夏休みに入ってすぐ、SOS団は古泉提供で孤島へ合宿を敢行することになってしまった。  
 それもこれもすべては、SOS団の団長こと涼宮ハルヒがやりそうなことを、自称涼宮ハルヒの  
精神的専門家たる古泉一樹が事前に察知して、最大公約数的幸福やらという観点から検討した結果だ。  
 まあ俺も、山を散々に歩き回りUMA探しに明け暮れるぐらいなら、浜辺で水着を観賞してる  
ほうがはるかにマシだったので、古泉の判断自体に文句をつける気はなかった。むしろ文句を  
言いたいのはハルヒにだな。なんでまた、合宿なんかしようと思ったんだ、アイツは。  
 合宿当日になったらなったで、妹がバッグに紛れ込んでいたり、おかげで遅刻して弁当を  
全員分おごらされたり、船内での青春の1ページを寝過ごして無駄にしたりと、あきれるぐらい  
ケチがつきまくった俺だったが、執事と家政婦に出迎えられ、豪華クルーザーでひと時を過ごし  
相変わらずハイテンションなハルヒを見ているうちに、ケチのついたことすべてがどうでも  
いいことだったように思えたから不思議だ。合宿パワーってやつかね。  
 ま、そんなこんなで島についた俺たちは、別荘へ荷物を下ろすやいなや、ハルヒの号令によって  
浜辺に繰り出した。朝比奈さんや長門、ついでにハルヒの水着姿を心待ちにしていた俺にとっては  
待ちに待った瞬間だと言っても過言ではない。脳内シャッターをひたすら切って、海水と戯れる  
朝比奈さんやパラソルの下で黙々と本を読む長門、おまけでハルヒを記憶に写す。  
 幸せとはこういう状況のことを言うんだろうな。  
 
 
 我がSOS団女団員の水着姿を心ゆくまで堪能しきった俺は、部屋に戻って一呼吸入れていた。  
 さすがに何時間もぶっ通しで波打ち際で遊び続けると疲れるぜ。しかし毎度毎度思うことだが  
ハルヒには疲れってものはないのかね。ずっと付き合わされてた朝比奈さんがいつ倒れるかと  
途中から気が気でなかった俺の心情を、少しは察してくれてもいいのではないかと思うのだが。  
 幸いにして朝比奈さんは倒れることなく、無事に乗り切った。ひょっとしたら明日は全身筋肉痛に  
なっておられる可能性もないではないが、その時は俺が責任を持って看病して差し上げよう。  
何の責任かって? そんなの言わなくてもわかるだろ。まったくどっかの団長さんにはホント  
手を焼かせられるぜ。  
 ベッドに寝転びながらの休息が、いつの間にか愚痴大会になっていた俺の思考を止めたのは  
控えめなノックの音だった。扉を開けると、家政婦の森園生さんが立っていた。  
「御食事の用意が出来ました。食堂まで御案内いたしますので、よろしければ廊下にてお待ちください。  
ほかの方にも声をかけてまいります」  
「どうもありがとうございます」  
 かしこまってしまう。見た目は同年代にしか見えないが、その所作はどこからどう見ても  
非の打ち所のない完璧な家政婦、いやメイドさんである。よほどの職能訓練を受けたにちがいない。  
 ほどなくして、みんな部屋から姿を現し、森さんの先導で俺たちは階段を下り食堂へ向かった。  
 
 食事はめちゃくちゃうまかった。ハルヒと館のご主人、多丸圭一氏との会話を聞く限りでは  
どうやら執事の新川氏が料理長も兼ねているらしい。なんでもできる人だ。一家に一人は欲しいな。  
 ここまでは普通の豪華な食事会と呼べるものだったと思う。ハルヒは舌鼓を打ちながら圭一氏と  
談笑し、弟の多丸裕さんと古泉は笑みを浮かべながら食事を続けている。長門がその小さな体の  
どこにそんなに入るのかと思うぐらいの健啖ぶりを発揮する傍らで、森さんが甲斐甲斐しく代わりの  
入った皿を置いていく。その見事な給仕振りを横目で見て感心しつつ、料理を口に運ぶ朝比奈さん。  
新川氏はずっと厨房に入って料理を作り続けている。楽しい時間だった。  
 その雲行きが怪しくなってきたのは、どのタイミングだったかな。たしか森さんが――  
 
