか言っている場合じゃない。  
「うわ!」  
 とっさにマトリクスの様な姿勢でバランスを取り、体勢を建て直す。  
 我ながら非常識なポーズだ。これならスタンドだって出せそうだぜ。  
「うわ! じゃないにょろ。キョン君、何する気にょろ?」  
 鶴屋さんがバネでも付いているかの様な勢いで立ち上がる。  
「いや、お茶を取りに行こうとふが」  
 鶴屋さんは俺の鼻を指でつまんでぐりぐりする。痛いです。  
「どこの世界にお客様にお茶を取りに行かせる無礼もんが居るにょろ! あたしが取ってくるから、キョン君はどっしり座ってお茶を待ってればいいにょろ!  不動如山!」  
 そう言って鶴屋さんは俺の背中を押して元の位置に戻させる。  
 よし、と鶴屋さんは襖を開け、お盆をもって戻ってくる。  
 割と早足で歩いている様に見えるのに、ほとんど無音で歩くのがすごい。  
 それに、下見てないのに、縁はちゃんと踏まずに歩くし。  
「はい、粗茶だけどどうぞっ!」  
 ここで出されるお茶の場合、どんなに粗茶と言われようとも玉露百パーセントとかそういうレベル以外の上物以外考えられませんけどね。  
 ついでに、和菓子も添えられていた。  
 うす桃色の、なんとも上品な色の餅菓子である。  
 
 俺は進められるままに茶碗を手に取る。  
 見てみろこの茶碗。年代物の青磁で、向こう側から光がうっすら透ける薄さだ。そして花模様が上品に浮き彫りになっている。  
 これ一腕で、俺の小遣いなんて年単位でふっとぶんだろうな。  
「キョン君、茶碗の銘を嗜むのもいいけどさ、お茶は飲まないと味がわかんないよ」  
 そうですね。俺はくい、と一口飲む。  
 美味い。  
 それは、俺みたいな奴の舌ですら、品質の違いをこれでもかと分からせる美味さだった。  
 そして半畳分程の距離を置き俺の対面に座る鶴屋さんもお茶を飲む。  
 ぷはー、と満足げな微笑みが可愛らしいと言うか何というか。  
 ところでこの広い部屋、どうして机がないんですか? 本当ならベッドより大きな机が鎮座してそうな部屋ですけど。  
「そんなもん置いておいたらキョン君の声が遠くになっちゃうにょろから、えいやっととっぱらっちゃったよ!」  
 えいやっとは言葉の綾だろうが、部屋に通される直前、にょろーと言う声と共に重々しい物の落下音が聞こえたのは気のせいだよな?  
 まぁ、それなら声が良く聞こえると言うところで、話の続きをしてもいいですか?  
「ほい? 話…。はなし……ぶぷぷ…あ、あはは…おおお思いだしちゃったにょろーー! ぎゃはははははっっ! キョ、キョン君が!  
 キョン君がそんな事言うなんて!しし信じられないっさ! はひゃひゃひゃひゃっ!」  
 またまた超高級笑い袋になって転げ回る鶴屋さん。ですから転がると着物から見目麗しい太股がのぞいちゃいますよ。  
「あひゃははははははっっ! お姉さん笑い死にしひょうにょよ〜〜!」  
 噛んでるし。  
 まぁ、そういう反応するよな、と俺はため息混じりに残りの茶を飲み干した。  
 
 今日の午後の事だった。  
 俺は至って健全な善意による行動の果てに修羅の道の鱗片を見た。  
「い、妹とミヨキチを?」  
「そうよ! 明日の探索はあたしに有希、みくるちゃんに古泉くん、そして妹ちゃんとミヨキチでやるわ!」  
 俺は?  
「あんたは居るに決まっているの!」  
 だよな。  
「しかし、ミヨキチは入院しているお母」「大丈夫です。私、出ます」  
 ミヨキチは珍しく俺の言葉を遮って意見する、と言うか宣言する。  
「いいのか?」  
 ミヨキチは俺を見上げると、強い意志を含んだ瞳で力強く微笑んだ。  
「これは、決して避けては通れない道なんです」  
 命を賭して、と使命感に燃える無垢な瞳。  
 …いや、何の目的もない市街徘徊なんだが。  
 妹を見れば、もちろん、とばかりにミヨキチと同じく凛々しい瞳で頷いている。  
 お前の凛々しい顔は珍しいぞ。  
「いじわるー」  
 一瞬で普段の顔に戻った。  
 ハルヒや長門、朝比奈さんを見ても皆同じような感じだ。  
 俺はため息と言う名の生返事しかできなかった。  
「それじゃ今日は解散! キョン! 遅れたら今日の死刑と併せて打ち首獄門市中引き回しの上張りつけ水攻め島流しだからね!」  
 俺は一体どんな極悪人だよ。  
 仕方ない、と妹を連れ、ミヨキチを病院まで送り届けようとした時。  
「ちょっと待った!」  
 ハルヒが目をらんらんと輝かせて俺達を呼び止めた。  
「妹ちゃんにミヨキチ、ちょっと明日の打ち合わせしない?」  
 妙に優しい声と表情。  
 俺はそれが逆に怖いね。  
「いや、ハルヒ、それは…」  
「いいよ、ハルにゃん」  
「私も、構わないです」  
 君たち、オオカミの群れに自ら飛び込んでも、ガブやメイの様に種族を超えた親友になれるとは決して思ってはいけないんだぞ!  
「分かった、なら俺も」「キョンはいいのよ」  
 あの、ハルヒさん? 明日の不思議探索の打ち合わせですよね?  
 それなら当然俺も…。  
「キョン…? これ以上…あたしを怒らせる気かしら?」  
 
