Prologue.
自らの過去を語るのに追想という形を使った場合、曖昧な部分が出てくるという事態は、まず避けられないものになってしまう。
もし話に正確さを求めようとするのであれば、語り部(この場合は俺だ)はそれを記憶ではなく記録という形で示すべきなのであろう。
だがしかし、自分が経験した事全てを写真やら映像といった確かな記録として残しておけるかというと、現実問題としてそれはなかなか難しい、………理解を求めたい。
いや、確かに俺の知り合いに一名ほどそれが出来そうなやつがいるのだが、少なくとも俺にとっちゃあそれは鶏が卵に戻るよりも乗り越え不可能な壁なのである。無理難題なのである。アイムパンピーなのである。三連続で残念賞だ。
まあ要するに俺が何を言いたいかというと、今からの話はそんなパンピーの語りである以上足りない部分も多々出てくるであろうが、もうそれは個々の想像で補ってもらうしかない、という事なのだ。
初っ端からそんな厳然たる事実と見せかけた言い訳で誤魔化しながらも、不確かで不鮮明で不恰好で不器用な、そんな話を、逃げずに語ろうと思う。
………ああ、そういやこの言葉を使う時にはもう物語はある程度の所まで進んでいる事が多いよな、などとどうでもいい事を考えながらも、貧相なる我が脳内国語辞典には他に言葉が載ってないので、仕方なく『この言葉』で始める事にする。
―――それでは、はじまりはじまり
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喜緑江美里の憂鬱〜the melancholy of fake star〜
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1.
俺がアイツと出会ったのは、………いや、出会ったというよりは俺が一方的に認識しただけなのかもしれないが、まあ、そんな事は些細な問題であろう。『出会う』という言葉の定義について語れるほど成績が良いわけじゃないがな、………ほっとけ。
まあとにかく、それは俺が高校に入学した、ちょうどその日の話になる。
眠りの世界に片足半ほど踏み込みながら、残りわずかな意識を『サンタクロースをいつまで信じていたか』などという疑問から始まる古典落語の登場人物の本名並みに無駄に長い考察に費やしつつ、入学式という名の苦行を終えて教室に向かう。
高校一年という新しい環境にも『うちのクラスには同じ中学から来ている知り合いもいるし、気楽にやっていけばいいか』などと消化試合の観客のように暢気に構えながら、開幕戦とは思えないほどダラダラな態度でホームルームを迎えた。
担任の岡部は『熱血です 汗と涙と ど根性』という標語がぴったりなタイプで、正直苦手なタイプではあるが、悪人ではないというなんとも厄介な人間であった。………ちなみにこれは物語には全く何の関係も無い。
とにかく、その岡部の提案により高校最初の記念すべきホームルームタイムは、自己紹介などという面倒くさがりの人間にとっては苦痛にしか思えない個人情報流出タイムとなったのだった。
ちなみに、俺にとってもこういうのは、完膚なきまでに確実な嫌がらせにしかならないのだが、シカトという行為で向こうさんの善意と熱意を真っ向から否定するのも少々面倒くさい。………ほら、厄介なタイプだろう、この熱血教師。
そんなプチ人生の苦難を適当かつ無難にやり過ごして、着席という行為で次のクラスメイトに『苦しみバトン』を渡そうとしたその時だった。
「うふふふふ、ついにこの時が来たようですね」
岡部教諭が目的とした自己紹介というクラス中の心を一つにするためのリレーは、いつの間にか自己アピールというクラス中の心を測定不能な領域へと叩き込むための投擲競技へと変更になったらしい。
はるかな高みへと舞い上がっていく『苦しみバトン』を脳内に浮かべながら、『この手の輩には関わりあいになりたくないな』という願望99%に『面白そうだ』という隠しきれない期待1%をブレンドしつつ振り返る。
「東中出身、喜緑江美里です」