「お飲物はいかがですか?」  
 食事がひと段落したところで、森さんが細長い瓶を手にして、俺に微笑みかけていた。どうやら  
ワインらしい。未成年者に酒を勧めるのもどうかとは思うが、俺は試しに一杯所望することにした。  
ワインなんか飲んだことないが、人間、多少の冒険心は必要だ。それに森さんの蟲惑的な微笑を見ていると  
断るのは気分的に悪いような気になったし。  
「あ、キョン一人で何もらってんの? あたしも欲しいわよ、それ」  
 グラスにワインをついでもらっていた俺を、ハルヒが目ざとく見つけた。森さんはハルヒに了承の  
笑みを送り、俺のに注ぎ終わったあとで、そちらへ移動した。俺は早速グラスを持ち上げ香りを  
楽しんでみる。うーむ、芳醇というかむせ返るような香りはするが、よくわからん。  
 ハルヒは自分だけではなく、みんなに配るよう森さんに頼んだようで、ほどなくして全員にグラスが行き渡った。  
「合宿の成功とSOS団の繁栄を願って、かんぱ〜い!」  
『乾杯!』  
 適当に音頭を取って、ハルヒは一気にぐいっとグラスを呷った。大丈夫か、おい。  
「ぷっはーっ! 全然大丈夫よ。おいしいわ、これ。もう一杯ちょうだい!」  
 ワインは一気飲みするようなものではないと思うのだが。香りぐらい楽しめ。  
 俺もつられて飲んでみる。ずいぶんと口当たりがいいな、これ。あっという間に飲み干してしまった。  
「どうぞ」  
 飲み干した俺がグラスを置いた瞬間に、ワインが再び満たされた。多少の驚きとともに横を向くと  
ハルヒに給仕していたはずの森さんがそこに立っていた。いや、すでにハルヒのほうへ歩いていたから  
立っていたらしい、と言っておくべきか。ついでもらったのもなんなので、再び飲み干す。  
「どうぞ」  
 また満たされる。わんこそばか、これは。それにしてもさっきハルヒのほうに歩いていった後ろ姿を  
見たような気がしたのだが……もしかしたら、俺はもう酔ってるのかもしれんな。  
 
「じゃんじゃん持ってきなさ〜い。まだまだ飲むわよ!」  
 ハルヒが景気のいい声を上げていた。すっかり酔っ払いだな、ありゃ。  
 そういう俺も、飲み干すたびに森さんがどんどんついでくれるのと、ワインのあまりの口当たりのよさに  
ついつい杯を重ね、かなり危険な領域まで酔っているような気がした。気がした、というのは、すでにこの  
時点で俺の判断能力はやや低下していたからだ。森さんがついでくれるのを律儀に飲み続けているしな。  
「ふみぃー」  
 朝比奈さんは顔を真っ赤にしてテーブルに突っ伏していた。アルコール耐性ゼロらしい。  
 反対にうわばみだと思われるのが、  
「……」  
 かっぽかっぽとグラスを空け続けている長門だった。給仕のし甲斐がありそうだ。  
 古泉の野郎はほどほどに控えているようで、無害な笑みを浮かべながらグラスを傾け、多丸さん兄弟も  
酔ったハルヒにからまれて杯を重ねているようだが、こちらは場慣れしているのか酔いのかけらも見せない。  
「代わりをお持ちしました」  
「さんきゅ! もっと持ってきておいて!」  
 森さんが持ってきた二本の瓶をかっぱらうと、ハルヒはグラスにつぐことなく瓶のまま飲み出した。誰か  
あいつを止めようとは思わないのか。やや重くなった頭をなんとか上げて、左右を見渡す。だめだ。あいつを  
止められそうな人間がいない。俺ぐらいなもんだが、その俺にしたって酔っ払ってる以上、信用できん。  
 しかし誰もやらなかったらそのままになりそうだったので、俺は声を振り絞った。  
「おいハルヒ」  
 少々ろれつが回らなくなっているのは勘弁してもらいたいね。  
「なによ?」  
 こっちを向いたハルヒは完全に目が据わっていた。  
「飲みすぎだ」  
「キョン、なにって? よく聞こえなかったわ」  
「飲みすぎだ。そろそろ控えとけ」  
「聞こえないわねえ。もうちょっと近くで言ってくれないかしら」  
 にやにや笑いながらハルヒは言った。俺も真に受けてハルヒにふらふら近寄ったあたり、完全に  
酔っ払っちまってるらしいな。ハルヒの近くでもう一度声を張り上げようとした。  
「だから飲み――っ」  
「ほらほらほら! あたしの酒を飲みなさい!」  
 ハルヒの野郎、手に持っていた瓶を無理矢理俺の口に押し込みやがった。ワインがどばどば胃に送られる。  
「――ぶはっ! げほっ、ごほっ、なにしやがる!」  
「おいしかった? あたしの酒だもん、おいしいに決まってるわよね」  
 無邪気な笑いを浮かべて、ハルヒが聞いてきた。この酒乱をなんとかしてくれ、誰か。  
 