 美しい笑顔。だが恐ろしさ以外を感じないのが不思議だ。  
 あ。  
 忘れていた。  
 忘れたいと思ってました。  
 ぶっちゃけ無かった事にしたいです。  
 目を閉じて開いたら、やっぱりベッドの上だった。ああ、夢か。やれやれだ。なんて風になったらいいなぁ。先ほどまでの超修羅場。  
 だが、意地でも現実と認識させんとばかりに、もう二人の鬼も目を光らせている。  
 はっきり言います。  
 お二人とも怖いです。  
 だがそれにしたって、この我が儘全開の全能神に、バーダックも裸足で逃げ出す万能最強宇宙人、可愛いさでならきっと人を殺せる未来人といった超人の群に、ただの小学生二人を置いてけぼりってのはいいのか?  
 俺は生まれたばかりの子猫を捨てなければならない無能な飼い主の瞳で二人を見る。  
「お兄さん、丁度お互いに、色々…お話ししたい事もありますし」  
「うん、だからキョンくんはさきにかえっていていいよ」  
 色々、の意味がものすごく気になるが、これはもう女同士の問題の様だ。  
「…無事に帰って来いよ?」  
「やだなー、ハルにゃんたちとおはなしするだけだよー」  
「そうですよ。ご心配なく」  
 だが俺は見たぞ。  
 ほんのわずか、口元が引きつっているのを俺は見逃さない。  
 すまない、妹よ、ミヨキチよ。  
 今度俺に出来る事があったら何でも言ってくれ。  
 出来ればシモの事以外で。  
「聞き分けが良くていい子だわ。それじゃキョン、あんたはさっさと帰りなさい」  
「あ、ええと、キョン君、まぁ、ご心配なく」  
「人権はそれなりに守る」  
 朝比奈さんと長門も二人を悪くする気は無い様だ。無い様だが! 何となく言葉の端々が不安なんです!  
「…分かった」  
 だが、反論すればかえって二人に危機が及ぶ事になるのは明白。  
 俺は一人、帰路につく事となった。  
 
 …だが、このまま帰る事は出来なかった。明日、何が起きるのか想像が付かない。  
 そして何よりもその原因は…。  
 俺は、引き寄せられる様に鶴屋家へと足を動かしていた。  
 暫くの後、俺は鶴屋家の門前に立っていた。  
 いつ見ても本当にでかい。  
 でかいだけじゃない。  
 この門一つとっても重要文化財になりかねない重厚さをもっている。  
 これは、成金と本当の金持ちの決定的な差だ。  
 ウチとあんたの家、どっちが大きい? なんて厚顔無恥な事を平気で聞いてくる成金とは雲泥の差がある。  
 この家には、歴史がある。  
 …そこでふと、俺は冷静に考えた。  
 こんな場違いな場所に俺が来ても、鶴屋さんは会ってくれるだろうか?  
 もしかしたら、鶴屋さんが居たとしても使いの人とかに追い返されて終わり、なんて事にならないだろうか?  
 そもそも俺は朝比奈さんの様な同級生ではなく、朝比奈さんを通じて知っているだけの一下級生だ。  
 朝比奈さんなら顔パスかも知れないが…。  
 身の程知らずだったか?  
 そう思い、踵を返そうとしたその時。  
「やっほー」  
「うわ!」  
 突然、門に隣接した通用門の小窓が開き、鶴屋さんが笑顔と共に顔を覗かせた。  
 一瞬、小窓からはい出そうとする猫みたいで可愛いと思ったのは秘密にしよう。  
「キョン君、何か御用かなっ?」  
「あ、こ、こんにちは。用、と言うか…ちょっと聞いて欲しい事が…ご迷惑ならすぐ帰ります」  
「だーれがそんな事言ったにょろか? ちょっと待ってね。鍵開けるから」  
 
 小窓が一反閉まり、門の向こうから元気な声が聞こえる。  
「だからはやく解除するにょろ! 予定にない? あたしの客だってばさっ! 急な来客だから時間かかる? だったらブレーカー切れば  
いいっさ! 動かなくなる? 手であけるっさ! 両の手両の足は動かすためにあるんだよっ!」  
 一体、どんな警備なんだろう?  
 それから約一分後、トラックだって入れそうな重厚な門がゆっくりと開き始めた。  
「お待たせ! いやー、気の利かないセキュリティでごめんね!」  
 鶴屋さんが満面の笑みで俺を迎えてくれた。  
 普段着の鶴屋さんは清楚な着物姿だ。整った顔立ちには和服が実に似合う。  
 開いた扉は想像以上に分厚く、門の後ろには重い扉を手で開いて疲れたのか、屈強な二人の男性が肩で息をしている。  
「大丈夫ですか? 俺なら、通用門でもなんでも…」  
「キョン君を通用門から通す様な真似しないにょろよ。ささ、どーぞどーぞ」  
 差し出された手を見ると、すこし汚れている。  
 もしかして、鶴屋さんも門を引っ張ったとか? 何とも律儀な人だ。  
 俺は自宅の廊下なら何往復するか分からない距離の廊下を歩き、鶴屋さんの導きで客間に通される。  
 少しして、先ほどの着物から着替えた鶴屋さんが入ってきた。  
 先ほどの着物は橙色を基調とした大きな花柄を織り込んだものだったが、今目の前にいる鶴屋さんは朱を貴重とした落ち着いた小花柄の  
着物だ。  
 言うまでもなく、どちらも似合っている。  
「さて、今日はどんな御用なのかな?」  
 真っ直ぐに正座して俺を見る目は真剣そのもの。  
 俺は訳もなく、どこか気恥ずかしさを覚えてしまう。  
「…鶴屋さんにしか、言えない事なんです」  
「ほうほう? それはそれは! では、おねーさんにいってみるにょろにょろ」  
 鶴屋さんは興味津々心わくわくどきがむねむね全開の瞳を輝かせ、俺ににじり寄る。  
「……」  
「……」  
「顔が近いです」  
「にょ〜」  
 鶴屋さんはちぇ〜っと言う顔で自分の座布団に座り直る。  
「SOS団の、事なんです」  
「みくるがまた何かそそうでもしたのかい?」  
 それ、朝比奈さんが聞いたら泣きますよ?  
「そうじゃなくて、古泉を除いた女性全員…併せて妹、そして妹の友達も含めた女性全員の事で、相談なんですよ」  
「そりゃ何ともお色気たっぷりの相談にょろねぇ?」  
「端から聞けばそうかもしれません。その彼女達から…俺が…」  
「ふんふん」  
「非常に…」  
「ひじょーに?」  
「ものすごく、過度に…好かれているんです」  
「……」  
「……」  
 鶴屋さんは実に表情豊かに静止し、俺の言葉を考え、整理し、理解し、納得する。  
 そして。  
「……ぷ…ぷぷ……ふっ……ぶあっははははははーーーーーーっ!」  
 そして、時は動き出す。  
 かっこーん。  
 鹿威しが鳴った。  
 