えらい美人がそこにいた。………が、
「ただの人間には興味ありません。この中に異世界人、宇宙人、未来人、超能力者がいたらわたしのところに来てください、以上です」
それを全力で台無しにするトンでも発言が、周囲1キロくらいには響き渡ったのではないかと思えるほど朗々と、クラスメイト全員+熱血馬鹿一名に打ち込まれた。
「………」
凍りつく教室。
「うふふ」
何かをやり遂げたかのような清々しく禍々しい笑顔を浮かべつつ着席する喜緑江美里。
「あ、じゃあ、次」
皆どう反応すればいいか分からず、まるで不発弾が見つかった農村のようにギクシャクと凍りついたままの空気の中、岡部のフォローになってない言葉により、自己紹介タイムは再開された。
その後、自己紹介でウケを狙った勇者がことごとく『だだすべり』という名の流れ星と化したのは言うまでも無い。
特に谷口とかいうヤツがいきなり自作ソングを熱唱しだした時は、空気のあまりの凍りっぷりに、思わず介錯と称して13階段から蹴り落としたくなる衝動にかられるほどであった。
とにかく、こうして喜緑江美里はクラス中の人間の認識という名のゴールに『あ、こいつ、ヤバイわ』というボールを叩き込んだのである。………オフサイドにも程があるよな。
ちなみにその時の俺はといえば、『異常です』などという一生の不覚の一つにすらなり得る寒いシャレを思いつき、自分のあまりのセンスの無さに軽くへこんでいたはずである。
アイツに対しては『変なやつがいるなー』と思った程度の認識にすぎず、まさかその『変なやつ』がこれからの俺の人生にあそこまで関わってくるとは、当然思いもしなかったのだ。
つーか普通、考え付かんだろ、そんなミラクルは。
2.
嵐の前の静けさだったのか、台風の目の中に居ただけだったのかは知らないが、比較的穏やかにすぎた四月を終えた、ゴールデンウィーク開けのある日の話になる。
まあ、穏やかだったのは俺の周囲に限った話であり、喜緑江美里の周囲はヤツ自身が巻き起こす変態タイフーン(本人無自覚、多分)のおかげで警報出まくり無人地帯となっていたわけだが。
ちなみに、不幸属性満開の我等がクラス委員長こと朝倉涼子女史は、ほぼ毎日のようにそれに巻き込まれ、校庭に簀巻き状態で転がされていたり、巫女服姿で登校させられていたりしたのだが、それはまた別の話だ。
ああ、俺はたまたま知り合いになった(友人とは言いたくない)ミスター13階段から喜緑が東中時代に創り上げた数々の伝説を聞いていたため、自主的に避難させていただいた。やはりこれからの時代、情報というものは大事だよな、うん。
しかし、である。
情報をいくら集めようが、天災というものは防ぎようが無いから天災というのである。
ゴールデンウィーク開けのその日その時、事件は教室で起こったのだ。起こされた、もしくは巻き込まれたといったほうが正しいのは俺がむなしくなるだけなので言わないでおいてくれ。
鳩の大行進がまぶたの裏側に浮かび上がってくるほど平和にすぎるはずだったその日の朝、喜緑江美里が、俺の頭部をいきなり万力のような力で固定しつつ、いつもの底の読めない笑顔で話しかけてきた。
「それでは、部活をつくりましょう」
「………は?」
そこ、芸のない反応だ、なんて言うな。てか、逆に聞くぞ。
入学してから一ヶ月、一言も会話を交わした事の無い校内一の変人にいきなりこんなベクトル不明な提案をされた時、『将来の夢は一戸建てです』というくらい凡人代表な俺は一体どんな反応を示したら良いんだ。
「あなたの感じるままに動けば良いんですよ」
「なるほど」
1、1、9、と。
「えみりんビーム」
俺の手から携帯が叩き落される、………チョップで。ああ、落ちていくカンダタを見るお釈迦様の気分が分かったような気がするなあ。
「ふう、危うく国家権力に屈する所でした」
のたまうカンダタ。
「失礼ですね。わたしは犯罪者じゃないですよ」
「うん、そうだね。病気が全部悪いんだよね」
「うわー、ものすごく優しい口調ですよ、この人」
下手に刺激すると危ないからな、と適当に流しながら話を進める事にした。………いい天気だなー、今日は。
