台風一過ということで、雲一つ無い真っ青な空が気に食わないのでちょっと塗り替えてやることにした。
脚立とペンキを脇に抱えて家を出る。道を歩いていると、向こうから佐々木がやってきた。
「やあキョン。今日は晴れたね。どこへ行くんだい?」
「見ての通りだ」
「ああ、なるほど。そういうことか。相変わらず君は面白そうなことを考えるな。僕も同行したいところだが、残念ながらこれから塾に行くところでね」
「そうか。じゃあ仕方無いな。そんじゃまたな」
「君のことだから大丈夫だと思うが、くれぐれもやりすぎないようにしてくれたまえよ。あまりやりすぎると税金が上がる」
「心配すんな。税金は下がるようにしておくよ」
「頼もしいね。それじゃまた」
佐々木と別れた後、俺は空を塗り替えるのに絶好のポイントを見つけたので、早速作業に移ることにしたのだが、ここで問題が発生した。俺の持参した脚立では高さが足りなかったのだ。
仕方無い、不本意だがあいつの力を借りる以外無いだろう。俺はポケットから携帯を取り出した。
『はい、何の用でしょう?』
古泉が出た。
「実は空の色を塗り替えようと思ってだな」
『脚立の高さが足りなかったわけですね』
「何もかもお見通しってわけか」
『今ちょっと立て込んでるんですよ。先ほど閉鎖空間が発生しましてね』
「ハルヒがまた何をやらかしたんだ」
『さあ、神人が足を押さえてうずくまってるところを見ると、どうやら何かに足をぶつけたようですね』
「そんな下らんことであのバケモンを暴れさせてんのかあのアホは。ん? ひょっとして今閉鎖空間の中なのか?」
『そうですが何か?』
「閉鎖空間の中ってのは携帯が通じるもんなのか?」
『僕は超能力者ですよ?』
「それもそうだな。まあ解った。こっちで何とかすることにするよ」
『税金が上がりますよ』
「ちゃんと考えてやるさ。それじゃあな」
とは言ったものの、どうすりゃ良いんだ? 俺は途方に暮れた。
そこに一台のはしご車が通りかかった。あれくらいの高さがあればな。
と思っていたら、目の前ではしご車が停止した。運転席から出て来たのは……。
「てめえ……何しに来やがった」
「ふん、そういきり立つなよ。僕だってそんな何度もあんたの顔なんか見たくないんだ。だが、これが規定事項とあっちゃあね」
やれやれ。またしても未来的な何かに関わるはめになるのか。
「まあ何でもいい。手を貸してくれるっつーんなら、有り難く借りようじゃないか」
「手は貸さないさ。貸すのはこいつだけだ」
そう言って藤原ははしごを伸ばした。俺は早速上って作業を開始した。
二時間後。
空は見事なピンク色に塗り替わった。我ながら才能を感じる出来だね。
「降りて来いよ。差し入れだ」
俺ははしごを降りた。
「差し入れか。一体どんな素敵なサムシングだ?」
「おにぎりだ。何が好きだかわからなかったからな。昆布で良かったか?」
「どっちかって言うとツナマヨネーズの方が好きなんだがな」
「贅沢を言うな」
「これ、お前の手作りか?」
「それは……ふん、禁則だ」
「税金は?」
「下がった。だが代わりに保険料が上がったよ」
「マジか? やっちゃったぜ」
「それも含めて規定事項だ」
「なるほどな」
「全く、これだから現地人は……」
「……藤原」
「なんだ」
「うまいぞ、これ」
次に振り向いた時、藤原は既に時間移動して消えていた。
終