 ワインを流し込まれたことについて文句を言おうと思ったそこへ、  
「代わりをお持ちしました」  
 森さんがまた手に二本の瓶を携えてきた。  
「ありがと! あ、メイドさんも給仕ばっかで疲れたでしょ?」  
「いいえ、楽しくやらせていただいてます」  
 ハルヒの矛先が森さんへ向かった。しかしこいつは森さんの名前を覚えとらんのか。  
「まあまあ、そう言わず。メイドさんも一杯やらない?」  
「お仕事中にお酒を飲むわけにはいきません」  
 もっともな返事をする森さん。  
 ん? 背後の空気が変わったような……俺は後ろを振り返った。  
「飲みましょうよ」  
「お気持ちだけいただきます」  
「飲んでほしいなあ」  
「申し訳ありません」  
「ハルヒのお・ね・が・い」  
「そう言われましても」  
 そんなやりとりが今度は後ろになる。俺の視界に入るのは古泉と多丸兄弟のはずだが……  
 古泉は笑みを消し、珍しく緊迫感を背負った表情をしていた。多丸兄弟にいたっては示し合わせたように  
そろりそろりと食堂から立ち去ろうとしている。なんだ? いったいどうしたんだ?  
 俺の疑問をよそに、断り続ける森さんにしびれを切らしたらしいハルヒは、実力行使に出たらしい。  
「あたしの酒が飲めないって言うの!? メイドなら御主人様の言うことには従いなさい!」  
「涼宮さん! それはダメです!」  
 古泉がテーブルに手をついた勢いで立ち上がると、椅子が後ろへ倒れこむのも無視して声を上げる。  
 しかし時既に遅し。俺がハルヒのほうを向くと、ハルヒは森さんの口へワインを流し込んでいた。  
 コクコクと鳴る森さんの喉。そして丸々一本分が森さんの中へ消えていった。  
「いい飲みっぷりね、感心したわ!」  
 お前が無理矢理飲ませたくせに感心するもしないもないだろ。  
 それより、一本分もいきなり飲まされた森さんは大丈夫なのか? 心配になって声をかける。  
「森さん、大丈夫ですか?」  
 森さんは下を向いたまま反応しない。  
「森さん?」  
 二度目の呼びかけにようやく森さんは顔を上げた。  
「なんでしょう?」  
 大丈夫そうだな、と一瞬思った俺だったが、森さんの表情を見て背筋が凍る。  
 想像を絶するほど妖艶な笑みだった。  
 