「あー、とりあえず、だ。部活って何だ? 何をする部なんだ?」
「つくってから考えます」
ザ・無計画! ………春だなー、今日は。
いや、待て。もしかしたらつくる事それ自体に意味があるのかもしれん、とものすごく好意的に受け取って話を進める、というか早く終わらせたいというか巻き込まれたくないというか勘弁してくれというか、まあその辺の何かが主な理由なのだが。
「で、何でまた部活なんてつくろうと思ったんだ」
「つくってから考えます」
1、1、9、と。
「えみりんスプラッシュ」
チョップで叩き落されるマイ携帯、………大変だねお前も、てか俺もか、主に俺がか、………やれやれ。
「さて、部活として認められるには部室と部員五名が必要です。部室はどうとでもなるとして、後三人何とかして集めないといけませんね」
「………一応聞くが、現在集まっている二人ってお前と誰の事だ」
「ゆー!」
「………」
下手に反応すると巻き込まれる。ここはシカトするに限るよな。
「ゆー?」
「………………」
不安そうに上目遣いで覗き込まれる。演技である事は分かっているんだが、なかなか振り払いにくい状況ではある。
………心を強く持て、俺。安易な選択は一生ものの後悔を生むはめになるぞ。
アレとの間に壁を作るんだ! ライカベルリン!
「えっと、ダメ………かな?」
「分かったから泣きそうな顔でこっちを見るな!」
………崩壊しました。ライカベルリン。
と、まあこんな感じで俺の部員という名の生贄生活がスタートしたのであった、笑いたきゃ笑え。
「うふふふふ。ちょろいですね」
「お前が笑うな! てか、しゃーないだろーが! 演技だと、罠だと分かっていてもあんな顔されたら男は誰でも特攻するわ!」
「………ばか(ぼそり)」
泥沼に嵌まる予感がしたので、耳に届いたその言葉を俺は聞こえなかった事にした。
3.
放課後、終業のベルが鳴ると同時に、喜緑がいきなり俺の腕に関節技を極めてきた。
「痛い痛い痛い! いきなりなんだよ! 俺何かしましたか? オシエテミープリーズ!」
パニックのあまり謎言語を周囲に発信する俺に対して、元凶である悪魔はいけしゃあしゃあとこう言い放ちやがった。
「『俺はもうお前をしっかり掴んで放さないぜ!』というのが最近の流行らしいじゃないですか」
「んな流行初耳だし、そもそもお前、絶対言葉の意味履き違えてるぞ!」
「あら、どんな言葉にせよ解釈は個人の自由ですよね」
「わざとなんだな! わざとって事でいいんだよな!」
「萌えました?」
「萎えました!」
とまあ、このような心温まる会話を交わしつつ、関節技を解除してもらってから教室を後にする。
………手は繋いだままだったが、関節極められるよりはマシだろうよ、多分な。
どうやら喜緑には前に言っていた部員と部室とやらにアテがあるらしく、俺はそんな彼女にまるで売られる子牛のように旧校舎へと引っ張っていかれる事になった。………一人で行けよ、とかいう俺の意見は当然のように却下されたってわけだ、やれやれ。
「この学校には文芸部という部活がありまして………」
名前の通り喜色満面の笑みを浮かべて語りだす喜緑。クラスでもあんな腹黒そうな笑みではなく、こんな笑みを浮かべればいいのにな、………話がそれた、すまん。
とにかく、だ。喜緑の話によると文芸部は今部員が一年生一人しかいないという滅亡の危機に立たされているらしい。
「どうせ滅びるんですから、おこぼれはしっかり貰っておきませんとね」
ものすごい火事場泥棒理論である。………もしかしたらこいつに必要なのは119より110なのかもしれんな。
「失礼ですね。ちゃんとお願いして、許可を貰いますよ。ラブアンドピース。わたしは言葉の『力』を信じます」
「言っておくが言葉の『暴力』も禁止な」
「えっ!」
「何でそこで驚くんだよ!」
「だいじょーぶですよ」
「何で棒読みなんだよ!」
「ニホンゴ、ベンリベンリデス」
「何でカタコトなんだよ!」
そうこうしているうちに文芸部室に着いちまった。本当、大丈夫か、おい?