「はーっ…はーっ…落ち着いたにょろ」  
 そして、話は冒頭に戻る。  
「……」  
 俺は会話より遥かに長い笑い時間の間に逆に冷静になっていた。  
 いや、これが正常だ、と。  
「ありがとうございました」  
「はい?」  
 瞬間、太陽の様な笑顔が真顔になり、鶴屋さんは大きな瞳であれ? と言っている。  
 
「いえ、鶴屋さんに聞いて貰ったおかげで、ぐちゃぐちゃにこんがらがっていた馬鹿な思考がほどけました」  
 俺は清々しい気持ちで言うが、逆に鶴屋さんの表情には陰が出始めた。  
「え…ち、ちょっと待って! あたしはまだなんにも話してないよ? あ…もしかして機嫌悪くしちゃった? 怒った? 笑いすぎた?  
 いやその、キョン君を馬鹿にしたんじゃないんだよ?」  
「いえ、その笑いで十分です」  
「ち、違うの! ま、待って待って! そんな皮肉お願いだから言わないで! 待って!」  
 鶴屋さんにしては狼狽した表情。  
 こんな表情もするんだな。  
 俺はありがとうございます、と立ち上がりかける。  
「だめーっ!」  
 突然鶴屋さんが狐の様に飛び跳ね、俺の服の裾を掴む。  
「わっ!」  
 俺はその勢いに押され、そのまま仰向けにぶっ倒れる。  
 そして、俺の動きをトレースしたかの様に鶴屋さんも時間をずらして俺の上に落下してきた。  
「げほ!」  
「にょふっ!」  
 肺から空気が押し出され、一瞬視界が飛ぶ。  
「…つ」  
 ぼやけた視界が戻った時、そこには倒れた俺の腹の上辺りに顔を載せ、腕をきめている鶴屋さんが居る。  
 端から見るとT字状になっている様だ。  
 痛くも苦しくはないが、鶴屋さんはどうやら俺を押さえ込んでいるらしい。  
 力を入れている様には見えないが、梃子か何かの応用なのか、ちょっと体が動かない。  
 これも合気道か何かの技だろうか。  
「…あの」  
 俺はどこか諦めた様な気分で言う。  
「笑いすぎはあやまるから! ごめんなさい! 相談に来てくれたのに無礼だった! まだあたしは解答も何もしてないよ!」  
 対して、鶴屋さんは逆に先ほどまでの笑い声が嘘の様な真摯な表情。  
 その瞳には真剣さと後悔、更には狼狽が滲んでいた。  
 でも、それがますます俺の頭を冷ましていた。  
 俺がやっぱり、一人相撲していただけなんだ、と。  
「いや、だから俺のど阿呆なご都合妄想は鶴屋さんの爆笑で、やっぱり俺のご都合的勘違いだったのだと見事に証明されました」  
「え?」  
「そんな訳ないそんな訳ないと思ってはいたんですよ。最初は…。でも、だんだんハルヒや長門、朝比奈さんの行動や言動がどうしても俺を誘っているようにしか思えなくなって…。しかも、身内である妹まで異常に過度なスキンシップを求めてくるようになって、果てはミヨキチまでが同じ様に…。でも、それはやっぱり何かの間違いなんですよ。言いたくないけどそれは古泉にこそあっておかしくない事で、俺の様な奴にハルヒ達の様な美人達が、万が一もなびく訳が無いんです」  
 俺はごとりと畳の上に頭を降ろし、自嘲気味に口をゆがめる。  
 深呼吸すると体から力が抜ける。  
 体、そして心が楽になった。  
 良かった。  
 やはり、俺一人の思いこみだったんだよ…。  
 俺がハルヒや長門、朝比奈さんの誘惑と思って必死に違う事を考えたり、誘惑に負けそうになるのを堪えていたのも全部独りよがりの妄想だったのさ。  
 妹だって、まだ考えが幼いからスキンシップの度が過ぎただけだ。今度、ちゃんと境界線を教えないとな。ミヨキチも妹の影響だろう。  
一緒にそれとなく教えればあんな事もうしないだろう。  
「キョン君」  
 俺は目を開けた。  
 いつの間にか、鶴屋さんが俺の胸の上に顔を載せている。  
「何ですか?」  
「だから、あたしは放置かい?」  
 鶴屋さんはむつけた表情で、すらりとした指で俺の胸の上にのの字を書いている。  
「ええと、俺の用は済んだし、鶴屋さんも先ほど見事に俺の馬鹿妄想を打ち砕いてくれましたから、もうこれ以上お邪魔は」「分かってない」  
 真剣な瞳で鶴屋さんは呟いた。  
「?」  
「君は、本当に損な性格だね」  
 諭す様な、悲しい様な声だった。  
 
