今日に限って母親が寝坊してしまったせいで弁当の恩恵を預かれず、
俺はお世辞にも美味いとはいえない学食へ向かった。
「おや、こんな所で会うとは奇遇ですね」
ついてない日に一番会いたくない奴に会うとは。今日は厄日だ。
「つれないですね。僕としては意外な場所で知り合いに出会うことは
一つの幸運だと思っているのですが」
ああそうですか。どうでもいいが、俺は今から空の胃袋を満たすんだ。
幸運だと思ってるなら頼むから邪魔しないでくれ。
「ほう、うどんですか。ぼうも昼食なのでお供します。
といっても僕の方は弁当持ちですが」
「うどんで悪かったな。煮込めば何だってそれなりに食えるようになるんだ」
ふと目をやると、スーパーシェフ新川さんの超豪華特製幕の内弁当・・・ではなく
どこかの弁当屋のプラスチック製容器が目に入った。
「古泉、それはあれか、ホカ弁ってやつか」
「ええ。駅前の小さな弁当屋で買ったものです」
「苦労してんだな、お前も」
「ええ、この歳で機関で働くというのも色々大変なんです」
少し同情したような、どうでもいいような。中身は何の変哲も無いシャケ弁だった。
ちょっと違うのは、なぜか唐揚げやコロッケが紛れていることくらいだ。
「その揚げ物類は何だ?シャケ弁に付く物ではないだろう」
「ええ、弁当屋のおかみさんが常連の僕に親切にしてくれまして。
よく、こうやっておまけを付けてくれるんですよ」
ふーん。
「よろしければ、いかがですか?貰ってはくれませんか」
「なんで俺が好き好んで野郎から弁当を分けてもらわなけりゃならんのだ」
「そう言わずに。さすがに毎日毎日揚げ物ばかり食べているのは辛いんですよ」
「ならいらないと断ればいいだろう」
「確かにそうですが、せっかくの親切を断るのも悪いのでつい頂戴してしまうのですよ」
「お前がそんな事を言えた義理か・・・しょうがない。分かった、貰うよ」
「ありがとうございます。では、どうぞ」
俺が割り箸を伸ばして唐揚げとコロッケを取ろうとした瞬間、背後で声がした。
「あんた達・・・前からなんか怪しいと思ってたけど、やっぱりそうだったのね・・・」
ハルヒがいた。口の周りにナポリタンのソースが付いてるぞ。ほら、拭け。
「え?やだっ。・・・と、とにかく!あんた達がそういう関係だってことはしかと押さえたわ」
ハルヒはそれだけ言うと走り去っていった。何が何だか分からん。
古泉の方を見ると、いつも通りのスマイルだった。
放課後、文芸部室へ向かった俺は妙によそよそしい朝比奈さん、ニヤニヤしているハルヒ、
普段どおり分厚いハードカバーを読みつつ妙に近寄り難いオーラを出す長門を見た。
そして古泉は来なかった。