喜緑は俺の不安を吹き飛ばすかのように文芸部室のドアを壊れるんじゃないかと思えるほど力いっぱい押し開き、その中でパイプ椅子に座りながらこちらを見ようともせずに分厚いハードカバーの本を読んでいる少女に向けてこう叫んだ。
「こんにちは、部員と部室をもらいに来ました!」
………ど直球、しかも大暴投だった。
「………どうぞ」
って、ストライクっ! 審判誤審だっ!
「そうですよ! 抵抗しているのを無理矢理ってのが良いんじゃないですか!」
「よし分かった。ちょっと待ってろよ。えーと、1、1、0、と」
「えみりんファイヤー」
宙を舞うマイ携帯。
「だからただのチョップだよな、それ」
「………ユニーク」
なぞのぶんがくしょうじょ が なかま に なった
「いや、本当に良いのか? 何か言いたい事はないのか?」
「………ユニーク」
「………」
言葉を失う俺に、とっておきの手品の種を明かす小学生のような得意満面の笑みで喜緑はこう言い放った。
「まあ、実は彼女は昔からのお友達なんですけどね」
「長門有希」
俺のほうをちらりと見ながらそれだけを呟き、また視線をハードカバーに落とす。自己紹介終わりらしい。ある意味好感が持てるね。
………つーか、お友達って、おい。
「わたしは部室と部員を手に入れる。長門さんはゆっくり本を読む場所を手に入れる。あなたは………、えーと、まあ、三方一両得ってやつですね」
いや、だからな。俺に得が無いのはこの際おいておくとして、だ。
「『お前とそこの長門さんとやらが知り合いだ』と言うのは俺にとっては初耳なんだが、それを伝えなかった理由をまず聞かせてもらおうか?」
「………てへっ」
「何だそのちょっと幼い感じの小学五年生が言うようなセリフは!」
「萌えました?」
「萎えました!」
「………ユニーク」
こうして喜緑江美里とその愉快な仲間Aは部室と新たな部員を手に入れたのである。………って、誰が愉快な仲間Aだ!
「とにかく、ですね」
帰り際、微妙に弾んだ声で喜緑はこう続けた。
「これから毎日、放課後はここに集合です。来ないと死刑ですよ、………社会的にね、うふふ」
要するに俺一人が損をするって結論なんだよなー、などと誰かが割を食うように出来ている資本主義社会に疑念を抱きながらも、俺は不承不承その言葉に頷く事にした。
社会的死刑執行ならこいつはリアルにやりそうで怖かったからな。他に理由なんて無いぞ、うん。
4.