「キョン君は、どうしてあたしの所に相談に来たのかな?」  
「それは、鶴屋さんなら、絶対に俺には…」  
 言いかけ、次の言葉が出ない。  
 これも当然の事だ。  
 鶴屋さんほどの人が、俺になんて絶対に…。  
 だが、これを本人の前で言うのは、例えその通りでも。  
「失礼にょろよ〜」  
 見事に俺の考えを読み取ったらしい。  
 鶴屋さんは俺の鼻をつんつん、と指でつつきながら、いつも通りの明るくて、どこか悪戯っぽい笑顔に戻って言う。  
「すいません…」  
「二重の意味で失礼にょろよ。ぷんぷん」  
 そう言うと、鶴屋さんは体制を変え、今度は俺に馬乗りになった。  
「……」  
 あの、鶴屋さん、今来ているのはお着物ですよね?  
「これがディアンドルに見えるにょろ?」  
 いえいえ、オーストリアの民族衣装には到底見えません…ではなく! そのつまり、馬乗りになるという事は当然足を開く訳で、着物で  
足を開いて跨るという事はつまり開いた部分は多分下着であり…それが…。  
 満面の笑みの鶴屋さんの顔から、うっかり俺は視線を腰に落としてしまった。  
 そこには…薄紫のレースの下着が丸見え状態っ!  
 紐だし!  
 全体的に透けているし!  
 真ん中に何か見えそうな! いや見えているようなっ!  
 色々すごいセクシーだけど絶望的に着物には合わないですっっっ!  
 と、とにかく理性がシス卿に取り込まれそうな、そんなヘブンな物体が、俺の腹の上に熱を帯びて鎮座していた。  
 だめだ! これもきっと何かの間違い! 陰謀! 策略だ! 孔明の罠だ! て言うか俺の都合の良い妄想だ! 目覚めろ俺! 砕け散れ馬鹿な妄想!  
 いやむしろ俺が砕け散ってしまえ!  
 ゴルディオンハンマーはどこだ!  
「キョン君!」  
 ラオコーンの如き苦悶の表情であった筈の俺を、鶴屋さんが強い口調で呼ぶ。  
 はっと目を開けた俺の前に、静かだが、確かに怒った表情の鶴屋さんが居た。  
「女の子はね、そりゃ人によるけど、概ね人を好きになるのに損得勘定なんてしないんだよ。キョン君はどうしてそんなに自分を殺すのかな?」  
「それ…は…」  
 真摯な瞳が心を打ちますが、正直下着のインパクトに打ち消されています。  
「みくるも、ハルにゃんも、有希っこも…本気なんだよ。たまにしか顔を出さないあたしだって一発で分かるくらいにね。あのハルにゃん達が、自分をさらけ出してあたしに悩みを打ち明けに来た時は胸が締め付けられそうだったよ」  
「みんな、悩んで…?」  
 明るく笑うハルヒ、真っ直ぐな瞳で俺を見詰める長門、子供の様に微笑む朝比奈さんの顔がよぎる。  
 みんな、俺の事を…?  
「ハルにゃんは、キョン君にわざと意地悪しているみたいに当たる事でキョン君の堪忍袋の緒が切れて、みんなが居なくなった後の部室で  
呼び止められ、何って言おうとしたらいきなり机に体を押しつけられて、泣いていやがる自分を無視して、あんな事やこんな事をしてくれ  
たら、それをネタに一生を約束させるのに、変に我慢強くてなかなか上手くいかないって泣いてたし」  
 はい?  
「有希っこも、そっち関係にはまったく無知だと思わせて無知故の大胆さを演じて、知らず知らずにキョン君を興奮させてしまい、気が付いた時はすでに遅く、ぷっつんしてケダモノと化したキョン君に繋がったまま抜いて貰えず気絶するまでされちゃって、それをネタに一生一緒に居られる様にしたいけど、胸の容量が少ないせいか作戦が不発ばかりって俯いちゃうし」  
 …え?  
「みくるも、コスプレ衣装を実はこっそり改造して丈を短くしたり、胸やおしりの部分の布を薄くしたりして、時々部室で二人きりになった時にはお茶に怪しい薬を少しだけ忍ばせて、辛抱たまらん状態になったキョン君が襲われて、体中をめちゃくちゃにされたところをタイミング良くみんなに見られたら、晴れて夫婦になれるのに、あたしドジだから上手くできないんですってぽろぽろ泣いちゃうんだよ」  
 ……。  
 一瞬、深い感慨に浸れるかと思ったが、何故か宇宙の彼方にその感情が吹き飛んだ。  
「でも、あたしもそれを聞いている時、本当は切なくて、羨ましくて堪らないんだよ」  
 貴女も、切なくなる前に彼女達の頭の方を心配してあげてください。  
 て言うか羨ましがっているのはあくまでもその想いですよね? やりたいとか言わないですよね?  
 とりあえず一瞬でも三人に覚えた胸の切なさを返して欲しい。  
 で、そんな事俺に言っちゃっていいんですか?  
 
「キョン君が本気で気付いていなかったら言わなかったけど、気付いていない振りって言うんなら別っさ。あたしだって塩を送りっぱなしは嫌にょろ」  
 だからってそんな洗いざらい…。  
「女はこういう時は、例え親友同士でも怖いにょろよ」  
 ……。  
「でも、でもね、あたしは、そんなみんなを心底愛おしいと思う。少し弾けた行動も、想いの裏返しなんだよ」  
 裏返しどころかめくれかえってどこか異次元に吹っ飛んでる気がします。  
「でも、その感情と同じくらい…あのね、君には言うよ。その時ね、彼女達を憎らしいとも思っちゃったんだ」  
 鶴屋さん…。  
「ええと、とにかく、分かったかい? 君は、そんなにまで好かれているんだよ」  
 信じられない言葉だった。  
「ハルヒ達は、その…色々と、すごい連中なんです。俺なんて、居るのがおこがましい位に…。そんな平凡な男が、どうしてそんな彼女達に好かれている、なんて思えますか?」  
「…真面目だね。馬鹿がつくくらい、真面目で…残酷だよ。女殺しってのは君の事だね」  
 鶴屋さんは馬乗りのまま優しく微笑む。  
 出来れば腰をゆっくりグラインドさせないでください。  
「古泉君も悩む訳だね」  
 キコエナイ! 全身全霊で今の一言は聞こえないっっっ!  
「キョン君、キョン君は女の子を、例えば相手がお金持ちかどうかで選ぶ?」  
「そんな事しません!」  
「それと同じ」  
「……」  
「すごいと思っている人たちに頼られる、好かれるのは、君の方がすごいところがあるからなんだよ。勉強とかそういうのじゃなく、ね」  
「…でも、俺はどうしたらいいのか分からないんです」  
「成り行きに任せればいいんだよ。だって、あの子達はすごい連中なんでしょ? それなら、君も、周りの子達だって、悪い様になんか  
しないもんさ」  
 鶴屋さんは笑った。  
 眩くて、そして暖かい微笑み。  
 …ああ、この人もすごい。  
 のどの奥に突き刺さっていた棘が、じわじわと溶けていく気がする。  
 どう行動しようかとか、そう言うのは分からない。  
 でも、その場その場で『動ける』勇気が持てた気がする。  
「…ありがとうございます」  
「うむ! アリストテレス曰く、素直な事はいい事にょろ!」  
 絶対違う。  
 鶴屋さんは馬乗りのまま腕を組んでえへん、とふんぞり返った。  
 あの、そうするとますます股間が押しつけられる気が…。  
 ヘソの上あたりがなんとなくじっとりと熱いんですけど。  
「むふふふ、ところでキョン君?」  
 打って変わって小悪魔の様な、可愛らしくも悪戯で邪悪な微笑み。  
 鶴屋さんは獲物を狙って跳び上がった時の狐の様に、俺の両肩に手を置いて質問を始めた。  
「もう一度聞くけど、どうして君はあたしにそう言う相談をしに来たのかな?」  
「……」  
 何かもう、俺の脳は再び警鐘を打ち鳴らしている。  
 この人に、俺はたった今助けられた筈なのに、何故俺の脳はハルヒ達に対するものと同じ警鐘を鳴らし始めているのだろう?  
「どうして、あたしは『違う』と思ったのかなぁ?」  
「いえ、それは…」  
「そりゃあ、SOS団の正式団員達に比べればあたしは出番が少ないよ。でもね、キョン君に対する気持ちの蓄積は決して負けていないのさっ!」  
 正直、どうしよう?  
「他の女の子の気持ちを代弁させる失礼、あたしの気持ちを分かってない失礼。この二つの失礼をとりあえず詫びてもらうにょろ〜」  
 どうやって? と言えなかった。  
「んっ」  
 鶴屋さんは俺の体の上にそのまま体全体を乗せながら、肩を掴んでいた手を素早く両頬に固定さてそのまま唇を重ねた。  
 少しの間、時間が止まる。  
 やがて、鶴屋さんは唇を嘗め回し始めた。  
 そしてそのまま唇は肌から離さず、器用に頬やあご、首筋までも舐め始める。  
 