「も、森さん……」  
「どうなされましたか?」  
 微笑みながら聞いてくる。言葉遣いこそ変わらないものの、明らかに変だ。  
 森さんは嫣然たる笑みを浮かべながら、  
「ワインのお代わりをどうぞ」  
 そう言うと、ハルヒが手に持っていた瓶を奪い取る。  
「あっ、あたしの酒を取るな――っんぅ!?」  
「んっ、んんっ、じゅるっ、ん」  
 なんてこった。森さんはワインを口に含むとハルヒに口移しで飲ませ始めた。そしてワインをハルヒが  
飲み干すと、そのままディープキスに移行したらしい。舌と舌が絡み合う生々しい音が聞こえてくる。  
「――ぷはっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」  
 森さんが顔をどけると、息も絶え絶えといった感じでハルヒが荒い呼吸を繰り返す。  
「ワインはいかがでしたか?」  
 艶やかな表情で森さんが質問をする。ハルヒはとてもじゃないが答えられる状態じゃない。  
酔いも手伝ってか、陶然とした表情のまま浅い息をついていた。顔も赤い。  
 ってちょっと待て、どうなってんだ。森さんも酒乱なのか? もしかして。  
 俺は再び後ろを向いて、古泉に詰問しようとした。  
「古泉、これはいったいどういう――」  
 後ろを向きかけた俺の両頬に手が添えられ、無理矢理正面を向かされる。首を寝違えたんじゃないかと  
思うような痛みとともに、視界に森さんの顔が入った。瞳が潤んでいる。つま先立ちになり、顔が近づいてきた。  
「あ、え、いえっ、お、俺は別にいら――」  
 俺は慌てて遠慮の言葉を言いかけたが森さんの唇で塞がれる。森さんは舌で俺の口を割ると舌を丸くすぼめて  
あたかも舌でストローの役割を果たすかのように、ワインを俺の口腔へ流し始めた。ワインの味なんか  
到底わかるわけはなく、俺はただ、森さんの唇と舌の感触だけを感じていた。  
 ワインを流し終えると、ハルヒにやったのと同じように、ディープキスをしてきた。ここまで来て  
思ったが、これって俺のファーストキスなんじゃないか。まさかこんな形でファーストキスを終える  
ことになるとはな。なぜいきなりファーストキスのことを語ったかというと、森さんの舌使いがあまりにも  
気持ちよすぎて、別のことを考えてないと勃起してしまいそうだからである。してもいいのではないかと  
思わなくないが、酔った頭ながら俺の理性はNOと言っているぜ。そもそも勃起したところで何かして  
くれるわけでもないしな。頼めばしてくれるかもしれんが、って何考えてんだ俺。  
 そんなことを念仏のように脳内で回転させ1分、2分と耐えると、ようやく森さんの顔が離れた。  
「いかがでしたか?」  
 そりゃ、気持ちよかったですよ、森さん、とは言えず、  
「おいしかった、です」  
 当たり障りのないコメントをしておいた。酔っ払いに変なコメントをすると絡まれるからな。  
 
