夏休み最後の日。結局、今回もまた解決の糸口は見つからなかった。  
 俺はひたすら無力を感じていて、今隣にいるのは朝比奈さんだった。  
「うぅっ……うぅぇぇ……っく、ふぇ、ふぇぇ」  
 両手を猫のように丸めてとめどなく泣き続ける彼女は、こんな時でも可憐で愛くるしい。天蓋に散在する星屑をひっくるめても、これだけ魅力的な存在はそういない。  
 ブランコにカップルのようにして並んで座り、反省会にもならぬ慰みあいをしていた俺たちだった。いつもならこの歳の平均より高い数値を叩き出しているんじゃないかと思われる俺の理性も、どうせまた繰り返すのだという投げやりな心情と、  
何より今目の前で泣きじゃくる小動物のような先輩の可愛らしさに、一時的解脱へと至っていた。  
 すなわち、俺は朝比奈さんを思い切り抱きしめていた。  
「……うぇっく。ふぇ……きょ……キョンくん……?」  
「朝比奈さん。大丈夫です。俺がついてます」  
 彼女の吐息がこんなに近くに感じられたのは初めてのことだ。みるみるうちに顔面が熱を帯びて、同時に頭の中がまともな思考形態を維持できなくなっていくのが解る。  
「キョンくん、うぇ、うぇええん」  
 小さな頭を抱きとめて、全身で彼女を抱擁した。柔らかい。というのが率直な感想だった。そして儚い。確かにこうして触れ合っているのに、どうしたってそこに朝比奈さんがいることが確認できないような気がするのはどうしてだ。  
「朝比奈さん……」  
 何を言おうと総ては無に帰すのだ。  
「好きです」  
「キョンく……んむっ!?」  
 何か言う前に唇を奪った。ぽてっとして艶かしく、弾力に富んで潤っていた。口先で吸うようについばみ、離れては接着し、潮流のように押しては引く。  
「んんぁ……キョンく……。だっ……ふぁめ……」  
 触れ合った頬に朝比奈さんの涙が触れた。それは熱くも冷たくもなく、丁度俺たちの体温を測る指標のようにして二人の肌と肌を繋ぎ止めた。  
 夜だというのにどうしようもないほど暑かった。  
 今から俺たちがどうなろうとも、何にもならない。咎められもしない。  
 そんな虚ろな思いが行動を加速させ、暑さを熱さに変えた。  
 
 
「ひゃぁっ! わひゃぁ! ふぅぇぇ……んくぅっ、はひゃぁああ!」  
 朝比奈さんの身体はいやらしかった。清潔なのに柔軟で、丸くて温かだった。  
 キャミソールをたくし上げて、不器用かつ乱雑な手つきでブラのホックを外すと、張力の限界に達した水が零れるように、一杯に膨張させた水風船が撓るように、たわわな両胸がぶるんと揺れた。僅かに突起した乳首は、取れたての白桃の  
ように淡い色をしている。思考を全く介することなく、俺は反射的に片方へ吸い付いた。  
「ひゃぅああっ!」  
 奇跡のように柔らかかった。固体とも液体ともいえない果実は、俺が咥えている限り片時も定形を取らずにくにゃりと歪んでは戻り、吸い寄せては嘗め回す。  
「きょ、ひょ……んふぁ…………あはぁぁぁ」  
 空いた方を片手で握る。初めはそっと。徐々に指先に意識を集中して……  
「ふあっぁ、くぁぁ……」  
 溶けてしまいそうなほどにしっとりして、溺れそうなほどに心地よい感触があちこちの神経を融解させそうだった。右手でつかんだ手首には、もはや抗力の欠片も感じ取られない。……いいのか、先輩にこんなことして。  
「朝比奈さん……好きです……」  
「ひょんふ……はふぁ……」  
 まして屋外だった。茂みへ移動したものの、俺たちは縺れて絡まって、次第に肌と肌が接する面積を広くしてゆく。もう引き返せない。  
 熱帯夜。昂ぶる鼓動と、前途にある絶無が、日頃開けぬ扉の鍵を渡す。  
 俺は朝比奈さんのフレアスカートを、擦るようにして下へ下へとずり下ろす。  
「ひゃっ、だっ! ……んぅ」  
 仰向けになった朝比奈さんはどこまでも無防備だった。夢見るような、蕩けるような瞳が過剰に艶やかで、俺は充満する欲望を空へ解き放つべくズボンを下ろした。既に先端が月光を反射して微かに光っている。  
「……ずうっとこうしたかった」  
 