「おいしいにょろよ…」  
 耳に甘い言葉が響く。  
「んむ…」  
 程なく鶴屋さんの唇が俺の唇に戻ってきた。  
 そんな筈は無いのに、蜂蜜を舐めている様な甘みを感じる。  
 鶴屋さんの長い髪がふわりと降りかかり、その滑らかさと柔らかな香りで意識が遠くなりそうになる。  
 密壷に填っているような感じだ。  
 重ねた唇は決して放さず、そしてまんべんなく位置を変えながら、鶴屋さんは味と感触を楽しんでいる様だった。  
 感覚が鋭敏になっているのか、唇をついばむ音が妙に大きく聞こえる。  
「ふ…んん…」  
 鶴屋さんはもう、どう見ても夢中としか思えぬ恍惚の表情で俺の唇をついばみ続ける。  
 いつもの太陽の様な笑みを携えた爽やかな表情とは打って変わり、その妖艶とすら言える表情に俺も意識が飛びかける。  
「んう…ちゅ…」  
 その時。  
「お茶のお代わりをお持ちしました」  
「…ぷあ…おいて…くちゅ…おいて…ちゅぱ…ちゅ…ちゅ…」  
「失礼します」  
 ちょっとまってっっ!  
 俺は思わず飛び起きようとしたが、人一人の体重が上半身にかかっている上にそもそも顔が動かせない為どうにもならない。  
 今お茶を持ってきた婆やさん(予想)! 聞こえてますよね?  
 この声や音、あなた絶対に聞こえていますよね!?  
 俺は鶴屋さんに目で訴えたが、鶴屋さんはそうかもね、と目で笑い、事も無げに行為に没頭し続けた。  
 鶴屋さん、あなた普段どういう行動してますか? こういう事していても誰も気にしないんですか?  
 あたしのやる事に文句は言わせないにょろー。  
 瞳がそう言っていた。  
 別の意味で目眩がする。  
 やがてすこしずつ唇が舌で押し開けられ、更に甘いそれが俺の口の中にゆっくりと、確実に、口腔内すべてを舐め尽くそうと大胆に  
進入してくる。  
 両腕が俺の頭を抱え込み、離さないぞとの意思表示がこれでもかと伝わる。  
 そして舌は舌で、歯茎、舌、頬の内壁と、自分でも舐めた事無いんじゃないかと思える所まで懇ろに舐め尽くされた。  
「んぷ…」  
 数分後。流石に酸素が欲しかったらしい。  
 鶴屋さんが俺の唇から舌を離す。  
「鶴屋さん」  
「何?」  
「キス、長すぎません? と言うかスキンシップが過激です」  
 普通なら頭が真っ白になって何も考えられない所だが、何故か今の俺は落ち着いていた。  
 鶴屋さんのおかげかね?  
「ふっふっふっ。冷静で嬉しいよ。こういう事は先手必勝なのさっ! 学校じゃハルにゃん達と比べて圧倒的に逢える時間が少ないから、  
こういう風に蛸が蛸壺に嵌った時に利子付きで甘い汁を吸っておかないとね! そして、その時こそ、普段の練習が実践でモノを言うんだよっ!  
 こんな風にね」  
 そうか。俺はずいぶんと立派な蛸壺に嵌っちまったらしい。て言うか練習ってナニをしてますかあなたは。  
「では快く同意を得た事だし遠慮無く続きにょろー。はむ」  
 快くも同意も何も許可した覚えはないが、俺は再び唇を塞がれた。  
 そして鶴屋さんの手が頭から離れ、手探りで俺の手を掴むと背中に誘導しようとしている。  
 抱いて、と言う事か。  
 だが、そんな最中でも口を一切離そうとしないせいか、どうにもうまくいかない。  
 これが、気付かせてくれた礼になるかは分からない。  
 だが、応えるべきだろう。  
 俺はその手を握り返し、そのまま放さずに腰のあたりをぐい、と掴んだ。  
「! …ひょんふん…」  
 唇をくっつけたままで鶴屋さんが呟く。  
 その目は少し驚きの色を含んでいた。  
 当然かも知れない。  
 突如、背中に手を回して固定された状態になってしまったのだから。  
 
