『涼宮ハルヒの消失』P.158冒頭からの続き
周囲は明るい。先程までとは一変して充分な光源をもった空間に放り出され、俺の目は一瞬その眩さにくらんでしまう。
「ここは……」
序々に正常な視力を取り戻していく目を頼りに、俺は自分の居場所を確かめる。
ここは何かの部屋で、俺が手をついているのは炬燵の天板で、その炬燵机を挟んだ向こう正面には眼鏡を装着した長門の姿が……。
「長門のマンションだ」
昨日訪れたばかりの。
そして目の前には長門だけがいた。ハルヒも朝比奈さんも古泉も消えている。俺と長門の二人だけ。
「えっと……え?」
長門の意図が掴めない。これが脱出プログラムの効果だというんだろうか? 部室から出るだけなら徒歩でも充分なんだぜ。それともここは既に元通りの世界ということなのか?
「長門?」
「……状況は理解している」
この淡々とした長門の口ぶりに、俺は猛烈な既視感を覚える。そうだ、俺は前にもこんな状況に放り込まれたことがあったはずだ。
俺の知る長門からさらに感情の機微を削り落としたような長門……
「そうか! おまえ、3年前の長門か」
「……」
その後、俺は長門から今回の騒動の真相、解決方法、すべて聞かされることとなった。
長門に蓄積されていった『エラー』。
ハルヒの力を横取りして為された時空改変。
俺はこれから風呂場で時間凍結されて3年後の12月18日早朝に戻り、長門を元通りにしなければならない、などなど。
思うところはいろいろとある。だが、俺はもう決めたんだ、エンターキーを押した瞬間に、元の世界を取り戻すって。
待ってろよ、長門。今そこに行くからな。
その頃、光陽園駅前公園付近。
「まだなの、キョンくん? もしかして、またわたしうっかりミスしちゃった?」
朝比奈みくるはこの近辺を既に5往復していた……