『涼宮ハルヒの消失』P.158冒頭からの続き
周囲は暗い。だが真の闇ではない。大丈夫だ、俺の目はまだ見えている。
「ここは……」
街灯が照らす景色を頼りに、俺は自分の居場所を確かめる。ここはどこかの道路で、俺が手をついているのはなにかの柱の表面で、その柱には北高の名前が彫られている……。
「校門前だ」
北高の。
そして目の前には長門だけがいた。ハルヒも朝比奈さんも古泉も消えている。俺と長門の二人だけ。
「えっと……え?」
長門の意図が掴めない。これが脱出プログラムの効果だというんだろうか? 部室から出るだけなら徒歩でも充分なんだぜ。それともここは既に元通りの世界ということなのか?
「長門?」
「?……なぜ、ここに、あなたが」
違うらしい。
俺の知ってる長門はこんな呆然とした声をあげたりはしない、決してな。
この長門はさっきまで顔をつき合わせていた普通人間バージョンの長門に違いない。
正直なところこの長門と別れるのは若干心が痛むというか、後ろ髪ひかれる思いがあったのは確かで、内心俺はちぃっとばかしほっとしてしまった。
ま、それはさて置くとして、これからどうしたもんかね? てっきりエンターキー一発で万事解決だと思っていたんだが、これでまたもや行動指針を失っちまったことになる。
とはいえ長門の用意したこの状況になんの意味もないとは思えん。きっとここには『時空修正の機会』とやらがあるに違いない。それは一体なんだ? どこにある?
「考え事の最中に悪いんだけど、どうしてあなたはこんな時間にこんなところで、長門さんと二人っきりでいるわけ?」
突然思索に没頭していた俺に背後から誰かがぶつかってきた。
どん、という衝撃が身体を揺らし、街灯の光を受けた俺の影も揺れた。その影に何者かの影が溶け合っている。何だ? 誰だ?
首をねじって振り向いた。肩越しに女の白い顔が見えた。
朝倉涼子。
「な……」
言葉が出なかった。脇腹に冷たい物が刺さっている。平べったい物が深々と体内に侵入している。やけに冷たい。激痛よりも違和感が勝る。
「長門さんを傷つけることは許さない」
いや……傷つけてねぇし。
なんなんだ。なぜここになんの脈絡もなく朝倉がいるんだ。
一体これはなんだ? 理不尽なゲームオーバーを強いられるゲームブックみたいなこの展開は?
俺はどこでなにを間違っちまったんだ……
YUKI.N> ………うっかり