耳を刺すような静寂にふと目を開けると、そこは見慣れた自室の天井などではなく、白い天井と釣り下がったカーテン、
背中には妙に硬いスプリングのベッドの感触、鼻につく薬品の香り、そして真っ暗な中に浮かび上がる俺の体操服。
端的に言うと、俺は真夜中の保健室に寝ていた。ついでに言うと二の腕には包帯が巻かれている。そういうシチュエーションなのか?
さて、先ほど自室で寝ていたことを考えると、この状況に合致する可能性は以下のうちどれかだろう。
1.ハルヒがトンデモパワーを発揮して閉鎖空間内の学校に俺をワープさせた
2.長門が超宇宙的パワーを発揮して世界を改変させ俺を深夜の保健室に寝かせた
3.朝比奈さんが未来的パワーを発揮して俺を過去に飛ばした、または帰ってきたときに俺の記憶を消した
4.古泉にアッー! され、忌わしい記憶を封じるため自ら記憶に蓋をしてエーゲ海に投げ捨てた
5.佐々木団の誰かの何とかパワーでどうにかなって何故かここにいるとかなんじゃね?
…何が嫌だって、4の可能性を思いついた俺の思考が嫌だが、俺の出口を触診で確認したところ、幸いなことに未だ
可憐な蕾である。俺の貞操は無事だったか。これほど神に感謝したことは無い。今度ハルヒがBL系の本を持っていたら燃やそう。
さて、いい加減現実逃避はやめて、さっさとこの事態を解決するか。そもそもこの世界が現実かどうかは分からないが、
選択肢1、2、3のどれかなら、長門か朝比奈さんのフォローがあるはずだからな。
他人任せと言う無かれ。俺はごく普通の高校生でしかないのだ。フラグデストロイヤー? なんだそれは。そんなことを
言う奴は漫画かアニメかライトノベルの見すぎだろう。しかし昨今のアニメのクオリティの高さには驚かされるばかりだ。
そんなことを考えながら、俺はホイホイと窓の傍に近づいて行ったのだった。閉鎖空間なら色で分かるし、限定的な世界の
創造なら学校のみしか存在しない場合もある。さて、鬼が出るか蛇が出るか。十中八九神人だろうが。と…、
バン!!!! と、とんでもない音がして、保健室中の窓に黒い液体らしきものが付着した。それらはざわざわと脈動し、
パン! パン! バァン!! という音と共に窓ガラスを突き破り、保険室内へと侵入してきた。
…などと冷静かつ第三者的な観察を俺が出来るはずも無く、ただ床にへたり込んで腰を抜かしているんだが。
しかも少しちびった。多分普通の一般人なら最初の時点で失神&失禁していてもおかしくない。どこのホラー映画だ。
「う、あ、あああ、ああ…」
などと自分の喉から漏れる情けない音を聞いているうちに、それは床に蟠り、鳴動し、150cm程の高さになり、
内部から白と紺の文様が浮き出て…?
白い体操着に「1の2 くよー」とポップな字、そして紺ブルマの天蓋なんちゃら宇宙娘が現れた。
…とりあえずこのとてつもない脱力感と、さっきまでのとんでもない恐怖感をうっちゃって、一つだけつっこみたい。
「…なにしてるんだ、お前」
と、その何処を見ているのか、そもそも見るなんていうアナログな機能が備わっているかどうかすら分からない双眸を、
俺からつ、と離して、首を奇妙に傾けた後、そいつはポツリと言った。
「――――――女体―――――に―よる――――――篭―絡―――――?」
「ねーよ」
この世の中に、深夜の校舎に置き去りにされて、黒い塊に窓ガラスを割られた挙句、脈絡も無く現れた体操服の女子に
篭絡されるという奇妙奇天烈な属性持ちがいたら教えてくれ。全力で立場を代わってやるから。
「―――――深夜―の―――保健室で――――契ると―――――篭絡―――率が――当社比――――――259.4%増し――」
それは何処情報だ。その妙に細かい数字は何だ。ついでに当社で何処の会社だ、あとブルマを脱ぐな。意外とかわいい
下着っつーか縞パンは反則だろ。いつの間にか身体が動かないしベッドに移動させられてるし短パン脱がすなって アッー!!
深夜、保健室っていったらやっぱ九曜しかいないよね。え、違う?