「これじゃ…縛られているみたいだよ…」  
 だが、その声には恐怖どころか悦びが混じる。  
 鶴屋さんの息はだんだん荒くなる。  
 こういうの、好きですか?  
「…女の子にそんな事言わせないでにょろ…。あ…そんな…は…んむ…」  
 ならば少々強引にいかせてもらおう。  
 今度は俺から鶴屋さんの唇を奪う。  
 馬乗りで折り重なり、しかも後ろ手。  
 とんでもなくはしたない格好で俺の上に乗っている鶴屋さんは、強引な行為になすがままで唇をぬらし続けた。  
「あ…んむ…すごい…。あたし…今…キョン君に…犯されているみたい…」  
 その声は上気し、瞳は潤んでいた。  
 この状態では見えないが、おそらく上に乗っている鶴屋さんは尻を丸出しにしているだろう。  
 その状況と鶴屋さんの言葉に、俺は思わず興奮する。  
 握っていた鶴屋さんの手を離し、手が尻を掴んだ。  
「ひあ…」  
 柔らかで暖かい尻の感触が心地よかった。  
 もう、このままどうなるのだろうと思った時。  
「あん…あ…まって…これ以上は…許して…ぷ…あ…」  
 その言葉に俺が手と唇を離すと、鶴屋さんはごとりと頭を胸の上に落とした。  
 一体、どれほどの時間鶴屋さんを抱きしめていたのだろう。  
 手を離すと、後ろ手になっていた鶴屋さんの手はのろのろと俺の頭を抱きかかえる。  
「詫びを入れて貰うつもりが…詫びを入れちゃったにょろ…」  
「鶴屋さん…俺…」  
 その言葉をついばむ様なキスが止めた。  
「これ以上は、正直残念だけど今はお預けだね。この先は流石にアンフェアになっちゃうし、このまま…全部奪われても、きっとみんなは  
引いたりしないから」  
 俺の自惚れではなく、心底残念そうな顔で鶴屋さんは言った。  
 ああ、そうか。  
 俺は思い出す。  
 明日の探索、一体どうなるのだろう? と。  
「でも…」  
 鶴屋さんは俺の上でむくりと起きあがり、悪戯な顔で笑う。  
「キョン君、おっぱいは好きかい?」  
 すいません、正直大好きです。  
「それじゃ、えいっ!」  
 うおっ!  
 鶴屋さんは着物の肩をぐい、と開き、肩口を露わにする。  
 そしてそのまま着物をずらし…。  
「ぽろりにょろ」  
 目の前に、豊満な乳房が現れた。  
 形が良く、つややかなそれは鶴屋さんのおでこの様に…げふんげふん。  
 とにかく、目の毒どころか致死的な美しさだった。  
「触っていいよ」  
 鶴屋さんが俺に起きて、と促し、俺と鶴屋さんは座位の駅弁スタイルになった。  
 眼前の胸もそうだが、より股間に密着する鶴屋さんの下着とその中身の感触が俺の息子を元気づける。  
 俺は両の手で胸を触り、そっと揉んだ。  
「あっ…」  
 それは素の鶴屋さんの声。  
 俺はゆっくりと胸を揉み、登頂の乳首をそっとつまむ。  
「やっ! …え、えっ? あっ! あっ! そんな…うそ!? うそっ!?」  
 鶴屋さんが仰け反ってもだえながら、何故か疑問符を浮かべている。  
 ここで逃げられても嫌なので、腰を抱き寄せ固定。  
 どうしたんですか?  
「だ…だって、だって…あっあっ! おか、おかしいよ…」  
 何が?  
「ちがう…ちがうよ…だって、こんなに気持ちいいなんて…違うよ…やっ! あうっ! ダメ! ダメぇっ!」  
 そう言われても止まりません。  
 
「やんっ! なん…なんでっ? ここまで気持ちいいなんて…想像と…ちが…ひっ! あっあっあっ!」  
 鶴屋さんは驚きと恍惚を混ぜた表情で、痙攣する様に体を跳ねさせながら仰け反る。  
 胸が弱いのを自分では知らなかった、と言うところか。  
 珍しく取り乱している鶴屋さんを見ているとやっぱり少々いじめてみたくなる。  
 俺は胸を揉んでいた片方の手を腰に回し、ぐい、と胸を顔の前に引き寄せる。  
「ひっ!?」  
 流石察しがいい。  
「キョン君! やめてやめて! おねがい! ゆるして! ゆるして! ごめんなさい! ごめんなさい! ゆるしてっ!」  
 鶴屋さんはやめてやめて、と本気で涙を流している。  
 今日は色々初めての経験や見るものが多いな。  
 色々技も持っている筈なのに錯乱しているのか、子供の様に腕を伸ばして体を離そうとしているだけだし。  
 表情も動きも、普段のりりしさはかけらもない鶴屋さん。  
 だがそれでも、いや、それはそれでとても魅力的だった。  
「やん! やだ! ゆるしてゆるして! おねがい! やめてっ!」  
 うん、それ無理。  
 俺は誰も触れた事が無い乳房を揉むだけにとどめず、それをそっと口に含んだ。  
「ひ…」  
 鶴屋さんの全身が硬直した。  
 舌で乳首をゆっくりと舐める。  
 甘い。  
 俺はころころと乳首をころがし、登頂をくりくりと細かく左右に揺する。  
「…き…あ…」  
 体ががくがくと震えた。  
 俺はそのまま、乳首をやんわりと唇で噛む。  
「〜〜〜〜!!!!!」  
 次の瞬間、鶴屋さんは声にならない悲鳴をあげて思いっきり仰け反った。  
 勢いで口からぶるん、と乳房が離れる。  
 やっぱり歯で噛まなくて良かった。  
 そして体ががくがくと痙攣し…鶴屋さんは  
 仰け反った体制のまま、果てた。  
 俺の股間を、なんだか暖かいもので濡らしながら。  
 うん、やっぱり美人でもあれはそれなりに匂うんだな。  
 で、えーと、どうしよう?  
「……。しん…じられ…ない…」  
 仰け反ったままの鶴屋さんを畳に降ろすと、人形の様に体を弛緩させたまま、寝言の様な呟きで鶴屋さんは言った。  
「あたしが…こんな風に…」  
 どこか焦点の合っていない瞳で鶴屋さんは呟いた。  
 あの、すいません、やりすぎました。  
 俺は乱れきった衣服をなんとか前だけでもと隠し、謝る。  
「キョン君…」  
 はい。  
「君が…本当に怖くなったよ…」  
 え?  
「あたしを…ここまで…ここまで…なんて…」  
 そう言い、自分の股間にそっと指を当てる。  
 ぴちゃ、と下着から音がした。  
「おまけに、お漏らしさせてくれちゃった…。ここまで…あたしを…めちゃくちゃにするなんて…」  
 すいません、本当にすいません。  
「…覚悟、してね」  
 何をですか?  
「色々だよ。そして、君だけじゃなくて…」  
 鶴屋さんは天井を眺め、何故か不敵に微笑んだ。  
「ちょっと待ってね」  
 鶴屋さんは瞳を閉じ、大きな深呼吸を何回かする。だんだん、下がっていた眉がいつもの鶴屋眉になってきた。  
「…さて、着替えないとね。キョン君、起こして」  
 一分ほどして、鶴屋さんがいつもの声で言う。  
 