次の日である。
「さて、次は誰を拉致りましょうか?」
放課後、部室に向かう途中でいきなり犯罪宣言をぶちかます喜緑江美里。
「………」
ガン無視で部室へ向かう俺。反応したら負けである。俺に出来る事は、こいつが素敵なわくわく拉致監禁計画を実行に移す前に安全圏に離脱し、自分が巻き込まれないようにする事だけである。
部室に向かっている時点で既に巻き込まれている、というツッコミは受け付けないのでよろしく。
………いやまあ、いくら喜緑が変人だからといって、いきなりそんな犯罪行為を実行に移すとは思ってないけどな。
「お嬢さん、飴ちゃんあげるからお姉さんについてきませんか?」
「ええ、なんなんですかー? どうしてあたしいきなり小学生扱いされてるんですかー?」
「………ユニーク」
………既に実行に移されていた。コンマ三秒の早業である。俺の信頼とか希望とか、そんな色々な何かを返してください。
「って、喜緑。いきなりアクセル全開に脳内吹っ飛んでんじゃない! そして長門はいつの間に来たんだ! そして、あなたは誰ですか!」
「ええ、なんなんですかー? どうしてあたしまでいきなりツッコミの対象になってるんですかー?」
………確かに、俺も少々混乱していたようだ、反省。
落ち着いて顔をよく見てみると、その少女は俺が、一方的にだが、知っている人だった。確か谷口が………、
『おい見ろよ、アレが二年の朝比奈さんだ。顔、胸、性格、全てが素晴らしい。もう俺的ランクはトリプルエーを超えるね。あーと、エーが四つで、んー………、おお、そうだ、彼女はもうテリブルエークラスなんだよ!』
『………お前も大概テリブルだよな』
『へっ、確かに俺も持てるための四要素を兼ね備えているからな』
『マジでテリブルだよな、お前って』
イタい知り合いのイタい思い出に頭を抱えながら、とりあえず別のイタい知り合いが引き起こしたイタい場を収めるために口を開く。
「えーと、朝比奈さん、でしたっけ?」
「あ、はい。あたしは朝比奈みくるっていいます」
「あ、どうも、俺達は………」
3人分の紹介を簡潔に済ませた。
「でだ、喜緑。朝比奈さんに言いたい事があるなら、ちゃんと伝わるように話しなさい」
部活に誘いたいならちゃんとそう言えよな、と言外にたしなめる。
俺の言葉が伝わったのか喜緑はこう言いなおした。
「むー、分かりましたよ。えーと、わたしは喜緑江美里といいます。ところでお嬢さん、飴ちゃんあげるからお姉さんとイイコトしませんか?」
「ええ、なんなんですかー? どうしてあたしいきなり誘われちゃってるんですかー?」
「………ユニーク」
余裕で伝わってなかった。………やべえ、ちょっと泣きそうだ。
「喜緑、お前はいったいどこへ行きたいんだ? そして長門、実はお前さっきから何も考えてないだろ」
今度こそ俺の言葉が届いたのか喜緑は構えをとって………構え?
「もー、めんどくさいですねー。えみりんブリザード」
ぜんぜん、まったく、これっぽっちも伝わっていなかった。………なんでだろう? 悲しくないのに涙が出るよ?
「ふみいっ!」
にじむ視界に宙を舞う朝比奈さんの姿がうつる。
「だからそれただのチョップだよ………って、朝比奈さん舞ったー! えみりんブリザードすげー! じゃなくて、大丈夫ですかー! 朝比奈さーん!」
あさひな みくる を つかまえた
「………ゆにーく」
「いや、ひらがなにすれば良いとかそういう問題じゃなくて、………つーか朝比奈さんの扱いはこれで良いのか?」
「終わりよければ全てよし、というやつですよ」
「終わり方最悪じゃねえか」
意識が戻らない朝比奈さんを介抱するため、背負って部室へと行く事にした。
………拉致成功、とも言う。つーか、そうとしか言わん。
ちなみに喜緑はこの後、意識を取り戻した朝比奈さんに『介抱してさしあげた礼は体で払っていただきましょう』というマッチポンプ勧誘を繰り出し、強制的に部員に加えようとした。
残念ながら、すでにフルマラソン完走直前に足がつってリタイヤした選手なみの気力しか残されていなかった俺に、それにツッコミを入れる余力は残されておらず、ここに四人目の部員が誕生したのである。
………好きにしろよ、もう。
5.
