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ナーサリーライムを二人で  
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 今にも落ちてきそうな青空が見渡す限りに広がっている、そんなある日曜日の話になる。  
 ロンドン橋ほど歴史があるわけではないが、それなりに人々の生活に役立っているという点では同等の価値を持つであろうある橋の上で、わたしはわたしの生みの親である統合情報思念体の不倶戴天の敵とも言える天蓋領域のインターフェイスと鉢合わせした。  
 
「観測―――接触………成功した―――でも………解析―――不能」  
 本当にインターフェイスなのかどうか疑わしくなるほどの、橋渡しする気が全く感じられない素晴らしい日本語である。………もしかしたら、わたしも似たようなものなのかもしれないけれど。  
「さあ―――どう………しましょう?」  
 ………こっちのセリフである、いろんな意味で。  
 
 しかし、どうも彼女はいつもとは違うようだ。  
 確かにいつもどおり、おそらく彼女等なりのコミュニケーションかと思われる方向性不明な情報を彼女はこちらにぶつけてきているのだが、今回はそれがさらに不安定さを増している。  
 そう、言うなれば、まるで戸惑っているかのような、  
「彼の―――瞳―――きれい………本当に」  
「………」  
 ああ、なるほど。  
 その明らかに説明不足な一言でわたしは彼女を理解した。  
 ………理解できてしまった。  
 
 ようするに、彼女も彼に壊されたのだ。  
 
 
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London Bridge is falling down,    ロンドン橋 おちた   
Falling down, falling down,       おちた おちた      
London Bridge is falling down,    ロンドン橋 おちた   
My fair lady.             さあ、どうしましょう   
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 放っておけば何時間どころか年単位でもその場に立ち尽くしていそうな彼女を連れて、橋の上から川原まで降りてくる。  
「………」  
「―――」  
 とはいえ、本当に文字通り、連れて来たのは良いものの、という状態である。  
 わたしはこの星でいう会話というコミュニケーションの手段が不得手であるし、目の前の彼女はそもそも会話というものの存在を知っているのかどうかが怪しい。  
 まあ、それでもわたしは以前ほどその沈黙は苦にならないし、彼女の方も、実際はどうなのか知らないが、情報をぶつけてくるのを止めたという事はコミュニケーション手段を探す必要性が無いほどには、この状況はイヤではないのだろう。  
 多分、彼という橋がわたし達の間に架かっているのだ。  
 ………毛糸一本で繋がっている吊り橋のように、不安定なものではあるのだけれど。  
 
「―――きれい」  
 隣で上がった声にふと顔を上げると、先程までわたし達がいた橋の向こう側に真っ赤な夕焼けが浮かんでいた。  
 夕焼けで赤く染まった彼女はわたしに問いかける。  
 
「あなたは―――どうするの?」  
 
「………どうもしない」  
 彼女の理解不能な質問を、視線は夕焼けに固定したままで、それでもちゃんと理解して、答える。  
 まあ、理解しようがしてまいが、答えは変わらないのだが。  
 そもそもつくられた存在であるわたし達に決定権は無いのだ。  
 落ちていようが、壊れていようが、流される事に変わりは無い。  
 
 ―――ただ、わたしは、  
 
 
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Build it up with wood and clay,     木と粘土で つくろう   
Wood and clay, wood and clay,      つくろう つくろう   
Build it up with wood and clay,     木と粘土で つくろう   
My fair lady.              さあ、つくろうよ   
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「―――そう」  
 小さく響いたその言葉に思考を中断させられたわたしは、声の発生源である彼女の方を見た。  
 言葉を出した彼女の、赤く染まった、その表情は見えない。  
 視覚補正を行えば見ることはできるが、多分、おそらく、見るべきでは、ない。  
「では―――」  
 見るべきではない顔をした彼女はすがりつくように、わたしにこう尋ねる。  
 
「あなたは―――どうしたい?」  
 
「………」  
 目を閉じ、答えを探す。程なくそれは見つかった。  
 先程の思考の続きが、そのまま答えになっていたのだ。  
 
 ―――正解かどうかは、知らないけれど。  
 
 
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Wood and clay will wash away,      木と粘土は ながれる   
Wash away, wash away,          ながれる ながれる  
Wood and clay will wash away,      木と粘土は ながれる   
My fair lady.               さあ、どうしましょう   
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「どうもしない」  
 見つけた答えを、前と同じセリフを口に出す。しかし、セリフは同じでも、これは前のソレとは意味合いが全く違う。そもそもこの言葉は、目の前の彼女に向けたものですらないのだから。  
 
 これは、上から見下ろしているであろう思念体へと、この世界へと向けた、  
「わたしは流された先にいるであろう自分を、その先にいた今の自分を、ただ、肯定する」  
 ―――これはわたしの、意志。  
 わたしはわたしの意志で、わたしが流されたい河に流されたのだ、………流されるのだ。  
 
 わたしの、長門有希という存在の答えに彼女は、周防九曜という名で確かにここに存在している彼女は、  
「―――その………答えは―――とても………きれいね」  
 目を閉じ、ただそれだけを呟いた。  
 
 
 彼女のその表情は相変わらず赤く染まったままで、未熟なわたしにはそこから何かを読み取るといったマネはできない、………もしかしたら彼なら可能なのかもしれないけれど。  
 
「………今日の夕飯はカレー」  
 でも、これから知っていきたいと、そう思う事は決して悪い事ではないだろう。  
 
「―――甘口で―――よろしく」  
 橋と橋が繋がりあう、これはただそれだけの話なのだから。  
 
 
 
 

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