 俺は手を取り、鶴屋さんを座らせた。  
「にょろー…」  
 気怠げに鳴く鶴屋さん。  
「かしこまりました」  
 心臓が飛び出るかと思った。  
 いや、多分何センチかは動いたと思う。  
 婆やさん(仮名)居たの!?  
 ずっと居たんですか!?  
 全部聞いてたんですか!?  
 不可思議言語のやりとりよりもその事実が俺を驚愕させる。  
「ばっちゃに隠し事は不要にょろ」  
 そう言う問題じゃないと思うんですが!  
「戦国時代だって、親方様と側室の初夜は襖一枚隔てた向こうに何人も付き人が居る状態で行われたにょろよ」  
 そうだけど! そうだけど!  
 流石に慌てる俺によしよし、と優しくキスをする鶴屋さん。  
「替えをお持ちしました。キョン様のは礼の一式で宜しいですか?」  
「にょーろー」  
「はい。では失礼します」  
 この言語を解析できたら多分ロゼッタストーンの解析に次ぐ偉業だろうな、とか思っている内に鶴屋さんはのろのろと歩いて着物を二着  
持って来た。  
 一着は鶴屋さん、もう一着は俺、か。  
「それじゃ、洗濯するから着替えてね。流石にその服のままは帰れないでしょ? 妹ちゃんなんか勘がいいから、絶対に問いつめられるよ」  
 その通りです。ご厚意に甘えさせて貰います。  
「あたしが先に着替えるから、ちょっと後ろ向いていてくれるかな? それとも着替えさせてくれる?」  
 いえ、頭を冷やさせてください。  
「ふっふー」  
 なんですか? その出来るかな? みたいな表情は。  
「まぁいいっさ。そんじゃお着替え開始にょろよー」  
 俺は速やかに後ろを向く。  
「終わったにょろよー」  
 早っ!  
 思わず振り向くと、先ほどの着物よりやや軽めな、浴衣みたいな作りの着物を着ている鶴屋さんが居た。  
 涼しげな格好も似合っています。  
 で、えーと、なんか、胸の開きが大きいですよ? それに、質は良さそうですが布地が薄いんですか? その…胸の先が…くっきりと…。  
「うっふん」  
 やめてください。頭冷やしている最中なんです。と言うか、そんな格好流石に家の人に見られていいんですか?  
「この辺りはばっちゃ以外入って来ないから平気にょろ」  
 …それってつまり、この辺り一角全て鶴屋さんの領域、って事ですか?  
「んー、そんなところ。でも領域なんて言わないでよっ。部屋だよ部屋」  
 相変わらずスケールが違うというか次元が違う。  
「さて、キョン君こそ早く着替えないと、あたしのあれの匂いが染みついちゃうよ? 薔薇の香りには思えないからねぇ」  
 そうでした。  
 えーと、それじゃ鶴屋さん、後ろを…。  
「しゅるっと」  
 わぁ。  
 鶴屋さん、突然俺のベルトを素早く抜きました。  
「ちょいちょいっと」  
 そしてシャツのボタンをぷちぷちと外し、あっさり上半身裸に剥かれちゃいました。  
 いやーん。  
「それー!」  
 って鶴屋さん! ズボンを! 一気にっ!  
「ぅわ」  
 おもちゃを見つけた子供みたいな表情で、鶴屋さんが満面の笑みを描く。なんか瞳も輝いていませんか?  
 ええと…なんと言うか…どうしよう。  
「…見ちゃった」  
 少し興奮気味の表情。頬がほんのり紅色で色っぽい。  
 