「ところで、だ」
また別の日、たまたま部室向かう途中で二人きりになった時、俺は前から気になっていた事を聞いてみた。
「一応残り一人で部活としてはやっていけるようになるんだろう? 朝倉のやつは誘わないのか?」
喜緑はおもわず花丸をあげたくなるような良い笑顔と共にこう言い放った。
「朝倉さんは全身から誘ってオーラを出しているので、しばらく放置して様子を見ます」
「いや、誘ってやれよ!」
「理解が足りないですよ! 放置されて泣きそうな顔になっている朝倉さんの可愛さは無敵なんですからね!」
「お前は人としての何かが足りてねーよ!」
「萌えました?」
「萎えました!」
てなわけで、最後の一人はどうやら朝倉にはならないらしい。
「で、朝倉が駄目ってのは別にいいんだが、お前他にアテはあるのかよ?」
「うーん、そうですね。………とうっ、えみりんサンダー」
相変わらず方向性不明な謎声と共に、すぐそばを一人で歩いていた見知らぬ男子生徒をいきなり辻斬る喜緑江美里、………誰かマジでこいつを捕まえてくれないものかね。
「ぐはっ」
つうこうにんA を たおした
以 下 省 略
こうして最後の一人が仲間になった。
「………それはちょっと、僕の扱いがひどくないですか?」
「ん、ああ、じゃ、ちょっとだけ。結局最後までチョップだった、以上」
「あれ、おかしいですね。何故だか視界がぼやけて見えますよ、ははは」
一応説明しておくとこいつの名前は古泉一樹、倒した後で分かった事だがどうやら謎の転校生だったらしく、不幸にもめでたく喜緑によって部活の強制参加権を与えられる事になった………アーメン。
とまあ、こんな感じで自分を除く部員四名を犯罪スレスレの手法で強制召喚し、体裁上は部活の形を整えた喜緑江美里はある日の放課後、俺達の前でこう宣言した。
「部活の名前が決まりました」
発表しよう。
我らが部活の名前は『世界を大いに盛り上げるためのスーパーえみりんの団』略して『SOS団』となることがここに正式に決定した!
………勘弁してくれ、いろいろと。
「何か質問はありますか?」
詰問ならダース単位でザックザクなんだがな、どうせ聞かんだろ、お前。
「あらあら、うふふ」
笑ってごまかしやがった。
「あ、あにょ、これって何をする集まりなんでしょうかー?」
俺と喜緑の間で形成されたギスギス空間を緩和しようとでもしたのか、若干噛みながらの朝比奈さんの質問に、良くぞ聞いてくれましたといわんばかりの満面の笑みで喜緑はこう答えた。
「SOS団の目的、それは異世界人・宇宙人・未来人・超能力者を探し出して一緒に遊ぶ事です」
空気が凍りつく。俺にとっては二回目の感覚である。
今、俺の目の前で誇らしそうに胸を張っている馬鹿以外のみんなが、おそらくこう思ったであろう。
―――『あ、こいつ、ヤバイ』ってな。
「………unique」
だから、英語にすれば良いものでもないって。
Epilogue.
さて、アイツと出会ってからSOS団の始まりまでをこうしてざっと語ったのであるが、これだけでも俺が、精神的にも肉体的にも、かなり苦労しているのが伝わったかと思う。
だがしかし、俺はまだこの集まりをはた迷惑な自己中女に寄せ集められた仲良しグループくらいにしか認識しておらず、勝手にそのグループの一員にされた事だって『厄介なことに巻き込まれたなー』くらいにしか思っていなかったのだ。
人数もちゃんと集めたしこれ以上苦労する事は無いだろう、とそう思ってしまっていたのだ。
―――甘かった。
俺のその認識はとある無口な文学少女によって、あるものと共に木っ端微塵に破壊される事になる。
あ、俺の認識が甘かっただけだろう、だと? 心の準備をちゃんとしていれば、たいていの事には対応できたはずだ、だと?
だったらあんた等は想定できるのか? 多分だが無理だったと思うぞ。
―――喜緑江美里が喋っていた戯言が全部真実っぽくなるっていうトンでも展開なんてな。
「………ユニーク」
長門、人の回想に勝手に乱入してくるんじゃありません。
「………萌えた?」
「萎えた!」
グダグダなまま、続く、のか、これ?