風も香る四月に中学時代の旧友そしてSOS団モドキの三人組と出会ってから早幾月、
色々あって異種の同類と挨拶を交わすアリ達くらいには歩み寄れた俺達は今
「周防九曜の日本語教室」と題され設定された空間で
団子の様に頭をくっつけパソコンのディスプレイと睨めっこしている。
具体的にはちょっと広めのネットカフェのような所とだけ言って置こう、
物語とは相応の人数と相応の場所とがあれば何時でも何処でも展開できるのである。
とは俺のちょっとした知り合いの私見だ。重ねて言うが俺じゃない。
「九曜の」とは言ったが勿論こいつが俺達に雅やかな助詞述語を伝授してくれる訳はなく
専ら、というか当然、というか誰がどう見ても周防九曜の「為の」日本語伝授祭である。
こんな事を思いついたのは誰だ。橘京子か。全くの迷惑だ。
この場にはハルヒを除いたSOS団(正規)と勿論とは何となく言い難いが周防九曜、やはり会いたくは無い
未来人(男)は居らず九曜を挟んで俺の右隣には何故か橘京子。何を考えているのか、今回の茶番の首謀者かと俺が疑う
ハンドシェイクESPである。次回は欲しくない。何時会っても髪を二つに結っている。それは何か信条を表すものなのか。それともただの趣味か。
とはいえ、あくまでもしもの時の睨み役としてだけきた俺以外の正規団員たちはやる気ゼロの無気力症候群前線と変して
梅雨と競うのもメンドウくさいといった様子でバラバラに好きなことをして過ごしている。こんな所でも朝比奈さんの茶は上手いのだ。
これも恒例と変している。無論これ以上変わって欲しくは無い。俺はな。
そろそろ本題、どこをどう突付いてもまるきり主人公扱いされない、しかし全く動じないある意味長門以上の何かを持つ
周防九曜である。ある意味でだ。
橘京子の提案で九曜に現代のまともな言語と使い方を覚えてもらうのにはインターネットを使うのが
ぶっちゃけ最も手っ取り早いということらしい。眠たくなって来た。二人でやってればいいだろうに。茶髪の少女が手伝って欲しそうな目で
こちらを見ている。手伝いますか?チョイスザイエスノー。面倒臭いがはいと答える。実際本日のアイスコーヒー代は向こう持ちなのだ。
そして話題の中心人物に成ろうという努力を常に微塵も感じさせない黒髪の無口端末はというと
長方形の最新型パソコンの正面に陣取り、
普段の鈍間ぶりが錯覚に思えてくる程驚異的なスピードでウェブ巡回を履行していた。なんて速さだ。
「なんという」とか、「まさかここまでとは」とか、漫画的な驚嘆台詞が記憶野から吐き出されてくるのをとりあえず押し込みつつ
一時的にも情報改変されてるんじゃないかと思う処理速度で頁を変え続ける液晶画面を
俺はB級サイコギャグムービーを見る目で実際見ていた。酔ってきたかもしれないぞ。おい。
案外に俺は電磁波に弱かったらしい。十五分でバテた。間近に居た橘京子も俺ほどではないまでも
珍妙な面持ちでアイスカフェオレをかき混ぜ啜っている。どう見たって二時間前の十五倍は眠そうだ。
九曜当人はというとどんな時でも笑みを欠かさない女超能力者と団員達に下敷きうちわで仰がれる俺を置いて、
少しは満足した風の無表情でふわふわと帰っていった。あいつの家は何処に在るのだろうか。地上だろうな。