 ちなみに言っておくと、この辺ですでに俺の酔いは限界に達していた。なのでこれから先の出来事は  
すべて夢の出来事であるに違いないと俺は確信している。記憶にもないからな。  
「ひっ」  
 これはテーブルの上に突っ伏していた朝比奈さんの悲鳴だ。俺の返答に微笑みで答えた森さんは  
次のターゲットに朝比奈さんを選んだらしい。朝比奈さんは真っ赤にしていた顔をさらに赤らめて  
完熟トマトさながらの顔色だ。その顔色から類推するに、どうやら寝ていたわけではなかったらしく  
ハルヒや俺がされたことの一部始終を見ていたようだ。盗み見はいけないっすよ、朝比奈さん。  
 近寄ってくる森さんから逃げようとわたわたしているようだが、あまりの光景に腰が砕けてしまった  
らしく、椅子から立つことができない。あっさり森さんに捕まり、  
「どうぞ」  
「わっ、や、やめてくださ」  
 との抗議もむなしく口移しの刑に処せられた。  
「あふっ、んん……ぷはっ、はぁっ、ま、まって、あむっ、んっ、はぅ……ぷは、やめ、ひっ、んんっ」  
 全然飲んでないと判断されたからだろうか、何回も何回も口移しでワインを注がれる。  
 絶妙な舌使いや口移しの感触よりも、飲まされたワインが朝比奈さんには相当効いたようで、  
「もうらめ……」  
 ろれつの回らない口調で床に伸びてしまった。そんなことはおかまいなしにディープキスを敢行しようと  
する森さん。メイド二人の嬌態をもう少し見ていたかった俺だが、それどころではないことが起きた。  
「ねえ、キョン」  
 横からハルヒの声がした。  
「なんだ、ハル――」  
 振り向きながら発した俺の言葉が途中で途切れる。  
「ちゅっ、はむっ、んっ」  
 ハルヒが俺の首を抱えるように両手を回して、キスをしてきやがった。そのまま床に倒れこむ。  
こいつも頭のネジがとんじまったのかもしれんな。俺ももう、どうにかなりそうだ。こんな状況で  
理性を保っているのもばからしいだろ、な?  
「キョン……ちゅっ、ちゅ」  
 ハルヒはせつなそうな声を出してから濃厚なキスを仕掛け、俺もそれに応えてやった。絡み合う体。  
 しばらくお互いの唇をむさぼっていたが、ハルヒが上体を起こして、俺の上に馬乗りになった。  
手探りでテーブルの上にあったワインの瓶をつかみ、口に含む。そのまま俺に顔を近づけ――  
「ん……」  
 森さんの真似でもしたかったのか、口移しでワインを飲ませてくれた。俺は感謝の意を込めて  
舌を使ってぎこちないディープキスを返す。目を細めてうっとりするハルヒなんか見るのは初めてだった。  
 
 
 ハルヒがある意味閉鎖空間と言えなくもない世界を作り、俺が取り込まれかけていたときも  
朝比奈さんは森さんにやられ続けていた。森さんはずいぶんと朝比奈さんにご執心なようだ。  
 ハルヒと情欲をぶつけ合う傍らでちらっと見たときは、  
「ひゃっ、ら、らめ……森さん……あたしおかしくなっちゃいまふ」  
「家政婦は御主人様のどのような要望にも答えなくてはいけません」  
 メイドの作法を教えるという名目で、豊満な朝比奈さんの胸をまさぐっていた。  
 それにしても酒の力というのはすごいな。俺は今ならなんだってできるんじゃないかと錯覚するぐらいに  
大胆になっていた。ハルヒを相手にしながら、横目で朝比奈さんと森さんの絡みを見物するなんて  
普段の俺にはとてもじゃないができん。  
「ふわっ、わふっ、あ、あたしいまはメイドさんれはないれす」  
「……それもそうですね。それではこれを着てください」  
 俺の手がハルヒの服を脱がしにかかったと同時に、おもむろに森さんがメイド服を脱ぎ始めた。  
着やせするタイプなのか、見た目よりはずいぶんと肉感的な肌があらわになる。  
 下着姿になった森さんは、今度は朝比奈さんの服を脱がし始めた。  
「や、やめ……自分れ、自分れぬぎまふ」  
 そう言って、体を起こしてあひる座りになり、ふらふらしながら服を脱ぐ。下着姿になった朝比奈さんは  
森さんが脱いだメイド服に手をかけ、  
「お待ちなさい。そちらも脱いでしまいましょう」  
「え? ひぇっ、それは、や、やめ……」  
 制止した森さんは、何を思ったのか、朝比奈さんの下着も脱がそうと手を伸ばした。さすがに朝比奈さんも  
抵抗を試みるが、自由に動かない体ではどうすることもできず、まずブラジャーが、そしてパンティが  
脱がされてしまった。コスプレや下着姿なら何度も見たことある俺だが、全裸の朝比奈さんは初めてだぜ。  
 思わず首を動かして、朝比奈さんの生まれたての姿をあますところなく拝見しようとした俺を咎める男は  
どこにもいまい。しかし、このあからさまな行為は俺の上に乗っている女にバレた。  
「こらー、どこ見てんのよキョン!」  
 両頬に手を当てられて、首を思いっきりひねられる。ぐあっ。またかよ。ああ、でもさっきとは逆向きに  
ひねられたから、もしかするとこれでちょうどいいのかもしれんな。朝比奈さんの薄いアンダーがちらっと  
しか見えなかったのは非常に残念ではあるが。  
「いまはあたしを、あたしだけを見なさいよ……」  
 そんな羊のような目で見るなんてお前らしくないぞ、ハルヒ。  
「うるさい! あたしらしさなんてどうでもいいでしょ!」  
 いや、それは違うぜ。なぜなら、  
「お前がお前らしくなかったら、俺はお前を好きにならなかっただろうからな」  
「……キョン……」  
 
