苛々していた。  
 待てども待てども僕の鬱積は晴らされることなく、その矢先に飛び込んできたものと言えば、  
 
「だから、どうして話を聞こうとしないんですか!」  
 甲高い声で鳴くように喚く女の嬌声。……そう、嬌声だ。虫唾が走る。  
 
 
 真っ暗な空間に、僕とそいつの二人だけがいて、暑苦しいほどに肌と肌を密着させていた。後ろ手に襷で手首を縛り、足も同様に拘束して自由を奪ってしまえば、もう時間的空間的に介入されるものなど何一つない。  
「…………ん、あぁぁ……」  
 橘京子の声が吐息に混じって聞こえてくる。  
「だらしがないな。もともと足りない奴だと思っていたが、ここまで来ると醜態きわまる」  
 僕はそう言って、露になった白く緩やかな曲線に舌を這わせた。  
「ふわぁ、あぁあっ!」  
 音声をかき消すように、そのまま口で唇を塞ぐ。  
「んん……! んんーっ!」  
 舌を絡めて、口内の唾液を吸っては戻す。ぺちゃぺちゃと低俗に音が鳴る。  
「…………んはぁっ! はぁっ、はぁ!」  
 酸素を求めて呼吸するたび、一糸纏わぬ上体が卑猥に上下する。  
「次は下だ。声を上げれば上げるだけ酷い目に遭うと思え」  
「……えっ。…………んっ、はぁぁあっ! あぁぁん!」  
 秘部。繊毛のような薄い毛が申し訳のように並んでいる。下着を大腿部まで下げて、両足の拘束を一時的に解いた。抵抗しない。困憊しきっているのか、子犬のように舌先を出して、不規則に息するのが精一杯の様子だ。  
 僕は橘の背後に回りこんだ。こいつを辱めることは、僕に刹那的な享楽を与える。幼く未成熟な入口に指を入れる。にゅっ。  
「はぁぁっ! んあぁっ、ふぅ……はぁぁん」  
 感じすぎだ。ここまで来ると興ざめしかねない。僕はズボンのベルトを緩めて、自分の一物を露出させた。  
 心境と裏腹に、身体は年齢相応の感応力を見せていた。そっと触れれば、微かな悦楽の兆しが先端から伝達される。生物の繁殖法とはかくも滑稽なものなのか。とは僕の率直な感想だ。  
 僕はあらためて橘の肩越しに恥辱姿を眺めた。  
「ふぅぅ……ぅぅっ」  
 細微に蠕動する白雪のような身体。細く青い血管が腿にうっすらとした奇跡を示し、それは死角にある膣へ続いている。そのずっと手前に恥丘が膨らみを見せ、薄桃色の突端が必死に主張せんばかりの硬直をしていた。両手で愛撫する。  
「んはぁぁあっ! いっ……ゃあぁぁっ! だっ……はぁっ!」  
 思いのほか柔らかい。見た目にさほどボリュームがあるわけでもなし。寸暇の間に僕の男根が漲溢する。丁度橘の小さな臀部の手前、すり合わさる肌の感触が心地よい。  
「ひあぁ……だめ……ふぇ、うえぇぇ」  
 哀咽にまみれてなおも発言しようとする姿は、鳥の雛を思わせる。  
 僕は委細構わずに、片方の手を再び陰唇へ這わせた。  
 ちゃくっ、くちゃっ、ぺちゃ、ぺちゅるっ、  
「んはぁぁあ! んあぁっ! ひうっ! あはああああっ!」  
 僕自身も朧に昂ぶりを感じている。心拍が体内で猥雑に共鳴しているかのように、五感を逸して脳梁が快感の鼓動を打つ。ペニスの裏が橘の腰に触れ、なおも充盈し隆盛する。  
「……ふじ……わっ……んあぁっ、ふぅぅううああああ!」  
「口ごたえ……するな……」  
 指先の往復運動を速める。橘の腰が一度大きく弾む。  
「ひあっ! んんっ! あはぁあああああん!」  
 とろとろの液体が初めは僅かに、それからだんだん容積をまして左手に絡みつく。僕の両脚は付け根のあたりで煩悶するかのように橘の感触を愉しみ、根底から鳴動するように自然と陰茎が突き上がる。ぴゅるっ。  
「四つん這いになれ。……これからが本番だ」  
 
 
 暗い部屋。  
 狭くて清浄なこの場所も、二人の異物が淫靡に合着すれば、たちまち熱と汚濁に満ちた空間となる。  
 
「ひゃっ、んんぁああっ、ふはあっ、んくぅっ……んんぅっ!」  
 腰から下に、感覚を失って破裂しそうなほどの電気的愉楽が走る。  
 目の前の女は、身につけていたレースのカットソーを二の腕に引っかけたままであることにも気づかずに、壁に両腕をついている。  
「んはっ、いっ、はぁっ、うぁ……ふくぅぅっ……」  
 細いばかりだと思っていた肉の感触は、意外なほどに柔軟で、過剰なまでに交感神経を刺激する。  
 既に一度顔面に十分な放射を済ませた後だった。口に咥えさせて前後往復をさせ、その間細緻で麗容な髪の毛を存分に撫で回した。  
 天性のマゾヒストなのではないかと思うほどに、橘京子は従順に従僕と化した。微かな回想をする間にも僕の淫棒は圧搾され、両手で腰の括れをさするとなおも快感が増す。  
「……んひゃっ、んはぁぁ、きっ……もちあぁっ! ひぃぃぃん!」  
 虚ろに転じた視線の先に、脱ぎ捨てられたプリーツとショーツが雑然と散らかっていて、卑猥な神経を高揚させる。真冬であれば吐息だけで室内が真っ白になったかもしれない。  
「どいつも……こいつも……っ、目障りなんだ……!」  
 押圧を繰り返しながら、僕は虚無と至福を同時に感じていた。  
「だっ……だめ……やめ、はぁぁぁ……」  
 泣くな。この畜生め。黙って隷従していればいい。この場に憂いの思念は不必要だ。  
 きつく閉まった肉扉が淡い鮮血を交えていても、そんなものはこの暗闇の中では見えやしない。  
「きゃぅっ! はぁっ! あぁぁああっ! だっ、はぁぁぁぁあああ!」  
 刹那の暴走のように、意識の全てが股間へ向かう。脳髄が真っ赤になって、やがて全ての力を放擲して白へと変わる。  
 この部屋にあるまじき色へと変わる。  
 
「……ひっ……っく……うぇぇ……ふぇぇ」  
「…………どうしてだ」  
 拒もうと思えば拒めたはずだ。一度質問したのだから。  
 なのになぜ、今なお僕に拠りすがる。  
「…………うぇっ、……あなたは……っく、……いつも……ふぇ、寂しそう……」  
 それきり橘は身体中の水分を使い果たすのではというほど泣き続けた。  
 僕は最後の最後まで何も言い返せなかった。  
 ……ちくしょう。  
 
 
 (了)  
 

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