 どちらのセリフか解らない。俺が言ったかもしれない。もしかしたら朝比奈さんのものかもしれない。そうであればいいと願った。何もかもかき消されてしまうとしても。  
 下着の上から、既に濡れそぼって小さな染みとなっているショーツを撫でる。  
「んひゅぅ! っあ! はぁあ…………」  
 言語を発せない口元は、唾液の交換によって尚も妖しく、ぷるんと動いていた。たまらずにキスをして、  
「ふぅっ、んちゅ、はぁっ…………くぅ、ふあぁぁあ、だっ、はぁぁあ…………」  
「あさひな……さんっ……はぁっ……っく」  
 俺が白磁の肌をあちこち舌で這っていくと、朝比奈さんは導かれるように俺の頭を両手で抱え、未だ一枚の護りを得ている秘部へと誘引した。  
両手で、初めだけそっと、次の瞬間には太ももの感触による情動で一気に引き下げる。何て心地いいのだろう。今まで理性を保っていた自分が  
狂ってるんじゃないかと思うほどだ。リビドーそのものを委ねる優しい器であるかのように、朝比奈さんはとろんとした瞳で俺を見た。  
「あたしも……すき……」  
 間もなく、どこか幼稚な、それでいて恥ずかしいキスが俺の顔、四肢、腹、胸、首筋をちゅるちゅると、幼児の歩行速度のように伝っていく。たま  
に性感帯と思しきツボに触れ、竿がにゅるっと律動する。僅かに精液が飛び出す。  
「……ちゅっ、ちゅ……ぺろ……れろれろ」  
「……っく、はぁ……っあ! ……くぅ」  
 盲目の少女が目印に触れるように、繊細な指先が俺自身の快楽の具現体に触れる。おもちゃを弄るようにふにふにと回転、上下、そっとつま  
んで、口に含んで戻し、そんなことをされている間に、俺は気付けば朝比奈さんの頭を両手で包んでいた。さっきと反対だ。  
「……ふ?」  
 俺は何も言わずに彼女の栗色の髪を愛撫して、小さな口を陰茎へ導く。水の温度を確かめるように、そっと唇が触れる。ぴゅくっ。ぷるっ。仰  
向けのまま顎を引いて見下ろすと、朝比奈さんの豊満な乳房がしどけなく鈴なりにたわんでいた。ゆるやかに前後動するたび、ぺた、ぴたと膝  
付近に触れ、それがまた途方もない快感を生んだ。  
「にゅむ……ふぅ……ほぅむ……ちゅるっ」  
 ぴゅぴゅっ、るるっという反応があって、俺は朝比奈さんを一度引き離した。今度は彼女を仰向けに寝かせ、両足を徐々に開いて陰唇を露にする。  
穢れを知らぬ空洞は、消え入りそうな朱に染まって訪問者を待っているように思えた。  
「きょん……くん……」  
 部分部分、半乾きの体液がまとわりついた朝比奈さんは、本人の性質に拠らず淫蕩な姿態をしていた。脱がせ損ねたショーツが足首の辺り  
に引っかかっている。ブラは脱力した二の腕の下で役目を終えて雑然と放置されている。突如嗅覚に互いの汗の臭いが入り込んでくる。それ  
は俺の肌ももちろんだが、何より今ここにいる甘い先輩のあちこちから滲んで混じっているものだった。そう思うとたまらなく愛しくなり、俺はあ  
らためて朝比奈さんのあちこちを嘗めてキスした。  
「んひゃぅ! ……ふぅぅ、はぁぁ……んんっ! ……ふぁっ!」  
 特に最後のディープキスが官能的だった。互いの本能と本能が密接に合致して、弾み、跳ね返り、引き合って絡み、ぬるぬるになっては横這いを繰り返す。  
「んちゅる……んむ、ちゅ、ふぁ……はぁっ。んー、ぷぅぅ……」  
 両腕を腰に回して抱き寄せる。彼女の両足を俺の大腿部に乗せる。それだけでも果ててしまいそうになる。マシュマロのような両胸が俺の頼り  
ない胸板に接し、ペニスがさらなる充血をする。ぴゅぴゅぴゅっ。ぴゅるっ。  
 
 ゆっくりと俺たちは接合を果たした。ミリ単位での上下動は、だんだんセンチへと変わり、やがて肉感を伴った激しい情事へと移行する。  
「……ふぁっ、はっ、はっ、はぁあっ! んぁっ! はっ! あぁあんっ!」  
 朝比奈さんの重みは脳下垂体をブレイクダウンさせそうなまでに刺激した。  
「ひょんふっ……ふぁっ、ひぃっ、きゃはぁあっ、ひぃいん!」  
 俺は仰向けになって彼女の馬乗りに同調するのがやっとだった。数え切れないほどたくさんの脈動が膣の奥をつついて、じゅぶじゅぶに浸った内部を掻き回した。  
「はぁっ、はっ、はぁあああっ! ああん! もっ、ひゃうぁああん!」  
 びゅぶっ、ぶびゅびゅぶっ、ぶじゅるっ、ばぴゅぴゅぴゅっ。  
「……はっ、くっ、あぁぁあっ!」  
 ――来る。  
 井戸の底から突然変異の大洪水が押し寄せたような、根底から沸き起こる深い深い快感。それは俺の下肢をあまねく駆け巡ってなお飽き  
足らず、手首や二の腕、指先の一部を愉楽の桃色に染めて伝播し、最終的に発露となって液化し、防壁のない温かい胎盤へ流れ込む。  
「んひゃぁぁあああああああん! はふぁああああっ! あふぁぁあああっ! んんんんうううん! ふぁん! はぁぁあああひゃぁああああん!」  
 びゅどぐっ、どぶっ、ぶぼっ、ぶじょじゅぼっ。  
 
 ……全身から力が抜けた。  
 記憶が真っ白になっていくのが解る。  
「あさ……ひ……  
 
 
 ――再試行。  
 
 
 ……八月十七日。  
 
 
 (了)  
 
 

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