「キョン! 皆既月食よ! 皆既月食!」
いちいち騒ぐな、何度も聞いたし見りゃわかる。
「なによ〜あんまりわかってないわね、いい? これは非常に希少なものなのよ? 見ようと思って見れるものじゃないんだから!」
そうは言ってもねハルヒさん、遅くに呼び出されてこれじゃあな、テンションも下がるってものさ。
「なに? なにが不満なわけ?」
アイスを握って睨みつけるこいつに盛大なため息が出る。
現在、7時過ぎ、長門の住むマンション近くの光陽園駅前公園。
珍しいイベントとはいえどうしてSOS団緊急探索大会ってものを思いつくのか、五百円硬貨一つ分軽くなった財布が少し空しい。
ついでに蒸し暑い。
「いいじゃないですか、こういうのも」
語尾を半音上げるな、それになんだそのバットや懐中電灯は。
「いい、キョン? こういういつもと違う夜にはね、出るのよ?」
お得意の涼宮理論である。 で、なにが出るんだ?
「馬鹿! 出るって言ったら決まってるでしょ!?」
ハルヒの後ろでおもわずビクッと震える可愛らしい朝比奈さんが目に入る。 いいね。
それにしたってやってられん、その出てきたモノ相手にバットを握るなんてこともだ。
「9時半までがタイムリミット! こうしちゃいられないのよ!」
さっきまでじっくり観察してたくせにな。 開口一番? 団長様はアイスを振り回し周囲の視線も気にせずいきなり歩き出した。
団員は従うしかないらしい。
「きっと一番最初に連れて行かれるのはみくるちゃんね、夜更けになって発見されるみくるちゃんの顔には…」
悲鳴を上げる朝比奈さん。 先頭を突き進むアホは危険なことをほざいている。 そう、じつに危険である。
長門、いざとなったら頼むぞ。
「……………」
アイス一個で雇った小さな傭兵は、また小さく頷いた。 やれやれだ。