 正気だったら間違いなく、言わなければ世界が破滅するような状況のときにしか言えないことを  
さらっと言えた俺と酒を褒めてやりたい。そして酒と男とくれば、  
「ひっく、ぐすっ、キョン……ありがとう」  
 泪と女だよな。もっともハルヒに涙が似合うとは思えんし、今、目の前で泣いてるハルヒを見ても  
やはり似合っているとは思わない。それでも女の涙には万金の価値があると思うぜ。  
 俺は流れ落ちる涙をすくうようにそっと口づけをすると、すでに下着姿になっていたハルヒの  
ブラジャーに手をかけた。  
「あ……」  
 恥ずかしそうな声を上げる。新鮮な表情の連続に、俺は精神的にはとっくに満足していた。これから  
満たすのは、肉欲のほうだな。  
 ハルヒがグラマーであることは知っていたが、乳首を見たのはこれまた初めてだ。ピンと張ったそれに  
とりあえずしゃぶりついてみる。  
「ひぁっ」  
 ちょっと強すぎたか? びくっとハルヒが体を震わせた。  
「いいの、そのままで……」  
 そうか。ならそうさせてもらおう。左胸は手で揉みしだき、右胸に吸い付く。  
「あんっ、はぁっ……んんっ」  
 気持ちいいのか?  
「いいに…んっ…決まってるじゃ……ないの」  
 ホントか?  
「そんなに疑うのなら……ここ触ってみなさいよ」  
 そう言うと、ハルヒは空いている俺の手をつかんで、パンティの中へ突っ込んだ。  
 最初のさわさわした感触はアンダーだろうな。それを通過すると、ぬめぬめしたやけに熱い部分に到達した。  
「あん……ほら、濡れてるでしょ?」  
 まあそうなんだろうが、俺は知識でしか知らんから、なんとも言えんな。  
 いかんな。どうもぼやいてしまう。損な性格だぜ。  
「もう! キョンだって、こんなことされたら気持ちよくなるでしょ!?」  
 ハルヒは俺のズボンのベルトをゆるめると、一気にずり下ろす。ふうっ、ちょっと窮屈だったんだよな。  
トランクスの中身はとうにテントを張っていた。当たり前だ。  
 中から俺のペニスを取り出すと、左手でにぎる。  
「うわっ、硬いのね、これ。それになんだか熱持ってるみたい」  
 熱を持ってるのはお前のもそうだろ。  
「あんたでも下ネタ言うことあるのね」  
 失礼な。俺だって健全な高校生さ。酔ってるがな。  
 