「…ちゅ」  
 って! 鶴屋さん! ちょっと!  
 そこは! そこは! オベリスクが発動しちゃうっ!  
「えーと、ここ? ぺろ」  
 俺のターンっ!  
「え? …わっ! すご…別の生き物みたい…。えと…やっぱり、あそこで止めたら男の子はたいへんだよねぇ? …ところで、これって  
普通の大きさ…なのかな? なんか、おっきい…」  
 …たぶん平均と思いますよ。  
「そうなの? 親父っち以外のは見た事なくて…」  
 意外にウブ?  
「失礼にょろー! これでも正真正銘バリバリ伝説な箱入り娘なんだからねっ! 運動会や学芸会以外じゃ男の子と手繋いだ事も無いんだよっ!」  
 その割には行動が色々すごいんですけどっ!  
「そのかわり、女の子に関しては知識も実技も豊富にょろ。それ繋がりでねっ」  
 ……。  
 なんだろう、一瞬朝比奈さんの泣き顔が頭に浮かんだぞ。  
「だから…気持ちよくなかったら、ごめんね」  
 そう言い、鶴屋さんはあーんと口を開け、俺のオベリスクをくわえ込んだ。  
 ふんもっふ!  
「…んっ! げほっ! げほっ!」  
 喉の奥に入れすぎたのか鶴屋さんが激しくむせて顔を離す。  
 大丈夫ですか? …もしかして、俺のが匂ったとか? すいませんっ!  
「えほ…だ、大丈夫。初めてだから加減がわからなくて…。それに、変な匂いだけど…キョン君のだから…なんか、嫌じゃ…ないみたい」  
 自分でも恥ずかしい事を言っていると分かっているのか、鶴屋さんの顔が真っ赤になる。  
 いかん、その表情、俺のオベリスクにパワーが流れ込む。  
「それじゃ、続きね」  
 鶴屋さんは俺を寝かせると、股間に顔を埋める。  
「えーと、本当はあたしもひっくり返った方がいいんだろうけど…ごめんね、今キョン君にあそこいじられたら、多分本当に気絶しちゃうか…我慢が、もう…」  
 謝らないでください。多分、それやられたら俺も本当に理性が吹っ飛びます。  
 ありがとう。そう言って鶴屋さんは暖かい口腔に俺を納める。  
 舌をまとわりつかせ、ゆっくりとゆっくりと動かすそれは、未知の快感となり俺の下半身を刺激していた。  
 湿った音が耳に響き、それも興奮度を高める。  
 何よりも、鶴屋さんという才色兼備な女性が俺の股間に顔を埋めて息子を加えているという非現実的な現実が何よりすごい。  
「つ、鶴屋さん……!」  
 俺は思わず鶴屋さんの頭を押さえていた。  
 ちょっと驚いた表情だったが、いいよ、と目で合図してくれ、俺は逆らうことなく鶴屋さんの頭を自分でゆっくり上下させる。  
「…っ!」  
 程なく、俺は快感の絶頂に達し、鶴屋さんの口の中にそれを吐き出した。  
「んむーっ!」  
 流石に鶴屋さんが苦悶の表情を浮かべるが、自分でも腰をしっかり掴み、顔を離そうとはしない。  
 押し寄せる快感の波が収まってきた頃、鶴屋さんは深くくわえ込んでいたそれをゆっくり、ずるずると放し、やがてぷるん、と唇から  
それが外れた。  
 口をつぐんだままの鶴屋さんはちょっと悩んでから、顔を持ち上げて薬を飲む時みたいに、口の中のそれを飲み込もうとして…。  
「!!」  
 大あわてで立ち上がり、部屋の隅のゴミ箱に顔をつっこんだ。  
 大丈夫ですかっ!  
「げほっ! げほっ!」  
 俺は鶴屋さんの背中をさする。  
「…けほ…大丈夫。胃の中のものを出しちゃった訳じゃないよ…」  
 鶴屋さんは顔を上げ、涙ぐんだ瞳で健気に微笑んだ。  
 本当に平気ですか? 気分は?  
「んー…何て言うか、やっぱり、匂いがすごくて…ごめんね、飲めなかった。だんだん慣れるから、許してね」  
 いやいや、許すも何も…て言うか無理に飲めなんて言いません。  
 …だんだん?  
「慣れるから」  
 真摯な瞳が俺を見る。  
 ……。  
 
「頑張って、って言って」  
「頑張ってください」  
「めがっさ! …ところで、キョン君はスッキリした?」  
 そりゃもう。  
「ふふ、あたしもなんだかとっても気分爽快だよ。それに、お互いに初めてをたくさんあげちゃったね。キスに、おフェラに、ペッティングに、ごっくんは…未遂だけど、ちょっと飲んだからまぁよしとして、粗相までして、しかもキョン君にかけちゃったんだから、これはもう、相当なアドバンテージをSOS団から奪ったねっ!」  
 確かに。  
 これを知られた時、俺は人生が終わるかも知れませんが。  
「ふふふ」  
 悪戯な微笑みがそれでも可愛らしくて、俺も頬をゆるめる。  
 ところで、そろそろ帰ります。流石に時間も経ちました。  
「んー、夕餉も一緒にと言いたいけど、あんまり独り占めじゃ悪いしね。そんじゃ、体吹いて、これに着替えてね」  
 鶴屋さんは用意されていた衣装一式を俺に勧める。  
 下着からジャケットまで一通りだ。  
 あの、俺が着てきた服から明らかにランクが跳ね上がっています。それとなんでこんなにサイズぴったりですか?  
「ふっ。鶴屋家の情報網を甘く見ると怖いにょろよ」  
 色々怖いなぁ。  
「んじゃ、脱いだ服はこっちで洗っておくっさ」  
 恐縮です。  
 それじゃ、今度この服もクリーニングしてから、俺の服を返してもらいに伺いますね。  
「それはそのうちいずれいつの日か、ふと記憶の片隅でそれに気が付いたら気になったらひょっとして返そうかなって考える事があるかも  
しれないと思うのは思想の自由にょろ。過去の事は、特に衣服関連の事はきれいさっぱり忘れるといいって今朝の新聞の占いに出ていたっさ〜にょろにょろにょろ…」  
 鶴屋さんは漫画で見る催眠術師みたいな手つきでやたら文面の明確な呪文を唱える。  
 …えーと、それじゃ、この服もそのうちって事で…。  
「にょろ!」  
 その後、着物の上にもう一枚羽織を着た鶴屋さんに連れられ、俺は鶴屋家の長い廊下を歩いている。  
「今のところ、あたしが肉体的関係で一歩リードにょろね。ふふふ…内緒だけど」  
 鶴屋さんは俺の腕につかまり、頬ずりしながら楽しそうに言う。  
「先の見えないレースっていうのは、どうしてこうもどきどきするものなんだろうね…」  
 最早言うのもアホらしいが、鶴屋さんもこの信じられない五つ巴に飛び込む気まんまん…と言うか実質飛び込んでいるな。  
 そうすると六つ巴?  
 ふーん、楽しそうだなぁ。  
 …駄目だ。いくら第三者的視点でものを見ようとしても現実は今の鶴屋さんの様に俺の腕にのしかかってくる。  
「キョン君。もう一度言うけど、君は充分すごいんだよ。人としてね」  
 煽てられた人間はたいてい自滅しますよ。  
「そうならないのがすごい所なのさっ!」  
 自信ないなぁ。  
 そんな俺を見て鶴屋さんはさも楽しそうに笑った。  
 ついでにちょっと股間を撫で…あふん。  
「…ふふ、もうすぐ…どきどきにょろね」  
 何が!? 分かっているけど聞きますよ! 何が!?  
 鶴屋さんは禁則事項です、と人差し指を口に当てて微笑んだ。  
 その笑顔が美しくもどこか怖いのは、きっと規定事項です。  
 
 
つづく  
 

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