 ハルヒは右手で髪をすくい上げ、耳を露出させると、  
「ちゅっ、ぺろっ」  
 俺のに口をつけ、舐め始めた。敏感になってるだけあって、けっこう感じてしまう。  
「うーん、思ってたより味気ないわね」  
 何だと思ってるんだ、お前は。そもそも、どこでンなこと覚えたんだ。  
「ぺろっ、あむっ……ひるらっらら、ひっられろ」  
 咥えながら話すな。わからん上にこそばゆい。  
「ふふん、はむっ、んんっ、じゅるっ、はふっ、ぷはっ!……いつだったか言ったでしょ、  
『あたしだって健康な若い女なんだし身体をもてあましたりもする』って。これくらいレディコミ読めば  
載ってる知識だし、女性誌にも載ってるわ。男だけエロいと思ったら大間違いなんだから」  
 そうか。女ってのはわからんな。  
「あんたね、さっきからぼやきが多いのよ。もっとムードを作ろうと思わないの!?」  
「じゃあここからは、男らしく狼になってやろうか」  
「えっ?――あっ!」  
 ハルヒを突き飛ばし、上に覆いかぶさった。  
「きゃっ、なにすんのよキョ、んむむっ」  
 乱暴に唇を奪う。舌も荒々しく差し込み、思うがままにハルヒの口腔内を蹂躙する。  
「――ぷはっ! はぁっ、はぁっ……き、キョン……?」  
 知らんな。  
「痛っ!」  
 思いっきり両胸をわしづかみにする。  
「ひっ、ひどい……」  
 痛さのあまりか、ぽろぽろ涙をこぼし始めた。それには見向きもせず、ハルヒの下半身を  
隠しているパンティに手をかけ、一気に引き下ろす。  
「っ! ま、まって……」  
 待つわけがない。両脚を広げる。  
「入れるぞ」  
 一応声だけはかけ、さっきハルヒが舐めてた俺のをハルヒの中へ挿入した。  
「ひぐっ!」  
 十分に濡れていたはずだが、それでも痛いものは痛いのか。  
「うっ、うっ……」  
 顔を覆って泣き始めるハルヒ。  
 やり過ぎたかな。  
 
 ここは素直に謝っておこう。  
「おいハルヒ」  
「ぐすっ、うっ、うっ……なに……?」  
「すまん、悪乗りしすぎた」  
「……いいの」  
 なんだって?  
「別に、いいの」  
 ハルヒは顔を覆っていた手をどけ、  
「痛いし少しは驚いたけど、それだけで泣いてたんじゃないの」  
 今も鈍痛が走っているのか、何かを耐えるような表情をしながら、笑みを作る。  
「……キョンと一つになれて嬉しくて泣いてたのよ」  
 そう言うと、頭をもたげて、軽い、本当に軽いキスを俺の頬にした。  
 俺はかける言葉を持たず、しばらくじっとする。動くと痛いのがセオリーらしいからな。  
「……動いていいわよ」  
 ハルヒの合図でゆっくりと出し入れを始める。  
「うくっ……はぁっ、はぁっ、はぁっ」  
「大丈夫か? まだ痛そうだが」  
「平気……さっきよりは全然ましだから」  
 それでも、痛みがあることは事実のようなので、ハルヒを優先し、バードキスをしたり  
胸を優しく揉んだりして、リラックスさせる。  
 そして再び動き出した。  
「んっ、あ、あっ、あっ」  
「どうだ?」  
「うん、だい、じょうぶ、みたいっ、んっ」  
 俺の背中に手を回してしがみつきながら答える。  
 それなら少しスピードを上げてみるか。  
「あっ、あっ、あん、んっ、あんっ」  
 ハルヒは嬌声のようなものを上げ始め、  
「キョン、んっ、もう、大丈夫、あんっ、だから、好きな、ときにっ」  
「わかった」  
 酔ってたからか、いままで射精しなかったのが不思議なぐらい持っていたが、そろそろ限界だ。  
「ハルヒ、それじゃそろそろいくぞ。中でいいのか?」  
「っ、うん、中に、出して」  
 おもむろに速度を上げる。  
「んっ、あっ、あっ、んんっ」  
「くっ、出るっ!」  
「っ! キョン!」  
 ハルヒが体を反らせ、回した手に力が加えられる。それと同時に俺はハルヒの中に大量の精液をぶちまけた。  
「はぁっ、はぁっ……あ、キョンのがあたしの中に……」  
 恍惚とした表情でハルヒがつぶやいた。  
 
 間を置いて、ハルヒが俺の耳元にささやいた。  
「キョン……?」  
「ん?」  
 俺の耳を軽く食みながら、ハルヒは言った。  
「愛してる」  
 

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